転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 うめ うめ うめ





おかわりもいいぞ!

 

 

 

 トレセンで好きなスポットある? と聞けば、ここに所属するウマ娘の半分くらいはこう答えるだろう。

 「食堂!」と。

 

 ウマ娘は、ああいや、勿論例外はあるかもしれないけど、基本的にご飯を食べるのが好きな傾向にある。

 というのも、そこには多分、ちゃんとした理由があるっぽいんだ。

 

 私たちウマ娘は人間と同じくらいの体型なわけだけど、人間に比べてかなり激しい運動を行う。

 その辺の無茶は、歩さんですら詳細にはわからないという、ウマ娘特有の謎パワーによって叶えられているわけだけど……。

 いくら不可思議極まるウマ娘パワーと言えど、流石に永久機関なわけもなし。

 そこで消費するカロリー……熱量は、その分ちゃんと食事を通して摂取せねばならない。

 

 そうして運動を行って、体内の残存エネルギーが減っていくと、体は更なる栄養を求める信号を出す。

 まぁ平たく言っちゃえば、空腹感を覚えたりお腹が鳴ったりするのだ。

 

 で、俗に言う通り、空腹は料理における最高のスパイス。

 満腹の状態よりも空腹の状態の方が、味覚は刺激を鋭くキャッチする。

 そんな状態で美味しい食事を取れば、当然ながら好きにもなってしまうというもので。

 

 以上を繋げると、「ウマ娘はいっぱい走るからすごくお腹が空く」→「お腹が空くから食事が美味しい」→「ご飯を食べるのが好きになる」という図式が成立するわけだ。

 

 

 

 この世界にウマ娘として転生した私も、やはりこのシステムの例に漏れない。

 トレーニングの前後はすごくお腹が空くし、そういう時に食べるご飯はめちゃくちゃ美味しく感じる。

 ちょっと悔しいけども、如何な転生者といえど、種族の本能には逆らえないというわけだ。悔しい、でも食べちゃう! ぱくんぱくん。

 

 そんなわけで、今日もワイワイガヤガヤと活気に満ちる食堂で、私は食堂の職員さんに注文を付けた。

 

「大満足ミックスフライプレートAセット、ライス特大盛り、飲み物は牛乳、汁物はお味噌汁で。それと単品でにんじんハンバーグ、肉ごぼううどん、海鮮丼と、それからおいなりさんもお願いします」

「は~い。えー、料金2320円になります」

「支払いはカードで」

「はい……確認しました。それでは番号札を取ってしばらくお待ちくださーい」

 

 私は発行された番号札を取り、今日のご飯を思って思わず微笑を漏らす。

 あ、職員さんがちょっと変な顔してる。素顔出すのも程々にせねば。

 

 トレセン食堂のメニューは、小食な人間の職員さん向けの小盛りから、大食いウマ娘用の超絶スペシャル大大大盛りまで、とんでもなく広い範囲を抑えている。

 

 その内、私が頼んだのは、全部合わせるとウマ娘向けメニューとしても結構な量だった。

 こう見えて私、昔から結構な大食漢なのです。

 ……まぁ、歩さんの前では、あんまり食べ過ぎないようにしてるけどね。恥ずかしいし。

 いっぱい食べる君が好きって言葉もあるが、アレは※ただし太らない場合に限る、という注釈が付くヤツだからな……。

 

 しかし改めて、この量で2000円強ってめっちゃ良心的な価格だよなぁ。

 しかも栄養も豊富な上、しっかりと美味しいっていうのが本当にすごい。

 

 私は一応、北海道にいた頃に一人暮らししてたからわかるんだけど、これ、本来は倍以上お金を取ってもおかしくないヤツなんだよね。

 どれだけ格安で食材仕入れればこの値段で出せるんだろう。いや、人件費とかも考えると多分ペイできないよね。ひょっとすると、赤字覚悟の値段設定なのかもしれない。

 こっちを赤字経営してもトゥインクルシリーズでのレース興行で取り戻せるっていう判断だろうか。私たちウマ娘からしたら、ありがたいことこの上ないな。

 

 

 

 超コスパご飯に内心で感謝を捧げていると、後ろから声がかかる。

 

「ウィル、相変わらず食べるねぇ」

 

