転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 2人(2人とは言っていない)
 いよいよタイトルがネタ切れしてきました(n回目)。


強敵の大体二人

 

 

 

 フランスに渡ってから、1週間程が経過した。

 

 驚くべきことに、ウィルはこちらの芝を走ることになった初日、いきなり洋芝の適性を2段階くらい上げた。

 

 一応、誤解なきように付け加えれば、これは何も絶対に正確な評価というわけではない。

 俺の『アプリ転生』で見ることができるバ場適性は、今も昔もダートと芝……つまり野芝だけだ。

 これまでの経験からして、俺の『アプリ転生』は俺がゲームから離れた時点ではなく、もっと先の仕様を反映しているみたいだ。

 あれから前世ゲームで海外のレースや洋芝が実装されたのかは知らないが、仮にされていたとしても、マスクデータかイベント系のデータになっていた、ということだろう。

 

 故に、正確には洋芝の適性を測ることはできないんだが……。

 それでも、これまで海外遠征してきた日本のウマ娘たちのデータや、本場のG1レースのタイムなどから、ある程度は推察と考察もできるわけで。

 

 俺から見て、走り始めたウィルの姿勢は割と滅茶苦茶で、一瞬止めようかと思うくらいに乱れていた。

 つまるところ、適性G。

 全く以て不慣れな、その脚で走るのには適さない地形だったのだろうと思う。

 

 ……が。

 「思考力増加」中のウィルの走りは、最低でもBレベルの適性を有していると思えた。

 

 想像してもみてほしい。

 走り出して4歩目くらいで、わけわからんくらい急激に走り方が最適化され、推定適性が5段階くらい爆伸びする様を。

 

 一般常識のあるトレーナーとしては、正直、絶句する。

 いや、絶句するどころかドン引きレベルだ。ウィルはぎこちない顔で「だ、大丈夫ですよ? 怖くないですよ~? だから引かないで、ね?」と言ってきたけど、流石にちょっとビビるよこれは。

 

 いやまぁ、俺としても、ウィルの思考力増加能力にそれをこそ期待してたんだけどさ。

 彼女の慮外の集中力なら、あるいはこの洋芝にさえ簡単に適応できるのではないか、と。

 

 でも、流石にここまでとは想定していなかったんだよなぁ……。

 初日はひとまず慣らし。ここから1週間以内に1段階ずつの上昇を目指し、まぁ実際にはそれも厳しいだろうから2週間に1段階を目途にして……本番までにC、欲を言えばBまで上げられればいい、と。

 そういうプランだったわけだが……。

 

 どうやら俺は、まだまだホシノウィルムというウマ娘を侮っていたらしい。

 

 この世界において、適性は指数関数的に上がりにくくなる傾向があるので、これからも毎日2段階上がる、なんてことはないとは思う。流石にね。

 むしろ、頭を使って上げられるのはこの二段階が上限で、後は俺が想定していた通り、長い時間を使って体を慣らすことが必要になるのかもしれない、とも思える。

 

 が、それらは当然ながら俺のプランを瓦解させるものではなく、むしろかなりの前倒しを求めるものだ。

 

 改めて、俺の担当は完全に常識の外にいる存在らしい。

 流石は暫定転生チートウマ娘と感心すればいいのか、あるいは呆れればいいのか。

 

 ……俺もあんまり人のこと言えないか。数値化も大概チートだし。

 

 

 

 と、そんなわけで。

 もう少しウィルが洋芝に慣れてからにしようと思っていた作戦会議を、少し早めに開催することにした。

 

「それでは、君の次走、フォワ賞に向けての情報共有と作戦会議を開始する」

「わーぱちぱち!」

 

 ウィルと共に住んでいる家の居間、テーブルの上に各種資料を並べながら宣言。

 対してウィルは、少し大げさに両手を鳴らすことで応えてくれる。

 

 去年の夏からはブルボンや昌が参加していたため、2人きりの作戦会議は1年ぶりになるだろうか。

 久しぶりになるからか、あるいはまだテンションが上がったままだからか、ウィルはにこにこしながらテーブルの下で脚を揺らしている。

 尻尾もゆらゆら揺れているし、どうやら楽しみにしてくれているらしい。

 

