転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 新年明けましておめでとうございます。
 本作は今年もぽつぽつと投稿していく予定ですので、よろしくお願いします!





模擬レースってレベルじゃねぇぞ!

 

 

 

 凄まじく唐突だけど、愉快な模擬レースメンバーを紹介するぜ!

 

 え? 何の話かって?

 よし、じゃあちょっと面倒だけど先に説明するぜ!

 

 先日、私たちホシノウィルム陣営……というかブルボンちゃんと歩さんは、トウカイテイオー陣営と共同戦線を張ることを決定した。

 

 ジャパンカップに出てくるのは、あの現実世界が生み出してしまったぶっ壊れ枠のウマ娘、アンダースタンディブル。

 勝った私が言うのもなんだけど、あの子を超えるってなると難易度は並大抵のものじゃない。ノッてる時のアンちゃんの勢いは、なんというか神がかってる。……神話とか言われてる私が言うのもなんだけどさ。

 

 さしものトウカイテイオーとはいえ、簡単には勝てないと……いや、違うな。テイオーだからこそ、贔屓目なしに「厳しい」って客観的評価を下せたんだろう。

 歩さん曰く、彼女の方から協力を申し出てきたらしい。

 

 テイオー的には、彼女をぶっ飛ばすために歩さんや私の協力が欲しいらしく……。

 一方歩さんとしては、ブルボンちゃんの成長を加速させようという心積もりがあり。

 そんなこんなで、共同戦線が始まったのだった。

 

 で、そのトレーニング方針の主導権を持ってるのは歩さんで。

 彼は殆ど悩むこともなく、まずは模擬レースを開くことを決定した。

 

 

 

 私の可愛い後輩であり同門の逃げウマ娘であるブルボンちゃんは、今のところ敗北ってものを知らない。マジで人生で無敗レベル。私がトレセンに来た直後と同じような状態だ。

 いきなりレースでそれを体験するよりも、模擬レースで一度現実を知り、懸命に足掻いて足掻いて、それでも届かない壁があることを知った方が反骨心に繋がるだろう……と、歩さんはブルボンちゃんのいないところでこっそりと意図を教えてくれた。

 

 怖~。

 担当ウマ娘を育てるためとはいえ、最も心にキく敗北を作ろうとしてるよこの人。

 ……担当想いすぎる。最高か?

 

 と、まぁ、そういうわけで。

 歩さん主導で模擬レースが開催されることと相成ったのだ。

 

 勿論、その主役はトウカイテイオーとミホノブルボン。

 この2人の今の実力を見る、っていう大義名分で開催されたレースだからね。

 

 ただ、歩さんには他にもいくつかの狙いがあって……。

 

 そのおかげで、なんと! 私もまた、この模擬レースへ出走することが叶ったのであった!

 

 

 

 さて、そんな訳で改めて!

 今回のレースの出走ウマ娘を発表致しましょう!

 

 まずは天下無双のラスボス系転生チートウマ娘、私ことホシノウィルム!

 特徴に関しては……ま、今更語る必要もなかろう!

 

「いえーい私! ひゅーひゅー!」

「え、何、急にどした」

 

 次! テンション上がった私にドン引きしてるのは、最凶系ライバルであり大親友、ナイスネイチャ!

 

 私が西洋に渡って以来陣営ごと姿を隠してた彼女だけど、秋天終了と共に、ついに表舞台へと帰ってきた。

 いつも一緒にお昼食べてたネイチャがいなくなってちょっと寂しくしてたけど──まぁテイオーとか後輩ちゃんに囲まれて食べてたから一人きりってわけじゃなかったけども──、ついにそれからも解放されたわけだ。

 やっぱり親友とお喋りしながらお昼食べるのがいっちばん楽しいからね。最近は昼はネイチャ、夕方は歩さんに挟まれて、幸せな毎日を送っています。えっへっへ。

 

 それに、歩さんも言ってたけど、ネイチャの株は今すんごい勢いで急上昇してる。

 なにせ、有利な舞台であったとはいえ、真正面からあのマックイーンさんを下したんだ。

 もはやこの子の力を疑う人間などどこにもいるわけがない。

 

 そして当然、実力もそれに伴うように向上を見せている。

 歩さんはどうやら見当が付いてるみたいだけど、私からすれば今のネイチャの力の程は推し量ることすらできないんだ。

 そんな子と走れるんだから、こりゃもう最高である。

 

 

 

「久方ぶりの模擬レースに、テンションが急上昇しているものと観察。

 ウィルム先輩はここ暫くの間、洋芝の癖を抜くために、他者との併走が厳しく制限されていました。その反動的な反応であると推定します」

「あはは……まぁ、お姉さまじゃなくても、このレースを前にすれば、やっぱり思うところはあると思うけど」

 

 次いでこの子たち。この秋からついに私たちシニア級と同じ舞台に足を踏み入れることになる、クラシック級の新規新鋭!