 ちょっと呆れたような声と視線の主は、私の親友でありライバルであり、今は休養中の競走ウマ娘、ナイスネイチャ。

 

 私は彼女とは違うクラスだし違う陣営なんだけど、それでも昼食の時なんかは一緒することも多い。

 ま、陣営やライバルっていうのと学生的な友達関係はまた別のものだ。むしろ、レースの中で友情が培われることで、それらを兼ねることも決して少なくないのが実情。

 

 そんなわけで、レースではバチバチに手加減なくやり合う私たちではあるけど、トレセン学園内では……特に学生らしく授業が行われる午前中や食事を取る際には、一緒にいる時間もある。

 

 今日はトレーナーやブルボンちゃん、ライスちゃんに呼ばれることもなかったし、せっかくだからとネイチャと一緒に食事を取ることにしたのであった。

 

 

 

「よく食べるのは……正直、ちょっと卑しい理由ですが。

 私、早くに両親亡くして、トレセンに来るまではかなりの借金持ちでしたから。美味しいものをいっぱい食べられるのって幸せなんですよ」

「おおう、思ったよりもハードな理由が飛び出てきた」

「まぁ、G1勝ちまくってる今は、むしろ資産がすごいことになってるんですけどね。毎日遊んで暮らせるくらいには」

「そして思ったよりもすごい自慢が飛んで来た」

「というか、むしろネイチャの方は、トレーニングもあるのにそれで足ります?」

 

 私より早く来て注文を終えていたネイチャが持っているお盆には、私の食事の4分の1にも満たない量しか乗っていなかった。

 大盛りカレーライスににんじんスティックサラダ、それとミルクティーくらいだ。

 ウマ娘どころか、人間の男性でも十分に完食できるであろう量しかない。

 

 いっぱい走るウマ娘として、それだけしか食べないのは如何なものかと思ったんだけど……。

 訊くと、ネイチャは眉をひそめ、何かを誤魔化すように笑った。

 

「ま、まぁ……ちょっと、うん。ウィルに誤魔化すのは無理だと思うからぶっちゃけると、体重がね?」

「あぁ、ネイチャって故障での休養中だからトレーニング緩めですし、この前カフェの新作いっぱい出たって言ってましたもんね。やっちゃいました?」

「うぅ、あれは失敗だった……。私、結構太っちゃう体質だからなぁ」

「大変ですねぇ」

 

 いや、本当は大変かどうかは知らんけど。

 私、前世でも今世でも、体重とかって気にしたことないんだよねぇ。

 

 前世では自分の容姿とか気にする質ではなかったし、そもそも食にあんまり興味がなくて多くは食べなかったから、太ることもなかった。

 一方今世では、体作りのためにもいっぱい食べてはいるけど、こっちは体質がね……。

 

「むしろ、ウィルはそんなに食べて太らないの? 毎日そのくらい食べてるよね」

「あー、私、どうやら太らない体質らしくて。歩さん曰く、基礎代謝がすごく高くてそちらにカロリーを食われてるんじゃないか、って」

「そ、そんだけ食べて太らないの!? ズルじゃん!!」

「……まぁ、横に大きくならない分、縦にも大きくはならないんですけどね」

 

 ネイチャは羨ましがってくれてるみたいだけど……。

 多分だけど、私、この体質のせいもあって身長が伸びなかったんだって思うんだよね。

 成長に使うはずの栄養まで、基礎代謝に食われちゃってるみたいな? いや知らんけど、そういうことなんじゃないかなーって思うのです。

 

 まぁ、代謝が高いからこそ、手がいつも温かいっていう恩恵もある。

 そこを言い訳にして、冬の間は歩さんの手を握り放題なので、それはそれでいいんだけどさ。

 

 でも、本格化が始まると体格固定されちゃうっていうのがね……。

 こんなロリ体型じゃ、成人男性の興味はなかなか惹きづらい。せめてあと10センチくらいは伸びてほしかったんだけどなぁ……。

 

「はぁ、痩せたい……」

「はぁ、成長したい……」

 

 私とネイチャは、それぞれの悩みにため息を吐いたのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その場で嘆いていても、話も食も進まない。

 私たちは不毛極まる話を切り上げ、私の分のメニューを受け取って、近くの席に着いた。

 

