転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 おっと、心は鋼だぞ(鋼の意志)





その体は、無限の可能性でできていた

 

 

 

 私ことアンダースタンディブルは、西洋では……というか世間からは、英雄姫だのなんだのと呼ばれている。

 特にそういうイメージを作ろうと思ってたわけじゃないんだけど……。

 ホシノウィルムという憧れ、日本語で言うところの「推し」を目指して走り続けた結果、トレーナーの言う通りG1レースとか獲りまくったから、それで結構な高評価を貰ってる。

 いや、結構っていうか、まぁハッキリ言っちゃえばホシノウィルムに次ぐ準最強くらいの認識を受けてるんだけどさ。

 

 まぁ、でも。

 ぶっちゃけて言えば、どうでもいい話だ、この辺は。

 

 ファンが大事なのは当然だし、みんなを楽しませるのが私たちの役目の一つではあるんだけど……。

 なんにしても、私ができるのって走ることだけだし? どう見られてるかって結果に過ぎないし、それに関して私は直接的にはどうしようもない。

 できるのは精々付けられたイメージに応じた働きを心がけるってことくらいで、私自身がこの結果に何かできるかと言えば否。

 過程と結論を取り違えちゃいけない。私たちウマ娘はイメージの為に走るのではなく、走った後にイメージが残るのだ。多分。

 

 だから、そんなことをちまちまと気にするよりは、私らしく、楽しく走ることの方がずっと大切だと思う。

 ……あの凱旋門賞まではもうちょっとイメージ沿いにやってたんだけど、あのレースで競走ウマ娘ってものへの知見がだいぶ深まったからなぁ。

 というか、あの子とネディに教え込まれた。有り余るパワーで強引に。

 

 無知でウマ娘を舐めていた私は、その力と在り方というものについて、色々と学ぶことになったのだ。

 ……日本の文化では、こういうのを「理解らせ(わからせ)」と呼ぶらしい。主に私たちのような子供の女の子相手に使う言葉なのだそうだ。

 

 しかし、私って結構頭が良いというか理解力が高い自負があるんだけど、なんで()とか(ことわり)とか(かい)とか(とく)とかの文字を組み合わせて理解(わか)って読み方になるのかは本気でわからない。

 ていうかそもそも、1つの文字に4つの意味と8つの読み方があったりするのに、それが何千文字もあるとか、ちょっと日本語難しすぎない? G1レースの数十倍くらい難しいよこれ。

 

 

 

 と、そんなわけで。

 最近の私は、自分のイメージのことはあんまり意識しないようにしてるんだけど……。

 自分の行動云々は置いておいて、最も強く美しき英雄姫、なんて呼ばれ、そういうイメージを持たれているのは純然たる事実であり。

 

 そんな私が日本に来て、まず一番驚いたのは……。

 

 

 

「トレーナーこれ、見てこれ! カップ麺がちゃんと美味しい! 保存食なのに!」

 

 食文化の深さ、だった。

 

 

 

 私の手の中には、1つのカップに入った保存食。

 お湯をかけて数分待って食べるタイプの乾麺、しかしその味はかなり刺激的で癖になりそうな感じ。

 

「カップ麺は保存食っていうより、手軽に食べられる手間のかからない食事、という扱いみたいだよ」

「調理の手間がかからず、安くて、そこそこ美味しい! すごいよ! 企業努力の粋だよこれ!」

 

 当然ながら、私の祖国にもカップ麺は存在する。てきとうなスーパーマーケットに入ってみれば、それこそ何種類ものカップが目に入るだろう。Pot Noodleとか。

 けど……なんというか、スープの味も薄いわ麺もべちょべちょだわで、正直保存食としての運用が正しいかなってクオリティだ。

 

 それに対し、日本のカップ麺はすごい。

 健康には……ちょっとアレかもだけど、料理として許容可能なラインを大幅に越えている。

 アスリート的には栄養が偏るのが減点かもだけど、そうじゃなければしばらくこれだけでも構わないってくらいだ。

 

 

 

 塩辛いスープを飲む私を、トレーナーさんは小動物でも見るような微笑まし気な目で撫でてくれている。

 

 いやいや、トレーナー、舐めてない?

