転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 3時間くらい考えても全くタイトル思い浮かばなくて絶望しかけました。
 タイトルネタ、今回こそ完全に枯渇。





ウィルム、仕事の時間だ

 

 

 

 これは、私も去年体験したことではあるけど。

 ティアラ路線やクラシック戦線が終わった頃、つまり10月くらいから、クラシック級の子たちがシニア混合レースに出走するようになり、世代間ではなくトゥインクルシリーズ全体での戦いが始まる。

 

 で、この前歩さんは、ブルボンちゃんに対して「シニア混合レースでも勝ち続けるのは困難だ」って言ってた。

 ……ぶっちゃけ、私もそう思う。 

 

 クラシック級のウマ娘にとって、冬は一番キツい時期と言ってもいい。

 何がキツいって、どうしてもシニア級のウマ娘とのスペック差がエグすぎるんだ。

 

 去年のジャパンカップは、レースの距離が中距離区分の2400メートルで、マックイーン先輩の適性が長距離向けで完全一致じゃないってこともあって、まぁ勝ち切れたけど……。

 有の時なんか、転生チートウマ娘たる私をして、スぺ先輩やスズカさんにはスペック勝負ですら勝てなかったわけで。

 

 子供の頃から走り続け、ジュニアの1月から歩さんの下で育てられた転生チートウマ娘でさえも、スペック勝ちできないんだ。

 転生チートなんてなく、なおかつジュニアの7月……8月だっけ? その辺りから歩さんに付いたブルボンちゃんでは、そりゃあテイオーとかネイチャ、そして極めつけのアンちゃんにスペックで勝てるわけもない。

 

 歩さんの観察眼基準の数値で言えば。

 シニアの一線級のウマ娘は、ステータス平均900から1000辺り。

 一方私は去年時点で900弱で、今は1200くらい?

 で、クラシック級で頭一つ抜けたブルボンちゃんは……それでも、現時点で700辺りか。

 ……色々バグってるアンちゃんが、私より少し遅れた1200弱くらい。

 

 勿論、レースはスペックだけではない。

 持ち得る走りの技術や、レース展開の運否天賦も大きく趨勢を分ける。

 分ける……が。

 結局のところ、土台部分を支えるのはやっぱりそのスペックなわけで。

 

 あくまで例え話というか、大体のイメージに過ぎないけど……。

 スペックとスキルは、掛け算みたいな関係。

 100のスペックに100のスキルなら、総合力10000。

 150のスペックを持っていても60のスキルしかないなら、総合力9000で、平均型の子に劣る。

 逆に80のスペックしかなくとも130のスキルがあれば、総合力10400で、平均型に勝る。

 

 勿論、レースによってスキルが活きたりそうでもなかったり、そもそもスキル自体を上手く使いこなせなかったり、スキル自体の理解度とか熟練度もあるわけで、実際にはこんな単純な話ではないけれど……。

 まぁ、大体そういうイメージ。

 どっちが欠けても駄目だ。心技体全て揃ってこその競走ウマ娘である。

 

 しかし結局のところ、身に付けたスキルだって、それを勉強した時間次第なわけで。

 やっぱり実地で走った経験の長いシニア級の方が、クラシック級の子たちよりスキル方面でも秀でることが多いんだよね。

 

 たった1年、されど1年だ。

 2年と3年という時間には1.5の差があるわけで、これは本当にめちゃくちゃ大きい。

 考えれば考える程、やっぱりクラシック冬はウマ娘にとって試練の時期、というわけだ。そりゃああのルドルフさんだってジャパンカップで負けちゃうわな、という話で。

 

 スペックもスキルも相手の方が上位であれば、まぁ余程運でも良くないと勝利するのは厳しい。

 ブルボンちゃんにとって、今年の冬は菊花賞に続いて、勝負の時期になるだろう。

 

 ……しかし、考えれば考える程アンちゃん壊れキャラだな?

