転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 ギャグノルマを先んじて回収していくスタイル。





皇帝の行程の唯一の拘泥

 

 

 

 ドリームトロフィーリーグ。

 これは、トゥインクルシリーズの上位にあたるとされるレース群だ。

 

 ただ、上位だから当然と言うべきか、これへの参加条件はトゥインクルシリーズのそれのように緩いわけじゃない。

 ……いや、トゥインクルシリーズだって全国規模で見ればかなり狭き門なんだけど、ドリームトロフィーリーグは更に何十倍と厳しいんだよね。

 なにせ、トゥインクルシリーズに足を踏み入れる子が1年に400人前後いるのに対し、ドリームトロフィーリーグは多くても10人程度だもの。

 

 トゥインクルシリーズの参加条件が「トレセン学園に入学し、メイクデビューか未勝利戦で1勝を挙げること」であるのに対して……。

 ドリームトロフィーリーグの参加条件は、「トゥインクルシリーズで一定の成果を収め、URAから招待をもらうこと」。

 

 この「招待」ってのがなかなかの曲者で、ぶっちゃけ言えば重賞に安定して勝つこともできない子は、まず招かれることはない。

 更にただ戦績を挙げればいいってわけでもなく、G1級ウマ娘でも招かれないこともあれば、逆にG3の子が招かれるようなこともある。

 歩さんから聞いた話によると、もちろんその実力もそうだけど、人気とか気性、本人の意思、そしてレース興行全体における貢献度なども加味して、総合的に判断されるものなんだとか。

 

 とはいえ、第一の選定基準は、勿論実力だ。

 私ことホシノウィルムは勿論、ライバルであるネイチャやテイオー、マックイーンさんにミーク先輩辺りは、まず間違いなくお呼びがかかるだろう。

 

 ……というか、多分マックイーン先輩やミーク先輩は、既にお呼びがかかってるんじゃないかな。

 もう十分に上がっていい時期なんだし。

 

 

 

 招待されたウマ娘が、トゥインクルシリーズからドリームトロフィーリーグへと進むタイミングは、それぞれの陣営の判断に委ねられる。

 で、結構千差万別なんだよね、これが。

 

 例えば、典型的なのが黄金世代だろう。

 前世アニメで私が親しんだグラスちゃんやエルちゃんは、シニア級1〜2年目である程度見切りを付けて、ドリームトロフィーリーグに進んだ。

 対してスカイ先輩やスペ先輩は、トゥインクルシリーズの中でライバルと決着を付けるためにと、去年までずっとここに残ってた。

 そして我がルームメイトであるミーク先輩なんかは、未だにバリバリ現役でトゥインクルシリーズを走り回っている。

 

 で、そういう進級タイミングの平均を取ると、大体シニア級1年が終わった辺りからシニア級2年目の夏ごろまでになる。

 トゥインクルシリーズで全てのレースを走ることが許され、1年。

 この時期に、有力なウマ娘は、次のステージに進むかどうかの選択を強いられるのだ。

 

 

 

 ……しかしそうなると、1つ疑問が生じる。

 ドリームトロフィーリーグは、果たして本当にトゥインクルシリーズの上位なのか、と。

 

 

 

 ウマ娘には、いわゆる「ピークアウト」と呼ばれる現象がある。

 一般的には絶頂を示す言葉ではあるけど、「そこから先は降っていくしかない」、という後ろ暗い意味合いもある。

 私たちウマ娘が使う場合は、後者のことを指すことが多い。

 

 競走ウマ娘は、その全盛期が過ぎれば、後は徐々に衰退していくだけ。

 実力は向上しにくくなり、それまでの力は出せなくなって、レースでも活躍できなくなっていく。

 

 競走ウマ娘には、明確な寿命がある。

 いくら事故を避けても、脚を健康に保ったとしても、超えられないラインというものは存在するんだ。

 

 

 

 ……でも、それなら、ドリームトロフィーリーグはどうなるのか。

 トゥインクルシリーズの先、大半はシニア級以降にようやく脚を踏み入れるこのシリーズは、ピークを過ぎたウマ娘たちによるレースになることも多い。

 

 それでは、果たしてこれらは、トゥインクルシリーズよりも高位のレース足り得るのか……?

