転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 覚悟はいいか? 私はできてる。





気持ち良く走る。後輩ちゃんも統制する。両方やらなくっちゃあならないのが転生ウマ娘の辛いところだな。

 

 

 

 シニア級も11月に入ってしばらく。

 いよいよ私ことホシノウィルムの本格化が終わりかけている。

 

 ウマ娘の本格化ってヤツは本当に不思議なもので、この期間に入る前にはなんとなく「あー、そろそろ来るな」ってわかるし、終わる前にも「そろそろ終わるな」っていうのがわかる。

 トレセンに入る前に感じていた始まりのそれに似た、終わりの予兆。それを最近の私は嗅ぎ取っていた。

 

 歩さん曰く、本格化は終盤に近付けば近づく程、身体能力の向上効率が上がるものらしい。

 そんなわけで最近の私はもっぱら、技術の習得ではなく基礎能力の向上に努めている。

 自分で言うのもなんだけど、最近の我らが陣営は、ブルボンちゃんも併せてただひたすらに走り続けている、とんでもない脳筋プレイ集団であった。

 

 ちなみに歩さん曰く、こうなることを見越して技術はクラシック級までに詰め込んでいた、とのことだ。

 ……この人、ホント担当の育成淀みないなーって思うよ。一応、私が初めての担当だよね? ここまでスムーズにやれるって普通なの?

 天才ってすごいよね、ホント。まぁ本人は絶対自分を天才って認めないけども。

 

 しかし、そっか……そろそろトレセンに入って3年。私の中等部ライフも終わるんだね。

 中等部終盤となると、普通は高校受験に頭を痛める頃なんだけど……。

 トレセンは中高一貫。前世と違ってこれを考える必要がないのはかなり気が楽だ。

 ……というか、競走ウマ娘はレースで活躍しさえすれば推薦で大学に入れるので、この人生ではもう受験ってモノに関わることはないかもしれないけども。

 

 改めて考えても、短くて長い3年間だった。

 前世まで含めても最も濃密で、最もドラマチックで、最も楽しい毎日。

 トレセン学園に入らないとこの日々は手に入らなかったんだよなぁ、とぼんやり思う。

 

 ……うん、本当に良かったよ、この学校に来て。あるいは、この世界に生まれて。

 『私』は、ホシノウィルムは、とてもとても幸福だった。

 

 

 

 っとと。

 少し感慨に浸ってしまったけれども、そこは本題ではなかった。

 

 そもそもこういう感慨に浸るのは、現役を引退した時、あるいはずっと先のことでいいのだ。

 なにせ私はトゥインクルでもドリームトロフィーでも、あるいはその先の人生でも、まだまだ走るんだから。未来に続く道はとんでもなく長いのです。

 

 話はちょっと戻って、本格化もそろそろ終わるってとこ。

 最近はひたすらに基礎鍛錬を繰り返すことが多くて、そうなるとスキル習得のための座学や訓練に比べて、消耗する体力の量が多くなる。

 そうなると私の大好きな自主トレーニングも、流石に軽めのものにせざるを得ないわけだ。

 まぁ自主トレって言ってもただ走るだけだし、そのペースだって普段のトレーニングと比べればずっと緩い、ジョギングの一歩上くらいのもの。元よりそこまで苛烈じゃないんだけどね。

 

 そんな普段以上にペースを落とすとなると……正直、一人じゃちょっと退屈になっちゃう。

 私が自主トレに求めるのは、単純な走りの楽しさと心から来る熱だ。前者が緩くなっちゃうのなら後者の方、つまりは誰かと走る楽しさを取るべきだろう。

 歩さんだって「ロジックは正直よくわからんけども、トレーニングは複数人と一緒にやった方が効率が良い」って言ってたし、せっかくなら誰かと一緒に走りたいんだよね。

 

 というわけでいつも通り、もはや夜の自主トレパートナーと呼んでも過言ではないライスちゃんを誘って、秒でOKをもらい。

 それに次いで、寮のエントランスで暇そうにテレビを見てたソウリちゃんを誘ってみた。

 

「ふえっ、先輩と自主トレ!? いっ、行きます!」

 

 二つ返事である。嬉しい。

 かわいい後輩ちゃんと絡むためなら史上最強の権威もぶんぶん振るっていく所存だ。

 

 

 

 ……と、まぁ、そこまでは良かった。

 