 少し珍しいな、と内心で首を傾げる。

 彼女は座学より実践派。作戦会議もそこそこ楽しみはすれど、基本的にはそこまでテンションが上がるわけじゃないんだが……。

 

「今日は楽しそうだね。どうした?」

「そりゃ楽しいですよ! なにせ海外初の、そして久々のレースですし!」

「あ、そういう」

 

 なるほど、楽しいというよりは、来たる戦いに向けて意気込んでいるらしい。

 この子、レースを何より楽しむ性質上、気合を入れる様子と楽しそうな様子が表裏一体なんだよね。

 

 ホシノウィルム検定準一級を自負する俺も、この辺りの見分けは付かない。まだまだ未熟である。

 確かな参考書とか論文がないから勉強しようにも難しいんだよね、乙女心とウィルの宙……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、それでは改めて、本題に入るとするか。

 

「まずはフォワ賞について確認していくぞ。何か疑問があればすぐ訊くように」

 

 

 

 フォワ賞。

 それは、凱旋門賞のステップレースの1つだ。

 

 日本のウマ娘は国内のレースに集中しがちだが、実のところ他国と距離的に移動しやすいヨーロッパでは、ウマ娘が他国のレースに出るということは珍しくない。

 故に、G1レースの優先出走権を得るためのステップレースも、国境を越えた広い範囲、多い回数開催されることが多かったりする。

 

 世界最高峰のレースたる凱旋門賞もその例には漏れず、ステップレースは5か国に亘り、実に15回近く行われる。

 

 そして、フォワ賞はそんなレースの中でも、最も注目されるものの1つだった。

 

 他と何が違うかと言えば、開催地と条件だ。

 

 クラシック級のウマ娘による、G2ニエル賞。

 同じくクラシック級の決戦、G1ヴェルメイユ賞。

 そしてウィルの次走であるシニア級レース、G2フォワ賞。

 

 この3つのレースは、ロンシャンレース場、2400メートルのコースで競われる。

 そこには、悪路になりやすいバ場に10メートルという高低差の坂、そしてフォルスストレートと、日本のレース場にはないたくさんの特徴があるわけだが……。

 それは一旦、さておくとして。

 

 つまるところ、フォワ賞は凱旋門賞とほぼ完全な同条件の、シニア級のグレードレース。

 本番に向けたこれ以上ない調整の場であると共に……。

 ここで結果を残したウマ娘は、凱旋門賞でも実力を発揮できる可能性が高い、というわけだ。

 

 

 

「でも言ってもG2レースですよね~。手強い相手っているんですかぁ?」

 

 ちょっとふざけて訊いて来たウィルに、俺は真面目な顔で頷く。

 

「いるぞ。というか、凱旋門賞前に行える実戦での調整の場なんだ、当然強者も参戦してくるさ。

 ……ウマ娘は、君のように叩きなしで全力を振るえる子ばかりではないということ、きちんと覚えておくといい」

「そういうもんですか」

 

 現に、3年前にパリに舞ったもう1人のチャンピオンことエルコンドルパサーも、このレースに出走、調整の成果を見せてクビ差で勝利している。

 何気にこれが日本のウマ娘初の勝者だったりもするんだよな。G2ってこともあってあまり注目されることは多くないけど、エルが確かに力を持っていた証左だ。

 

「今年の注目株は? どんなもんです??」

 

 ワクワクした雰囲気を隠し切れないウィルに訊かれ、俺は苦笑しながらテーブルに並べた書類の中から2枚を並べ直す。

 

「俺が強く注目しているのは、2人だな」

 

 

 

 今年のフォワ賞で脅威になり得るウマ娘は、2人。

 

 内片方は、既にウィルが対戦経験のある相手だ。

 

「覚えてるか? ウィッチイブニング」

「あ、去年のジャパンカップで私とマックイーンさんでボコった相手ですよね」

「そうそれ。よく覚えてたな、偉いぞ」

「えへへ……」

 

 褒めると撫でて欲し気に頭を向けてきたので、存分になでなで。

 ウィルの頬はによによと吊り上がり、最近はだいぶマシになってきた素の笑顔を浮かべる。

 あの笑顔、最近はあまり見られなくなって嬉しいやら寂しいやら。

 

