転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 FGOの奏章3めちゃくちゃ良かったので皆さん是非やってください
 今最初から始めたら不眠不休でも間に合わないかもしれませんが是非やってください。





だから、この脚は貴方のために。

 

 

 

 日本での毎日を過ごす内に、いよいよ菊花賞の日が近付いてきた。

 残すところはあと1週間弱。

 俺はこの時間で担当バ、ミホノブルボンを徹底的に仕上げ切らねばならない。

 

 ……が。

 ハッキリ言って、そこに関しては全くと言っていい程に不安がないんだな、これが。

 

 

 

 去年、ウィルが目標レースとした際にも散々対策したので、これはただの確認、精々が復習になってしまうが……。

 

 菊花賞。京都レース場3000メートルのレース。

 これは逃げウマ娘にとって、極めて不利なものと言える。

 

 そもそも逃げという脚質自体、距離が長引けば長引く程厳しくなるのだ。

 前半で速度を出して体力を使う都合上、ウィルやスズカのようなごく一部の例外を除き、終盤に他のウマ娘たちと同じようにスパートをする余裕はなくなる。前半で稼いだペースで逃げ切らなければならないわけだ。

 更に、終盤は脚と同時、頭も回らなくなる。単純にキレのある末脚に対抗できないだけでなく、スタミナのやりくりを考えたり、周囲のウマ娘の位置を把握することも難しくなっていくわけで。

 そこに他のウマ娘たちから目標とされ視線を向けられること、後ろからじわじわ追い立てられることによるストレスなども重なれば、理想のレース展開を綺麗になぞるのはもっと困難になる。

 距離が長引くことは即ち、それだけ彼女たちにとって厳しい戦況が長引くことを意味するわけだ。

 

 更に立ちはだかる大きな問題が、もう1つの不利条件。

 皆さんご存知京都レース場の淀の坂。高低差4メートル、国内G1最大の高低差を誇る坂である。

 全てのウマ娘は、この絶壁と言ってもいい坂の前で、強制的に失速を強いられる。

 ……そしてこの坂、3000メートルを駆ける中で、2回通過することになるんだよな。

 一度目はスタート時点から300メートル強続き、逃げウマ娘が先頭のポジションを確保するための加速に大きな負荷をかけ……。

 二度目はレースも終盤に迫る向こう正面、スタミナを使い果たした逃げウマ娘を一気に減速させ、二度とスピードを取り戻せなくする。

 

 そして、これらを踏破した先に待ち受けるのは、400メートルという決して短くない最終直線だ。

 ただでさえ多くの逃げウマ娘が得意としない長距離、二度の淀の坂でスタミナを殆ど吐き出すことを強いられた彼女たちは、後続からの追い上げに400メートルもの間耐えねばならない。

 

 こういった要素が組み合わさった結果、菊花賞における逃げ切り勝ちは、非常に難易度が高いとされている。

 現時点においてこれを達成したウマ娘は、長いトゥインクルシリーズの歴史でも5人きり。

 勿論これは、4年前のスカイや去年のウィルのことも含めた数字だ。彼女たちを除けば、たったの3人である。

 

 クラシック三冠を目指す逃げウマ娘の前に立ちはだかる、最後にして最大の関門。

 先の2つの戦の末、高すぎる門を越えたのは歴史上にただ1人、天に昇り龍となった輝かしい一等星のみ。

 

 それこそが、この菊花賞というレースなのだ。

 

 

 

 さて、そんな菊花賞に対し。

 あろうことか、堀野歩とかいうトレーナーは、二年連続で逃げウマ娘を出走させるわけだ。

 幼少期の俺がこれを見れば「流石に無理では?」と思っていたところだろう。いやまぁそもそも幼少期の俺が今の環境見てれば、ウィルの三冠達成で頭ぶっ壊されてまともに物を考えられなくなってそうだけど。

 ……いや待った、そうなるとウィルに俺以外のトレーナーが付くことになるな。くっそ気分悪いわ今のナシで。

 

