転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 ババーン(置きSE)





もしも2バ身以内に入られたら大樹のウロの下に埋めてもらっても構わないよ!

 

 

 

 トゥインクルシリーズの春のG1シーズンは、大阪杯と共に始まる。

 そこまでにもG1レースがないわけではないんだが、本格的にラッシュが始まるのはそこからで……。

 

 4月は大阪杯に桜花賞と皐月賞、早ければ天皇賞(春)。

 5月はNHKマイルカップに始まり、かしわ記念にヴィクトリアマイルとオークス、そしてやはり栄えある日本ダービー。

 6月も安田記念に帝王賞、そしてグランプリである宝塚記念が続く。

 

 この時期は、毎週のようにG1レースが開催される。

 というか、5月に至っては週に2回開催されることすらあるくらいだ。

 

 ファンの方々は勿論、俺たちトレーナーやウマ娘たちにとっても、大忙しで大盛り上がりのシーズンだと言えるだろう。

 少し汚い言い方になるけど、URAに取っては書き入れ時とも言えるかな。

 

 当然ながら、そんな時期には世間の注目がウマ娘に集まりやすく、その分PRやタイアップ等の仕事もまた増えるわけで……。

 G1ウマ娘の契約トレーナーは、来たるG1レースに備えて彼女たちを育てたいという思いと、レース出走のためにも仕事を回さなければいけないという、苦悩に満ちた二者択一の決断を下すことになる。

 

 

 

 ……というのが、普通なんだろうが。

 幸運なことに、俺はその例に当てはまらないんだよね。

 

 そもそも俺の担当するウィルとブルボンは、現時点で両人ともにかなりの人気を得ている。これまで出走してきたレースやライブでの、彼女たちの努力の成果だ。

 故に、案件などをこなさずとも、G1レースに出走するだけの能力と人気を兼ね備えているのである。

 

 更に言えば、それだけじゃない。

 仮に彼女たちを仕事に送り出さなければならないとしても、俺は苦悩する必要がないんだ。

 

 俺の持つ不可思議な「アプリ転生」の力は、現役競走ウマ娘の調子を明らかにする。

 「調子」というと大雑把だけど、要は身体能力(ステータス)習得技術(スキル)向き不向き(適正)特殊な状態変化(コンディション)などのことで。

 

 更に、「アプリ転生」はこれらと同時、ウマ娘の「やる気」を5段階で表示してくれる。

 

 この「やる気」というのもなかなか難しい概念なんだけど、端的に言えば集中力とか、精神の入れ込み具合のことを意味してるっぽい。

 やる気が上がればトレーニングの効率が上昇、レースでも良い結果を残しやすい。そしてその逆も然り、というわけだ。

 

 で、やる気が下がった時には、一緒にお出かけしたり1日全休を与えることで気分転換をさせ、持ち直すことができる場合が多い。

 まぁ、何か迷いや悩みがある場合は、きちんとそれを聞いて一緒に悩むことで解決したりもするし、例外はあるんだが……それはともかく。

 

 この「気分転換」というのは、多分、学校で言うところの休み時間的な意味合いを持つんだろうと思う。

 一度その行為を切り上げ、思考に区切りを付けることで、再開した際に集中力を取り戻す時間。

 要するに、ウマ娘だって時々はトレーニングを切り上げ、気分転換することも大事だ、という話だ。

 

 

 

 さて、今更ながらにこんな話をして、何が言いたいかと言えば。

 彼女たちのやる気が「好調」に落ちて、ちょっと集中力が切れて来たな、というタイミングでお仕事を回すと、思考に一旦の区切りを付け、ちょっとだけやる気を持ち直すことができるのだ。

 

 勿論、ちゃんとお休みを与えたりするよりは回復量も低いので、これにばかり頼ることはできないが……それでも、お仕事を入れるのに最善のタイミングを掴むことはできるわけで。

 

 どこでお仕事を入れるのが正しいのか、と考える必要もなく、俺はその正答を知ることができる。

 より正確には、それらをデータ化し分析・予測することができる。

 

