転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 久々に堀野君視点に戻って来ました。
 大阪杯までもう間もなく、そろそろレースの……戦いの日々が帰って来ます。


男の子ってこういうのが好きなんでしょ?

 

 

 

『今年の、G1シーズンが始まる』

 

 設置されたモニターの中で、CMが流れる。

 

 レース場の俯瞰映像をバックにナレーションを読み上げるのは、ウィルと並ぶ史上ただ2人の無敗三冠ウマ娘、シンボリルドルフ。

 ドリームトロフィーリーグ現役、なおかつ既に本格化を終えた三冠ウマ娘ということで、彼女はこういう時、声優や俳優としても採用されがちなんだけど……。

 

 流石と言うべきか、改めて聞くと、声から伝わる威厳がすごいな。

 彼女はまだ成人すらしていないはずの年齢なんだけど、その言葉には下手な大人なんかより余程強い自信と威信に満ちた響きが感じられる。

 流石は永遠の皇帝、その威風に陰りなしと言ったところだろうか。

 

 ……今は本格化中だから仕事を受ける頻度も低いが、ルドルフと同じく無敗三冠ウマ娘であるウィルも、将来的には読み上げる側に回ることもあるんだろうな。

 正直なところ、レースでの彼女以上に日常の彼女を多く見てることもあってか、彼女があのルドルフ程の威厳を持てるか、俺としては少し不安ではあるんだが……。

 

 いや、ことウィルに限って、そんな心配は不要かな。

 最近は俺の前では殆どしていないようだけど、彼女は本来、仮面を被るのが得意なはず。

 「威厳のあるウマ娘」としての仮面を被ることも、やろうとすればできてしまうんだろう。

 そもそも要領が良い上、幸か不幸か幼少の頃の経験から、半ば無意識的に相手の顔色を読んでしまう癖があるっぽいからな。

 

 ……というかそもそも、俺は演技を学んだことがない。というかむしろ、普段の彼女の言動から学ぶことの方がずっと多い。

 こと演技という面において、俺がウィルにしてやれることは多くないだろうな。ちょっと悲しいけど。

 

 

 

 そんなことをぼんやり考えている間に、CMは次の場面に移行していた。

 

『今年最初の芝のG1レース、大阪杯。競うは灰の龍と無冠の帝王、そして多くの優駿』

 

 映像にピックアップされたのは、少しだけセピア調に編集された、去年のダービーの終盤。

 ホシノウィルムとトウカイテイオーによる、決死の末脚勝負だ。

 

 こういったCMは、当然ながら人気や実力のあるウマ娘の映像が流れるわけだが……。

 

 世間的な人気で言えば、現在のトゥインクルシリーズでは、ホシノウィルムの一強状態と言えるだろう。

 見向きもされない寒門の出から実力で成り上がっていくシンデレラストーリーや、奇抜で独特でありながらもどこか過去の優駿を想わせる走り、彼女自身のSNSでのファンサービス等の努力によって、もはやホシノウィルムの名声は揺るぎのないものとなっている。

 ……いやまぁ、一部では「爆死芸人」やら「一般通過ガチャ運クソ雑魚三冠ウマ娘」やら呼ばれているようだが、それはともかく。

 

 そんなわけで、今年の大阪杯を取り上げるのなら、やはりそこでの注目株は彼女になるだろうが……。

 ……難しいのは、次点。つまり二番手だ。

 

 今回の大阪杯は、なかなか豪華なメンバーとなった。

 もはや語るべくもないホシノウィルム、本人たちも認めるライバルであるトウカイテイオーの他にも、有力なウマ娘は揃っていて……。

 ウィルの同期であり、皐月賞や菊花賞でも競ったG1ウマ娘、ハートブロウアップ。

 1つ上の世代で、マックイーンやライアンと並んで三強とも称された昨年の大阪杯覇者、イノセントグリモア。

 あの有記念でマックイーンに次ぐ5着とかなりの好走を見せた、ダイサンゲン。

 更にネームドで言えば、そこまで目立つ戦績を上げているわけではないものの、イクノディクタスも参加している。

 

