転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

160 / 253
 ウマ娘やってるとダービーのこと軽視しやすくなりがち問題。
 あらゆる競馬関係者にとっての夢の舞台なんだよなぁ……。





ホースマンズ・ドリーム

 

 

 

『早いもので5月も末、梅雨の迫る本日東京レース場で開催されるのは、すべてのウマ娘が目指す頂点、日本ダービー!

 クラシックレースの2戦目であり年に一度の夢の舞台。今日新たに歴史に蹄跡を残すのは、18人の内の誰になるのか!』

 

 

 

 ターフを眺める私たちの元まで、実況の言葉が響く。

 

 トゥインクルシリーズのG1レース、日本ダービー。

 去年これを制した私ではあるけど、実のところ、当時の私はこのレースが持つ意味を理解してはいなかった。

 

 まだお父さんの言葉に囚われた私が興味を持ってたのは、レースで敗北しないことと、一緒に走る相手。

 ぶっちゃけ強敵が出て来るのならオープンレースだろうが大歓迎だったし、逆に強敵がいないのならG1レースだろうがお断り、と思ってたのが実情だったんだよね。

 

 勿論、今はそうじゃない。

 あの宝塚記念で自分の世界を確立して以来、私の視界には、ファンのキラキラした目が入って来るようになった。

 格が高い、難しい、強敵揃いのレースに出てほしい。そうして勝ってほしいと、どこまでも貪欲に、どこまでも純粋に望む目が。

 

 今の私は、それに応えたいと望んでる。

 力を貸してくれるファンに、結果と言う形でお返しをしたいと。

 だからこそ、今年に入ってからのホシノウィルムの目標は「できるだけたくさんのG1レースに出ること」、そして「凱旋門賞に勝つこと」の2つになったわけだ。

 

 

 

 ……で。

 そんな風に、ファンのことも見ることができるようになったからこそ、気付けることもある。

 

 それが、日本ダービーというレースの、一種異様なまでの盛り上がり方だ。

 

 

 

 早いものでもう1年の折り返しが迫る、5月末日のこと。

 トゥインクルシリーズで使われるメジャーなレース場の1つ、東京レース場。

 そこには、実に20万人近い人間とウマ娘が集まっていた。

 

 当然ながら、一般に開放されている区画にはとんでもない人だかりができており、ちょっと湿気を感じるくらいの熱気がそこら中に充満している。

 それでも誰もが笑顔でレースを楽しみにしている辺り、まさしく年に数回しかない祭典といった風。

 元オタクの私的には、ちょっとだけ馴染みのある雰囲気だ。

 

「うーん、盛況ですねぇ」

 

 思わずぼんやり呟いた私の言葉に、横を歩いていた歩さんが苦笑し、昌さんは眉をひそめた。

 

「え、なんですかこの感じ。私また何か言っちゃいました?」

「言っておくが、君とテイオーのダービーこそ、最も人を集めたダービーだぞ。

 前年アイネスフウジンの19万6千人を越え、今のところ史上唯一20万人を集めたレース。入場者数の世界レコードだ」

「そうだったんですか!?」

 

 マジか。これより多かったのか。

 それは……みんな大丈夫だったかな。熱中症とか脱水症とかならなかった?

 

 ていうか、世界レコード? そんなに注目されてたんだなぁ。

 確かに、今の私は控えめに言って日本で一番人気のあるウマ娘な自負はあるけど、対して当時の私って結構アレな子だったと思うんだけどね。

 

「なんでそんな人が多かったんですかね? 皐月賞でテイオー千切っちゃったから?」

「要因を1つに絞るのは難しいが……本来逃げウマ娘に不利なダービーでアイネスフウジンが伝説的勝利を収めた翌年、皐月賞でテイオーを破った君の活躍が期待された、というのもあるだろうな」

 

 なるほどね。

 レースの王道の勝ち方は、やはり差し切り勝ち。

 しかし、あるいはだからこそだろうか。ハナを切って走り出す逃げは、とても目立つが活躍しにくいレースの花形であり、その活躍を望む声も多い、ってことか。

 

 特にアイネス先輩の当時の人気ってすごかったらしいし、それに乗っかった形で私も人気が出たわけだ。

 今思うと、確かにテイオーのライバルから1人の競走ウマ娘へと、私の外からの評価がガラッと変わったのはダービー出走くらいからだった気もする。

 うーん、役得と言おうか棚ぼたと言おうか。先輩にはちょっと申し訳ないな。

 

 

 

 顎に手を当てそんなことを考えていると、昌さんはちょっとしらっとした視線を向けてくる。

 