 しかし、去年「私に3バ身以上差を付けられるウマ娘とか、一々覚えてないですよそんな雑魚」みたいな態度だった頃に比べて、だいぶ軟化したなぁと思う。

 最近の彼女は、同じレースを走った子に限りこそするが、あまり注目されていなかったり結果を残せなかったような子でも、名前を出せば「えーと、あ、あのレースにいた子ですよね?」と言えるくらいには覚えられるようになってきている。

 

 他人に興味を持てるのは、人としてもウマ娘としても非常に良い傾向だ。

 これが褒めずにいられようかという話で、俺は彼女の頭を思う存分撫で繰り回した。

 

 ……で、2人で1つの椅子に座り、10分程なでりこなでりこしていると、彼女がはっと目を見開く。

 

「いや撫でてくれるのは嬉しいですけど、今はレースの話!」

「あ、話戻していいの?」

「です! それで、ウィッチイブニングちゃんはどんな感じです?」

「戦績は資料に纏めているが……一言で言うと、この子かなり安定感がないんだよな」

 

 ウィッチイブニングの戦績は、非常に良い。凱旋門賞に出るような子だ、当然と言えば当然だけど。

 去年のジャパンカップ出走の前なんか、G1ヴェルメイユ賞に勝利し、そのまま凱旋門賞ではノーブルシンガーに続く2着。

 凱旋門賞2着ということは、つまりは芝の戦場で世界2位に等しい。まさしく大戦果と言えるだろう。

 

 ……が、安定して好成績を収めているかと言えば、そうでもなく。

 ノリにノッている時は1着か2着、連対して当然。

 しかし調子を崩してしまうと5着6着、オープン相当のレースにも勝てなくなる。

 ウィッチイブニングはそういう、上振れ下振れの激しいウマ娘なのだ。

 

 ノッている時の彼女は非常に脅威だ。矛盾しているようだが、安定して結果を出して来る。

 去年のジャパンカップの際にはかなり調子が良かったからか、インタビューの際も自信満々で、『ボクの魔法で捉えられない相手はいない!』とドヤ顔していたのを覚えている。

 

 が、直後にウィルとマックイーンに叩き折られ、意気消沈。

 そのせいもあってか、彼女は今年の夏まで再び調子を崩しているようだった。

 

 そのままであれば、凱旋門賞においてはあまり脅威にならないかとも思ったんだが……。

 先日のG1、サンクルー大賞前のインタビューでは、『去年の借りを返すために、ボクの魔法は更に進化した!』と明るくなっていた。

 実際のレースでも見事に勝利……とまでは行かずとも、勝率58%連対率83%の怪物バレルージュに続いて2着入線。

 確かに調子を取り戻しつつある、と言えるだろう。

 

 去年ジャパンカップで圧勝したのは、彼女が日本の高速競馬に適応できず、ウィルとマックイーンのトンデモハイペースに磨り潰されたから、という側面が大きい。

 洋芝というウィルにとってのアウェー環境で、なおかつウィッチイブニングの本領が発揮できるホームで、果たしてどちらに軍配が上がるかは……。

 

 いやまぁ俺たちが勝つけども。

 は? 負けないが?

 

 

 

「で、ウィッチイブニングちゃん以外のもう1人はどんな子なんです?」

 

 露骨に楽しそうに、肩を摺り寄せ、尻尾をこちらの足に絡めながら言ってくるウィル。

 もう8月なのでこうも密着すると少し暑いのだが、この1週間でいい加減慣れっこなので特に言及もせずそのまま話を戻す。

 

「もう1人は、ネディリカという子だな」

「ネディリカ……ちゃん? ……多分聞いた覚えないと思うんですけど、忘れてるだけです?」

「いや、こっちに関しては君は知らないかもしれない。というか知らないだろう」

 

 フランスではかなり有名な子なんだけど……国内ですら対戦相手以外のウマ娘の名前を殆ど憶えないウィルのことだし、知らないのは仕方ない。

 その分、俺がきちんと調べておけばいい。

 ウマ娘の不足を補うのもトレーナーの仕事の1つなのだから。

 