 この中から人気の2番手を選ぶとなると、なかなか難しいところがあったようだが……。

 どうやら映像を見るに、その枠にはトウカイテイオーが収まったらしい。

 去年の日本ダービーでウィルをハナ差まで追い詰め、激しいレースの結果互いに負傷した、というドラマ性が評価された結果かな、これは。

 

 ……ただ、実力の面から見ても、この評価の順は適正だと思う。

 トウカイテイオーは……今のトウカイテイオーは、強い。

 ステータス、スキル、そして彼女自身のやる気と体の調子。どれを取っても一級品だ。

 その上、彼女はレースの天才だ。実際に走っている中でどんな隠し玉が飛び出てくるかもわからない。

 一切の誇張なく、去年の菊花賞のネイチャや、天皇賞(秋)のマックイーンと並ぶレベルの脅威だろう。

 故にこの大阪杯、まず間違いなく、ウィルとテイオーが1着を争い合う構図になるはずだ。

 

 ……更に言えば、頭の痛いことに、今回の大阪杯にはどうしても計り切れない変数があるからなぁ。

 俺にできる最善は尽くすし、ウィルなら大丈夫だと信じてはいるんだが、どうしてもその頭痛の種を無視することができない。

 あぁもう、ホント俺、領域と相性悪いな。去年もあれだけ悩まされたっていうのに……。

 いやまぁ、「アプリ転生」のデータには現れない、トレーナーとしての経験が直に出る部分だから、まだ新人に毛が生えた程度である俺に不利であることは至極当然だと言ってもいいんだけどさ。

 

 

 

 さて、シニア級G1レース大阪杯の次は、クラシック級のG1レースだ。

 

『「はやさ」の証明、皐月賞。競うはサイボーグの如き逃げウマ娘と、未だ年若き優駿の卵』

 

 こちらでピックアップされたのは、ジュニア級年末G1レースの覇者の中で、唯一皐月賞への出走を決めている、ミホノブルボンだ。映像はこの前のスプリングステークス。

 現状無敗でG1タイトルも獲得、更に先日のG2レースでも4バ身差の圧勝を見せたんだ。妥当な評価と言えるだろう。

 

 皐月賞の他の出走ウマ娘と言えば、ライスシャワーやマチカネタンホイザも出走するが……。

 その2人とは先日のスプリングステークスで、ある程度格付けが済んでしまっているような印象。

 レース場やコースが違う訳でもなく、距離の延長も、言ってしまえばたった200メートルだ。期間もそこまで空くわけではないし、スプリングステークスと皐月賞で、結果に大きな差は出ないだろうと予想されているらしい。

 まぁ実際は、その200メートルが非常に大きかったりするのがこの界隈なわけだが……それで4バ身が覆るかと言われると、うん。

 

 ……しかし改めて、俺の担当は見事に2人とも選ばれた形になるな。

 どちらも間違いなく何年に一度と表現できる大天才だし、妥当と言えば妥当なんだが……そんな子たちと契約できるとは、本当に出会いの運は強いな、俺。

 いや、ブルボンはあっちの方から声をかけられたんだけどさ。

 

『もう1つの三冠の道、桜花賞。競うは小さな天才と、華々しき早咲きの優駿』

 

 一方桜花賞で選ばれたのは、同じくジュニア級年末G1の覇者、ニシノフラワー。

 先日のチューリップ賞では展開の不利が重なった結果、惜しくも2着に敗れてしまったが……。

 それを除けばこれまで全て1着入線、総合的にも連対率100%勝率80%と、数字だけで見てもとんでもない実績を残している。

 

 少なくとも短距離からマイルまでで言えば、あるいはブルボンに匹敵しかねない程の実力だ。

 幸いと言うべきか、彼女はティアラ路線を歩むらしく、三冠路線を歩むブルボンとは少なくとも半年はぶつかることはないだろうが。

 

