これからも3、4日に1回ペースで投稿していきますので、どうぞよしなに。
それはそれとしてオーガポンかわいすぎ。スグリ君、見てる~?
ホシノウィルムの大阪杯、そしてミホノブルボンの皐月賞が終わった。
振り返ってみれば、どちらもかなり僅差での勝利だったと言えるだろう。
大阪杯は、トウカイテイオーの驚異的と言う他ない走りで、ほんのハナ差まで追い詰められ。
皐月賞は、ライスシャワーとの差が2と2分の1バ身にまで縮まった。
……なんか、俺の担当するウマ娘、いつもこんな感じじゃないか?
最初はフィジカルの強さで圧倒するけど、徐々にライバルたちが覚醒して追い詰められていく……と。
こんな展開、去年のクラシックレースでも見た気がするな?
まぁ、それはつまるところ、それだけウィルやブルボンが早熟で強力、ということなんだろうけども。
競走ウマ娘というヤツは、強力なウマ娘と走れば、まるで引っ張られるように強くなるもので……。
ウィルやブルボンの強さが、ライバルの、そしてレース全体のレベルを向上させてしまっている。
その結果として、俺たちは更に強くなることを強いられる、というわけだ。
残念ながらというか何と言うか、この競走の世界では、独走というものは許されないのである。
先を走る者ができるのは、追いすがって来る子たちに負けないよう、日々鍛錬を重ねることだけ。
何事においても、成長というものに近道などないのだ。
……と、少し話が逸れてしまったな。
とにかく、ウィルとブルボンは、今年最初のG1レースを突破した。
となれば、俺たちが今すべきことは、ただ1つ。
「それでは、定例の作戦会議と行こうか」
そう。
もはやテンプレと化しつつある、地固めの時期だ。
* * *
ブルボンの皐月賞の翌日、正午過ぎ。
俺たちは、俺に割り当てられたトレーナー室に集まっていた。
自身のデスクに座る昌と、椅子に座る担当ウマ娘2人。
3人に見えるように、俺はホワイトボードに本日の用件を書き込んでいく。
「さて……まずはウィル、君の話をしようか。
君の次走は、6日後に迫る天皇賞(春)。京都レース場3200メートル、G1レースとしては最長の距離になる」
「これまで走ったことのない距離でのレース……楽しみですね!」
「そこで不安とか緊張とか全くなく『楽しみ』と言えるのは、君の長所の1つだと思うよ」
呑気と言うか何と言うか。
……いや、実際のところ、呑気なわけではないんだろうな。
彼女は自分のライバルの強さを知っている。ただ、それを恐れるのではなく、そこに闘争本能を燃やし「楽しさ」を見出しているだけ。
強力な相手を意識しすぎて調子を落とすウマ娘も多い中、強敵との対決を前向きなモチベーションに昇華できるのは、間違いなくホシノウィルムの強みの1つだろう。
さて、それではデータの考証といこう。
デスクの中から今回のレースのコース見取り図や特徴、統計的な天気とバ場状態についてまとめたプリントを出し、彼女の前に広げる。
「春の天皇賞は、この国のレースで最もスタミナを要求されるレースと言っていいだろう。
G1レース特有の緊張感と強敵、3200メートルという長距離、そしてコーナーで2度に渡って立ち塞がるスタミナ喰らいの淀の坂。
その全てがウマ娘の体力を食いつぶし、失速を誘発する」
京都レース場の右外回り、3200。
天皇賞(春)では、向こう正面の直線から始まり、レース場を1周半するように走ることになる。
去年このレースを競ったのは、菊花賞を獲って現役最強ステイヤーとして目されつつあった、ターフの名優メジロマックイーンと、復活した黄金世代の古豪……俺にとっても思い入れの深い、トリックスターことセイウンスカイ。
両者共に、長距離レースに適合するだけの高いスタミナを保有するウマ娘であり……。
