転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 どうもウマキンです

 日本に残るサブトレーナーの視点です。





ブンブンハローぱかチューブ

 

 

 

 トレーナーを目指す人間は、そこに辿り着くまでの長い道の中で、必ず1つの言葉を聞くことになる。

 

 それは、「トレーナー辞めますか? それとも人間やめますか?」というもの。

 

 ……ちょっと悪趣味な風刺だなとは思うけど、まぁ、言い出した人の気持ちはわかる。

 

 根本的に、ウマ娘のトレーナーは……特に、中央のトレーナーはとんでもない激務だ。

 それもそのはず、トレーナーというのは役割のごった煮。

 世界的人気を誇るスポーツのアスリート、兼皆の憧れのアイドル、兼近く親しき他種族、兼まだまだ幼く純粋な心を持つ子供……。

 そんな彼女たちのコーチであり、プロデューサーであり、親善大使であり、保護者。

 トレーナーはそれらを、一手に引き受けなければならないのだ。

 

 そりゃあ当然激務にもなるし、自由に使えるような時間も殆どなくなって、結果的に「健全なライフスタイルを送れる人間」ではなくなる、というわけね。

 

 

 

 ……いや、わかる。

 言いたいことはわかるよ。

 こんなの1人の人間に背負わせるには重すぎる役割だと思うよね。

 普通に考えて分業すればいいじゃんって、そう思うよね。

 

 しかし、トレーナーの双肩にそれらの重圧が集中してしまうのには、ちゃんとした理由があるんだ。

 ……けど、その説明をする前に、これまでのウマ娘のトレーナーの歴史を理解する必要がある。

 少し長くなるぞ。

 

 

 

 当然と言えば当然の話なんだけど、ウマ娘と人間は、全くと言っていい程に遺伝子の離れた別種族だ。

 まぁ、そんな別種族でありながら共存し合い子を成せるというのは、なんとも不思議な話ではあるけど、それはさておき。

 

 だから、人間とウマ娘、そしてトレーナーと競走ウマ娘の歴史は、お互い手探りで行う長い長い暗中模索の歴史であった。

 

 で、過去の人々だってバ鹿じゃない。

 ウマ娘たちのレースを補佐する中で、当然ながら「トレーナーを分業スタイルにする」ということが試されたことがあった。

 というか、殆どの国なり地域なりで一度は試された。その方がずっと効率的に思えるもんね。

 

 ……けど、結論から言うと、この試みはいつだって2つの要因から失敗してしまう。

 

 

 

 1つ目の要因は、関わる人間が多数になったが故の責任感の欠如と、コミュニケーション不足の結果のヒューマンエラー。

 

 なんて名前かの心理効果は忘れちゃったけど、人間ってその仕事に関わる人間が複数いると、「他の人がちゃんとやってくれるでしょ」みたいな感じで、責任感がなくなるんだ。

 そうなると、報連相とか思考の共有がおざなりになり、何をどこまでやったかの確認なども完全じゃなくなって、お預かりしているウマ娘さんの管理に不備が生じてしまう。

 

 更に言えば、あのアホ兄さんを見てもわかるように、どれだけやったって人間完全には感情を捨てきれないもので。

 役職間での不和なんて生まれようものなら最悪で、ウマ娘をサポートするという本懐から離れて派閥争いなんて起こってしまう可能性すらある。

 

 それをなくす方法は簡単で、複数人じゃなくて1人で担当すること。

 複数の凡人に任せておくんじゃなく、ただ1人の秀才に背負わせた方がミスが減る、というわけだ。

 

 いやそれ本当に減るか? 管理項目増えすぎて管理しきれなくない? って思うかもしれないけど……。

 それを「減らせる」ような本当の秀才にしかトレーナーという仕事は許されない、って言ったらお察しいただけると思う。

 トレーナーの資格試験、日本で取れる全資格の中でダントツで難しいからね。色んな方向で。

 