 いつも通りの無表情なミホノブルボンに、頬を掻いてカバーしてくれるライスシャワー!

 私の可愛い可愛い後輩ちゃんたちです! いやーん素敵!

 

 まぁでも、言っちゃなんだけど、ブルボンちゃんとは昼に、ライスちゃんとは夜に頻繁に併走してたから、ぶっちゃけ彼女たちとは走り慣れてはいるんだよね。

 でも、でもだ。

 私は彼女たちと、全力で走ったことはあっても、「レース」をしたことはない。

 他のウマ娘たちと共にその命の炎をぶつけ合う、本気の()り合いはしたことがないんだ。

 

 だから、楽しみなんだよねぇ。

 この子たちは、どこまで育ってくれただろう?

 どれだけ私を楽しませてくれるだろう?

 この子たちも──私に、熱をくれるだろうか?

 

 まるで、たわわに実ってくれた果実を口に含む寸前みたいな気分だ。

 つまりはサイコー! たまんないね!

 

 

 

「……おかしいな。ボク、『それぞれの現状を確かめるための試金石、ホシノウィルムの最終調整』って聞いてたんだけど」

 

 続いて困惑の表情で首を傾げるのは、私の最強のライバル、トウカイテイオー!

 今トゥインクルシリーズに残ってる中では、私に並ぶ以上に前に出た2人の中の1人だ!

 

 春天の時のアレは、今でもまぶたに焼き付いてる。

 私の全力を、渾身を、懸命を、その全てを受けてなお抗い、真正面から並んできた怪物。

 私が憧れた物語の主人公、私の推しであった、私の友であるウマ娘の一人。

 

 私の肌感が正しいのなら、彼女の才覚の絶対値は、多分アンちゃんに次ぐレベル。

 ぶっちゃけ今のトゥインクルシリーズでは、テイオーこそがアンちゃん打倒の最大の有力株かな。

 ネイチャは海外の子に対しては情報不足になっちゃって不利、マックイーンさんは国際レースの距離の都合上有利距離に持ち込み辛く、ミーク先輩もネイチャと同じく読みが通らないだろう。

 私? いやまぁ私が出ればそりゃ勝つが。私を除いて、って話ね。

 

 そんなテイオーが、果たして今どこまで伸びているか。

 この数か月の鍛錬の程、この走りで以て確かめさせてもらっちゃおっかな~!

 

 

 

「なんというか……新時代の眩しさに、気後れしてしまいそうになりますわね。2つ3つしか違わないはずなのですが、少し年を取ったような気分です」

「……わかります、私もずっと感じてます。……私なんて、今年で高等部卒業ですし」

 

 更には! マックイーンさんにミーク先輩!

 ツイン尊敬できる先輩コンビがここに参戦!

 

 私が超強いからやや陰に埋もれがちになっちゃってはいるけど、ミーク先輩はぶっ刺されば、マックイーンさんは長距離なら、バチクソに強い相手だ。

 ……まぁ、今日の天気は曇りだし、距離は中距離だけども。

 

 とはいえ、やはり私が先輩でありライバルだと認めるだけのものを持ってる2人だ。

 たとえ本領発揮とはいかないまでも、それでもなお一矢報いる以上のことをやってくれるに違いない。

 

 というかワンチャン私超えてくれないかな。その方が楽しくなっちゃうんだけども。

 

 

 

「あのすみません、私めちゃくちゃ場違いですよね今から帰っていいですかね? いやほんとにこの場に立てるのは光栄なんですよ? でも流石にキツイですってこれは!」

 

 そしてソウリちゃん、もといソウリクロス!

 新時代の大逃げウマ娘が、このレースにも出走決定!

