転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 展開早めにしないと読者さんも退屈だろうなーとも思うんですが、まだまだ書かなきゃいけないことがたくさんあるので、もうちょっと日常回です。
 自分には短く書いたり早めに進めたりするのは向かないなーと痛感しますね。





罪には罰を、罰には赦を

 

 

 

 ここ最近痛感したことだが、トレーナー業を効率的にこなすためにも、心と体の健康は非常に大事なファクターとなる。

 

 物を食べなければ空腹感で思考が進まず、その内腹痛と胃痛によって更に思考リソースを食われる。

 睡眠を取らなければ集中力が欠如し、多面的に思考を進めることができなくなる。

 ストレスが溜まれば担当たちへの対応がおざなりになってしまうかもしれないし、そうなれば信頼関係が崩れてしまいかねない。

 

 俺たちは自分で走るアスリートでこそないが、そのアスリートたちを育てるべく存在するトレーナー。

 ならばこそ、彼女たちと同じように、俺たちも常に万全の状態を維持するべきなのだろう。

 

 ……なんて。

 そう思えるようになったのは、実は最近の話だったりするんだが。

 

 去年までは、自分の時間を可能な限り削って、少しでも彼女たちの為になるようにと行動してた。

 食事も睡眠もおざなりだったし、あまり感じることはなかったけどストレスも溜まっていたと思う。

 時々話す兄さんにも心配をかけてばかりだった。今思うと、すごく申し訳ないことをしたな。

 

 まぁ、去年はウィルがこの上なく快調だったこともあって俺も手一杯だったし、まだまだ仕事に慣れていない時期に超頑張ったからこそ、今はある程度こなせるようになったとも言える。

 結果論にはなるけど、やり方を転換したのが今年からになったのは、むしろ良かったのかもしれないが……。

 

 

 

 とにかく。

 俺は今年に入ってから、トレーナーとしてのやり方を転換した。

 ……色々あって転換せざるを得なかった、というのが正確な表現かもしれないけども。

 

 今は去年とは違い、きちんと食事や睡眠を取り、時にはトレーナー業に関係しない個人的な趣味にも精を出すという、極めて人間的文化性に溢れる毎日を送っている。

 

 まぁ、その趣味っていうのも1月に1回、多くても2回程度ではあるんだが……根本的にウマ娘のトレーナーはかなりの激務だし、ここはもう仕方ないだろう。

 真っ当にウマ娘のトレーナーをしていれば、おおよそ他に本格的な趣味を持てる暇は生まれない。トレーナー業自体を趣味にしていかねば生活が成り立たないのだ。

 俺の持った趣味を行うのだって、あくまでトレーナー業に専念するための思考の整理とリセットのためだし、結局のところすべてはトレーナー業に集約しているわけだ。

 

 ずっとトレーナー業に取り組んでるばかりじゃ、どうしても思考が閉塞しがちだからな。

 休む時にはしっかり休み、頭を休めなければならない。

 

 たとえそれが、クソ忙しいG1シーズンの最中であっても、ね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ウィルとブルボンの次走対策会議と久々の模擬レースが終わり、ウィルの天皇賞に向けた追い切りが始まって、数日。

 ふと、何の予定も入らない休日が訪れた。

 

 ウィルは天皇賞前の最後のお休みだし、ブルボンもそれに付き合って外出したいとのことだったので予定をズラしてお休み。

 俺たちの陣営の担当ウマ娘たち2人が、どちらともお休みとなった。

 そうなれば当然、俺たちトレーナーのこなすべきタスクも減少する。

 

 その上、彼女たちが不在の時にこなすべき仕事……2人に来た仕事の確認と処理や、他陣営の戦力調査、各種報告書とか論文、関係者への根回しといったことも、タイミング悪く終わってしまっていた。

 

 春のG1シーズンは、ウマ娘の競走興行にとっての繁忙期。

 殊にうちの担当2人は話題沸騰中ということもあって、かなりの数の依頼が来ていたんだが……。

 繁忙期というのは、つまるところそれだけ忙しいという意味でもあるんだよな。

 

 1か月に1度のペースでG1レースに出る2人にとって、この時期はフィジカルとメンタルの調整に尽力すべき期間だ。

 仕事の依頼はあまり多く受けることはできず、それこそURAからの公式な依頼以外は殆どを断ることになってしまう。

 結果として、彼女たちの仕事によってかかる負担も、このシーズンが終わった直後に比べるとだいぶ少なくて済むわけだ。確認書類自体はかなり増えてしまうけどね。

 