 そのため、俺は常に担当ウマ娘の体力ややる気の推移をエクセルに纏め、それを以て次に彼女たちに取らせるべき行動を割り出しているのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなわけで、その日も俺は、モニターとにらめっこしていた。

 そこに表示されているのは、ウィルとブルボンのトレーニングプラン。

 その予定表を見ながら、俺はどこに仕事を入れるか、どこで休ませるか、追い切りとかレース後のことも加味して、数か月後のことに思いを巡らせていたんだが……。

 

 そんな時。

 不意に、コツコツと、トレーナー室のドアがノックされた。

 

 時刻はまだ午前11時、担当2人は授業を受けているはずの頃合いだ。

 となれば、そのノックの主にも、ある程度見当が付くというもので……。

 

「どうぞ」

 

 モニターから視線を上げて、そちらを窺うと……ドアの向こうに立っていたのは、予想通りの人物。

 そこそこの量の書類やファイルを抱えた、俺の妹でありサブトレーナー、昌だった。

 

 彼女は書類の山をどさりと俺のデスクに置いて、それらを分別しながら告げる。

 

「兄さん、これ、理事会から。老朽化したフィットネスバイクの交換の件と、暖房設備修繕の件。どっちも可決されたって。

 で、こっちは事務局から……ここからここまでがホシノウィルムさんに来た仕事の依頼で、残りがミホノブルボンさんに来た仕事のまとめ。受けるんなら改めて連絡くださいって」

「ミホノブルボンに来る依頼も増えて来たね。もう並のG1ウマ娘より多いかな」

「ま、皐月賞の最有力候補だからね。天然ファンサもエグいし、そりゃあ取材もしたいってものでしょ」

 

 その言葉に、彼女にバレない程度に小さく笑う。

 

 数か月前……なんならスプリングステークスの日まで、世間はブルボンの皐月賞出走に懐疑的だった。

 適性距離が短距離の寒門のウマ娘が、2000メートルのクラシックレースを勝つのは不可能だと。

 

 しかし、ブルボンは1800メートルのG2レース、スプリングステークスを制し、適性の壁は努力によって越えられることを証明した。

 そうして今や、彼女こそが皐月賞の最有力候補だ。

 

 勿論、昔からブルボンのことを信じてくれていた人は少なからず存在したし、逆に今も三冠の達成は不可能と断じる人も多いんだが……。

 

 それでも、今は彼女を信じてくれる人が多数派と呼べる領域に達したんだ。

 これほど嬉しいこともない。

 

 

 

 と、俺がニヤニヤしているのを後目に、昌は最後に残ったファイルをデスクの端に置いた。

 

「……で、これが頼まれてた資料。量多すぎるし、必要なら要約してもいいけど」

「それくらいなら2日あれば読めるから大丈夫だよ、ありがとう」

「2日、ね……。まぁいいや、取り敢えず書類とかはこれで終わり。

 ……あぁ、それと、たづなさんから伝言が1つ。『最近はきちんと有休を消化してくれて嬉しいです。あとは残業を減らしていただければもっと嬉しいです』だって」

「あはは、それは無理だなぁ」

 

 今日も今日とて仕事が増えた。たづなさんには悪いけど、今日は徹夜のサビ残かもわからんね。

 有給に関しては、担当2人のご褒美権のために使用することは増えたけど……逆にそれでスケジュール圧迫されるから、むしろ残業は増えるんだな、これが。

 

 正直、こういう書類仕事は多少面倒ではあるんだけど、担当のためを思えばえんやこら。この程度もこなせないようなら中央のトレーナーはやってけないのである。

 

 それに、今は昌もいてくれるし、俺もだいぶ業務に慣れたから、去年の今頃に比べたら遥かにマシだ。

 あの頃は睡眠時間が15分の日とかザラだったし……今考えるとよく死ななかったなぁ、俺。

 

 

 

 ……と、忘れてしまわない内に、言うべきことを言っておこう。

 