 あの子、スペックとスキルの絶対量だけで見ると、私をやや劣化させたくらいって話だけど……。

 一応ブルボンちゃんと同じ、クラシック級(イギリスでは呼び名は違うらしいけど)なんだよね。

 なんで2年弱で私とほぼ同格なん? この子転生チートウマ娘よりよっぽどチートでは?

 

 

 

 さて、視点をブルボンちゃんから、トゥインクルシリーズ全体に移して。

 

 秋のレースは……厳密に言えばJBCとかエリ女、マイルチャンピオンシップ、東京大賞典もあるんだけど、私たちの陣営や友人、主だったライバルに関係するレースに限れば、残り3つだ。

 

 ネイチャとマックイーン先輩の出走する、天皇賞(秋)。

 テイオーとブルボンちゃんの出走する、ジャパンカップ。

 そして……年末の大一番、有記念。

 

 そして先日ついに、アンちゃんがジャパンカップ出走と日本来日を発表。

 これを以て秋のレースが、というかジャパンカップが帝王vs英雄vs無敗三冠の地獄絵図になることが決まった。

 なんだこのとんでもないレース!? くそう、心底出走したかった……!

 

 で、だ。

 私からすると、唯一無二の親友と敬愛するライバルの出走する秋天も、それと同じくらいには注目に値すると思ってるんだけど……。

 やっぱり世間のファンからすると、JCの趨勢が気になるみたいだね。

 

 攻めの日本総大将として、英雄姫の叙述詩を終わらせ、凱旋門を獲ったホシノウィルム。

 それに続き、守りの日本総大将たるトウカイテイオーは、果たして英雄姫の再起を止めることができるか。

 あるいは新時代の逃げウマ娘が、堀野歩の育てた新たなる優駿が、彼女たちすら下すのか。

 ドラマ性がつっよいからなぁ、この流れ。そりゃあ衆目を集めるのは当然か。 

 

 となれば当然、アンちゃんと競ったことのある私に意見を聞きたがる人はそりゃもう多いわけで……。

 

「ウィル、君の好みそうな案件が来たが……しばらくトレーニング漬けだったし、気晴らしに受けてみるか?」

 

 私の下に、一件のお仕事が舞い込んで来た。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「皆さん、こんにちは。ホシノウィルムです。……ちゃんと始まってます?」

 

 10月末を前にした、晴天の寒空の下。

 私はふりふりとカメラに向かって手を振りながら、スマホでコメントをチェックする。

 

 

 

『始まった!』

『きたー!』

『こんにちは! 今日もお元気そうで』

『外? ハンディカムかなこれは』

『今日はシリアルな方? 芸人の方?』

『ジャージ姿ちょっと新鮮だね』

 

 

 

 うんうん、ちゃんと配信は始まってるし、カメラも見えてるっぽいね。

 

 この手の配信はトラブルが怖い。本当に怖い。

 今年の頭辺り、私の出演する生配信が、機材トラブルで開始が1時間遅れて、めちゃくちゃグダグダになったことがあった。

 

 あの時はもう……なんとも言えない地獄って感じだったなぁ。

 スタッフさんは申し訳なさそうに走り回ってるし、私たちも微妙に気が抜けない時間を過ごさなきゃいけないし、歩さんとプロデューサーさんは深刻そうな顔で話してるし、ファンは冷えっ冷えになっちゃうし、そりゃもう大変そうだったよね……。

 

 若干トラウマだ、機材トラブル。

 アドリブでカバーとかできない以上、なんなら生放送中の事故よりキツい。

 

 ま、今回はそんなことも起こらなかったというわけで、私は改めてカメラに向かって笑顔を作った。

 

「良かった、ちゃんと見えてるみたいですね。

 改めまして、皆さんこんにちは、ホシノウィルムです。来てくれてありがとう。

 今日は私の敬愛する先輩と、ツーリングならぬランニング配信をしていこうと思います。

 そんなわけで……ミーク先輩、よろしくお願いします」

「……はい、よろしくです、ウィルちゃん。ぶい」

 

