転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 ジャパンカップ編、開幕。
 天皇賞編がちょっと短かったので、こっちはちょっと長くなる……かも?


メカと帝王とJCの季節
(これ以上)働いたら死ぬと思ってる


 

 

 

 良くも悪くも、人というのはミーハーだ。

 時には旧来のやり方や古いものに固執することもあるが、大概の場合は新しいものや未知の体験を好む。

 

 いわゆる新時代とか、新たなるとか、そういう枕言葉を聞くだけで魅力が何倍にもなったように感じる。

 そういう人間は決して少なくないだろうし、言ってしまえば誰もがそういう経験はしたことがあるはずだ。

 そして、それは決して恥じるべきものでもない。新たな刺激に心を動かされるのは、生物として、人間として至極当然のものだからだ。

 

 だからこそ流行、ムーブメントってヤツは強いわけで……。

 まぁぶっちゃけて言えば、ウマ娘のレース興行だってこれに乗っかっている部分がある。

 10年前の神メより今は知っている名馬……とまでは言わないが、記憶が毎秒更新されていくものである以上、過去の存在の記憶が薄れていくのは道理というものだろう。

 

 勿論それは、俺たちの陣営や、今のトゥインクルシリーズにも当てはまる話で……。

 先日の天皇賞(秋)での、見事という他ないネイチャの勝ち切り。

 あれのおかげで、俺たちホシノウィルム・ミホノブルボン陣営にかかる負担は、だいぶ……いや、とても軽くなった。

 

 史上初の凱旋門賞、史上初の連続無敗三冠。

 他にも、俺の担当ウマ娘たちの走りには、色々なドラマが乗り過ぎた。

 結果として、とても一陣営にかかるものじゃない、凄まじく極端な負荷がかかっていたんだが……。

 

 ネイチャの奮闘により、それが多少は落ち着いた形になる。

 

「本来なら、仕事が減るのは苦慮すべき事態なんだが……あの子たちには申し訳ないが、今は心からありがたいと思ってしまうなぁ」

「死ぬかと思った……今回ばかりは本当に死ぬかと思った……!」

「昌、その冗談何回目?」

「冗談じゃないッ!! 死ぬ!! 本当に死ぬからッ!! 私の顔色見ろほら!!!」

「白いけど?」

「けどじゃないよむしろなんでアホ兄さんは平気取り繕えてるんだよ張り倒すよ!」

「張り倒してから言うのは理不尽だよ?」

 

 まぁ、去年一人でやってた時とかは酷かったし、顔色誤魔化すためのメイクとかも習熟したからね。

 キツい時にそれっぽく見せかける技量は人一倍って自信がある。

 ……ウィルにはバレちゃうけど。もう長い付き合いだからなぁ。

 

 

 

 と、それはともかくだ。

 

「ま、あの子たちに回せる仕事にも上限があるし、そう悪い展開でもない。

 むしろもうちょっと……今の10分の1くらいにまで減ってくれればベストなんだけどね」

 

 カタカタとキーボードを叩きながら、俺は半ば独り言のように漏らす。

 

 土台、ウマ娘一人、殊にトップアスリートである競走ウマ娘である彼女たちが請け負える仕事の総量は、そう多くはないんだ。

 ウィルもブルボンもお金に興味がない質で、かなり強くレースに傾向していると言っていい性質だからね。

 その魂が、彼女たちをレースの道へと駆り立てるんだろう。

 

 ファンへの感謝という意味で仕事をするのはとても大事だけど、それ以上に彼女たちは日常的なトレーニングを重視しがちで、だからこそ普通の芸能人のように毎日の如く仕事を入れるというのは無理だ。

 精々が、一週間に1つか2つ。どれだけ無理をしても3つ入れるのが限度というもので……。

 なんなら、体力管理やモチベーションを考えれば、一週間丸々お仕事を入れないタイミングというのも必要になってくる。

 

 ではその一方、天皇賞が始まるまでの彼女たちに、どれくらいのお仕事が来てるのかというと……。

 トレセンの事務局である程度選別してもらっても、週に五百本という感じ。

 そこから昌フィルターを通して、五十本前後まで減らして。

 そこから俺が更にふるいにかけて、結果として五本程度にまで削り。

 これを担当2人に見せて、そこから受けるものを選んでもらう、という形になる。

 

 控えめに言っても、お断りの連絡を入れるのが死ぬ程大変だ。

 去年ウィルが三冠を獲った辺りからは、特例として事務局にお願いしてるんだけど、それでもやはりこちらから一報入れなければならないことも多いからなぁ……。

 

