転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 流行が終わってから乗っかっても意味なんてないのに……





好きなトレーナー発表ウィルム

 

 

 

 フォワ賞が終わって、二日後。

 

 祝勝会として美味しいお店に食べに行ったり(なんかすごい高級で日本のとは違う味がした)、疲労抜きも兼ねてパリ……は目立ちすぎるので、そこからちょっと離れたところで歩さんとデートしたり(日本と全然違う街並みが新鮮で楽しかった)。

 数日の、平穏で幸せな一日が、当然のように過ぎていって。

 

 

 

 そうして、改めて走り出す日がやってきた。

 

「さて……それでは改めて、凱旋門賞の作戦会議を始めようか」

「いえーい!」

 

 ぱちぱちぱちと、私は拍手で以てこの日を迎えた。

 

 私たちの陣営では、基本的に前回のレースが終わった後にこれからのプランがざっと告げられ、レース1か月前に詳細な作戦会議が行われる。

 

 今回の場合、フォワ賞から凱旋門賞は1か月なので、今日からいきなり作戦会議だ。

 

「……とはいえ、今更作戦会議が必要か、という話もあるんですけども」

 

 

 

 実際のところ、先日のフォワ賞で、私の走りは西洋でも通用するらしいことがわかった。

 いやわかったというか、2か月かけてこっちに慣らしたっていうのが実情なわけだけど。

 

 私の転生チートである『アニメ転生』は、地味だけどこれで結構使い勝手が良く、バ場とか環境への慣らしにも適してる。

 走ってる際に思考力が跳ね上がるので、地面への脚の付け方とか、バ場の緩さとかの色んな条件を鑑みて、一歩踏み出す毎に走りを最適化できるわけだ。

 

 思考加速系のチートを持ってない人向けに説明するとしたら……そうだな。

 対人系のアクションゲームをやる時、何も考えずにやるとあんまり成長しないけど……射線の切り方とかキャラコンの鋭さとかラインの意識とか、そういうのを考えてチャレンジングにやると成長しやすい、みたいな?

 多分そういう感じのロジックで、私はチートを使うと適性の向上速度がかなり上がるらしい。

 

 この前の夕食の時の雑談で、歩さんは「もしかしたらこれがあるから君の適性は元から高かったのかもな」、なんて考察もしてた。

 実のところ私は入学時点の適性がとても高かったらしく、特に野芝、逃げ、それから長距離には、常識的にはあり得ない程高い適性を持ってたらしい。

 これを叶えたのは、普段からちょっと漏れ出してるっぽい思考力増加こと『アニメ転生』と、トレーナー不在で効率が良くないとはいえ、私が延々と走り続けて来た時間によるものなのではないか、と。

 

 なるほど、理屈は通ってる。

 走ってる時に聴覚が異常に鋭くなる……もとい情報処理能力が向上することからして、私のアニメ転生は本格的にスイッチオンしなくとも、ちょっとだけ効果があるっぽい。

 それがあったからこそ、私は最初からステータスも適性も高かった、と。

 

 それならもしかして、今からでもダートとか短距離とか特訓すればG1獲れるんじゃないかって言ってみたら、歩さんは「いやそれは……うーん……いやしかし……」と悩み始めてしまった。

 私のチートの非常識っぷりと、これまでの歴史の中で培われた常識の板挟みで悩まされてるみたいだった。なんかちょっと申し訳ない。

 

 

 

 ……と、少し話が逸れちゃったな。

 今は洋芝の適性の話ね。

 

 歩さん曰く「天地がひっくり返っても君以外の誰もできないだろうスピードで」上がった私の現在の洋芝適性は、推定B。

 より正確に言えば、ようやくBになった辺りのB-辺りが妥当な評価なんだってさ。

 

 G1最前線で走る子は、基本的に適性Aが当たり前。

 最前線で戦うには、ちょっと不足した適性なんだけど……。

 

