転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 3章開幕。

 だが……信頼できないのはナイスネイチャ(のステータス)だ。
 彼女はただレースを楽しんでいる。
 ホシノウィルムを倒す(つもりで挑む)ことで……自分の素質を試しているんだ。

 テイオーの出番はもうちょっと後です。ファンの方は、もうちょっとお待ちください。





過去と皐月と転生チートの季節
これもすべてナイスネイチャって子の仕業なんだ


 

 

 

 ホシノウィルムがクラシック級に入って、おおよそ2か月が経過した。

 そろそろ3月上旬に開催される弥生賞が迫ってきた……が、そこに関しては特に心配していない。 

 理由は、慢心したような言い方になるが、今更G2レースでどうこうなる実力じゃないからだ。

 いや、前世史実的にはどれだけ強くても警戒はすべきなんだろうだけど……。

 何せここはアプリゲームの世界。ステータスが飛びぬけて高ければ、基本的に負けることはない。

 

 ……基本的に、だけどね。

 

 1週間前の模擬レースでのナイスネイチャを見ていれば、とてもじゃないけどステータスが全てだなんて言えない。

 あれも覚醒の一種なのか、強そうな雰囲気さえ感じなかった。

 あるいはそうした気配を感じさせない、潜伏型とでも言うべき覚醒だったのだろうか。

 だとしたら、それは策士のネイチャらしい覚醒と言えるだろう。

 情報とスペックで勝利を掴みに行くウチの陣営からすると、非常に恐ろしい相手だ。

 

 俺の見立てでは、彼女は絶好調だろうとテイオーに3バ身以上は差を付けられるはずだった。

 それなのに、その差をクビ差まで縮める、ステータス以上の大健闘を見せたのだ。

 念のため3つ目の策を用意しておかなければ、ホシノウィルムは敗北を喫していたかもしれない。

 いやまぁ、逆に言えばそこで手札が1枚透けたとも言えるんだけど……彼女の勝利に比べれば安いもんだよ。

 

 ……数字で見れば格下の相手だとしても、警戒は怠るべきじゃないよな。

 父もよく言っていた、ウマ娘は常に予想を超えてくるものだ、と。

 やはり弥生賞、そして皐月賞には、万全の備えをして挑むことにしよう。

 幸い、試せる策はあるしな。

 

「しかし、ナイスネイチャか……」

「レースですか」

「違う」

 

 実のところ、ネイチャがもたらした被害というか影響は、俺の意識改革だけに留まらなかった。

 ……というか、彼女は無意識に、そりゃもうとんでもなく甚大な影響を与えてくださったのだ。

 

「トレーナー、やはりネイチャと模擬レースしましょう」

「しない」

「しましょう」

「しない」

「1回だけ。いえ、先っちょだけでいいので」

「先っちょだけのレースって何だ……」

「では、明日の合同トレーニングは併走にしましょう」

「模擬レースと何が違うんだ君にとって」

「では…………かけっこでは」

「説得が雑なんだよな全体的に」

 

 問題です。今こうやって、俺と話しているのは誰でしょう。

 ヒントはですね。つい一週間前までは無口でクール系だった、小柄な鹿毛の逃げウマ娘です。

 

 ……そう、認めたくないことに、俺の担当ウマ娘、ホシノウィルムその人なのであった。

 

 俺にとってホシノウィルムは、手のかからないようでアホほど手のかかるウマ娘だった。

 基本的に言ったことはやってくれるけど、言ったことしかやってくれない。何なら言ったことを破ることも間々ある。

 でもちゃんと信頼関係を築き、判断の説明をして、絶対に自主トレをするなとしっかり諭せば、流石に聞いてくれる。やる気は下がるけども。

 最近はレース中の作戦も細かく聞いてくれるようになり、やる気が下がることも少なくなって、いよいよ彼女との付き合い方がわかってきたところだった。

 

 ちょっと、いやごめん鯖読んだ、めちゃくちゃトレーニングジャンキーだけど、真面目で真っすぐで良い子の、敗北を恐れるウマ娘。

 それが俺から見たホシノウィルムだったのだ。

 

 ……のだ、が。

 

