転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 OK和食タイム





ふぁーい日本のお米でしょって言う.rar

 

 

 

 たかたかたかと、特訓用シューズに打ち付けた蹄鉄が、人通りの少ない道路で音を立てる。

 

 前世の世界だと、馬が走る擬音と言えば「ぱからっぱからっ」が代表的だと思うんだけど……。

 実際、柔らかめの地面を軽く走るとそんな感じの音が鳴るので、やっぱり私ってウマ娘なんだなぁって思うよね。

 ちなみに固いアスファルトを走ると今みたいに「たかたか」って感じ、本気で走ったりすると「どかどか」って感じになります。参考までに。

 

 前世の馬と今世のウマ娘は、前世アニメの設定上当然と言うべきかもしれないけど、近しい部分がある。

 

 ……まぁ私の生きるこの世界は、正確には前世アニメの世界ってわけではないみたいなんだけども。

 なにせ主人公たちのパートナーたる沖野トレーナーが不在だし、ブロワイエちゃんとかゴルシちゃんとかもいない。

 前世で見たアニメウマ娘にかなり近い、二次創作的な世界なのかもしれない。

 

 ま、実のところ、私的にはこの辺はどうでもいいんだけどね。

 ここは私が生きる新たな世界。それだけだ。

 前世アニメで得た知識を有効活用することはあっても、それに縛られたり振り回されるのはご免だし。

 ……昔なら「原作ブレイクとか勘弁」って言ってただろうけど、いやはや私も変わったものだね。

 

 

 

 とにかく、前世の馬とこの世界のウマ娘は、かなり近い特性を持ってる。

 もっと言えば、私たちウマ娘は野生の本能に踊らされてしまいがちだ。

 歩さんに聞いた話だと、一般的なウマ娘は、狭い場所を嫌ったり、違う環境に置かれると大きなストレスを受けたり、そういう野性的な感性を残している子も多いらしい。

 

 ……が、私は転生チートつよつよ八冠ウマ娘。そんな常識には当てはまってはやらない。

 いやまぁ今回に限っては、チートもつよつよも八冠も関係ないんだけどさ。

 

 多分、私の魂? 精神? あるいは自我? そういうのが前世から引き継がれているのが原因だと思うんだけど、ホシノウィルムはあんまりそっち方向の野性的本能が強くない。

 やろうとすれば全然我慢できるレベルだ。

 その分と言わんばかりに、走りを楽しむ本能はかなり強いらしいんだけど……。

 

 正直、この辺のロジックは自分でもよくわかってないんだよぁ。

 いや実際、私の魂ってどうなってるんだろうね?

 元からこの世界に生まれる予定だったホシノウィルムの魂に憑依したのか? それとも私とホシノウィルムの魂が合体したのか? あるいは単に輪廻転生して無から生えてきたのか?

 そういうの、自分でもよくわかんないんだよなぁ。生まれた時から自意識はあったし、所謂乗っ取りではないとは思うんだけども。

 

 

 

 ……ま、考えても仕方ないかな、この辺は。

 

 話を戻すと、私はあまり本能的なストレスを受けることはない。

 ゲートの中のような閉所に入っても割と平気な方だし、周囲の環境が変わってもそこまで強いストレスを覚えたりはしない。

 

 勿論それは、こうして日本とは全く違う環境に来ても、同じく。

 

「やっぱり日本とは違うなぁ、フランスって」

 

 そんな声と共に私の吐息は、誰に理解されることもなく、日本に比べてちょっと涼しい空気の中に溶けていく。

 

 そう。

 今私が走っているのは、日本を離れて9500キロメートル、フランスの某所。

 エルブレーっていうトコらしいけど……正直私、フランスの地理にはまったく詳しくないので、その辺はよくわかんない。

 とにかく、フランスのどこかの川沿いだ。

 

 飛行機が着陸してから、おおよそ2時間程。

 なんか当然のように歩さんの車(日本で使ってたヤツとは別の新車)が駐車場に停めてあったり、既に家財の運び込まれた拠点があったりと、あまりにも準備万端な状態で始まったフランスライフ。

 

 歩さんが色々な手続きとか報告とか連絡に追われる中で、暇になった私は、慣らしも兼ねた土地勘を掴むためのジョギングを開始した。

 

 飛行機の中じゃ柔軟くらいしかできなかったし、現地での慣らし運転もしなきゃだし……。

 まずは拠点周辺の土地勘を掴んで、自主トレに適したスポットを見つけねばならないしね。

 