 3年前に挑んだエルコンドルパサーちゃんの凱旋門賞時の洋芝適性がCだったらしいことを考えれば、これはかなり高い値だと言えるらしい。

 私のチートの強さを誇ればいいのか、そんな適性で世界を獲りかけたエルちゃんすげーと思うべきなのか、なんとも微妙なところである。

 

 さて、私は適性Bでありながら、フォワ賞を圧勝した。

 2着のウィッチイブニングちゃんに大差……13バ身の差を付け、レースレコードを更新しての勝利だ。

 ついでに言うならその時点でまだまだスタミナも残ってたし、あと200メートルくらい距離が延びても同じペースで走れたと思う。

 手前味噌ながら、領域同時使用ってすごいね。

 

 そんな状態だから、正直凱旋門賞で何か特別作戦が必要かと言われると、疑問を感じてしまう。

 ウィッチイブニングちゃんが欧州の頂点級って言うんなら、私もう誰にも負けないんじゃない? って。

 

 まさしく最強主人公モノの転生チート主人公である。

 私の走りがおかしい? それって私が速すぎるって話だよね?

 

 

 

 ……と、まぁ。

 正直、年相応に調子に乗っていた私だったんだけど……。

 

 直後の歩さんの言葉に、私の伸びた鼻は叩き折られた。

 

 

 

「いや。正直今回の凱旋門賞の勝率は、現状50%程度だと思っている」

 

 

 

 その言葉に、飲んでた緑茶を噴き出し……かけて、テーブルの上の資料を見て咄嗟に嚥下しようとして、変な風に呑み込んでしまった私。

 

「ぶっ、なっ、あっ鼻、鼻にお茶がっ!」

「ああ、ツーンとするよな……ごめんね急にビックリさせて……」

 

 そう言いながらも、歩さんはテーブルの資料の上に、手に持っていたタブレットを載せる。

 

 そこに映っていたのは……。

 ああ、アンダースタンディブルちゃん。

 私に憧れてるらしい、欧州の新進気鋭のウマ娘だ。

 

 

 

 けほけほと何度か咳き込んだ後、私はちょっと涙目になりながら、歩さんに疑問を投げかける。

 

「まぁ確かに、あの子はかなり強そうだなーとは思いましたけど……え、そんなですか?

 私の直感センサーによると、どっちかと言えばウィッチイブニングちゃんの方が脅威かなーと思ったんですけど」

「それはいつ時点の話だ」

「え? アンちゃんに会った時だから……こっち来て間もなく、2か月前ですかね?」

「うん、その頃なら俺も同意見だ。2か月前のアンダースタンディブルは、ウィッチイブニングより脅威度で言えば下にいたと思う」

「ですよね……ん? 2か月前の?」

 

 いや、ウマ娘ってそんなポンポン変わるもんでもないでしょ。

 

 私はこの例えあんまり好きじゃないけど、テスト前に一夜漬けしても力は付かないのと同じだ。

 大事なのは、普段からコツコツと努力を重ね続けること。

 ウマ娘は日夜トレーニングを欠かさず、走りの技術を磨き続けることで、少しずつ強くなる。

 アスリートの強化に近道なんてないのである。

 

 だからこそ、2か月っていう時間では、ウィッチイブニングちゃんに追いつくのが関の山。

 大きく先を行っていた私を追い負かす可能性を持つところまでいくなんて……ぶっちゃけ言ってあり得ないんじゃないかとすら思う。

 いやまぁ、転生チートで無茶苦茶やって適性向上させまくったり、2か月で領域同時展開まで行った私が言うと説得力ないかもしれないけども。

 

 ……もしかして、あのアンダースタンディブルちゃんが、私と同じ転生チートウマ娘だったり?