 ……そういえば、この前ブルボン本人から聞いたが、ブルボンとフラワーは同室だという話だったな。

 こんな2人が1つの部屋に収められているのはどうも運命を感じざるを得ない。

 ウィルがハッピーミークと同室というのも含め、やはりネームド……というか強力なウマ娘同士は引かれ合う運命にあったりするんだろうか。

 いわゆる三女神様の紡ぐ縁、というヤツ。ウィルがテイオーやネイチャと同じ年代になったのも、あるいはそういうモノなのかもしれない。

 

 

 

『鎬削る勝負の舞台、今年栄誉を勝ち獲るのは、新たなヒーローか、それとも』

 

 ルドルフのその言葉と共に、画面はブラックアウト。

 『大阪杯 4月5日 15:40』という白の文字列が出て、CMは終わった。

 

 いやぁ、すっごいカッコ良い感じに仕上げてきたな。

 正直めちゃくちゃ好みだし、担当たちがカッコ良く活躍する姿は心を震わせるものがある。これからも是非、こっち方向でCM作ってほしいな。

 

 ……ま、それはちょっと難しいってことはわかってるけどね。

 

 こういうカッコ良い映像は実のところ、あまりコンテンツへの新規参入率が高くならない。

 もっとコンテンツのファンの数を増やそうとするなら、分かりやすい魅力とか映像のツッコミどころなどを用意し、コメディチックにした方がいいだろう。

 

 今回カッコ良い方向に舵を切ったのは恐らく、わざわざCMで新規参入を募る必要もないくらいに、現在のトゥインクルシリーズが盛り上がっているからだ。

 この前URAの企画部の方と話した際に聞いたことだが、どうやら現在のトゥインクルシリーズのアクティブなファンの総数は、めでたくオグリキャップ現役時代や黄金世代全盛期を超えたらしい。

 統計上のデータで言っても、トゥインクルシリーズが創設されて以来のフィーバーと言えるだろう。

 

 ま、それもむべなるかな。

 シニア級2年にはマックイーン、シニア級1年にはウィルを筆頭とする三星、クラシック級にはブルボンにライス、未だ見出されてはいないがジュニア級にもBNWがいるわけで、ここしばらくは名勝負に困りそうもない。

 

 そんなわけでURAとしては、今は新規参入を狙うより、この時期に付いた顧客をしっかりと根付かせる方針を選んだらしい。

 そんな理由もあって、こういうコア向けのCMも流せたわけだ。

 

 極めて個人的な感想になるけど、良い時代に生まれついたなぁと思います。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……で。

 

 言った通り、現在のトゥインクルシリーズは大盛り上がりな状態だ。

 主催のURAとしちゃイケイケドンドン、この人気をしっかり定着させて人気を維持したいのだろう。

 

 そんな中で、この爆発的人気の発起人であるホシノウィルムが放置されるわけもなく。

 大感謝祭翌日、大阪杯直前の4月2日。

 大いなる人気に大いなる責任が伴った結果、彼女はURAの企画に参加する運びとなったのだった。

 

 

 

 今更ながらこれで良かったのかなぁ、大阪杯を考えると追い切りがベストだったんだけど……などと。

 俺が顎を指で擦りながら、俺がそんなことを考えていると。

 

 不意に、くいくいと袖が引かれた。

 

「ね、歩さん、カッコ良かったですね」

 

 なんとも可愛らしく同意を求めて来たのは、俺の隣でモニターを見ていたホシノウィルム。

 彼女は見慣れた微笑みを浮かべ、こちらを見上げてきているのだが……。

 

 今の彼女は、1か所だけ、見慣れないところがある。

 それは……恰好だ。

 

 

 

 彼女が身に纏うのは、いつもの制服やジャージ姿ではなく、遠征の際や休日にお出かけする際に見るクール寄りな私服姿でもなく、またG1レースに出る際に着る例の露出面積多めの勝負服でもなく。

 

 彼女は、今……。

 見慣れない、2着目の勝負服を身に付けていた。

 