2着と3着までの間に3バ身もの着差が生まれたことからも、彼女たちの高い実力と同時、何よりこのレースで必要とされるスタミナの水準の高さが読み取れる。
……が。
俺の愛バは、その要求に応えられるだけの実力を持っている。
「つまるところ、スタミナ自慢の君にとって、最も適切で有利なレースと言えるだろうな」
ウィルのスタミナは、今や俺の知る上限たる1200を越えている。
この数字は、今年本格化を終えたマックイーンですら手が届かなかった境地。
それどころか、俺が今まで見てきたあらゆる媒体の記録を見ても、ここまで特定のステータスが高まったウマ娘は他にいなかった。
彼女の特異的な体質と俺の持つチートによる管理、その2つが合わさったからこそ生まれた、飛び抜けたステータスだ。
短距離レースがスタートの早さや初期段階の加速などの技術が最重要視されるのに対し、長距離レースでは長く走り続けられるスタミナやガッツなどの身体能力が肝要になりやすい。
そういう意味で、今回のレースはすさまじいステータスを持っているウィルにとって、これ以上ない程有利なものになるはずだ。
「でも、今回もライバルは強いですよね」
「あぁ、そうだな」
どこか期待するような、あるいは恍惚とするような彼女の言葉に応じて、今回のレースの出走ウマ娘たちの資料も、3束まとめてデスクにドン。
3人がそれぞれ読み始めたのを確認して、俺はホワイトボードにマーカーを走らせる。
「最大の強敵は、やはりメジロマックイーンだろうな。
ウィルと同じステイヤーであり、トップクラスのスタミナと凄まじく整ったフィジカルを持っている。
作戦は先行抜け出し一辺倒だが、その高いスタミナ故にミドルペースが格段に速い。他のウマ娘は彼女のペースに付いて行けず、結果的に独走状態になることが多い。去年の秋の天皇賞が良い例だろう」
メジロマックイーンの名前の前に「○」を書き込む。
マックイーンは、フィジカルの強さを主体とするウマ娘だ。
自らの生まれ持った才、その身に流れる血の尊さを証明するかの如く、小手先の策ではなく自分の身体能力で勝負する。
その走りは、これと言った強みがないとも言えるが、同時にこれといった弱みがないとも言える。
故に、身体能力……特にスタミナに劣るウマ娘は、どうしても彼女に勝つことが難しくなる。
……逆に言えば、身体能力で優るウィルは、彼女に対して有利と言えるだろう。
去年、まだ慢心が目立ち、特殊な策を弄さなかった頃のトウカイテイオーに近い状態か。
「そして、次点で警戒すべきは、トウカイテイオーだ。
彼女は適性こそ1歩劣るが、ここぞと言う時の爆発力がバ鹿にならない。俺もウィルも何度も苦しめられてきた」
「苦しめられてきたっていうか、私は楽しめられてきましたが」
「そうだね、君はね。……彼女の作戦は同じく先行抜け出しだが、マックイーンと違って大きくアドリブを利かせて来る。単純な脅威度で言えばマックイーンには劣るが、変数の要素は彼女の方が大きい」
トウカイテイオーの隣には、「▲」。
今のテイオーは去年と違い、慢心がない。
ウィルのことを過小評価はしてくれないだろうし、どころかチャレンジャーとして考え得る限り全ての手を使ってこちらを追い詰めて来るだろう。
策を巡らすという意味ではネイチャに近いが、データと合理を元に作戦を立てるネイチャと違い、テイオーの走りは彼女の特殊な感性……いわゆる天才性による部分が大きい。
そのため、彼女の取って来るレースプランは読み辛い。悔しいが、ちょっとトラウマ気味だ。
……とはいえ。
流石に、トウカイテイオーに今回の天皇賞は厳しいだろう。
相手はスタミナ1200越えのウィルと、1100オーバーのメジロマックイーン。
この国内最長のレースで、スタミナお化けな2人のペースに付いて行けば、どうしたってガス欠は避けられないはずだ。
…………そうだよね?