 これホント美味しいからね? 1ポンド前後とお手軽価格、調理工程はお湯を注ぐのみでこの味。破格って次元では留まらないって。

 

「そんなに美味しいの?」

「美味しいっていうか……日本の食文化すごいなー、って感じ?」

 

 私の故郷、イギリスの食事事情は……うーん、なんというか。

 いやまぁ不味いってわけではない、と思うんだけど……全体的に薄味で、凝ってないんだよなぁ。

 

 主食は大体マッシュポテトで、そこにパンとかお肉とかが加わる形。

 お昼にはサンドイッチとか、軽い魚のフライとかを食べたりするんだけど……。

 外国での食事に比べると、微妙に味が薄いんだよねこれが。塩味中心、みたいな?

 

 あーいやでも、凱旋門賞の前に食べたフレンチは結構味が薄かったかも?

 でもアレは繊細な味付け、って言うべきヤツだよね。舌の上で踊るハーモニー。

 イギリスでの日常的な食事はそうじゃなくて、なんかこう、塩ォ! ケチャップゥ! みたいな? 雑なんだよね多分……。

 

 で、一方日本の食事は、なんというか……そう、奥深いって表現が一番正確かな。

 何が違うんだろうな。味の奥に、手の込んだ何かを感じるんだよね。

 あんまり刺激されたことのない味蕾が反応してピリピリしてるというか、新鮮な体験というか。

 

「この前連れて行ってもらったお高いレストランもすごかったし、やっぱりここに関しては文化の優先度の違い……いやもうぶっちゃけ祖国が遅れてるのを感じる。悲しい」

「あちらでも、美味しいところは美味しいんだけどね」

「いやーアベレージが低いというか、日常的な食事がびっみょうすぎるんだよね外に比べると。

 フランスでも感じたけど、技術はともかくとして、流通してる食材とか調味料、それから調理過程の細やかさがどうしても追い付かないのかな?

 風土とか歴史的に、あんまり食事が重視されてなかったのかな? わからんけど」

「スーパーに行ったり調理工程も見ずにそれを言えちゃうのは、流石はアンダースタンディブルって感じだね」

「んん、このくらいは誰でも分かると思うけども」

 

 祖国のことは好きだし誇りも持ってるけども、純粋に劣ってるって事実は認めるべきだろう。

 結局は文化の堆積の時間とその志向性の強さの違いに過ぎないし、その分他に祖国の方が優っている部分とかもあると思うし。

 街並みの美しさ、土地の使い方とかは……正直、日本に負けてないって思うしね。

 

 

 

 そんなことを話している内に、完食。

 フォークを置いてごちそうさま、だ。

 

「ふぅ、たまにはこういうお手頃食事もいいね。アクセントになる」

「塩分と脂質すごいし、アスリートとしては頻繁には食べられないけどね」

「それはそう。これずっと食べるのはヤバいなーって私の体も言ってる。

 手軽なおいしさには相応のリスク。やっぱり私的には祖国の簡単で薄味、けど栄養満点の料理が合ってるかもなぁって思います。

 だからこそ、たまにはこういうのもいい、なんだよね」

 

 空っぽの器をトレーナーさんに手渡すと、彼は苦笑しながらそれを処理してくれる。

 いやはやまったく、ただG1に勝ったりするだけで、イケメンダーリンが執事さんみたいに尽くしてくれるんだから、競走ウマ娘っていうのは得なものだ。

 

 ……ともあれ、それだけ贅沢をするのなら、相応に義務を果たさなきゃいけないのも事実。

 本分の方も忘れてはいけない。

 

「それじゃ、お待たせ。……そろそろレースのお話、始めよっか」

「そうだね。ジャパンカップと、それから先日の天皇賞について」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 アンダースタンディブルの次走は、祖国から地球半周くらい離れた程の遠く、日本のジャパンカップ。

 