 現在は7月中旬なわけだけど、今年の凱旋門賞は10月4日。

 本番までは実に3か月近くあるわけで、こんな長期間自主トレができないとか、鬱になっちゃう。

 そんなわけで、私は良さげなランニングコースを開拓するため、てってこてってこと拠点周りを走っているのであった。

 

 勿論、というか流石に、今回は歩さんに許可をもらってる。

 「拠点から離れすぎないように」との約束も交わした上で、スマホや水の他にも、押すと警報を鳴らしながら歩さんの方に連絡が行くようになってるボタン付きのGPS? みたいなのも持つようにって押し付けられてしまったけども。

 

 ちょっと心配し過ぎじゃない? とは思うけど、そんな気持ちが嬉しい私なのであった。

 

 

 

 ただ、歩さんの心配する気持ちも、正直わからないでもない。

 

 というのも……やっぱりここは、日本とは全然違うみたいだし。

 

「日本とは結構、街の感じが違うなぁ」

 

 ぱっと見て感じる違いは、土地の使い方の豪快さだ。

 日本は無限に山があるせいで割と土地ぎっちぎちに建物とか道路が詰まってる印象なんだけど……。

 フランスはそこまで山は多くなくて、その分使える土地が広いんだろう。道路も歩道もめちゃくちゃ広いし、結構人通りの少ない道でもウマ娘レーンが用意されてるし、すんごい広い庭のある建物とかあるし、街路樹とかの緑も豊か。

 

 加えて言えば、空気とか気温も結構違う。

 東京の都心部に比べて自然が多いからだろうか、もう夏だというのにそこまで気温は高くないし、空気も匂いもいつもと違うんだよね。私の語彙力じゃ適切な表現が浮かばないけど。

 

 

 

 更に、当然と言えば当然だけど、すれ違う人たちの中に日本人は絶無だ。

 大体みんな茶髪だったり金髪だったりで、やっぱり日本人とは顔の彫りとか雰囲気とかが全然違う。

 

 なんか人間は遺伝子の多様性を求める云々で、近くにいる人よりも海外の人とかに魅力を感じやすい、みたいな話を聞いたことあるんだけど……。

 この様子だと、ありゃあ嘘だね。

 いや、別にこの国の人たちに魅力がないってわけじゃない。イケメンだなーって思うことはある。

 けど、歩さんの方が100倍くらいイケメンだし、好きだし。うん。

 

 そしてそんな人たちの中には、時々こっちを驚いた表情で二度見して来る人もいた。

 やっぱりあんまり見ない日本のウマ娘が珍しいんだろうか……とは、流石に思わない。

 私はホシノウィルム、現在世界中で話題沸騰中のスターウマ娘。

 誰かが走ってると思って何の気なく視線を向けたら、世界規模の大スターがいたりなんかすれば、誰でもビビるよね。

 

 一応キャップを被って髪も中にまとめてたり、透過度の低いサングラスかけたりはしてるんだけど、それでもファンの目から隠れ切るには無理がある。

 というか正直、最初から隠し切れるとは思ってない。

 変装っていうのはやり過ぎると怪しくなって逆に注目されちゃうものだし、ウィッグとかはランニングの時邪魔になるからしたくないし、ある程度バレるのは必要経費の内だ。

 

 そんなわけで、気付いてくれた熱心なファンには軽く手を振ったりサングラスズラしてウインクしたりと、ファンサービスをプレゼント。

 運転してる人はともかく、歩いてた人はちょっとぽーっとして立ち止まったりしちゃうので、こういうところはやっぱり日本のファンと変わらないね。

 

 私、外面と走りだけは良いから、カッコ良い立ち回りするとウケが良いんだわこれが。

 元オタクなので、この辺の需要は理解してるつもりである。

 

 ……まぁ、肝心要の想い人たる歩さんには、そういうのはむしろ不評だったりするんだけど。

 「君のそれは取り繕ってる時のヤツだろ。俺が好きなのは、素の……普段の歳相応なところを見せてくれる君だからな」とのことです。

 この人はなんでいつもこんなこっ恥ずかしいこと言えるんだホント。

 恥という感情を自己肯定感と共に前世に置き去りにしてきたの? 無敵なの?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 周りの景色を頭に叩き込みながら色々考えて走っていると、ジョギングの終わりの時間が来た。