「ホシノウィルムさんって、時々ちょっと、なんというか、抜けてますよね」

「ま、まぁ……ちょっと去年は色々あって、お客さんにまで気を回している余裕がなかったというか」

 

 当時のことを掘り返されるのは、恥ずかしい。

 あの時はまだまだ心身ともに未完成で、領域すら習得してない中途半端な走りを披露しちゃったわけだし。

 

 まぁ、過去は全部未熟な黒歴史と言えばそれはそうなんだけどね。

 多分今の私も、1年後の私から見るとめちゃくちゃ酷い走りをしてるって見られるんだろうし、2年後は1年後の私にそう言うだろう。

 恥の多い人生を送って来たどころか、恥の塊みたいな人生を送ってるのが私なのである。

 

 

 

 私は過去の恥を誤魔化すように、ぎゅうぎゅう詰めになるレベルで集まっているファンを眺めた。

 

「でもやっぱり、レースの当事者として見るのと、客観的に見るとでは全然違いますよ。

 日本ダービー……こんなに注目される、すごいレースだったんですねぇ」

 

 20万人近い人たちが、今から行われるレースを見に来てる。

 これは、本当にすごいことだ。

 

 だってそうでしょ。

 色んな趣味、色んな題材を持ち寄るコミケですら、来場者数は多くても1日平均20万人だったと思う。

 

 でもダービーでは、それと同じ人数が、たった1つのレース、たった1つの題材のために集まるんだ。

 改めて、この世界の「ウマ娘のレース」というコンテンツの強さと人気を感じるよ。

 そりゃ国民的スポーツって呼ばれるわけだよね。

 

「やっぱりトゥインクルシリーズって人気があるんですね。再認しました」

 

 感心して頷いている私の横で、昌さんは額に手を当て、歩さんはまた苦笑している。

 

「……この子、自分がその人気を爆発させてるって自覚はあるのかな」

「ないよ。ウィルはそういうの無頓着な子だからさ」

「ファン相手にはサービス精神旺盛なんだけど……プロ意識が高いのか低いのかよくわからないよね」

「プロ意識は高い。ただ自分の興味ないことにはとことん視線が向かないとこあるんだよね」

「あー、勉強とか」

「毎回赤点スレスレラインで冷や冷やするよね……」

「あのーすみません、そういうのって本人の聞いてないところで言ってもらえますか。流石にちょっと申し訳なくなってくるので」

 

 本当にすみません。特に勉強はすっごくすみません。

 これウマ娘共通の問題だと思うんですけど、机に座ってるとついつい走りに意識が流れて、全然集中できないんです……。

 気付けば体は競走を求めてグラウンドに走り出しちゃうんですよ……。

 

 いやでも、真面目な話、無敗三冠ウマ娘が赤点で落第とかスキャンダルって次元じゃない。

 次回のテストからは、もうちょっと頑張らなきゃな。

 

 取り敢えずはこのレース見て、ブルボンちゃんをしっかり祝って、ぐっすり寝て、明日から頑張ろう。

 一旦体調を整えて、万全の状態からスタートするのがスマートな選択というヤツである。 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 と、いつの間にか話が逸れてしまった。

 私の話じゃなくて、今はダービーの話ね。

 

 一応、事実として知ってはいた。

 日本ダービーは、特別なレースだ。

 

 海外から刺客が来るジャパンカップや年末の大一番である有記念に規模こそ劣ってしまっているけれど、来場者数は未だ全レースで最大。

 恐らく「国内で最も大きなレース」と言われれば、これを挙げる人も多いことだろう。

 

 クラシック級5月という絶妙な時期に、2400メートルというメジャーな距離で競われるそれは、「最も運の良いウマ娘が勝つ」という風評に反し、かなり実力の要素が大きく出るレースだ。

 特に最終直線が長いことが大きくて、多少展開が悪くとも、後方のウマ娘が追い上げられるだけの余地がある。

 そのため誰しもが活躍するチャンスを持ち、だからこそシンプルな実力のぶつかり合いになりやすい、というわけだね。

 

 クラシック三冠全体を中・長距離の世代最強を決める戦いであるとするのなら、ダービーは世代の主人公を決める戦い。

 そう言っていいくらいの、高い格と適度な条件の揃ったG1レースなのである。

 

 

 

 ……けど、そうやって条件が平等に近くなったことによる弊害もまたあるわけで。

 

「クラシックレース2つ目の冠、日本ダービー。このレースは、逃げウマ娘に不利だ」

 

 人差し指を立てて解説を始めた歩さんの言葉が、まさしく私の真意を代弁してくれた。

 