 カメラから一歩退き、私は隣にいる先輩を映す。

 ウマ娘としては珍しい綺麗な白毛、どこかぼんやりしている桜色の瞳が特徴的なウマ娘、ハッピーミーク。

 

 私の自慢の、最高極まるプリティーガール先輩。

 彼女こそ、今回のお仕事での共演者である。

 

「皆さんご存知、トゥインクルシリーズが誇る競走ウマ娘、ハッピーミーク先輩です。

 私もできない全距離G1制覇を成し遂げた優駿、後輩の面倒見が良いことに定評のある偉大なる先輩、そして栗東寮での私のルームメイトで、私のライバルの一人で、本っ当にお世話になった大恩人。この世界で最も可愛い最高のウマ娘の一人と言っていいでしょう。

 皆さん、ミーク先輩の走りが見られることに感激の涙を流しながらご覧くださいね」

 

 

 

『ミークおひさ! あんま表に出てこないから見れて嬉しい』

『出たわね変態脚質ウマ娘』

『芝』

『先輩好きすぎやろこの龍』

『ウィル×ミーク、アリ』

『まぁ実際G1レース4勝してるし前人未到も為してるし割と評価通りではある』

『というかランニング配信とは?』

 

 

 

「お、聞いてくれますか、ランニング配信。

 ほら、世間では割とツーリング配信とかって人気じゃないですか。流れる景色を見ながら雑談する的な。アレに近い感じで、私たちが軽く走りながら雑談したり今後のレースについて語ったり、ってニュアンスの配信です。

 私たちってトレーニングに時間使わなきゃですけど、同時にこうしてファンの皆さんと触れ合いを持つのも大事じゃないですか。

 それならこうしてランニングを配信することで一挙両得を目指そう! という、試験的な試みです」

「……今回の配信では、私とウィルちゃんで、今年のレースの振り返りと、これからのレースについて話したりしていきます。

 ……もし好評であれば、今後もURA公式から他の子のランニング配信があるかもなので、皆さんチャンネル登録と高評価よろしくです」

 

 ミーク先輩は私の隣で、ダブルピースを掲げてうっすらと笑顔を作っている。可愛い。

 

 

 

『チャンネル登録と高評価101回押したわ』

『なるほど、良いね。外撮影だからちょっと事故が怖いが』

『軽いものとはいえウマ娘のトレーニングが生配信されるか。時代だなー』

『すげぇ個性出そうだし色んな子のランニング見てみたいわ。ターボとか絶対面白い』

『ウィルムのペースでランニングしながら走るの? 大丈夫?』

 

 

 

「あはは、流石に軽く流すくらいのペースにしますよ。……私にとっての軽く、ですが」

「……私も、ウィルちゃんに付いて行くことは、できるので。……頑張ります」

 

 私とミーク先輩の言葉にコメント欄が沸き、それに軽く答えていく。

 

 競走ウマ娘は、アスリートとアイドルとしての二面性を併せ持つ。

 そのどちらかを疎かにするとだいぶ厳しいことになるので、トレーナー監修の下、それぞれが自分に適したバランスをとって行くんだけど……。

 こうして軽くはなれどトレーニングをこなしながらであれば、もう少しアイドル要素も出しやすくなるかも、という試みでもあった。

 

 まぁ、走りながらだとどうしても頭が回らなくなりがちだし、トークも疎かになる可能性もある。

 実際にやってみないと、どれくらい効果があるか、ファンへの受けが良いかはわからないんだけどさ。

 