 

 その答えは、今、目の前にあるウマ娘が教えてくれるだろう。

 

 

 

「久しぶりだね、ホシノウィルム。ずいぶんと待たせてしまったようで、申し訳ない」

 

 

 

 最近はだいぶ箔がついてしまったせいで、私を前にすると緊張しちゃう子も多いんだけど……。

 彼女はそんな様子もなく、それどころかむしろ、こちらに気遣わしげな感情を込めた視線を向けてくる。

 

 無敗三冠、現役最強。

 そんな称号に欠片も怯む様子がないのは、彼女自身もそれらを備えているからだ。

 

 たなびく鹿毛の長髪に、綺麗に流れる流星。

 クールな顔貌の中から、怜悧に光る視線がこちらを見つめている。

 緑をメインカラーとする威厳のある勝負服には、彼女の獲ったG1タイトルと同じ数、7つの勲章が輝いていた。

 

「今日は良いレースにしよう」

 

 そう言って凛々しく微笑む彼女の名は、シンボリルドルフ。

 

 中央トレセン学園の現生徒会長であり、かつてトゥインクルシリーズで史上初の無敗でのクラシック三冠を成し遂げた英雄であり……。

 そして、現在5連勝中の、ドリームトロフィーリーグの現役最強ウマ娘だ。

 

 

 

 この人は私と違って、普段から威圧感が漏れ出してるタイプなんだけど……。

 模擬とはいえレースを前にした今、彼女の圧はいつにも増して、もはやこちらを押し潰さんばかりに放たれている。

 

 いやはや、すごいね。

 正直、ここまでの圧力は感じたことがない。

 

 ダービーや春天の時のテイオーのそれに近くて、しかしそれよりも一回りも二回りも研ぎ澄まされた……まさしく皇帝の威厳。

 いいや、もはや神威と言っていいかもしれないな。

 

 

 

 ……けど、ビビってはやらない。

 彼女が最強であるように、私だって最強だ。

 その立場が対等であることを示すように、私は彼女に笑顔を返した。

 

「えぇ、お待ちしていました。

 あのテイオーの憧れの人であり、いくつもの偉業を成し遂げた……唯一無二、レースに絶対をもたらすとされる永遠の皇帝。

 あなたと、レースを走れる日を!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 今年の頭、新入生たちに在校生代表挨拶をすることを代償として、私はルドルフ先輩と模擬レースをする権利を手に入れた。

 けど、実のところ、今の今までそのレースは実現してなかったんだよね。

 

 というのも、私もルドルフ先輩も、今年はめちゃくちゃ忙しかったんだ。

 私の方は、今年のレースに向けたトレーニングは勿論、去年のこの時期とは比べ物にならない量の依頼が舞い込んできてたし……。

 生徒会の仕事とトレーニングとお仕事、三足の草鞋を履くルドルフ先輩も、今年の春はかなり多忙だったらしい。

 ……多分、私がトゥインクルシリーズを盛り上げまくったせいだろうな。

 何も悪いことってわけじゃないけど、ちょっとだけ申し訳ないような気がしないでもない。

 

 ま、そういう理由はさておき。

 今大事なのは大事な大事な模擬レースの約束がおじゃん……とは行かずとも、なかなか実現しなかったことで。

 いつしか時は流れに流れて、ついには半年もの時間が経過し……。

 

 宝塚記念も終わって、実に2週間。

 ようやく、私とルドルフ会長の予定が合う、この日が訪れたのだった。

 

 

 

「正直な話、私としても、君とは一度走ってみたかったんだ。その機会が得られて嬉しいよ。

 ……まぁ、このように仰々しくなってしまったことは、少し申し訳ないがね」

 

 私の前に立ち塞がるルドルフ会長はそう言って苦笑し、辺りを見回した。

 

 トレセン学園のターフに立つ私たちの周りには、16人の勝負服を着たウマ娘。

 そしてそんな出走ウマ娘たちを取り巻くのは、外ラチ周辺どころか校舎の中にまで詰めかけた、何千何万という数の観客たちとこちらに向いたカメラ。

 ターフの芝はいつになく綺麗に整えられ、更にはいつもはないはずのゲートがわざわざ用意され、何なら「無敗三冠特別記念」と書かれたゴール板まで用意されている。

 

 

 

『さぁ、今衝突する過去と現在! 三冠と三冠! 最強と最強!