 成長型のチート持ちとかだったら、そりゃあ私に追いついてもおかしくはないけども……。

 

 

 

 そう思いながら首を傾げた私に、歩さんはタブレットを操作して、レースの映像を見せてくれた。

 

「これは1か月前に彼女が参加した、3つ目のオークス、ヨークシャーオークスの映像だ」

「あ、そう言えばアンちゃんのレースの推移って最近聞いてませんでしたね」

 

 歩さんは毎朝朝食を取ってる時、こっちのレース事情とかウマ娘の隆盛について、ニュースみたいに教えてくれるんだけど……。

 その中に、アンダースタンディブルちゃんについての情報はほぼなかったと思う。

 

 ……あ、もしかして歩さん、意図的に隠してたんだろうか。

 私って1つのことに夢中になると、他に集中できなくなっちゃうタイプだからなぁ。

 目の前のフォワ賞に集中できるようにと、関係ないウマ娘の話題はカットしてくれていたのかも。

 

 こっちじゃ私、雑誌も読めないし人伝に情報も得られないからなぁ。

 歩さんがメインの情報源なわけで、歩さんに口を閉じられるとまともに噂話すら仕入れられなくなる。

 

 ……いや待てよ、毎日のようにLANEのグループで話してるテイオーとネイチャも全然アンちゃんの話題に触れてなかったぞ?

 もしかしてこれ緘口令敷かれてない? 本気で情報封鎖してるなこのトレーナー?

 

 

 

 っとと、それはともかく。

 アンちゃんのレースを見てみようじゃんか。

 

 歩さんがあそこまで言うんだもの、余程すっごいレースをしてるんでしょうね?

 

「ヨークシャーオークスはイギリスのヨークレース場で競われる、11ハロン188ヤードのレース。

 メートル換算でおおよそ2370メートル、まぁ2400と思っていい。つまりはフォワ賞や凱旋門賞と同じ距離だな。

 レース場の特徴としては、平坦で直線の長い、実力差が顕著に出るレース場といったところ」

「聞いてる感じ、日本で言えばダービーと条件が近そうな感じです?」

「そうだな。勿論バ場やレース性の違いなどは多いが。

 日本では英オークス、愛オークスと纏めて俗に『英愛オークス三冠』とか『英愛ティアラ』とか呼ばれることもあって、アンダースタンディブルとしては君の無敗三冠に対する対抗意識からこのレースを取りに行ったようだな」

 

 出走前のゲートインの時間を利用した、歩さんの説明。

 それを聞きながら、私はゲートの中のウマ娘たちを見ていく。

 

 2枠3番のゲートに入ったアンちゃんは、ギラギラした瞳でターフの方を見ていた。

 おお、かなり良い気合の入りようだ。

 ……というか、この目の前のレースに闘争心剥き出しな感じ、どこかで見たような気がする。

 具体的には、私のレースのリプレイ映像で。

 

「これ、私を意識して作ってるんですかね? それとも素?」

 

 ぼそっとそう言ってみたら、歩さんは「ふむ」と顎に手を添えて答えてくれた。

 

「あくまで暫定的な考察に過ぎないが、俺は素だと思ってる。

 そして、君と似ていこそすれ、全く別のものであるとも」

 

 かなり言葉少なな質問だったと思うんだけど、ちゃんと意図を察してくれたらしい。

 流石に長年の付き合いだ、互いに考えてることだって少しくらいは読み取れる。

 ……が、一方で私の方は、歩さんの発言の意図が微妙に理解しきれなかった。悔しい!

 

「と言うと?」

「君は、走りやレースというものへの熱烈な愛が故の闘争心だろう。

 対してこの子は、これまでのインタビューや取材の受け答えから判断すると……レースというより、目の前の困難、障壁……そういったものの、ハードルの高さ? それに対して燃え上がっていると見える」

「ふむ」

 

 確かに、それはちょこっと違うかもね。

 

 私が楽しんでるのはレースであり、背を追うか追手から逃げるかは関係ない。

 つまるところ、自分がやや有利な状況で戦うのも十分趣味の範疇だ。

 大事なのは私の近辺に実力が近い相手がいることで、相手が上にいても下にいても、光るモノさえ持ってれば楽しいなって思える。

 