 話を戻して、菊花賞は厳しいという話。

 だが、今の俺は、これは決して夢物語ではないと考える。

 いいや、それどころか、彼女ならば必ず勝てると、そう思える。

 

 その最たる理由は、やはりミホノブルボンというウマ娘の、圧倒的な才覚だ。

 

 目の前で今まさに走っているブルボンに目を向ければ、俺の持つ転生特典らしき力、「アプリ転生」が彼女のステータスを映し出す。

 

 

 

 ミホノブルボン

 

 スピード C+ 539

 スタミナ C  406

 パワー  C+ 560

 根性   C+ 598

 賢さ   C  485

 

 

 

 ……うん、強い。

 なんなら強すぎるわなんじゃこのステータス。

 

 このステータスがどれだけ優秀かと言えば、だ。

 国内最強を競う菊花賞に参加するようなG1級ウマ娘たちでさえ、そのステータスの平均は250から350といったところ。

 現状実力的にはミホノブルボンとライスシャワーに次ぐ三番手になるだろうマチカネタンホイザ、前世ゲームでネームドであった彼女でさえ、平均400に届かないくらいだ。

 

 一方でミホノブルボンは、平均約518。

 菊花賞を走るとなるとスタミナ面にやや不安が残るが、そこに関しても「円弧のマエストロ」に「好転一息」、「火事場のバ鹿力」と、スタミナ保全のためのスキルは十全に習得させている。

 勿論速度系のスキルも充実させた。単純なスペック勝負になれば、負けることなどそうはないだろう。

 

 周りのウマ娘たちと比べても、一回り……。

 いや、その多種多様なスキルと同期のウマ娘たちがまだ目覚めていない領域を加味すれば、三回りは強いと言っていいだろう。

 

 これらはひとえに、彼女の才覚が叶えた結果だ。

 特に大きいのは、身体・記憶の両面での、凄まじいまでの吸収力。

 

 よく、天才の条件として「1を聞いて10を知る」ということが挙げられる。

 要するに、例えば走り込みをしただけで多角的なステータス・スキルが向上するようなタイプだ。

 俺の兄さんなんかがこのタイプだ。実家で講師を兼ねていた父が言ってないことに関していきなり「こういうことですね」とか言ってたんだよね兄さん。こりゃ勝てないわって思わされる。

 

 が、残念ながらと言うか、ブルボンはこれには当てはまらない。

 彼女に超常的なまでの理解力はない。1を聞いても、1しか学ぶことはできない。

 

 ……しかし、彼女はその分10を聞き、10を知る。

 

 圧倒的な絶対量を誇る努力と、それを苦にしない強靭な精神と肉体、そこで得たものを取りこぼさない特異な記憶能力。

 それらが噛み合わさった結果、彼女は殊「走る」という分野において、おおよそ天才的と言っていい程の成長を見せてきた。

 

 どれくらい天才的かと言えば、だ。

 正確に比べたわけではないが、多分期間毎のステータスの伸びで言えば、ウィルよりもなお早いんじゃないかと思えるくらいだ。

 

 まぁ?

 ウィルの場合は入学時点でステータス高かったし? その分ステータスではなくスキルを鍛え上げる方向性だったわけで? それだけで俺のウィルよりブルボンの方が優れているって証左になるわけではないが???

 

 かと言って?

 ブルボンは俺がウィルの育成で培ったノウハウを完全に活かしているし? スキルだって当時のウィルに勝るとも劣らないくらいに習得しているわけで? 別に俺のブルボンがウィルに負けるってわけでもないけどね???