 日本の全ウマ娘ファンが望んだ、奇跡のエキシビジョンマッチ!

 シンボリルドルフ対ホシノウィルム!! ここに実現です!!!』

『両者共に言わずと知れた、この国の誇りと言っていい競走ウマ娘たちですね。

 当然ながらその身体の整い方、技術共に、国内最高峰の水準です。他出走ウマ娘たちの気合も十分、これは良いレースが期待できますね』

 

 

 

 なんなら、ちょっと離れたところに立った仮設テントには実況解説の人たちまでいる。

 しかも、私もよく実況してもらってる、URA公式の人だ。休日出勤お疲れ様です。

 

 ここまでくると、トレセン学園の模擬レースというよりは、もはやレース場でやる重賞レースみたいな盛り上がりだ。

 いや、出走ウマ娘全員が勝負服を着ているあたり、重賞というかG1レースか。

 

 

 

 確かに、私も正直ここまでの規模になるとは思ってなかった。

 

 ただまぁ、考えてみるとそりゃそうだよね。

 これまでの歴史上に、無敗のままにクラシック三冠を獲ったウマ娘は、ただ2人。

 その2人がぶつかるとなれば、大騒ぎになるのはある種当然の話かもしれないね。

 

 しかし、流石に無敗三冠対決ってだけで、ここまでの規模になるとは思えない。

 こうなったのは……やっぱり、私が凱旋門賞に行くからだろうか。

 

 日本の悲願、凱旋門賞。

 ここに出走するっていうのは、それだけ重い価値を持ってるんだろう。

 

 

 

「……ホシノウィルム」

「はい?」

 

 ちょっと真面目なイントネーションで名前を呼ばれ、改めてルドルフ会長の方に向き直る。

 

 彼女は今、先程までとは少し違う表情を浮かべていた。

 薄く微笑みを浮かべた、強者としての余裕を携えたものじゃない。

 真剣で、真っ直ぐで……どこか後ろ暗いような、複雑な視線をこちらに向けてくる。

 

「君は、私のトゥインクルシリーズでの過去を知っているかな」

「えっと、一応は」

 

 去年の今頃から、歴代の優駿に興味が湧くことも増えて、ちょこちょこ歩さんから教えてもらったりするんだけど……。

 ルドルフ会長のトゥインクルシリーズ時代の話は、ドラマチックで面白かったし、よく覚えてる。

 

 

 

 史上初の無敗三冠ウマ娘、シンボリルドルフ。

 彼女は名家シンボリ家の出であり、その良血をこの上なく証明した優駿だ。

 

 メイクデビューに加えオープンレースを2つ、そして弥生賞から皐月賞、日本ダービー、セントライト記念に菊花賞と勝ち続け、無敗の三冠を達成。

 続くジャパンカップでは、前三冠ウマ娘ミスターシービーや海外からの刺客たちすらも押しのけたカツラギエースに持っていかれてしまったけど、有記念でしっかり1着を獲って逆襲完了。

 これらの戦績を以て、彼女は文句なしの年度代表ウマ娘として表彰されたのだった。

 

 シニア級に入って日経賞を経た後、ルドルフ会長は前三冠ウマ娘ミスターシービーと天皇賞(春)で決着を付ける。

 常識破りの菊花賞を再現するかのような相手に対し、それでも動じることなく自らの走りを貫き、ついにG1レース5勝。伝説の戦士シンザンと並ぶ五冠達成を成し遂げた。

 

 そうして、秋からの海外遠征に備え、まずは宝塚記念に出走しようとしたんだけど……。

 

 

 