 「自分たちトレーナーには、万一のミスさえ許されない」。

 これはよく兄さんが言ってる、口癖みたいなものだ。

 

 厳密に言えば人間である以上ミスは避けられないんだけど、実際にそれはそうで。

 トップアスリートのコーチ、トップアイドルのプロデューサー、そして他種族間の親善大使、子供を守る保護者。

 それらを背負う以上、失敗なんてすれば大惨事も大惨事。

 炎上なんて軽いもんで、下手すれば国家間とか種族間の問題まで発生しかねないんだもの。

 そうしてミスを犯すよりは、たとえ負担が大きくても1人で担当すべき、というのが現代の一般化した考え方なのだった。

 

 だからこそ、ある意味でトレーナーというのは、必要悪ですらある。

 競走ウマ娘というスターを輝かせるために必要不可欠な、社会的な犠牲。

 星の輝きを目立たせるための、暗い闇。

 

 そういう意味でも、「人間やめますか」って標語は割と的を射ちゃってるんだよね……。

 

 

 

 と、1つ目の要因は割と暗いものなんだけど、2つ目は明るいもの……というか、ちょっとファンタジーな雰囲気漂うものだ。

 「競走ウマ娘の能力は、特定の人間との絆で増幅される」という、なんとも不思議な現象が確認されているから、というヤツ。

 

 いや、意味がわからないんだけど、どうやらマジっぽいんだよねこれが。

 

 複数人で分業してた時代に比べて、1人のトレーナーがウマ娘と付き合い、その中で交友を深めていった時代の方が、彼女たちの平均的能力は上がっている。

 これは、歴史上の数多のデータが証明していることだ。

 

 何故それでウマ娘が強くなるかの理由は……ぶっちゃけ、わかっていない。

 少なくとも、堀野の家にはその情報は落ちてなかったし、前世の知識を持つっていう兄さんに聞いても「俺にだって……わからないことくらい、ある……」って言われてしまった。

 

 ウマ娘関係って現代科学ですら判明してないことも多いし、仕方ないと諦める他ないかな。ここを追求するのはトレーナーではなく研究者のお仕事だろう。

 兄さんの転生チート(?)とかウマ娘の領域みたいな感じで、「そういうもの」として受け入れる他ないだろうね。

 

 

 

 ともあれ、そういった事情があって、トレーナーの分業は非効率的で意味がないものとされている。

 トレーナーの内、ウマ娘と絆を深め二人三脚していくメインはただ1人。

 サブトレーナーはあくまで、メイントレーナーの業務を補佐するのがお仕事だ。

 ……まぁ、大人数のチームだと、むしろサブトレーナーの方と絆が結ばれる、なんてことも珍しくはないらしいんだけど、それはともかく。

 

 私たちトレーナー(とはいえ、私はまだ見習いのサブだけど)は、ウマ娘たちの全ての責任を背負い、彼女たちを支えるために文字通り粉骨砕身せねばならないわけだ。

 

 一応お給料が高めとはいえ、実質的には担当のレースの結果に基づく出来高制なところあるし、休みなんて年に30日あるかないかだ。

 まだ学ぶことの多い私なんか、1年の半分も過ぎた今、多分5日すら休日を取ってない。

 

 まさしくウマ娘を好きでなきゃやってけない、ブラックなお仕事なわけだ。

 

 

 

 そんなわけで、私はトンデモ激務なトレーナー業に就いていて、とてもじゃないけど他のことに時間を使う暇がない。

 

 ……ない、んだけど。

 それはそれとして、堀野昌という女にも、個人的な趣味はあるわけで。

 

 なんとか予定していた仕事と急に入った仕事に始末を付け、ホシノウィルムさんが出立する直前の日曜日、丸一日の休暇を取得。

 久々に……本当に久々に、趣味の方に精を出すことにした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 私がそれを始めたのは、高校生の頃だった。

 