 そんな状況だからこそ、むしろお仕事が減るのは喜ばしいことだった。

 

 ネイチャの躍進によってこれが五百本が三百本に減少しようが、その内99%以上お断りしなければならないのは変わらない。

 母数の多さとURA公式との付き合いの深さ故に、仕事の質や報酬が下がるということもなく……。

 むしろ先方に入れるお断りやリスケの頻度が大幅に下がることで、俺と昌の負荷を大きく落としてくれた。

 

 おかげで、菊花賞以来修羅の道に入っていた俺たちの陣営も、多少は落ち着きを見せて来た。

 ナイスネイチャの躍進には、様々な意味で感謝する他ないね。

 

「ふぅ……今回のデスマーチもなんとか乗り切ったな。お疲れさま、昌。……昌?」

 

 サブトレーナーとして獅子奮迅の活躍を見せてくれた妹の方に目をやると、机につっぷして爆睡していた。

 

「し、死んでる……!」

 

 

 

 ……正直に言えば、だ。

 ウィルとブルボンのトレーナーとして、仕事を奪われたことに何も感じないというわけではない。

 俺は彼女たちが世界で最高に強くてカッコ良くて可愛いと思ってるし、その人気に陰りが見えるのは……世界の見る目のなさに呆れるような心地だ。

 

 そして、思うところがあるのは俺だけでなく、形は違えど担当ウマ娘の方もそうだろう。

 アイドル的なお仕事だって彼女たちの本業の一つだ。それが減ることに何も思わないのは、むしろ不自然というもので。

 

 けれど、俺も彼女たちもそれに納得してしまうくらいには、天皇賞のネイチャはすごかった。

 

 俺はウィルやブルボンの走りを、世界で最も正当に、最も高く評価している自負がある。

 俺のような努力しただけの凡人、量産できる駒とは違う。絶対的で唯一無二、この世に二つとないただ一人の輝く星たちだ。

 人の手で作り上げられた電灯だからこそ、その輝きの尊さは誰よりもよく知っているとも。

 

 けれど、客観的に見て。

 あの子たちの走りでさえ、殊技巧という面においてナイスネイチャのソレに勝てるかと言えば、それは否だと言うしかない。

 

 ホシノウィルムやトウカイテイオー、アンダースタンディブルは、天才だ。

 故にこそ彼女たちは、どうしてもその才気に頼ってしまう。

 ある意味では、才能に縛られていると言ってもいい。彼女たちの走りは良くも悪くも、それがある前提、その才能を基軸としてしまう。

 

 けれど、ナイスネイチャは違った。

 その素質に依るところなく、純粋に積み上げた技巧と素養と戦術眼を以て、血統による才能の化身、メジロマックイーンという強敵を打破した。

 

 星の輝きに並ぶため、自らの持ち得る可能性、その魂の持つ力以上のものを身に付けたウマ娘。

 彼女を超一流だと認めない者は、もはや日本に、世界にだって存在しまい。

 

「綺麗だったからなぁ……よくもまぁ、あそこまで」

 

 最適解。

 ナイスネイチャの走りを端的に表せば、そうなる。

 

 彼女にとって最も理想的な流れを、作り上げ、引き寄せた。

 それが叶い、彼女は余裕を以て名優を下した。

 

 最上の効率で人の心を動かし、最適な手段を用いてそれらを統制し、最高の戦術によってそれを結実させた。

 素晴らしいと言う他ない、最適解の走り。

 それが、あと一歩超一流へと届き得ない彼女を、天上の星へと押し上げたのだ。

 

 

 

 ……まぁ、それでも。

 

「綺麗だからこそ、攻略は容易いんだが」

 

 

 

 俺にとってトウカイテイオーが天敵であり、そしてトウカイテイオーがウィルを天敵とするように……。

 ウィルはナイスネイチャを天敵とするが、しかしナイスネイチャの天敵として俺がいる。

 

 畢竟、最適解ならば、計算で導き出せる。

 レース中の魂の爆発がなく、ただ最高効率でレースを有利に進めるだけならば……。

 誰よりもレースのことを学び、研究し続けて来た堀野歩は、そのプランを完全に読み切り、これを上から圧殺することが可能だ。

 

 俺とウィルは、互いに補完し合うパートナー。

 故にこそ、隙はない。

 

