転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 こちらが濃厚いちゃラブウマ無双さんの濃厚いちゃラブ物語トレウマトッピングです。うっひょ~~~!

↑この元ネタが4年前であるという事実に耐えられない。





やばいランナーのWYRM TV

 

 

 

 負けるわけにはいかない戦い、というものがある。

 

 壮大なファンタジーRPGのラスボス戦とか、まさにその典型だろう。

 勇者と魔王との戦いとか、あるいは悪神と人との決戦とか、そういうヤツね。

 

 そういうのってゲームである都合上、負けてもやり直しになる、あるいはセーブ地点に戻されるだけで済むけど……それはあくまでゲームだからだ。

 もしもゲームではなく現実のものだとすれば、主人公たちは殺されたり乗っ取られたり尊厳を破壊されたり利用されたりして、世界は取り返しがつかないくらいに暗闇の中に落ちてしまうのだろう。

 

 故に、勝たなければならない。

 何が何でも、どんな卑怯な手段を使っても、石に齧り付いてでも、絶対に勝たねばならないのだ。

 

 で。

 そういう戦いは、ゲームに限った話ではなく、案外現実にもあり得るものらしい。

 

 そして、私にとって今年の凱旋門賞は、そういう戦いにあたる。

 

 それが何故かと言えば……。

 

 

 

 数日前、歩さんアンちゃん遭遇事件が勃発した直後のこと。

 

「それで? アンちゃんとはどんな話をしてたんですか?」

「端的に言えば、自分のサブトレーナーにならないかと勧誘された」

「…………は?」

「え、何々、怖い。いや誤解なきよう言っておくと、俺としてはそれを受ける気はないからな? そもそもこの勧誘だって君と離れて自分と契約しろという話ではなく、ただ陣営の本拠地をイギリスに移さないかという話だったし、俺たちの本拠地はあくまでナイスネイチャやトウカイテイオー、ライスシャワーのいる日本……おーいウィル、聞いてるか? あ、聞こえてないヤツだなこれ」

 

 

 

 後半は何を言ってるかよくわからなかったけど、とにかく1つ、決定的に確かなことは。

 

 ガチのNTR未遂が発生していた、ということだ。

 

 

 

 ……いや、いやいやいや!

 

 冗談じゃん!

 

 これまで散々言ってた「NTRやんけ~!笑」とかはさ、あくまで「いやーあっはっはNTRかけましたよホントね、危ないよねーこういうのは」ってヤツじゃん!

 例えるなら、ゲームでヒロインが他の男と喋ったのを冗談めかして言うみたいなさ、あくまで冗談としてそういう過激な表現使うヤツじゃん!

 

 マジでNTRるのは違うじゃん!!

 

 ラブコメタグの付いてる作品でNTRされたら、それはもう景品表示法違反じゃんッッ!!!

 

 

 

 いつかにも言ったけど、ホシノウィルムはハピエン厨である。

 

 頑張って頑張って頑張って、命がけで頑張り続けて。

 そうして底辺から這い上がった主人公には、然るべき幸せな未来が待つべきだと考える。

 そんな、どこにでもいるような主義主張のウマ娘だ。

 

 で……まぁ、なんだ。

 私は、この世界全ての主人公とまでは言えないにしろ、少なくとも私の物語の中では主人公だと思う。

 

 なにせ転生者……転生チートウマ娘で。

 自分で言うのもなんだけど、あれだけキッツい目に遭っても頑張って。

 歩さんという運命の人(運命の人!)に出会い、互いに救い合って。

 ネイチャやテイオー、マックイーンさんという、最高のライバルに恵まれ。

 ブルボンちゃんやライスちゃん、ソウリちゃんといった愛すべき後輩も持って。

 そうして、ついには世界最高峰の舞台に挑もうとしてる。

 

 そんな、手前味噌ながらめちゃくちゃヒロイックな経歴を持ってるんだもん。

 ちょっとくらいは自分を「主人公みたいだ」って思ってもいいでしょ?