 

 

 

 ……と、思索はそこで一旦打ち切って。

 俺はバインダーから視線を上げ、ターフの方に目をやる。

 

 ゆっくりと冬が迫り、寒気が漂ってきたターフ。

 その上を、俺の担当ウマ娘の1人、ミホノブルボンが駆けている。

 

「2800メートル突破……っ、残存体力13%、コンディションオレンジ……走行続行、『ネクストシーケンス:全身全霊』突入、スパート、開始……!」

 

 ウマ耳を持っているわけでもなし、ここからだと内容までは聞き取れないが、どうやら彼女は何事かを呟きながら走っているようだった。

 いよいよ体力が尽きかけているらしく、その表情は少し強張っているが……むしろ、彼女はそこから加速する。

 

 俺はバインダーとブルボン、そして左手に持つタイマーの間で視線を行ったり来たり。

 今後のことを考えたりしながら、彼女のタイムを計っていたわけだが……。

 

 今回彼女が走っているのは、菊花賞よりも200メートル長い3200メートルのコース。

 天皇賞(春)と同じ、G1レースの最長距離と同じものだ。

 

 トレセンのターフにも勾配のあるコースはあるが、というか今ブルボンが走ったものがまさにそうだが……。

 その坂は、菊花賞が行われる京都レース場の4メートルからは大きく離れる、高低差2メートル。

 序盤と終盤の上り坂でどうしても体力スピード共に落としてしまう逃げウマ娘の負荷を考えると、3200メートルか3400メートル程度の距離にすれば、本番での疲労度をある程度再現できるはずだった。

 勿論バ場とか当日の天気、バ群の動きもあるので、完全には再現することはできないんだけどね。

 

 もっと言えば、坂路の感覚はやはり実際に走らなければわからないんだが……。

 それを体験するためにも、ブルボンには俺たちがフランスで走っている間に、G2京都新聞杯に出てもらった。

 京都レース場右外2200メートル。一度だけにはなるが、淀の坂を通過するコースだ。

 

 これを走った彼女の感想としては……。

 

『想定していた1.3倍のスタミナ減耗を感知。事前に走行しておいた意味はあったと考えます』

 

 とのこと。

 

 ……いや、本当に出走登録しといて良かったわ。

 ブルボンは出遅れも掛かりもせず、想定通りにレースを進めてこそ走りの真価を発揮する、言うならばハッピーミークに近い性質のウマ娘だ。

 想定以上の疲労なんてものがあれば、その時点で彼女のランニングプランは破綻しかねなかった。

 

 ともあれ、彼女は既に淀の坂を体験し、その疲労度を分析したわけだ。

 それが二度となれば更に疲労が嵩むことにはなるが、彼女の不可思議な程の計算能力ならそのシミュレートも不可能ではないはず。

 

 あとは菊花賞でかかる疲労を疑似的に再現し、そのプランの最適化を図ることが大事になるだろう。

 

 

 

「さて……」

 

 そんなわけで、本日はレースペースでの試走中。

 

 せっかく走りを見ているのだからと、俺は彼女のハロンタイムを計っているわけだが……。

 その数値は、綺麗に12秒台中盤で纏まっている。

 あ、今のはちょっと速い。11秒台乗った。

 

 ……うん、悪くない。

 いや、ハッキリ言えば、すごく良い。

 

 競走ウマ娘ミホノブルボンの走り、その方向性は、完成したと言っていいだろう。

 あとはこれをどこまで伸ばせるか、そしてどの方向へ昇華させるか。

 

 ワンパターンな走りはどうしても対策され(メタられ)やすい。

 弱点のない走りとはいえ、もう1つや2つ、彼女独自の強みがあればいいんだが……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 と、仮置きしたゴール板の前を走り抜けるブルボンを見ながら、俺が思案していると。

 

「あーゆむさんっ!」

 

 不意に、後ろから目を塞がれる。ぎゅっと抱き着かれる感触付きだ。

 ……勢いそのまま突っ込んで来たように見えて、ちゃんと人間が受け止められる勢いだ。まったく、この気遣い上手さんめ。

 

「だーれだっ!」

「ウィル」

「あったり~!」

 

 答えると、俺の視界をふさいでいた手が外され、ニコニコと幼気な笑顔を浮かべたロリっ子……もとい、俺の愛バが前に回り込んで来る。

 うん、楽しそうで何よりだ。

 

