転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 ここらで日常回をひとつまみ。





わたしは勉強ができない

 

 

 

 ホシノウィルム。

 この言葉を、インターネット上のてきとうなプラットフォームやSNSの検索欄に打ち込むと、大体こんな感じのサジェストが出る。

 

『ホシノウィルム 強い』

『ホシノウィルム なぜ』

『ホシノウィルム かわいい』

『ホシノウィルム 爆死』

『ホシノウィルム 長距離』

 

 ……うん。

 これを見れば、私がみんなにどう思われてるか、大体わかるってものだ。

 

 

 

 「強い」とか「長距離」は、そのまま競走ウマ娘ホシノウィルムの評価。

 自慢じゃないけど私は結構な高評価をいただいてるし、特に長距離には強いからね。

 まぁ唯一の負け戦も長距離だったんだけど……アレは歩さんがいなかった上にスズカさんスペ先輩の連戦がキツかっただけだし。

 

 「なぜ」は多分、レースに詳しい人が検索した結果なんじゃないかな。

 クラシック級で宝塚記念に勝つとか、逃げで三冠を獲るとかは、私が現れるまではほぼ無理だって言われてたらしい。

 そんなレースを勝ち上がってきたからこそ、私は今「不可能を覆す新たな神話」なんてカッコ良いあだ名をいただいている。

 そんなわけで、これは「何故そんなことができるのか」あるいは「何故寒門のウマ娘がここまで上がって来れたのか」ってところだろう。多分。

 

 「爆死」は……おい誰だこれ検索したの。

 いや誰っていうかたくさんの人が検索したから出て来てるんだろうけどさ、ちょっと私のイメージ歪んでませんかね。

 いや、そりゃあさ? ウマッターに時々ガチャの爆死画像とか投稿するよ? だってそうでもしないと無為に散った私の石が浮かばれないもの。

 でもさ、アスリート兼アイドルに対してこの扱いて。みんな私のこと芸人だと思ってません?

 

 ……最後のはなんとも微妙な評価だったけど、まぁ今は置いておこう。

 こういうのは本人が言ったところでどうにかなるものでもないし。

 

 

 

 サジェストにはその後「トレーナー」とか「恋人」とか「炎上」とか続く。

 この辺りは、競走ウマ娘なら誰でも付きそうなサジェストだね。

 

 「トレーナー」は思ったよりも下にあるけど、あまり表には出ないからかな。

 「恋人」とか「炎上」は……まぁ、なんというか、やっぱりそういうのを気にする人もいるよね。

 幸い私はこれまで炎上騒動に発展したことはないので、サジェスト順はずいぶん下。いやまぁクラシック級の頃に無自覚に色々やらかしはしてたんだけど、歩さんが何とかしてくれてたらしいのでセーフ。

 

 

 

 とにかく、この辺りがホシノウィルムのパブリックイメージなわけだ。

 いや爆死に関してはこんなイメージ持たれたくはないんだけども、まぁ付いてしまったものは仕方ない。もはやこのデジタルタトゥーを背負って生きていく他ない。

 

 だけど当然ながら、これらのイメージが私の全てってわけではない。

 世間的にはあまり知られていない、表には出さないような面もまた、ある。

 

 例えばそれは、ずっと練習してるのに未だに口笛が吹けないことだったり。

 あるいは、致命的と言っていいくらいに朝が弱いことだったり。

 

 そして、あるいは……。

 実は勉強が不得意、ということだったりする。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「あ゛ー……」

 

 私は後ろに倒れ込み、ちょっとファンにも歩さんにも聞かせられない呻き声を上げる。

 

 ぐるりと視界が塗り替わり、見えたのはちょっとだけ見慣れた天井。

 現在私がいるのは、私の部屋と少し似た、けれどもっと年頃の女の子らしい内装の、栗東寮のとある一室だった。

 

 そして今現在、この部屋の主である私の親友ナイスネイチャが、べたっと床に転がる私に呆れたような視線を向けて来ている。

 