 それを広報した時の反応は、かなりすごいものがあった。

 主にレース関係者と、カプ厨からが。

 

 イギリスのファンの皆からは、「リベンジだリベンジ! やったれ英雄姫!」と。

 日本のレースファンからは、「あっちでも勝てたんだ、こっちでも負けてたまるか!」と。

 そしてカプ厨からは、「ウィル×アン、良いですね……」と。

 

 凱旋門賞ではネディたちのこと舐めた結果負けちゃったけど、それでも私が超強いっていうのは純然たる事実だ。

 ぶっちゃけ……これは自慢になってしまうけど、才能面であのホシノウィルムに及ぶのは、それこそ私くらいのものだろうしね。

 

 そんなわけで、ホシノウィルムには及ばないものの、世界中が私の今後に注目してくれてる。

 それがリベンジと言わんばかりに日本に乗り込むのだから、そりゃあ衆目も集めるってもので。

 

 まあ、ホシノウィルムが回避しちゃったから、このジャパンカップで二度目の直接対決、とはいかなかったんだけども……。

 その代わりと言わんばかりに、現状トゥインクルシリーズでホシノウィルムと唯一並んだことのある、絶対の帝王が相手になってくれる。

 事実上、イギリスと日本の格付けが、この一戦で量られると言っていいだろう。

 

 世界はこのジャパンカップを見たがってくれてるし……。

 西と東のどちらが優れているかの結論を付けたがっているんだろうと思う。

 いやまぁ凱旋門賞で格付け終了してるって思わなくもないけどさ、やっぱり負けって認め難いじゃん? これで鼻を明かしてやれって感情が強いんだ、私の祖国の人たち。

 

 ……あ、でもそういえば、堀野トレーナーの話だと、昔模擬レースでホシノウィルムに勝ったことのあるウマ娘がトレセンにいるんだっけ?

 その子も含めれば、ホシノウィルムに並んだのはトウカイテイオーただ一人、ってわけでもないのか。

 今度その子に接触してみるのも面白そうだ。たとえフロックだろうとなんだろうと、あのホシノウィルムに勝てた以上、何かを持ってるんだろうしね。

 

 

 

 と、少し話が逸れたけど、今の主題はとにかくジャパンカップと、それから……。

 

「しかし、秋の天皇賞。改めてすごかったねぇ……」

「うん、あれはすごかった」

 

 トレーナーと2人して、うんうんと頷き合う。

 

 天皇賞(秋)。つい先日行われた、日本のG1レース。

 日本滞在を広報した以上、流石に一般席から見るわけにもいかず、私とトレーナーはこっちのレース運営団体が用意してくれた関係者スペースから観戦してたんだけど……。

 

 うん。

 結論から言うと、そのレースは、食文化の次くらいに私を驚愕させた。

 

「ナイスネイチャ、化けたなぁ……」

 

 私は後ろ頭に手を組んで、ソファの上でぐっと背を逸らした。

 

 このレースの勝者は、ナイスネイチャ。

 2着のメジロマックイーンに1バ身半の差を付けた、圧勝だった。

 

 

 

 ナイスネイチャ。

 ホシノウィルム、トウカイテイオーに並ぶ、星の世代の三等星。

 

 正直なところ、私は彼女を舐めていた。

 いや、だってさ、強そうな感じ全然しなかったんだもん。

 

 ホシノウィルムは、めちゃくちゃ強い。

 もう存在からして異質で、多分別な世界から来たんだなって思うくらいには規格外の怪物だ。

 いやもうホント、私が頑張らないと追い付けない、なんなら頑張ったって追い付けないっていうんだから、あの子は正しく桁違いだよ。

 流石は私の推しであり、憧れであり、ライバルであり、友達って感じ。

 

 で、その最強のライバルであるトウカイテイオーも、そこそこ強い。

 見れば一目でわかる。あの子はすんごい頭良いし、体の方もこれ以上ない程の素質を持ってる。

 ホシノウィルムみたいに、この世界の規格に合ってないって程ではないけど、突如として生まれた特異点みたいなウマ娘の1人だろう。

 あのあっぶない走り方もかなり長い時間をかけて改善したっぽいし、ホシノウィルムと私以外であの子を止められるウマ娘は他にそうそういないだろうなぁって感じ。

 