 いや別に、ここから何かが悪くなったとかではないんだけども……。

 ちょっとばかり、予想外の方向に行ってしまったのは間違いない。

 

 というのも、多分ソウリちゃんからなんだろうけど、どうやら私が自主トレという名の併走相手を募集中らしいってことがバレてしまったらしい。

 結果として……。

 

「先輩っ! わ、私もいいですか!? 自主トレ!!」

「よ、夜空いてます! 頑張って付いて行くのでどうですか!?」

「あの、ソウリから話聞いて……末脚には自信があるんですけど、一緒に行っては駄目、でしょうか?」

 

 ……他にも3人くらい、後輩ちゃんたちが付いてくることになってしまった。

 

 当然の話だけども、後輩ちゃんと触れ合うのは楽しい。

 頑張ってる後輩ちゃんは愛おしいし、そんな子の役に立てるのは嬉しい。それに誰かに慕われるのは承認欲求が満たされてウハウハ、それが将来の強敵の卵であればグヘヘである。

 いわゆる一挙両得、あるいはウィンウィンというヤツで、私としては拒む理由なんてない。

 

 ……が、しかし、物事には上限ってものがあるわけで。

 

「うーん、6人か……」

 

 実のところ、一般道のウマ娘用レーンは、あまり横に広くない。

 トレセン近辺の比較的広い場所ですら、精々横に並べるのは3人まで。これが4人となるとかなりギチギチ、下手したら車道にはみ出たりしかねないくらいだ。

 

 レーンは左側通行が徹底されてるから、向こうから逆行でもしてこない限りは対抗バと衝突、みたいなことは起こり得ないけど……。

 6人でいくとなれば……そうだね、多分2列3人を徹底しないと、こっち側のレーンを独占する形になってしまうだろう。

 勿論、これはあんまりマナーが良い行為とは言えない。ペース早めの子を妨害したりすることになるしね。

 

 転生ウマ娘である私と違って、彼女たちは普通の思春期ガール。思わず周りの迷惑を考えずに行動を取る、なんてことも普通に起こり得る。

 仮に6人で出るとするなら、誰かがしっかりと統制を取らなきゃいけないだろう。

 

「……うし、頑張るかー」

 

 これでも私は後輩ちゃんたちから慕われている。

 まあこれでも世界一強いし、同陣営のブルボンちゃんを除けば、後輩ちゃんたちの前ではちゃんとカッコ付けてるしね。

 私の言うことならちゃんと聞いてくれるハズ。多分。

 

 走りながら色々と冷静に考えたり、各々の位置を把握して調整したりするのも、それはそれで良い練習になるだろう。

 うん、たまにはこういうのも悪くないよね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなわけで小一時間後、私たちはトレセン寮を出発した。

 

「はーい、それじゃ2列に並んで、隊列崩さないでねー。

 気分悪くなったり脚に違和感が出たら、周りに合わせるとか考えず即座に言うこと。それから疲れてもう無理ってなったらこれもちゃんと言うこと。おっけー?」

「「「はい!」」」

 

 うおっ元気良すぎ。

 

 寮の玄関で私を取り囲む可愛い後輩ちゃんたちはやる気まんまんだ。

 ライスちゃんもそうだけど、ただのランニングなんだからそこまで意気込む必要はないんだけどね。

 

 まぁでも、状況を考えるとやむなしか。

 ……うーん、やっぱり一旦クールダウンしてもらうというか、歯に衣着せず言えば身の程を知ってもらわないと、はしゃぎすぎて危険かもな。

 

「あんまり入れ込まないでねー。ただのランニング、ただの自主トレだからねー」

「頑張ります!」

「絶対遅れません!」

「ついてきます!」

 

 話聞いてるこの子たち?

 あとそこ、ライスちゃん。悪ノリしないでね? 君は3日に1日くらいは私と走ってるでしょうに。

 

「……うん、まぁ、いいか。それじゃ出発!」

 

 どうせそんなに持たないしね、この威勢。

 

 

 

 トレセン学園の正門を出て、車道に併設されたウマ娘用レーンを走ること数十分。

 比較的広くて整備された道を選んでとっとことっとこ走っていると……。

 

「むっ……無理ぃー……」

 

 早速、脱落者が出始めた。

 そら(G1級の子のペースにG3とかオープン級の子が併せて走ってれば)そう(なる)よ。

 

「はーい、それじゃもうちょっと行ったところにある公園で一旦休憩入るよー。みんなもう少し頑張ってー。

 あ、ニルちゃんちょっと右出すぎ。車道に出かけてるから足取り意識してね」

「っ、は、はい!」

 

 私は一団に一声入れつつ、耳で後方の音を探る。

 走っている時限定ではあるが、私めっちゃ耳が良いんだよね。マサイ族もビックリ。いや別にマサイ族は耳良くないか?