 うーん、等身大の視線が心地良い。

 最近じゃこんな素直な視線向けてくれる子も減っちゃったからなぁ。

 

 ……いや、考えてみると、今世でこんな素直な感情ぶつけてくれるのってこの子だけな気がするな。

 交友関係の狭さを嘆くべきか、あるいはその深さを喜ぶべきか、悩ましいねぇ……。

 

「……あのー、ウィルさんや? 真面目にやる気はあるのかい?」

「勉強嫌いです」

「知ってる。でもやらなきゃいけないってこともわかってるでしょ?」

「わかってますけど……現実逃避したい……お部屋の掃除とかさせてもらえませんか……」

 

 勉強からの逃避と言えば、やっぱり部屋の掃除だよね。

 何か気になるから勉強に集中するためと言い訳して始め、いつしか手に取っていた漫画や雑誌に目を通し始めて時間を無駄にするのは定石だ。

 私も前世じゃ試験前だけ部屋が片付いてる系女子として名を馳せたもの。

 

 ……ただ、問題は2つ。

 今が現実逃避とかしてる場合じゃないってことと……。

 ここが私の自由にできる部屋じゃないってことだね。

 

「他人の部屋の掃除なんてさせてもらえるって思う?」

「駄目ですか……? こんなに可愛らしいミステリアスなクール系美ロリがうるうる上目遣いで寂し気にお願いしても……?」

「言っとくけどアンタがミステリアスだったのもクール系だったのも、良くて去年のダービーまでだからね。その後はただ自分を倒してくれる相手を求める悲しきバーサーカーだったじゃん」

「なんだとぉ……」

 

 いやまぁ、ちょっと自覚はあるから否定はしないけれども。

 

 最近じゃ私、ファンにすらランニングジャンキー扱い受けてるらしくて、生温かく苦笑いされることもあるし。

 昔は謎めいたヴィラン扱いされて、カッコ良いって言われるようなこともあったんだけどなー。何が悪かったんだろう。やっぱガチャの爆死報告か。

 

 

 

 天井を見つめて今は昔の遠い過去へと思いを馳せる私の頭に、上からデコピンが降って来た。

 

「あいたっ」

「というか、話を逸らさないの。そもそも今日勉強会したいって言ってきたのはアンタでしょうに」

「う~……」

 

 どちゃくそスパルタな言葉に、けれど何一つ言い返す事すらできず、私はただ床に転がるばかり。

 そんな私を再び無理やり席に座らせて、私の親友は大きくため息を吐いた。

 

「まったくこの子は……どうして走ること以外はこんなに駄目駄目なのかねぇ」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ブルボンちゃんが日本ダービーに勝利して、1週間。

 6月に入ってトレセン学園含む府中は無事梅雨入りを果たし、今も窓の外からはしとしとと雨粒が落ちる音が聞こえて来る。

 

 世間じゃジューンブライドとか言ってわちゃわちゃしてる人もいるらしいけど、個人的にはあまり好きになれない時期だったりする。

 お布団はジメジメするし雨で外でのトレーニングは潰れやすいし……ついでに、そこまでファッションに気を遣う方じゃない私でも歩さんの前でくらい良いカッコしたいのに、髪がボサボサになりやすいし。

 

 まぁでも、この1か月を越えればそこに来るのはサマーシーズン。

 1年で最も日が長い、つまり効率良くトレーニングできる時間が長い、ボーナスタイムが待っている。

 

 そんなわけで私ことホシノウィルムは、来たるハッピーミーク先輩との決戦宝塚記念に向けて、雨にも負けず湿気にも負けず、懸命にトレーニングを積む毎日を送っていた。

 

 

 

 ……送っていた、んだけど。

 

 私たち競走ウマ娘は、プロのアスリートであると同時、中から高等部の学生でもある。

 面倒だけど、学生の本業である勉強も怠るわけにはいかないわけだ。本っ当に面倒だけどね!