 ちょっと話題が逸れるようだけど、私ことホシノウィルムは、アスリート面も勿論そうだけど、アイドル面でもかなり信頼してもらえてるみたいだ。

 まぁ普段からファンを大事にしてるつもりだし、ファンサもかなり多めにしてる。ヴィランを受け負ったり、逆に空気を取り持つことも多い。

 転生ウマ娘として、我ながら他の年頃の女の子たちよりはだいぶその辺り上手く立ち回れていると思うしね。

 

 で、そんな使い勝手が良く、なおかつ集客力がめちゃんこ強い私なら、ある程度試製段階の施策でも上手くこなしてくれるだろうと、この企画の試金石として使われることになったわけだ。

 良い言い方をすれば信頼してもらえてる。……悪く言えば丸投げとも言うかも。

 

 一方ミーク先輩が採用されたのは、そもそも私と仲が良くて因縁があるってのと、長距離を走れるスタミナがあるからランニングしても体力が尽きない、そして秋は有に集中するためスケジュールが過密じゃないから、ってのが大きいっぽい。

 

 ミーク先輩はレースの出走もお仕事も、なんというか……とてもマイペース。

 あんまり私と被ることが多くないので、こうして一緒にお仕事できるのは、すごく嬉しい。

 

 歩さんと並んで一番昔からお世話になった相手であり、とっても強力なライバルであり、そして敬愛できる最高の先輩なんだもん。

 そりゃあ好きになっちゃうよね、ミーク先輩。

 

 ……まぁ、今日はもう1人、私の好きなウマ娘がここにいるんだけどね。

 

「よし、それじゃ早速ランニングといきましょう。準備は良いですか、ミーク先輩、ソウリちゃん」

「準備よし、です。むん」

 

 

 

『というかこれカメラどうするんだ? 自転車か何かに乗ったトレーナー?』

『おお』

『楽しみ』

『ソウリ?』

『ソウリちゃんってソウリクロス?』

 

 

 

 思った通りに反応してくれたコメント欄にニヤリと笑い、私は彼女からハンディカムを受け取って、逆に彼女に向けた。

 ピンクの髪を恥ずかしそうに撫でる、私の可愛い後輩ちゃんに。

 

「はい、というわけでサプライズゲスト。

 今回撮影スタッフとして同行してくれるソウリちゃんこと、ソウリクロスちゃんです!」

「あ、あはは……どうも、ソウリクロスです。お邪魔しま~す……。

 正直ちょっと、というかかなり場違いな気がしないでもないですが……G1レース4勝と10勝の先輩方に対して、私まだ未勝利なので……。

 まぁ、私はカメラ役に徹するつもりなので、ファンの皆さんはお二人を見て是非お楽しみくだされば!」

 

 ソウリちゃんはちょっと居心地悪そうに照れ笑いを浮かべ、こくっと頭を下げた。

 

「全く、後輩ちゃんたちは気後れ気味の子が多いこと多いこと。もっとハングリーに、『先輩なんて喰らってやる!』くらいの気持ちで来てくれてもいいのに。

 ともあれ、私の可愛い後輩であり、今のクラシック世代が誇る新しい大逃げウマ娘ちゃんです。皆さんとしても、菊花賞でのトリックスターっぷりは印象深いんじゃないでしょうか?

 彼女の協力なくては私たちの姿も映せないわけで、彼女なくしてこの企画は成立しない大恩人ですよ。はい、皆さん拍手~」

 

 

 

『お前相手に喰らってやるはただのビッグマウスやろ……』

『無茶を言うな無茶を』

『8888888』

『ありがとソウリちゃん!』

『未勝利(G1は)』

『菊花賞すごかったよ!』

『うおおお古豪と神話と新時代! すげぇ豪華メンツだな』

『なるほど、ウマ娘に追従させるのか』

『……シニアのペースに追従しなきゃいけない上、ハンディカムを揺らしすぎるわけにもいかないソウリにとって、これって結構苛烈なトレーニングなのでは?』

 

 

 