「ネディリカ。フランス当地のウマ娘だ。

 多少掛かり癖はあるが、かなり強力な差しウマ娘だな。パリ大賞やガネー賞といったG1レースを制し、その連対率は70%弱。

 応援するファンの数も相応に多く、恐らくはウィッチイブニングに続く三番人気になるだろう」

「へー」

 

 ウィルはぽけーっと聞いているが、流石は凱旋門賞に挑むウマ娘と言うべきか、この戦績は結構すごい。

 いや結構というか、本当に世界最高峰の上澄みなんだが……どうしても横にウィルがいると霞んでしまうな、この辺りの感覚。

 

 ネディリカの連対率は、実のところウィッチイブニング以上。つまるところパフォーマンスの安定感では、欧州の世界2位を超えているわけだ。

 これだけの成績を誇るG1ウマ娘は、日本にだってそうはいない。

 ……まぁ、それに関しては、どこぞのウマ娘がG1レースを荒らし回っているという理由もあるのだが。 

 

「ちなみにその性格は、フランスの子にしては珍しく、というわけでもないが、割と質実剛健な子だな。

 今回のフォワ賞に対しても……ニュアンス的に意訳すると『東より来たる龍、この国のウマ娘としての誇りを以て下してみせましょう』とのことだ」

「……武人? グラスちゃんかな?」

「国に誇りを持ち、友に誇りを持ち、レースに誇りを持ち、そして何より自らに誇りを持つ。

 そういった類の、志の高いウマ娘だな。確かにグラスワンダーのタイプに近いかも」

 

 フランスのウマ娘たちは、比較的……こう、軟派な子が多いんだよね。

 アッパーテンションで非常に前向き。

 レースにガチになりがちな日本の子たちとは少し違って、言うならばウィルのように、純粋にレースを楽しもうとする子の方が多い傾向がある。

 

 とはいえ勿論、それはあくまで「傾向」なので、そうでないウマ娘もたくさんいる。

 ネディリカはそんな子たちの1人、というわけだ。

 

「長所としては、やはり末脚の鋭さだな。直線での差し切りが基本戦術なわけだが、レース勘が良いとでも言うべきか、スパート開始のタイミングなどには天性のものを感じる。

 一方弱点は、シニア級ウマ娘としては自制心がイマイチなところと、単純なスペックかな。掛かったりして折り合いを欠くことが多く、また真っ当に競り合いをしてもウィッチイブニング級が来ると競り負けることも多い。勿論勝つこともあるが」

 

 ……より正確に言えば、スペック不足の方は弱点とは言い難いんだけどね。

 

 そもそもアスリートの勝負というのは、余程の才能を持っていない限り、上澄みになればなる程スペック的な差が生まれにくい。

 ひとえに人間(またはウマ娘)の体と精神の限界というヤツは、そこに近付けば近づく程に成長を阻害してくる。

 自然、上澄み同士の戦いには、個性が生まれることはあっても、スペック的な差が生まれ辛いのだ。

 

 ……が。

 ごく一部のやべー天才は、そんな上限を取っ払ってしまうというか、無視してしまうというか。

 典型例は、ホシノウィルムとトウカイテイオー、それにメジロマックイーン。

 ウィルはトレセン入学時点のステータスがちょっと常識では考えられないくらいに高く。

 テイオーは覚醒時のステータスの上がり方と本番での爆発力が尋常ではない。

 マックイーンもマックイーンで、スタミナの伸び方がちょっとヤバすぎて周りが追い付けない。

 

 そんな怪物級の彼女たちにとって、「他のウマ娘と五分五分に近く、確実に勝てるかわからないステータス」というのは弱みたり得てしまうのだ。なんとも恐ろしいことに。

 

 

 

「勿論、他にも驚異的なウマ娘はいる。……が、やはりこの2人が最大の壁になるだろうな」

 

 俺はそう言葉を結ぼうとして……。

 

「……いや、訂正。違うな、君の壁はそこじゃない」

「というと?」

 

 きょとんと目を丸めた彼女に、俺は不敵に微笑みかける。

 