「よくわかりましたね! 流石はパートナー!」

「わからいでか。俺を『歩さん』なんて呼ぶのは母と君くらいだし、君の声を俺が間違うわけがない」

「えへへぇ~」

 

 今日は一段とゆるゆるなウィル。

 その理由は、先程まで存分にトレーニングをしていたのと……。

 昨日、久々にテイオーと共演の仕事があったからだろう。

 

 

 

 ウィルの友人であり、ライバルでもある先行ウマ娘、トウカイテイオー。

 彼女は昨日ウィルと対談形式でのトークショーを行っていた。

 

 今回の番組のコンセプトとしては、世界最高峰に輝いたウマ娘と、現状唯一トゥインクルシリーズに残っているウィルと同等以上のウマ娘の今後、と言う感じ。

 

 ウィルに振られた話題はやはり、欧州のレースの特徴やあちらの強敵。

 正直もう何回目なのかわからないくらいに繰り返した話だったが、ウィルったらレースのことになれば何度語っても楽しそうで、昨日もろくろと舌をぶんぶん回していた。

 俺はそんな彼女を後方腕組み理解者面で眺め、したり顔でこくこくと頷くというトレーナーの役得を味わっていたのだが……。

 

 一方でトウカイテイオー。

 彼女はウィルについて「見ればわかる、一回り強くなったね」と言いながらも、自分は更にもう一歩強くなったから、とドヤ顔で語り……。

 

 それから、彼女の今秋の出走レースについて発表した。

 

 春に発表したローテーションでは、トウカイテイオー陣営は秋のG1シーズンを天皇賞(秋)から始動する予定だったが……急遽、その予定を変更。

 今秋は天皇賞を避け、ジャパンカップに注力することを発表した。

 

 その理由は、「ウィルムが外であんなに『日本のウマ娘』を見せつけるんだもの。それならボクがすべきは、内で『日本のウマ娘』を見せることでしょ?」とのこと。

 ……要するに、今ネットで言われてる「攻めの日本総大将」をウィルとした以上、ジャパンカップで勝ちに行く「守りの日本総大将」は自分が請け負う、ということだろう。

 勝気なコメントは何とも彼女らしい。

 

 それを聞き、ウィルは予想通りと言わんばかりにニコリと笑い。

 「見せてもらいますよ、テイオーの走り。勿論勝ってくれますよね?」と、友の健闘を祈っていた……。

 

 ……ように、見えただろうが。

 実際はただ、「良かったーテイオー出るならジャパンカップでもおもろいもん見れそう!」とかそんなこと思ってるんですよねこの子。

 

 ウィルはテイオーを非常に高く評価してる。

 曰く、「偽物の自分とは違う、本物の天才」。……今思えば、転生チートを持っていないのに転生チート持ちレベルの才能、ってことだろうな。

 ……正直俺としては、神様との会話なりチートをもらったなりという記憶がない以上、天性の才能と転生特典を区別する必要と方法があるのかと、やや疑問が残るが。

 

 とにかく、ウィルからテイオーへのイメージは、「自分は絶対に負けないが、死んでも負けないが、自分以外の誰にも負けない最強のウマ娘」といった感じだろう。

 だからこそ、彼女が勝つことは前提として、自分と同着をもぎ取ったあの頃から更に強くなったテイオーが見られる、と。そんな風に思ってるんだろうな。

 

 ……まぁ実際には、欧州からやべーウマ娘が侵略しに来ることを、そして彼女もまたこのトークショーをどこかで見ているだろうことを、俺だけは知ってるわけで。

 いくらトウカイテイオーであろうと、彼女には易々とは勝てはしないだろうが……はてさて、どうなるか。

 

 

 

 ……っとと、話が逸れたな、閑話休題。

 

 とにかく、現在ウィルは非常に上機嫌。

 トコトコと俺の隣に並び、背伸びをして覗き込むように手の上のバインダーを覗いて来た。かわいい。

 