 

 

 

 で、だ。

 

 こんなに頑張って、歩さんと二人三脚で辿り着いた未来が……NTR!?

 

 あんな金髪のウェイ系チャラ娘(偏見)のスッゴいモノ(走り)で歩さんが!?

 

 それで、クソ悪趣味なビデオレター送ってきて!?

 

 (あまりの走りに)恍惚な顔でダブルピースしてきて!?

 

 

 

 『ウィル……ごめん。もうウィルのモノ(走り)じゃ満足できないんだ』……だと!?!?

 

 

 

「お次に、圧倒的存在感のNTRを食らう~!  殺すぞ~!!!」

「あかん何もしてないのにウィルが壊れた」

 

 認められるかっ!! こんなふざけた末路っ!!!

 

 いつからこの世界はやっすい同人ゲーになった!?

 いつから頑張ったウマ娘に厳しい世界になった!?

 

 私は……っ!! 私はそんな結末、絶対認めない……ッッッ!!!

 

 

 

「…………ふぅ。仕方ない、先手必勝で闇討ちするか」

「するんじゃないよバ鹿」

「あいたっ!」

 

 ゴツンという頭の衝撃で、若干熱を帯びていた思考が現実に戻って来た。

 

 ふと見ると、ここは歩さんとのスイートマイハウス。

 「私の」トレーナーである歩さんは、思いっきり呆れた顔で私のことを見下ろして来ていた。

 

「……ウィル」

「はへ」

「長い付き合いだ、いい加減君の考えていることはわかる。どうせ俺を取られるだのなんだのとか思ったんだろう」

 

 うおっ急にすごい察し……私の最大の理解者かな? 私の最大の理解者だったわ。

 

 歩さんはため息を吐いて、頭に振り下ろした拳を開き、そのまま撫でてくれる。

 

「わふ」

「おっこんなところにイヌ娘がいるなぁ。よーしよし」

「へっへっへ、ワンッ!」

「うーん、可愛いけども……本気で思考が茹ってるなコレ。全く、信頼のないことだ」

 

 信頼? してますが?

 多分歩さんへの私の親愛度100とかだよ? なんなら1000だよ? 10000あるかもしれない。

 

 「クゥ~ン」と呻ってそう主張する私に、歩さんは呆れたように言った。

 

「君が心配に思う気持ちはわからなくもないが……全く、俺が他のウマ娘に付いて君を捨てる。そんな未来が万一にもあると思ってるのか?」

「…………だって、アンちゃん、確かにすっごい走りしますし」

 

 

 

 この前見たレース映像。

 そこで、アンちゃんはとんでもない走りをしてた。

 

 テイオーの天才走法をコピーし、私の天星スパートを不完全ながら模倣する。

 所詮は猿真似などと笑うことなかれ。

 私たちの組み上げた唯一無二の「自分の走り」を自分の脚で実現するのは、正直に言って私にすらできるかわからないレベルなんだ。

 

 私たちウマ娘には、それぞれが組み上げてきた走りがある。

 私の大逃げからの追い込みもそうだし、ネイチャのレースコントロールもそう。

 他にもテイオーの天才的走法、マックイーンさんの王道戦術、ブルボンちゃんの定速スパート、ライスちゃんの一点集中徹底マーク。

 その全てが、世界にただ1つの脚と気性が噛み合って、その上私に至っては転生チートというズルがあるからこそ、初めて編み出せる絶対的で唯一無二の武器なんだ。

 

 それをコピーし、自らの技術に落とし込む。

 これはテイオーがやったような、ただ汎用的な走りの技術を再現するのとは違う。

 

 走り方自体をコピーするには、相手の脚に、相手の気性に、あるいは相手のセンスに併せねばならない。

 言うならば、宝塚記念でスカイ先輩が見せた、私の歩幅とペースに合わせて走る……その更に先の先にあるようなもの。

 それは果たして、どれだけの走りの才を持てばできることなのか。

 