「ありがとう、昌。お使いみたいなこと頼んでごめんね」

「いい。兄さんだけにできることがあるなら、兄さんはそっちをすべきでしょ」

 

 そう言って、ぷいっと視線を逸らす昌。

 相変わらず、俺の妹は優しさに満ちてるなぁ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、取り敢えず書類の確認をしてから資料を読もうか、と思ったが……。

 自分のデスクに就いて仕事に取りかかると思われた昌は、しかし予想に反してその場に立ったまま、俺に声をかけてくる。

 

「……ところで、どうなの?」

 

 唐突な言葉に、思わず小首を傾げる。

 

「えっと、何の話?」

「何って……2人のレース。皐月賞と天皇賞」

「ああ、それか。言ってなかったっけ?」

「作戦会議ではちょっと話したけど、あれは担当の2人の前だったから、言えないこととかもあったでしょ。実際のところ、勝てそうなの?」

 

 ちらりとこちらを見て来る昌の瞳は、若干の不安に駆られていた。

 

 ……あー、そうか。

 そりゃ、ちょっと不安にもなるよね。

 

 

 

 昌がトレセンに来てから、おおよそ半年の時間が過ぎた。

 去年は新しい仕事と環境に慣れること、そして俺が昏倒している間は穴埋めをすることに必死になっていた彼女だが、今年に入って仕事が一段落し、また業務にも慣れたことで、余裕が出て来たのだろう。

 

 そして余裕が出てくれば、色んなことを考えられるようになる。

 サブとはいえ自分が担当している2人が、次のレースで勝てるのか。

 もっと言えば、レースに出てもいい状態なのか。

 

 大阪杯でウィルが負けかけ、そしてあんなことになった直後だ。

 まだトレーナー経験の浅い昌が、担当の出走するレースを不安に思うのは、決しておかしなことじゃないと思えた。

 

 ……というか、本来はそういう不安が出る前に、俺が昌に情報共有を済ませておくべきだったな。

 本当に俺は、我ながらつくづく人に気遣いができないというか……今後はこういうところにも気を付けていかねば。

 

「オッケー、わかった。ちょっと資料出すから待ってて」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 堀野昌は、俺の複雑な事情を知る、現状唯一の人間だ。

 

 色々あって、彼女には俺が前世の記憶を持つことや、転生特典のチートを持っていることを知られてしまっている。

 まぁ、この世界がアプリの世界だとか、その辺の都合は混乱を避けるためにも言ってないんだけど……。

 

 故に彼女にならば、というか彼女にだけ、俺の「アプリ転生」による観測についても、隠すことなく語ることができるのだ。

 

 一応、俺の「アプリ転生」によるステータスの数値化に関して、ウィルやブルボンは「俺の観察眼が並外れている」ということで納得してくれているが……。

 前者に関しては彼女にしては珍しいポンコツさ、後者に関しては持ち前の天然さによるものだろう。

 いつどんなところでガバが出るかもわからないので、この辺はあんまり積極的に話すべきではないだろうな、と思ってる。

 

 

 

 そしてもう1つ、担当に……特に、ウィルには話せないことがあるんだよね。

 それは……。

 

「正直な話、天皇賞でウィルが負けることはまぁあり得ないと思う」

 

 こういう話だ。

 

 俺はそれを言った後、持っていた資料をデスクに置く。

 ホシノウィルムの分析資料、その最新版である。

 

「それ、部外秘だから。読み終わったらシュレッダーかけて」

「了解。……でも、後で確認できるように、一部は残しておいた方がいいんじゃないの?」

「過去のデータはオフラインのPCに残してある。とにかく、それは絶対に外に漏らしちゃ駄目」

「了解」

 

 いくつか言葉を交わしながら、俺と昌は資料を覗き込む。

 そこには、つい一昨日「アプリ転生」で確認した、ウィルのステータスが記載されていた。

 

 

 

 ホシノウィルム

 

 ステータス

 スピード S+  1070

 スタミナ UG  1205

 パワー  A+  993 

 根性   A+  943

 賢さ   A   827

 