 

 歩さんに用意してもらったこっち用のスマホを取り出して、結構メジャーらしい競走ウマ娘用の地図アプリを開くと……。

 走った座標の履歴は、歩さんに制限された範囲の中の大半を埋め尽くしていた。

 

 段々日も傾いて来たことだし、今日はこれからの予定もある。

 ちょうど拠点に近くにいることだし、切り上げるとしよう。 

 

「……ふぅ、悪くない感じ。思ったより不調はないな」

 

 クールダウンのため、早歩きの速度でとことこと私たちの拠点へ歩く。

 

 

 

 そうして、10分余りで辿り着いたのは……。

 何の変哲もない、フランスの家屋。

 家屋は横に大きく庭も広くて、そこそこの富裕層が住むような感じのヤツだ。

 

 私は渡してもらった合鍵……を、手のひらに置いて思わずにやにやと笑った後、改めてそれを鍵穴へと挿し込み、横に捻る。

 すると、カタンと音がして、扉のロックが外れた。

 

 そう。

 この割とでっかい家屋こそが、私たちのフランスでの拠点。

 歩さんがツテを辿って借りてくれた、貸家であった。

 

 

 

 競走ウマ娘が海外遠征に臨む場合、多くの場合はホテル住まいとなる。

 海外に落ち着いた住まいを用意できるトレーナーは少ないだろうし、安全性という意味でも比較的信頼がおけるので、当然の選択肢と言えるだろう。

 ……まぁ私たちウマ娘ともなると、その安全性も完璧とは言い難いんだけどね。

 熱狂的なファンの熱意って、良くも悪くもすっごいから。

 私のファンの中にも、建てた大型賃貸マンションに、わざわざ許可を取ってまで私にちなんだ名前を付けた人とかいたらしいし。どんだけ私のこと好きなんだよ。

 

 他の選択肢としては、所属トレセンがその国のトレセンと連携が取れている場合、特別に半留学みたいな形で寮に泊めてもらい、トレーニング施設を借りたりするってのもあるらしいんだけど……。

 こっちはすごく良い選択肢のように思えるけど、まだまだ思春期のウマ娘たちにとって、言葉が通じずコミュニケーションが取れない海外のウマ娘との接触がどう働くかわからない、というリスクも秘めている。

 ま、リスクが云々って言い始めたら、どの選択肢にもある程度のリスクはあるわけだけど。

 

 そんな中で、私たちの陣営が選んだ選択は……。

 「歩さんが個人的に家を借りて、そこを拠点とする」、であった。

 

 ホテルより、日本でのそれに近い環境を整えることができる、自由にしていい借家。

 その中から、レース場やレッスンスタジオ、駅などへの距離、治安やロケーションなどの要素を考慮して徹底的に厳選した、賃貸の一戸建て。

 これを、ホシノウィルム陣営やトレセンの名義じゃなく、海外では業界の人でもないと知らない歩さんの名前で借りることで、拠点バレのリスクを極力軽減する、とのこと。

 

 数時間前に私が初めて入った時には、新築かと疑うくらいにリフォームされ尽くしてたし、既に家具から消耗品までなんでも揃ってて、立派に「おうち」していてビックリした。

 なんでも、半年前……つまり凱旋門賞への出走が決まった今年の頭から、こっちに人をやって準備してたんだって。

 ……改めてこの人やべーなって思った。用意周到すぎるし、マネーパワーがエグい。これが名家かぁ。

 

 

 

 と、まぁそんなわけで。

 今の私には「帰るべき家」があるのだ。

 

 そうなれば、どうなるか?

 

 ドアの前で息を整えて、「ただいま~」と敢えて間の抜けた声を上げながら扉を潜ると……。

 

 

 

「おかえり、ホシノウィルム。ご飯も風呂も準備はできてるぞ」

 

 

 これこのように。

 エプロンを付けたトレーナーが、私を迎えてくれるわけだ。

 

 

 

 ……ふふ。

 ふふふ、ぬへへへへ、うへへへへへへ!

 

 や、やばい、思ったより破壊力高いなこれ!

 すごい、帰った家に……歩さんがいる!

 おかえりって言ってくれる!

 ご飯の準備とかしてくれてる!

 空気が冷え込んでない! むしろ超暖かい! というか顔が熱すぎてまともに前も見れない!