 ……うん。

 ここまで来れば、認めざるを得ないだろう。

 

 アンダースタンディブルは、天才だ。

 チート持ちの私を優に超え、あるいは本物の天才であるテイオーすら超えるかもしれない……。

 この世界が生み出した、真正の怪物なんだろう。

 

 イメージとしてはアレだ、ほら、某鬼ぶっ殺し刃の、お労しや兄上って言ってる側の人。

 ただそこに存在するだけでこの世の理を乱す、真の意味での唯一絶対。

 目覚めなければ、少し珍しいだけの一般人に過ぎず、しかし一度目覚めてしまえば、誰一人として並べない特異点になり得る者。

 

 あるいは……こう言ってもいいかもしれない。

 欧州を舞台とするウマ娘の物語の、龍を打ち倒す英雄譚の……「主人公」、と。

 

 

 

 で、だ。

 

 歩さんが私に惚れてくれてるのは……流石に今更全部が全部そうとは思いたくないけど、まぁ大部分が競走ウマ娘としての部分に、だろう。

 

 転生ウマ娘としての実力を遺憾なく発揮した、天星スパートに領域同時使用。

 それらを以て、私は彼の脳を焼いて来た。

 それはもう、エルフの森と同じくらいには焼き払ってきたつもりだ。

 

 けれど……それなら。

 私と同格レベルの走りをする子が出てくれば、どうなるか?

 

 その条件だけなら、一応テイオーも当てはまるだろう。

 あの子は私を追いかけて来て、ついには天皇賞という場で横にまで並んで来た。

 けど、テイオーは歩さんには大して強い感情を向けてない。……というか、時々「何この人やべー」みたいな目を向けてるので、多分人外のミュータントか何かだと思ってる。

 カップリングは成立し得ない。だから問題はないのだ。

 

 ……でも、アンちゃんは違う。

 私と並びうる才覚を持つと同時、歩さんに矢印を向けて来てやがる。

 

 これって……恋のダービーの対抗バ登場、ってコト……!?

 

 

 

 そんなことを思い、あわあわしてた私は。

 

「で?」

 

 そんな、敢えて冷たくした歩さんの言葉に、一刀両断された。

 

「え、いや、でって……」

「それがどうした。ライバルがすごい走りしたから、どうなるっていうんだ?」

「どうって、それは……その……」

「俺が取られるとでも思ったか? ……いや、俺が靡くとでも思ったのか?」

「な、なびくって……まぁその、やっぱり契約トレーナーとして惹かれるものがあるかな、とは……」

「そんなわけがあるか。……いや、本音を言うと惹かれるものがないわけではないが、君が危惧するようなことにはならない」

 

 私の頭の上に乗せられた歩さんの手が、ちょっと強めに髪をかき乱してくる。

 

「……いつか、君は言ったな。『私はあなたの担当ウマ娘だ』、と。

 それと同じだ。今はもう、俺は君の契約トレーナーだ。それ以上でも以下でもなく、これは不可逆的に変わらない。

 たとえ何があろうと……今から言うことは他人には漏らすなよ?」

 

 そう、前置きした後に。

 

 歩さんは、これまでに見たことがないくらい、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

 

「何があろうと。俺にとっての一番星は、ホシノウィルムだよ」

「あ、歩さん……!」

 

 その言葉が嬉しくて嬉しくて、私は思わず感極まってしまって……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、君が凱旋門賞で不甲斐ない走りなんてしたら、俺もちょーっと視線が外れることもあるかもしれ」

「う わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! !」

「ごめんごめん嘘嘘君は唯一無二だってごめんて」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 やはりNTRは許されない。

 少なくとも、私の周りで行われるのは許さない。

 

 そんなわけで、NTR展開を粉砕することにした。

 

 そもそもの話だけど、歩さんがNTRされるには条件がある。

 それはつまるところ、私の走りが間娘ことアンダースタンディブルの走りを下回ることだ。

 