 トウカイテイオーだろうが、ナイスネイチャだろうが。

 立ち塞がるなら、俺たちの力を以て勝つ。それだけだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……と、ライバル陣営の躍進に、柄にもなく熱くなってしまったが。

 

 結局のところ、レースでの勝利のための最適解は、日々のトレーニングの堆積だ。

 俺たちトレーナーにとっては、それを見守り適切に導くことこそ、メインの仕事である。

 ……そうだよね? 相手方にお断りのメール入れたり、財政管理ばっかりしてたけどこっちがメインだよね? アイデンティティ壊れそうになってるけど。

 

 そんなわけで、俺はある程度落ち着いて来た仕事に一区切りを付け、今日も今日とてトレーニングに励んでいるはずの担当の様子を見に行くことにした。

 

 本日のウィルのトレーニングは、更なるパワーを求めるべくウッドチップコース。

 ブルボンの方は残った疲労を抜きつつ弱点を克服すべく、プールトレーニングだ。

 

 どちらを見に行くか少し迷ったが……結果として、ウィルの方を選択。

 ブルボンはあの菊花賞以後良い意味でコンディションが安定しているが、ウィルはネイチャの躍進を受けてちょっとテンションが上がりすぎてしまっている。

 

 3年選手である彼女が今更無茶をするとも思い難いが……。

 あの子、レースのことになると、結構調子に乗る時は調子に乗っちゃうからなぁ。

 トレーナーとしても、あの子の保護者としても、警戒するに越したことはないだろう。

 

 そんな訳で、俺はトレセンのウッドチップコースに向かったわけだけど……。

 

「……ん?」

 

 そこで、予想外な相手と出会う事となった。

 

 

 

「や、ウィルムのトレーナー」

「トウカイテイオー」

 

 ホシノウィルムのライバルであり、今のトゥインクルシリーズの中核の一人。

 絶対の帝王こと、トウカイテイオーが俺を待ち構えていたのである。

 

 

 

 トウカイテイオー。

 もはや言わずと知れた、星の世代の二等星。

 永遠の皇帝と呼ばれたシンボリルドルフに対し、今年の春辺りからは絶対の帝王と呼ばれている彼女は、ホシノウィルムにとっての最強のライバルだ。

 

 ナイスネイチャがその素養、策謀での婉曲な勝利を狙って来るなら……。

 トウカイテイオーはその素質、才能での直接の勝利を狙って来る。

 

 周りのウマ娘が、ライバルがどう走るかなどは関係ない。

 自らの持ち得る最高の走りによって尽くを打ち砕く。

 そんな唯我独尊の天才ウマ娘である。

 

 

 

「なんとも豪胆なものだな、堂々と敵情視察か?」

 

 ウィルが走るコースの外側、外ラチ沿い。

 俺は横に並んで走るウィルに視線を向けるトウカイテイオーに、問いを投げた。

 

 もはや言うまでもないことではあるが、俺たちの陣営とトウカイテイオー陣営は、いわゆるライバルの関係にあたる。

 ホシノウィルムは勿論、ついにシニア混合レースに足を踏み入れる、ジャパンカップ出走予定のミホノブルボンにとっても、トウカイテイオーは打ち倒すべき難敵。

 そんなウマ娘の陣営の、公開されていないトレーニングを見に来るのだ。

 これを疑わないという方がおかしいというもので。

 

 だが同時、違和感があるのも事実だった。

 ナイスネイチャならわかる。あの子は情報を集めてレースに勝つタイプだ、敵情視察の一つや二つは軽いものだろう。

 だがトウカイテイオーが、自らを高めるタイプである彼女がそうして情報収集に来る、というのは……勿論在り得ない話ではないが、どことなく違和感のある話で。

 

 

 

 ……結果から言うと、俺のその違和感は、正鵠を射ていた。

 トウカイテイオーは首を振り、答える。

 

「いや、今日用があるのはウィルムってよりは、ウィルムのトレーナーだよ」

「俺?」

 

 首を傾げる……ことは、なかった。

 

 正直なところ、そう言ってくる可能性を考慮していなかったわけではない。

 ただ、そう転ぶ可能性は低いと思っていたし……どことなく、信じられない思いすらあった。

 

 だが、どうやらそれは、確かな現実であったらしく。

 

「うん。……協力してほしいんだ。

 このままじゃ、ジャパンカップ、怪しそうだからね」

 

 

 