 白のシャツに薄灰の少し長めのスカート、白タイツ。

 その上に深い群青のオーバーサイズのロングコートを着込み、胸元には1着目のものと同じ、灰色の星のブローチ。

 いつもの左右対称の耳飾りに加え、右耳付近には王冠を模した髪飾りも追加。

 更にその手には、しっかりと白手袋を着ける徹底ぶりだ。

 

 

 

 総じて言えば、その見た目は……。

 

「うん、めちゃくちゃカッコ良いな」

「ですよね!」

 

 にこっと笑うウィルは可憐で可愛らしいことこの上ないが、勝負服の方はマニッシュでカッコ良いことこの上ない。

 着ている彼女自身は小柄な方で身長も低いんだが、決して猫背にならない自信ありげな立ち振る舞いがそうさせるのか、むしろ良いギャップになって……こう、なんだろうな、少し謎めいた強キャラ感?みたいなものが醸し出されている。

 うーん、カッコ良い。カッコ良すぎる。正直たまんないです。

 

 ロングコートは中二病的と言う人もいるかもしれないが、やっぱり長い裾はロマンだ。オーバーサイズなのも含めて、彼女の小柄な体には似つかわしくない程の裾がマントのように思えてすごく良い。

 しかもこれ、コートが覆う面積が広いからダークヒーロー感があるけど、一度それを脱いだら中は白のシャツと薄灰のスカートという清廉潔白さ。これ絶対悪いように見えるけど良いヤツじゃん。雨の日に捨て猫拾ってるタイプだよ。

 そこに白手袋だ。いや白手袋って執事さんとキザなトリックスターしか着けないでしょこんなの。でもそうやって肌を晒さないのがカッコ良いんだよね、わかる。

 そして更には王冠型の髪飾り。これ深読みっていうかただの妄想だけど、謎めいた怪盗のように思える彼女の正体は亡国の王子なヤツでしょ。で、やけに小柄な王子だなと思ったら男装の麗人で姫君なのだ。いやしかし実際のウィルは寒門だ、姫君はちょっと合わないか? 多分無敗三冠や華々しい戦果から来るイメージなんだろうし、白雪姫の後日談的な成り上がりのお姫様とかそっち系だろうか。コートのサイズが釣り合ってないところからも未熟なイメージを抱かせがちだが、むしろそれは物語中盤で脱ぎ去って光堕ち&成長の演出のためにも思えて……。

 

「歩さん? 大丈夫?」

「ん、大丈夫だ」

 

 ウィルの新衣装について二次創作の妄想を膨らませていたら、目の前の彼女にコクリと小首を傾げられてしまった。

 まずいまずい、落ち着かないと。

 いくらすごく好みなカッコ良い勝負服のウィルが目の前にいるからって……。

 

 ……いやしかし、ホントにカッコ良いな。

 

「ウィル、手袋の端引っ張ってキュッてやるヤツやって」

「えー、またですか? 歩さんは仕方ないなぁ」

 

 めんどくさそうな台詞とは裏腹に、ウィルはニヤニヤ笑った後、すっと表情を消して……。

 そして、左手で右手の白手袋の端を握り、キュッと引っ張って、目力を利かせる。

 

 おぉー……!

 

「うーん、やっぱりカッコ良い」

「もー、何度やらせるんですか?」

「いやだって君、その見た目で手袋キュッとするとか、もうロマンじゃん?」

「気持ちはわかりますけどね」

「それに君、演技力高いから、これぞまさしく俺の見たかったもの! って感じするし」

「まぁ、自分の能力を評価されるのは嬉しいですけども。嬉しいですけども? もっと褒めてくれても構いませんけどもー??」

 

 ふふーん、とウィルはその場でターン。

 コートの裾を自慢げに振り回し、俺に見せつけるようにした。

 

 改めて、予想以上にカッコ良く出来上がったな。

 

 URA賞受賞前に「次の勝負服はどんなものがいい、という要望はあるか?」と訊いた際、「今使ってる勝負服は見た目が寒そうなので、次は暖かそうな見た目のものがいいですね」と返って来た時は、どうなることかと頭を抱えたが……。