 そして、取り組むべき仕事が少ないということは、他のことに時間を使えるということでもあり……。

 俺たちは既に、やれるだけの調査や書類作成などを済ませてしまっていた。

 

 そもそも、昌はまだ新人の時期とはいえ、トレーナーの名家である堀野出身のため、ある程度仕事のいろははわかっていたし……。

 俺には、ウマ娘のステータスを一目で見抜く「アプリ転生」っていうチートもあるものな。

 調査やデータの整理にかかる時間は、他のトレーナーに比べて格段に短いわけだ。

 

 ウィルの天皇賞のライバルに関しても、つい昨日確認して回ったばかり。

 やはり注目すべきは、メジロマックイーンとトウカイテイオーの2人だろう。

 

 ウィルはかつてマックイーンに勝ったことこそあるが、あれは2000メートルというマックイーンが本領を発揮できないレースだった。これが3200メートルとなれば、決して無視できない脅威となる。

 対し、トウカイテイオーはマックイーンに比べると流石に実力で劣るが、大阪杯の時に比べてスタミナ・根性共に上昇しているし、回復スキルもいくつか習得していた。今回の天皇賞でも本気で向かってくることは疑うべくもないだろう。

 

 逆に言えば、今回の天皇賞において、その2人の他に脅威になる相手はいない。

 レースへの対策は既に取り終わっている。後は当日まで、ウィルの状態を最良に保つだけだ。

 

 

 

 そういうわけで、担当は不在で、こなすべき仕事もその大半を処理し終えて……。

 その日は極めて珍しい、すべきことのない日だったんだ。

 

 最近はお休みの度に、半分くらいの確率でウィルにお出かけに誘われたりもしていたんだが、今日はブルボンと一緒にどこかへお出かけするとのことでそれもなく。

 最後に念のためメールフォルダを確認しても、2件程連絡こそ来ていたけど、その処理も10分程で終わってしまい。

 

 その日は、朝の9時の時点で、完全にやることがなくなってしまった。

 

 俺や昌は社会人であり、トレセン学園に雇われる立場の人間だ。

 しかし、学園という名目を保つために雇用という形を取ってこそいるものの、その実態はどちらかと言えば個人事業主に近い状態であり、休みの日をズラすなり勝手に働くなり残業しまくるなりと、割と自由に活動することができる。

 まぁ、あんまり働きすぎるとたづなさんとか理事長に怒られたりもするんだけど……そこはもう、ウマ娘のトレーナーだからな。働かないならともかく、働きすぎるのは仕方がないというものだろう。

 

 

 

 で、俺の今年の休暇の消化状況と言えば……。

 

「今年の取得休暇日数が119日、有給が14日で……有給はもう3日使った。休暇は残り112日か」

 

 たづなさんがどうしてもと言うので有給は積極的に使ってこそいるが、そもそもの休暇の取得状況は芳しくはない。

 ウィルのお願いで使用した有給まで合わせても、約4か月で10日。

 そう考えると、1年でおおよそ30日くらい休める計算になるだろうか。

 おおよそ休みというものがなかった去年に比べると、これでもだいぶ休みが増えたと思うんだけど……。

 

 ……いや、冷静に考えると、30日休暇を取るのはちょっと無理か。

 夏が来れば海外遠征だし、それが終われば、ウィルのことだからまたレースに出たがるだろう。そうでなくとも、勝てばお仕事の依頼は激増するだろうし。

 ブルボンだって菊花賞へのトレーニングが苛烈になるし。

 比較的穏やかだったこれまでとは違い、休暇を取得するだけの暇はなくなっていくはずだ。

 

 となると、今年の休暇は20日使えるかどうか、だろうか。

 ……報告を上げる時にはバレないように上手く取り繕わないと、たづなさんからお説教を受けそうだ。というか最悪理事長に呼び出されて熱血説教を受けかねない。

 

 いや、というかそもそもさ、ウィルとブルボンを同時に担当して、まともに休暇なんぞ取れるわけがないと思うんだよね。

 片や史上2人目の無敗三冠。そして今やG1レース7勝、永遠の皇帝と並ぶ国内最多勝利の栄誉を得た稀代の大逃げウマ娘でもある。

 片や次なる無敗三冠に近付きつつある皐月賞ウマ娘。血統と適性という大きすぎる壁を越えクラシック三冠を獲るのではないかと期待される年若き優駿。

 俺が担当しているのは、実力も伸びしろも注目度もカンスト状態の2人だ。当然ながら、それに比例して業務の量はなかなかすごいことになっている。

 