「結局のところ、君にとっての最大の敵は、この土地だ。

 洋芝への適性、空気や食などの違い、環境の変異。それに適応しさえすれば……日本でもここでも、君に壁も敵もないさ」

「えへへ……そう言われると、期待に応えなきゃですね!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

「とは言っても、凱旋門賞では敵がいるわけだが」

「え!? さっきは敵はいないって言ってましたよね?」

「すまんありゃ嘘だった。いや嘘ではないにしろ、若干の誇張の入った表現だな。

 ……というのも、今年の凱旋門賞はちょっとヤバくなりそうなんだ」

 

 言うと、ウィルは思い切り眉を寄せた。

 

「…………歩さんがヤバいって言うとか、どんなですか。近年は小粒揃いって聞いてましたけど……。

 まさか去年の有記念級とか言いませんよね?」

「いや割と真面目にそれくらいかもしれん」

「は? え、は!? ホントに!?」

 

 これまでにない程の驚愕を見せるウィルに俺はコクリと頷いて、いくつかのウマ娘のデータを纏めた資料を差し出した。

 

 

 

 フランスにおける凱旋門賞は、日本で言うところの有記念みたいなものだ。

 格も人気もダントツトップ、まさに1年に1度の祭典的な位置づけである。

 

 それだけ強い相手と戦え、それだけ多くのファンに見られ、それだけ高い夢の舞台に立てるんだ。彼女たちが奮い立つのも当然と言えるだろう。

 凱旋門賞に出走したウマ娘の力が残っていて、なおかつ当地のトゥインクルシリーズに所属したままであれば、翌年も連続で出走することも多い。

 

 が、今年はその出走メンツが、大きく様変わりしつつある。

 今年の頭辺りにどこぞの龍が参戦を発表して以来、元は出走予定のなかった子たちがもぞもぞと胎動を始め、5月辺りから本格的に参戦を表明してきているのだ。

 

 そしてそのメンツは、今年に入ってから一気にぐんと実力を伸ばしている。

 ホシノウィルムが影響を与えたのは、新進気鋭のあの子だけではなかったというわけだ。……トレーナーとしては、かなり頭の痛いことに。

 

 結果として、現在凱旋門賞へ出走予定のメンバーは、ウィルを除いても20、30年に一度のレベルでの精鋭が集いつつある。

 ウィルを含めば、恐らく向こう50年は見られないだろう豪華なメンバーになる……かもしれない。

 

「目の前のことに集中してもらうために、ここまで伝えて来なかったが……結果として、また予想を外す形となってしまった。

 そこに関しては本当に済まない。慙愧に堪えないよ」

「いや、むしろ1年前とかにレースの予測とか立ててる方がすごいんですよ? 私としてはいつもありがとうございますって感じですよ?」

 

 あせあせと両手を振ってフォローしてくれる優しい担当の頭を撫でながら……。

 

 改めて、今年の凱旋門賞の出走メンバーについて説明を始める。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 今年の凱旋門賞は、すさまじいメンツが集まりつつある。

 

 まず、先程フォワ賞で挙げた2人、ウィッチイブニングとネディリカ。

 この2人は十中八九、というかほぼほぼ100%の確率で凱旋門賞にも出て来るだろう。

 洋芝特有の非常に強力なパワーを持つ追い込み&差しウマ娘だ、この2人だけでも決して油断はできない相手となる。

 

 が、それに加えて。

 今回は更に、複数人の優駿が集ってきた。

 

 

 

 まず目に入るのは、先行ウマ娘、マム・クリスティ。

 

 つい先日の愛ダービーを、当レース史上初の12バ身差、そして以前の記録を3秒も短縮するというウルトラレコードで勝ち切った、天性の怪物。

 この春で一気に実力を伸ばしてきた、現在話題沸騰中のスターウマ娘だ。

 

 数日後にもG1レースに出走する予定で、俺の目から見ても勝利濃厚。

 もしもそこで勝つことができれば、勝率67%という恐るべき数字を刻んで凱旋門賞に出走することになるだろう。

 

 まぁ、愛ダービーのアレは自陣営のラビットにペースを作ってもらっての勝ち方なので、ウィルが大逃げで大きくペースを乱す凱旋門賞では本領発揮とはいかないかもしれないが……。

