転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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ホシノウィルムのヒミツ⑤
 実は、幼少の経験から、苦痛や疲労への耐性が強い。
 ただしその分、自分の疲れや体調の悪化は余程でないと自覚できない。

 今回はちょっと短め。





寝る寝る寝るね

 

 

 

 天皇賞(春)が終わった次の日。

 私たちは次走の対策会議をした後解散、半日の休暇と相成った。

 

 まぁ、ここまでの1か月、レースレースレースとかなり忙しかったからね。

 私も流石に疲労が溜まってるのか、気持ち思考が停滞しがちだ。精神的にちょっと行き詰まっちゃってるのかもしれない。

 

 そんなわけで私は、ストレス解消のために自主トレをする……こともなく。

 大人しく、早めに寮に帰ることにしたのだった。

 

 

 

「全く、トレーナーったら失礼しちゃうよね。私だって休むべき時は休むって言うのに」

 

 ちょっとだけぷんすこしながら、殆ど人通りのない寮の中を歩く私。

 

 歩さんったら、私が「今日は休みます」って言ったら5回くらい「ほんとに? 嘘じゃなくて? エイプリルフールはもう終わったぞ?」とか聞いて来るんだもん。流石に失礼じゃない?

 

 いやまぁ、本気で怒ってるわけじゃないけどね。

 歩さんが私のことランニングジャンキーって思ってるのは、ひとえに私のこれまでの行動の結果だ。

 休憩に入ったら走り、お休みになったら走り、なんならトレーニング中にも必要以上に走ってたし。

 ……うん。思い返してみると、結構やることやってるよね、私。ジャンキーって思われても仕方ないかもしれない。

 

 

 

 まぁ、それはともかくとして。

 

 今回自主トレをせず、素直に休もうと思った原因は、大きく分けて3つ。

 なんとなく走る気にはなれなかったっていう、気分的なものが1つと……。

 何より、流石にあのレースの後休まないのはヤバそうだなー、と思ったのが1つ。

 

 メジロマックイーンというフィジカルギフテッドと、トウカイテイオーという天才とのレース。

 今回の天皇賞(春)は、とんでもない死闘だった。

 

 マックイーンさんもテイオーも、宝塚記念は回避して秋から再起するって判断をせざるを得ないくらい、大きく消耗を強いられる戦い。

 実のところ、それが私にもたらした消耗も、決して小さくはなかった。

 

 勿論、歩さんが特に反応しなかったことからもわかる通り、脚に重大なダメージが発生したというわけじゃない。

 私の脚は相変わらず頑丈で、月1でレースに出るくらいなら大してダメージを感じない。

 いやまぁ、そういうのは本人には自覚し辛いものだったりするんだけどさ。

 それでも、ある程度体が仕上がって来た今、月1ペースの出走なら問題ないだろう、というのが精密検査の末の歩さんの分析だったわけで。

 

 

 

 とにかく、今回私が休息を選んだのは、単純な消耗からじゃない。

 ああいや、正確に言えば気持ち頭が回らない感じはあるけど、まぁこれはレース後の疲労とストレスからだろうし……。

 

 それ以上に、今日休もうと思った理由の最後の1つとして。

 私には、考えるべきことがあった。

 

 トウカイテイオーというライバルを超える方法と、宝塚記念で立ち塞がって来るライバルについて、だ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 自室に戻って来た私は、私服に着替えてベッドに横たわる。

 そうして一度息を吐いて、ぼんやりと天井を見つめながら考えた。

 

 どうすれば、私はテイオーから逃げ切れるだろうか? と。

 

 

 

 ダービー、大阪杯、天皇賞と走って来て、ついに私はテイオーに追いつかれてしまった。

 最初は大きく開いていた差を、完全に埋められてしまったんだ。

 

 ……でも、まぁ。

 正直なところ、あまり悔しさは感じてないんだよね。

 