 その上、割と最近気づいたんだけど、どうやら俺の情報収集の方針は他のトレーナーに比べても相当に慎重かつ膨大らしい。

 仲良くしている同期のトレーナーと話す時、何度かどうにも噛み合わないなと思うことがあったんだが、どうやら一般的なトレーナーは1年後のレースの戦力調査とかはしないらしいんだよな。

 ……不安にならないんだろうか、それ。俺だったら将来のプランの組めなさに滅茶苦茶不安になりそう。

 

 

 

 そういうわけで、普段から多忙極まる俺や昌は、1年を通しても殆ど休暇を取得することができない。

 だからこそ、せっかく時間が空いた今のようなタイミングには、一旦レース関係から思考を切り替えてリセットするためにもしっかりとお休みをいただくべきだろう。

 

 とは言っても、俺には仕事関係を除けば、趣味なんて1つしか持ってはいない。

 休暇にすることなんて、部屋の掃除か体の調整、睡眠かその趣味くらいしかないんだよなぁ。

 

 掃除や整理も終わってるし、睡眠も十分に足りてる。

 であれば、今日はやはり趣味に精を出すべきだろうか。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなことを思っていた俺に、声がかかる。

 

「兄さん、こっち終わった」

 

 言いながら俺のデスクに書類を置いたのは、サブトレとして2人を共に支えてくれている俺の妹、昌。

 彼女にはいくつか仕事を頼んでいたんだけど、どうやらそれを終えたらしい。

 軽く確認してみるけど……うん、しっかり処理されてるっぽい。詳細は明日検分するけど、少なくとも大きな齟齬はないな。

 

 俺は書類を揃えてファイルに収めながら、昌に笑いかけた。

 

「お疲れ様、昌。それじゃ今日はここまで、後はお休みで大丈夫だよ」

「了解」

 

 ふぅ、と息を吐く昌は、やや疲れ気味と言った様子。

 ここ1週間は働きづめだったし、一時期前なら疲労困憊で倒れそうになっていたと思うんだけど……流石は昌、早くもトレーナー業に慣れて来つつあるらしい。

 彼女がトレセンに来たのは去年の8月末という話だったから、今月でサブトレーナー歴8か月になるか。

 やっぱり、時期を同じくする頃の俺より、昌は習熟が早い気がする。

 まぁ、多少なりとも先達の俺がやり方とか教えられるし、耐えられるギリギリくらいの仕事を振って鍛えてたってのも大きいかもしれないが……。

 

 しかし、この仕事を数十分で片付けることができた、か。

 いよいよ昌も、しっかりトレーナーをやっていけるくらいには仕事に慣れて来てるな。もう重賞級のウマ娘なら1人で担当できるはずだ。

 やっぱり秋は、昌にこっちに残ってもらってブルボンを支えてもらうのがいいだろうな。その後は、彼女の望み次第ではあるけど、サブトレを続けてもらうか独立させるか……。

 

 

 

 そんなことを考えていた俺は、何か言いたげに昌が俺を見ていることに気付く。

 今日は担当ウマ娘が不在ということで、コンタクトではなく眼鏡の向こうから、どことなく不安げな視線がこちらに向けられていた。

 

「ん? 何、どうかした? あぁ、明日ならまた8時に……」

「兄さん、今日は何をして過ごすの?」

 

 やや食い気味に聞いてくる昌にやや面食らいながら、素直に答える。

 

「え? えっと、釣りにいくつもりだけど」

 

 相手の意図を掴み損ねたぼんやりとした回答。

 それに対して、昌が返してきた言葉は……正直なところ、完全に予想外なものだった。

 

「……ね、それ、私も付いて行っていい?」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 俺の現状唯一の趣味は、釣りだ。

 いやまぁ、月1くらいしかできないし、特段上手くもない……というかスカイに聞く限りではかなり下手みたいだし、趣味って言える程やり込んでいるわけじゃないけどさ。

 

 ただ、ぼんやり釣り糸を垂らしながら、最近のこととか考えてる時間は、静かでゆったりとしていて、何と言うか……落ち着く。

 頻繁に行おうと思うとちょっとアレかもしれないけど、月1ペースでゆったりとした時間を過ごすには、ちょうど良い習慣であると思う。

 