「では、いつネイチャと走れるのですか?」

「……菊花賞かな」

「あと8か月ありますが?」

「そうだな」

「…………???」

「いやそんなクエスチョンな顔をされてもな」

「8か月もご飯を食べなければ、流石のウマ娘も死にますよ?」

「模擬レースを食事だと思ってる?」

 

 何と言うか、何だろう……いや、本当に何なんだろうな。

 あの模擬レース以来、ホシノウィルムは壊れちゃったのだ。

 

 

 

 ホシノウィルムは、あのレースで何かを感じた。

 俺にとって都合の良い解釈をするなら、それはウマ娘に本来あるべき闘争本能。

 強いウマ娘と競い合い、超えることに、この上ない悦を感じるというもの。

 ……であれば、すごく嬉しいんだけど。

 結局のところ、それが何なのかはわかってない。流石に直接聞くのもアレだしな。

 

 とにかく確実なことは、彼女はあの模擬レースで、ナイスネイチャに対してこれまで感じたことのないものを覚え、それに大いに、本当に大いに影響されたってことだ。

 

「では、こうしましょう。勝負です、トレーナー。

 私は今からその辺りのてきとうな野良レースで走ってきます。勝ったらネイチャと走らせてください」

「いや駄目だが。乗らないぞそんな勝負」

「な、何故ですか。私のことが嫌いになりましたか」

「嫌いにはなっていないが、ある意味君のことをわからなかった頃まで関係性は後退しているかもしれない」

「そんな……私はただ、ネイチャと走りたいだけなのに……」

 

 まずこのように、ネイチャとの競走を、自主トレと同じかそれ以上に求めるようになった。

 トレーニングジャンキーの次はネイチャレースジャンキーである。

 前から一極集中の気があるとは思っていたが、やはり1つのものに夢中になると周りが見えなくなるタイプだな、この子。

 

 よそのウマ娘との模擬レースは、勿論自主トレとは違う。

 あちらの都合とか貸し借りとか色々あるので、やりたいタイミングでやる、なんてことはできないのだ。

 その上ここまで盛り上がっていると、万一ネイチャが事故でも起こして走れなくなったりすれば、調子が絶不調で固定されかねない。

 そんなわけで、ネイチャに依存してしまっているのは色々マズい。どうにかならないものかなぁとため息を吐く毎日だ。

 

 そしてこの変化に伴って、彼女は少し多弁になった。

 これまでは必要最低限の会話で済ませることが多かったというのもあるけど……。

 それにしたって、「君ちょっと性格変わってない?」と思うくらいに、彼女は喋るようになったのだ。

 なお増えた会話の9割はネイチャとのレースの要求である。

 

「嫌われたくはありません……でもネイチャとレースはしたいです。

 どうすればいいのでしょうか」

「我慢すればいいんじゃないか」

「不可能です。このネイチャとレースしたい欲望を抑えられません」

「無理やり抑えればいいのでは?」

「そんなことをしたら……」

「したら?」

「代わりにめちゃくちゃ自主トレします」

「脅迫かな?」

 

 ……あと、幼児退行と言う程でもないが、精神的に幼くなったんじゃないかとも思う。

 ホシノウィルムはどことなく「大人っぽさ」のある子だった。

 中等部1年にしてあれだけストイックな自制心を持ち、理を説けば納得してくれる子は希少だったと思う。

 でも今はこんな……うーん。

 

「とにかくネイチャとレースしたいんです。お願いします」

「いやレースは駄目だって」

「したいんです」

「駄目」

「したいんです!」

「駄目!」

 

 ホントに駄々っ子みたいになっちゃったなぁ。

 これを退行と見るべきか、一時的な衝動と見るべきか、その辺りが難しい。

 ウマ娘の精神構造に詳しい兄に尋ねてみるべきか。……いつもお世話になってるし、次に帰省する時は菓子折り、いや、ホシノウィルムのデータでも提げていかないとな。

 その時に、彼女に表れるようになった幼児性について……。

 

「……ん、いや、違うか?」

「明日の合同トレーニング内容ですか? やはり併走にしますか?」

 

 彼女が幼くなったというのは、違うかもしれない。

 元々、彼女の持っていた大人っぽさ、つまりは精神的堅固こそが歪だった可能性もある。

 

 彼女の心に、何らかの瑕疵があることは明らかだ。

 彼女の精神的衛生を損なう、何か。

 