 あと世代の外で言うなら、メジロマックイーンも強いんだよね。

 多分トウカイテイオー程じゃないけど、あの子も飛び抜けたものを持ってる。

 特に長距離となると、まぁ……ホシノウィルムと私とトウカイテイオー以外が止めるのは無理だね、って確信できるくらいの強さだ。

 あの無限大のスタミナは結構な脅威。とてもじゃないけど、枯らす方向で戦いを進めるのは無理筋だろう。

 いやまぁ、私はフィジカルでも勝つ自信あるけどさ。私だし。

 

 一方で、ホシノウィルムの最恐のライバルこと、ナイスネイチャは……うーん。

 まぁ、なんだ。いわゆる「普通のウマ娘」の領分かな、って思う。

 ホシノウィルムみたいな規格外でもなく、トウカイテイオーのような怪物性もない。

 比較的優れた素質を持つってだけの、どこまでも普通のウマ娘。

 

 そんな子がさ、ホシノウィルムとかトウカイテイオー、メジロマックイーンと並べるかって?

 いやーキツいでしょ。

 アリが頑張って走ったって、全力疾走する人間には追い付けませんよって話でさ。

 

 あのネディだって、私やホシノウィルム程じゃないにしろ、世界最上級の素質を持ってた。

 日本でも探せばままいるような程度の素質じゃ、あの子には……ちょっと届かないかなって。

 

 残酷な話だけど、ウマ娘の力ってのは、生まれた時点でだいぶ決まってる。

 上昇値も、上限値も、そして下限値もだ。

 

 だからこそ、誰より優れた素質を持って生まれた私は、誰かと競う意味を見出せなかった。

 本気で走れば、勝つのは私だ。勝てるってわかりきってる勝負をして何が楽しいの、って。

 

 いやまぁ、その慢心の結果足元掬われて、ウマ娘のパワー理解らせられるっていうすんごい楽しい体験したんだけどさ!

 

 とはいえ、いくらウマ娘が不可思議な可能性を持つって言ったって、ナイスネイチャがあの3人に届くか? って考えると……私の直感は、否と答えた。

 

 流石にモノが違い過ぎる。

 生まれ持った運命が、彼女に勝利を許しはしまい。

 

 そう思っていたんだけど……。

 

 ……私の目の前で、ナイスネイチャは、運命の壁を強引にぶち破っていった。

 運命や魂の力でも、生まれ持った素質でもなく、ただただ純粋な彼女自身の努力によって、だ。

 

 

 

「アン、ナイスネイチャのアレってコピーできる?」

「いやー無理だね。色んな意味で」

 

 トレーナーの問いに、私は即答する。

 

「アレはもう、単一の技術じゃない、あの子全体での走り……あー、表現が難しいなコレ。

 ホシノウィルムとかトウカイテイオーの走りってさ、例えるなら舞台の上に立つ役者の、表情とか手の動かし方なんだよ。そりゃあ多少は難しいけど、何週間か繰り返し見たり練習すれば、劣化コピーはできるよね。

 でもネイチャのアレは……なんだろう、舞台に立つ前から演技が始まってるっていうか? 生き方そのものが一つの役者というか? 舞台を降りてもまた舞台、生涯その戦いを続けてるというか?