 

 いや実際のところ、確かに彼女の言葉には一理ないでもない。

 単純にスペックで見れば、ソウリちゃんは私たちに勝ててない。どうしても一枚二枚、あるいは三枚劣るというのが現実だ。

 

 でも、単純なスペックだけで決まらないのがウマ娘のレースってもので。

 彼女の開幕領域。アレは実に恐ろしい、レースチェンジャーとすら呼んでいいものだ。

 ぶっちゃけ私やブルボンちゃんのような逃げに分類される脚質のウマ娘にとっては、かなり重大な脅威である。

 

 レースは単純な数値の背比べではなく、高度で複雑なジャンケン。

 彼女というファクターは、レースの環境にかなり大きな変化と刺激を与えてくれる。

 そう、これだからレースってのは楽しいんだよね!

 

 

 

 そして更に、更に更に!

 なんと今回の模擬レース、トゥインクルのいつメンだけではありませんっ!

 

「門を超えた新たな最強の力、一つ前の最強として、見せてもらいマース!」

「先頭の景色……返してもらいます」

 

 なんと! ドリームトロフィーリーグからの刺客!

 エルコンドルパサーことエルちゃん先輩に、サイレンススズカことスズカさんが来襲!!

 

 エルちゃん先輩はどうやら私に興味を持ってくれてたらしく、模擬レースできると聞いて緊急参戦!

 スズカさんは去年私に先頭を譲ってしまったことをとんでもなく引きずってるらしく、こちらも私を狙いに参戦してくださった!

 

 うーん、私恨まれ過ぎ! 人気者は困るな~たはは!

 いや全然冗談にならないメンツすぎる! は~~~最高! えっ今日はドリトロの優駿喰っていいのか!? ああ、しっかり食え……。

 

 

 

 お か わ り も あ る ぞ ! !

 

 なんとなんと、出走ウマ娘のラッシュはこれだけじゃ終わらない!

 というかむしろここからが本題! てか残る2人のネームバリューがすごすぎて私以外の全員が霞んじゃうかもしれないレベル!!

 

「ふ……決河之勢。年甲斐もなく、猛る心を留められないな」

「トレーナーから全力で勝ってこいと言われている。今日はよろしく頼む」

 

 なんと! あの! レジェンド!!

 

 初代無敗三冠、累計七冠! トゥインクルシリーズ16戦13勝! 現ドリームトロフィー最強のウマ娘と名高い永遠の皇帝、シンボリルドルフ先輩!!

 

 そして笠松から来たる刺客、日本のウマ娘のレース界隈に一大ブームを巻き起こした立役者、芦毛の怪物オグリキャップ先輩が参戦だぁ~~!!!

 

 

 

「いや、何この修羅すぎるメンバー!?」

「なんで一瞬で冷静に戻ってんの……」

 

 冷静に考えると、ちょっと、いやとんでもなく凄まじいメンツだった。

 

 私、ネイチャ、テイオー。

 これはいい。いつものズッ友三等星である。むしろ呼ばない方がおかしいまである。

 

 ブルボンちゃん、ライスちゃん、ソウリちゃん。

 これもいい。歩さんが誘いやすい強力な後輩ちゃんたちだ。ブルボンちゃんにとっては本題の一人だし。

 

 マックイーンさん、ミーク先輩。

 ここまで揃えたらトゥインクルシリーズ最強決定戦じゃんと思わなくもないけど、まぁ確かに呼びたい気持ちはわかる。強敵だしね。

 

 エルちゃんパイセンとスズカさん。

 どうした? トゥインクルシリーズじゃないんだけどその先輩方? 一体いつからここは無制限級レースになったんですか?

 

 ルドルフ先輩とオグリ先輩。

 むしろなんで呼べた? 現日本最強最高のレジェンド二人組と言っても過言じゃないんですけど? なんなら私半年前にルドルフ先輩にボコられたんですが?

 

 改めて考えると、なんだこの夢の12R!?

 模擬じゃなくてガチのレースでやろうよこれ! ねぇ! 東京レース場2400で雌雄決しない!? スペ先輩とかスカイ先輩も呼んでさぁ! あとアンちゃんとかウィッチちゃんにネディちゃん辺りも招待してさぁ!!

 

 いやわかるよ、わかる。流石にそれは欲張りすぎ。

 でもそんな夢見ちゃうくらいに豪勢なんだよこの模擬レース!!

