転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 投稿だよ投稿!

 花子さん回、恐怖と滅茶苦茶さがいい感じにないまぜになっててすき。





戦慄怪奇ウマ娘 コワすぎ! File-02【一極集中!黒い刺客】

 

 

 

 足に履いた蹄鉄付きのトレーニングシューズを、トントンと芝に打ち付ける。

 

 私たちウマ娘が走って一番痛めやすいのは、やっぱり足首の関節だ。

 長い距離を私たちのスピードで走れば、当然ながら脚に負担が溜まる。

 特に柔軟に動く関節や、強い負荷のかかる骨なんかは酷くて、だからこそ私たちは頻繁に故障を起こしてしまうわけだ。

 

 土台、時速70キロメートル前後というウマ娘の走る速度は、人間の体型の生物が取れる速度ではなかったりする。

 ウマ娘特有の超絶謎パワーがあるからこそ、この疾走は叶えられてるわけだけど……それでも、あるいは当然と言うべきか、そこで発生する負荷自体は避けられない。

 

 故に、時には「ガラスの脚」と呼ばれる程に、私たちの脚は繊細で壊れやすいんだ。

 

 前世のお馬さんには詳しくなかったけど、もしかしたら彼ら彼女らも脚が脆かったりしたんだろうか。

 だとすると……みんな、大変だっただろうな。

 走りたくても走れない。もっと走っていたくても立ち止まるしかない。その精神的な束縛感は、私も去年体感したところだ。

 まぁ私の場合は、献身的なまでに支えてくれる理解あるトレーナーがいたからこそ、そこまで苦しくは感じなかったんだけども。

 

 ……ん、あれ?

 私、いつの間にかお馬さん視点で物事を考えてるな?

 文字通り、思考が人間離れしちゃってるような。

 いや、前世は人間だったとはいえ、今世ではウマ娘に転生したわけだし、妥当と言えば妥当なのかな。

 

 しかし、思考の変化というのはちょっとばかり恐ろしい。

 仮にだけど、もしもウマ娘のまま前世の世界に戻ったりなんかしたら、絶対生きにくいだろうな……。

 厩舎なんか見たら扱いの悪さに眩暈しそうだし、桜肉とか見たら多分吐いちゃいそう。下手すれば「人間の都合ばっかり優先しやがって」って声を出しちゃうかもしれない。

 

 前世でやり残したことは、まぁ、ないわけではないんだけど……こうまで思考の基軸が変わってしまうと、どうしても戻ったとしても生き辛さが勝ってしまいそうだ。

 そういう意味でも、もう前の世界に戻りたいとは思わないし……。

 というか、正直前の世界よりもこっちの世界の方が愛着があるし、手放し難い。

 

 やっぱり私、もうしっかりとこの世界の住人なんだなぁ、ってしみじみ痛感するね。

 

 

 

 っとと、脚のことから思考が逸れてしまった。

 

 とにかく、私たち競走ウマ娘の脚は強く、同時に脆い。

 勿論と言うか意外にもと言うか、これに関しては転生チートウマ娘である私も例外じゃないんだ。

 日本ダービーや宝塚記念の時もそうだったけど、いくら転生チートでつよつよな体を授かった私でも、過度な無茶をすると問答無用で炎症を起こしたり骨折したりもする。

 

 ……「アニメ転生」の方はともかく、こっちって正直チート(ズル)って呼べる程強くはないよね。

 もしかして、私の体が強いこと自体はチートじゃない、ただホシノウィルムが突然変異的に強いだけだったりするのかな。

 ……いや、ないかな。いつだったか、歩さんも「入学時点で不自然にステータスが高かった」って言ってたし、やっぱり私の体の強さにも転生特典が関わってる可能性が高いと思う。

 

 まぁアレだ、あんまりチート過ぎてもレースは面白くはない。

 程々に……それこそ、ネイチャやテイオー、マックイーンさんと対等なレースができるくらいの強化だったのは、私にとってはこの上なく幸いなことだと言えよう。

 

 

 

 まぁでも、程々の強化ってことは、下手すれば普通に怪我とか骨折とかしかねないってことでもある。

 歩さんのウマ娘として、そんな愚を二度と犯すわけにはいかない。

 

 そんなわけで、運動前の準備運動は万全に。

 軽く関節を解したり体を動かして、事前のストレッチをこなしていく。

 

 普段なら、もうちょっと楽してもいいかもだけど……。

 今日は後輩ちゃんと、初めてちゃんと走れるんだもの。

 