 

 とはいえ、そこに要求されるハードルは、流石に一般的な学生に比べて低い。

 トレーナーが就いて現役の競走ウマ娘として走ってる子は午後の授業が免除されてたりするし、試験の範囲も私の前世の記憶のものよりはだいぶ狭い気がする。うろ覚えだから多分だけど。

 授業内容も、競走ウマ娘としての知識や教養関係が入って来るので、レースに興味さえ持てれば割と頭に入ってきやすい。

 

 つまるところ、一般人の学生さんと比べれば、私たちはだいぶ楽をさせてもらっているのだ。

 まぁ、その上でなお全然点数取れない子もいるんですけどね! ここに1人な!

 

 

 

 悲しき現実に乾いた笑いを浮かべていると、ネイチャがちょっと心配そうにこちらを見下ろしていることに気付いた。

 かわいそうな子判定はガチ目に傷つくから勘弁してほしいな。

 

「真面目に勉強しなよ、ウィル。アンタ要領は良いんだし、ちゃんと勉強さえすれば簡単に点数取れるでしょうに」

「マジレスやめてください、泣きますよ」

「アンタが泣いて勉強するのなら、アタシは心を鬼にしてマジレスするよ」

「この友達の鑑がよぉ……」

 

 ネイチャがあまりにも良いヤツすぎて泣ける。

 ついでに興味がなさすぎる似たような名前ばっかりの地理単語にも泣ける。

 

 でもなー、どうしてもやる気出ないんだよなー。

 

「なんで勉強とかする必要あるんですかね……?」

「うわでた、追い詰められた時の思考」

 

 いや、これに関しては逃避とかじゃなくて、割と本気でそう思うんだよね。

 

 私はガバッと上体を起こし、ベッドから憐れみを向けてきているネイチャに向かって、ピンと人差し指を立てた。

 

「一般的に、学生が人生で殆ど役に立たない知識を頭に詰め込むのって、結局は社会に出た時に困らない程度の教養を身につけることと、良い学歴を手に入れて生涯で稼ぐ金額を上げるためじゃないですか」

「あまりにも言い方が良くないから肯定したくないけど、まぁ一部の人にとってはそうかもね」

「でも私たち競走ウマ娘って、ぶっちゃけ強い子なら現役時代に生涯収入稼いで人生早上がりできちゃうじゃないですか」

「いや流石にそこまでは…………」

 

 ネイチャは否定の言葉を止めた後しばらく黙り込み……。

 一転、真面目な顔をして聞いてくる。

 

「あのぉ、ウィルさんや。不躾なことを聞いて申し訳ないんだけど、参考までにアンタがこれまでに稼いだ金額、教えてくれない?」

「いいですよ?」

 

 確かこの前歩さんに教えてもらったことには……と口を開こうとしたら、何故かネイチャは手でそれを制してくる。

 

「待って! ……口で言うのはやめて」

「え、なんで?」

「いや、あんまりショックを受けたくないっていうか……アタシ自分で言うのもなんだけど庶民的なウマ娘だし、価値観壊されそうで怖い」

 

 何言ってんだこの子。ネイチャも菊花賞2着有3着と、結構稼いでるだろうに。

 流石にG1勝ったことないネイチャとG1最多勝の私だと、文字通り桁が違うかもしれないけど、それでも多分事業の元手になるくらいには稼いでるでしょ、現時点でも。

 

 まぁ、トレセンに来る前の金銭感覚で考えると狂いそうになる、って気持ちはわかるけどね。

 私は既に一周回って、感覚が壊れて事実のみを認識するようになったので、口座の金額が増えても「やったぁ」くらいしか思わなくなったけども。

 レース1回で億単位のお金が入って来るとか、良くも悪くも一般的な学生には過ぎたる感覚なのですよ。

 

 

 

 結局、ネイチャはさんざん懊悩した後、結局苦し紛れって感じで、指を2本立てた。

 

「……上の2桁。上の2桁だけ教えて」

22(にじゅうに)ですけど」

「ウッ」

「ネイチャ? ネイチャ、どうしたんですか……って、息してない!?」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 一時はぶっ倒れてしまったネイチャだったけど、すぐさま正気を取り戻した。

 それとついでに本題も思い出してしまった。

 