 ……この企画のもう1つの趣旨。

 それはクラシック級の子、新時代のウマ娘を、シニア級の先輩と交流させること。

 特に、実力はあってもあまり日の目を浴びない子たちに、チャンスを与えることだったりする。

 

 冬までのクラシック級の子は、同じレースに出ることがない以上、シニア級の先輩と仲良くなり辛い。

 学園で自然に仲良くなることがあるくらいで、他に接点ってものがないからね。

 だからこそこうして、ある程度以上の力を持っているウマ娘にURA公式が「協力」の名目で仕事を依頼し、私たちとの間のコネ作りと世間的な注目を集めさせる、と。

 

 実力はあっても、どうにも機会がなくて伸び悩むような子もいる。

 そういう子たちが埋没しないようにする救済策、というわけだ。

 

 ホシノウィルムの人気にあやかろうとしてる、と言えば聞こえは悪いけど……。

 私からすれば、有力なウマ娘たちと触れ合うことができるのは嬉しいばかりだ。

 ある意味ウィンウィンと言えよう。 

 

「ソウリちゃんとも、余裕があればお話しするつもりだけど……あはは、そんなに必死に顔振らなくても。

 さて、それでは早速走りながらお話といきましょうか。最初の話題は、今年の春のレースの振り返りで」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 トレセンからそこそこ離れた人気の多くない街道を走りながら、私とミーク先輩、それから稀にソウリちゃんで、今年の春のレースの話をする。

 

 私もミーク先輩も、長距離に適性を持つウマ娘。

 スタミナはかなり高く、この程度の速度なら走りながら、雑談を楽しむことも余裕だ。

 ……まぁ、ソウリちゃんは若干辛そうにしてるけど。これに関してはやっぱり、シニアとクラシックのスペックの差ってヤツだろうね。

 

 川崎記念にフェブラリーステークス、高松宮記念。

 その辺りにも軽くは触れながらも、やはり私たちが話すとなれば春シニア三冠路線だろう。

 なにせ私と先輩はその路線、宝塚記念で直接対決したわけで。

 

 テイオーと殴り合った大阪杯、続けてマックイーン先輩も合流した春の天皇賞、そしてミーク先輩と決着を付け、日本最強と認められた宝塚記念。

 うーん、懐かしい。どれも最高のレースだったな。

 ……いや、大阪杯ではちょっとやらかしちゃったし、あまり良い記憶とは言い辛いんだけどさ。

 

「宝塚記念も懐かしいですね。あの日、私はレースに勝つことで、ミーク先輩から……そして黄金世代から、想いを託されたように思いました。

 凱旋門賞に勝てたのは、きっと日本の皆さんの想いが、これまでに至らなかった無念が、それでも見果てぬ夢が背中を押してくれたからだと思ってます」

「……実際世代の皆と、一緒に見てましたよ、凱旋門賞。

 最高の、走りでした。……エルちゃんなんか、涙ぐんでましたし」

 

 

 

『エルなぁ……ほんとあと一歩だったからなぁ……』

『俺も背中を押せた……ってコト!?』

『このペースで走りながら雑談ってやっぱウマ娘すげぇな』

『うおおおおおお過去から受け継がれた想いが未来を創る! これぞウマ娘ちゃんの神髄ですね!!』

『凱旋門もエグかったなぁ。というかアンが』

『アンダースタンディブルとかいうバケモン超えて世界の頂に立ったと思ったら1か月もしない内に今度はバケモンが来るの芝 いや芝剥げるわこんなん』

 

『ちょ!? バラすのは駄目デース!!』

 

『!?』

『エルおって芝ァ!』

『本 人 登 場』

『スパナ付いてて芝』

『そういやウマ娘って何割かは公式垢あったな。URA全部にスパナ付けてるん?』

 

 

 

「お、エルちゃん先輩見てるってホントです? 見逃したんですけど」

「……いえ~い、エルちゃん見てる~?