 誰だって──いや、兄貴や兄さんみたいな例外はいるけど、基本的には誰だって──そうだと思うんだけど、これくらいの歳って承認欲求に踊らされてしまいがちだ。

 恥ずかしながら、これは私とて例には漏れなかった。

 

 ……というか、優秀過ぎる長男と努力の鬼である次男を持っていたからこそ、誰かに自分を認めてもらうことに飢えていたと思う。

 故に、学業やトレーナーとしての勉強の間を縫って、承認欲求を満たせる道を見つけようとしたのだ。

 

 だけど、私は一応とはいえ、堀野で教育を受けた女だ。

 最低限のネットリテラシーは持っていたし、将来的なリスクになるような行動は避ける程度はできた。

 顔出しは勿論、声出しだって特定される危険性がある。そして下手をすれば、それは将来的な負担に繋がってしまうし……下手をすれば、将来的に担当するウマ娘にまで迷惑をかける可能性すらある。

 比較的刷新的な名家である堀野は、そういう方面の教育も厚いのだ。

 

 なので、そういった方向性は避けることにして。

 結果として私が選んだ道が……。

 

 動画投稿、であった。

 

 

 

 

 動画や生放送の配信。

 これは、ぶっちゃけて言えば、現代では飽和しきったエンターテインメントだ。

 

 私が生まれた頃とは違って、今はSNSや各種動画配信サイトで誰でも映像を共有できる時代。

 最近は「初等部の子供が動画配信する」なんてことさえ珍しくないくらい、配信というものは一般化してきつつある。

 

 つまるところ、ここは既にレッドオーシャンだ。

 何の面白さもない動画や配信に人が来ることなどまずあり得ず、なんらかの魅力や取り柄、メリットがなければ人に見てはもらえない。

 

 そう思った当時の私は、自分の持っている強みを活かすことにした。

 

 

 

 堀野昌は、そこまで何かしらに秀でた才能を持ってるわけじゃない。

 才能の塊みたいな化け物のアホと、才能なくても努力で補えばよくない? スタイルのバ鹿に比べたら、多少小器用だってことは、とても自慢にはならないし。

 

 だけど、そんな私でも誇れることがあるとすれば……。

 ……いやごめん、これは自分の功績じゃないから、別に誇れることではないんだけど。

 堀野家という、中央基準でも全国5本指……はちょっとキツくても10本指には余裕で入る、トレーナーの名家に生まれたことだ。

 

 ウチは歴史自体は長いけど、在り方は割と現代に適合してるタイプの家。

 トレーナー教育も一子相伝とかそんなわけでもなく、兄妹全員が受けることができた。

 

 なので、私も……まぁ、最低限は修めている……と言っていいはず。

 

 ……こういう時に自信を持って「私はできる!」って言えないの、ムカツクなー。

 医者とトレーナーを両立してる化け物とか、初の担当を史上最強に持ってった化け物が身近にいるせいで、我ながらどうしても見劣りを感じてしまう。

 

 とはいえ、それでも一般家庭の方よりかは、幾分かウマ娘に詳しいはず。

 仮に知らない事実があっても、過去の資料が保管されてるから調べやすい。

 

 話が面白い自信もなければ、容姿……は、客観的に見て上の中くらいで最上でもない私としては、やはりこの知識を活かすしかないだろう。

 

 そんなわけで、私は高校生の頃から、家族には隠してこっそりとウマ娘の解説動画の投稿を始めた。

 

 

 

 ……とはいえ、高校生にもなれば、ある程度現実だって見えてくるわけで。

 一応、動画作成のハウツーを学んだり流行りのスタイルを取り入れたりと、自分なりに努力こそしてみたものの、何のネームバリューもない新人が動画を投稿したってそうそうバズるもんでもない。

 

 新人の動画なんて誰も見ないし、誰も見ないから再生数とかも上がらないし、そういうのが上がらないからランキングにも載らないし、載らないからこそ誰も見ない。

 動画配信サイトに投稿される動画はとんでもなく膨大なんだ。そんな中から偶然私の動画にたくさんの人が辿り着いてくれる……なんてことが起こるはずもない。

 