 だって、相手は前世アニメ2期の主人公……つまりこの世界の中心点の1人、トウカイテイオー。

 勝てるはずがないとまで言われたハヤヒデちゃんとの戦いを制し、奇跡を体現した絶対のウマ娘。

 私の憧れ。私の見た夢。私の、最推しの1人。

 

 そんな子を相手にして逃げてたんだ。

 いずれは追い付かれるかもとは思ってたし、むしろ案外長く逃げ切れたなとまで思うくらい。

 転生特典の「アニメ転生」のパワーもあるけど、私自身の努力と、何より歩さんの協力のおかげだ。

 

 うん、我ながら頑張ったな。

 

 

 

 ……が、それはそれとして。

 悔しく思いはしないけど、このままじゃダメだな、とは思った。

 

 私は灰の龍、星の世代の一等星、ホシノウィルム。

 日本のあらゆる人に「最強」を期待されるウマ娘だ。

 

 ファンに、ライバルに、後輩に、先輩に、昌さんに、ソウリちゃんライスちゃんブルボンちゃんに、それから誰より歩さんに……。

 皆が、強い私を、最強の私を望んでくれている。

 

 その期待に、応えたい。

 私を見て、好きになって、愛してくれる皆への返礼として……。

 「もしかしたら、ホシノウィルムならやってくれるんじゃないか」っていう夢を叶えたい。

 

 だから、負けられないんだ。

 ネイチャ相手であろうと、テイオー相手であろうと、凱旋門賞であろうと……あるいは、ドリームトロフィーリーグに上がった先にいる、もう1人の主人公相手であろうとも。

 そう易々と、負けてやるわけにはいかない。

 

 

 

 ……それに何より、もっと楽しいレースをしたいしね!

 

 テイオーは強かった。強くなった。

 思い上がりでなければ、私のことを追いかけて一気に上がって来てくれたんだ。

 

 であれば私も、それに応じて、もっと頑張らねばなるまい。

 

 次にテイオーと戦うことになるのは、凱旋門賞後の秋のレース。

 それまでに、もっともっと強くならねば。

 

 

 

「……あー、なんか」

 

 初めてだな、多分。

 「強くなりたい」と、そう思うことは、これまでになかった気がする。

 

 昔は「強くならねばならない」と、半ば義務的に思ってた。

 歩さんに救われてからは心境が変わったけど、今度はただ「レースを楽しみたい」っていう一心だった。

 

 もっと強くなりたいと、あの子に勝ちたいと。

 そう、心の底にこうも火を灯されたのは、多分初めてのことだ。

 

 ……初めてだからこそ、正直、感情を持て余すところもあるんだけどさ。

 

 

 

 テイオーは、強い。

 いや、「強い」っていうか、もう「ヤバい」って領域に足を踏み入れてる。

 

 あの子は正真正銘、典型的な主人公タイプだ。

 圧倒的な素質と素養を持ち、何より窮地に陥った時の覚醒っぷりがエグすぎる。

 特に、今回見せた終盤の末脚。アレはもはや怪物のそれだ。

 いや、私が言うなって思うかもしれないが、ぶっちゃけ私基準でもありえん化け物レベルだったんだよ。

 

 一般的に言って、ウマ娘のレースは、時代の経過と共に洗練されていくものだ。

 20年前に1着を取った子の勝ち時計は、20年後には同レースで8着程度の記録に落ちたりする。

 これは私たちの技術やレースの展開への研究が進むと共に、優駿の血がより洗練されることで、競走ウマ娘のスタンダードな水準が上がるため。

 だからこそ、ウマ娘のレースは血統が重視される「ブラッドスポーツ」なんて呼ばれたりもする。

 

 まぁ、私とかブルボンちゃんみたいな寒門出身の突然変異が、大事に培ってきた血筋を超えてきたりもするわけで、血統だけが全てというわけではないんだけど……。

 