 走るウィルを眺めながら、トウカイテイオーが提案してきたのは……。

 ジャパンカップにおける共同戦線の申し入れ。

 より正確に言えば、ジャパンカップまでの間の、一時的な合同トレーニングの実施だった。

 

 ジャパンカップ。

 それは毎年のように海外のウマ娘が出走してくるレース。

 この一戦を以て海外との格付けがある程度決まる、言ってしまえば日本の威信をかけたレースとなる。

 

 そして今年出走してくるウマ娘の内、最も注目されている、同時最も注目に値する相手が……。

 英雄姫、アンダースタンディブル。

 イギリスより来たる、あのウィルにすら並ぼうかという、真正の怪物。

 

 俺の計算と感覚から言えば……彼女の才覚の絶対値は、条件付きではあるが、トウカイテイオーのそれすらも上回る。

 目の前に「目指すべき背中」がある時の彼女の勢いは、正直凄絶と言う他ない。

 彼女を前にした時、星の世代の二等星ですら、必ずしも勝利をもぎ取れるとは限らなくなる。

 

 ……恥ずかしい話だが、トウカイテイオーというウマ娘を、俺は測り切れていないと思う。

 俺の転生チートらしき「アプリ転生」は、そのウマ娘の身体スペックを正確に割り出してくれるが……。

 時にウマ娘は、その実力以上の結果を残す。

 トウカイテイオーはその象徴であり、ぶっちゃけ彼女がそのスペック通りの結果を出したことなんて今まで1回たりともない。いつも予想を大きく上回って来るんだ。

 この辺りが、彼女がデータ厨である俺の天敵たる所以である。

 

 だからこそ、あるいはトウカイテイオーであれば、あのアンダースタンディブルを前にしてもなお「自分が勝つ」と断言するかもしれない、と思っていたのだが……。

 どうやら、そうでもなかったか。

 

 少し意外に思う俺に対し、テイオーは「いやいや」と手を振って来る。

 

「そうじゃなくて……まぁ、そういう考えがないわけじゃないけどさ。

 別に人を頼るのは、自分ができる全部をするのは、悪いことでも恥ずかしいことでもない。

 ……ネイチャを見てれば、それくらいはよくわかる。だからボクも、ボクに取れる手は全部取ろうって思った。それだけだよ」

 

 テイオーは、真摯な目を俺に向け、そう言ってきた。

 

 ……ナイスネイチャめ、まったく。

 ウィルもそうだけど、周りのウマ娘たちに影響与えすぎでしょ、あの子は。

 

 

 

 俺は呆れ、同時嬉しく思う心を包み隠し、眉をひそめてテイオーに向き合う。

 

 彼女の変化や精神的な前進は、ウマ娘のレースを好む一個人としては、心底喜ばしいものではあるが……。

 

 俺の立場はあくまで、ホシノウィルムとミホノブルボンの契約トレーナー。

 

 俺は、トウカイテイオーの味方ではない。

 あの子たちに、俺の担当に益をもたらすべき人間である。

 

 あちらの本気度も確かめなければならないし……まずは、ジャブを打つか。

 

「急な上、随分と都合の良い申し出に思えるな。

 ホシノウィルムは、現状この世界で唯一アンダースタンディブルを攻略したウマ娘。彼女から攻略のメソッドを聞くことによる利点は計り知れないだろう。

 対して、君たちと組むことに、何かしらメリットがあると言えるのか?」

 

 本当なら、交渉の際にこんな明け透けな言い方をすることはない。

 こちらの思考を隠し、相手の言葉尻を掴み、一方的な優位性を持った上で相手の精神と会話を掌握する。それが堀野流の交渉術である。

 

 だが……まぁ、子供相手だし、何よりただ試しているだけだ。そこまでする必要性はないだろう。

 どちらかと言えば、トウカイテイオーなら……俺の兄と同じく極めて要領の良い彼女ならば、その言葉から真意を読み取ってくれるだろうと信じてのことだった。

 

 そして実際、テイオーは俺の言いたいことを理解したのだろう。

 あるいは、事前に予測していたのかもしれない。

 彼女はコクリと頷き、言う。

 

「トレーニングの基準と内容をそちらに委任するよ。こちらからは提言はしても強制はしない。勿論後から何かを言う事はない。

 それに加えてジャパンカップまでの間、ボクの、トウカイテイオーのスペックを計測してくれていい。全力を出して走れって言われたら、そうするよ。約束する」

 

 ……うーん、弱い。

 対価としては微妙だ。それよりはウチが差し出すものの方が大きいというか、わざわざ気を払って相手と組むだけの十分なメリットにはなり得ない。

 