「本来……まぁ、他を大きく千切ったり叩き合いや差し返しをしたりするどこかの大逃げウマ娘を例外としての話だが、逃げウマ娘の勝ち方の王道は『逃げ切り』だ」

 

 ……一体誰のことなんだ、って茶化すような空気でもないかな。

 ひとまず今はスルーしましょう。後でちょっとぷんすこするけど。

 

「最初からハイスピードを出す関係上、逃げウマ娘の終盤の速度はどうしても後方のウマ娘たちに劣る。

 そのため、他のウマ娘との位置関係や自分の残存スタミナを考え、後ろの子たちが出して来るトップスピードから逃げ切れるだけのリードを最終直線までにキープしておく、というのが必須になるわけだ」

 

 歩さんの口から語られるのは、確かに私には縁遠い世界の話だ。

 私はトレーナーの指示通りにズバーンと抜け出てそのまま走って、最後に叩き合って抜かせない……いわゆる「逃げて差す」、あるいは「大逃げして追い込む」ってのが基本戦術だしね。

 レース中に色々考えて調整するのは、それこそ第3コーナー以降の「アニメ転生」使用中くらいだ。

 

 あくまで想像だけど、序盤からスタミナだの残存距離だの考えて走るのは、なかなかに骨が折れそうだ。

 みんな頭使ってレースしてるんだなー。すごいや。

 ……もしかして、ただ私がバ鹿なだけか? 一応歩さんの指導で、戦略眼は鍛えてるつもりなんですが。

 

 

 

 懊悩する私の横で、歩さんは無表情でレース場を見ながら話を続ける。

 

「しかし、この日本ダービー……と言うより東京レース場では、逃げ切りは難しい。全レース場でもトップクラスに長い、525メートルの最終直線があるからだ。

 どんなに優れたウマ娘であろうと、コーナー内で速度を出しすぎれば遠心力に弾かれてしまうため、トップスピードまでは出せない。

 だが直線に入ったら話は別だ。故にこそ最終直線が長いということは即ち、先行・差し・追込のウマ娘が脚を残すことが少なくなる……つまりは全力を出すことができることを意味する。

 相対的に、後半に全速力を出せない逃げウマ娘は不利になる、というわけだ」

 

 この部分はすごくわかる。

 私も去年、ダービーの長すぎ直線とテイオーのとんでも末脚に苦しめられた。

 ていうか、なんならホシノウィルムが完全に追い抜かれたのって、多分あのダービーのテイオーと有記念スズカさん+スペ先輩だけだからね。

 逃げウマ娘にとっての525メートルという距離の厳しさは、もはや語るに如かずといったところだ。

 

「客観的に見て、今回のダービーはミホノブルボンにとっての2つ目の試練となるだろう。

 中距離区間への適性を試された皐月賞に続いて、400メートルの距離延長と長い最終直線に対応し切れるかを測られる日本ダービー、といったところだな」

 

 

 

 歩さんはそこまで言ってふぅと息を吐き、さっき昌さんが買ってきてくれたジュースを口に含んだ。

 

 私たちの陣営では、レース前には歩さんによる解説と展開予想が語られるのが通例になっている。

 一応1か月くらい前の対策会議でも語られている内容ではあるんだけど、自分のレースでもないと1か月もすれば忘れてしまいがちだから助かるね。

 

 ……ちなみにこの解説、地味にネットで話題になってるんだよね。

 この前エゴサしてる時に知ったんだけど、ホシノウィルムのトレーナーがレース前に毎回そのレースの解説をしてるってことは既に知れ渡っており、レースの時にこの近くに陣取れるのはかなりのラッキー扱いされてる。

 歩さんの解析はかなり正確だし、その上私orブルボンちゃんのどちらかが近くにいるってことだしね。

 一般の方からすると、レース観戦としては垂涎の環境なのかもしれない。

 

 

 

 と、それはさておき。

 

「ライバルになりそうな子は、やっぱりライスちゃんですか?」

 

 私が訊くと、歩さんはきゅっと眉を寄せ、顎に手を当て考えるような表情。

 

「……そうだな。悔しいけど、ライスシャワーは強敵だ。

 皐月賞の時よりミホノブルボンとのステータス上の差は少しだけ埋まっているし、スタミナに限っては元より高かったのが更に上がっている。状態も非常に良好で、精神的にかなり仕上がっている状態だ。

 長い最終直線を考えても、間違いなく2着は彼女になるだろう」

「2着は、ですか」

「勝つのはミホノブルボンだからな」

 

 おぉ、歩さんにしてはちょっと珍しい、断言だ。

 