 しっかりと準備して……ボッコボコに理解(わか)らせてやらねば、だ。

 

「先輩」

「ん、準備オッケー。それじゃ、やろっか」

 

 声をかけてくれたジャージ姿のブルボンちゃんに、笑顔で返す。

 

 

 

 それじゃ……程々に、やりますか!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ブルボンちゃんの皐月賞が終わった、翌日。

 私たちの陣営は、いつもの作戦会議を行った。

 

 私に対してはいつも通り、レースの条件や特徴、ライバルウマ娘の確認。

 それから会議の終わり際に、「明日までに確認するように」って詳細なレースプランの書かれたファイルを手渡されたくらいだ。

 

 一方でブルボンちゃんに対しては、いくつかの聞き取りとか確認が行われた。

 具体的に言えば、彼女が「不明な熱」というものを感覚した経緯と、それについてどう思うか、とかなんだけど……。

 

 結論から言えば。

 ブルボンちゃんはついに、レースを楽しむことを覚えたようだった。

 いやぁ、めでたい。今日の夕飯はお赤飯かな? いや確か普通にサバの味噌煮とおひたしとかだったと思うけども。

 

 まぁでも、彼女が楽しめたと言うのも納得のいく話だ。

 なにせ皐月賞のライスちゃん、ちょっとばかりすごかったもんね。

 

 周りの誰がどう動くとか、レースのテンポがどうとか、あるいは自分の残りスタミナとか、そんな頭を悩ませることを一切考えてない。

 ただひたすら、最終的に差し切れるだろう距離で、ブルボンちゃんのことを追従し続けた。

 もしもブルボンちゃんがあのままのペースなら、ギリギリ差し切られちゃったかもしれないくらいの……いや、確実にハナ差で差し切られるだろう、絶妙な距離感だった。

 

 そんなライスちゃんの極まり具合に、どうやらブルボンちゃんのお尻と心に火が付いたらしい。

 皐月賞が終わった後のブルボンちゃんの目は、1か月後の日本ダービーでの再戦に向けて、燃えに燃えていた。

 

 わかる。

 すっごいわかる。

 それまで楽勝だった中で急に追い詰められると、一気に熱くなれるんだよね。わかるよその気持ち。

 

 どうやら私がライスちゃんを焚き付けたことが、ライスちゃんにもブルボンちゃんにも良い影響を与えたようで、ちょっとばかり……いやごめん見栄張った、正直めっちゃ嬉しかった。

 私、去年は歩さんに助けられるばっかりだったからね。そこでもらったものを、少しでも後続の子たちに引き継げたって考えると、そりゃあ当然喜ばしいってもので。

 

 ……いや、ホントだよ?

 2人がもっと手強くなってくれたとか、楽しめそうな未来にまた1歩近づいたとか、そんなんで喜んでるわけじゃないからね?

 

 

 

 さて、そんなこんなで。

 ブルボンちゃんはその胸に湧く熱を、「楽しさ」であると定義した。

 

 それ自体は、非常に良いことだと思うんだけど……。

 同時に、彼女のクラシックレースという面で見ると、決して小さくない問題が生じたことも事実だった。

 

 具体的に何かと言えば……。

 ライスシャワーが強すぎる、ってことだ。

 

 ブルボンちゃんがレースをハラハラ楽しめるようにライスちゃんを焚き付けた私だったんだけど、流石にあの覚醒っぷりは想定外だ。

 そりゃあ、ある程度ちゃんと話を聞いたりアドバイスとかはしたけどさ、ちょっと話したくらいであんなにピタッとハマるように自分の走りを見つけられるもんかね、普通……?

 まぁアレだ、何気なく放った言葉が誰かの感性にぶっ刺さってしまうこともあるってことだろうな。

 先輩としては嬉しい限りだ。ミホライ派の元オタクとしては不安なところもあるが。

 

 ともかく、ライスちゃんは皐月賞で一気に手強くなった。

 そんなライスちゃんにブルボンちゃんは差し切られかけ、闘争本能全開で全力を出してしまった。

 結果として、2着ライスちゃんまでは2と2分の1バ身の差が付いたわけだけど……。

 

 ぶっちゃけこれ、決して油断できる状態じゃないんだよね。

 何せ、今回のレースでライスちゃんは「ミホノブルボンが隠していた本気のペース」を見てしまった。

 恐らく日本ダービーでは、ライスちゃんはそのペースに合わせて走れるようになってるだろう。

 