 

「……私のトレーナーの人脈ってすげー!」

「それはそう。……いや、アンタの人脈って側面が強い気もするけどね……。

 純粋に堀野トレーナーさんの人脈って言えるのは、エル先輩とオグリ先輩だけじゃない?」

「その2人を呼べる時点で常識的に考えてとんでもなくすごいが? 異次元だが?」

「それもそう。……え、待って、今ウィルに常識説かれた私? なんかショック」

 

 エル先輩は、3年前に世界最強とまで謳われたターフの怪鳥。

 オグリ先輩なんて、ちょっと前の世代に遡るけど、私に次いでトゥインクルシリーズを盛り上げたっていう伝説のスターウマ娘だ。

 

 この2人を呼べるトレーナーなんて、日本にそうはいまい。

 いや、そうはっていうか、他にはいないでしょ多分。

 むしろ歩さんはいつオグリ先輩陣営への接点持ったんだよ、私全く知らなかったんですが。

 

 しかも何が怖いって、そのトレーナーがまだ職に就いて4年目ってところなんだけどね。

 普通こういうのって職歴が伸びる毎にコネとか人望が増していくんじゃないの? なんで4年目でカンストレベルになってるのこの人?

 

 ……歩さん、10年後にはどんなトレーナーさんになってるんだろうな。

 既にカンストしてる能力と人望が今より増すとか……ファンの間ではレジェンド化してそう。

 プリプロ*1の最強転生トレーナーになりそう。まぁもうなってるけど。最新版の歩さんと私、だいぶぶっ壊れた性能してるらしいからなぁ……。

 

 まぁ客観的に言って、私と歩さんは史上最強のコンビである。

 無敗三冠獲って、凱旋門獲って、前回記録から1.5倍となるG1レース10勝の圧倒的ホルダーだ。

 そりゃまぁ? 単純な格で言うなら? もうルドルフ先輩やオグリ先輩を抜いちゃってるかもしれない。

 

 けど、だからって3日前に出したばっかりの模擬レース企画にこんなメンツが集まるのは、ちょっととんでもないなって思うんですよ私。

 どう思いますか、そこの寝不足で顔が真っ白になってる系トレーナー。ホントもうちょっと寝てくださいね、もう一人だけの体じゃないんですからねあなたね。

 

 

 

 ……さて。

 ともあれ、である。

 

 そもそもこの模擬レースの目的は、歩さん曰く、大きく分けて3つだったはずだ。

 1、トウカイテイオーのレース中のポテンシャルを実測する。

 2、ブルボンちゃんの現在の実力と、シニア級にどこまで抗えるかを知っておく。

 3、私の野芝への最終調整。

 

 ……これ、このメンツでできる?

 

 3はいい。

 今の私がガチで本気を出すには、やっぱりテイオー級のウマ娘がたくさんいた方がいい。

 そういう意味じゃ、絶対ハナ切るウーマンとなったソウリちゃんや絶対先頭譲らないウーマンなスズカ先輩、私を差し切ってくれそうな子が大量に出るこの模擬レースは、絶好の機会と言ってもいいと思う。

 

 1。これも、まぁ、いいかな。

 テイオーは性質的に、そのレースが厳しければ厳しい程伸びてくるタイプっぽい。

 そういう意味じゃ、これ程キツくて彼女の伸び代になるレースはそうない。そうないっていうか、多分ドリームトロフィーに上がるまでは二度とない。

 テイオーのポテンシャルを測るには、確かにちょうどいいかもしれない。本番以上に引き出しちゃったらどうしようって感じだけどさ。

 

 問題は2。ホントにいけるこれ?

 

 いやさ、確かに私も思うよ? ブルボンちゃんは一回ボコられた方がいいかなーって。

 私も、こう言っちゃなんだけど、去年の有で一回負けたのは良い経験だったかもな、なんて今になって思いますよ。

 というかそれ以前に、最初の模擬レース。シッソウビーム、だったか。あの栗毛の子にボコられたからこそ、素直にトレーナーの話を聞ける私になったわけで。

 ウマ娘ってどっかで負けた方が最終的には強くなるんじゃないかなー、とさえ思うくらいだ。

 

 勝利を当然のものと思えば、走る気力なんてなくなる。

 だからこそ一度打ち負かされることで、ウマ娘はより強くなることもある。

 どこぞの英雄姫ちゃんなんか、その典型だろう。この前会った時なんか、存在圧が俄然強くなってたし。

 

 けどさ。

 ちょっとこれ、流石にブルボンちゃんに厳しすぎない?