 私は前世の影響で、その手の創作に若干詳しいんだけど……。

 ちょっとアレな話だけどさ、NTRされる側は、なんというか、強い立場にあることはまずないんだ。

 何とは言わないけど上手くなかったり、思い切りノンデリだったり、積極的になりきれなかったり。

 そういう弱弱しいポジションだからこそ、他者に奪われる隙を生んでしまう、と。

 

 ならば、NTRされないためにどうすればいいかと言えば、簡単な話。

 

 私が最強になればいいんだ。

 

 アンちゃんの走りが霞んでしまって見えなくなるくらいに最高の走りを披露し、彼女の一兆倍くらいの火力でこっちが脳を丸焼きにしてやればいいのだ。

 

 なよなよとした男からNTRできるチャラ男は存在するが、データなんかねぇようるせぇよ黙れよ拳こそ正義と言わんばかりの筋肉ムキムキマッチョマンの変態からNTRできる男はいない。

 そんなんしようものなら「オデ オマエ ツブス」→Game over 一直線なのが目に見えているからだ。

 

 そんなわけで、私もいっちょムキムキ最強ウマ娘になろうと思い立ったのであった。

 

 ……いやまぁ、言っても私、元々ムキムキではあるんだけどね。アスリートだし。

 流石に七割くらいは冗談として、それくらいの意気込みで凱旋門賞に挑もうと気合を入れ直した、というわけである。

 

 

 

 そんなわけで私は、プールで泳ぎながら考える。

 

 凱旋門賞で勝ち切るには、どうすればいいか。

 

 ロンシャンレース場、2400メートル。

 レースのコース自体は、先日のフォワ賞と同条件。

 日本のレースと違って規則正しく直線とコーナーが来るわけじゃなくて、そこがちょっとだけ難しくはあるけれど……。

 私が元人間の転生者だからか、ホシノウィルムはウマ娘としての本能が比較的控えめっぽい。

 冷静にレース場を見て走るのは得意技、そこに関しては問題ない。

 

 問題になりそうなところと言えば、大きく分けて2つだ。

 

 まず1つが、やっぱりここの洋芝。

 ここ数日、ようやくいい感じに走れるようになったこれだけど、やっぱり日本のウマ娘としてはかなり重くて、どうしても私らしい全力疾走が難しい。

 慣れて来てはいるけど、やっぱり日本の芝みたいにぐわーっと最っ高に気持ち良い走り……とまではいかないんだよね、これが。

 歩さん曰く、適性Aまでは上げられてもSまでは流石に上げられない、とかなんとか。

 もっともっと時間をかければ話は別かもしれないけど、少なくとも半月後の凱旋門賞じゃ、私は日本程に好調では走れそうにない。

 

 そしてもう1つが、ライバルだね。

 今回のライバルは、まぁ他のウマ娘たちもしっかり強いっていうか、歩さん曰く全員が最低でもネイチャ級のすんごいステータスを持ってるんだけど……。

 やっぱり一番ダントツでヤバいのはアンちゃん、アンダースタンディブルだろう。

 じゃあまずはアンちゃん対策をすればいいじゃんって話になるわけだけど、残念ながらそれは無理だ。

 なにせ彼女、テイオー走法を不完全とはいえコピーできるんだ。自分の弱点を直感的に察してカバーする程度は当然してくるでしょう。

 

 であれば……まぁ、自力で乗り越えるしかないわけで。

 結局のところ、私はいつも通り、これまでと変わらない。

 歩さんの力添えの下、とにかく自分を鍛え上げて、立ち塞がる壁を真正面から粉砕するだけである。

 

 

 

 そんなわけで、今日も今日とてトレーニング。

 ウマ娘のトレーニング施設としてプールはメジャーだ。日本とは色々仕様の違うところもあれど、フランスにもレンタルの施設はある。

 

 そんな中で、私はいつもの競泳水着型の指定水着で、ざぶざぶと泳いでいる。

 