「どんな調子です? ブルボンちゃんは」

「良い。というか、極めて想定通りに進んでいる、といった感じ」

「ほーん。……それ、すごいんですか」

「君の育成プランは上に行ったり下に行ったり、常に誤差が5%前後出ていたが……彼女はそれがほぼない。1%未満だ。

 つまるところ、常にこちらが要求しただけのことをこなし、それ以上の無理もそれ以下の怠慢もない状態。

 トレーナーとしては、やりやすいことこの上ないよ」

「へー……ふーん」

 

 じゃあ私はやりにくいんですか? と言わんばかりの横目を向けて来るウィル。

 

 ……いつもこういう視線にしてやられてる気がするし、時には仕返ししてやるか。

 

「うん、君よりやりやすいな」

「…………は、え?」

「いや、これは確かな事実だからな。嘘は吐けないよ」

 

 ミホノブルボンは、勿論管理さえ完璧にこなせればという前提はあるが、その成育状況や体調体力をおおよそ100%コントロールできる。

 これの何が楽かと言えば、途中でプランを組み直す必要がおおよそないことだ。

 

 ウィルとか、最初の頃は勝手に自主トレするせいで体力管理ガバガバになっちゃってたし、朝になって絶好調だったはずのやる気が普通にまで落ちてたりすることもあったからな。

 その度にこれからのプラン全部ひっくり返してもう一回考え直さないといけなかった。

 

 それに比べてブルボンは本当に楽だ。

 最初に然るべきプランを用意すれば、そこから大きく外れるってことがない。

 彼女も生物である以上当然やる気……というか調子が落ちることもあるが、それも短時間で取り戻せる程度の激しすぎないもの。

 

 総じて、ホシノウィルムよりもミホノブルボンの方が育成しやすい、ということは間違いない。

 

「え? いや、え? 私ですよね? 一番」

「いや、多分トレーナーとウマ娘としての相性はブルボンが一番いいかな」

 

 カチン、と石化するウィル。

 

「…………」

「多分、俺とブルボンは精神的な指向性が近いんだよな。

 理屈と理論で事を進めてくれるし、きちんと必要性を伝えれば感情を排して受け入れてくれる。

 余計な感情論とかご機嫌取りとかおためごかしを挟む必要がないのは、正直かなり楽。勿論それだけの関係ではないというのは前提として、ビジネスパートナーとしての気楽さはすごい」

「…………」

 

 何と言えばいいのか。

 ウィルと一緒にいれば、楽しいこと多数悲しいこと少々あり、そこそこ破天荒にプランを乱されるといった感じなんだが……。

 ブルボンと一緒にいると、楽しいことも悲しいことも過剰には起こらず、常にプラン通りに事を進められる、って感じ。

 

 楽しいかどうかはさておき、楽なのは後者だよね、やっぱりさ。

 

「……そ」

「そ?」

「そんなにブルボンちゃんが好きならブルボンちゃん家の子になったらどうですか!?!?」

「その怒り方はなんか違くない?」

 

 いやまぁ、ちょっと揶揄っちゃったのはごめんけどさ。

 ……そろそろ収めに行かないと後が怖そうだな。

 

「ま、トレーナーとして相性が良いのはミホノブルボンだが、人間として相性が良いのは君だ。

 だからこそ、俺は君を唯一無二の愛バだと思っているわけだが」

「え~そんな、そんなっ! 唯一無二の愛バとかっ! もう歩さんったら、惚気すぎですよぅ!」

 

 ちょろい。

 ちょろすぎて心配になる。

 

 あと君、今結構な数のウマ娘に見られてるけど、世間体とか気にしなくて大丈夫なの? 昔はそこそこ拘ってたよねパブリックイメージ。

 

 ……嗚呼、かつて俺が月下に出会った、クール系無表情仮面被りウマ娘はどこへやら。

 ここにいるのは、顔を赤くして年相応にデレデレした反応を見せる、可愛すぎる転生ウマ娘なのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、俺がウィルと漫才をやっている内に、走り終えたブルボンがこちらにやってきた。

 本気で走ることはなく、クールダウンのジョギング程度の速度でたったったっとね。

 