 それでも、爆発力だけならウィッチイブニングすらも凌駕するだろう強敵だ。

 レースの2回に1回以上勝っているという実績は、彼女単体で見ても並々ならぬ実力を持っていることを示している。

 

 

 

 次に、先行か差しで来るだろう、エムリーヌ。

 

 新進気鋭のクラシック級ウマ娘。

 これまで出走したレースはメイクデビューを除いて2つともG1レースであり、初戦サンタラリ賞は惜しくも2着に敗れたが、続く仏オークスでは勝利を刻んだ。

 

 まだデータが少ないとはいえ、この子もこの子でデビューから3か月でG1レース勝利、勝率67%は脅威の数字だ。

 日本ではそうそう見ることのできない躍進っぷり。

 西洋のクラシック級ウマ娘は日本の子たちに比べて勢いがあるとは思っていたが、やはり恐ろしいものだな。

 

 当然ながらそのステータスもかなり高く、このまま行けば、クラシック級のウマ娘ながら十分に凱旋門賞に挑みうる実力を持ち得るだろう。

 特にその仕掛け時までの我慢強さ、そしてその時が来た際の爆発力はかなりのものがある。

 

 夏に入ってからは短めの休養に入っているが、9月のヴェルメイユ賞から再始動予定。

 そこでどれだけ強い勝ち方を見せて来るか、そしてどれだけ仕上がっているかには要注目だろう。

 

 

 

 まだまだいます、次なる注目株は先行ウマ娘、ミセス・エステル。

 

 当然のようにG1ウマ娘であり、勝率も50%ピッタリ、連対率に至っては80%。

 なんでこんな戦績良い子たちばっかり出て来るんだろうね。いや凱旋門賞だからっていうのが全てなんだけども。

 

 勿論その実力も折り紙付きで、更にマム・クリスティに12バ身差を付けられたことから末脚強化月間に入ったらしく、凱旋門賞の頃には粘り強い相手になっているだろうことが予想される。

 ちなみに家庭の都合で各地のトレセンを転々としているという少し珍しい境遇の子でもあり、専属のトレーナーは彼女に付いて行くために頻繁に転勤しているらしい。大変そうだ。

 

 

 

 皆が皆、押しも押されもしない強敵たち。

 今年の凱旋門はまさしく決戦となるだろう。

 

 ……が、しかし。

 

 何が恐ろしいって、ここまで挙げて来たとんでもない優駿の中に、本命がいないってこと。

 いや、勿論凱旋門賞の本命はホシノウィルム一択なんだが、彼女のライバルとしての本命は別にいる。

 

 故に俺は、最後に、彼女の話を挙げた。

 

 

 

「そして、更にもう1人。

 誰よりホシノウィルムを意識し、殆ど注目されない立場から一気に駆け上がって来た、エムリーヌすら上回るクラシック級の若き女傑。

 『一度も負けることなく、1か月に1度G1レースに勝っていく』という宣言を、彼女は今のところ2つのオークスに連勝するという形で叶えている。

 デビューして3か月未満で、4戦を経て連対率100%、勝率100%、G1レース2勝。

 このヨーロッパで、君の飛翔を止め得ると最も期待されているウマ娘」

 

 ウィルが、ニヤリと笑う。

 

 そう、これまでに俺が何度か話題に出してきた相手。

 龍を打ち倒す新たなドラゴンスレイヤー。インタビューで語ったその自称から「英雄姫(Heroic Princess)」なんて呼ばれ方をされ始めている、ホシノウィルムにとって最大の壁になり得る存在。

 

 その名も……。

 

 

 

「アンダースタンディブル。

 莫大なスタミナと他を圧倒するスピードで相手を磨り潰す……その名の通り『わかりやすい』強さを持つ、君やメジロマックイーンに近いスタイルの競走ウマ娘だよ」

 

 

 







 オリジナル要素と史実要素を織り交ぜて送る凱旋門賞編。
 正直に申しまして史実レースに詳しいわけではないので、調べたりしながら頑張って書いてます。
 もし間違いとかあったら遠慮なくご指摘ください。作者が泣きますので。



 次回は1週間以内。ホシノウィルム視点で、不意打ちエンカウントの話。


(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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