 適性

 芝S ダートC

 短距離D マイルC 中距離A 長距離S

 逃げS 先行B 差しD 追込G

 

 スキル

 三歩飛翔

 盤石の構え

 先頭プライド

 弧線のプロフェッサー

 逃げ直線◎

 脱出術

 押し切り準備

 全身全霊

 踏ませぬ影

 コンセントレーション

 円弧のマエストロ

 深呼吸

 大逃げ

 根幹距離○

 一匹狼

 

 

 

「……強くない?」

「強いが?」

 

 昌のよくわからない疑問に対して、俺は首を傾げながら返した。

 

 いや、そりゃ強いでしょう。

 

 この子、史上最強の逃げウマ娘って言われてるんだよ?

 今のトゥインクルシリーズの中心だし、2人目の無敗三冠ウマ娘だよ?

 その上、まだ本格化も終わってなくて、絶賛成長中なんだよ?

 

 そりゃあ強いに決まってるでしょうよ。

 

「いや、有記念の時のスペシャルウィークさんとかサイレンススズカさんと比べても、全然負けてないっていうか……。

 ああいや、そっか。普段の様子見てると忘れがちだけど、彼女ってあの2人に並ぶ、何なら越え得るウマ娘なんだよね。……普段の様子見てると忘れがちだけど」

 

 なんで2回言った? と訊きたくなる気持ちもあるけど……。

 ……まぁ、うん。

 

 正直日常生活でのウィルは、ハッキリ言って強者の貫禄とかまるでない。

 走りたくてウズウズしてるか、走ってウキウキしてるか、誰かと話してニコニコしてるか……あるいは俺と話してニマニマしてるか、って感じだ。

 とてもじゃないけど最強級ウマ娘という威圧感はないし、なんなら一部のファンはこんなウィルを見ると軽度の脳破壊を受けるかもしれない。

 

 ただ、ことがレースとなると、普段の反動と言わんばかりに禍々しいまでの威圧感を出す。そういう多面性を持つのがウィルというウマ娘だ。

 そして、その風格は決してただのこけおどしではなく、今や彼女はトゥインクルシリーズでもトップクラスの能力を持っている。

 

 有記念の反省から、基礎的なトレーニングを積み直し、ステータスも向上。

 レースでの経験や、そこで感じた弱みや強みなどの彼女が拾ってきた気付きを元に、新たなスキルもいくつか習得した。

 

 今や彼女は、間違いなくトゥインクルシリーズでも最強の一角……あるいは、横に並ぶ者なき無双の領域に足を踏み入れている。

 

 ……でも、こういうこと、普段のウィルを見てると忘れそうになるんだよなぁ。

 

 これまでの三冠ウマ娘って、幻のセントライトも伝説の戦士シンザンも、常識破りのミスターシービーに永遠の皇帝シンボリルドルフ、その全員が、その形は違えど共通して強い存在感を持っていた。

 

 けど、普段のウィルは……なんというか、本当に普通の女の子って感じだ。

 いや、勿論特徴的なところもあるんだけど、三冠ウマ娘って感じはしないんだよなぁ。

 だから時々、彼女がすさまじい存在だってことを忘れそうになってしまう。

 

 でも、そういう普通の女の子なところも、レース中に魅せる修羅の如き様子も、全てがウィルの一面だ。

 そこは忘れないように気を付けないとな。

 

 

 

 と、そんなことを思っていると、昌から声がかかる。

 

「兄さん、このスキル、名前だけ書かれても全然意味わかんないんだけど」

「あぁ、そうか。ごめん、今度から効果も追記する。俺が把握してる範囲になるけど」

「うん。……てか、このスキルの名前、なんというか……ゲームチックなんだね。兄さんが考えたの?」

「あー……まぁ、そんなとこ」

 

 この世界はゲームの世界で、だからこそこんなゲームチックなんだよー……などとは、流石に言い辛い。

 というかそもそも、俺自身この世界が何なのかよくわかってないしな。

 