 ウィルに横目で合図を送ると、彼女は一歩引いてブルボンちゃんを優先するポーズ。

 本当によくできた相棒で困る。これ以上好きになったらどうしよう。

 

 

 

 俺がブルボンにタオルとスポドリを渡すと、彼女はペコリと頭を下げて言ってくる。

 

「マスター、3200メートル……完走しました」

「よく頑張った、ミホノブルボン。タイムは悪くない、1ハロン平均12秒2だ。

 目標の基準ペースからマイナスコンマ1秒、このペースであればおおよそ菊花賞で負けることはない」

 

 当然ながら、レースというのは距離が長引けば長引く程、その平均ペースは落ちる。

 今のブルボンであれば、良バ場の2400メートルなら、平均11秒後半のペースで走ることもできるだろうが……。

 スタミナ的にかなりギリギリになるだろう3000メートルであれば、12秒台に落ちる。

 

 が、それは他のウマ娘たちだって同じだ。

 例年の菊花賞の時計は、良バ場基準で185から189秒といったところ。

 ハロンタイムに直せば、平均して12秒3から12秒6だ。

 問答無用のワールドレコード逃げ切り勝ちを決めたセイウンスカイの記録が183秒2で、平均ハロンタイムは12秒21となる。ちなみにウィルに勝ったスペ相手に3バ身差付けた圧勝である。

 ブルボンのタイムはスカイのこれよりほんの少しだけ速い。つまるところ、ウィルを除けば最速だ。

 

 ……え、去年のウィルの記録?

 ウィルはもう例外中の例外だから一旦放っておこうよ。

 いや本当、この子を基準にするとブルボンの脚と自信が壊れかねないというか、当時のウィルは本当にエグすぎたというか……まぁ今もめちゃエグいけども。

 

 とにかく。

 勿論菊花賞と完全に同じ条件ではない以上、確実とは断言できないが……。

 平均ハロン12秒2、183秒1というタイムで3200メートルを走り抜けられるのであれば、菊花賞を制するのには十分な力を持っていると言える。

 

 ミホノブルボン本人の力には、もはや疑う余地はない。

 彼女は血統という大きな壁をついに乗り越え、長距離レースに勝てるだけの実力を身に着けたのだ。

 

 ……まぁ、本当はまだ長距離適性Bだったりするから、本当の意味で血統の壁を越えられたかは一考の余地ありなんだけど。

 そこはもう、考えるだけ野暮ってものだろう。

 今はただ、彼女が持ち得るものだけで勝負をするしかないんだしね。

 

 

 

 さて、本人の実力に問題がないとすれば。

 問題となってくるのはやはり、彼女のライバルたちだろう。

 

 未だデータが取れないが故にハッキリ断言はできないが、ブルボンに対して最も高い勝率を持つと予測される、ライスシャワー。

 どこまでもブルボンに注目し集中し、徹底どころか鬼神の如きマークを向けて来る彼女には、生まれながらのステイヤー故の長距離適性、高いスタミナという武器以外にも、ブルボンの弱点の1つである掛かり癖を刺激しかねないという怖さがある。

 

 ライバルは彼女だけではない。

 この前のインタビューで堂々と逃げ宣言を……ミホノブルボンと同じ脚質で競うことを宣言してきた、菊花賞出走ウマ娘、ソウリクロス。

 彼女には、素質素養の部分で見れば、とてもブルボンやライスに勝てるものはない。

 けれど、他のウマ娘の存在を感じることが大きな隙に繋がり得るブルボンにとって、彼女は警戒に能う敵だ。

 俺は努力する凡人の脅威を見逃すつもりはない。その強さは……手前味噌な話、俺が一番よく知っているつもりだしな。

 

 今のブルボンは、ここ10年のどの菊花賞ウマ娘と競っても、勝ち得るだけの力を持っている。

 だが、そのブルボンをなお凌駕する実力を彼女たちが持っていれば、そんな情報には意味などなくなってしまうわけで……。

 