 

 私は、多分アレだ、幼少期の色々で形成された「寒」モードと「熱」モードのスイッチの切れ替えができるからかもしれないけど……。

 自分の中の、魂の熱? みたいなもののコントロール、そう難しくないんだよね。

 溜めに溜めてカチッとした時のカタルシスがめちゃくちゃ気持ち良いので、そのために我慢できる。というかモードがオートでコントロールしてくれる、って感じだ。

 

 けど、ブルボンちゃんは私とは違う。

 熱が溜め込めない……というか、その限界量が私よりずっと低い。

 

 そんなあの子にとって、開幕から領域カッ飛ばして掛からせに来るソウリちゃんは天敵だし。

 凄まじいオーラと走りで前を駆けるスズカさんも天敵だし。

 純粋にほぼ上位互換みたいな走りができる私も天敵である。

 3人だよ3人、流石に厳しくないその数は?

 

 その上、後ろからは地獄みたいなメンツが迫ってくる。

 テイオーにマックイーンさん。このフィジカルメンツの時点でだいぶキツい。

 そこにネイチャとミーク先輩の策謀ペア。これが本当にキツい。

 そして修羅のエルちゃんルドルフ先輩オグリ先輩。地獄そのもの。

 

 いや、誤解してほしくないんだけどさ、私だって言ったよ?

 『流石にブルボンちゃんとはいえ厳しくないです? まだあの子クラシック級ですよ? 最悪ポッキリいきませんか? 心とか』って。

 そしたらさ、歩さんぽかーんってして。

 『は? 俺の担当がこの程度の苦難で折れるわけないが?』ってさ。

 

 親バ鹿ならぬトレーナーバ鹿だった。

 いや、逆か? 千尋の谷に突き落とす鬼畜か?

 

 まぁ歩さんが正しいっていうんなら、それが正しいで間違いない。

 全てはブルボンちゃんのためだとは思うけどさぁ……あの鬼め。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 知り合いの先輩たちに挨拶回り兼喧嘩の売買をして回ったり、同期の間で「私が勝つ!」「ボクが勝つ!」「アタシが勝つ!」と宣言し合ったり、ジャブとして後輩ちゃんに圧をかけたり。

 そんなことをしてる内に、模擬レースの開始が迫りつつあった。

 

 主催たる歩さんが関係各所に話を付けている景色を見ながら……ちらりと、周りに視線を巡らせる。

 ターフの外ラチ沿い、階段、通路に、それから校舎の窓に、屋上まで。

 私たちは今、すさまじい数のウマ娘やトレーナーから見られている。

 

 そりゃそうだ、こんなレースを見逃すような子は、そもそも中央トレセンには来ないだろう。

 私だって当事者じゃなきゃ見たいわ。激アツマッチとかそんな次元じゃない、一世一代の大勝負。ちょっと早めのウィンタードリームトロフィーみたいなもので。

 

 トレセンのウマ娘、トレーナー、学園職員、警備員、わざわざ学園に迎えた記者にメディア各所。

 多分、合計で3000人くらいいるんじゃないだろうか。

 G1レースの入場者数が最大10万人くらいだから、その30分の1程度になる……ん、だけど、その密度と熱気は、それに並ぶ程だ。

 

 皆がこのレースの……いくら模擬であって本番ではないとはいえ、シンボリルドルフの、オグリキャップの、サイレンススズカの、ホシノウィルムの、そしてミホノブルボンのレースを楽しみに待ってくれている。

 歴代のアイドルホース、スターウマ娘、そして最強。

 オタクでなくったって、それがぶつかり合う展開には興味をそそられてしまうだろう。

 

 そして……私たちG1ウマ娘は、今更その視線に動揺したりするようなタマではない。

 ……あ、いや、うん。ソウリちゃんはまだ慣れないっぽいけども。

 それでも、殆ど全員が目の前のレースを楽しみ、そしてそこから更なる力を得ようと闘志を燃やしていた。

 

 

 

 で、そんな中。

 

「ウィルムちゃん」

 

 軽く体を伸ばしていた私に、最後に声をかけてきたのは……。

 エルちゃんこと、エルコンドルパサー先輩だった。

 

 今日も今日とて見慣れないマスクを着けた彼女は、私が記憶しているアニメでの姿より幾分か成長した、女性らしい姿をしている。

 アニメでは、とにかく活気があって明るい印象が強かった彼女だけど……。

 何気にこの世界では、当時世界最強とまで呼ばれた、隔絶した強者だったりする。

 だからこそ、声をかけられた私は、緊張……はしないにしろ、どう来るかと若干身構えちゃったんだけど。

 