 昔は歩さんに水着姿を見られるだけで恥ずかしかったものだけど、3年も経てばいい加減慣れるってもので……。

 トレセン公式の競泳水着はもはやユニフォームみたいなもの。

 歩さんに見られても、恥ずかしさはそんなになくなった。

 ……というか、恥ずかしがって練習なんかしてたら集中できないからね。そこはしっかりくっきり割り切りましたとも。

 

 

 

「ウィル、500メートル!」

 

 プールサイドから聞こえる、歩さんの声。

 

 500かぁ。まだまだだね。

 前世では50メートル泳ぎ切るだけでもだいぶしんどくなってた私だけど、ウマ娘の体はすごいもので、呼吸さえしっかりしてれば、これだけ泳いでもあんまり苦しくはならない。

 まぁ競走ウマ娘であり、ステイヤーでもある私は肺活量に優れてる、って部分も大きいんだけど……。

 流石、人間との根本的なスペックの違いを感じるね。

 

 ……でも、まだまだ足りない。

 

 凄まじい極論を言ってしまうと、今の私に必要なのは、脚力とスタミナの2つだ。

 歩さんはウマ娘のステータスを5つに大別するけど、その内戦術眼に関しては歩さんに委託してる部分が多く、精神力は幼少の頃の経験からもかなりの自信がある。

 残るは最大速力とスタミナ、加速力の3つだ。

 

 で、私のスタミナは、歩さんの鑑定によれば相当のものがあるっぽいけど……。

 というか、歩さん曰く「いやもうホント、一回も見たことないよこの数値。1200が上限と思ってたのになんだよ1500って。UDとか初めて見たぞ、どこまで上があるんだコレ」とのことだ。

 歩さんが言うんだから、少なくとも歩さんがその視界に入れて来たウマ娘の中では、私は最高の体力を有する存在になったんだろう。

 平たく言って世界最高位である。いやはや、遠いところまで来ちゃったなぁ。

 

 ……が、そんな今となっても、なお。

 スタミナはあるに越したことはないのだ。

 

 ウマ娘のレースで大事なことの1つは、自分のスタミナという有限の資源をどこでどう使うかを考える、リソースの管理だ。

 勿論そのリソースを一度にどれだけ噴出できるかの最大速度も大事だし、その噴出力をより多くするための加速力も大事。

 他にもたくさんの重要なポイントはあるけれども……。

 そういうゲームにおいて、そもそもの最大値を増やすのは大体一番大事だったりするんだ。

 ゲームと現実を同一視するのもどうかとは思うけど、今のところ私の感覚は、ウマ娘の競走だって例には漏れないと告げている。

 

 殊に私は序盤から速度を出していく大逃げウマ娘。

 レースでの安定感と、不測の事態への対応力の確保のためにも、スタミナは鍛えておくに越したことはないわけだ。

 

 

 

「1000! ストップ!」

「ぷは」

 

 考えている内、いつしか1キロ泳ぎ切っていた。

 息はまだ乱れてもいないけど、今日はこれを何度も何度も往復練習する予定なので問題はなし。

 

 プールサイドに手をかけて水面から這い上がると、バインダーを持った歩さんが見えた。

 

「お疲れ。小休止を入れるぞ」

「はいはーい」

 

 おいしょっと。

 すぐに戻れるよう飛び込み台の横に腰かけた私に、歩さんが歩み寄って来る。歩さんだけに。

 

「調子は?」

「問題ナシです。脚に違和感なし、普段通りに快調だと思います。

 育ち具合どうですか? 何かアクシデントとかあります?」

「予定の育成スケジュールを3%上回る結果だ。かなり徹底してシミュレートしたつもりだったが、君の頑張りが実ったことになるだろうな」

「えへへ。……あ、そう言えば今の私のステータスってどんなです? 最近数字は見てなかったですよね、見せて見せて」

「ほい」

 

 歩さんが見せてくれたバインダーの上に書いてある私のステータスは、何度か線が引かれて訂正が入ってるけど……。

 結論としては、こんな感じだった。

 