 ……まぁ、でも。

 そもそも、そんなことを気にする必要はないんだが。

 

 

 

「現在の走行で……菊花賞に、勝つことが、できる……でしょうか」

 

 肩を揺らし、息を整えながら、俺の前に立つブルボンはそう訊いて来る。

 俺が改めてその目を見れば……彼女の瞳の奥には、ほんの僅かに動き揺れるものがあった。

 

 俺は思わず、少しだけ眉を吊り上げてしまう。

 

 ……数週間前、ウィルの凱旋門賞。

 アレを見たミホノブルボンには、どうやら競走ウマ娘としての自我と情緒が芽生え始めたらしい。

 

 クラシック三冠という、父親の笑顔を見て発生した、誰かのための幼い夢……ではない。

 自分が憧れた最強のウマ娘を超えたいという、彼女の魂と本能から発された、単純だが恐ろしく強い欲求。

 

 彼女はそれを自覚し、現在のそれを叶えた後の、次なる目標と定めた。

 自らの、自分だけの意志で、だ。

 

 あの頃、ただ負けることを認められないと俯いていたウィルが、レースを楽しもうと顔を上げたように。

 ブルボンもまた、ただ定められた目標を達成するのではなく、自らの意志で走り出す決意を固めたのだ。

 

 これ自体は、この上なく喜ばしいことだ。

 ミホノブルボンというウマ娘の新生、あるいは昇華。トレーナーとして喜ばない理由はない。

 

 ……だが、あるいはだからこそ、と言うべきか。

 彼女は今、初めて、理論的でない不安を感じているのかもしれない。

 

 これまでの彼女は、目標に向けてただひたすらに前に走るだけで良かった。

 敷かれたレールはただ1つ。その上を彼女なりの最大速度で走って行けば、否が応でも目的地に最も近づくことができた。

 

 けれど彼女が自身の意志で歩き出すのなら、そこにはもう、定められたレールはない。

 自らの意志で、自分の脚で歩むことに慣れない彼女は、さながら目隠しをしているように、ふらふらと惑ってしまうだろう。

 

 彼女自身、そうした不安定感を覚えているからこそ、思わず俺に質問を……。

 それも、言っても意味のない、感情的な質問をしてしまったのだろうと思う。

 

 

 

 そう。今のミホノブルボンの質問は、理論的ではなく、感情的なものだった。

 

 タイム的には、勝てる。

 この走りなら、問題ない。

 それは、あくまで理屈の上では、理解できる。

 

 今更、自らの実力を疑っているわけでもない。

 他のウマ娘の実力を見て、それを問題視したわけでもない。

 

 けれど、まるでこれまで来たことがない町に連れて来られた子供のように、どうしても不安で。

 だから、つい……全く以てミホノブルボンらしくないことではあるが、つい、そう訊いてしまったのだ。

 

 

 

 であれば。

 そんな彼女に声をかけ、導き、安心させるのは、トレーナーたる俺の役割だ。

 

「では、いつぞや言ったことをもう一度告げよう」

 

 俺は一瞬だけ考えた後……彼女の頭に手を置き、軽く撫でる。

 彼女はまぶたを閉じ、一瞬だけこそばゆそうに耳を揺らして、それを受け入れた。

 

「心配するな。俺と君が共に走れば、他者に負けることは決してない。負けることがあるとすれば、それは君自身だけだ」

「ミホノブルボンの走りは、自分との戦い……」

「その通り」

 

 未だ身体的には幼いウィルと違い、身体的に成長しているブルボンの頭を撫でるのは……なんというか、娘というよりは妹のような感覚だ。

 まぁ妹とは言っても、昌にこんなことすれば、そりゃあもう怒られてしまうだろうけど。

 

 そんなことを思いながらも、俺は彼女に微笑みかけた。

 

「ライバルは強い。距離は脚に適さない。その上コースにも厳しいものがある。

 確かに、今回のレースは厳しいものになるかもしれない。

 しかしそれでも、君は自分自身にさえ負けなければ、必ず勝てるよ。断言できる」

「……その根拠は」

 