 一つの技術、一つの切り札で勝負するんじゃなく、普段の態度とか考え方、動き方とか、そういうレベルから全部を丁寧に調整して、レースを最適に進めるためのプランニングをしてるんじゃないかな」

 

 一つの技術でなく、総合芸術。

 全ての策謀と技術、彼女自身の走りが絡み合って、「競走ウマ娘・ナイスネイチャの走り」を構成している。

 

「再現するとしても、その全部を再現しようとすれば……私は肉体のスペックも落として、『劣化ナイスネイチャ』になるしかない。

 一方で一部再現するにしても、どこからどこまでコピーすればいいかの切り分けがむっずいむずい。仮にそれをやったとしても、スキル単品じゃまともな力にはならない。

 あの子の本当の強みは、それらの組み合わせ、噛み合わせ。抜群のシナジーを持たせて芸術的にそれを組み上げていく、その執念すら感じる構成力こそがナイスネイチャの本当の脅威だ。

 ……ていうかそもそも、多分私、あそこまで必死になれない。アレは弱いけど強いからこそできる、あの子だけの走り方なんだと思うよ」

 

 理論上、技術を再現することはできるだろう。

 けど、私のメンタル的な問題とか、それをするコスパを考えると、事実上不可能と言っていい。

 

 だからこそ、ナイスネイチャの走りは……このアンダースタンディブルにすらコピーできない、本当の意味で、この世界で唯一無二のもの。

 ホシノウィルムもトウカイテイオーも持ち得ない、絶対的な手法だ。

 

 それが……私は、恐ろしい。

 

「下駄を履いてるわけじゃない。

 あの子の素質は、どうしたって私やホシノウィルムには到底及ばない。

 それなのに、あの子は……ホシノウィルムもトウカイテイオーも成し得なかったことを成し遂げ、真正面からメジロマックイーンを越えて、その力を証明したんだ。

 ネディにも見た、ウマ娘の可能性。ナイスネイチャこそはその象徴だよ、まさしく」

 

 

 

 強いウマ娘が勝つ。これは当然であり、義務だ。

 そこそこのウマ娘が活躍する。これもまた当然であり、日常だ。

 弱いウマ娘が負ける。残念ながら当然であり、摂理だ。

 

 だからこそ、私は、心底つまらなかった。

 

 ウマ娘の強さが分かる私にとっては、全てのレースに意外性はない。

 世界は、レースは、その結論と結末が定まっている。

 強い者が弱い者を下す。実力主義の舞台においては、至極当然、そうなる。

 わかりきった結果に終わるシミュレーションを回して何が面白いんだって、そう思ってた。

 

 でも……ホシノウィルムに、そしてネディに、この世界には未知の可能性があるんだって教えてもらった。

 ウマ娘は時に、あるべき道理も摂理も、辿るべき運命すらをも超越する。

 

 同じ条件でシミュレーターを動かしても、結果が変わることがある。

 それこそが、私の恋するウマ娘の可能性。

 

 ナイスネイチャは、その最たる例だった。

 

 あんなに弱いウマ娘が、本来はG1も勝ち切れないくらいの力しかないウマ娘が……。

 メジロマックイーンを真正面から下し。

 ホシノウィルムを……最強の異分子を、脅かしている。

 

 運命の轍を越え、未知の未来へと踏み出しているんだ。

 

 ああ、本当に恐ろしい。

 恐ろしくて……ああ、震えが止まらないよね。

 

「そういうの、日本では『武者震い』って言うらしいよ」

「戦士の震え、か。へー、良い言葉があるねぇ!」

 

 ナイスネイチャ……。

 ああ、いつか、あなたとも走ってみたいな。

 

 本気の私を……あなたも、倒してくれるのかな?

 

 

 

 * * *

 

 

 

「しかし改めて、日本のウマ娘ってどうなってるんだろうね?

 ホシノウィルムは勿論、ナイスネイチャは可能性の塊だし、メジロマックイーンなんて私に迫るようなフィジカル持ってるし、1つ下の世代もサイボーグだとか二面性の刺客だとかニューリーダーだとか、面白そうなウマ娘が目白押しだ。

 ここまで役者が揃うなんて、ちょっと偶然とは言い難いよね?」

 

 私は首を傾げた。

 いくらなんでも日本に優駿集まり過ぎじゃない?