 けれど、歩さんの言うことが正しいのなら、アンちゃんは自分が前にいたら楽しめないだろう。

 彼女が楽しんでいるのは、困難への挑戦。今でいうのなら、私という高い壁を越えられるか。

 既に勝ったもの、簡単に勝てると思えるものには興味を抱かない。そんな相手とのレースはそこまで楽しめない。

 

 ただただわき目も振らず、自らの見据えたものに向かって走る暴走機関車。

 ……つまりはライスちゃんと似た、私たち強者にとって一番怖いタイプなんだろう。

 まぁあの子の場合は、高い壁というか自分の理想との戦いって感じだけども。

 

 

 

 さて、レースが始まると、アンちゃんはライスちゃんと同じように、2番手の位置に付いた。

 逃げウマ娘との距離感を大事にする、前めの先行ポジションだ。

 

「聞いてた通り、先行ですね」

「アンダースタンディブルはかなり王道な先行ウマ娘だよ。

 とはいえ、実のところ割と臨機応変な走りもできるらしい。走りの感じとしてはテイオーが近い……というか、ここ数か月は近かった」

「?」

 

 よくわからない言葉に首を傾げる。

 

 走り方を勉強して寄せた、ということだろうか。

 ……いや、相手はあのテイオーだよ? 寄せるとかできるか?

 

 あの子の走りって本当にギフテッドというか、天才というか……。

 その場その場の自身にできる最高の走りを直感的に判断して最善手を取って来る、チェスとか将棋だったら一番怖いヤツだ。

 

 それに、走り方を寄せる……?

 流石に歩さんの読み違いなんじゃあるまいか。

 

 

 

 ……と、思ってたけど。

 

「…………今、なんでちょっとペース上げたんですかね」

「後ろから突かれそうになったのがわかったから、後ろのペース崩すために機先を制したんじゃないか?」

「後ろと2バ身離れてますけど」

「10バ身まで知覚できる君が言ってもな……」

「あ、速めた。ちょっとスパートするには早くないですか?」

「1000メートルくらいスパートできる君が言ってもな……。

 この位置から仕掛ければ他のウマ娘たちも焦って追うだろうし、スタミナに優れるアンダースタンディブルなら多少垂れても十分に逃げ切れるだろう、という判断かな」

「……スタミナ、切れないままゴールしてますが?」

「5つくらいスタミナ保全系の上位スキル……技術を使ってるな。ゴリ押しで届かせた、という形だ」

 

 もうこれ本物かもわからんね。

 

 それは、まごうことなき天才の走りだった。

 何が正しいかを直感で判断し、まるでトレースしたように体にその動きを取らせ、ただ見聞きしただけの技術をその場のアドリブで再現する。

 控えめに言って、トウカイテイオーのそれに近しいものだった。

 

 ……マジか。

 

 ………………マジか!?

 

「てっ、と、トウカイテイオーって2人いるんですか!?!?」

「落ち着け、トウカイテイオーは1人しか存在しないだろう」

「そっそうですよね!? え、でもこの動き……!?」

「いや、落ち着いてよく見ろ」

 

 歩さんがタブレットを突いて、動画を最初から再生する。

 

「ほら、テイオーに比べたら全然マシだろ。あの子天皇賞じゃ平気で10個以上スキル連打してきてたぞ。……冷静に考えると化け物すぎるな?」

「いやいやいや! でもこのキレッキレの動き、まさしくテイオーですよ!? まんまですよ!」

「まぁ、テイオーを真似たであろうことは疑うまでもないな」

 

 真似られるんだ!?

 アレ、真似られるものなんだ!?

 

 正直テイオーのアレは、本人だけの特別な特性とか固有スキルみたいなもんだと思ってたんだけど……まさか劣化とはいえコピーできる子がいるなんて。

 

 世界は……世界は広い!

 

「言うて君も思考力増加中であればできるだろ、アレ」

「いやチート……ちーっとばっかり強めの技使ってる時とは違うんですよ!? 通常時でアレですよ!?

 実際走るわけじゃない歩さん的にはピンと来ないかもしれないですけど、これって本当にすごいことなんですよ!?!?」

 

 なんか歩さんは変な顔してるけど、いやもうホントにすごいんだって!