 

 大好きな人と2人きりの生活が送れて、私のために夕飯とか用意してくれて、こっちに慈愛の目を向けてくれて、家で待っていてくれて……!

 こんなのもう同棲じゃん! 海外旅行ってことも考慮したらハネムーンじゃん! 私たち新婚じゃん!?

 

 しかも、いつもはレースの後にもらっていた、「おかえり」。

 近しく親しい人にかけるこの言葉を、温かさを、毎日のように……いいや、毎日もらえてしまうんだ!

 

 これが……これが、幸せ……?

 そうか、幸せってこういうことを言うんだ……!

 

 

 

「ただいまです! えへ、えへへ……」

 

 どうしても綻んでしまう顔を、両手で抑える。

 まずい、頬が……頬が緩む……! ほっぺたが落ちるって美味しいものを食べた時の表現じゃないんですか!? もう今にも蕩けて落ちそうなんですけど!!

 

 私のそんな様子を見てか、歩さんは穏やかに笑い、こちらに手を差し出して来る。

 

「ほら、行こう。食事が冷めてしまうし……夜からはこちらの記者会見もあるからな」

「はい! ……えへへ、私フランス料理って食べたことないので楽しみです!」

 

 そう言って、私は未だ見ぬ食べ物に心からワクワクしていたんだけど……。

 

「え?」

「え?」

 

 歩さんは、何故かきょとんとした目を、こちらに向けてきた。

 

 

 

「なんで和食なんですか!?!?」

 

 私たちが赴いたリビングに並べられていたのは、見慣れたラインナップだった。

 ご飯、お味噌汁、鯖の味噌煮、ほうれん草のおひたし、肉じゃがに、大きなにんじんハンバーグ。

 つまるところ、いつもと代わり映えしない、日本あるあるのメニューであった。

 

「ハンバーグもあるし、正確には和食じゃないぞ」

「いやそういう定義上の話じゃなくて! なんでフランスまで来て日本いた時と同じもの食べなきゃいけないんですか!

 ここは当地の料理とか味わって『わーこれがフランスの味なんだー』って展開では?!」

「え、食べたいか? 作ってもいいけど、結構繊細な味付けも多いし、君の舌に合うかはわからないぞ」

 

 作ってもいいけど、って……え、もしかして。

 

「……これ、歩さんが作ったんですか? 頼んだとかデリバリーじゃなくて?」

 

 最近は結構高級嗜好に染まっちゃってる私だけども、根っこの部分は小市民。

 「海外旅行をすれば、現地の料理を食べるのが当然」という意識があった。

 ……というか、海外にまで来て日本の料理を食べることになるとは思わなかった、っていうのが正確かもしれないけども。

 

 けど、歩さんはむしろ、私の疑問にぱちぱちと目を瞬かせた。

 

「そりゃあそうでしょ。この辺に君の嗜好を完全に掴んだ日本料理店なんかないよ」

 

 私の嗜好に合った、ってことは……。

 もしかして、ここに並んでる料理、私の嗜好に合わせて作ったってこと?

 

「……私の好き嫌い、歩さんに教えてましたっけ」

 

 あんまり記憶ないんだけどな、と首を傾げていると……。

 歩さんは一つ頷いて、言う。

 

「教えるというか、まぁ調べたな。寮で出る給食の献立を見たり、ネイチャやテイオーに君が残した給食のメニューを聞いたり、外食した時の反応を見たり。

 君、なんだかんだ本当に美味しいもの食べた時の反応はわかりやすいし、それに沿って作ったつもりだ。……勿論、全てが全てそういうわけではないが」

「な、なんでそんなことを……」

「いつか言っただろう、トレーナーたればウマ娘に料理を作る機会もある。その時に備えて技術を培うこと、そして君の嗜好を調べることは当然だよ」

 

 そ、それは、なんというか……。

 

 

 

「歩さん……私のこと、好きすぎでは!?」

 

 

 

 相手の嗜好を理解するためにその友達に聞きこんだり、メニューを調べたり。

 そういった行動は、一般的に言えばストーカー行為に近い。

 

 が、ストーカーというのはされる側がする側に好意を持っていないことを前提とするものだ。

 歩さんと相思相愛──この場合の「思う」は「想う」ではないだろうし、「愛」は競走ウマ娘へ向ける「愛」なんだろうけども──の私からすれば、それは純愛的行動に他ならない。

 