 ……あなたが意識してた可愛い後輩、私と一緒に仕事、してま~す」

「うっNTR構文はやめてください地雷です」

 

 手に持つスマホで確認したコメントと、そして隣を走るミーク先輩と、ちょっとふざけたことも言い合いながらレース談義。

 勿論脚を止めることもなく、程々の……息切れしないくらいのスピードで走る。

 

 ……そして、改めて手元のスマホを確認して、ちょっと感心。

 ハンディカム、あんまり揺れてない。

 

 ちらりと振り返ると、ソウリちゃんはやっぱりちょっと辛そうにはしてるんだけど……。

 体幹自体はしっかりしてるし、走りのフォームも乱れてない。

 

 うんうん、良くスタミナを鍛え上げてるね。

 これは……長らく療養中のターボに代わって、私を追い詰めてくれる相手にもなり得るかな?

 

 有が楽しみだね、ホントさ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 1時間程でレースの振り返りを終え、次のお題。

 いよいよ本日の本題とも言える、今秋のレースへと移る。

 

「秋天、どう見ます? もうすぐそこですが」

「……ウィルちゃん、というかウィルちゃんのトレーナーさんは、どう思ってましたか?」

「ヘリオスパーマー両先輩の爆逃げコンビ、イクノ先輩やグリモア先輩と、流石G1レースといった面々が揃ってはいますが……歩さトレーナーが注目してたのは、やっぱりネイチャとマックイーンさんですね」

 

 策士、ナイスネイチャ。

 私の世代の最強の一角、輝かしき星の一つ。

 持病らしい骨膜炎によってしばらく療養に入っていた彼女は、1年弱ぶりにレースに出る。

 療養という、捉えようによっては更に腰を据えて技術を磨くことのできる時間を以て、彼女の策謀はよりその恐ろしさを増しているだろう。

 まだ表には出て来てないけど、親友として、鈍ってはいないだろうってことだけは断言できる。

 

 名優、メジロマックイーン。

 私の1つ上の世代の最優、生粋のステイヤー。

 距離適性から言うと秋天は最適の距離とは言い難いけど、それでも彼女の凄まじいスペックは健在。

 恐るべきハイペースは並み大抵のウマ娘を理屈ごとねじ伏せ、垂れずに逃げ切ることを許さない。

 

 やっぱりというか、この二者が秋天のキーパーソンになると思う。

 

「ただ……なかなか予想の難しいレース、とも言ってましたね。

 なにせ互いがメタ対象というか、アンチピックというか」

「……メタ? アンチピック?」

 

 こくりと可愛らしく小首を傾げた先輩に、思わず笑みを漏らしながら説明する。

 伝わり辛い言葉を使っちゃうのは悪い癖だね、反省反省。

 

「まずネイチャは、策によって強者を、特にスペックに秀でる者を潰すのに長けてます。私を意識してそういう戦略で戦ってたのが身に沁み付いてますね。

 一方マックイーンさんは、相手の策をスペックの暴力で踏み潰す王道戦術の使い手です。シンプルイズベストな戦術です」

「……互いに、仮想敵が相手だ、と」

「ですね。だからこそ、どっちが上回るかは……互いの練度勝負になるんじゃないか、と。

 ……というか、ミーク先輩もそう思ってたんじゃないですか?」

「……ふふ」

 

 明確に答えることなく、ミーク先輩はドヤ顔で笑う。

 ホント可愛いなこの人ちくしょう。後輩だったら全力で猫かわいがりできたのにね。

 

 

 

『正直全く予想が付かんな秋天』

『爆逃げコンビいるし、マックイーンでも付いて行けないペース作れればネイチャ有利か?』

『マックイーン適性不利、後はネイチャがどこまで仕上がってるか次第』

『堀トレとかいうアンティキティラ級オーパーツなレース計算機からしても難しいのかこれ……』

『ミークってレース予想得意なタイプだったんか』

『ウィルム×ミーク、やっぱりアリですね』

 