 URA勝負服製作部と何度も協議を重ねた結果、なんとかこうして形になった。

 

 いや、協議を重ねたって言っても、正直俺はそこまで貢献していないんだけど。

 俺たちで決めたのは「メインのカラーを黒・青・白(薄灰)の3色に絞ること」「マニッシュな雰囲気にすること」「露出面積を極力抑えること」の3つで、そこ以外は完全にあちら依存。

 ここまでカッコ良い勝負服に仕上げてきたのは、ひとえに勝負服製作部の実力と言わざるを得ない。

 

 グッド。グレート。パーフェクト。

 流石はURA、”カッコ良さ”というものをよく理解(わか)っている。

 

 

 

「いや、ていうか勝負服の話じゃないですよ? CMの話ね?」

「わかってるわかってる。……ところでウィル、こう、コートの裾バサッと翻すヤツも見せてほしくて」

「だーかーら、もうっ! CMのカッコ良い私のこと、見てくれてました!?」

「いや、俺現実で君のカッコ良いところを一番近くで見てたし、何百回と繰り返し見たし、なんなら今も見てるからな。今更映像を見ても、『流石ウィル、最高の走りだ』くらいしか思うことがないっていうか」

「うっ……ぐ、本当に歩さんは、隙あらばそういうこと言って! この、この!」

「ごめんごめん」

 

 べしべしと俺の腰あたりが殴られる。

 

 ……こう、アレだよな。ウマ娘基準でのじゃれつくって割と冗談にならないというか、威力90のタイプ一致技くらいの強さがあるっていうか。

 ぶっちゃけ鍛えてなかったら「あいたっ」って言っちゃいかねないくらいの痛さなんだよね。

 

 契約トレーナーとして、そして俺としては、担当との……ホシノウィルムとの距離が、気軽にボディランゲージを取ってもらえるくらいに近いのは嬉しい。

 もしここでオーバーなリアクションを取れば、彼女は以降距離感を見直してしまうかもしれない。そうでなくとも、必要のない罪悪感を覚えてしまうかもしれない。

 そういう意味じゃ、やっぱり体を鍛えておいてよかったと思う。

 

 ……ま、鍛えたとはいえ、普通に痛いものは痛いんだけどね。ウマ娘パワーってすごい。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんな風にウィルとじゃれついていると、横から声がかかった。

 

「ちょっと、そろそろ出番だよ?」

 

 そう言ってきたのは、来たる大阪杯でウィルのライバルとなる、トウカイテイオー。

 彼女も彼女で、これまでの礼服を思わせるものとは別の勝負服を着ていた。

 

 2着目になって露出面積が一気に減ったウィルとは対極的に、1着目ではあまり肌を出していなかったテイオーは2着目になって一気に軽装化。赤・黄・黒の三色で彩られる、ボーイッシュな衣装となった。

 特に目立つのは、やはり右肩に負うそのマントだろうか。先端にいくにつれて黄色に染まっていく赤の布は、腰に付けられた羽飾りと合わさり、どこか不死鳥の翼を思わせる。

 

 

 

 ……物的証拠はないから、あくまでも仮説だが。

 ウマ娘に与えられる勝負服は、そのウマソウルに求められるイメージ、偶像なのではないか、と思う。

 

 例えばシンボリルドルフには、王者としての豪奢さと凛々しさが。

 例えばメジロマックイーンには、落ち着いた優雅さとメジロの名に誓う誇りが。

 例えばミホノブルボンには、機械的な正確さや流麗な美しさが。

 それぞれの勝負服には、それぞれのウマソウル……つまり、前世の馬に寄せられる想いが込められているように思うんだ。

 

 ……まぁ実際、ほぼ間違いなくそうなんだけどね。

 前世アプリ「ウマ娘 プリティーダービー」は史実の名馬を擬人化していたわけで、その勝負服もその名馬たちをイメージしてのもの。

 それと近しい関係にあると類推されるこの世界の勝負服も、そりゃあ元になった馬=ウマソウルのイメージを強く受けてのものだと考えられるわけだ。

 