 「アプリ転生」が前世アプリの画面と酷似してることから、前世アプリとこの世界の間に何かしらの関係があるのは間違いないだろうけど。

 ここがゲームの中の世界で、だからこそ俺のチートがこのように作用している可能性もあれば……。

 ここはゲームの世界ではないけど、チートが俺のよく知る形に変わって作用している可能性もある。

 

 いやもう、この辺は考えたって答えの出ない問いではあるんだけどさ。

 それにしても、触らぬ蛇に祟りなしだ。

 たとえ昌にだって、この辺の事情は話すべきじゃないだろう。

 

「もう1つ聞きたいこととしてはさ、このスタミナの『UG』って表記は何なの? SSとかはまぁ、ステータスの評価なんだろうって感覚的にわかるけど、UGはその上ってこと?」

「…………いや、何なんだろうね?」

「なんで兄さんもわかってないの? 見えてるんだよね???」

 

 いやホント、これわかんないんだよなー。

 

 そもそも俺の記憶じゃ、ステータスは1200、ランクはSS+で打ち止めになるはずだったんだよね。

 なのに、先日のウィルのトレーニングが上手くいって「あーこれスタミナカンストしたか」と思ったら、1200より更に伸びて、ランクも知らないUG表記になるんだもん。

 ぶっちゃけどうなってるかよくわからん。

 

 これはアレなのかな、俺が比較的早期にウマ娘から離れちゃったのが問題なのかな。

 俺の知らない間にステータスの上限が取っ払われるアップデートがあったとか?

 

 というかカンストしないにしろ、それならランクはSSSとか3Sとかじゃないの? あるいはXとかならまだわかんなくもないけど……UGって。

 Uは多分ウマ娘の頭文字のUなんだろうけど、Gは何? グレード? ウマ娘グレードとかあるの最新の環境?

 

 ランクでGなんてそうそう使わな……あ、いや待て、前世アプリのランクって確かGからSS+だったよな? これ、もしかして最低値のGか?

 だとしたらここから伸ばしていけばUFとかUEになる? もっともっと上があるってこと?

 

 ……マジかぁ。当時はステータスカンストすら作るの結構大変だったんだけどなぁ。

 やっぱり俺が離れた後のウマ娘、育成ウマ娘もサポカもガンガンインフレして、最終的には全ステ2000とかになったりしたんだろうか。怖すぎる世界だな。ライスストーリーのブルボン涙目じゃん。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……まぁ、その話は置いておいて。改めて、天皇賞の話に戻ろうか」

 

 俺はデスクの引き出しから、天皇賞(春)の開催される京都レース場の見取り図を取り出し、デスクに広げる。

 

「知っての通り、春の天皇賞は3200メートル、G1レースの中で最も長い距離で競うレースだ。

 当然だが、レースの距離が長くなればなる程に、ウマ娘はスタミナを要求される。そしてスタミナという側面において今のウィルに勝てる子はいない。

 適性の面でも、芝、長距離、逃げの3つがSのウィルは、他よりも段違いに走りやすいはずだ」

 

 ぴっと、昌が手を挙げる。

 話を中断して悪いが言いたいことがある、ってことだろう。

 

「どうぞ」

「ありがとう。話の腰を折ってばっかで申し訳ないんだけど、なんでホシノウィルムさんって適性が3つS評価なの? 他の子のデータって、全員高くてAでしょ?」

「……わ、わかんない」

「さっきからわかんないことばっかりじゃん……」

「いや、多分……そこに関しては、ウィルの才能的な部分なんじゃないかと……」

「才能って言うんなら、それこそトウカイテイオーさんとかもSなんじゃないの?」

「うーん……」

 

 まぁ確かに、ウィル本人も認めていることだけど、単純な才能という意味ではトウカイテイオーはホシノウィルムを上回っている……はずなんだよな。

 

 レースへの直感、技術の活用、走法の発想……すべての意味で、トウカイテイオーは「走る」という事柄に天賦の才を持っている。

 