 

 転生チート使わないとできないようなことやってるんだよ!? 素で! 天然体で!

 どうなってんだよアンちゃんの頭の中! いやまぁそれ言ったらテイオーは本当にどうなってんだって感じだけども!

 

「すごいなぁアンちゃん……! やっぱり天才って探せば他にもいるんですねぇ!!」

「……まぁ、君はその最たる例というか、その最先端だと思うわけだが」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ちょっと興奮冷めやらなかったので、2分程ハッスルして両手を振り回し。

 ようやく落ち着いた私は、好きな人にあまりにも子供っぽいところを見せてしまってちょっと恥ずかしい気持ちを、咳払いして誤魔化した。

 

「まぁ、はい。トレーナーが言いたいことは理解しました。

 コピー忍者ならぬコピーウマ娘。確かにアンダースタンディブルは私にとって脅威になり得る子ですね」

 

 スタミナを筆頭に素の身体スペックに優れ、その上他人の走りまで見て盗めると来た。

 もうこの時点でかなり脅威なのに、よりにもよって盗んだのが私と同格のウマ娘、トウカイテイオーのそれである。

 

 テイオーの走りは、安定性と上振れを両立したものだ。

 直感的に最適プランを選べるために思考にブレが生まれず、アドリブで走りの技術を披露することで相手との身体スペックの差を埋め得る。

 それだけで、ウマ娘というのは途轍もなく脅威的になる。

 

 正直フォワ賞では圧勝し過ぎちゃってちょっと肩透かしだったんだけど、これはなかなかに楽しくなってきたぞ……と。

 

 そう思っていた、私だったんだけども。

 

 

 

 

 

 

「ウィル、忘れたのか。

 今の映像は『1か月前の』レース映像だぞ」

 

 

 

 

 

 

 その言葉に、パチクリと、目を瞬かせてしまった。

 

「…………マジです?」

「マジ以外の何物でもない」

 

 トレーナーがすっと画面をスライドすると、画面は新しい映像に移り替わる。

 さっきのとはまた別のレースの映像……!

 

「英オークス、愛オークス、そしてヨークシャーオークス。それらタイトルを無敗で獲得したアンダースタンディブル。

 『これで無敗三冠と並んだので、次は越えに行きます』と宣言した彼女が乗り込んだのは……先週行われたG1レース、イギリスのドンカスターレース場、英セントレジャー。

 長距離への適性が測られる洋芝の3000メートルレース。これでアンダースタンディブルは、8バ身の差を付けて勝利している」

 

 おお……それはすごい。

 

 洋芝は野芝より、走るのにパワーとスタミナを要する。

 多分だけど、洋芝の3000メートルは野芝の3400とか3600とか、その辺りの距離くらいスタミナを消費するはずだ。

 日本にはそこまでの距離のG1レースはないので、私はまだ走ったことがない。

 

「その距離でそれだけの差が付いたってことは、めちゃくちゃスタミナあるんですね。ステイヤーって言ってましたし、ライスちゃん的な子ですか?」

「……まぁ、ひとまず見ているといい」

 

 思わせぶりな言葉に首を傾げながら、私はタブレットの画面に目を落とす。

 

 

 

 前回と同じように、先行の位置から始まったレース。

 また体力温存系の技を使ってるのか快調に走るアンちゃんは、ペースを作る逃げウマ娘に追走し……。

 

 ……けれど、少なくとも中盤まで見た限りは、前回のレースとそう変わったところはなかった。

 

「……いや、特にこれと言って変なことなくないですか? 綺麗な先行とは思いますが、おかしなところって言う程のものはないですよね」

「まぁそうだな。今はな」

「なるほど、終盤? あっわかった、すっごい領域とか出す感じですね?」

 

 察しを付けた私は、なるほどと頷く。

 