 

 

 ホシノウィルム

 

 最大速度 UE1 1413

 スタミナ UD5 1552

 加速力  UG7 1270

 根性   UE8 1487

 戦術眼  SS  1109

 

 

 

 うーん……強くなってるんだろうけど、よくわからんくなってきたなこれ。

 

「前から気になってたんですけど、なんなんです? この伝わるようで伝わらない表記。

 日本人たるものGFEDCBAと来たら次はS、そんでSSはわかりますけど、その次がUG7とか? UE1とか? UD? もう全然感覚掴めないですよこれ」

「うーん、同意。いやAの次がSな時点で俺としては微妙によくわからんけども、UGとかUFとかホントよくわかんないよね……」

「なんで書いてる歩さんがよくわかってないんですか」

「いやまぁ、見えたまま、というか感覚のままに記載してるからね……そう感じちゃったもんは仕方ないでしょうが」

「見えたまま……うーん、昔から思ってて失礼かなーと思って言わなかったんですが、歩さんのこれ、なろうあるあるの鑑定能力みたいですね」

「……うん、まぁ」

 

 あ、ちょっと顔をしかめちゃった。流石に言い過ぎだったな今のは。

 自分の能力をチート扱いされて嬉しいと思うことはないよね、うん。

 

 まぁ、歩さんはこの程度気にしないだろうし、目線で軽く謝るにとどめて話を続ける。

 

「しかし、実際のところどうなんですか、私のステータス? 世界標準とかわからないので、ちょっとどれくらい強いっていうのが判別し辛いんですけど」

「うーん……なんと言えばいいか。

 例えば、前回競ったウィッチイブニングがこんな感じ」

「どれどれ」

 

 

 

 ウィッチイブニング

 

 最大速度 A+ 972

 加速力  S  1063

 スタミナ A+ 940

 根性   A  879

 戦術眼  A+ 991

 

 

 

「…………ひょっとして私、化け物だったりします?」

「まぁ……他のウマ娘たちの視点で見れば、敵に出て来たら『負けイベントかな?』と思いたくなるくらいには飛び抜けてるよ、君は。

 ウィッチイブニングは欧州でも最強格の1人だったし、ステータスもまぁ安定して最上位という感じ。

 単純なスペック勝負で君に勝てる子は、今の欧州のシリーズにはいないよ」

「わぁ」

 

 なんか思ったより周りと差が開いてたわ、知らない内に。

 

 ……しかし、そっか。

 思えば私って1年前の有記念の時、スぺ先輩やスズカ先輩にちょっと遅れ取ってるくらいで、ほぼほぼ同格だって話だったんだよね。

 

 既に本格化を終えて完成されていた2人と、本格化2年時点で並んでたんだ。

 そこから1年経った今、一線級のウマ娘たちよりも伸びていても、おかしな話じゃない……かな?

 

「私って、もしかして……強い!?」

「今更?」

「いやまぁ、自分の強さは理解はしてたんですけど……数字で見るとなんともおかしな気分です。

 いつもまぁまぁ追い詰められたりしますし、感覚的にはもうちょっと近いのかと思ってました」

 

 そう言うと、歩さんは顎に手を当てて呻る。

 

「この前のフォワ賞もそうだろう。

 いくらG2レースで、君が領域を同時展開を掴んだとはいえ、適性が1つ下がった状態かつ初めて走るレース場でなお、息の1つも上がらずに勝ってるんだぞ。そりゃあ強いよ」

「まぁ、2400ぽっちじゃ疲れませんよ私。強いので!」

「冷静に考えなさいな。時々君が言う通り、レースは自身のスタミナをどう割り振るかの勝負だぞ?

 どんな距離であれ、適切なスピードで走ればスタミナは使い切るはずだろう」

「…………ん、確かに?」

 

 あれ、そう言えば私、レース走り切っても割と余裕が残ってる時多いな。

 うーん……?