 それに加えて、良い釣具を買ってみたり、スカイに聞いたテクニックを試したり、より良い餌を仕込んでみたり。

 そういった試行錯誤を繰り返す内、前よりは明らかに魚がかかるようになったし、そういう成長要素が楽しめるのも良いところだ。

 ……まぁ、うん。結局今も1日に2、3匹釣れるかどうかだし、釣れたとしても小物ばっかりなんだが。

 

 

 

 そんなわけで、俺はその日も釣り糸を垂らしに海を訪れていたんだが……。

 

 まさかそこに、昌まで加わるとはな。

 

 

 

「それで、どうしたの?」

 

 快晴とは言えないまでも、気持ち良い晴れの照らす海。

 予備の竿を抱えて同じように海に向き合う昌に、俺は婉曲に尋ねた。

 

 兄妹だからこそ断言できるけど、昌はこういう静かな時間を好む質ではない。

 子供の頃からそうだけど、この子は動きとか変化とか、そういうアクティブなものを好む方だ。

 休日には、自室で静かで落ち着いた時間を過ごすより、彼女なりの趣味に精を出すタイプだろう。

 

 更に言うと……すごく情けないことを言うようだが、普段の言動から考えても、彼女は多分俺のことをあまり好きではないのだと思う。

 いや、多分、家族としての愛情がないわけじゃない。けど、人間としてはちょっとどうかと思う……みたいな、そういう扱いなんじゃないかな。

 

 だからこそ、なんでせっかくの休みの日にわざわざ俺に付いて来たのか、結構疑問だったんだが……。

 

「……まぁ、色々。ちょっと言っておきたいことがあったっていうか」

「言っておきたいこと」

 

 いつも明朗快活な昌が、こうして口ごもるのはなかなかに珍しい。

 オウム返しに確認すると、彼女はコクリと頷いた。

 その唇はきゅっと結ばれ、眉根はキュッと寄っている。

 

 ……なんか、ちょっと様子が変だな。

 落ち込んでる……じゃなくて、緊張してる?

 

 こんな昌は珍しいな。

 この子、大事な試験やパーティの前でも、むしろ自分を奮い立てるように強気なことが多いんだが。

 

 そんなことを思っていた俺に対して、昌はちらっと一瞥を投げて……。

 

 そうして、ちょっとばかり驚くべきことを言ったのだった。

 

 

 

「誰にも言ったことなかったんだけど、私、霊感あるんだよね」

 

 

 

 れいかん。

 

 冷感……いや、霊感?

 

 え、霊感? いわゆる第六感とか霊視とか、そういう方向性の霊感?

 

 

 

「……そっかぁ」

 

 思わず口から漏れた言葉は、そんなぼんやりとしたものだった。

 いや、正直どう反応しろって言うんだ感が強いよこれ。

 

 言うならば、親しい友人からいきなり「隠してたけど、実は俺、某国の王様なんだよね」って言われたイメージに近い。

 すさまじく現実感がない。思わず「本気で?」と訊きかけて、失礼だろうと思ってやめたくらいだ。

 人間は大抵の場合、相手に一定のリアクションを求めて言葉を出すわけで、こういう唐突で狙いの読めない、なおかつインパクトが大きくて混乱する言葉には、上手く返し辛いのだ。

 

 

 

 しかし、霊感か……。

 

 大前提として、俺は彼女の言葉は信じたいと思う。

 

 堀野昌という女性は、俺にとってすごく特別な人間だ。

 俺にとって大事な家族であり、可愛い妹であり、今はサブトレをしてくれる協力者であり、俺の前世関係の知識を唯一知り、信じてくれている人でもある。

 

 だからこそ、俺も彼女の言葉を信じたいと思う。

 たとえ、それが突拍子もないような、冗談じみたものだとしても、だ。

 

 ……が。

 それにしても、彼女の言葉は唐突すぎた。

 

 霊感。

 普通の人間には見えないものを見たり感じたりすることのできる、超常的な感覚。

 

 勿論、俺は前世も今世もそんなものは持ち合わせてはいない。

 いや、「アプリ転生」によるステータス等の知覚をこれに数えるのなら、ある意味では持っていると言ってもいいかもしれないが……。

 それでもやはり「自分が見えないものが見える」と言われると、少し身構えてしまう。

 

 

 

 しかし、だからと言って昌の言葉を信じたいと思う心に嘘はない。

 故に、ひとまずは彼女の話を聞くことにした。

 