 当然と言えば当然なんだけど、私たちは結構有名なウマ娘だ。

 シンボリルドルフ会長と並ぶ無敗三冠&国内最多勝の私と、G1こそ取ってないけどその私が認める強きライバルのネイチャだもんね。

 そんな私たちがいるとそりゃ多少は注目されるわけで、いくらか向けられる視線を感じるけど……。

 私もネイチャも、そんな好奇の目には慣れっこだ。暗黙の了解で無視を決め込む。

 

「さて、いただきます」

「いただきまーす」

 

 2人して手を合わせながら、合唱。

 

 うん、今日もトレセンの学食はめちゃ美味しそうだ。

 エビフライやヒレカツなど各種フライが盛られたミックスフライは見るからに揚げたてで、お箸で触れただけで衣のサクサク感が伝わって来る。

 これに添付された甘辛のソースやタルタルソースを付けて、それをこの文字通りの「山」盛りご飯と一緒に口に入れれば、口の中にはこの上ない幸せが生まれるに違いない。

 

 更に、ちょっとフライと油に飽きて来たら、そこには肉厚でジューシーなハンバーグと、それに刺さったまろやかな甘さを持つにんじんが待っている。かけられた濃厚なデミグラスソースが眩しい。

 そしてお次は海の幸、海鮮丼。マグロっぽい赤身とかホタテとかイクラとかが乗ったこれは、お醤油をかけてちょっと大口でいただく予定。

 脂が喉を滑り落ちれば、ちょっとさっぱりした口で肉の出汁がよくなじんだうどんをすすり、最後の締めには落ち着いてお味噌汁。

 あとついでに本格化が終わったら背が伸びるよう、願掛けとして牛乳も。

 

 あぁもう、想像するだけでたまらない。さっそくお箸と口を動かすとしよう。

 

 

 

「うぇへへ」

「ウィル、口元緩んでるよ」

「おっと」

 

 ネイチャに指摘されて、慌てて表情を立て直す。

 

 うーん……最近、表情を繕うこと忘れがちなんだよなぁ。

 元はこの仮面、お父さんに嫌われることを避けるためってのと、両親を喪ってこの世界を1人で生きていく上で、誰かに騙されたり弱みに付け込まれたりしないようにと被っていたんだけど……。

 

 今は、私は1人で生きてるわけじゃないってわかってる。

 

 私を救い育ててくれた歩さん、もう半年以上支えてくれてる昌さん、ライバルであるネイチャやテイオー、マックイーンさん、可愛い後輩のブルボンちゃんにライスちゃんにソウリちゃん……そして、それだけじゃない。

 私を生んでくれた両親、快く家に迎え入れてくれた歩さんのご家族、ライバルたちのトレーナーさん、そして私を応援してくれる多くのファンたち。

 

 私は多くの人に支えられ、守られ、時に元気付け、助けている。

 そういった連鎖的に続く互助の関係こそが世界であり、人生というものだと。

 私はそれに気付くことができたのだ。それはきっと、この上なく幸せなことだと思う。

 

 だからこそ、私が過度に気を付ける必要はないんだ。

 私の死角は歩さんが、昌さんが見ていてくれる。助けてくれる人がいるから。

 

 それに、多少感情を表に出したりしたところで、みんなに嫌われるとも思えないし。

 現に歩さん、最近はあんまり仮面被ってないけど、むしろどっちかと言えば嬉しそうなくらいだし。

 

 そういうわけで、正直今の私には、この仮面を被り続ける必要性はないんだけど……。

 まぁ、そこはなんというか。

 ほら、急にキャラチェンジなんかするのは良くないし? みんな困惑するかもしれないし?

 そういうわけで、私は未だ惰性で仮面を被っているのであった。

 

 必要性がなくなった分、前に比べるとだいぶ脆くなってしまっているけどね。

 

 

 

 何はともあれ、私たちは食事を始める。

 年頃の女の子としてはどうかと思わないでもないけども、やっぱり美味しいものをいっぱい食べられるのは幸せだ。

 ……昔は、食事なんて栄養補給できれば何でもいいって思ってたんだけどね。

 本当、人生って何が起きるかわからないし、自分がどう変わるかなんて予想も付かないものだ。

 

 サクサクジューシーなフライとちょっと固めに炊かれた白米を口に運ぶ作業を繰り返していると、ふとネイチャが聞いてくる。

 

「そいえば、最近はどーなのよ」

「どうって、何が?」

「レースだよレース。天皇賞までもう数日じゃん? 準備は万端?」

 

 普通、レース直前のウマ娘にこういうこと聞くのは、ちょっとセンシティブだったりする。

 ネイチャ、普段ならそういう空気をすごく大切にするイメージがあるんだけど……。

 

 ま、私たちの仲だもんね。

 そんな余計な気遣いは、むしろ失礼ってものでしょう。

 

「逆に聞くけど、私が準備を怠ってると思います?」

「いや全然。……ホント、少しくらい怠ってくれるならつけ入る隙もあるってものなのにさ」

「そんなこと言って。実際怠ったりなんかしたら、少なからず軽蔑するでしょうに」

「まーそうだけどさぁ」

 

 私たちは、同じレースシリーズを走るライバルだ。

 当然ながら、同じレースに出走すれば、お互いがお互いを越えようと全力を尽くすことになる。

 

 しかしながら、真に越えたいのは相手ではなく、相手の「全力」。

 血の滲むようなトレーニングを経て、これ以上ないくらいにレースに集中し、確信する程に必勝を誓っている……。

 そんな相手だからこそ、本気で越えるに値するのだ。

 

 そこは私も勿論、目の前のネイチャも同じこと。

 何かと冷めがちな態度の目立つ子ではあるが、その奥底には誰より熱いガッツが眠っていることを、私はよく知っている。

 

 いやー、今ならわかるな、アニメ1期のグラスちゃんがスぺ先輩に「今日のスペちゃんなら、私の相手じゃありません!」した時の気持ち。

 レースに集中できてないライバルとかマジで興醒めすぎるもんね。

 自分が越えたいと思えた数少ない相手が、レースでその全力を振るってくれず、弱いものイジメみたいに倒さねばならないなんて……スペ先輩には悪いけど、私なら「最悪」とか言っちゃうかもしれない。

 

 私たちのレース人生は短く、出走できるレースは限られている。

 ライバルとして目しているネイチャでさえも、私はまだ3回しか公式レースで一緒に走れていないんだ。

 

 だからこそ、その滅多にない機会くらい、お互い全力を尽くし合いたいと思う。

 そうじゃないと、勿体ないもんね?

 

 

 

「実際、天皇賞はどんな感じなの? 相手はあのテイオーとマックイーンさんなんでしょ?」

 

 ネイチャの言葉に、改めて思考を現実に戻す。

 数日後に迫った天皇賞。ライバルはテイオーとマックイーンさん……。

 

「そうですね、警戒すべきなのは間違いないです。まぁ、負ける気は欠片もありませんが」

「それはあっちもそうだと思うよ。誰だって勝つ気で来るでしょ」

「うーん……」

「んう? 何、どうかした?」

 

 私はうどんをちゅるちゅるして、しっかり吞み込んでから、言う。

 

「ん、ん。なんというか、この前のテイオー、『大阪杯でこそ勝つ』って感じだったんですよね。

 この状況でこそ譲れない、絶対に勝つ、みたいな」

「大阪杯で勝てなかったから、それよりウィルの有利になる天皇賞じゃ勝てないって?」

「いや、私はそうは思いませんが。むしろ私の勘はテイオーをこそ警戒しろって言ってるんですが。

 でもそれは、あくまでテイオーをライバルとして認めてる私の感想であって、実際大阪杯でギリギリ負けちゃったテイオー自身としてはどう思ってるのかなーと」

「あぁ……いやでも、天皇賞は回避するとか、そう言う話は来てないよね?」

「はい。だからこそ、テイオーが勝ちに来る気なのか……というか、どういう考えで天皇賞に来るのか、ちょっと読み辛くて」

「あー……私も最近はテイオーと話せてないからなぁ」

「まぁあの有記念を調整に使ったテイオーのことです、何かしら目的というか狙いはあるんでしょうが、はてさてどう出て来るか」

 

 その辺りは歩さんも首を傾げてたからなぁ。

 今私の目の前でミルクティーを飲んでるネイチャなんかはその辺、最適解を求めてくるというか、最大目標に向けてすごく素直に動くから、まだ読みやすいらしいんだけど……。

 対してテイオー陣営は変幻自在、どう出て来るかわからない、とのことだ。

 自分でも言ってたけど、歩さんはどうにもテイオーたちと相性が良くないらしい。

 

 ま、アレだ。

 トレーナーとウマ娘は常に二人三脚。

 歩さんが苦手な相手に対しては、私がなんとかするとしましょう。

 

 任せてほしい、私はこれでも転生チート無敗三冠国内G1最多勝ウマ娘なんだからね。

 

 ……我ながら、枕詞、どんどん多くなってきたなぁ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 どんどんパクパクと食を進めること20分かそこら。

 私たちは、無事に昼食を完食した。

 とは言っても、私もネイチャも……特にネイチャは腹八分目というところだろうが。

 

 ……さてと、良い感じに落ち着いたところで。

 そろそろ、話題の切り出し時だろうか。

 

「実はですね、ネイチャ。今日はちょっと相談がありまして」

「ほう、ウィルが相談とな」

 

 そう。

 今日、私はネイチャに、1つの相談を持ちかけるつもりだった。

 それも、少なくとも私にとっては、すごく大事な相談を。

 

「話を聞いてくれるんなら、ケーキを奢ります」

「う、ぐ……いや、私今ダイエット中だし……」

「ケーキ1つくらいならそう変わりませんし……これは、あくまで棚からぼたケーキ。ネイチャ自身が頼んだものじゃありません。たとえそれを食べたとしても、ただ捨てるよりずっと良い行動のはず。だから、ネイチャはこれを食べるという決断をしても、悪くないんです。ね?」

「くっ……! ……いいよわかった、話を聞きましょう!」

「ありがとうございます、ネイチャ。流石私の親友」

「やっすいなぁ親友って言葉!」

 

 

 

 オーダーした300円近くする美味しいケーキが届くのを待ってから、私は口を開いた。

 

「先に言っておくと、今回は真面目な相談です」

「おう……ウィルの真面目な相談か。正直ちょっと身構えるね」

「身構えてもらって結構。そうしてもらっていいくらい、真剣なものですから」

 

 そう。

 今回ネイチャに相談するのは、私にとって最も大事な話になる。

 

 あるいはホシノウィルムという存在の根幹を覆してしまいかねないくらいの、とてもとても大事な話。

 

 私は知らず俯いて、声のトーンを落として言う。

 

「本当に、ネイチャだからこそ相談するんですよ。意味、わかってくれますよね」

「……うん、わかった。聞かせて」

 

 きゅっと表情を引き締めて、ネイチャは真剣な表情になってくれた。

 あぁ、本当にありがたい。こんな友人だからこそ、何でも相談できるというもので。

 

 だからこそ……本当は誰にも相談できないようなことさえ、話せるんだ。

 

 

 

 私は一度、大きく息を吸い込んで、吐き……そして、ゆっくりと話し始めた。

 

「相談の内容はね、歩さんの、つまり私のトレーナーのこと。

 最近、ちょっと気付くというか……もしかしたら、って思うことがあって」

「うん」

「その仮説は、私たちの関係を揺るがしかねないくらいのもので……それに、私がそれに勘付いてるって、歩さんには知られるわけにはいかないようなコトで。

 でも……もしもそれが本当なら、私と同じってことで、それが本当に嬉しくて」

「その仮説っていうのは……?」

 

 ネイチャに聞かれて、私は……。

 高鳴る胸を押さえつけ、意を決して、言った。

 

 

 

 

 

 

「もしかして歩さん、私のこと好きなんじゃないか、って……!

 も、もしそうなら、両想いなんじゃ、とか……!! そんなこと思ったりして!」

 

 

 

 

 

 

 い……。

 言っちゃった、言っちゃった、言っちゃった!!

 

 私の1番……ではないけど、2番目の秘密。

 歩さんへの、恋心。

 

 カッと熱くなる頬を、思わず手で包む。

 いくら相手が親友のネイチャと言えど……うぅ、恥ずかしい!

 

 だ、大丈夫だよね。ネイチャ、こう見えて口は固いし、他のウマ娘に言ったりしないよね?

 でもどうしよう、「え、そうなの!?」とか過剰な反応されたら! 恥ずかしすぎて逃げ出しちゃうかもしれない……!

 

 あーもう! 土台恋愛偏差値3くらいしかない私がコイバナとか恋の相談とか無理があったんだ!

 もう駄目だ私5秒後には顔真っ赤にしてここから逃げ出してるんだろーなーあーあネイチャがそんな反応するんだもん仕方ないよなー!!

 

 

 

「……まぁ、そんなことだろうと思ったけども」

「え、ちょ!? あの、これでも一応渾身の告白だったんですが! かなり勇気を振り絞ったんですが!? 親友のネイチャだからこそ勇気を持てたんですが!?!?」

 

 思ったよりずっと冷淡な反応に、逃げ出しかけていた足が滑る。

 幸い椅子があったから大丈夫だったけど、なかったらずっこけていたところだった。

 

 な、なんで……?

 友達が、親友が! 一世一代の告白をしたっていうのに! 好きな人を明かしたっていうのに!

 もうちょっと大きい反応があってもいいんじゃないかなって私思うんですけど!?

 

「いや、ウィルが堀野トレーナーさんのこと好きとか前から知ってたし」

「え゛!?」

 

 えっ、な、は!? なんで知って!?

 いやバレるわけないんだが!? 私ちゃんと隠してたんだが!?!?

 

 動揺を隠し切れない私の前で、ネイチャは頬杖を突いて、楽し気にこっちを見てくる。

 

「まぁいいけど……うーん、堀野トレーナーさんがウィルのこと好きなんじゃないかって? あの堀野トレーナーさんが?」

「あ、えーと、そう、そう……なんじゃないかなって。その可能性はあるっていうか、まぁそういう想いを多少なりとも持っていたっておかしくはない、かなーと思ったり? もしくは、そういった感情が一切ないと証明する方法はないんじゃないかなーと思う所存です……」

 

 言ってる内に、どんどん自信がなくなっていく。

 

 というか冷静に考えると、歩さんが私のこと好きとか、ありえないような気がして来た。

 だって歩さん、公私混同とか絶対しないタイプだし。

 しばらく前から彼の言う「堀野のトレーナー」は卒業したみたいだけど、それでも自分の担当ウマ娘に恋愛感情を持つようなタイプかと言われると、首を傾げるどころか横に振らざるを得ない。

 

「合同トレーニングの時、堀野トレーナーとはたまに話すけど……あんまイメージ湧かないっていうか。

 取り敢えず、なんでそう思ったか聞いていい?」

「えっと、ちょっと前に、なんかそれっぽい態度が……」

「うーん……それってさ、恋愛感情って言うより、自分の担当ウマ娘として特別に親愛の情を感じてるってだけじゃないの?」

「うッ!!」

 

 痛いところを突かれて、思わず胸を押さえる。

 

 正直に言うと、そうなのかもしれないと思ってはいたんだ。

 親愛と恋愛の境目って、ヒヨコの性別くらいに難しい。特に恋愛経験値が未だ乏しい私には、その見分けは困難だ。

 だから、もしかしたらあの時の手応えも、ただの親愛の情の延長なんじゃないかって……そう、思わないでもなかった。

 

 でも、でもぉ……うぅ。

 

「やっぱり、そう、なんですかね……」

「あぁいや、そんな肩を落とさなくても……別にそうと決まったわけじゃないからさ」

「そうですよねっ! ワンチャンありますよねっ!!」

「うわビックリした。躁鬱?」

 

 でも、確かにあの時、手ごたえはあったんだ。

 

 私の相手の部屋が必要なくなる……つまり、元から部屋のある歩さんが私のパートナーとして添い遂げる、その可能性があるという……そういう、そういう感じのアレ!

 確かにあの時、私は、歩さんとの関係の進展を感じたのである。

 

 そう、そうだ。

 仮にネイチャの言う通り、まだまだ親愛の領域に留まっているとしても……ここから先もずっとそうってわけじゃあない。

 関係性は確かに進んでいる(はず)。

 

 このままめげずに、歩さんにアタックしていくぞ!

 ……程々に! 恥ずかしすぎて逃げ出さないくらいに!!

 

 

 

「まったく、年頃の女の子の恋はお熱いねぇ。ネイチャさんには眩しすぎるくらいですよ」

「は? 何言ってんですかネイチャ、あなたも自分のトレーナーさんのこと恋愛的に好きでしょうが」

「なぁッ!?」

 

 

 







 (恋愛の)深淵を覗いている時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。



 次回は3、4日後。トレーナー視点で、天皇賞直前インタビューの話。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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