 というか、もはや愛が重いまである。

 私だってそこまではしないよ? 精々がバレンタインに備えて昌さんから情報収集するくらいで。

 男性って記念日とかあんまり覚えないって聞いてたんだけど、そんなこと全然なくない? むしろめちゃくちゃ覚えてくれてるじゃん歩さん。

 

 ……私なんて、春までは歩さんの誕生日すら知らなかったのに。

 そのくせ、自分がされると「私のこと考えてくれてるんだなー」なんて嬉しくなっちゃうんだから、我ながら全く以て度し難いものだ。

 

 

 

 そんなわけで、てれてれと身をよじる私に対し、歩さんは至極当然という顔で言う。

 

「そりゃ好きだが……まぁでも、これに関してはどちらかと言えばトレーナーとしての話だな。

 人間もそうだが、生物は急激な環境の変化に弱い。そのため、まずは空気や周囲の環境に慣れてもらい、料理の方はおいおい少しずつ慣らす方がいいだろう、とな」

「ああ……うん、なるほど。ちょっと残念な気もしますが、歩さんらしい理論的な話ですね」

 

 急激にすべてを変えてしまうと、心も体も付いては行かない。

 故に、まずは空気とか雰囲気とかに慣れて、それから食生活も慣らしていこう、と。

 

 ……いや、だからってわざわざ相手の味の嗜好を調べ上げたり、自分で料理作ったりするのは、もはやトレーナーの領分を過ぎてるんじゃないかって思うんだけど。

 そりゃダービーの後に「他のトレーナーに委任とかふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ」って脅したのは私だけどさ……。

 流石にその辺は、専門家に委任してもいいんじゃなかろうか。

 

 歩さん、私に関することで他人に委任するのってウイニングライブ関係だけで、それ以外はホントに全部自分でやっちゃうんだよなぁ……。

 そういうところが過労に繋がっちゃってるんじゃないかとウィルム思うんですけども。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 何はともあれ、これ以上喋ってご飯を冷ましてしまうのも良くないだろう。

 私たちはそれぞれまだ慣れない席に着き、新鮮な風景の中で「いただきます」と手を合わせた。

 

 さて、まずは……そうだな、やっぱり主菜とご飯からかな。

 私はまず好きなものから食べちゃうタイプなので。

 

「んむ……あ、美味しい! えっ美味しすぎません? いや本当に美味しいんですけど!」

「嬉しいしありがとうだけど、何その美味しいの三段活用?」

「いや、ハンバーグってこんな……こんな感じでしたっけ!?」

 

 まず舌に触れるのは、表面にかけられたソース。

 デミグラスソースだと思うんだけど、なんかこう、出汁? がすごくて、めっちゃ濃厚。

 そして肝心のお肉の部分。最初に噛んだ時の噛み応えが凄く気持ち良く、直後に中からじゅわっと肉汁が溢れてきて、そのくせ中のお肉はふわっと柔らかくすごく食べやすい。

 

 走りによってちょっとだけ疲労した脳に、ぎゅぎゅぎゅーっと来るジューシーさと美味しさだ。

 今まで食べてきたハンバーグは何だったの? ただのジャンク? ファストフード?

 ……と、思わずそう思ってしまったくらいには、歩さんの作ってくれたハンバーグは美味しかった。

 

 自然と喋るのを止めてパクパクとハンバーグを口に放り込む作業に従事し始めた私に、歩さんは穏やかな微笑を向けてくる。

 

「結構しっかり時間をかけて作ったからな。トレセン学園の給食は比較的質が良いとはいえ、栄養と原価、手間といったコスト重視の食事に負ける気はないさ」

 

 おぉ、ちょっと自慢げ。歩さんにしては珍しい。

 

「歩さん……本当に料理上手いんですねぇ」

「あれ、前にも作ったことあったと思うんだけどな……」

「いや、確かに前にも食べて美味しかったんですが、今回はもっともっと美味しい気がします」

「時間かけたのと、君の嗜好の研究が進んだからかな」

「それと愛の力ですかね!」

「ウィル? ……っとと、このままでは冷めてしまうな。ほら、食べてくれ」

 

 歩さんの言う通り、鯖の味噌煮とご飯を口に放り込む。

 うん、これもすっごく美味しい。これに比べるとトレセンの鯖はカスや! ……いやごめん、ネタとはいえ流石に失礼だね、普通に美味しいです、はい。

 

 でもこれ、私の好きな濃い目の味付けで、明らかに手間暇かけて作ってくれたんだなってことがわかる。

 なんというか、日本を思い出す味だ。まだ離れてそんなに時間は経ってない、どころか1日も経ってないけども。

 

 

 

 ……あれ? ていうかちょっと待って。

 遅れて気付いたけど、この鯖とかお米とか、さっき食べたハンバーグにしても、今思うと日本で馴染みのある味すぎない?