 で、そういう意味では、このトウカイテイオーの勝負服……モチーフは、不死鳥だろうか。

 赤と黄の2色は燃え上がる炎を思わせ、腰に回したベルトには羽の飾りが付いている。

 そこから連想されるのは、やはり不死鳥、フェニックス。その身を焼かれて灰となってもその中から蘇る、不滅性の象徴だ。

 

 史実におけるトウカイテイオー号は、幾度の骨折を経験し、それでもなお走り続けた馬だったはずだ。

 そのタイミングまで覚えているわけじゃないけど……確か、引退するまでに計4度。

 トウカイテイオー号は、それだけの骨折を経験してなお立ち上がり、レースを走り続けたのだ。

 確かに、不死鳥と呼ばれるに相応しい存在だろう。

 

 

 

 さて、そんなテイオーは、彼女のトレーナーの隣から、どこか呆れたような視線を向けてきている。

 

「あのさ、もう出番直前だよ? もうちょっと緊張とかした方がいいんじゃない?」

「あら、テイオーは私がテレビ番組程度で緊張なんてすると思うんですか?」

「いやまぁ、しないだろうけどさ。じゃあ集中とか、流れを思い返すとか」

「バッチリ頭に入ってます。ご迷惑はおかけしませんよ」

「いや、だからってさぁ、その……」

「むしろ、ちゃんと歩さんニウムを補給しないとフルスペック出ませんからね」

「アユ……え、何?」

 

 歩さん、ニ……? いや何それ、俺もわからないんだけど?

 文脈から類推するに、自分のトレーナーとの触れ合いなくしてはちゃんとできない、的なニュアンスだと思うんだけど……。

 

 ウィルはよく分からないことを言った後、ちょっと体を傾けて、俺の方に頭を差し出して来る。

 お決まりの動作に、思わず苦笑。

 俺は近付いた頭に手を乗せて、軽く撫で回す。

 

 ……うん、今日もサラサラで触り心地の良い髪だ。

 一房だけ黒鹿毛の走った、鹿毛のセミロング。

 触り慣れた感覚ではあるけれど、何度こうしても飽きる時が来る気がしない。

 

 それに何より……。

 俺の手の下で、彼女が心底嬉しそうに頬を緩めるのが、嬉しい。

 まるで、彼女が俺を想ってくれているようで……。

 あぁいや、兄さんや昌ともやった意見交換が正しければ、実際彼女が、その……俺にそういう想いを抱いている可能性は、決して否定できないわけだけど。

 

 しかし、そう考えると、あまりこうやって触れ合うべきではないのかな。

 単純接触効果もあるし、担当ウマ娘に対する接触はもう少し控えるべきなのでは……。

 いやしかし、ウィル自身がこうすることを望んでいるわけで、それを否定は……。

 彼女の現在の要望と彼女の未来の展望、どちらが大事かと考えると……。

 

 ……いや、未来のことばかり考えて現在をないがしろにするのも、現在を重視しすぎて未来を捨てるのも、どちらも間違いな気がするな。

 決定的な一線を踏み越えさせてしまい、彼女の心が傷つくことがなければ問題ないわけで。

 どちらも適切に、バランス感覚を持って、今も未来も大事にしたい。

 

 それが俺なりの……堀野歩の、契約トレーナーとしての正しさ。

 ……なんだと思う。多分。

 

「歩さん?」

「ん……いや、何でもない。君の調子を整えられるなら、なんでもするさ」

「ん? 今『なんでも』って言いましたよね?」

「言ったけど……」

「じゃあその……あの、髪のついでに、顔とかも撫でたりしてくれません? わ、私、ほら、割と幼い状態で成長止まってますし、頬とかぷにぷにしてますよ? きっと柔らかくて触り心地良いですよ? ハマっちゃうかもしれませんよ?」

 

 ウィルはそう言って、何故かわたわたと頭の上に置いた手を揺らしてくる。

 