「シニア級、1年。海外遠征を前にした宝塚記念直前で、私は脚部不安を発症した。

 当然宝塚記念は出走回避することになったし、海外遠征など行ける状況ではなかった」

 

 彼女はどこか遠くを見るような目で、そう語った。

 正直、心中察するに余りある。

 もしも私がそんなことになれば……流石に、うわーんとなってしまうかもしれない。

 

 まぁ、私には歩さんがいるから、あんまり故障に関しては心配してないんだけどさ。

 春のネイチャの脚部不安発見といい、あの人ホントにそういうトコには目敏いから。

 

「……正直、あまりの不甲斐なさに落ち込んだし、何より運命を憎んだよ。

 私とトレーナー君ならば、たとえあの門であろうと勝てるという自信……いいや、確信があった。

 しかし、まるでそれを許さないかのように、運命は私に故障という結果を押し付けて来た。

 ある意味では、私のせいで日本のウマ娘の凱旋門賞勝利が遠のいたと言ってもいい」

「それは……ルドルフ会長のせいでも、トレーナーさんのせいでもないです」

 

 歩さんがちょっとおかしいってだけで、普通のトレーナーは、事故の防止とか故障の早期発見なんてことはそうそうできない。

 というか、努力や鍛錬だけでそれができてしまうのなら、中央トレセンのトレーナーという傑物揃いのメンバーがウマ娘に故障なんて許すはずがない。

 

 歩さん本人はよく「自分には才能がない」なんて言ってるけど、持って生まれた才能がなきゃあんなのできるわけがないんだ。

 トモを見ただけであそこまでウマ娘のことを分析できるんだから、その観察眼は特別な才と言う他ないだろう。

 

 ……でも、残念ながら、ルドルフ会長のトレーナーは歩さんじゃなかった。

 大事な時期だし、気を抜いたりしてたわけじゃないのは間違いない。その上で発生してしまったアクシデントだったんだろう。

 事故が発生するのも、故障が発生するのも、仕方のないことなんだ。

 

「そうだね。私のせいでも、トレーナー君のせいでもない。

 ……そう納得できれば、どれだけ良かったか」

 

 ルドルフ会長は、チラリと、こちらに向けられているカメラの方を窺った。

 

「……私に帯同するはずだったシリウスは、1人だけで海外へ臨んだ。

 そうして、数々のレースで好走を見せていたのに……凱旋門賞に敗北し、レースで勝つことができなかった結果、当時は散々に言われたんだ。

 私がそこにいれば、あるいは何かが変わったのではないかと、そう思わざるを得ない」

「それは……」

 

 シリウスシンボリ。

 確か、ルドルフ会長の幼馴染だっていう、凱旋門賞に挑戦した日本のウマ娘の1人。

 

 あるいは、ルドルフ会長が海外に行けなかったという鬱憤もあったのかもしれないけど。

 ルドルフ会長の顔色からして、当時のシリウスシンボリの扱いは……あまり良いものではなかったんだろう。

 

 あるいは、ルドルフ会長が胸を痛めているのは、そこが大きいのかもしれない。

 「すべてのウマ娘が幸せに暮らせる世界」を目標とする彼女にとって、半ば自分のせいで身近な誰かが不幸になったという事実は、相当に重かったのだろう。

 

 ……なんとも、辛いね。

 どうしようもない、人智の及ばない範囲での悪運と、それに基づく不幸。

 

 悲しくて、寂しい話だ。

 

 

 

 私が苦い顔をしていると、ルドルフ会長は小さく首を振り、苦笑した。

 

「すまない、ここまで言うつもりはなかったんだが……君は聞き上手だね」

 

 ルドルフ会長はそう言って、その表情を微笑に戻し、空を見上げた。

 

 梅雨も明けた今日は、雲の隙間からそこそこ綺麗な晴れ間が窺える良い天気。

 釣られてそれを見上げながら、私は彼女の言葉を聞いた。

 