 だから、どうせこれも今までの努力と同じように、大して結果も出せず無為に終わるんだって。

 そう、思ってたんだけど……。

 

 

 

「……まさか、ここまで伸びるとはなぁ」

 

 私の眼前には、自分のチャンネルの管理ページ。

 そこには、私のチャンネルを登録してくれた人の数が書いてあるわけだけど……。

 

 その数字は、実に52万。

 

 トップクラスとまでは言えないにしても、相当に人気のチャンネルと言ってもいいと思う。

 

 

 

 チャンネルがここまで伸びた要因は……色々あると思うけど、主に運だ。

 6本目に出した動画が専門家の目に留まって、「これはなかなかすごいぞ」と言っていただけたのがSNSでバズってたのが転機だった。

 

 ギャグに寄せながらも真面目に解説した芸風がウケたらしくて、一発屋で終わることもなく、次やその次の動画もそこまで再生数は下がることなく……。

 サムネイルをシンプルかつ求心力強めな感じにしたり、サクッと見れる切り抜きやショートなどを作ったのも功を奏したか、むしろ登録者や再生数はゆっくりと伸び続けてくれた。

 

 私自身、友人と遊ぶ以外の自由時間は殆ど動画作成とかその勉強に傾けていたので、努力が報われたようで嬉しかったのを覚えてる。

 今思えば、私があんな家庭環境の中でも大して歪まずに育つことができたのは、母のケアとこの反響が大きかったのかもしれない。

 

 それに、そこそこ広告料も入るから、生活の足しにもなってくれるしね。

 去年から無給でサブトレーナーの研修に入れたのも、この広告料の貯金があったからだし。

 

 

 

 しかし、動画の作成というのは、かなり時間がかかるものだ。

 私の場合、結構細かいところにまで凝っているので、10分の動画を作るのにかかる時間は短くて4時間、長くて8時間。

 それに加えて解説内容のネタ探しや裏取りなどもあり、更に動画作りの勉強と流行り廃りの調査、新たなスタイルを取り入れるための動画視聴を含めれば、大体20から30時間かかると見ていい。

 

 勿論、トレーナー業を続けながら、日常的にこんなに長い趣味の時間を持つのは不可能だ。

 ここ1年は、投稿のペースが著しく下がってしまっている。

 

 とはいえ、52万人。ハーフミリオンの登録者が私の動画を待ってくれてるんだ。

 たとえペースが遅くなろうとも、動画投稿自体を止める気は、今のところない。

 

 そんなわけで私は、極まれに取れる休暇を使って、平均して半年に1本くらいのペースで動画の投稿を続けている。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「さて……」

 

 今年の4月から入った、女性トレーナー寮の私室。

 

 カーテンを閉め、エアコンを付けて、身軽な服装に着替え、コンタクトを外して眼鏡をかけて。

 私は自前の、編集用のパソコンを起動した。

 

 トレーナー室で使っているもの程じゃないけど、かなりのハイエンドモデルだ。

 とは言っても、数年前の、という枕詞が付くけれど。

 登録者数が10万人を越えた時に記念に買ったものだけど、最近ちょっと動作が不安定になってしまって、ガタが来つつある気がする。

 

 まだまだ働いてもらうけど……買い時、考えないとなぁ。

 

 そんなことを考えながら、キャスター付きの椅子に座り、私は指を組んで大きく伸びをする。

 

「……やりますか」

 

 

 

 編集ソフトを立ち上げ、ファイルに纏めた素材たちを切り貼りしていく。

 

 私のチャンネルでは、主に競走ウマ娘の解説動画を投稿している。

 その中でも特に、あまりメジャーではないところの、いわゆる知られざる歴史やドラマ、過去の優駿にレース場の特徴といった内容が大半だ。

 