 どこか縋るような少女の言葉。

 

 根拠などないと、そんなものを提示できるわけがないと、彼女自身そう理解しているはずなのに……まったく、今日のブルボンは本当にブルボンらしくない。

 勿論、良い意味で、だが。

 

 ウマ娘らしくなっていく担当に対し。

 俺は、敢えて自信ありげな表情を浮かべて、言う。

 

「君はミホノブルボン。この俺が鍛え上げるウマ娘だからだ。

 自分の力を信じられないなら、パートナーである俺を信じろ。俺と君で作り上げる唯一無二の走りは、必ず君を至るべき場所へ連れていく」

 

 

 

 ……まぁ、これに関しては、あまり人のことは言えないんだよな。

 なにせ俺も、自分自身のことを信じることはできないから。

 

 きっとこの自己肯定感の低さは、俺やブルボンの、これまでの経験が関わっているんだろう。

 俺は前世から、何も為せなかった。……今思えば何も為せなかったという程じゃない気もするが、自分が納得できるだけの結果は残せなかった、って感じ。

 ブルボンはこれまで、長距離の適性はないと、菊花賞やクラシック三冠は不可能だと、そう言われ続けてきた。

 

 だからこそ、俺たちは自分自身を、それ単体では信じることができない。

 

 けれど。

 俺が、俺とウィルで作り上げる「競走ウマ娘ホシノウィルム」ならば、心の底から信じられるように……。

 ミホノブルボンも、「競走ウマ娘ミホノブルボン」なら……きっと、理屈も理論もなく、信じてくれる。

 

 お互いを信じ、背中を預けられる。

 それだけの月日を、俺は彼女と積んできたつもりだ。

 

 

 

 俺はそんな思いと共に、彼女を見つめ……。

 

 返ってきたのは、青く純粋な、何よりも眩い輝き。

 

「……『マスター』の定義を、更新。

 マスターは……私の、ただ1人の『マスター』……なのですね」

 

 突飛な発言のようにも思えるが……。

 ああ、君が言いたいことはわかるとも。

 

 

 

 今でも、俺は自分が最高のトレーナーとは思えない。

 テイオーのトレーナーのように経験豊富なベテランもいれば、欧州で見えたアンダースタンディブルのトレーナーのように転生チートにも近い能力を素で持っている天才もいる。

 

 この世界を探せば、俺よりも優れたトレーナーはいるだろう。おおよそ間違いなく。

 そんな彼か彼女が担当すれば、ウィルもブルボンも、今以上に力を付けていたかもしれない。

 

 ……けれど。

 彼女たちと巡り合い、彼女たちをパートナーとしたのは、そんな彼や彼女ではない。

 

 俺だ。堀野歩だ。

 

 その過去を、その運命を、肯定したい。

 技術や知恵や努力や才能、それらがいくら足りなくとも……。

 俺は俺なりに彼女たちを支えたいと、そう思う。

 

 自分勝手極まるエゴ。

 けれど、きっとそれを向けることを許し合うのが、パートナーなのだろう。

 

 

 

 だから、俺は胸を張って、言った。

 

「ああ。俺こそが、君のマスター(トレーナー)だ」

 

 

 

 ぱちぱちと、気持ちいつもよりも早く思える瞬き。

 その向こうにある、彼女の青い瞳の奥に……。

 

「……再定義、完了。……ミホノブルボンは、『私のマスター』に、勝利を捧げます」

 

 今、彼女らしい怜悧な光とも、競走ウマ娘としての熱とも違う、新たな感情が宿った気がした。

 

 

 







 情緒が芽生え始めた少女に向けてスパダリムーブをするのはやめろ
 繰り返す、情緒が芽生え始めた少女に向けてスパダリムーブをするのはやめろ

 ちなみに横で聞いてるウィルは度重なる脳破壊の危機に泡吹いてる。コイツいっつもNTRかけてんな?



 次回は一週間以内。ホシノウィルム視点で、菊花賞開始前の話。
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