 

 悩む私に、歩さんは「ああ、やはり自覚はなかったのか」と言って頷く。

 

「フォワ賞では同時使用で千切ったが……君、いつも全力で走っているようで、無意識に相手のペースに併せることが多いからな。

 君、最終直線では番手の子からおおよそ1バ身前を走り続けることが多いだろう?

 相手の存在を、熱を感じたい。君のその本能が、無意識的に速度を併せてしまうんだろう」

「あー……んえ、うーん」

 

 や、別に舐めて脚を緩めてるってわけじゃないんだよ?

 ないん、だけど……。

 

 ちょっと俯いてしまった私に対して、歩さんは苦笑して首を振った。

 

「いや、君はそれでいいと思う。

 競走ウマ娘は勝つか負けるか、それだけだ。どれだけ差を付けるかは関係ないし、それで無駄に脚を消耗するのは……こう言ってはなんだが、無駄だからな。

 勿論、そうやって舐め腐った結果負けるようなことがあれば、大いに赤っ恥だが」

「むっ、私負けませんよ!? 超超超強いですから!」

「まぁそんなことを言って天皇賞ではテイオーに同着を許したわけだが」

「アレはテイオーがぶっ飛んでただけです~! 私は普通に本気でした~~~!!」

「だろうな。まぁでも、そういった自身の気性には注意するに越したことはないぞ」

「大丈夫ですよ。領域同時使用するんなら使えませんけど、『アニメ転生』を使……違った思考力増加を使えば、相手がどれだけ余力を残してるかとか、どこから仕掛けてくる気配があるかとか、すっかりわかっちゃいますし」

「うーん、すごい。まさしくチートって感じだ」

「!?!?!?!? いえ全然チートとかじゃ……あーもういやうーんこの、何と言えば良いのか……」

 

 一瞬、転生者バレしたかと思い、慌てて誤魔化そうとし……。

 けど、冷静に考えれば、別にもう誤魔化す意味もないんだよな、と思い直す。

 

 歩さんは多分……いや、間違いなく。

 私が転生者だと知っても、何も態度を変えないだろう。

 今ならそう、心から信じられる。

 

 かつてはそれを明かしたために孤立を深めた、私にとって重くて辛い、1つの秘密。

 それを、けれど彼になら明かしてもいいなと、そう思うのだ。

 

 でも……同時、それは今じゃないかな、とも思うんですよね。

 

 今はまだ、レースシーズンの真っただ中。

 関係が拗れる可能性はゼロってわけじゃないし、この告白は一旦先送りだ。

 

 ……決してビビってるってわけじゃないと、そこだけは念押しさせていただく。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「えーと、あ、そうだ! それならアンちゃんってどんなです? あの子も強いんですよね?」

「あー……うん、まぁ、そこも共有しておくか。じゃあまずこっち」

 

 そう言って歩さんが見せてくれたのは、バインダーに挟んだ資料ではなく、彼のスマホの画面。

 

 そこに映っていたのは……。

 

 

 

 アンダースタンディブル

 

 最大速度 D+ 382

 スタミナ E+ 279

 加速力  E+ 291

 根性   D  310

 戦術眼  E  219

 

 

 

「え、よわ」

「まぁ1年前のデータだからな」

 

 あ、そう。1年前の。

 

 彼女はクラシック級のウマ娘。1年前はジュニア級の9月だったはず。

 だとすると、まぁ……うん、ステータス的には妥当なところだろうか。

 まぁ、私はこの当時から既にクラシック級の子と張り合えるくらいには強かったんだけど……。

 

 

 

 ……いや待て。

 この出し方。このやり方。

 これもしかして……期待していいヤツ?