 同じ料理を作るにしろ、食材に土地柄というものがでるはずなのでは……?

 

「あの、この材料ってどこで買ってるんですか? 近くのスーパー?」

「日本から運び込んで近くの倉庫に貯蔵してる」

「全部日本から? え、それすごい量じゃありません?」

「3か月分となると結構すごい。輸送費めっちゃかかった」

「えぇ……歩さんがめっちゃって……。あの、現地のスーパーで買おうとか思わなかったんですか」

「君の口に合うかわからないし、食中毒などの危険性も考慮するとなかなかね……」

 

 気持ちはわかんなくもないけどさ、普通そういうのってかかるお金とか手間を考えると諦めない?

 この人、コスパとかいう思考方法持ってないんだろうか。

 ……持ってないんだろうなー。私を支えるためならいくらでも使っていいって思ってそう。

 それが嬉しくもあり、同時に怖くもある。私はどこまでいったって根っこが小市民なので。

 

 

 

 なんとも言えない気持ちでお味噌汁を口に含むと、これまたすごく私の好きな味。

 ……あ、思い付いた。思い付いちゃった。思い付いちゃったからには言っちゃおうせっかくだし。

 

「毎日飲みたいですね、このお味噌汁……なんちゃって!」

「了解、明日から毎日用意するから、飽きたら言ってくれ」

「そうじゃないんだよなぁ」

 

 私は思わず頭を抱える。

 くそぅこのとんちんかん、並大抵のことでは揺るぎそうにない。恥を知れ恥を!

 

 やっぱりもっとアタックが必要だな! 力こそパワー!!

 

「あ、そうだ、あーんしてくださいよあーん! せっかく2人しかいないんですし、普段はやれないことやりましょう!!」

「やっぱ君まだテンションおかしいね? いいけど……土壇場で恥ずかしくなって爆発とかするなよ?」

「しませんよ自分から誘っておいて! ほら! ほら、あ、あーん!」

「あーん」

「…………やっ、やっぱ無理っ!!」

 

 爆発した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、そんなこんなでいちゃいちゃしていた私たちだけど……。

 

 忘れてはならない。

 私たちは実のところ、競走ウマ娘とトレーナー。

 なにも新婚……し、新婚! 旅行として、フランスに来たわけではないのだ。

 ……まぁ、3か月も同棲するって考えると、もはやそれ以上な気がしないでもないけども。

 

 

 

 そんなわけで、私と歩さんは仲良く食事と片付けを済ませた後、正装に着替え、夜闇迫るフランスの街へと足を伸ばす。

 

 目的地は……3か月後の決戦の地、ロンシャンレース場。

 

 そこで私たちは、この国での最初のインタビューを受ける手筈になっている。

 

 故にそこまでは、歩さんが用意した車に乗って、10キロくらい離れたパリの近郊に向かうのだった。

 

 

 

 ……ただ、お仕事だからって固くなってたかと言えば、そうでもなく。

 

「しかし、インタビューってやっぱりフランス語ですよね。やっぱり私、ちょっとはフランス語言えるように勉強した方が良かったのでは?」

「言うは易く行うは難し。君、3年間勉強した英語すら喋れないだろうに」

「しゃ、喋れますし~!! アイキャンスピークイングリッシュですし~~~!!!」

「『私は日本の威信にかけてこの凱旋門賞という戦いに勝利してみせます』。はい英語で」

「アイウィンベリーベリーガイセンモンショーアンドカケルニホンノイシンアーッ!!」

「やけくそすぎて海外翻訳版みたいになってるが。……いや、今回は英語翻訳だし合ってるのか?」

 

 私たちはふざけ合い、笑い合いながら、車での移動時間を過ごしたのだった。

 

 

 







 堀野君は名家出身な都合上、海外に慣れてます。
 なのでウィルとは温度差があるわけでした。



 次回は3、4日後。トレーナー視点で、煽りレベル99のインタビューの話。



(本編に関係のない呟き)
 エピソードアイギスリメイクやったー!!!

(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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