 トレーニングの条件委任は、そもそも前提だ。

 ウィルもブルボンも、俺の「アプリ転生」に基づくトレーニングプランによって調律している。

 変に命令系統がごたついてこれを乱し、彼女たちの調子を落とすようなことになるならば、そもそもお話にならない。

 

 トウカイテイオーのスペック計測も、そこまでのメリットにはならない、というのが現実だ。

 それを計る方法は他にもあるし……何より、彼女の平常の力は俺の目にも映っている。

 彼女の力の真価は、多くのウマ娘たちと競うレース本番でしか発揮されないだろう。たとえ本人が本気を出そうと思っても、ウマ娘の魂がそれに呼応するとは限らないのだし。

 

 これらの微妙なメリット2つに対して、こちらが差し出すのは……。

 俺のトレーニングプランのハウツー。

 ホシノウィルムとミホノブルボンの現時点での大まかな実力の公開。

 

 釣り合っていないとまでは言わないが、わざわざ相手の意に沿って組む程の強いメリットではない。

 

 だから、それだけなら、「検討する」で場を納めようと思ったのだが……。

 

 

 

「何より、君の……堀野トレーナーの下で、ボクがもっと強くなる。

 トウカイテイオーが、ホシノウィルムのライバルが、ミホノブルボンの先達が、もっと」

 

 

 

 ……ああ。

 

 思わず、口元が、笑みの形に歪んでしまう。

 

 見事な心理誘導。

 技術など全くと言っていい程になく、俺のことだってそうは知らないだろうに……。

 

 それでも彼女は、直感的に、今俺が最も求めているものを悟っていた。

 

「……くっ、くくく。明け透けな言い方だ。俺でなければ、顰蹙を買ってもおかしくないぞ、その言い方」

「それはこっちの台詞だよ」

「ああ、お互い様だな。お互い様だから、俺たちは対等な関係となる」

 

 そう言って、俺はトウカイテイオーに手を差し出す。

 

「いいだろう。君が強くなれば……俺の担当はもっとレースを楽しめる。それは俺にとっての最大のメリット足り得ると判断した。

 これからよろしく頼むよ、トウカイテイオー。君のトレーナーにも伝えておいてくれ」

「こっちこそ……ボクのこと、あの子たちと同じように、バッチリ鍛えてよね?」

「俺だって契約トレーナーだ。仮にも面倒を見る以上、出来得る限りをしよう」

「ん!」

 

 テイオーは、満足そうに笑って頷き、俺の手を握って来た。

 

 

 

 ……さて。

 仕事が減ったと思ったら、また増えてしまった。

 

 ひとまずはウィルとブルボンのステータス確認して、仕事のスケジュールと合わせ、トウカイテイオーの予定を聞いて仔細を調整……いや、一からリビルドした方が早いかな。

 で、後はグラウンドコースとかジムの貸し出しキャンセル……事務局に菓子折り持って謝りに行く必要がありそうだ。

 それからそれぞれのレースに向けて、目標ステータスの設定し直し、戦術の再考……。

 うん、やるべきことがいっぱいだ。

 

 けど、それくらいお安い御用だ。

 あの子たちを……ホシノウィルムとミホノブルボンを強くできるというのなら、俺はトレーナーとして文字通り何でもしよう。

 最高の環境を用意し、万全なトレーニングを付け……そして、高くそびえる壁を用意してやろうとも。

 

 

 

 ……その前に、ひとまずは。

 ソファで寝かせてきた昌と、テイオーと手を繋いでる俺に気付いて絶句してるウィルに、なんて言い訳するか考えないとなぁ。

 

「ん? ……あっはは! 大変だねぇ、堀野トレーナー!」

「そう思うんなら手を放してくれないか、トウカイテイオーよ」

 

 

 







 対英雄姫対策同盟、成立。
 西欧より来たる世界のバグを相手に、テイオーとブルボンはどこまで抗えるでしょうか。



 次回は一週間以内。ホシノウィルム視点で、待望の模擬レースの話。



(雑記)
 メリークリスマス!(一日遅れ) そして良いお年を! 本作はこれが年内最終投稿となります。
 2024年内に終わるのが目標だったけど間に合わなかったぜ! でも流石に2025年には終わるはずだぜ!
 残すところはジャパンカップ→有マ記念→URAファイナルズ→蛇足編。
 いよいよ終わりが見えて来た本作、最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
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