 それ、あるいはその元となった現実的問題に対し、彼女が大人になり切ることで心を守ろうとしたのであれば……。

 ある意味で、今の中等部の女の子らしい甘えた態度こそが、彼女のあるべき姿なのかもしれない。

 

 ……というか、普通の中等部の女の子は一日中トレーニングなんかしないし、辛ければ文句の1つでも吐き捨てるものだ。それを平然と行っている時点でおかしかったのかもしれない。

 何も普通でなければいけないわけではないが、異常な成長は危うい結果をもたらすこともある。

 彼女の健全な成長に不必要ならば、それは排するべき欠陥でしかないわけで。

 

 そう考えると、彼女はもっと、俺や他の大人に甘えてもいいのかもしれないな。

 そして俺は、彼女が甘えても問題ない、立派で頼れる大人を演じなければ。

 

「……仕方ない。弥生賞が終わったら、一度有力なクラシック級ウマ娘を募って模擬レースを開くか」

「ネイチャは参加しますか?」

「いやそれは知らんが……君から伝えたら参加してくれるんじゃないか? 友達なのだろう?」

「なるほど、至極道理です。ではネイチャに伝えてきます」

「いや、そろそろトレーニングの時間だ。グラウンドに出てダートダッシュ。行くぞ」

「了解。トレーニング後にネイチャに伝えます」

 

 ……まぁ、なんだ。

 熱に浮かされているようで少し不安にはなるが、ひとまず彼女が持ち直してよかったよ。

 模擬レース直前の数日は酷い有様だったからなぁ。

 話しかけても気付かない、トレーニングに集中しない、果てには自主トレもせず自室のベッドで横になっていたという、これまでにないホシノウィルムの絶不調。

 

 何が彼女をそうまで落ち込ませたのか、俺にはわからない。

 落ち込んでいる、あるいはその反動とでも言うように興奮している今の彼女に、わざわざその理由を訊く程愚かではないつもりだが……。

 ……俺、馬鹿だし。聞かなきゃわかんないんだよな、これが。

 

 ネイチャの時のあれを見るに、彼女は恐らく、見ただけでそのウマ娘の強さを測ることができるのだと思う。

 だから、テイオーを見て衝撃を受けたんだと思うんだけど……。

 ただ強いウマ娘だと思っただけなら、ネイチャの時のように喜んでも良いと思うんだけどなぁ。

 

 

 

 ホシノウィルムが自分の中で折り合いを付けたのか、あるいは無理をして振り切っているのか。

 それはわからない。彼女の心情を推し測ることはできても、確実に知ることはできないのだから。

 だからこそ、まず考えるべきは、原因の抜本的解決だ。

 

 今回の件は、トウカイテイオーの存在がもたらしたもので間違いない。

 あの瞬間に彼女がトウカイテイオーを見たこと……正確に言えば、その存在を視認し、認識してしまったことによって、ホシノウィルムは絶不調に陥った。

 

 これは、ネイチャに初めて会った時に起こったものと非常に似た現象だ。

 ネイチャの時は興奮し、友達になろうと迫り、俺に合同トレーニングの話をもちかけてきたように。

 テイオーの時は呆然とし、懊悩し、寝込むくらいに調子が悪化したのだ。

 

 ネイチャとテイオー。ホシノウィルムの中で、何が彼女たちへのリアクションにおける正と負を分けたのかはわからないが……。

 1つ確かなのは、ホシノウィルムは一部のウマ娘に対し、ポジティブネガティブを問わず強く反応する、ということだ。

 これから先もあんなにやる気が揺れては、彼女のローテーションに支障が出る。 

 なので一昨日、俺はその解決を図ることにした。

 具体的には、現在トレセンにいる有力なウマ娘について、彼女と情報を共有したのだった。

 

 ……いやまぁ、強いって言うか、主にネームドウマ娘の紹介だね。

 アプリじゃ名前を聞かなかった、いわゆるモブウマ娘の名前もいくつか挙げたけど、彼女は反応しなかった。

 状況から考えるに、彼女が反応するのはネームドに限られるようだ。

 勿論、いくら知っていても、いざ会ったら反応があるかもしれないが……。

 それでも、何もしないよりはずっとマシな予防になるはずだ。

 