 ホシノウィルムが彼女に勝っているのは、シンプルにこれまでの努力の絶対量の違いだ。

 生まれてこの方……とまでは言わないが、幼い頃から文字通り命懸けで走っていた彼女が、最近になってようやく本気を出し始めたトウカイテイオーに負ける道理はない、という話で。

 

 ……が、しかし。

 適性という、生まれ持った才能によるものが大きい部分で、彼女は確かにテイオーに勝っている。

 

 ブルボンがその身を以て証明したように、ウマ娘は努力によって適性を伸ばすことができる。

 だからこそ、ウィルのそれも彼女の努力の結果なのだと、そう思っていたが……。

 

 冷静に考えると、努力によって適性をSに伸ばすことができるのなら、ドリームトロフィーリーグに進むような子は、皆がSランクの適性を持っているはずだ。

 そうでないということは、つまるところ……努力で伸ばせるのは、あくまでAランクまで、という仮説が浮き上がって来る。

 

 しかしそうなると、ホシノウィルムがトレセン学園入学時点でSランクの適性を3つも持っていたことは、大いなる疑問だ。

 それはまるで、彼女がズルでもしていたかのようで……。

 

 

 

 ……ズル。

 

 …………ズル(チート)、か。

 

 

 

「……ウィル、もしかして……」

「兄さん?」

 

 思わず呟いた言葉に、昌が不審そうな声を上げる。

 

「あー……いや、すまん、なんでもない」

「なんか今日ぼんやりしてない? 大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、昨日は5時間も寝たんだから!」

「『も』って言う程長い時間でもないんだけどね、それ……」

 

 この推論、昌にも相談しようかと思わないでもなかったが……。

 いくらなんでも、まだまだ妄想の余地を出ないし、証拠なんて欠片たりとも存在しない。

 

 もう少し……もう少しだけ様子を見てから判断しよう。

 それに、俺の予想が正しければ……ウィルはあまり、これを他人に知られたがらないかもしれないし。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「改めて、天皇賞のライバルの話だが……そんなウィルに対して、2番人気になるだろうメジロマックイーンは、既に自慢のスタミナで劣っている。

 まぁスキルまで含めれば、持久力自体はマックイーンが上回るかもしれないが……最高速度でウィルが大きく勝っている以上、末脚勝負でウィルが押し負けることはない。というか、そうならないように俺が作戦立案するから問題ない」

 

 マックイーンは強力なウマ娘だし、この前調査で見た限り、調子も万全のようだったが……。

 本格化も終えてしまい、身体能力でウィルに上回られてしまったというのが厳しいところだろうな。

 元より彼女はフィジカルで戦うタイプのウマ娘、その点で負けてしまうとシンプルに不利だ。

 彼女も彼女のトレーナーも、共に愚直で真っすぐなタイプ。流石に策で負けるとは思い辛いし。

 

「……領域はちゃんと開けるの? ホシノウィルムさん、大阪杯じゃ領域を開けずに、テイオーさんに迫られてたよね」

「そっちは問題ない。ウィルは大阪杯で感覚を掴んだらしい。天皇賞なら問題なく領域は開けるそうだ」

「それは良かった……けど、領域の打ち合いになったら……勝てるの?」

 

 唯一気になるのがそこなんだよな……。

 

 俺は何かと領域というモノに悩まされることが多いが、今回もまた例に漏れない。

 ホシノウィルムは勿論、マックイーンの2着目の領域も詳細不明だ。どんな条件か、どんな効果か何一つとしてわからない。

 今回の天皇賞における、予測できない大きな要素の内の1つである。

 

 ……ただ。

 領域が、そのウマ娘の魂、ウマソウルによるものだとすれば……。

 

 ホシノウィルムの魂の輝きは、きっと他の誰にも負けはしないだろう。

 

 実際に走るわけではない俺にできるのは、とにかく担当のことを……ウィルを信じることだ。

 だから、領域の効果や精度に関して、俺は疑うという選択肢を捨てている。

 

「大丈夫。勝つよ、ウィルは」

「……なるほど、わかった。今はそれでいいかな」

 

 

 

 さて、マックイーンの話が終われば、次は……。

 