 ウマ娘の切り札と言えば、やっぱり領域だろう。

 彼女がパクったテイオーの領域も進化後は化け物みたいな性能してたし、この前のウィッチちゃんの領域もすごくユニークだった。

 きっとアンちゃんの領域も、相当以上に強力なのだろうと……。

 そう、思ったんだけど。

 

 結論から言うと、私の想定は甘過ぎたと言わざるを得ない。

 

 

 

 レースが終盤に差し掛かる。

 

 映像の中で、アンちゃんは……。

 

 

 

 

 

 

 体を大きく前に倒す、極端な前傾姿勢でスパートし始めた。

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 絶句する。

 

 あり得ない。

 

 いや、あり得るはずがない。

 

 だって、そんな、わ、私の……。

 

 

 

 私の、天星スパートの、コピー!?

 

 

 

「あ、え、な……な、ななな……ッ!?」

「思ったより動揺しているな」

 

 そりゃあそうでしょうが!

 

 だってこっちはチート使ってるんですよチート!

 それでようやく叶うのが、この天星スパート!

 

 それを……それを、素の状態で使う……!?

 

 

 

 ……細かいことを言えば。

 「超前傾スパート」自体は、ある程度体が柔軟であれば、爆増した思考力がなくとも可能だ。

 実際私は日本ダービーでそれをやらかして、なんとかテイオーに辛勝したわけで。

 

 ただし、その無理な姿勢は空気抵抗をほぼ受けなくなる代わり、足首に過度の負担をかけてしまう。

 その上体勢の維持やトップスピードとの両立も難しく、消耗する体力の軽減どころか無駄に消耗してしまうのがオチなのである。

 

 が。

 

「で……できてる……!

 私程完璧じゃないけど、ちょっと無駄が多くて天星スパートとして認めたくはないレベルだけど、強いて言えば星屑スパートがいいところだけど、そんなんで天星スパートを名乗られるのはちょっと看板に泥だけど、それでも足首へのダメージは殆ど殺し切ってる……!?」

 

 前述の通り、超前傾スパートは風の抵抗を受けなくなる代わり、体の動かし方の難易度が跳ね上がり、脚への負担が爆増してしまう。

 それを、バ場への細かな適応と繊細な体の動作で無理やり踏み倒すのが、天星スパートだ。

 

 例えるなら……アーマードコアで言えば、一時的に改造人間状態になる、と言えばわかりやすいだろうか。

 人間の思考を遥かに越える処理能力によって、体の動かし方の無駄を排除し最適化する。

 それがこのスパートの真骨頂である。

 

 

 

 で。

 目の前のレース映像で、アンダースタンディブルは、それを叶えている。

 

 私みたいに高精度でできてるわけじゃない以上、流石に「アニメ転生」程に思考力が優れているわけじゃないだろうけど……。

 それでも、コレができるのは異常だ。

 テイオーのソレはギリギリ納得できたんだけど、これに関してはもう人間ならぬウマ娘離れしていると言わざるを得ない。

 

 アンちゃんは、まぁちょっと甘いところはあるけど……多少ぎこちなくとも、脚への負担は完全に殺し切って、ラストスパートと呼べるだけの速度を出している。

 

 洋芝、3000メートル。

 極端なまでにスタミナを使うはずのこの距離を十分以上の速度で走り切ったのは、このスパートによるものなんだろう。

 

 

 

「パッ……!」

「ぱ?」

「パクリだ!! ズルだ!! 特許侵害だよこれッ!!!」

「落ち着きなさい。君は特許申請していないだろう」

 

 そこ?

 

「うーっ! わかる、わかってますよ!?

 レースなんてパクってパクられて、どんなズルもやり放題ユニバースフェスティバル!