 現役のウマ娘は、追おうと思えばいくらでも追えるし、SNSが発達した今情報を得ることも容易だ。

 けど、まだネットが普及していなかった30年前以前のウマ娘については、情報を集めようとしてもなかなか難しい。

 ……それに、ぶっちゃけあんまり今のレースに繋がるところがないし、興味を持つ人は多くないんだ。

 

 ただ、興味を持つ人が少ないっていうのは、単純にそれに興味を持つきっかけがないからだ。

 配信サイトを見ていて、ふと出て来たサムネで興味を持ってくれる人は少なくないようだし……。

 実際、私もそういう需要を狙っている。

 

 

 

 ……けど、今回作る動画は、そういうんじゃない。

 

 使う素材は、古ぼけたものじゃない、最新の綺麗な画像。

 集めた資料は、30年前でなく、たったの2、3年前だ。

 動画にできるネタは、古本屋に買いに行かずともネットで調べるだけで、いつもよりも何十倍と簡単に集められた。

 

 今回取り上げる題材は……すぐ傍にいるウマ娘。

 多くのウマ娘の解説チャンネルが、ここ1年、こぞって取り上げた史上最強の優駿。

 

 灰の龍。

 あるいは、夜空に輝く一等星。

 

 ホシノウィルムだ。

 

 

 

 本当は、こんな動画を作るつもりはなかった。

 

 私は、中央のトレーナーの卵だ。

 余人と比べれば何倍も現役ウマ娘の情報は集めやすい。

 やろうとすれば、それこそ陣営しか知り得ないはずの情報をリークすることだって難しくない。

 

 ……だからこそ、現役の子たちを取り上げるつもりはなかった。

 

 職業的に守秘義務を敷かれていることも珍しくないし、そうでないものだって、一般から裏取りのできない情報を流布するのは決して良いこととは言えない。

 

 私の目的は……これを始めた当初は誰かに認めてもらいたいってだけだったけど、今は、より多くの人にウマ娘とそのレースについて興味を持ってもらいたいと思ってる。

 だからこそ、リークなんてズルはせず、あくまで一般のファンと同じ目線で動画を作る。

 それが私のポリシーだった。

 

 

 

 勿論、今回だってウチの陣営のリークなんてするつもりはない。

 あくまでファン目線で知ることのできる情報を纏める予定だ。

 

 けれど……それでもやはり、公平な動画にはならないだろう。

 どうしたって、ホシノウィルムさんサイドに付いたものになってしまうと思う。

 

 私は、あの子の努力を、兄さんの次に近くで見て来た。

 すべての人の願いを叶えようと、あらゆる期待に応えようと……そして何より、内なる根源的欲求を満たそうと、誰より楽しそうに走るその姿。

 

 まさしく、ウマ娘という種族の象徴だ。

 誰よりも走ることを、競うことを、そして勝つことを、彼女は心より楽しんでいる。

 

 あれほど応援したくなる後ろ姿は、そうはない。

 動画で取り上げようとすれば、どうしたって私は彼女を貶すことができない。

 

 彼女には、ぱっと思い付くだけでも、いくつも悪いところがある。

 実力が伴っているとはいえ時に傲慢が過ぎることもあるし、興味を持った人以外に対して興味がなさすぎるし、兄さんの言い付けさえ破って自主トレすることも多いし、あとついでに恋愛的にクソザコすぎる。

 

 けれど、それを補って余りある程に……彼女は輝いている。

 トゥインクルシリーズにて瞬く、ただ1つきりの一等星として、思わず目が眩みそうな程に。

 

 その輝きに、私は既に網膜を焼かれてしまった。

 今更、たとえ嘘でだって、競走ウマ娘ホシノウィルムを貶す言葉を吐くことはできない。

 

 だからこそ、私はこれまでたくさんのリクエストをいただきながらも、ホシノウィルムさんに近い位置にいながらも、そしてそれがどれだけ反響を生むかも理解していながら、今まで彼女を取り上げた動画を作ったことはなかった。

 

 ……けれど、それなら何故、今になって公平性を欠く彼女の動画を作っているのか。

 

 答えは、簡単だ。

 

 

 

 もはや動画の大部分の作成が終わり、締めのシーンを残すのみ。

 私はそこに、キーボードを叩いてテキストを打ち込んでいく。

 

『ホシノウィルムさんは、今年の10月4日、凱旋門賞に出走予定!