 顔も撫でてほしいって、どういう欲求なんだそれは。

 というか、仮に相手に好感を持っているとして、なんで顔を撫でてほしいって思うんだろう。

 彼女の心の機微はなかなかに難しい。これもいわゆる乙女心というヤツなんだろうか? 今度その手の本を読んだり、兄さんや昌に相談したりしてみようか。

 

 と、それはともかく。

 彼女がそう望むのなら、しない理由はどこにもないな。

 

「……ん、これでいいか?」

 

 ウィルの顔を、下から包み込むように持ち上げる。

 

 うわ、ホントにふわふわもちもちだ。

 しかも、手から伝わる彼女の体温が……なんかこう、すごく安心する感じ。

 

 ……この感触は、確かに、ちょっとハマりそうかも。

 これを完全再現したフィギュアとか出したらバズり間違いなしだぞ。今度URA企画制作部に話を持ち込んでみようか。

 

「わふ、あゆふひゃん、あお」

「あ、いや、すまん」

 

 あ、マズい、ウィルの顔が赤い。っていうか真っ赤だ。

 そんなに力を入れたつもりはなかったけど、息が詰まってしまっただろうか。

 

 あるいは……いや、流石に顔を触られたからって恥ずかしくなることはない、か?

 俺は恋心とか乙女心について詳しくないけど、どれくらいから恥ずかしくなるんだろうか。

 流石にキスなり告白なりは恥ずかしいってのは想像できるんだけど。

 

 ……思えば俺、生まれてから……っていうか前世から、覚えてる限り、あんまり何かを恥ずかしいって思ったことないんだよなぁ。

 いつの間にか、羞恥心っていうものをどこかに取り落してしまったのかもしれない。

 ……それこそ、俺がもう思い出せない前世の初等部の頃に、何かあったりしただろうか?

 

 

 

「堀野トレーナー、そろそろ」

 

 赤くなったウィルの頭を撫でながら考えている内、トウカイテイオーのトレーナーから声がかかる。

 見ると、いよいよこちらにも合図がかかっていた。

 

「行けるか、ウィル」

「と、当然! この勝負服、見せびらかしてきますね」

「ふふん、ボクの方が目立っちゃうもんねー!」

「ほう、それでは勝負しますか、テイオー。番組終了後のSNSの反応の数とかで」

「人気的にウィルの方がめっちゃ有利じゃん! ハンデとかないの?」

「ハンデのある戦いで勝っても嬉しくないでしょ、私もテイオーも」

「確かに……」

 

 俺の担当ウマ娘はテイオーと語らいながら、舞台裏から出て行く。

 それと同時、テイオーのトレーナーが俺の隣に寄ってきた。

 

「ここからは、見守るしかないね」

「問題ないでしょう。ウィルもトウカイテイオーも、賢い子たちですから」

「そうだね。……うん、良い信頼関係を築けているようで何よりだ」

「そりゃあ、担当ウマ娘ですから。ウィルのことは信じていますよ、それこそ世界の誰よりも」

 

 小声で会話を交わしながら俺達は、モニターを見上げる。

 少し前まではCMが流れていたそこに、今は1つのテレビ番組が映っていた。

 

 動画投稿サイトや生放送が流行し、全体的にテレビが下火になっている現代だが、それでもなお今日は多くの人々が、この番組を見ているはずだ。

 何故なら、この番組は……。

 

 

 

『さぁ、ここまでは去年の主要レースについて振り返って来ました。

 ここからはいよいよ、今年の春のG1レースについて語っていきます。

 更に、今回はなんと! あの現役最強級のウマ娘さんたちに、世界初公開の新たな勝負服で来ていただきました!!

 どうぞ拍手でお迎えください、「星の世代」のホシノウィルムさん、トウカイテイオーさんです!!』

 

 

 







 久々の堀野君視点が楽しすぎてめちゃくちゃ筆乗りました。
 本当は今回で番組終わりまで行くつもりだったんだけど、そもそも始まりに辿り着けなかった……。
 結果的に次回予告詐欺になってしまって申し訳ない。訂正しておきます。



 次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、合同インタビューの話。



(追記)
 誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!
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