いや、流石に無理があるよね? あるはず……。多分そう。部分的にそう。
俺は2人の名前をまとめて四角で囲った後、その外にもつらつらと何人かの名前を書き込んでいく。
「この2人が今回の天皇賞における最大の障害でありライバルとなるはずだが、当然ながら出走するのは彼女たちだけではない。
弥生賞皐月賞菊花賞、そしてこの前の大阪杯と、何かと君と縁のある……つまりはG1レースの常連である実力者、ハートブロウアップ。
最近になって上がり調子を見せ、直近1年で掲示板を外したことのないユグドラバレー。
去年の有馬記念で驚異的な末脚を見せつけたダイサンゲン。
恐らくは君と先行争いをすることになるだろう、メジロパーマー。
他にも、エレガンジェネラルやカジュアルスナップといったウマ娘たちも出走予定だ」
流石は八大競走の1つ、栄誉ある天皇賞と呼ぶべきか。
今年の天皇賞には、かなり豪華なメンバーが揃った。
……とはいえ。
その中心に立ち、誰よりも存在感を放つのが彼女であることは、疑うべくもない。
「熾烈なレースになる。マックイーンはともかくテイオーの手の内は読み辛く、他のウマ娘たちだって黙ってはいないだろう。
だが、俺と君なら勝てると信じている。今まで通りの、そして今まで以上の走りを、ライバルとファンたちにお見せするとしよう」
「はい!」
ウィルの頷く顔は、前向きなやる気と充実感に満ちていた。
……さて、ウィルの方はこれでいいだろう。
ぶっちゃけると、今の彼女に過剰な手出しは必要ないんだ。
ウィルの精神状態は、完成している。
走りを楽しみ、そこに集中しながらも、同時に何気ない日常を楽しむことも忘れない。
競走ウマ娘として、今の彼女以上の状態はそうそうないだろう。
更に言えば、肉体的にもそうだ。
悪質なコンディションはなく、成長率も順調と言う他ない。
今の彼女は、俺が余計な導きをせずとも明日に走っていける。
むしろ、俺の方が彼女に引っ張ってもらっているような状態なんだ。
故にこそ、必要以上の会話は必要ない。
後はただ、俺と彼女で「競走ウマ娘ホシノウィルムの最善の走り」を作り上げるだけである。
* * *
さて、一方で。
ミホノブルボンの精神状態は、未だ完成しているわけではない。
いや、当然と言えば当然なんだけどね。
彼女はまだ中等部2年生、ランドセルを肩から下ろしてたったの2年しか経っていない。
ウィルと比べてずっと良い体格で錯覚しそうになるが、ミホノブルボンはまだ、子供と言っていい年代なのである。
むしろこの歳で完成している方が少数派。道半ばで迷っているような子の方が多いのが実情だろう。
そして同時、彼女はいわゆる思春期に該当する年代でもあるんだが……。
こと彼女に限っては、その情緒の薄さ故か、そこまで跳ねっ返りも大きくないのが幸いなところ。
ああいや、それを言うならウィルもそうなんだよな。彼女も彼女で、この年頃の少女にありがちな自己顕示欲とか承認欲求とかを出すタイプではない。
それどころか、その歳には見合わない程に精神的な成熟を感じるような……。
…………あー、また状況証拠が出て来てしまった。
いや、今はこのことはさて置こう。考えても仕方のない話だ。
とにかくミホノブルボンは、子供らしい反抗心の少ない、いわゆる手のかからない子供だ。
しかしそれは同時に、彼女の情緒の未発達と、走りへのモチベーションの低さも意味している。
彼女が走る理由は、少なくとも皐月賞前までは、「クラシック三冠を獲ること」「マスターにそうオーダーをいただいたから」でしかなかった。
ハッキリ言って、競走ウマ娘としてあまり望ましい状態ではない。
彼女の人生は、クラシック三冠では終わらない。
その先には更なるレースとシニア級が。
そしていつかはドリームトロフィーリーグが。
競走を引退しても、その先にはまだ、長い長い時間が待っているのだ。
彼女の生き、走る道は、彼女自身の意志で決めていかねばならない。
幼い頃に定めた目標や、誰かの言うままに走っているだけでは、きっといつか後悔することになる。