 どったんばったん大騒ぎなレース中でさえ10バ身までは足音を聞き分けられるんだ。

 ただのジョギングであればなおのこと、5人程度の足音、そこから各々の余裕を探るくらいは簡単簡単。

 

 それぞれの様子は……。

 まずライスちゃんは、やっぱり余裕綽々。流石は生粋のステイヤー、疲労の欠片も見られず、平然と私に付いてきている。

 次に余裕がありそうなのはソウリちゃんだ。まだまだ走れるという感じだけど、足取りから若干だけど余裕はなくなりつつあるっぽい。流石はG1級ウマ娘だね。

 で、残り3人は似たりよったりで、かなりヘトヘトだ。やっぱりグレードの差は大きいというところか。

 

 頑張ると言ってはいたし、精神的にもやる気満々ではあったんだろうけど、やっぱり肉体的な限界というのはどうしようもない。精神論だけでレースに勝てたらそれはもう根性バトルだ。

 畢竟、ウマ娘の走りの80%以上はフィジカルで決まるのである。技術や領域で埋められるのは、残りの20%に過ぎない。

 ……まぁ、この20%がめちゃくちゃ大きいから、結局G1はメンタルバトルとか異能力バトルとか後出しジャンケンになりがちなんだけどさ。

 

 

 

 さて、ゆっくりとペースを落としながら、小さな公園に到着。

 へろへろになった後輩ちゃんたちをベンチに座らせ、ライスちゃんやソウリちゃんと協力して介抱する。

 

「はいこれ、スポドリ飲んでね。汗すごいからタオルも」

「す……すみません……もっと、頑張るつもりで……ここまでとは、思ってなくて……」

「大丈夫だよ、落ち着いて。もうちょっと負荷落そうか、ゆっくりのランニングもそれはそれで良いトレーニングになるからね」

 

 やっぱり実際に走って見れば、ウマ娘の才能や実力の差っていうのは顕著に現れてしまう。いわゆる残酷な現実、というヤツだ。

 それを痛感したんだろう、目の前の黒鹿毛の後輩ちゃんは、露骨に落ち込んでしまっている。

 

 ……ごめんね、ディーズちゃん。

 私には、今の君の惨めさとか辛さ、想像はできても理解はできない。

 

 ホシノウィルムは、『私』であった頃から、基本的に強者の側だった。

 いわゆる「要領が良い」性質の人間であり、ウマ娘だったんだろう。大体のことはやってやれないことはなく、本気で挑んで叶わないっていう挫折を味わったことは滅多になかった。

 だから本当の意味では、圧倒的な力不足を味わったことも、自分の限界を悟ったこともないんだと思う。

 

 そんな私には、きっと彼女に同情する権利もない。

 だから、汗に塗れた彼女の髪をくしゃっと撫で、言った。

 

「落ち着いたらまた頑張ろう。付き合うよ」

「……はい」

 

 うん、流石だね。折れてない。

 彼女だってクラシック級11月の……未勝利という足切りを越えてトレセンに残っているウマ娘だ。

 その身も心も洗練され、磨き上げられている。

 

「ソウリ……げほっ、本当に、強くなったね……」

「うん。すっごくすっごく、頑張ったからね!」

「ライスちゃん、すごいな……本当に……ちょっと、ホシノウィルム先輩みたい」

「あ、ありがとう……そうだったら嬉しいな」

 

 私の横ではソウリちゃんとライスちゃんも同じく、後輩ちゃんたちにスポドリやタオルを渡してる。

 残る2人、ニルちゃんにファミアちゃんも、悔しがりはしても折れてはない。

 

 ……報われてほしいな、彼女たちの頑張りも。

 どうかその競走人生に、祝福あらんことを。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、彼女たちが落ち着くまでは一旦の休憩だ。

 夜の迫る夕方、私たちはやや寒くなりつつある公園で、軽い柔軟なんかをしながら雑談をしていく。

 