 ……つまるところ、ブルボンちゃんはここまで隠し持っていた手札を晒してしまったんだ。

 そしてライスちゃんは、手札フルオープンの相手を差し切ることに特化した走りをしてるわけで……。

 今のままのブルボンちゃんでは、日本ダービーでライスちゃんに勝てないかもしれない。

 

 

 

 勿論、そんなブルボンちゃんを見放す歩さんじゃない。

 作戦会議の場で、彼の考えたブルボンちゃん強化計画が明かされることになった。

 

 で、そこで提案されたのが……。

 私とブルボンちゃん、2人きりの模擬レースだったわけだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 手際よくトレーナーが予約していたトレセンのターフで、私とブルボンちゃんはスタートラインに付く。

 

 ……付く、んだけど。

 スタートフラッグを振り下ろすべきトレーナーは、まだ所定の位置には付いておらず。

 サブトレの昌さんと共に、外野の整理と呼びかけに奔走していた。

 

「トレーナーたち、大変そうだねぇ」

「彼女たちは何のためにここに集まっているのでしょうか」

 

 ブルボンちゃんの言葉に、周りを見回す。

 そこには……というか私の視界の中には、ちょっとばかりすごい人数のウマ娘やトレーナーがいた。

 いたっていうか、私やブルボンちゃんの走るターフを取り囲んでいる、が正しい表現かもしれない。

 

 50人……いや、100人くらいはいるだろうか。黒髪、茶髪、黒鹿毛に鹿毛に栗毛、ところどころに芦毛も見える。

 私とブルボンちゃんがここで準備運動をしている間に、気付けば競走ウマ娘やトレーナーたちが集まって来てしまったわけだ。

 

 そして、彼ら彼女らの目的は……。

 まぁ、今からやることを考えると、わかりやすいよね。

 

「みんな見たがってるんだよ、私たちの走り」

「ファン、ということでしょうか」

「あー、まぁそれもあるだろうけど……半分くらいは、同業他社の調査的な?」

「……すみません、もう少し平たい言葉でのリピートを要請します」

 

 それブルボンちゃんが言う? なんて思って苦笑しながら、私は話す。

 

「ほら、私たちって一応G1ウマ娘、トゥインクルシリーズのトップ層じゃん?

 そんな私たちが模擬レースするってなると、その技術を見て盗んでやろうとか、あるいは展開を参考にしようとか、もしくはもっと直接的に私たちの戦力調査してやろう、って人も出て来るんだよ」

「なるほど」

「ま、単純にファンっぽい視線も感じるけどね」

 

 軽く見回してみると……あ、あの熱っぽい視線を向けて来る栗毛の子とかは多分ファンっぽい。

 なんかどこかで見たことあるような気もするけど……うーん、ハッキリと記憶には残ってないな。誰だったっけ、あの子。

 

 あんまり視線を合わせ続けるのもマズいので、他にも視線を巡らせる。

 うーん……ファンっぽい子の割合は、半分くらいかな?

 残りの半分はやっぱり調査目的っぽい。

 ま、ホシノウィルムの弱点なんて、この国の競走ウマ娘なら誰もが知りたいだろうしね。1つでも多くのレースを観察しようって思うのは、わからないでもないよ。

 

 例えば……。

 ……あれ? 

 あそこにいるの……ミーク先輩と、先輩のトレーナーさん?

 事前に告知したわけでもないのに、見に来てくれたのか。

 ちょっと嬉しい……けど、トレーナーさん同伴ってことは、これは宝塚記念に向けた戦力調査かな。

 

「ま、でも、気にせず走ろう。本番になれば、この何百何千倍って人たちが見に来るわけだしね」

「はい」

 

 ブルボンちゃんの方も、外野の圧には動じず、やる気満々って感じだ。

 その視線からは、秘められた僅かな熱も感じる。

 

 状態は決して悪くない。花開く前の蕾って感じ。

 後は……その熱との付き合い方を学ぶだけだね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 トレーナーたちが外野の誘導を終える頃には、いよいよ観客の数は200近くなっていた。

 とはいえ、今更その程度の数で緊張する私たちでもない。

 始まるまでの間、私とブルボンちゃんは、このレースの打ち合わせをしていた。

 

 今回の模擬レースは、決して本気のレースではない。

 あくまでブルボンちゃんの成長のため、ちょっと本気を出した私の走りを体感してもらうためのヤツだ。

 その辺りは、最初から言っておかねばならないだろうから。

 