ここに関しては、去年ウィルにやったように、俺が多少なりとも解決しなければならない問題だろう。
ブルボンの走りの改良には、こういう部分の精神的成長が不可欠だろうし……。
契約トレーナーの仕事は、競走ウマ娘としてだけでなく、ウマ娘としての彼女たちに向き合うことも含まれるのだから。
故に、俺は口を開き、ブルボンに訊ねた。
「次は、ミホノブルボンの次走である日本ダービーだが……その前に、君に訊いておこう。
皐月賞はどうだった?」
問うたのは、なんとも曖昧で玉虫色に取れる疑問。
しかし、ブルボンは俺の期待通りの答えを返してくれた。
「どうだったか、と問われれば、辛勝であったと思います。
油断していたわけではありませんでしたが……ライスシャワーさんは、想定の約188%の出力を持っていました。故に、大きく追い詰められ、余裕を失う結果となりました。
マスターのオーダーを破ってしまったこと、改めて謝罪いたします」
「構わない。俺の指示……オーダーは、あくまで君が勝利するために有効なプランを示しているだけだ。君が満足した勝利を勝ち獲れるのならば、オーダーを守る必要はない」
「しかし、マスターのオーダーがなければ、私たち競走ウマ娘は正しく走ることはできません。
殊に私は、データを並べ計算することはともかく、それを元に正しくレースプランを組み立てることに長けてはいません。変わらず、俯瞰的にレースを見ることのできるマスターにオーダーを下していただければと望みます」
「ああ、任せてほしい。君のトレーナーとして、すべきことをするよ」
これにて、ブルボンが最後に暴走したことについては手打ちだ。
というか、そもそもアレ、別に暴走と言う程ではなかったしな。本当に謝る必要もないんだが。
土台、俺がブルボンに提示した「目標速度」は、余裕のあるペースだった。
いや、より正確に言えば、彼女がそのスタミナをきっちり使い切れるペースではあったんだが……。
競走ウマ娘には「根性」、つまりスタミナ切れを起こしても走り続けられるラインがある。
で、ブルボンは繰り返し坂路を走った成果だろう、これが他ステータスに比べて一回り以上高い。
彼女が多少暴走したとしても、それを補えるだけのバッファがあったわけだ。
そして、その暴走したスピードに関しても、彼女のステータス的なスピード……最大速度の範囲内。
ダービーや宝塚記念のウィルのように、無理やりな走りで自身の限界を超える速度を出そうとしたわけでもない。
故に俺は、残り200メートルでの疾走について、彼女を咎めるつもりはなかった。
むしろ、そこで彼女が感じたことにこそ意味があるのだと思う。
「さて。その件に関して咎めるつもりはないが……ブルボン、以前に相談してくれた件に関してはどうだった?」
「はい、報告させていただきます」
ブルボンはコクリと頷いた後、彼女の癖らしい相変わらずの無表情に近い、しかし仄かに熱の入った表情で語った。
「確かに、マスターのおっしゃった通りでした。
ホシノウィルム先輩に相談し、皐月賞を走った結果、私は確かに競走に『楽しさ』を感じ取れたと認識しています」
それを聞いて、俺がブルボンからウィルの方に視線を移すと……。
彼女は、「やってやりましたよ!」と言わんばかりのドヤ顔で、ブルボンからは見えないようにサムズアップしてきた。
うん、まぁ。
確かに君を焚き付けたというか、君が動いてくれるように誘導したんだが。
そして、君は俺の期待通り……というか、期待の3倍くらいにはライスシャワーを焚き付け、想定ギリギリのところにまで覚醒させてくれたわけだが。
* * *
ブルボンのご実家に赴いた日。
俺はブルボンの「どうすれば走りを楽しめるのか」という問いに、「自分で掴め。もしも掴めなかったらウィルに訊ねろ」と返した。
そして同日の夜、トレーナー室を訪れたウィルと話した後、彼女に1つお願いをした。
「本来は俺が願うべきことではないんだが、気が向いた時でいいから、前までと変わらずライスシャワーのことを見ていてほしい」と。