「そうだね、大阪杯の時は……うん、テイオーがすごすぎたよ。

 私も逃げウマ娘だからね、他の子の熱に浮かされちゃうってことがあるんだよ。特に終盤、領域を開いて来られるとすごくてね……」

 

 もう半年前にもなる大阪杯。

 ちょっとだけトラウマにもなってるあの話をすると、おおっと後輩ちゃんズは盛り上がってくれた。

 とは言っても、注目されたのは私のトラウマゲロではなく、領域って言葉の方だ。……当たり前か。

 

「領域……やっぱりちょっと憧れちゃいます! ライスちゃんとソウリって、もう開いてるんだよね?」

「う、うん」

「まぁ、一応?」

「え、歯切れ悪くない?」

「いやぁ……お姉さまに比べると、ライスのってすごく……なんというか、鈍いっていうか、脆いっていうか、軽いっていうか」

「わかる。あの模擬レースのウィルム先輩とかドリトロの先輩の領域、こっちのが簡単に跳ね除けられるような存在感があったよね。まぁ私はそもそも領域開けなかったけど……」

「そ、そういうものなんだ」

 

 ライスちゃんとソウリちゃんはちょっと苦い顔で頷く。

 

 先日のドリトロ混合の模擬レースは、彼女たちに強い敗北感をもたらしたらしい。

 いやまぁ、私にもだいぶ強い敗北感をもたらしましたが。なにせ人生初の三着ですし。

 

 とはいえ、今の私は頼れる先輩。無様な姿を見せるわけにはいきませんとも。

 

「領域にも練度ってものがあるんだよ。己の内面世界を、走りを、魂を磨き上げる。それが私たちを次なる段階へと押し上げるんだ。

 ちなみに私のトレーナーの判断だと、私の領域のレベルは5、ソウリちゃんやライスちゃんは1だね」

「4の差……これって大きいんでしょうか?」

「まぁ、大きいね。これだけ差が開いてたら、もう何やっても勝てないだろうってくらいに」

 

 大阪杯でぶつかったテイオー。

 あの子はレースの中で自らの領域の精度を上げ、なおかつ昇華まで果たしたわけだけど……。

 それは私とマックイーン先輩を、適性の差をすら越えて追い詰めた。

 

 さっき「領域や技術は走りを20%しか左右しない」って言ったけど、逆に言えば20%はここで決まる。

 私を80%だとすれば、テイオーの身体スペックは多分76とか77%とかそんなんだろう。そこにあるのは3から4っていう簡単に覆し得る差でしかなく、だからこそ領域の昇華によって追い詰められてしまったわけだ。

 

 そこまで大きく走りを、レースを左右する領域が、レベル4も開いてるんだ。勝つのはかなり厳しい。

 ソースは私。6月の時も先日の時も、ドリトロの先輩の領域はすごすぎた……。

 まぁそれでも僅差までは迫れたんだけども。

 

 というかそもそも、私は歩さんをしてダントツで世界最高の身体能力を持っていると言わしめる程だ。

 領域や技術の面で上回らない限り、ホシノウィルムを倒すことはできないだろう。

 

 

 

 そんなことを考えていた私に、後輩ちゃんからの疑問が届く。

 

「ち、ちなみにシンボリルドルフさんの領域ってどれくらい……?」

「ん、ルドルフさん? ええと、歩さんなんて言ってたかな……確か、10と10と9?」

 

 私の返答に対する反応はそれぞれ。

 

「…………?」

「えと、あの、ん?」

「3つ……ああ、3つ持ってて、1つ使ったみたいな?」

 

 ディーズちゃん、ニルちゃん、ファミアちゃんの3人は困惑の表情。

 

「ああ、やっぱりあれって、見間違いとかじゃなくて……」

「ほ、本当に……3つ、同時に……!」

 

 ソウリちゃんとライスちゃんは……まぁ、絶望と驚愕って感じだ。

 

 さもありなん。

 私も宝塚記念の後、アレを初めて見た時は呆れたもんだ。

 

「ルドルフ先輩、元々領域を2つ同時に展開できたんだよね。そこから更に成長して今は3つ。すごいよね」

 

 まぁ私も2つまでは同時に使えるんだけど……あれはちょっとコスパが悪いってことで、改善予定。ここで漏らすこともあるまい。

 