 

 

 さて、ネームドなんだけど……。

 俺が確認できている、トゥインクルシリーズに登録されている現役のウマ娘は、ホシノウィルムを除いて18人だ。

 

 まず、G1ウマ娘では唯一のシニア4年目相当、サイレンススズカ。

 ただし今、彼女はトゥインクルシリーズへの出走を中断し、海外で活躍中。

 十中八九、そのままドリームトロフィーリーグに行くことになるだろう。一応挙げておいたって感じだ。

 ホシノウィルムは少しだけ、ぴくりと反応した程度だった。あれだけ後継者だと叫ばれれば、流石に彼女の存在は知っていたかな。

 

 次にシニア3年目、現役は3人。スペシャルウィークとハッピーミーク、そして……セイウンスカイ。

 いやぁ、ウンス……いたんだよなぁ。

 俺にとっての前世の愛バ。最終コーナーで爆発したように駆け出す、策略家な芦毛の逃げウマ娘。

 彼女は俺がトレーナーになった年には、とっくの昔にデビュー済みだったらしい。

 恥ずかしながら、俺が彼女の存在に気付いたのは、ホシノウィルムの選抜レースが終わって生活が落ち着いた頃だった。

 免許を取る前の1、2年は……自分磨きに集中し過ぎたりナーバスになったりして、中央のレースから離れてたからなぁ。

 まったく、そんなことでスカイの菊花賞を見逃すとは、頭を抱えたくなるやらかしだ。今世の大失敗の1つである。

 

 話を戻すと、スペちゃん、ウンス、ミークの3人の内、ミーク以外の2人は既に半移籍といった感じで、スぺちゃんなんかシニア1年目の有記念を最後に公式レースに出走していない。

 一方、ミークは1年に5~6本程度、主に重賞に出走している。入着も安定しており、シニア2年目以降の連対率は90%を超えているとのこと。

 ……いやー、この世界の桐生院トレーナー、ヤバいね。

 まだ5年目の新鋭トレーナーなのにチームを持つことを許されてるし、堅実で隙のない育成でG1級ウマ娘ポンポン量産してるし、ついでに皆鋼の意志持ってるし。

 忘年会でゴリゴリに酔っぱらってうまぴょい伝説熱唱しだした人と同一人物とは思えないよ。

 

 で、シニア2年目にはネームドがいないっぽいので飛ばすとして。

 

 シニア1年目の注目株に、去年の菊花賞ウマ娘、メジロマックイーン。彼女はこれまでのウマ娘たちと違い、明確に現役だ。

 言わずと知れたパクパクですわステイヤー。野球場で見かけられたり体重のコントロールに苦しんだりと色々アレなところもあるが、総じて優秀なメジロのウマ娘である。

 シニア級に入った今年からは、やはり天皇賞を狙っていく指針らしい。確か来月はG2の阪神大賞典に出走予定だったはず。

 ……ホシノウィルムも、近く彼女と争う日が来るだろう。ぶっちゃけ今年の宝塚記念あたりで。

 

 やはり注目はマックイーンだが、シニア1年には他にも5人いる。かなり層が厚いね。

 メジロライアン、メジロパーマーにダイタクヘリオス、イクノディクタスにアイネスフウジン。

 うーん、ネームドの魔窟だ。メジロなんか3人も集まっている。

 しかも、俺がやっていた頃にはマックイーンとライアン以外は育成ウマ娘として実装されていなかったから、彼女たちの走り方とか固有には詳しくない。

 クラシック・シニアの混合レースの際には注意しないとな。ライアンあたりも怖いし。

 

 さて、クラシック。つまりはホシノウィルムと同期に、トウカイテイオーとナイスネイチャ、そして本格化が遅れて未デビューではあるが、ツインターボの3人。

 テイオーとネイチャはホシノウィルムも既に知っていたわけだが、ツインターボの名前を出した瞬間、座っていた椅子からひっくり返ったのはどういう感情だったのだろう。

 