 それでも、血筋というのは決して小さくないパワーを持ってる。

 超良血と言っていい血筋のテイオーがアレなことを見ても、これに関しては間違いないだろう。

 

 ……いや、それにしたって天皇賞(春)のラスト600メートルを中距離並みのペースで駆け抜けるのは、もう血とか常識とか色々超えてる気もするけども。

 テイオーのあの走り、総合タイムはともかく、上がり3Fのタイムだけならあと20年は抜かされないんじゃなかろうか。

 化け物じみた素質だけで血筋の常識ぶっ壊すのやめてくれませんかね。いやこっちこそ私が言えたことじゃないかもしれないけども。

 

 

 

 で。本質的に、ホシノウィルムは早熟で、トウカイテイオーは晩成と言える。

 

 私はトレセンに来る前から必死に走ってたから、トゥインクルシリーズに参加した時点である程度の実力を持ってた。

 ……歩さん曰く「本格化前にここまで高い実力(ステータス)を持っているのは前例のない事態」らしいので、転生特典による効果もあるかもしれないけどね。

 

 一方でテイオーは、皐月賞の時のアレを見てもわかるように、最初の頃は努力の質が中途半端だったんだよね。

 だからこそ、体の成長とか心の整い方が万全でなく、血筋の力を引き出し切れてなかった。

 それが引き出された途端、たった1か月で7バ身以上の差を詰めてきたり、長距離で私に追いついてきたりするわけだ。

 

 ……血統のことを考えてもなお、とんでもない化け物だな、テイオー。伸び方が尋常じゃない。

 私、これでも転生チート持ちなんですけど? なんで平然とチート超えて来るんですかねホント……。

 

 

 

「うーん……」

 

 なんかベッドでただ横になってるというのもアレなので、布団を被って目を閉じながら考える。

 あー、なんか落ち着く。ずっとこうしてたい。

 ……じゃなくて、そう、テイオーのことね。

 

 どうすれば、あの才気の怪物よりも速く走ることができるだろうか。

 

 正直な話、ホシノウィルムには大した才能はない。

 まぁ「私」自身の要領は良い方だけど、それはあくまで要領に過ぎない。

 要は「物事の習熟が早い」というだけであって、テイオーのように「走りに関することなら何でもわかるし何でもできる」とかいうぶっ壊れギフトではないんだ。

 

 まぁ私、転生特典で強化されてるとはいえ、元の血統的にはアレなウマ娘だからね。

 それだけでレースを勝ち切る才気、なんてものを持っているわけではない。

 

 勿論、これまでに勝ってきたんだもの、私には他に武器がある。

 あるが……それも、この上なく強力かと言われるとそうでもない。

 

 転生特典は強力ではあるけど、あくまで脚が頑丈なのと一時的に思考が爆速になるだけで、走りを完璧にする以上のことはできない。

 まぁ真っ当な思考力の子なら出せない、という意味では上限突破と言えるだろうけど……それでも、テイオーのように理屈も常識も全部ぶっ飛ばして、なんてことはできないんだ。

 

 前世知識っていうアドバンテージもあるけど、それにしたって前世の「私」の競馬やレースへの知識はあまりにも半端で活かせることが少ない。

 もうちょっと競馬とかについて詳しければ、あるいはトレーナー抜きでも中央で戦えたかもしれないな。

 あぁいや、でも駄目だな、それ。歩さんに出会う機会がなくなってしまうかもだし。

 

 とにかく私は、それらの強みを全部ひっくるめて、ようやくテイオーという怪物から逃げ切ることができていたわけだが……。

 

 ついに今回、その限界が来てしまったわけだ。

 

 

 

 元より、わかっていたことだ。

 トウカイテイオーからは、逃げ切れない。

 何故なら彼女は、強くて可愛くてカッコ良い、ネイチャの言葉を使えば「キラキラした主人公」だから。

 