「いくらお金があっても幸せになれるかは別! 将来自分なりの幸せを見つけるために、今はちゃんと勉強するべし!」

「熱血系の教師みたいなこと言い出しましたね今度は」

「まぁ今のアンタがそこら辺見誤るとは思い辛いけど」

「親友からの信頼の厚さに思わず涙が出そう」

「でもそれはそれとして、自分の親友が頭悪いとか嫌だから勉強してね」

「かと思いきや絆を盾にされて別の意味で涙が出そう」

 

 いい加減逃げ切れなくなったので、大人しくプリントに向き合うことにする。

 

 目の前に並ぶのは、おおよそ私の人生の豊かさとは関係しそうに思えない地方の川とか山の名前。

 これを覚えたら走りが上手くなるって言うんなら何十時間でも勉強するけど、特に意味がないとわかっていることに力を注げる程、私は物分かりがよろしくない。

 

 故に、集中しなくてはと奮起した10秒後には、先週のダービー良かったなぁとか宝塚記念楽しみだなぁとか凱旋門賞どんな子と走れるかなぁとか考えてしまう。

 で、そんなことを考えていると、後方からネイチャ先生の集中しなさいチョップが襲い来るわけだ。

 

「あいたっ」

「まーた他のこと考えてるでしょ」

「むしろ凱旋門賞を前にして視界をブレさせるなって方が無理ですよね」

「それは……そうかもしれないけど。今は勉強!」

「もはや私のために凱旋門賞にでてくれる海外のウマ娘たちに失礼では?」

「アンタのその思想こそが失礼だと思うけど」

「あーもうわかりましたよ勉強もできない子が凱旋門賞優勝なんてできないだろうって言うんでしょう!? そこまで言うなら勝ってやりますよ勉強せず!」

「そろそろツッコミにも疲れて来たから真面目にやってもらっていい?」

「はい……」

 

 どうやら私、もう逃げられそうにない。ちょっと泣きそう。

 

 

 

 流石に付き合ってもらってるネイチャに申し訳ないし、勉強しなきゃいけないのも事実なので、地理に取り組むことにした。

 とは言っても頭の方は未だ回ってくれそうにないので、ひたすら手を動かして書き取り書き取り。

 

「はぁ……」

 

 よくさ、転生モノだと二周目特有の知識を使って神童に! とかあるじゃん?

 あれ、全部嘘です。

 いやごめん、流石に全部かはわからないけど、でも大半は嘘だと思うんだ。

 

 人間……いや今はウマ娘なんだけど、とにかく私たちの記憶力って、実のところ結構ポンコツだ。

 定期的にある程度刺激しておかないと、すぐにものを忘れていってしまう。

 

 私は小学校の頃は荒れに荒れてたし、二周目の人生(ウマ生)でまともに学校に通うまで、実に10年以上の月日がかかってしまった。

 そしてそれは、興味のない単純記憶系の知識を失うには十分な程の時間だったんだ。

 

 結果として私は、国語や英語、理科系の科目はともかくとして、数式の解き方を覚えてない数学、興味がなかった日本史世界史地理は割と壊滅的な状態。

 特に歴史なんか、ウマ娘の存在によって中途半端に前世から変わっているので、記憶が混濁して仕方がないって感じ。

 一度学んだことをもう一度学び直すという億劫さも相まって、私のモチベーションはそりゃあもう底を突いている。

 

 ……底を突いてはいるが、それはそれ、これはこれ。

 競走ウマ娘としてのお仕事をやってても感じるけども、やりたいことを仕事にしてもある程度は興味のないこと、やりたくないことが付いて来るものだ。

 長い待機時間とか気乗りしないお仕事なんて、決して珍しい話じゃない。

 

 そんなわけで、勉強もその内の1つ。

 競走ウマ娘としてやらなきゃいけないお仕事だ……と、考えよう。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 カリカリと、無心でシャーペンを走らせる。

 