 

 

「じゃあジャパンカップはどうですか?」

「……正直なところ、アンダースタンディブルさんは、よく知りません。

 ……あの子のことは、それこそ、ウィルちゃんが一番知ってるんじゃないですか? ……どんな子、です?」

「そうですね……うーん、何と言ったものか」

 

 私は穏当な表現を探して、やや空中で視線を行ったり来たりさせ……。

 

「バグ、ですね」

「……ばぐ?」

「この世界にあっちゃいけない壊れキャラ。天才っていうか天災? 私よりよっぽどチート? 自重は前世に捨てて来たの? ウマ娘というよりはゴジラ娘?  中学生の書いたメアリー・スー?」

「…………?」

 

 

 

『言いたい放題で芝』

『いやまぁ言いたいことは分かるが!』

『シニア級のウィル相手にクラシック級で並びかけた真正のバケモン』

『ゴ ジ ラ』

『実際現地でも「よくわからんけどさいきょう」って扱いらしいからなぁ……血統はそりゃ悪くないんだけど、だからってあそこまでは……』

 

 

 

「とはいえ、そんな彼女に抗するのは私の最強のライバル、ただ3人私と並んだことのあるウマ娘の1人であり、真の天才、トウカイテイオー。

 ……極めて個人的な意見にはなってしまいますが、テイオーには負けてほしくはないですね、私以外の誰にも」

 

 いや、ホントに負けてほしくない。

 なんていうか、こう、私の中でテイオーってどちゃくそ愛着ある最強キャラなんだよ。

 

 バトル漫画とかでもあるじゃん? その人のエピソード気に入っておきにになっちゃうヤツ。

 テイオーは私にとってのソレで、だからこそインフレの波に負けて欲しくなんてない。常に最前線の強キャラでいてほしい。

 

 ──彼女にはいつだって、私に挑む「最強」であってほしいんだ。

 ホシノウィルムに続く二等星は、私と歩さんを破り得る最も強い存在は、トウカイテイオーであってほしい。

 

 だって、あの子は。

 私にとって、憧れの主人公なんだから。

 

「……激重感情、でしたっけ。こういう気持ちの名前って」

 

 

 

『テイオーとかネイチャもウィルにそういうの向けてるけど、ウィルも大概だよね』

『想いが重いってか!w』

『実際日本の天才と西洋の天災、どっちが勝つかすげぇわくわくする』

『怪獣大決戦だろこんなん』

 

 

 

 

「で、残るは有記念ですが……」

「……語る必要は、ありませんね」

「ええ。全員で、最強を決めましょう」

「……今度こそ、私が、最強になります」

「いいえ、歩さん旗下のホシノウィルムこそが、最強です」

 

 

 

『バッチバチ!』

『めっちゃ仲良くてめっちゃライバル、最高か?』

『コイツもう普通にトレーナーの名前呼び隠さなくなってきてるな?』

『ウィル×ミーク、マジでアリ。堀ウィルは、ガチ』

『去年の有もとんでもなかったけど、今年も荒れに荒れそうだなぁ』

 

 

 

 * * *

 

 

 

 配信は、おおよそ2時間程続いた。

 私とミーク先輩は、配信画面に現れるソウリちゃんの疲れ具合を見つつ、画面揺れが激しくなる前に都度休みつつランニングを続け……。

 

「それでは、本日のランニング配信はここまで。

 試験的な試みでしたが、どうでしたか? もし良いなと思ったら、URA公式チャンネルの登録と高評価、それから概要欄から私とミーク先輩のウマッターとウマスタグラムの登録もよろしくお願いします」

「……ふふ、楽しい時間でした。……それでは、また。どこかのレースでお会いしましょう」

 

 

 