 

 

 当然と言えば当然だけど、ウマ娘の身体能力の成長は、対数関数的になる。

 最初の内はぐんぐんと豪快に伸びるけど、極まれば極まる程にその成長は緻密かつ微量になっていく。

 だからこそ、クラシック級の内は早生まれのウマ娘や早熟のウマ娘が有利だったりする。

 そういう意味で、まさしく皐月賞は速度と成長のはやさを求められるレースなわけだ。

 

 ちなみにだけど、歩さんのデータに表される数字には、この辺りの事情が組み込まれてないっぽい。

 要するに、ステータスが100から200になるのと1000から1100になるのでは、数値的な上昇幅は同じでも実態には差が出るみたいだ。

 勿論、歩さんはそういうところにも気付いてるし、その上でレースを読んでるっぽいから問題ないみたいだけども。

 

 話を戻して、ブルボンちゃんは現在クラシック級4月。まだまだ伸び盛りといった年頃だ。

 ……いや、年頃て。なんか言い方が一気に老けてるカンジして嫌だな。

 えーと、時期。そう、時期ね。身体能力がすごく伸びやすい時期だ、うん。

 

 しかし、それは同時、道半ばとも言える。

 シニア級でだいぶ極まっている私を相手にするには、ちょっとばかり時期尚早だろう。

 多分彼女と本気でやり合えるのは……それこそ、クラシック・シニア級の混合レースの始まる秋辺りからだろうか。

 

 ……そう考えると、去年宝塚記念に出走した私、だいぶ無理な勝負に挑んでたんだなー。

 結果的には勝てたけど、それだって初めて使う領域に「アニメ転生」に天星スパートと、正真正銘全部を出し切ってギリギリの辛勝だったし。

 

 私が勝てた要因には転生チートパワーもあったわけで、ブルボンちゃんも同じことをできるかと言われると流石に疑問が残る。というかぶっちゃけ無理ゲーだ。

 だからこそ、今回のレースでブルボンちゃんが勝つことは、まずあり得ない。そもそも私に本気を出させることすら不可能だろう。

 

 そしてと言うか、だからこそと言うか。

 今回のレースは、本気で競ってどちらが上か決めるものじゃない。

 私はブルボンちゃんに多少手加減……と言うと聞こえが悪いけど、ある程度実力をセーブしてレースに挑むことになる。

 アレだ、少年漫画でよくある、全身に重りを付けて戦うみたいな。

 

 ま、それでも負けてはあげないけどね?

 なんなら、負けそうになったら普通に本気出しちゃうけどね?

 

 私これでもつよつよ先輩で売ってますし?

 先輩尊厳の破壊はいただけないし?

 

 ……それに。

 ブルボンちゃんがそれだけ強いのなら、私の本気の熱を感じてもらうのも、きっと悪くないしね?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうしていよいよ、何百人かの観衆に包まれ、私たちの模擬レースが始まる。

 

「2人共、待たせたな。位置に付け」

 

 トレーナーの声に、私とブルボンちゃんは改めてスタートラインに付いた。

 

 思考が冷えていくのを感じながら、私はスタートダッシュの体勢を取る。

 ブルボンちゃんは奇しくも……ではなく、当然ながら殆ど同じ姿勢。

 

 歩さんから教わったスタート技術は、私もブルボンちゃんも同じだ。

 故に、同じ姿勢、同じ状態からスタートすることになるんだけど……。

 

「用意……!」

 

 ……それでも。

 

 私とブルボンちゃんの間には、覆せない差が、ある。

 

 

 

 フラッグが振り下ろされると同時、私たちは芝を蹴って駆け出した。

 

 スタートの瞬間は、並んで。

 しかし……。

 

 1歩、2歩、そして3歩。

 

 瞬間的に加速を終了させた私は、ブルボンちゃんよりも大きく前に出る。

 

「……っ!」

 

 研ぎ澄まされた聴覚が、後方から響く息を呑む声を聞きとる。

 

 ふふ。驚いてくれたかな。

 最大速度には制限をかけてるとはいえ、加速力は結構出したからね。だいぶショッキングなんじゃないだろうか。

 

 私は持てる技術も最大限に活用して一瞬で加速を済ませ、ブルボンちゃんに3バ身余りの差を付けた。

 勿論、速度自体は控えめにしてるから、すぐにブルボンちゃんが追い付いて来る。

 今度はそれに応じて、ちょっとだけペースアップ。

 ブルボンちゃんからピッタリ1バ身の距離を保って、疾走を開始。

 