「トウカイテイオーさんは? 大阪杯の時は、かなり苦戦してたけど」

「……言っちゃなんだけど、トウカイテイオーが今回の天皇賞で勝つことはあり得ないと言っていい」

 

 俺はテイオーの調査書を他の書類の上に置いて言った。

 

「彼女は確かに天才だが、長距離の適性は一段劣るB。そして何より、スタミナが600しかないのが致命的だ。

 ウィルとメジロマックイーンがペースを跳ね上げるだろうこのレースにおいて、彼女に十分なスタミナがあるとは決して言えない。

 だから、トウカイテイオーは、まず1着は取れない。どれだけ好走しても5バ身は……ああいや4バ身……いや、余裕をもって3バ身……念には念を入れて2バ身は離されるはずだ」

「最後の方で一気に自信なくしてない?」

「いやだって、相手はトウカイテイオーだしなぁ……」

 

 これまでテイオーには、何度も苦汁を飲まされてきた。

 日本ダービーでは策の読み合いに敗れ、大阪杯では俺の予想を超える好走を見せる。

 流石はトウカイテイオーと言うべきか、あるいは流石は皇帝の杖と言うべきか、あるいは単に相性が悪いのか、俺はとにかくテイオーに関して読み誤ることが多い。

 

「まぁでも、先頭から2バ身は離れる。絶対離れる。もしこれで2バ身以内に入って来るようだったら……申し訳ないけど、正直もう俺の手には負えない」

「諦めた……」

「いくら計算してもそれを上回られるようなら、データ屋は諦めるしかないのです」

 

 ……まぁでも、今回は流石に不可能というものだろう。

 

 天皇賞(春)の開催されるレース場は、淀の坂の立ち塞がる京都レース場。

 その距離はG1レースの中でも最長の、3200メートル。

 その上、ライバルは圧倒的ハイペースランナーな、ウィルとマックイーンの2人。

 

 この状況で、テイオーが1着から2バ身以内に入るようなことがあれば……それはもはや奇跡とでも呼ぶしかない現象だ。

 奇跡というのはそう起こらないからこそ奇跡と呼ぶわけで、そんなにポンポン起こしてもらっては困る。いや本当、めちゃくちゃに困るのだ。

 

 

 

「と、そんなわけで。ウィルの得意分野であるこの長距離レースにおいて、今の彼女が敗北することはまずないと思う。

 ……なんて、本人に言ったら興ざめしそうだから、言えないけどね」

「あぁ……うん、確かに」

 

 ウィル、敗北の可能性のある、熱いレースが好きだからなぁ。

 確実に勝てるレース、負ける可能性のないレースとなると、ちょっとテンションが下がってしまう可能性は否定できない。

 故に、この件は黙秘しておくのが賢い選択だろう。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、そんなウィルの話は終わり、次はもう1人のウマ娘の話だ。

 

「次に、ブルボンの皐月賞か」

「ブルボンさん、かなり苛烈なトレーニングしてたけど……脚の方は大丈夫なの?」

「様子は見てるけど、問題ないはず。一応兄にも定期的に相談してるけど、このプログラムなら大丈夫だろうってお墨付きもらってる」

「兄貴が? ……なら大丈夫か」

 

 脚の状態に関しては、恐らく問題なし。

 勿論、これだけハードなトレーニングをしている以上、警戒を怠るべきではないが……今のところ、上手くやれていると言っていい。

 

 ……ブルボンに「ご褒美権」を使ってまで言われてるんだもんな。

 事故を起こさせず厳しいトレーニングを積ませるこの綱渡り、なんとかこなしていかなきゃいけない。

 

 

 

「で、だ。皐月賞に勝てるかどうかで言えば……ぶっちゃけ、こちらも間違いなく勝てるはずだよ。

 ライバルは2バ身差で弥生賞を制したリボンララバイや、トライアルの若葉ステークスを4バ身差で制したデザートベイビーなど、粒揃いではあるが……それでも、ミホノブルボンには及ばない」

 