「何が言いたかったかというと、だ。

 私は君を……トレセン学園生徒会長としてでも、ドリームトロフィーリーグの先達としてでもなく、シンボリルドルフ個人として応援したいんだ」

「応援、ですか」

「ああ。私が過去に成し遂げられなかったことを……シニア級1年目の宝塚記念に出走し、そして当然のように1着を獲った君にこそ、託したい。

 世界の頂、凱旋門賞。その場における、日本のウマ娘の捲土重来を」

 

 だいぶ重いものを託されちゃったなと、私も思わず苦笑を漏らした。

 

 ……けど多分、ルドルフ会長と同じ想いをしてる人は、少なくない。

 これまでに凱旋門賞に挑んだ、4人のウマ娘たち。

 かつて彼女たちに想いを託した者たちは、きっと今、彼女たちの分まで凱旋門賞での私の活躍を望んでくれてる。

 ある種の敵討ち、逆襲のように。

 

 それを望んでくれる筆頭が、黄金世代の一角としてエルちゃんを見送った、ミーク先輩であり……。

 共に行くはずだった幼馴染を見送るしかなかった、ルドルフ会長なんだろう。

 

「その上で、君に対して私が出来ることは何かと考えた時……結局、ただ1つしか思いつかなかった」

「それは……?」

 

 訊くと、彼女は……。

 

「この模擬レースで、全力を尽くすことだ」

 

 キロリと、こちらに鋭い眼光を向けてきた。

 

 

 

「手加減も、容赦もしない。私の全身全霊、本気を見せよう。

 日本という井の中にいるならば、せめて空の深さを知っていくといい」

 

 

 

 その言葉と共に、ルドルフ会長の威圧感が一層強くなる。

 ただのウマ娘として漏れ出すだけのそれではなく……。

 目の前のレースに全てを注ぎ込む、競走ウマ娘としての気配を、隠すことなく醸し出し始めた。

 

 あぁ、これが、シンボリルドルフ。

 レースに絶対をもたらす、永遠の皇帝。

 ドリームトロフィーリーグにて二度目の全盛期を迎えた……もう1人の、現役最強か。

 

 肌がピリピリ痛む。

 脳がジクジクと熱を帯びる。

 

 この人と、今から走れるんだと思うと、たまらない。

 心が躍って仕方ないんだ。

 

「改めて、良いレースにしよう。……君が、私から逃げられるのならば」

「くくくっ……ええ、ええ、いいでしょうとも! 良いレースにしましょう! あなたが私の逃げを追えるのならば!」

 

 

 * * *

 

 

 

 私とルドルフ会長が、互いに健闘を誓いあっていた時……。

 

「ちょっとー、2人で何を話してるの?」

 

 赤い勝負服を着たウマ娘が、ちょこちょこっと駆け寄ってきた。

 

 ちょっとふざけたような様子なのに、それでもなおとんでもなく強そうな雰囲気を漂わせてる彼女は、トウカイテイオー。

 ネイチャに並ぶ私のライバルであり、本当は秋からまた競い合う予定だった、トゥインクルシリーズの優駿だ。

 

 今回の模擬レースでは、公式レースの環境に近づけるべく、トレーナーが16人のトゥインクルシリーズの競走ウマ娘を募ってくれた。

 ホシノウィルムと、そして何より滅多に走れないシンボリルドルフ会長。

 2人の無敗三冠ウマ娘と走れるっていう滅多にない機会からだろう。かなり多くの立候補者が来てくれたらしい。

 

 で、その中には、最近はすっかり見慣れた赤い勝負服を纏うテイオーもいたし……。

 

「…………」

 

 ちょっと焦ったような顔で黙り込んでる、いつもの勝負服を着たネイチャもいた。

 

 

 

 テイオーがルドルフ会長と話したがってそうなのを確認して、私は頭を下げて2人の前を離れる。

 2人ともっと話していたいと思う気持ちはあったけど、それ以上にネイチャの様子が気になった。

 

 今年の頭に脚部不安で休養に入った彼女とレースを走るのは、実に去年の有記念以来。

 個人的には、ルドルフ会長と走るのと同じくらい、ネイチャがどこまで強くなってきてるかも楽しみにしてたんだけど……。

 