 最後にジュニアだが、ここも層が厚い。

 勿論全員未デビューだが、ミホノブルボンとライスシャワー、マチカネタンホイザ、サクラバクシンオー、ニシノフラワーが確認できている。

 いやぁ、ここもすごいよね。短距離の覇者バクちゃん、菊花賞でデッドヒートするブルボンとライス。

 フラワーは育成ウマ娘として実装されてなかったから詳しくないけど、ウララ枠ではなかったと思う。何せマイルにおけるバクちゃんのライバルだったと思うし。

 

 ……前世で世代概念を殆ど理解しないまま離れちゃったのが悔やまれるな。

 この世界の世代が、前世のそれと同じなのかはわからない。

 ただ、黄金世代の5人、テイオーとネイチャ、ブルボンとライスはそれぞれ同じ世代だったはずだし、多分大筋は間違ってない……のかな。

 

 

 

 さて、これらの存在をホシノウィルムに告げてみた反応だが。

 まず、スズカ、スペちゃん、ミーク、マックイーン、テイオー、ネイチャ辺りのメンツに関しては、どうやら既に知っていたようで、ピクリと反応することはあれど、大きな動揺は見せなかった。

 次に、スカイ、イクノ、マチタン、ブルボンにライスの5人には、耳と尻尾がピンと伸びたりした。表情こそ変わっていないが、あれだけ露骨に動くとなると、結構反応があるなぁこりゃ。言っておいてよかったかもしれない。

 で、逆にバクちゃんとフラワー、ライアン、パーマー、ヘリオス、アイネスフウジン。これらに対しては無反応に見えた。

 ……どうでもいいけど、アイネスフウジンって何って略すんだろう。サポカでも触れ合う機会なかったからわかんない。アイネス? フウジン? フウジンだとかっこ良くていいな。つよそう。

 話を戻して、最後に、ターボに関しては名前を出しただけで椅子をひっくり返して倒れてしまった、と。

 

 …………。

 何を基準に反応してるんだこれ。

 うーん……このホシノウィルムのことだ、もしかしたら名前や概要だけでも、何か運命的なものを感じたりするのかもしれない、と仮定して。

 しかし、強さを基準として反応するのなら、バクちゃん委員長に反応しないわけないんだよね。何せあの子、短距離における最強の一角なわけで。

 逆に反応のあったターボやマチタンは、戦績だけで見るとそんなに飛びぬけて良いわけでもなかったと思う。

 となると、脚質か? ……いや、ライスは逃げじゃないし、逃げウマに反応しているわけではないな。

 マチタンとフラワーは当時未実装だったからわからんけど、全体的な適性の広さと考えても違和感は残るし……。

 史実におけるG1か重賞の勝利数……あるいは血統の関係? 困ったことに、その辺はホントに知らないんだよなぁ。

 

 いや、ホントにわかんないな。

 ホシノウィルムは何を基準に反応して、何がそのポジティブネガティブを分けるのだろうか。

 ……うん、ここに関しては他の側面から考察すべきかもしれない。

 

 

 

 などと考えていると、ホシノウィルムに声をかけられた。

 

「トレーナー、行かないのですか?」

「……いや、悪い。行こうか」

 

 やべ、黙って長考してたっぽい。

 ダートだダート。せっかくグラウンド借りたんだから有効に活用しないとな。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 「芝が走れる」「ダートが走れる」ってのをどれくらいの基準で「走れる」と言うのかは、割とトレーナーによって違うと思う。

 例えば、本調子が出せる方を指して、そちらが走れると言うトレーナーもいる。片方が若干苦手でも絶望的でないなら、どちらも走れると言うトレーナーもいる。

 ……前者の場合、適性が芝CダートDで、実は芝もそこまで走れなかったりする場合もある。後者の場合、芝AダートCで、ダートはそこまで走れない場合もある。

 

 ウマ娘の走りは、言葉で表すことができない。

 結局のところ、ウマ娘がどれだけ走れるかは、実際に見てみなければわからないのだ。

 ……俺以外のトレーナーにとってはね。

 

 それでも敢えてホシノウィルムの「走れる」評価をするなら、俺は「芝は走れる。ダートは走れない」って評価を付ける。

 ダート適性はC。十分健闘できるラインだが、だからってダートも走れるなんて言えば、俺の担当は勇んでダートに乗り込みかねないからだ。

 そうなれば、いくらスペックが高いと言っても、万が一が起こる可能性が生まれてしまう。まさしく最初の模擬レースの時のようにね。

 それは何としても避けるべきだろう、彼女のトレーナーとして。

 