『めっちゃ良かった! ウマ娘の走りを実感できる良い配信だ……!』

『楽しかった』

『面白いとかなんとかより、レースの見方とかすげぇ参考になるなこれ』

『チャンネル登録しました! 第二回や別の組み合わせの配信もお待ちしてます!!!』

『おつ』

『お疲れ様でした~!』

『おつ!』

『絶対またやってほしい、できればスパチャも解放してほしい』

 

 

 

 ……配信は、かなりの盛況で終わった、と思っていいだろう。

 実際やってる側としてもかなり好感触だったし、反響も悪くなかった。

 

 最大同接は……うわぁ、330万って。

 すんごいなこれ、もう、なんというか……うん、すごい。

 日本だけじゃなく、文字通り世界中で見られてたんだろうね。明日辺り、翻訳切り抜きとかが出回ってるかもしれない。

 

 ともあれ、今は明日のことより今のこと。

 私に付き合ってくれた2人を労わらねばなるまい。

 

「お疲れ様でした、ミーク先輩、ソウリちゃん」

「……お疲れ様、です」

「おっ……おつ、かれ、さま……です」

 

 ミーク先輩はそこまで疲労を見せてないけど、一方でカメラを持っていたソウリちゃんは、膝に手を突いて肩を上下させている。

 

「ふふ、ソウリちゃん、これがシニア級だよ。キツかった?」

「ふー……ふー……ちょっと、これは、うん、キツい、ですね……両先輩方が余裕そうなのが、本当にすごいっていうか……」

「……ちなみに、私は結構疲れました」

「えっ!? ぜ、全然見えない……」

「……隠すの、得意です。ぶい」

 

 ミーク先輩のすごさの1つは、表情とか声から内面が読み取り辛いことだ。

 ……正直私も全然わかんなかったわ。負担かけちゃってたか。

 

 私は……まぁ、歩さんのおかげでスタミナモリモリ育成されてるので、そこまでキツくは思わなかった。

 発声しながらのランニングは肺に良い負荷をかけられたと思うし、良い汗かいたなー、くらいだったな。

 

「すみません……ちょっと楽しくなり過ぎました」

「……いえ。私も、楽しかったので」

「あっ、わ、私も、げほっげほっ!」

 

 ソウリちゃん、根性あるなー。

 いや、根性あるというより、根性出して頑張ってる、って感じか?

 

 そう思って、感心していると……。

 息を整えたソウリちゃんが、ガバッと腰を折った。

 

「楽しくて! そして、とっても、良い経験になりました!

 ウィルム先輩、ハッピーミーク先輩! 本日はありがとうございました! これを糧に、お二人に、少しでも追いすがってみせます!」

 

 最敬礼に続いたのは、競走ウマ娘を一番喜ばせる言葉。

 

 それを聞いて、私とミーク先輩は、視線を交わらせ……笑った。

 

「ふふ……ほら、言ったでしょう、先輩。ソウリちゃんはとっても良い子で、何より、『同じ』だって」

「……ええ、そうですね。

 ……私も、期待しています。新たな時代の……新たな、私たちと『同じ』ウマ娘に」

 

 

 

 名もなきか細い運命に導かれたようにここまで来た、ミーク先輩と私。

 それに続くように走り追って来る、ソウリクロスちゃん。

 

 私たちには、きっと他の子たちのように、確かな道筋や強制力などなく……。

 だからこそ、頑張ればその分、明るい進路も拓けるというもので。

 

 ……ああ、やっぱり、どうしても期待しちゃうかな。

 頑張ってね、新しい時代の大逃げウマ娘。

 

 

 







 ハッピーミーク、ホシノウィルム、ソウリクロス。本作メイン級キャラの「元ネタが存在しない」三銃士です。
 この3人の回は絶対どこかでやりたかったので満足。

 次回からは変則気味に早めの別視点。
 秋の天皇賞が始まります。



 次回は一週間以内。最も優れたウマ娘の視点で、天皇賞(秋)前編。



(追記)
 誤字報告を頂き、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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