 今回のレース、距離は皐月賞と同じ2000メートル。

 本番でもない模擬レースだし、ブルボンちゃんは昨日よりもペースを落とすはずだったんだけど……。

 ふふ、私に追いつこうと焦ったのか、ちょっとだけペースが逸り気味だ。

 

 ……あ、と思ったらちょっとペース落とした。

 焦ってることに気付いて、きちんと調整してきたな。

 

 流石はブルボンちゃん、ペースキープの感覚は、私なんかよりずっと鋭い。

 けど……これがもし本番なら、今消費したスタミナが後になって脚を引っ張って来るだろう。

 せっかくの模擬レースなんだし、失敗が少しでも学びになればいいね。

 

 

 

 その後、レースは殆ど併走に近い展開を見せた。

 

 なにせブルボンちゃんは常に定速で走り、そして私は彼女のペースに併せている。

 どちらが前に出るか競うこともなく、ひたすらに走り続けた感じだ。

 

 そんな中、第2直線を越えるところまで行っても、当然ながら私はまだまだ余裕だった。

 歩さん曰く国内最高の持久力は伊達じゃない。このくらいの緩いペースなら、多分4000メートルくらい走り続けられるんじゃないだろうか。

 

 このまま、私はブルボンちゃんに勝つことができるだろう。

 まだまだ彼女相手に勝利は揺るがない。先輩ですから。

 

 ……けれど。

 だからと言って、ブルボンちゃんが弱いってわけでもなかったんだよね。

 

 

 

 懺悔も兼ねて、正直に言おう。

 私はその時まで、ブルボンちゃんを舐めていた部分があった。

 

 だってさ、私一応さ、皐月賞であのテイオーに8バ身くらい差を付けて勝ったんだよ?

 それに対してブルボンちゃんは、甘くスイッチ入ってたとはいえ、ライスちゃんに2と半バ身。

 G1勝利の時点ですごいことだってわかってはいても、無意識的に「まぁそれくらいか」って思っちゃったところがあるのは否定できない。

 

 それに、歩さんが見せてくれたブルボンちゃんのステータスは、私の半分よりちょっと高いくらい。

 「現時点において」と限定すれば、私とブルボンちゃんの間には、覆し得ない差があったはずなんだ。

 

 そう、私たちの間には差がある。

 差があるからこそ……。

 

 実際に一緒に走って、痛感する。

 ミホノブルボンというウマ娘は、ホンモノの天才だ、って。

 

 レースも終盤が迫った今、しかしブルボンちゃんの足取りに乱れは感じられない。

 本来短距離適性であるはずのブルボンちゃんが、この距離を、そこそこ本気の私と一緒に、なかなかのペースで走ってもなお、だ。

 

 その上、やはりと言うべきか、本当に全くと言っていい程にペースが乱れない。

 正しくサイボーグのような、冷徹で淡々とした走り。

 私の「寒い」モードとはちょっと違うけど、レースに……と言うか、歩さんの指示である自らのペースキープに、全力で集中してる。

 

 ……うん、良い。

 すごく、良い走りだ。

 

 ミホノブルボンは、強い。

 より正確には、これから先、もっともっと強くなるであろうウマ娘。

 

 あの日に感じた滾りは、やっぱり嘘じゃなかった。

 

 この子はきっと、私を……楽しませてくれる。

 

 だから……。

 君になら、見せてもいい。

 

「行くよ、ブルボンちゃん」

 

 

 

 第三コーナー、中盤。

 私は、込み上げる熱を開放し、領域を開いた。

 

 

 

 まぶたの裏に焼き付いた、星の光に包まれた宇宙。

 多くの人に、多くのウマ娘に支えられる、温かな愛の届く場所。

 

 私の世界。私の領域。

 

 天に輝く、星の(ソラ)

 

 

 

「これは……これが」

 

 私の領域に呑み込まれたブルボンちゃんの、呆気に取られた声が届く。

 

 そうだよ。

 これこそが、君の持つ「熱」の最終段階。

 君とライスちゃんがきっと至る、競走ウマ娘の秘奥。

 

 まぁ秘奥と言っても、一定以上に踏み込んでくる子はほぼ確実にこれを持ってる。

 謂わば、ホンモノの一流に至るための第一歩に過ぎなかったりするんだけどね。

 