 ……第一、ダートに出す必要性などない。芝で戦えばいいのだ。

 彼女の芝適性はS。本来あり得ないはずの、純粋な才能を超越した領域なのだから。

 

「ダートの野良レースで勝ったらネイチャと模擬レースならどうでしょう」

「良いと答えると思うか?」

「奇跡は起こるものではなく、起こすものだと思います」

「奇跡は稀にしか起こらないから奇跡なのだ。どうせ模擬レースは開くのだから、あと1、2週間待ちなさい。

 ほら、トレーニング開始」

「了解。ダート走、開始します」

 

 ……さて、何故ホシノウィルムと軽口を叩きながらこんなことを考えていたかと言えば、だ。

 

 

 

 そろそろ、はっきりさせようと思うのだ。

 ホシノウィルムというウマ娘が、何者なのか。

 

 

 

 材料はこの1年で相当に集まったと思う。

 あとはそれを、脳内で組み上げるだけだ。

 

 第一に、彼女が何らかの特異な存在であること。これは間違いないだろう。

 ダートも走れなくはない広い適性で、更にS持ち。初期から高いステータスやコンディションを取得している。

 今年のジュニア級のネームドたちも偵察したが、こんな特殊なことは起こっていなかった。

 やはり彼女はネームドウマ娘で、その上で他ネームドたちをも超える、何らかの特異な存在なのだろう。

 

 第二に、ネームドウマ娘に強い反応を示す。

 一番反応が大きかったのは、テイオー、ネイチャ、ターボ。つまりは同世代のウマ娘たちだ。

 スズカにスペ、スカイと、そしてブルボンやライス。この辺りも比較的強い反応があったと思う。

 

 第三に、ウマ娘らしくないことだ。

 担当してから暫くの間、彼女にはえらく知識が欠損していた。そしておそらくそれは、レースや競走そのものへの熱意のなさから来ているのだろう。

 彼女はレースを楽しめない。……この前の模擬レースで、少しは変わったかもしれないけども。

 この前兄に確認したが、やはりこの状態はウマ娘としては異常……いや、異常という言い方は良くないな。異端な状態らしい。

 

 強すぎる力。ネームドへの反応。ウマ娘としての異端さ。

 

 

 

 以上から導かれる結論は……そう。

 

 

 

 

 

 

 ホシノウィルムは、俺と同じような転生者なのだ。

 

 

 

 

 

 

 ……などと、そんな失笑ものの妄想はさておいて。

 

 ま、転生者という説も一時は考慮したんだけど、これはありえないかなー。

 まず、ネームドに反応すると言っても、初期から実装されていたわけではないフラワーたちはともかく、アプリを遊んだ元トレーナーなら誰もが反応するだろうバクちゃんに反応してないわけだし。

 その精神状態に関しても、最近になって露出した幼児性の欠片などから見るに、彼女の成長過程での何かしらが影響している可能性が高い。

 

 ……正直に言うと。

 この世界で恐らくたった1人しかいない転生者であることに、寂しさを感じないわけでもないんだよね。

 だからこれは、俺の欲望が組み上げてしまった妄想でしかないのだろう。

 

 前世の記憶がある、ってさ。そんなこと言ったって、まあ信じられないわけよ。

 実際父や兄に打ち明けたことはあるけど、どっちも精神異常や冗談として扱われたし。

 信じてくれたのは……いや、あれを信じたと呼ぶべきかもわからないけど、あの妹くらいだ。

 『……まぁ、兄さんが嘘を吐く理由はないし。私くらいは信じてあげる』。これを慈悲と捉えるべきか、憐憫と捉えるべきかは微妙なとこだね。

 

 妹の言葉は嬉しかったけど、多分世間一般から見てまっとうなのは父や兄の方だ。

 前世の記憶があるなんて言う人間は、胡散臭い。自分が持っていないものを信じられる人間はとても希少なのである。

 

 そして……だからこそ。

 俺はトレーナーとして、ホシノウィルムに「前世の記憶があるんじゃないか?」なんて確認はできない。

 もし彼女が転生者じゃなかったら、不安や猜疑心と共に「何故そう思うのですか?」と訊いて来るだろう。

 それに対して俺は、理路整然とした返しができない。「俺がそうだからだ」なんて言えば、狂人か宗教勧誘と思われて関係性にヒビが入る可能性があるし。

 