 いや、あっちにだってネディとかウィッチもいるけど、層の厚さが違い過ぎ。

 今年のジュニア級の子も、ざっと見ただけでも結構強そうな子たちいたしさ。

 

 そう思った私に対して、トレーナーは顎に手を当てて答えた。

 

「……俗説だけど、1人飛び抜けたウマ娘がいると、呼応するように周囲のウマ娘たちも目覚めることがあるとかないとか。

 実際、君もホシノウィルムがいなければ、本気で走ったりしなかったでしょ?」

「あー、なるほど? そっか、うん、そういうヤツね……」

 

 自分でも勝てるかわからない、遥か前を走るウマ娘の背。

 それに熱を貰う、って感覚はよくわかる。

 

 そっかー、ホシノウィルムが、世界のスイッチを入れちゃったのか。

 いや……正確に言えば「競走ウマ娘・ホシノウィルム」。つまりはあの子と堀野トレーナーが、だ。

 あの子たちが、世界の規格から外れた怪物同士が巡り合っちゃったことが、決定的にこの国の、そして世界の運命を歪めた、と。

 

 いやはや、怖いねぇ……。

 

 なにせ次に私が戦うのは、ただでさえウマ娘の条理を外れかけてた上、更にホシノウィルムによって完全に覚醒しちゃった子なんだから。

 

 

 

「それで……ジャパンカップだけど。トウカイテイオー、勝てそう?」

 

 トレーナーは、酷くさっぱりと訊いて来た。

 

 トウカイテイオー。星の世代の二等星。

 あのホシノウィルムとナイスネイチャと並ぶに相応しき、ウマ娘の枠を越えつつある化け物。

 

 そんな相手を前に、私は。

 

 

 

「うん、()()()()

 

 即答した。

 

 

 

 先日の天皇賞はその象徴だったけど、レースっていうのは、何も単純な地力の比べ合いじゃない。

 というか単純な地力の比べ合いなら、誰もホシノウィルムに勝てない。チート×チートにスペックで勝つのは、流石の私とトレーナーでも荷が重くなっちゃう。

 

 そういう意味で、ナイスネイチャの方も、ぶっちゃけホシノウィルムに並ぶ脅威に格上げだ。

 だって私の眼でもわかんないんだもんあの子。

 何考えてるか、どう走って来るか予想が付かないってのは、つまり策謀で私が負けてるってことであり、イコールあの子の策にハマっちゃうってことでもある。

 どこまでしてやられるか、どうしてやられるかが読めないレースってのは、私にも経験がない。確実に勝てるかと言われると、うーん、って感じ。

 

 でも……何事にも相性ってものがあるもので。

 ホシノウィルムやナイスネイチャに対して相性の良くない私は、けれどトウカイテイオーに対してはとても相性が良い。

 

 いや、相性がないって言うべきかな?

 

 

 

「なにせ、トウカイテイオーは私の下位互換だ。

 なんでもわかっちゃう、なんでもできちゃう。それがあの子の強みなんだけど、それって私も同じだし……私の方が、より強い」

 

 相性っていうのは、畢竟、方向性が違うからこそ生まれるものだ。

 私とトウカイテイオーは、ウマ娘としての方向性が非常に近しい。親近感すら覚える程に。

 であれば、そこには相性は存在し得ず……。

 残るは強さ、ベクトルの大きさだけ。

 

 つまるところ、次回のジャパンカップは、天皇賞と違って非常に単純なもの。

 アンダースタンディブルと、トウカイテイオー。

 そのどちらがより強いか。それが、唯一無二、勝利を決める指標となる。

 

 そして私は、単純な強さでは、ホシノウィルム以外の誰にも負けない自信がある。

 ……ああいや、ネディにはレースで負けたけど、シンプルなウマ娘としての規格では、っていう話ね。

 

 あとは適切な心持ちで、適切な身体状態でレースに臨みさえすれば、まず私の敗北はなくなる……。

 

 

 

 ……なーんてね。

 「ウマ娘」ってヤツがそんなに甘くないってことは、凱旋門賞でよく理解しましたとも。

 

 

 

「……と、凱旋門賞を走る前の私なら言い切ってたかもだけど、今は少し違う。

 以前なら『勝てる』って言葉を『負ける可能性はない』って意味で使ってたけど……今は、『十分勝率がある』って意味で使わせてもらうよ。

 トウカイテイオーが壁をぶち壊してくる可能性がある以上、勝利を確信なんてできはしない」

 