 そして、きっと……。

 君が本気になったライスちゃんに勝ち続けるには、これくらいモノにしなきゃ駄目だ。

 

 

 

 私は、今でも覚えてる。

 前世アニメ2期の、マックイーンさんと対決した時のライスちゃん。

 その目からは幽鬼の如き光を漏らし、ありとあらゆるものを投げ出して、ただ「メジロマックイーンを下す」という一点のみに極度集中した、その姿。

 

 前世の私は……競走ウマ娘のレースのことなんて何も知らなかった私は、ただその姿を「カッコ良い!」なんて思ってた。

 全身全霊で強敵に立ち向かうなんて、スポ根モノの王道中の王道。

 ただ美少女がわちゃわちゃするんじゃなく、過ぎるくらいに引き締められた表情で走る彼女は、それこそ当時のテイオーやマックイーンさんを越えるくらいには「主人公」だったから。

 

 でも、今は、とてもじゃないけど「カッコ良い」じゃ済まない。

 あの顔ができるウマ娘は……怖い。

 同時に、早く競いたい、とも思う。

 

 奇しくもと言うか、彼女と同じトレーナーを持つ先輩である、ネイチャのそれに近い感覚だ。

 レースの全部を考えて、全ての条件を利用して、こちらを貶めるべく罠を張るネイチャ。

 レースへの思考を捨て、ただ1人のみに集中し、追い縋るために全力を尽くすライスちゃん。

 全く逆と言っていい方向性を持つ2人だけど、ただ1つ共通するのは、その恐ろしさ。

 

 極まった時のネイチャは、何を考えてるかわからない。

 転生特典と幼少期からの努力の2つで対抗してる私にとって、ネイチャの頭の回りは驚異的だ。それこそ「アニメ転生」でも使わないとこっちの思考が追い付かないだろう。

 そしてフィジカルメインで戦う私にとって、ネイチャの戦い方は最も相性が悪い。

 去年歩さんが語った言葉を使えば、「ホシノウィルムにとって最も強いライバルはトウカイテイオーだが、最も恐ろしいライバルはナイスネイチャ」なんだ。

 

 そして、皐月賞のライスちゃんの気配は、ネイチャのそれに近かった。

 勿論、あの菊花賞の時のネイチャ程じゃない。あの時のネイチャはホントにガチガチにヤバかったし。

 

 でも、その萌芽は確かに芽生えていた。

 私に「怖いなぁ」と思わせるモノが、そこにはあったんだ。

 

 だからこそ。

 今のブルボンちゃんには、武器が必要だ。

 怖いライスちゃんから逃げ切るための、最後の切り札が。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 模擬レースはそのまま、つつがなく終わった。

 

 結果は、私が6バ身差を付けての勝利。

 「最後は手加減はなし」とのことだったので、脚に負担が残らない程度のスパートをかけた。

 

 言っちゃなんだけど、順当な結果だ。

 私が勝つまで宝塚記念にクラシック級の勝者が出なかったことからもわかるように、この時期のクラシック級の子が同格のシニア級の子に勝つのは、不可能にも近いことだったりするんだ。

 今回のレースは、悪し様に言えば、ただの弱い者いじめ。勝者の決まった出来レースだった。

 

 ……が。

 そんな茶番じみたレースでも、本気で取り組めば、多少なりとも見えてくるものはあるというもので。

 

「感謝します、ウィルム先輩。おかげで、私が目指すべきベクトルが発見できたと思います」

 

 レース後のブルボンちゃんの顔は、いい感じに晴れていた……と思う。いつもの無表情だからハッキリしないけど、誤差レベルで。

 

 ライスちゃんにばかり協力してちゃ、先輩としての名が廃るってものだからね。

 時には、それこそ自分の奥義を見せるくらいには、彼女に協力してあげねば、と思っただけですよ……。

 

 ……なんて、そんなカッコ悪いこと言う訳にもいかず。

 私は彼女に「頑張ってね、期待してるよ」と微笑んだのだった。

 

 微妙にカッコ悪い先輩でゴメンね、ブルボンちゃん……。

 

 

 







 勝負服と領域の関係なんですが、
 ・領域の初回開放には該当する勝負服を着用する必要アリ
 ・2回目(習得)以降はジャージや体操服でも展開可能
 ・ただし勝負服を着ると該当する領域に固定される
 みたいな感じです。フクザツ!



 次回は3、4日後。トレーナー視点で、堀野昌の真実の話。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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