 ……いや、まぁ、これでも1年以上の付き合いだ。

 多少変なことを言っても壊れない程度には信頼を築いてきた、と思う。

 

 だが、そもそもこのリスクを踏む必要性はないわけで。

 自分の寂しさなどより、ホシノウィルムとの関係性を優先すべきだ。

 俺は、堀野家のトレーナーなんだから。

 

 

 

 さて、転生者説はあり得ないとして、ではホシノウィルムは何なのか。

 俺には1つ、かなり有力な仮説がある。

 

 それは、「ホシノウィルムはライバルウマ娘なのではないか」というものだ。

 

 ネイチャシナリオの序盤テイオー。あるいは、メインストーリーライスの章の中盤あたりのミホノブルボン。

 半ば負けイベとして用意された、ビビるくらいに強いライバルウマ娘。

 ホシノウィルムは、誰かにとってのそれではないかと思うのだ。

 

 とは言っても、その対象が誰なのかまでは絞り込めないけども。

 テイオーは史実では快勝で2冠を取っていた雰囲気だったし、ネイチャのシナリオではテイオー以上の強敵と絡んだ覚えはない。

 つまり全く別の、ネームドではないウマ娘のライバルな可能性があるわけだ。

 

 ……いや、それにしてはあまりに強すぎるけど。

 彼女の性能を考えるに、それこそ無敵のはずだったテイオーの前に立ちはだかる強敵……みたいな存在感なんだよな。

 

 とすれば、考えられる可能性は2つ。

 この世界の世代が前世アプリのそれと異なっているか……。

 アプリのミークみたいな感じで、完全オリジナルウマ娘なのか、だ。

 ここはゲームの中の世界。俺が知らないだけで、あの後アプリにホシノウィルムが追加されていた可能性は十分にある。

 ミークはそうでもなかったが、あれ以降インフレと共にアホ強いオリジナルライバルウマ娘が登場した可能性は、決して否定できるものじゃないだろう。

 

 仮にホシノウィルムがライバルウマ娘だと仮定すれば、ある程度頷けることがあるしな。

 その能力が高いのは、負けイベントのボスだから。

 ネームドに反応するのは……もしかして、強く反応したウマ娘のライバルになる可能性がある、とか? ここはまだちょっと無理筋かもしれないけども。

 で、ウマ娘っぽくないのは、言ってしまえばキャラ付けだろう。やっぱライバルはキャラ濃い方が映えるもんね。

 

 ふむ……現状考えられる中では、やっぱりこれが一番的を射ている気がする。

 当面は、ホシノウィルムは誰かにとってのライバルウマ娘であるという前提で考えていこう。

 

 

 

「トレーナー、すみません。少しよろしいですか?」

「む、何だ、どうした」

 

 バインダーから目を上げると、ホシノウィルムが目の前で止まっていた。

 時間はまだたっぷりある。トレーニングが嫌になって雑談をしかけてくるようなウマ娘ではないはずだけど……。

 

「先程お伝えし忘れていました。恐らくトレーニング後は疲労困憊で再び忘れてしまうので、今のうちに。

 ……もしもトレーナーがよろしければ、皐月賞に出走する前に、私の両親にご挨拶をしていただけませんか」

「……君のご両親というと」

「はい」

 

 彼女は1つ頷き、いつも通りの無表情で言った。

 

 

 

「既に他界しています。

 墓前で、無事三冠に挑めると報告したいのです。

 クラシックレースに出走するのは、亡き母の、叶わなかった夢でしたから」

 

 

 







 両親を亡くしているホシノウィルムは、親戚に借金をしてトレセン学園に入学しています。
 更に練習用の蹄鉄付きシューズなども数えきれないほど使い潰しているので、かなりとんでもない額になっています。
 そのため、彼女がレースを通して得た金銭は殆どが返済に充てられます。
 ホシノウィルムが吝嗇家なのは、この辺りの事情に起因しているのでした。



 次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、お墓参りとつまらない話。



(追記)
 誤字報告をいただき、修正させていただきました。ありがとうございました!
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