 何時間もこんなことを繰り返すのは正気を失いそうな作業だけど、実は私コツコツと書くのは慣れっこだったりする。

 なにせ1日に千以上のサインを書いたこともあるしね。

 急に決まったイベントに対応するためのヤツだったんだけど、今思い出してもアレはキツかった。ウマ娘の体じゃなかったら確実に腱鞘炎になってたと思う。

 

 しかし、今回はあの時と違って、1つ1つのクオリティが不問。

 丁寧すぎてもいけないし粗すぎてもいけないという、簡単なようでいて超難しい調整を強いられることはないんだ。

 自分さえちゃんと読めればいいし、なんなら自分が読めなくてもいい。脳への刷り込みにおいては書くという経験こそが大事で、このノートが他者の目に触れる予定もなし。

 修羅場に突入したお仕事に比べて、書き取り作業のなんと気楽なものか。

 

 ただ、完全に思考停止して機械のように指を動かせばよかったあの時と違って、今回は内容を記憶に定着させるためにも、頭を動かさなきゃならない。

 そこはやや面倒臭ポイントだね。

 

 

 

「……なんかバグって日本の川全部消滅しませんかね」

「日本滅ぼす気?」

「こんなめんどくさい名前の川と山だらけの国……滅んでしまえばいいんだ……!」

「未だかつてない程幼稚な理由の闇堕ち」

 

 時折ネイチャと雑談を交わしながらも、手だけは止めずにつらつらとノートの余白を削っていく。

 昔から、マルチタスクは得意な方だ。勉強しながら会話くらいなら楽々できる。

 

 ネイチャの方に迷惑なんじゃないか、って最初の頃は思ってたけど……。

 この子、元々成績は悪くないし、次回試験の範囲も逐次復習してるとのことで、そもそも全然切羽詰まってはいない。

 勉強会とは言ったものの、実際には私がネイチャに付き合ってもらってるような状態で、だからこそこういう雑談もあまり嫌がられてる雰囲気はなかった。

 

 まぁあまりそればかりだと怒られてしまうから、適度に勉強と雑談を織り交ぜていくんだけどね。

 

 

 

 時たま、本当に稀だけど、ネイチャの方から声をかけてくることもあった。

 

「ウィル、ここなんで『悲しんでる』なのかわかる?」

「んー……あーこれ、確かひっかけですよ。えーっと、ほらここ、結構前ですけど『あの子は決まって悲しい時に前髪をイジる。どうやらそれは癖のようだった』ってあるじゃないですか」

「ホントだ。ってことはここの心情って……」

「喜んでるムードだけど悲しんでるんですよねこれ。抜粋された文だけ見るとなんでこの子が悲しんでるかの背景情報はわからないようになってますし、作問者のいやらしいことで」

 

 私は国語の教科書はもらったらすぐに読み込むタイプだったので、そっち系の問題ならお役に立てる。

 まぁネイチャも別に国語が苦手というわけじゃないし、そもそも私の知恵が必要になるタイミングなんて限られてるんだけども。

 

 ネイチャ先生、こんな「いやー全然勉強してないわー」みたいな顔しながら、テストの点数毎回クラス3位くらいだからね。私なんかよりずっとずっと頭が良いのである。

 いつも「また3位かぁ……」って落ち込んでるけど、私からすりゃ「何言ってんだこの化け物」って感じである。こちとら万年赤点スレスレだぞ。

 

 ……というか、今更だけどこの子、なんでG1級の実力保持しながら平然とテストの点数上位帯なんだ? 

 もしかしてネイチャだけ1日の時間が72時間だったりするのでは?