「その心は? 信頼ですか?」

「信頼半分、客観的予測半分、といったところ。

 実際のところ、何かしら事故を起こしたりしない限り、今回勝つのはあの子だよ」

 

 どうやら想像以上に高く評価されてるな、ブルボンちゃん。

 

 ……あぁ、違うか、これは。

 いや、ブルボンちゃんが高く評価されてるのは間違いないけど、多分歩さんが見ているのは別のポイントだ。

 

「もしかして、ライスちゃんって……」

「うん、まだ見えない(・・・・)。だから見えてる(・・・・)ブルボンには勝てないよ」

「途中で覚醒するパターンもあるんじゃないですか? 私もそうでしたし」

「あり得るね。でも、同条件ならブルボンが勝つよ。今回は張り合ってくる逃げウマ娘もいないし、彼女の敗北条件が揃っていない」

 

 堂々と断言する歩さんは、なんというか、少し珍しい感じ。

 ついこの前の大阪杯とか天皇賞の時なんて、「多分勝てるはずだ。恐らく。可能性としては勝てる方が高い。はず」みたいな、とんでもなく消極的な姿勢だったのに。

 

「……なんか歩さん、落ち着いてますね?」

「わかるか。いや、わかるよな、ずっと一緒にいた君なら。

 ま、これまでずっと苦しめられてきた要素を味方に付けることができたんだ、落ち着きもしようというものだろう」

「あぁ、なるほど」

 

 そう言う歩さんは、どことなく今の状況を楽しんでいるように見えた。

 

 でも、気持ちはわかるよ。

 歩さん、いつも領域に頭抱えてたもんね。

 それなのに、今回だけは領域をブルボンちゃんだけが覚えてる状態だ。いつもと違って完全にアドバンテージにできた状態。

 そりゃあちょっとばかり、落ち着きもでてくるってもんか。

 

 

 

 なんだか微笑ましい気持ちで歩さんを見てると、去年のことを知らない昌さんが歩さんに尋ねる。

 

「……えっと、これまでそんな酷かったの?」

「まぁ、クラシック級の頃から、テイオーに先を越されネイチャにも先を越され、シニア級に入ってもテイオーに2つ目を先に取られたり条件が合わなかったりと、なにかと領域とは相性が悪かったんだよね、俺。正直自尊心ボロボロになったよ当時は」

「そんなに……」

「いやぁ懐かしい。大変でしたねあの頃は」

 

 わざわざ昌さんに言う気はないけど、去年の今頃、歩さんめちゃくちゃ鬱かつ視野狭窄になってたもんなぁ。

 どう考えたって歩さん以上のトレーナーさんなんていないのに、もっと良い人を探すからトレーニング付けてもらえ、とか……あー思い出すだけでちょっとムカムカしてきた。

 

 土台領域なんて、厳しいトレーニングは前提として、上手く心と体が噛み合うタイミングが来なければ目覚めないものだ。

 それを身につけられないのはトレーナーとウマ娘2人の問題であって、トレーナー個人に責任がいくものじゃない。

 

 ブルボンちゃんの場合も、歩さんが方向性を示していくつかのレースでしっかりと身に馴染ませ、ブルボンちゃんが自分自身との向き合い方を見つけ出したからこそ習得できたのであって……。

 

 ……あれ。

 ていうか問題があったのって、もしかしなくとも私側では?

 歩さんが領域と相性が悪いというよりは、私が領域を身に付けるのが遅すぎたり条件が合わないレースに出ちゃったりしたのが悪いのでは?

 私、歩さんの心を支えるどころか、無駄にダメージ負わせちゃってないか。

 

 い、いや、2人で抱える問題だし? どっちが悪いとかないし?

 まぁ責任で言えば歩さん:私が2:8くらいになるかもしれないけど、それでも2人が悪かった、って感じだし?

 

 ……今度、歩さんの肩揉んであげよう。デスクワークで凝ってるだろうし。うん。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ちょっと申し訳なくなっている間に、私たちが見る本バ場に、いよいよウマ娘たちが入場し始める。

 

 実況解説は彼女たちについて、1人1人の詳細を丁寧に語っていくが……。

 やはり、彼女に焦点が当たると、周りのボルテージが一気に上がった。

 

 

 

『1番人気は当然この子、無敗の皐月賞覇者、7枠15番ミホノブルボン!