 でも、でもぉ!! 私だけの、私だけの天星スパートがぁ!!」

「おーよしよし、言ってることは微妙によくわからないが、口惜しい気持ちはわかるよ」

 

 歩さんの胸の中で泣きわめく私。いや泣いてはないけども。

 

 正直ちょっと感情を盛ってる部分もあるけど、悔しいのは本当だ。

 私にとって天星スパートは、あの宝塚記念で見出した、私だけの走り。

 誰にも真似することのできない、誰の手だって届かない、オンリーワンでナンバーワンの輝く星(シャイニースター)

 だからこその天星スパートであり、だからこその最速なのだ。

 

 なのに、それが、不完全とはいえコピーされたんだ。

 もはやこれは、自分の走りを打ち負かされたにも等しい。

 

 悔しい。

 悔しい、悔しい、悔しい!!

 

「アイデンティティブレイク! NTR! 武器の鹵獲! 窃盗罪!」

 

 ぬがーっ! 悔しい~~~ッッ!!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 歩さんのスーツをしわくちゃにして十数分。

 私は流石にちょっとだけ落ち着いて、しょぼんと肩を落とした。

 

「……すみません、取り乱しました」

「だいぶユニークな取り乱し方だったが、スーツのことなら気にするな。

 それより、アンダースタンディブルの話に戻ろう」

「うい」

 

 流石にちょっと反省して、椅子に座り直す。

 スーツって結構高いんだよね。未だに金銭感覚が庶民の私としては、駄目にしちゃったんじゃないかって不安です。……いや、もう何着目だよって話だけどさ。

 

 

 

 しかし、アンダースタンディブル……まさかこの私の天星スパートまでパクれるとは……。

 

「天才……ですかね? テイオーと同じような」

「厳密に言えば、トウカイテイオーのような一人で自分の走りをどこまでも向上させるタイプとは違うな。

 恐らくアンダースタンディブルは……目の前の困難、壁の高さに応じて、加速度的に成長速度が上がるタイプの天才なんだと思う」

「なるほど……?」

 

 まぁ、ウマ娘はみんな、少なからずそういうとこある。

 共に競うライバルの、先を走る先輩の、あるいは背を追って来る後輩の気配を感じ、だからこそより速くなろうと走るわけで。

 

 歩さんが言うからには、そういう特性が殊更強いってことだろうか。

 

「ぶっちゃけアンダースタンディブルの成長率、君が欧州(こっち)に来てから3倍くらいになってる」

「何それ怖い」

 

 3倍。3倍て。

 なんだそれ、成長曲線が急とかそういう次元じゃないでしょ。

 

「……あー、つまりアレですか。

 私っていうバチクソ高い壁が現れたから、アンダースタンディブルは超爆速で成長中、みたいな?」

「そうなるな。そして、その成長キャップは未だ見えない。

 トウカイテイオーの即席の走りや、君の天星スパート。あくまで劣化した模倣とはいえ、アンダースタンディブルはそれらを身に付けるだけの、並外れた素質を見せている。

 その上で、君に対して『どうだ、私はこんなこともできるぞ』とアピールしてきてるわけだ。

 ……どうだ、ウィル。なかなか楽しみじゃないか?」

 

 にやりと笑ってくる歩さんに、私は……。

 

 同じく笑みを返して、拳を握った。

 

「そんなの……そんなの楽しみに決まってるじゃないですか!!

 あと1か月! あと1か月でどこまで伸びて来ますかねアンダースタンディブル!!

 私のこと追い詰めて、もしかしたら越えるところまで来てくれたり!?

 あーもう、正直フォワ賞圧勝しすぎて凱旋門賞のモチベ下がってたんですけど爆上がりですよコレ!」

「そうなると思って今まで言わないでおいたんだ。さ、午後からのトレーニング頑張ろう」

「うわーんもう歩さん私の理解度高すぎ! しゅきしゅき大しゅき~~~!!」

 

 







 「誰より私のこと理解して最高の着火剤くれるヤツ」



 ウィル:自分に迫って来るor越えてくれる子がいればバチクソ燃え上がる
 テイオー:オートで自分の走りを向上させ続け、目標になる相手がいれば乗算がかかる
 アン:立ちはだかる壁の高さを実感する程加速度的に覚醒する(成長限界がないorめちゃくちゃ高い)



 次回は一週間以内。トレーナー視点で、エンカウントの話。
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