「……えっと、具体的には何が見えるの?」

「変なモノ。元々生きてたモノもいれば、そうじゃないのもいる。それから、その人の魂の色も」

「変なモノは置いといて、魂の色か。どんな感じ?」

「うん。その人だけの色っていうか人間とかウマ娘がそれぞれ違う十人十色の色を持ってて……あ、そうだ、ウマ娘が領域を開く時はピカッて光ったりもする」

「あぁ、そうなんだ」

 

 うん、よくわかった。

 

 ガチだな、これ。

 

 

 

 領域は、ウマソウル……つまるところ、前世世界の馬から受け継いだ魂によって発生する現象だ。

 いや、正確にそういう描写があったわけではないし、何なら結構前のことだからうろ覚えだけど、そういう設定の仄めかしがあった記憶がある。

 

 だが、この世界の人間は、それを認識することができない。

 ウマ娘のウマソウルなんてものは科学的に解明されておらず、そもそもこの世界と前世の世界が関連してるなんてことは誰も知らない。

 故に、領域を発生させるのはあくまでウマ娘の「種族的」特異性であると認識されている。

 

 つまりは……何と言えば伝わりやすいか。

 チーターは脚が速いとか、イルカは超音波で周りを感知するとか、蜂が毒を持つとか。

 ウマ娘が速く走れたり、人間には感知できない領域というモノを開いたりするのは、そういった種族的な特徴であると。それが世間一般の認識なのだ。

 まぁ、科学的に解明できるものではないようだし、間違えるのも仕方ないと思うんだけどさ。

 

 しかし、今。

 昌は「魂」と言った。

 俺のように前世の知識を持ち合わせなければ繋がらないはずの、固有スキル(領域)ウマソウル()

 この2つを関連するものとして語った時点で、彼女が一般的には感覚できないナニカを感じているのは間違いのない事実になった。

 

 前世の知識を持ち、ウマ娘の魂に多少なりとも知識のある俺だからこそ、彼女が「ソレ」を見ていると確信できる。

 

 

 

 ……あぁ、安心した。

 

 これで俺は、昌のことを心から信じることができる。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……ごめんね」

「は? 何が」

 

 思わず口を突いて出た謝罪に、昌はやや苛立ったような、あるいは不安に思うような声を出す。

 もしかしたら、俺が「悪いけどそれは信じられない」って言ったりするのかと思ったのかもしれない。

 

 違うんだ、昌。

 俺が謝りたいのは、そこじゃない。

 

 俺は海から彼女に視線を移して、改めて頭を下げる。

 

「全然、気付いてあげられなかった。昌が霊感を持ってるって……気付くべきだったのに」

 

 俺がそう言うと、彼女は……安堵したような、あるいは怒ったような、不審に思ったような、複雑な表情を浮かべた。

 

「いや、隠してたんだから、気付かないのは当然でしょ。兄さん以外の誰だって気付いたことなかったし」

 

 確かに、昌は隠し事が上手い。

 ウィルみたいに仮面を被るのが上手いってわけじゃないけど……なんというか、人の心を推し量るのが上手で、だからこそバレないように立ち回るのが上手いというか。

 

 対して俺は、ご存じの通りコミュ力はちょっとばかり貧弱だ。

 昌がちゃんと隠そうとしたことを、誰も気付かなかったことを、気付けるとは思い難い。

 

 けれど……。

 

「いや、俺だけは気付かなきゃいけなかったんだ。

 だって俺は前世の記憶を持ってて、そういう他人とは違うことの苦しさとか、それを他人に信じてもらえない辛さを知ってる。

 そして、昌はそんな俺の秘密を信じてくれた。共有してくれた。

 だからこそ、俺は、相談される前に昌の秘密に気付かなきゃいけなかった。昌に助けられる分、こっちも助けなきゃいけなかった。

 だから、改めて、気付かなくてごめん。1人で辛い思いをさせて、ごめんね」

「…………」

 

 

 

 しかし……霊感か。

 創作物だと、むしろ霊感を持っていることで被害に遭うようなことも多いよな。その辺大丈夫だろうか。

 

「でもさ、すごくにわか意見になっちゃうけど、大丈夫なの? 見えちゃうからこそ危ない、みたいな話もあるけど」

「……まぁ、時々大変だけど」

「そっか、そうだよね。もし何か手助けが必要なこと、そうでなくとも話を聞いて欲しいってことがあれば何でも言ってね、力になるから」

 