 前世で彼女を推していたオタクとしての「私」は、そんな彼女の素晴らしい躍進に、驚きながらも大いに喜んでいるんだけど……。

 今世で皆の期待に応えようと走る「ホシノウィルム」は、これは油断ならないやべー展開だぞと心を震わせている。

 

 

 

 ホシノウィルムという競走ウマ娘は、奇策を巡らせるタイプではない。

 いやタイプではないっていうか、そもそも巡らせることができないと言うべきか。

 

 大逃げという脚質は、バ群から大きく離れる走り方。

 他のウマ娘たちからの影響を受けない代わり、影響を与えられないという短所もあるわけだ。

 精々できるのは、私の存在を意識させて、レース全体のペースを上下させる程度だけど……。

 大阪杯の時にテイオーに手玉に取られたことから考えても、やっぱり私にそっちの才能はなさげだ。

 

 だからこそ、最近の私は自分のスペックを押し付けて勝つ、マックイーンさんと同じような戦い方が主眼になっていたんだけど……。

 テイオーも同じフィジカル頼りで突っ込んできて、それであんな有利な条件でも負けかけたんだから如何ともし難い。

 

 どうしようもないんだよなぁ……本当に、テイオーは最強のライバルだよ。

 

 

 ……結局のところ、私にできることは、とにかく体を鍛えることだけだ。

 歩さんの指導下で、とにかく……とにかく、走って、体を鍛える……。

 

「…………?」

 

 あれ、なんか、思考が鈍い……鈍くなってきた。

 

 ……っていうか、あれ、なんで私、布団に入って目を閉じてる?

 

「ん、うぅ……」

 

 あ、駄目だ。

 

 意識が途切れ、途切れに……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 結論から言おう。

 

 熱を出した。

 

 いや、正直、なんかおかしいな? とは薄々思ってたんだよ?

 今日は走るより色々考えたいなーとか思って自室に帰ってきたり、自然と布団被っちゃったり目をつむっちゃったり。

 なーんか体が本能的に動くというか、やけに体を休めたがってるなーって、ちょっとだけ思ってた。

 

 まさかそれが、体調を崩していたからだとは……。

 

 

 

「37度、3分……」

「……微熱、ですね。……食堂に言って、お粥を作ってもらいますので、ウィルちゃんは寝ていてください」

「すみません、先輩……」

 

 帰って来たミーク先輩の心配する声で目を覚まして、顔が赤いからと体温計を渡され、私はようやく自身の体調の悪化を確認した。

 確かに、気付けば体は怠いしちょっと熱っぽい。

 目を動かすと若干の痛みがあるし、関節も凝ってる感じだ。

 

 案外わからないものだね、自分の体調悪化って。さっきの作戦会議の時には、気合が入ってたからか、全然認識できなかった。

 いや、歩さんや昌さんに何も指摘されなかったことも考えると……諸々が終わって気が抜けてしまい、寮に帰って来てから急激に悪化したのかな。

 ここ最近急に暑くなって、夜は軽装で寝ることが多かったんだけど、もしかしたらそれで体を冷やし過ぎちゃったのかもしれない。

 

 今や、体を動かせない程ではないにしろ、ベッドから立ち上がるのが酷く億劫になるくらいには、全身に怠さを感じている。

 そうしてあろうことか、同室のミーク先輩をパシリのように使ってしまった。

 いや、あっちから行ってくれたのを使ったとするのは、若干違う気もするけど……。

 

 

 

「……うぅ、なさけな……」

 

 思わず弱音を漏らしてしまう。

 

 ホントは今日、ミーク先輩に改めて宣戦布告するつもりだった。

 2か月後の宝塚記念、ネイチャは療養中だし、テイオーとマックイーンさんは回避するらしいし、恐らくはハッピーミークとの戦いになるだろう……というのが、歩さんの読みだった。

 