 血統的な距離限界を不安視されていた彼女ですが、先月の皐月賞では群を抜けた実力を示し、2バ身差の逃げ切り勝利を刻みました。

 正確無比にラップを刻む走りは、まさしくサイボーグの如し。栗毛の超特急は2つ目の冠を手にし、その夢へと近づくことができるのか!』

『これ以上ない仕上がり、周りのウマ娘とは一回り違いますね。これは期待できそうです。

 仮に彼女が1着を取れば、3年連続で逃げウマ娘の日本ダービー勝利となります。ダービーの常識と距離適性の常識、2つの壁を越えられるでしょうか?』

 

 

 

「7枠15番は……ちょっと美味しくないですよね」

「そうだな」

 

 ゲートインは基本的に、奇数の番号から入って行って、偶数の番号へと続く形。

 要は1番3番5番と始まり17番まで入った後、今度は2番4番6番と入って18番まで続くんだ。

 

 で、ゲートに長期間入っていると、結構個人差はあるけど、閉塞感とかレース前の緊張に当てられて、どうしても集中力が削がれる。

 なので、後から入る偶数番の内枠、2番とか4番辺りが一番好ましかったんだけど……。

 残念ながら、結果は真逆、奇数番な上に外枠だ。

 

「ブルボンちゃん、ゲートは結構苦手なタイプですよね。大丈夫でしょうか」

「問題ないはずだ。……多分」

「多分ですか」

「彼女の心のことは、彼女自身にしかわからないからな」

 

 そりゃそうだ。

 けど、歩さんが「問題ないはず」って言うってことは、何かしらの勝算があるってことだろう。

 

 本来は先輩たる私も、色々察して「そうですね」って後方腕組先輩面したかったんだけど……。

 最近はブルボンちゃんと分かれてトレーニングすること多くて、イマイチ彼女の変化を実感できてないんだよね。

 

 まぁ、今日のブルボンちゃんは皐月賞の時よりなんとなくドッシリしてるというか、強そうな気配はある。具体的には、なんかこうオーラっぽいモノを感じるレベル。

 「いやオーラって何だよ」って思われるかもしれないけど、あるんだよそういうのが。ちょっと近寄り辛くすら感じる、威圧感的なモノ。ウマ娘になってみればわかる。

 多分これ、歩さんが「覚醒」って呼んでるものに近いと思うんだけど……それはともかく。

 

 そういう、オーラみたいなのを出してる時のウマ娘は、強い。

 ダービーのテイオー、菊花賞のネイチャ、ジャパンカップのマックイーンさん。これまで何度も、私はそんなウマ娘たちに苦戦させられてきた。

 

 今回のブルボンちゃんも、良い走りを見せてくれそうだという予感がある。

 果たしてそれが現実になるかは、彼女の走り次第なのだけれど。

 

 

 

『2番人気はこの子、7枠13番ライスシャワー!

 皐月賞でただ1人ミホノブルボンのペースに追従し、2着を勝ち取ったことが評価された形ですね。

 この東京レース場でこそ、祝福の雨は降り注ぐのか? 彼女の奮闘にもご注目ください』

『ライスシャワーの魅力は、何と言ってもその長く使える末脚。皐月賞よりも400メートル延びた距離、そして500メートルの長い最終直線は、彼女にとって有利条件となるでしょう。ミホノブルボンを止めるのは彼女になるのか?』

 

 

 

 一方でライスちゃんは、まだオーラまでは纏ってないような感じ。

 ハードなトレーニングが故か、確かに今の彼女は、ブルボンちゃんのライバルと目されるくらいには強そうだ。

 

 ……だけど、心身共に、整い方はブルボンちゃんの方が更に上だろうね。

 あとはレース中の覚醒次第だけど……まぁ、難しいかなぁ。

 

 だってブルボンちゃん、去年のダービーの時のテイオーみたいな目をしてたし……。

 私自身、どちらに惹かれるかと言えば、ブルボンちゃんの方だ。

 

「今年の主人公はブルボンちゃんかな」

 

 私はボソリと、誰にも聞かれないくらいの声で呟いた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

『さぁ、今18番グレイトハウスがゲートに入って行きました。

 全18人のウマ娘たちのゲートインが完了。出走準備が整いました』

 

 

 

 そうして、始まる。

 

 東京レース場、芝の左回り2400メートル。

 天気は曇り、バ場は稍重、フルゲートの18人。

 

 年に1度、世代の中心を決める……。

 日本ダービーが。

 

 

 

『……スタート!!』

 

 

 







 僕はね、読者様。今回でダービーの描写に入りたかったんだ。
 でも、残念ながら尺は有限で、他の描写を書いていると続けるのが難しくなる。
 そんなこと、もっと早く気付けば良かった……。

 そんなわけで、お待たせして申し訳ない。次回いよいよレースが始まります。



 次回は3、4日後。夢に迫る者の視点で、日本ダービー後編と、自分との戦いの話。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。