 

 ジトリと睨む私の視線に勘付いたか、ネイチャはため息を吐いて言う。

 

「言っとくけど毎日コツコツ復習してれば、ある程度は普通に点数取れるからね?」

「ネイチャ、もしも私が『G1なんて毎日バリバリ走ってれば普通に勝てますよ!』って言ったらどう思います?」

「ごめんねウィル、アタシが間違ってた。ウマ娘にも得意不得意はあるよね」

「ご理解いただけて幸いです」

 

 悲しいかな、私たちにはそれぞれ、どうしても手の届かないものがある。

 いやまぁ、ネイチャだって展開さえ良ければG1獲れるだろうし、私もやる気さえ出せれば点数は取れると思うんだけど……。

 それがなかなかできないからこそ、私たちはため息を吐くしかないわけで。

 

「人生、上手くはいきませんねぇ……」

「一生遊んで暮らせそうな貯金がある子の口から出る言葉とは思えないねぇ」

 

 私は仕方なく、再びノートに向き合うのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして6割沈黙2割質問2割雑談な数時間が経ち、寮の消灯時間が近づいて来た。

 

 捗りは……まぁ、程々といったところ。

 元より人との勉強会に効率なんて求めてはならない。

 

 私がネイチャに求めるのは、私が逃げ出そうとしたら止めてくれること、わからないところを教えてくれること、そして仄かな癒しとなってくれること。

 その点において彼女は、おおよそ完璧な仕事をしてくれたと言っていい。

 

 実際のところ、効率はともかくとして、私が何時間も机に向かっていられることなんてそうそうない。

 ネイチャには感謝しないとね。

 

 まぁ、そのネイチャは……。

 

「ウィル、頑張ったね。偉いぞ~」

 

 そう言いながら頭を撫で撫でしてくるので、素直に感謝の言葉は言い辛いんだけども。

 

 この子、私のこと初等部の子供か何かだと思ってる?

 お? 私無敗三冠ウマ娘ぞ? G1最多勝ウマ娘ぞ? ついでに前世では一応大学受験一発合格してそこそこの国立受かってるぞ? 今受けたらまず受からないだろうけども。

 

 

 

 まぁでも正直、そんな風に思われても、仕方なくはあるんだよな。

 私がちゃんと勉強に集中するなんて実に前世以来だし、それがとてつもなくレアケースってことは、付き合いの長いネイチャなら悟ってくれてるだろう。

 

 ただ、今回は、集中しなきゃいけないだけの、のっぴきならない理由があったんだ。

 

 来たる期末試験は7月頭、宝塚記念のたった3日後から始まる。

 流石に追い切りやめて試験勉強なんてするわけもなし、悠長に1週間前から対策、なんてことは言ってられない。

 

 そして、ここで赤点など取ろうものなら補習行きは確定。

 補習なんて受ければ当然、7月前半は学校に拘留される。

 

 そう。

 本来は夏季の長期合同合宿が始まる7月の前半に、学校に拘留されるのだ。

 

 勿論、そんなこと許せるわけがない。

 私はこの夏にもっともーっと強くなって、秋にテイオーとネイチャ、マックイーン先輩をぶっちぎってやると決めている。

 それなのに、補習なんかで時間を無駄にはしていられない。

 

 ……と、それが理由の半分で。

 もう半分はと言えば……。

 

 

 

 トレセンの夏合宿と言えば、海! 水着! 解放感!!

 

 去年は事故のリハビリで逃してしまったけど、今年こそは掴んでやるぞ。

 歩さんとの……水着デートイベントの、チャンスをな……ッ!!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして、少し先の話、宝塚記念が終わった後。

 

 私はテストで平均70点という、私にしては大健闘な得点を取り、よっしゃこれで褒めてもらえるしお願いも聞いてもらえる、トレーナーイチャイチャイベント確変入った! とガッツポーズしたんだけど……。

 

 結局のところ、私がどんな点数を取ろうと、この計画を達成することは不可能なのであった。

 

 いやまぁ、ちゃんと話聞いてなかった私が悪いんですけどね。

 とほほ~……もうテスト勉強はこりごりだよ~……。

 

 

 







 何故プランが必ず失敗するのかは、もう少し後のお話で……。

 こういうギャグ中心回書いたの久々な気がしますね。
 シーズン入るとにレースの密度が高すぎてシリアス密度上がっちゃって、なかなか塩梅が難しい。



 次回は3、4日後。トレーナー視点で、青空と新星の話。



(謝辞)
 気付けば本作のUAが200万を越えてました。
 いつもご愛読の程ありがとうございます!!

(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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