 彼女の神話の最先端、日本の悲願が果たされる瞬間を皆で見届けましょう!』

 

 そこまで書き込んで、ポツリと呟く。

 

「……期待を背負えば背負うだけ、レースを走る力になる、か」

 

 それは、彼女から聞いた言葉だった。

 

 ファンから見てもらう程、期待してもらう程、その夢を背負う程、ウマ娘は強くなる。

 それは酷く非現実的で、根性論みたいな話だ。

 

 だけど……。

 

「あの目は、とてもじゃないけど嘘を言ってる感じじゃなかったよね」

 

 少なくとも、ホシノウィルムさんは、本心からそう言っていたと思う。

 

 

 

 堀野昌は、堀野歩が抱える担当ウマ娘をサポートする、サブトレーナー。

 ホシノウィルムさんを、そしてミホノブルボンさんをサポートし、彼女たちの走りがより良くなるように支えるのが私の役目だ。

 

 でも、ホシノウィルムさんのトレーニングや体調の管理は、ハッキリ言って兄さんで事足りるんだ。

 メンタルに関しては……昔はとても足りないと思ってたけど、最近はむしろ、兄さんと一緒にいるのが彼女にとって一番心地良い環境なんだろうなと思うようになったし。

 その仕事などのスケジュールだって、兄さんは2人とも分刻みで管理している。

 

 よく冗談交じりに「猫の手も借りたい」なんて言ってるけど、実際には兄さんは、もう2人の担当のことを管理し切れている。

 去年のダービーの頃には全く手が回らず、過労で気絶したりもしてたらしいけど……。

 私が徐々にトレーナー業に余裕を見出してるのと同じように、兄さんも更に慣れてきたんだろう、2人の優駿を担当してなお、ある程度休む余裕も持てているんだ。

 

 我ながらこんなことを言うのは情けないばかりだけど、兄さんたちの陣営にとって、私は実務的な意味では必要のない存在。

 むしろ、3人から学ばせてもらってるばかりなのが現状だ。

 

 その上、今年の夏から秋は、ホシノウィルムさんは私の手の届かない海外で戦うことになる。

 その期間中、私は何一つとして、実務的に彼女を支えることができないんだ。

 

 ……でも、だからって落ち込んでるわけにもいかない。

 私は私にできることをしないとね。

 

 

 

 確かに兄さんは実務方面では化け物だけど、なんでもできるってわけじゃない。

 私には私のやり方がある。

 兄さんにできない、彼女を支える方法があるはずだ。

 

 ホシノウィルムさんが、ずっとずっと力を出せるように……。

 未だ彼女のことを知らない人にも、夢を抱いてもらわないといけない。

 

「……あとは、エンコードかけて終わり、と」

 

 この動画が、果たしてどれだけの人に届くかはわからない。

 でも、できれば1人でも多くの人に届いて、ホシノウィルムさんへの期待を持ち、あるいは更に増してくれればいいと思う。

 

 それがきっと、世界の頂点で覇を競う、彼女の背を押してくれるはずだから。

 

 

 







 ちょくちょく仄めかしてた妹ちゃんの趣味はこれでした。
 本当はもうちょっと前にネタバラシするはずだったんですが、色々あってここまでずっとお流れに……。

 あと、最近世界観の掘り下げしてないなと思って久々に地の文バリバリに書いてみたんですけど、やっぱり楽しいですね……。
 まぁ展開は全然進まないので程々にしなきゃいけないんですが。



 次回は3、4日後。担当ウマ娘視点で、ただ1人のレースの話。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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