 私だってバ鹿じゃない。何度も同じ間違いは繰り返さないとも。

 

 私の言葉に、トレーナーはニコニコ笑って頷く。

 

「うんうん、良い傾向だね」

 

 ひえー。ホント怖いトレーナーだよこの人。

 

 なにせ、私にウマ娘の怖さを理解させるために、わざと負け戦させたからね、凱旋門賞の時。

 

 

 

 あの時、トレーナーはネディの脅威に気付いてた。

 超絶眼が良いトレーナーが、ネディのキマリっぷりに気付かないとは思えないし。

 

 その上で……彼は私に、「気を付けて」なんて一言も言わなかった。

 レース前にかけられた言葉は、「いつも通りに勝ってきてね」だ。なんて意識を弛緩させる言葉だよ。

 

 私は、トレーナーを信じてる。

 私の直感とトレーナーの判断がぶつかれば、すぐさま否定はせず、取り敢えず判断の理由を訊いて、それが正しいものであれば受け入れようと頑張るくらいには。

 だからこそ、あそこで「ネディリカに注意して」なんて言われれば、私はそれに従っていただろうし……あるいはそれで、凱旋門賞に勝てていたかもしれない。

 

 でも、トレーナーはその道を選ばなかった。

 理由は、すごく単純。

 

「ここで負けるならそこまでだし……。

 一度膝を突いた方が、最終的にアンダースタンディブルは強くなるから」

 

 ……だって。

 

 全部終わった後に言ってたんだよね。

 私は天才だから、凡人の苦悩も、苦労も、そこで得る強さも知らない。

 だから一度膝を地に付けて、視野を広げる必要があったんだー、って。

 

 いやいや、凱旋門賞だよ? 世界の頂、あの神話の龍との直接対決だよ? トレーナーとしての最高峰の名誉を得る機会を、わざわざそんなことに使う? 顰蹙買うかもよ? って聞いたら……。

 「それでも、君のためなら」だってさ。

 私のこと好きすぎるでしょ、トレーナー。

 

 

 

 ……と、そんなおっそろしいトレーナーの仕掛けで、私の中から慢心の二文字は消え去ったと言っていい。

 

 「勝てるはずの勝負」なんてものはこの世界に存在しない。

 相手がウマ娘であれば、条理も道理も摂理も常識も限界も計算も、常にその全てが覆される可能性がある

 

 そして、同時……。

 

 私もウマ娘である以上、それらを……自らの果て無き限界をすらも、超えられるかもしれない。

 

 それが……ふふ。

 楽しみで、楽しみで、たまらない。

 

 

 

「くくく、いいね、いいね。強敵と、『私を超えるかもしれない相手』との戦いは、本当にいい。

 肉体、知略、判断、発想、戦略、技術、世界、感情、精神、部位、走法……いくらでも思い付く。いくらでも成長できる。いくらでも……私は、強くなれる。

 トウカイテイオー、ホシノウィルムに追いついた絶対の帝王。

 楽しみだなぁ……彼女との戦いは、きっと私に新しい力をくれるよ!」

「うーん、やっぱり英雄というか狂戦士、なんなら魔王の側だなぁ俺のウマ娘は」

 

 トレーナーは苦笑していたけど……。

 ふふ、この私が、わからいでか。

 

 彼はこんな顔をして、心底、喜んでくれている。

 アンダースタンディブルが、もっともっと、遥かに強くなっていくだろうことを。

 

 

 







 片やクラシック級でシニア級のウマ娘たちをぶち抜く怪物。
 片や適性不利すら越えて春天でマックイーンを打ち破る怪物。
 怪獣大決戦か?

 なお今のところ、ミホノブルボンは本格的に脅威視まではされていない模様。
 これは舐めているというより、それよりまずはテイオーなんとかしないとどうしようもないわこのレース、という感じです。



 次回は一週間以内、トレーナー視点で、英雄姫対策戦線の話。
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