「ネイチャ」

「……あ、ウィル」

 

 近づきながら話しかけると、彼女はどこかぼんやりした表情で、こちらに視線を向けてくる。

 さっきよりはマシだけど、なんというか……ネイチャにしては、精彩に欠けるな。

 

「どうかしたんですか? なんか、雰囲気が……」

 

 訊くと、彼女はちょっと目を見開いた後……。

 「表情に出る程だったかぁ」って、ため息を吐いた。

 

「……いや、ヤバいね。本気の会長、マジでヤバい」

「確かにすごいですけど……そんなに?」

「ああ、そっか、ウィルはわかんないか」

 

 正直、なんかちょっと失礼な言い方にむっとしかけたけど……。

 続くネイチャの言葉に、怒りなんて簡単に吹っ飛んでしまった。

 

 

 

「勝てる気がしない。どんなプランで走っても、今の会長は策にハマってくれない気がする」

 

 

 

「…………そこまで?」

 

 ネイチャが。

 あの、前の日までは割となよなよしてるけど、レース本番になれば勝気に「勝つから」って言ってくるネイチャが、「勝てる気がしない」って……。

 

 私が目をパチクリさせていると、ネイチャは一層顔をしかめて、親指の爪を噛み始める。

 

「前からバ群で抑え込んでも、ぺース落とさせても、進路塞ごうとしても、仮に何か吹き込んでも……効く気がしない。どうしようかな……」

「それは直感? それとも分析?」

「どっちも。いや、やっぱヤバいねドリームトロフィーの競走ウマ娘って」

「まぁ、ルドルフ会長はドリームトロフィーでも現役最強らしいですし、必ずしもあんなに強そうとは限らないと思いますが」

「今思うと、去年のあの模擬レースはめちゃくちゃ手加減されたんだなぁ……ちょっと凹むわ」

 

 うーん……これは、あんまり良くない状態かも。

 レースを前にして、相手に気後れしてしまってる。

 私は、そんなネイチャと走りたいわけじゃない。

 

 肩を落とす彼女の顔を掴んで、ぐいっと持ち上げた。

 

「ほらネイチャ、考えるのは結構だけど、落ち込んだりしちゃ駄目ですよ。

 これからレースなんだもん、精一杯走って、楽しんで、そして学びを掴まないと!

 ……それに私のことも見てくれないと、イジけちゃいますよ? 久々のレースなんだから!」

 

 彼女はパチクリとその目を瞬かせた後……。

 ふっと、薄く笑顔を浮かべてくれた。

 

「そうね。去年と同じ、これも経験か……。

 将来的にはウィルも会長も倒せる戦略考えなきゃなんだし、いっちょ頑張るか!」

「そうそう。……ま、ネイチャがどんな作戦を立てて来ようと、私が勝ちますけどね!」

「言ってくれるねぇ……このやろ、このやろ!」

 

 ぽかぽか殴って来るネイチャに「バーリア!」とか言って笑い合っていると……。

 

 いよいよ、出走の時間が近づいて来た。

 

 

 

 ……さぁ。

 ドリームトロフィーリーグ、現役最強、シンボリルドルフ。

 

 お手並み拝見、といきましょうか。

 

 

 







 今回で決着までいこうと思ってましたが、あまりにも尺不足だったので、次回堀野君視点から皇帝とのレース本番です。

 ちなみに、ドリームトロフィーとピークアウト関連の話は、元からこのタイミングでやろうと思ってました。
 なんかすごいタイミングでアニメ三期と話題が被っちゃいましたね。慌ててちょっとだけ味付けを変えることになりました。



 次回は1週間以内。トレーナー視点で、退翳覇道の話。



(宣伝)
 宣伝し忘れてましたが、三人称の習作も兼ねてブルーアーカイブの二次創作を書き始めました。
調月姉妹のやべー方
 タイトル通り、ミレニアムのやべー生徒会長のやべーお姉ちゃんがキヴォトスライフをエンジョイするお話です。
 ご興味がありましたら覗いていただければ幸いです。

(追記)
 誤字上告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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