これらの行動を取った理由は、ただ1つ。
ミホノブルボンのライバルとして、ライスシャワーを強化するためだ。
競走ウマ娘がレースを楽しむ条件は、ただ1つ。
そのレースに、自分と同じ土俵に立ち、肉薄して来て、あるいは越え得るウマ娘がいることだ。
去年のウィルなんかは、典型的な例と言えただろう。
あまりの圧倒的な強さに誰も付いて行くことができておらず、だからこそ諦めずに走り続けるネイチャに、そして自分に迫って来るテイオーに、「熱」を見出した。
故に、俺は今年も同じことをしようとした。
ミホノブルボンに迫ることのできるウマ娘を、ライバルを用意しようと。
……そして、転生者である俺は、知っていた。
ミホノブルボンを追い詰めることのできるウマ娘は、同世代ではただ1人だと。
レコード破りの、漆黒の刺客。
あるいは、青いバラを咲かせる、誰かのためのヒーロー。
祝福の名を持つウマ娘、ライスシャワー。
彼女をおいて、他に適任者などいはしない。
故に、俺は彼女を、仕立て上げることにした。
ミホノブルボンが、レースを楽しむための立役者。
彼女にとっての、無二のライバルへと。
しかし、ここで困ったことが1つ。
直近の調査の結果からして、ライスシャワーが明らかに入れ込んでしまっていたことだ。
契約したトレーナーでもなし、そこまで詳細に事情は探れなかったが……。
どうやらライスは、去年のウィル程ではないが、「勝たなくてはいけない」という強迫観念から焦燥感を覚えているらしい。
その上、どうやらアイツはライスシャワーというウマ娘を伸ばしあぐねているらしく、本来取るべき戦略である徹底したマーク戦法を意識させてはいなかった。
……あぁいや、これに関しては前世の知識を持ち越したりステータスが見える結果、自然と最適な戦略を割り出せる俺の方がおかしいのかもしれないが。
ともかく、今のライスシャワーでは、残念ながらミホノブルボンのライバルにはなり得ない。
故に、その戦術の是正はともかくとしても、早急に彼女の精神状態を持ち直させる必要があった。
そしてその適任者こそが、ライスシャワーと親しくしている、ウィルだったんだ。
俺とウィルは現在、それぞれブルボンとライスに肩入れし、どちらが勝つかの代理戦争のようなことをしている。
勿論、これはあくまでお遊びの範疇。
ウィルだって完全にライスに肩入れするというわけじゃなく、あくまで「ライスに困ったことがあれば相談に乗るし、教えられることは教える」くらいのスタンスで、基本的にはブルボンを応援してくれている。
……が。
ウィルは、ああ見えてとても気にしいだ。
ブルボンの善性を感じながら毎日を過ごす中で、それとなく「私ブルボンちゃんに悪いことしちゃってるなぁ」と言いたげな表情を見せるようになった。
これは、あまりよろしくない。
ウィルに物憂げな表情は似合わない。
あの子にはちょっとニチャったような笑顔──最近はよく笑うおかげか、結構マシになってきた──の方がずっと似合うのだ。
そんなわけで。
ミホノブルボンのライバルとしてライスシャワーを強化すると同時……。
「ライスちゃんに手を貸すことが、最後はブルボンちゃんのためになる」という言い訳もできるよう。
俺はウィルに、ライスシャワーの件を託したのだった。
まぁ、託したと言っても明確に言葉にしたわけじゃないんだけどね。
もしもこう動いてくれたら嬉しいな、くらいの気持ちでかるーく焚き付けただけ。
しかし、今のウィルの表情を見るに、どうやら俺の意図は殆ど完璧に伝わっているらしい。
流石、察しの良さは随一だ。よく察しの悪さで昌に叱られる俺としては羨ましいことこの上ない。
…………あと、ついで程度だが。
彼女と以心伝心できたことが、ちょっとだけ嬉しくもあった。
* * *
そんなわけで、俺の仕掛けは無事成功。
協力してくれたウィルに、俺はこそっと一瞬だけサムズアップを返し、話を再開する。
「では、ミホノブルボン。君の感じた『楽しさ』について、詳細な報告を頼む」