 俺は昌に、色んな面で助けられてきた。

 いや、直接的に何かしら助けられたっていうわけではないけど……。

 それでも、前世の記憶なんていう胡散臭すぎるものを信じてくれた昌には、精神的に強く支えられたと思っている。

 

 だからこそ、今度は俺が昌を支えるべきだ。

 彼女の霊感を信じ、何か困ったことがあれば可能な限り力になるべきだろう。

 

「…………はぁ、そう。そんなに簡単に信じちゃうんだ、霊感」

「まぁ、信じられるって思ったし……何より、昌の言葉だからね。信じるよ」

「ふーん、そ。ま、いいけど」

 

 昌はこちらを一瞥した後、何とも言えない表情で、海の方を見る。

 

 その表情は、喜んでるようにも、怒っているようにも、あるいは照れているようにも見える、なかなか複雑なもので。

 人とのコミュニケーションに秀でるわけではない俺には、昌が今何を考えているのかは読み解けない。

 

 けれど……。

 彼女の表情は、いつもよりも少しだけ、本心に近いように思えた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ちょうど俺の竿に手応えがあり、かかったと思ったら稚魚だったのでリリースした後……。

 昌は、改めてといった感じで口を開いた。

 

「それじゃ1つ、兄さんに相談しときたいことがあるんだけど」

「うん、何?」

 

 俺はできるだけ気負わせないように軽く、しかし同時に可能な限り真摯に、昌の言葉に応えた。

 

 もしかしたら、厄介なナニカに絡まれたとか、そういう話だろうか。

 その場合は、堀野のツテで有名なそっち方向の先生を頼るべきか。

 いや、もしくは、俺の前世の知識や転生知識で何かしら力になれるかもしれない。

 

 俺はとにかく、彼女の力になろうと、内心密かに意気込んで……。

 

 しかし。

 彼女の口から出てきたのは、想像すらできなかった言葉だった。

 

 

 

「ホシノウィルムさんのご両親さ、まだこっちにいるんだよね」

 

 

 

 俺は、その言葉の内容を理解するのに、数秒を要した。

 

 それは、昌が霊感を持つというのなら、十分に予測できるはずのものだったのに……。

 全く以て、これっぽっちも予期できなくて。

 

 思考の空転と、瞬きの回数が増えることを感じながら、掠れる声を捻りだす。

 

「……本当に、ウィルのご両親が?」

「本当にいる。今ここにはいないけど……多分、今も遠巻きに、彼女のこと見守ってるはず」

「…………ごめん、ちょっと混乱してる。正直、すぐには呑み込めない」

「それでいいと思う。取り敢えず、今はその事実だけ知っといて」

 

 そうして昌は、釣り竿を揺らしながら、独り言のように言葉を漏らす。

 

「最初は、いい気味だって思ってたけど……あの2人、すごく反省してるし、後悔してるんだよ。ホシノウィルムさんの近くには行けずに、それでもこの世に留まり続けて、幸せを願うように遠巻きに見守ってるくらいにはさ。

 それに、あのままじゃホシノウィルムさんとご両親の関係性は、悲しいままで終わっちゃう。そんなの兄さんも嫌でしょ?

 だから……あと2、3か月くらいすれば、私、多分あれと話せるようになるからさ。兄さんが適切だと思うタイミングで、あの子に何かしらの形で言葉を届けてあげてほしいんだ。

 あの2人がホシノウィルムさんにやったことは、最低だと思うけど……それでも、文字通り死んでも死にきれないくらいに反省してるんだ。それならせめて、一言言葉を贈るくらい、してもいいと思う」

 

 ……そうか。

 俺に霊感のことを打ち明けてくれたのも……全部、ウィルのため、そのご両親のためか。

 

「……相変わらず、優しいね、昌は」

「優しいとかそんなんじゃない。ただ……あぁ、もう、どうでもいい」

 

 昌はちょっと機嫌を害したような顔で、一旦リールを巻き、その先に餌がきちんと付いていることを確認して再び海に投げ込む。

 

 相変わらず、褒められると弱いな。

 そういうところは昔から変わらず、可愛いなと思う。

 

 

 







 ウィルもそうですが、妹ちゃんも割とハピエン厨。
 ちゃんと反省してる以上、多少なりとも救いはあって然るべき派閥です。



 次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、堀野歩の真実の話。



(追記)
 投稿日時を間違えていて、少し遅れての投稿になりました。すみません!

(追記2)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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