 

 思わず向けた私の期待の視線に、歩さんはニヤリと笑い、言ってくる。

 

「じゃあこれ、今の彼女。前のデータから1年な」

 

 改めて歩さんが差し出してきたのは今度こそバインダーで、その上にあった数字は……。

 

 

 

 アンダースタンディブル

 

 最大速度 UG5 1251

 スタミナ SS+ 1183

 加速力  S   1008

 根性   S+  1090

 戦術眼  UF8 1381

 

 

 

「…………おお……!?」

 

 たった1年でマジで私に迫って来とるが。

 ウィッチちゃんに負けてるステータス1つもないが。

 というか戦術眼に限っては、私すらめちゃくちゃ負けとるが……!?

 

「1年で? 1年でこれですか……?

 私、一応3年かけてここまで伸びたんですが……!?」

「前にも言っただろ。アンダースタンディブルは君を近くに認識すればする程、あり得ないペースで成長を速めてるって。

 1年前、恐らくは君を知ってから、それまでの凡庸で見るところのなかったペースが2倍に。

 君が凱旋門賞への出走を決めてから、2倍に。

 君がこちらに来て、その2倍に。

 そして君と直に会ってからは、更にその2倍になっている」

「つまりは、普通のウマ娘の……!! …………えっと?」

「16倍だな」

「16倍!?!?」

「君と比較しても4倍」

「4倍!!!!」

 

 いつだったか、言ったことがある。

 ウマ娘にとって最も大切なのは、日々のトレーニングだ。

 1日トレーニングを休んだら、その1日分だけ相手にリードを付けられる。

 その差を埋めるためには、同じように相手が休んでいる間に走るしかないのだ、と。

 

 しかし、歩さんが言っていることが本当なら、その前提は崩れる。

 

 なにせ、歩さんが付いていない普通の子が1か月トレーニングを積む間に、その子の1年分トレーニングの成果を得て。

 歩さんが付いてくれてる私でも、1か月トレーニングをしてる内に、アンちゃんは4か月分トレーニングを積むだけのパワーアップを遂げるんだ。

 

 そうまで差が開いてしまえば、こっちが休もうが休むまいが、無限に差が広がる。

 相手が休養を取っている間に多少走ろうとも、相手の1日の成果に簡単に埋められてしまう。

 

 ……きっとそれは、競走ウマ娘ホシノウィルムに対して、他の子たちが感じていた絶望感で。

 そして今、私は……いつかのテイオーとかネイチャにも感じていた焦燥感と……何より、沸き上がって来るマグマのような熱を感じている。

 

 

 

 ああ、今私は、この背に届く脅威から逃げているのだと。

 この恐るべき怪物と、最高の決戦場で競えるのだ、と。

 

 ただそれだけのことが、震える程に怖くて、震える程に嬉しい。

 

 

 

「……ま、そんな反応になるだろうなとは思っていたよ」

 

 歩さんは私の顔を見て、ニヤリと笑った。

 

「私、どんな顔してます?」

「最近はあまり見なかった、レース前の顔だ。……いよいよ、芯から着火した、というところか」

「ええ、ええ! 世界最高峰の舞台、世界最強だろう相手、私を越え得る化け物!!

 こんなの燃え上がらないわけがありませんって!!」

 

 この世界に生まれ付いた1人のウマ娘、ホシノウィルムとして、こんな意味わかんないくらい整った舞台を前に、奮い立たないわけがないし……。

 

 ……それに、もう1つ。

 「私」としても、負けられない、負けたくない理由も2つ程ある。

 

 1つは、歩さんを取られたくないっていう、私自身の感情で……。

 もう1つは……何もできない私でも、これくらいはっていう、意地。

 

 

 

 だから……。

 

「やりましょう、歩さん……トレーナー!! 世界一を取りに!」

「ああ、勝ちに行くぞ、ホシノウィルム。この地の歴史に君の名を刻みに」

 

 競走ウマ娘、ホシノウィルム陣営として。

 

 私たちは正面から、凱旋門賞に向き合う。

 

 

 

 







 星となったウマ娘と、星を見上げるウマ娘の戦い。
 あるいは転生チートウマ娘と、天然チートウマ娘の戦い。
 凱旋門賞はもう目の前です。



 次回は一週間後。凱旋門賞直前インタビューの話。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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