 実のところ、ハッピーミークというウマ娘は、私にとって特別な存在だ。

 去年どころか一昨年、ダメダメだった私に付き合って、アドバイスをくれたり邪魔しないようにしてくれたりして、ずっと支えてくれた先輩。

 その付き合いは契約トレーナーである歩さんよりなお長く、ぶっちゃけ言えば両親のいない私にとって、この世界で一番長く付き合ってる相手だ。

 

 特に、トレセンに入ってから1年の間、私がレースの楽しさに目覚めるまでは、本当にミーク先輩のお世話になった。

 彼女がいなければ、あるいは今、ここに私はいないんじゃないかって程に。

 

 

 

 そんな特別な相手だからこそ……。

 私は、ミーク先輩との決着を付けたかった。

 

 

 

 トゥインクルシリーズ現役で最強のウマ娘は誰かと訊けば、人それぞれに十人十色の答えがあると思う。

 しかしそれでも、その名が上がりやすい傾向のあるウマ娘は存在する。

 

 最近は奮ってないらしいけど、マイル・短距離路線で走ってるダイイチルビー先輩。

 既に本格化を終えて完成に最も近い、最強級ステイヤーのメジロマックイーンさん。

 才能の暴力で全てを捻じ曲げる理不尽の極み、この世のバグみたいな存在であるトウカイテイオー。

 レースを自在に操り、自分が勝つ状況を創り出すことに長けた、レースメーカーのナイスネイチャ。

 新進気鋭の無敗皐月賞ウマ娘、適性の壁を越え得る走りを見せるミホノブルボンちゃん。

 短距離・マイル方面で抜群の素質を見せつけて桜花賞を制した、ニシノフラワーちゃん。

 

 そしてこの私、天皇賞勝利でG1レース8勝となり、国内最多勝の称号をシンボリルドルフ会長から奪い取ったホシノウィルムと……。

 短距離、マイル、中距離、長距離。その全てのG1レースで勝利を収めたオールラウンダー、ハッピーミーク先輩。

 

 1年前に聞いた時と同じく、ミーク先輩は今も、最強の一角に座している。

 であればこそ……相手が強く、親しい相手だからこそ、雌雄を決したいと望むのはウマ娘の性だろう。

 

 本当は、去年の有記念で決着を付けるつもりだったけど……。

 私も歩さん関連のごたごたがあったりで、互いに結果が振るわずなあなあに終わってしまった。

 

 だから、今度こそ勝ちたい。

 次にいつ2人で走れるかもわからないんだ。

 ここ、宝塚記念という場で、私はミーク先輩に勝って……。

 日本最強のウマ娘として、フランスに殴り込んでやるんだ。

 

 

 

 ……と。

 

 そんな風に決意を決めていた私ですが、現在ミーク先輩にお粥をスプーンで口に運ばれてます。

 ふーふーまでしてくれて優しい……! でもその分、自分の無様っぷりが悲しすぎる……!

 

「……熱くないですか?」

「らいじょふれふ……」

 

 味は薄いけど、ピリピリ痺れるように感覚がおかしい今の舌には、これくらいがちょうどいい。時々転がってるちっちゃいにんじんもほろほろ崩れて美味しい。

 

 弱った時には、人の気遣いが温かく響くものだ。

 ……いやまぁ、私あくまで微熱だし、別にそこまでしんどいわけでもないんだけどさ。

 

「んっ……すみません、先輩」

「……いいえ。……こういう時くらい、先輩っぽいこと、させてください」

「ミーク先輩は、いつも私の尊敬する先輩ですよ」

「……ふふ、ぶい」

 

 先輩はお粥を掬ったスプーンをこちらに差し出しながらもう片方の手でブイサインを作り、芦毛を揺らして微笑む。

 

 口数が少なくて自己主張少な目、ちょっと独特で突飛な発想をしてて、感情が表に出てこないおっとりした表情してるから誤解されがちだけど、ミーク先輩は変なウマ娘じゃない。