 そう言いながら、俺はデスクにミホノブルボンの分析資料を置いた。

 

 

 

 ミホノブルボン

 

 ステータス

 スピード C+  529

 スタミナ C   401

 パワー  C   490

 根性   B   622

 賢さ   D+  383

 

 適性

 芝A ダートC

 短距離C マイルB 中距離A 長距離C

 逃げA 先行E 差しG 追込G

 

 スキル

 先手必勝

 地固め

 逃げコーナー○

 末脚

 コンセントレーション

 円弧のマエストロ

 前途洋々

 逃げのコツ○

 

 

 

「……ホシノウィルムさんのデータを見た後だと、どうしても弱く見える」

「皐月賞の時点でここまで育ってるのはすごいんだけどね。去年のテイオーの数値を全部越えてるし、間違いなくトップランクのウマ娘だよ。

 ウィルやライスシャワー、ソウリクロスとのトレーニングが良く活きてる」

 

 実際、今年の他の出走ウマ娘と比べると、彼女は一回り以上優っている。

 

 ステータスは日本ダービーでも十分通用するレベルで、中距離の適性が上がったことで適性もオールA。スキルは彼女との相性なども考慮しながら、可能な限り汎用的で強力なものを覚えさせたつもりだ。

 

 彼女のストイックさ、真面目さなどが大きく響き、ミホノブルボンというウマ娘はこの半年で大きく躍進した。

 今や皐月賞という小さな……いや、短い舞台に、彼女の足取りを止められる者は存在しないだろう。

 

 しかし、そんなデータを目にしてもなお、昌はどこか心配そうな様子。

 

「兄さんが注目してた、ライスシャワーさんはどうなの? 彼女たちもブルボンさんの障害にはならない? 大阪杯みたいにあっちだけ領域を開いたりすれば、マズいことになるんじゃないの?」

「いや、ならないね」

 

 俺は小さく頭を振り、答える。

 

「この前見て調査した限り、彼女は今、領域を開ける状態じゃない。

 そんな半端なライスシャワーでは、ミホノブルボンを追うことはできても、追い抜くことはできないよ」

 

 ……昌には伝えないけど、本当に怖いのは、その後。

 

 距離の延びる日本ダービーもそうだが……やはり何より、本来彼女の勝つことができない菊花賞。

 そここそが、ブルボンにとっての最大の勝負所になるだろう。

 

 







 よーし、次回のレースは勝ったな! 風呂入って来るわ!

 本当は堀野君が調べてきたテイオーとかマックイーン、ネイチャ、そしてライスの様子とか、ブルボンの最近の様子についてもうちょっと語ろうと思ってたんですけど、気付けば尺がなくなってました。
 むしろなんでプロット作ってる時は書き切れるって思ったんでしょうね?



 次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、皐月賞前夜の話。



(本編に関係ない呟き)
 作者「ウマ娘二次創作書くんだし凱旋門書いちゃうぞ~! 公式からの情報ほぼゼロだから自由に書けるな! よ~し、プロット完成!」
 ウマ娘さん「突然ですが凱旋門賞シナリオ実装しまーす!」
 作者「いや間が悪すぎでは!? まぁでもシナリオがふわふわしてたらこっちでアドリブ効かせていい感じに持ってくこともできるか……」
 ウマ娘さん「シナリオは憧れへの挑戦を軸とする激アツスポ根物語でーす! スピードシンボリ掘り下げまーす! つよつよライバルいまーす! 元ネタクソ強ウマ娘も来まーす! レジェンドさんも来まーす! みなさんジンクスを破って日本の夢を叶えてくださーい!!」
 ミ゜「作者」

 レジェンドたちは強敵でしたね……。いや本当に。
 初見ジンクス破りなしで挑んで、エルの惜敗の再現になった時は泣きそうになりました。残り10メートルくらいで差し切られるの本当に心に来る。

(本編に関係ない呟き2)
 皆さんがこれを読んでいる時、作者は多分燃え残った全てに火を点けてると思います。

(追記)
 誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!
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