 私のあらゆる想像を振り切って、彼女は……がばっと、頭を下げた。

 

「ありがとうございました!」

「んえ……あ、門のことですか」

「はい!」

 

 エルちゃん先輩は3年前、凱旋門賞に挑み……敗れた。

 先頭のモンジューって子からたったの半バ身差、3着までに6バ身もの差を開けた、本当の惜敗だったという。

 

 彼女は顔を上げ、その顔を曇らせる。

 

「あの時……凱旋門賞で、モンジューに競り負けた時。

 アタシは、目の前で、夢へのゲートが閉まったように感じました。

 全てを振り絞って、渾身の力で走って、全身全霊を尽くして……それなのに届かなくて。

 悔しくて、悔しくて、悔しくて……つい先月までは時々夢に見ちゃうくらい、それが心残りだった」

 

 ……そうか。

 

 彼女は私とは違うんだな、って思う。

 私は……ホシノウィルムと堀野歩は、そこまでレースでの勝ち負けに必死ではない。

 勿論レースには渾身の力を以て挑むけど……負けたとしたら、「くっそー強い! おめでとう! 次は勝つ!」という感じで落ち着くもの。

 

 あるいはそれは、力を持つからなのかもしれない。

 心のどこかで、レースには勝って当然だと思ってるからかもしれない。

 私たちは、勝ちよりも安全、そして未来を取ろうとするところがある……というか、そうしようって意思統一している。

 

 けれど、当然と言うべきか。

 人生で二度挑めるとも限らない、世界最高峰。

 それを焦がれる程に求めてしまう、そんなウマ娘もいるわけで。

 

 その気持ちもまた……多分、理解できるかな。

 

「アタシはあの時、日本の夢を背負ってた。日本のエルコンドルパサーだった。

 だから、エルが負けることは日本が負けることで……アタシの夢に夢を乗せてくれた全てのファンへの裏切りだった。

 だからこそ……心底、悔しかったんデス」

 

 ウマ娘は、夢を背負って走る。歩さんが時々言う、そして私が常々実感することだ。

 私たちは、勝ってほしい、活躍してほしいという期待を受けて走る。

 そんなファンの声が、応援が、想いが、私たちの力になる。あと一歩を押し込んでくれる。

 けれど、だからこそ……敗北とは即ち、自分のものであると同時、ファン全てのものでもある。

 

 海外遠征し、凱旋門賞に出走するのは、日本全ての夢を背負ってのものであり。

 そこで負けるということは、日本全ての夢を裏切ることでもあるんだ。

 

「……でも、その未練を、アナタが晴らしてくれた」

 

 ニコリ、と。

 エルちゃん先輩は、彼女らしい、快活な笑みを浮かべた。

 

「正直、自分の力でそれを晴らしたかった、という思いはあります。

 でも、私にはそれができなくて……。

 けれど! あなたが、日本のウマ娘が、それを叶えた!

 だから、ありがとうございました。……あの日の夢を、終わらせてくれて」

 

 その声には、どこか吹っ切れたような響きがあった。

 私が凱旋門賞を征した、あの日。

 エルちゃん先輩は、一つの夢を終わらせ……新しい道に歩き出したのかもしれない。

 

 だって、そうでもなければ、こんなに良い顔はしないだろう。

 

「けどそれはそれとして、やっぱりムカつくのは事実デース! 私が一番最初に凱旋門賞に勝ちたかったので!

 だから……大人げなく全力で行きます。覚悟、してくださいね!」

 

 怪鳥。

 ああ、確かに、これは鳥だ。それも猛禽の類だ。

 

 私が食べた美味しいご飯を、私ごと喰らってやろうと襲い掛かってくる、恐るべき鳥である。

 

「は」

 

 私は思わず、笑ってしまった。

 嬉しいなぁ……走る前から熱を貰えるなんて、それほど嬉しいこともない。

 

 だからこそ。

 

 撃ち落してやろう、その誇り。

 

「こちらこそ、全身全霊で叩き潰すので、覚悟をしてくださいね。……()最強のウマ娘さん」

 

 

 

*1
実況! プリティープロレース







 去年の有に並ぶ修羅かもしれない模擬レース。
 本当は1話で終わるつもりだったけどメンバー紹介の時点で4000字近くいったの見て無理を悟ったので、決着は次回!



 次回は一週間後、トレーナー視点で勝てる戦い、負ける戦いの話。
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