「はい」
彼女はじっとこちらの瞳を見据え、言葉を紡ぐ。
「最初に『それ』を感覚したのは、残り634メートル地点。
後方より迫るウマ娘の威圧感に、私は内から発生する『不明な熱』の存在を検知しました。
これまでに幾度となく私の走りを乱し、掛からせてきた『熱』。それは時間の経過、及び2番手のウマ娘との距離の接近に伴って更に出力を増加しました。
そして残り182メートル、排熱限界に到達。私はスタミナの換算を停止し、全速力での疾走を開始しました」
相変わらずすさまじい記憶力に難解な表現だ。
まあ、どちらも慣れてしまったし、今更驚くこともないけど……。
問題は、そこから先の話だな。
「それについて、君はどう思った?」
俺がそう尋ねると、彼女は数秒まぶたを閉じて考えた後、改めて口を開いた。
「……最初は、この『熱』は私の走りを乱す悪性のノイズであると判断し、抑え込もうとしていました。
しかし、レースが終わった後、私は……ライスさんに、『また走りましょう。次のレースも楽しみにしています』と、そう告げていました。
以上より、私はライスシャワーとの競走を無意識的に楽しんでいたと推測。彼女と走る際に噴出していた『熱』こそが、ウィルム先輩のよく語る『レースを楽しむ』という感情であると認識しました」
「なるほど」
……正確に言えば。
その『熱』自体は、楽しさではないのだろう。
ミホノブルボンの感じている熱とは即ち、ウマ娘の競走本能。
誰かに負けたくない、誰より速く駆け抜けたいという、極めて個人的な欲望だ。
言葉遊びのようだが、その『熱』に熱中することこそが、きっと「走りを楽しむ」ということで……。
最初からその『熱』に浮かされていたブルボンは、実のところずっと昔から走りに熱中し、楽しんでいたとも言えるのだが……。
問題ない。
大切なのは、彼女自身が「自分はレースを楽しんでいる」と気付き、そう定義することだったからな。
これでようやく、彼女は大事な1歩目を踏み出したことになる。
ぶっちゃけて言えば、ここに関してブルボンが気付いてくれるかどうかは、だいぶ賭けだったが……。
ウィルの協力もあって、ブルボンは無事にそれを察知し、俺は賭けに勝つことができた。
安心して思わず細く息を吐いた俺に、ブルボンは胸に手を当てて言ってくる。
「つきましては、マスターに『ご褒美権』を使用しての要請があります」
「なんだ?」
「目標『クラシック三冠の達成』に追加し、サブ目標として『菊花賞におけるライスシャワーの打倒』を登録したいと思います」
「ふむ」
俺が視線で真意を問うと、彼女はその瞳の奥に、薄く炎を燃やして言った。
「ライスシャワーさんには2000メートルの時点で、残り2と半バ身まで追い詰められました。
であれば、3000メートルの距離になれば、むしろ私の方が不利となるでしょう。
その場で、彼女に勝ちたい。そうして同時に、父との夢、マスターとの目標を叶えたい。
それが私の……ミホノブルボンの、2度目に抱く、新たな夢です」
……要するに、「負けかけたのが悔しいから、今度は相手に有利な場で完膚なきまでに勝ってやりたい」ってことか。
なんというか……。
ウィルといいブルボンといい、一度火が付くと苛烈だなぁ、と思う。
「あぁ……やろう。
俺と君で、菊の舞台でライスシャワーに勝ち、文句なしの三冠を獲るぞ」
「オーダー、了解。ミホノブルボン、奮起します」
今回ブルボンの作戦会議まで行けなかったのは仕様です!! いつもの尺の調整ミスじゃないです!! これだけは真実を伝えたかった。
そんなわけで、次回は割とこの直後のお話。
いっつも恋愛雑魚なところばっかり見せてるし、久々に先輩らしいこと、しよう!
次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、模擬レースと領域の話。
(追記)
誤字報告を頂き、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました。