→あ り ま し た
本作の着想元になった子の1人でもあるのでめちゃめちゃに嬉しいです!
トゥインクルシリーズのG1レース、天皇賞。
これは、その名からも察することができる通り、長い歴史と高い格式を持つレースだ。
世代最強を決める若き優駿の華の道、クラシックレース。
もう1つの覇道、もう1つの王冠の所有者を決める勝負、ティアラレース。
6月と12月に競われる少し早めのドリームマッチ、グランプリレース。
これらと並んで注目されるのが、春と秋の2度に渡って競われる天皇賞。
国内最高峰のG1レースである、八大競走の1つなのである。
で、この天皇賞に含まれる2つのレース……天皇賞(春)と天皇賞(秋)。
これらの最たる特徴が、その条件の違いだ。
天皇賞(春)は国内G1最長の3200メートル、それもスタミナを食いつぶされやすい京都レース場での開催で、長く使える脚の質を測られるが……。
逆に天皇賞(秋)は、中距離区分最短の2000メートルで、そこまで多くのスタミナは求められないが、その分瞬発的な爆発力が求められる。
これらの2つは、正しく真逆の素質、真逆の能力が要求されるレースなわけだ。
大きく条件が違う理由は、一説によると昔は「短い距離も長い距離も走れるのが強いウマ娘」とされていたから、らしい。
流石に短距離やマイルは競技性が異なるとしても、ある程度の持久戦になる中距離から長距離はその全てを制覇してこその強者、というわけだ。
……しかし実のところ、2000メートルや2400メートルの皐月賞日本ダービーと、3000メートルの菊花賞では、求められる素質があまりに大きく異なる。
三冠ウマ娘が生まれにくい理由の1つがそれで、皐月賞や日本ダービーを制することのできるミドルディスタンスの子は、しかし菊花賞では苦戦を強いられたりするんだ。
結果として、口さがない評価にはなるが、菊花賞は前2つで勝てなかった子たちの「敗者復活戦」なんて言われることもあるんだが……それはさておき。
最近は「ウマ娘はそれぞれの得意とする部門で結果を残せばいい」という思想が大きくなって来ているので、それだけが強さだと認識されるわけではない。
ない、んだが……それでもやはり、三冠ウマ娘への尊敬然り、中距離も長距離も制することができるウマ娘が強者として扱われる風習はあるな。もはや慣習のような暗黙の了解だ。
いやまぁ、そりゃあ幅広い強さを持ってりゃ、当然強者ではあるんだけどね。
ただ「活躍できる距離の幅の広さ=強さ」って理屈でいくと、この世界で最強なのはハッピーミークってことになるんだよなぁ。
あの子はこれまで、短距離から長距離までの全てで、1回ずつG1レースに勝ってるわけで。
……改めて考えてもおかしいよね、ミーク。
全距離G1制覇とか、こんなの空前絶後の記録だろう。とてもじゃないが、今後彼女以外にこれを達成できる子が現れるとは思えない。
その距離適性は全てがA、何なら脚質適性まで先行と差しがA。並外れたと表現して差し支えない適性の広さ、そして高さだ。
正直、ウィルと同格か……見方によっては彼女以上の才能だと思う。
まぁ、それでも最強は俺のウィルなわけだが……それは宝塚記念で証明するとして、だ。
……だいぶ大きく話が逸れた。
閑話休題、天皇賞の話に戻ろう。
天皇賞は長い歴史と高い格を持つ、トゥインクルシリーズでも有数の一大レースだ。
勝者には表彰式で楯が下賜されることから、このレースで勝つことは「盾」とも呼ばれ、決して少なからぬウマ娘たちが栄誉を勝ち取るその日を目指している。
……そう。
それはまさに今口を開いたウマ娘も、例外ではなく。
「えぇ。今回の天皇賞は、1人の挑戦者として挑むつもりですわ。
盾の栄誉はメジロ家の宿願。しかし、だからと言ってその重圧に潰されるわけにはいきません。
私はメジロのウマ娘として、そして1人の競走ウマ娘メジロマックイーンとして、このレースに真摯に挑むつもりです」
その手にマイクを持ち、向けられたいくつものカメラに向かって、メジロマックイーンは堂々と語ったのだった。
* * *
出走ウマ娘への、レース直前インタビュー。
非常に大きな興行であるトゥインクルシリーズのG1レース直前となれば、この手の企画は必ずと言っていい程に開催される。
流石は国民的スポーツと言うべきか、テレビ新聞ネット記事問わず、この類の企画はかなりの話題性を持っているのだ。
そして、俺の担当ウマ娘は、既にどちらもG1タイトルを獲得している実力者。
更に言えば、どちらも出走したG1レースで1番人気に推されるくらいに人気と実力を併せ持っている。
そうなれば当然、ウィルやブルボンもインタビュー企画に招かれることが多いわけで。
これらの企画はほぼほぼ間違いなく、俺たちに依頼が届く前にURAに話が通っている。
故に、そもそもURAの傘下であるトレセン学園に所属する俺やウマ娘は、実質的にはこれらを断ることはできない。
トレーナーにとっては、上からの命令による強制的なお仕事だ。学生であるウマ娘たちにとっては、授業……いや、社会見学とか修学旅行とか、そういう認識かもしれないな。
そういう事情もあって、俺たちはこれまでに何度もインタビューを受けてきた。
とはいえ、しっかりしてる子が多くて忘れそうになるが、ウマ娘たちはまだまだ年若い子供。大人である俺たちトレーナーが横に付いたり、あるいは舞台袖から見守ったりするのが常だ。
まぁ、最近のウィルはそつなく、それでいてしっかりと新鮮味を意識した回答をしてくれるので心配はいらないだろうが……。
ブルボンの方は、もうちょっと監督の必要があるかもしれない。自発的には笑顔を浮かべたりしない子だし、結構天然な受け答えも多いからな……。
そうして今回の天皇賞でも、俺たちの元にはインタビューの依頼がやってきた。
期日は天皇賞の2日前……つまりは、今日。
その日、俺はウィルを伴い、テレビ局を訪れていた。
そこは1月に最低でも1回、最大であれば10回近く出入りすることもある場所だ。
俺たちもいい加減慣れたもので、ウィルももはや緊張の様子も見せず「早くトレーニングに戻りたいですし、今日の収録は早く終えられるといいですねぇ」なんて言いながら楽屋入りしたんだが……。
そこには俺たちだけではなく、他にも2組のウマ娘とトレーナーがいた。
当然、トウカイテイオー陣営とメジロマックイーン陣営だ。
* * *
今回の天皇賞で最も注目されているのは、3人のウマ娘。
1人は、文句なしの現役最強、それも春の天皇賞において有利なステイヤーである、ホシノウィルム。
無論、俺の愛バは最強なので、今回の天皇賞も勝つのだが……有識者の中にはウィルが3200メートルを走った経験がないことを不安視する者もいる。
実際、公式レースでその距離、その条件を走ったことがあるというのは、かなり大きなアドバンテージになる。逆に言えば、その経験がないことはディスアドバンテージになってしまうわけだ。
まぁ、それでも勝つけどな。
何故なら彼女は、俺の愛バ、ホシノウィルムだから。信じる理由は、それだけで十分だ。
1人は、現役最強格のステイヤーである、メジロマックイーン。
昨年の秋の天皇賞に引き続き、悲願を果たさんとレースに臨む彼女は、その距離適性やステータスがレースの条件にこの上なく噛み合っている。
更に、彼女には去年春の天皇賞を走った経験がある。これは三者の内、彼女だけが持つ有利条件だ。
そして極めつけに、今の彼女には強者故の慢心や重責による精神不安が見当たらない。その精神も肉体も、まさしく万全と言っていい状態だ。
今の彼女は、極めて安定したG1ウマ娘と言えるだろう。まさしく、失敗のない名優と言ったところか。
1人は、他2人に比べると条件的な不安はあるが、その隣に並び立てる優駿である、トウカイテイオー。
どうやら彼女は、大敗してしまった皐月賞やこの前の有馬記念などから、安定して好走するウィルとマックイーンに比べて、やや浮き沈みが激しいウマ娘だと考えられているらしい。
……実のところ、一面において、その考えは正しい。
沈みはともかく、彼女程に浮きが激しいウマ娘を俺は知らないからな。
テイオーが本気を出す時、俺の見ているステータスとか観察した調子なんてデータは全て無意味と化す。
安定はしないが、跳ねた時の爆発力が恐ろしい……こちらは奇跡を起こし得るウマ娘、という感じかな。
ホシノウィルムはもはや語るべくもなく、史上最強として勝利を最有力視されており。
メジロマックイーンは去年の天皇賞(秋)を制し、天皇賞連覇への期待がかかり。
トウカイテイオーはその実力に反してG1どころか重賞未勝利であり、だからこそこの実力者たちを下しての勝利に夢を抱かせている。
去年のとんでもない有馬記念があったからこそ、そこまで話題沸騰って感じではないけど、それにしても3人の優駿が集うということで今回の天皇賞はかなり耳目を集めている。
総合的な実力で言っても、他に強力なウマ娘がいないというわけではないが、それでもこの3人は飛び抜けている状態だからな。
俗に「HTM対決」「三強」なんて呼ばれているくらいに、その差は隔絶している。
最強か、安定か、奇跡か。
天皇賞の勝者予想はこれらの三派閥(と大穴狙い)に分かれ、混沌を極めている……というわけだ。
となれば当然、ファンの方々としてはそれぞれのウマ娘の話を聞きたがるというもので。
そんなこんなで、この3者同時インタビューが企画されたのであった。
* * *
楽屋で出くわした3人は、それぞれが友人関係を築いていることもあって、ウマ娘同士で楽しく話し合い始めた。
俺たちトレーナーはそんな彼女たちを微笑ましく見守りながら、今日の仕事についていくつか打ち合わせを済ませ……。
そうして、待つことしばらく。
スタッフに呼ばれてスタジオに赴き、いよいよインタビューが始まった。
今回は3人の同時インタビューということもあり、俺たちトレーナーが映るだけの画面の余裕がない。
そんなわけで、ウマ娘の3人は舞台の上で並んで座り、俺たちトレーナーは舞台袖からその様子を眺めていた。
司会はまず、マックイーンに対して話を振っている。
「メジロマックイーンさんは昨年の天皇賞でも好走されていましたよね。
唯一のシニア級2年目ということもあり、この3人の中では最も経験をお持ちかと思われますが、自信の程はどうでしょう」
去年の天皇賞……。
俺がスカイを焚き付け、結果的に彼女の敗北を導いてしまったかもしれないレース。
その話題が挙がると、どうしても心に引っかかるものがある。
間違ったことをしたつもりはない。
ただスカイにファンだと、応援していると、嘘のない想いを伝えた。
……ウィルに必要だった、この上なく強力なライバルを用意するために。
だが……恐らくは、その俺の行動の結果として、メジロマックイーンは天皇賞に敗北した。
勝つはずだった、叶うはずだったメジロ家の悲願を、逃してしまった。
それを思うと、少しだけ心にしこりが残ってしまって……。
けれど、当の彼女は全く気にしていないというように、軽く首を振ったのだった。
「去年の天皇賞では、セイウンスカイさんの素晴らしい奇策にしてやられましたが……逆に言えば、私には1度、厳しいレースを走った経験があるのです。
敗北の経験も飲んだ苦汁も、その全てを糧にして、今年こそはライバルに、そして私自身に打ち克ってみせますわ」
綺麗に話を畳んだマックイーンは、チラリとテイオーやウィルの方に目を向ける。
必ずやお前たちを打ち破ってみせると、その視線に敵愾心と期待を込めて。
……それを見て、ふと思う。
いつまでも去年の天皇賞を引きずるのも、彼女への侮辱になってしまうかな、と。
彼女はもう、過去の敗北を振り切っている。
後悔し、自省し、それを……いいや、人生のあらゆる経験を、自分の成長に繋げている。
彼女が糧にしたものを、さも悪いモノであるかのように扱うのは、あまり良くないかもしれない。
過度に色んなものを背負い込み過ぎるのは悪い癖だと、いつも昌に言われているし……。
それは、彼女がそうして培ってきた努力と成長の否定になってしまいかねない。
いい加減、思考を切り替えなきゃな。
罪悪感を感じるのはいいが……記憶の中の過去を、背負い込みすぎないようにしなければ。
一瞬だけまぶたを閉じて反省した後、改めてマックイーンの様子を観察。
メジロマックイーンは、流石と言うべきか、精神も肉体も完璧に仕上げてきている。
G1レースである大阪杯を避けただけあって、不調の兆候は欠片たりとも感じられない。この天皇賞に全力を注ぐつもりなのだろう。
元より彼女の実家であるメジロ家は、天皇賞の勝利をこそ主眼に据える方針だ。
自らをメジロのウマ娘であると強く自覚するステイヤーの彼女にとって、今回のレースの勝利は宿願と言えるものだろう。
既に去年、彼女は秋の天皇賞を制した。
雨降る中の東京レース場、冷静沈着に事を進め、まずは1つ目の楯を勝ち取ったんだ。
であれば、次に目指すべきは春秋連覇。
ステイヤーとしての本領を発揮し、誰もが認めざるを得ない完璧な結果を残すのみ。
覚悟の決まったマックイーンは、「アプリ転生」で見ても当然のように絶好調。
今回の天皇賞では、ほぼ間違いなく良い走りを見せてくれるだろう。恐らくはウィルを追い詰めて来る程の、良い走りを。
ウィルのライバルとしては、相手に取って不足はないんだが……。
正直、トレーナーとしては頭が痛い。
なんでウィルのライバルになる子たちって毎度毎度調子が良いんだろう。普通は不調とか絶不調も珍しくないはずなんだけどな……。
いや、他陣営の不調を願うより担当の強化で解決を図るべき、ってのはあるんだけどさ。
それにしたって、ウィルの出走するレースって毎度毎度難易度がハードなんだよなぁ……。
やっぱりアレか、スタンド使いと同じで強者と強者は惹かれ合うんだろうか。
* * *
それからしばらく。
マックイーンがいい具合に語り終えたところで、司会が話の矛先を変える。
「それでは続いて、トウカイテイオーさんにも伺いたいと思います。
どうでしょう、天皇賞への意気込みの程は?」
訊かれたテイオーは、表情を動かすことなく答える。
「そうだね。……多分、みんなが思ってる通り、今回のレースじゃ2人に比べるとボクが不利だと思う。
天皇賞じゃ、ボクは格下のチャレンジャーだ。大阪杯の時みたいに自信満々には挑めない。
でも、まぁ、そうだね。ボクはボクらしく、2人に挑もうと思ってるよ」
おぉ……。
想定していたものよりもかなり控えめというか、低姿勢。
自信過剰気味なことの多いテイオーにしては珍しい気がする。
そう思ったのは俺だけではなかったのだろう、彼女の横に座っていたマックイーンが口を挟んだ。
「あら、テイオーにしては弱気な発言ではありませんこと?」
「弱気っていうか事実でしょ。勝てる勝てないはともかく、ボクは2人みたいに長距離を走るのが得意ってわけじゃないし?」
「だとしても、『それでも勝つ』と言うのがテイオーだと思っていましたが」
「ん? ボク、勝てないとは言ってないよ?」
そこで、テイオーはクスリと不敵な笑顔を漏らす。
「ボク、勝つよ。そのために、客観的に戦力分析してるんだから。
不安視じゃなくて客観視。弱気じゃなくて冷静に見て、ボクは不利だと思ってる。
でも、不利なことは前提として、勝ちに行く。それが新しい『トウカイテイオー』だからね!」
そう、胸を張って堂々と語るテイオーは……。
……うん。こっちもこっちで、いい具合に気合が入っているな。
というか、あの自信家の気が強かったテイオーが「不利なことは前提として」、か。
正直、想定外なくらいの変わり様だ。去年初めて話した時の彼女と同じウマ娘とは思えないくらい。
勝気というか、前向きなところは変わってはいないようだが……。
勝利のため。ライバルに勝つため。自分の本懐を遂げるため。
そのためならば、人もウマ娘も、どれだけでも自分を変えられるのだろう。
……俺も頑張らないとな。
もっとより良いトレーナーになって、もっとより良く彼女たちを支えていくために。
* * *
「トウカイテイオーさん、ありがとうございました。
それでは最後に、ホシノウィルムさんに天皇賞について語っていただこうと思います」
さて、他の2人が終われば、当然ながら彼女の番が回って来る。
いつも通り、表向きの薄い微笑を浮かべている……俺の担当ウマ娘、ホシノウィルム。
正直、不安がないと言えば嘘になる。
最近こそ安定した受け答えが出来ているものの、クラシック級の前半なんかはだいぶアレだったからな。
本人には喧嘩を売ってるつもりはないらしいんだが、どうしても合間合間から強者故の傲慢が垣間見えるタイプだったり、肝心なところで言葉のチョイスがアレだったりするんだ、この子。
とはいえ、自分は勝って当たり前という思想は、今や過去のもの。
テイオーやネイチャとの熾烈なレース経験もあり、今は「強いライバルと楽しく熱いレースをしたい」という方向性に進んでくれたので、その気配もだいぶマシになってくれたんだが……。
そんな今になっても、やはり彼女にお鉢が回ってくると緊張が走る。
トレーナーとしてというよりは保護者代行として、変なことや誤解されかねないことを言ったりしないかと思ってしまうんだ。
彼女が演技を得意とすることはわかっているが……それでも、どうしてもな。
果たして、ハラハラしながら見守る俺の視線の先で。
ホシノウィルムはマイクを握り、カメラに向かってニヤリと笑った。
「勝ちます。……この一言以上に、ホシノウィルムの言葉が必要でしょうか」
……うわぁ。
傲慢ここに極まれりと言うか、なんというか。
まぁ俺自身、今のホシノウィルムの走りでテイオーやマックイーンに負けるとは思っていないので、彼女の自信の程は理解できないわけではないが……。
それにしたって、公式の場でここまで言ってしまうのはだいぶ豪気だ。
ホシノウィルムのネームバリューがあまりにもすごいからかろうじて許されるだろうけど、一歩間違えれば他のウマ娘やそのファンに喧嘩を売っていると思われるレベルの発言だぞ、これ。
もしかしてウィルの精神はクラシック級の頃にタイムリープでもしたかな? と、俺が思わず額に手を当てたところで……。
ウィルは、冗談めかすような笑顔を浮かべた。
「……なんてカッコ付けてみましたが、流石に今回そこまで言うのは難しいですね。
片や奇跡を起こす帝王、片や失敗のない名優。この2人を相手にすれば……」
彼女はそこで言葉を区切り、横にいるテイオー、マックイーンを見やる。
自らを苦しめ、追い込むライバルであると同時、たくさんのことを教えてくれる大切な友人。
そんな彼女たちを見て、ウィルは……。
心の底から楽しそうに、年頃の少女らしく、笑う。
「この2人と走れば、どうしようもなく、最高に楽しいレースになるはずです。
えぇ、私はそれを全力で楽しみ、そして全力で勝ちます。皆さんに期待される通りに勝って魅せます」
胸に手を当て、ウィルは笑ってそう言った。
……ただしその笑顔は、穏やかで優しいものではなく。
むしろ、牙を剥き出しにした獣のように獰猛なものではあったが。
「勿論2人だけじゃなく、ライバルの17人全員に期待しています。
テイオーもマックイーンさんも、私を追ってくれる皆さんも。頑張って追いかけてくれないと、どこまでも逃げ続けちゃいますよ?」
煽るような、あるいは奮い立てるような、上から目線の挑発。
それに対して、彼女のライバルたちは、真正面から応えた。
「いいよ。ウィルが逃げるんなら、地の果てまでだって追いかけてやるから!」
「テイオーが地の果てならば、私は天を駆けて追いましょう。あなたの背を越えるために」
あぁ、本当に、もう。
この子ったら、相変わらず他のウマ娘を奮い立てるのが上手いんだから。
舞台袖で頭を抱える俺の両肩に、テイオーとマックイーンの両トレーナーが手を置いてくれる。
その手は、気性難のウマ娘を抱えることへの慰めのようにも、あるいは自分のウマ娘のやる気を引き出してくれたことへの感謝のようにも感じた。
ウィルが煽りまくるおかげで、ダービー以降ずっとボス級のレースが続いてるんですけど、どういうことなの?
おかしいな、転生チートで無双しまくる快活な物語のはずだったのに……。
次回からはいよいよ天皇賞に突入。
どこまでも・地の果てへ・空を駆けて。この3人の走りはどこに行き着くのか?
次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、天皇賞前半。
(雑記)
最近ちょっと体調と精神状態が芳しくなく、絶賛スランプ中です。どうにも筆も乗らなくて、読者様にも申し訳ない。
もしかしたら次回以降投稿頻度が安定しなくなる……かも。無理しない程度に頑張ります。
(追記)
誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!