 落ち込んでれば気付いて事情を聞いてくれるし、弱ってれば助けてくれる。

 そんな至極真っ当に優しい、理想の先輩みたいなウマ娘なのだ。

 

 

 

「ちょっと、申し訳ないです……。ミーク先輩に、私、何もお返しできてなくて」

 

 私が両親から愛してもらえなかったことにふてくされてたやべー奴だった時期から、ミーク先輩は嫌な顔1つせず私と付き合ってくれた。

 そんな彼女に対して、私が何かをお返しできたかと言うと……何もない。

 精々が時々ジュースとかお菓子とかを供する程度で、それだって私たちG1ウマ娘からすれば大して大きな加点要素じゃない。

 

 歩さんに次ぐ恩人とすら言っていい彼女に、レースを前にしたこんな時まで迷惑をかけてしまう。

 それに、ちょっとばかり罪悪感を覚えてしまった私だけど……。

 

 ミーク先輩は、首を横に振った。

 

「……いいえ。……ウィルちゃんには、たくさんもらってますから」

 

 お菓子とジュースのことか。

 いやいや、受けた恩はあんな即物的なものじゃ返せないだろう。

 

「いや、足りないですよ。もっと、なんというか、先輩に恩返ししたいです」

「……うーん。……それなら、1つ、お願いがあるのですが」

「何でしょう。私にできる範囲でなら」

 

 言うと、ミーク先輩は相変わらず感情の読めない無表情で、しかしその瞳の奥に確かな炎を燃やして、言った。

 

 

 

「……宝塚記念……本当に、全力で、来てください。……私は、今度こそ、超えてみせますから」

 

 

 

 「今度こそ」って言うのは、有記念でしっかり決着を付けられなかったこと……だけじゃないかな、この感じ。

 

 彼女が何を考えてるのかは、残念ながらわからない。

 私はハッピーミーク先輩のことを、何も知らない。

 ネームドではない彼女のこと、その物語を、私はこの目で見ることはできなかったから。

 知っているのは、その優しい心根と青空を見上げる癖、それから……シニア級に入るまでは重賞未勝利で、そこから3年でG1レースを4勝するまでになった晩成型のウマ娘だっていう事実くらい。

 

 だから、彼女が何を思って、何を超えたがっているのか、私にはわからなかったけど……。

 

「ええ、勿論。……覚悟してくださいね、私、この2か月でもっともっと速くなりますから」

 

 そう言って、私は先輩に、ニヤリと微笑みかけたのだった。

 

 

 

 まぁ、その後。

 

「私、ホシノウィルムでえふっげほっごほっ」

「……大丈夫ですか、ウィルちゃん」

 

 結局、微妙に決まりきらない感じになっちゃったけども。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ちなみに、その数時間後。

 

 そろそろ消灯時間になる頃、うとうとしていた私は、ふと思い出す。

 

「……あ、トレーナーに、体調崩したって、言ってない」

 

 …………ま、まぁ明日でいいでしょ。

 そこまで体調悪いってわけでもないし、もしかしたら明日には落ち着いてるかもしれないし?

 夜分遅くに連絡したら、歩さんの好感度的なのが下がっちゃうかもしれないし?

 

 よし、取り敢えず寝よう。

 明日にはきっと、また元気にターフを走り回る毎日が始まるはず……。

 

 

 

 と、そう思っていたんだけど。

 

 翌朝、体温を測ってみたら……。

 

「……37度、7分」

 

 やべ。

 完全にやっちゃったよこれ。

 

 

 







 寝不足だったり疲れてたりする時、なんやかんや理由を付けて体がベッドに向かうことあるよね。



 次回は3、4日後。堀野君視点で、看病と遠隔管理の話。



(本編に関係ない呟き)
 葬送のフリーレンの二次創作始めたので、お暇な方は是非ご覧ください!

(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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