「…………??? 同時に……領域を同時に?」

「あ、え? じゃあドリームトロフィーでの後半のよくわからないアレって……え?」

「領域って、すごいウマ娘の切り札って、G1ウマ娘がようやく開けるものって……それを3枚?」

「……あー、ヤバ、久しぶりに心折れそう。この世界、天井高すぎ……」

「…………ライスも、もっともっとついていけば、2枚……おねえさまに追いつくには、それくらいしないと勝てないかも……」

 

 わはは、後輩ちゃんたちの戸惑いの声がなんとも新鮮。精々戸惑うがよいわ。

 ……この子たちならそれでも立ち上がるって確信してるからこそできることだけどね、うん。

 

 しかし、遥か上を知ればすぐにそこを目指そうとするライスちゃんは、もうカッチリキッカリと優駿メンタルだね。

 みんなも早くこっちにおいで。こっちの戦いは甘いぞ~?

 

 

 

「と、ところで先輩っ! 今度のジャパンカップはどうです?」

「ん?」

 

 いつものスポドリごくごくしてた私は、後輩ちゃんの現実逃避気味な話題転換に目をぱちくりする。

 ……あー、そっか、気になるか私の推測。

 

 ぶっちゃけ私のレース予測は、贔屓目込みでも程々の精度って感じだ。

 というか、陣営に観察眼最強なチート級トレーナーさんがいるので、とてもじゃないけど驕り高ぶることができない。

 そもそも私、もう歩さんから大体の予測を聞いてるので、それをそのまま話すことになっちゃうけど。

 

 そもそもジャパンカップの予測って話していいんだっけ?

 一応、ブルボンちゃんの走りってあんまり戦略とか関係ないタイプだけど……。

 

 ……あ、いや、そういう感じでもないか、この視線は。

 単純にあの子の話が聞きたいんだろう。

 

「うん、強いよ、アンちゃんは。ていうか多分、世界で私の次に強い」

「おお~!!」

 

 何がおお……いや、これはおおか。

 

 私が凱旋門賞で戦った、西洋の英雄姫、アンダースタンディブル。

 あの子は正真正銘、ホシノウィルムの次に「強い」ウマ娘だろう。

 なにせたった2年で私に追いつきかけてるし、単純な地力とか才能で見たら私以上かもしれない。

 まぁ私には世界最高のトレーナーがバックに付いてるし、絶対負けないけどね。

 

 ただ、アンちゃんの強さって、あんまり普通の人やウマ娘には伝わり辛いかなぁとも思うんだよね……。

 

 あの子は強いけど、ブルボンちゃんと同じように、周りのウマ娘にかなり強く影響されるタイプだ。

 それも、強敵の気配を感じると掛かってしまうブルボンちゃんとは真逆で、強敵の気配を感じなければ本領を発揮できないっていうピーキーな性能。

 だからこそ、本来なら凱旋門賞みたいな最高峰の戦いでのみ、あの子は正真正銘の全力を出すことができる……んだけど、ネディリカの奮闘によりそれも阻害されてしまったわけで。

 

 多分、あの子のヤバさを本当の意味で理解してるのは、私みたいに直接ぶつかったウマ娘か、それを感じ取れるくらいに才気のあるテイオーみたいなウマ娘、あるいは計算からそれを算出できる歩さんとかネイチャみたいなタイプだけ。

 ……要は、上位層は大体理解できてるわけだけども。

 

 一方で、3人の後輩ちゃんのような、オープンからG3級の子にとってはどうだろう。

 アンちゃんは確かに成績こそ良いけど、必ずしもどのレースも圧勝ではなかったし凱旋門賞では勝てなかったわけだし、「よくわかんないけどめちゃくちゃ強いらしいウマ娘」でしかないのかもしれない。

 というかなんなら、ソウリちゃんも微妙に掴みかねてるような雰囲気だ。

 

 ……まぁ、それと、アレだ。

 いつも圧勝してて死ぬ程G1勝ちまくって無敗三冠も凱旋門も獲った、私っていう比較対象がいるからね。

 正直ちょっと霞んで見えちゃうよね、うん。

 

 

 

 一方でライスちゃんは、難しそうな顔。

 一点集中してこそであれ、彼女はブルボンちゃんにフィジカルで迫れる逸材だ。

 アンちゃんの力をある程度理解できてしまったのかもしれない。

 ……なんかSANチェックの後のアイデアみたいだな、これ。

 

 よし、ちょっと聞いてみよ。

 

「ライスちゃんなら、アンちゃんをどう倒す?」

 

 唐突に問いかけられた彼女は、一度大きく目を見開き、慌ててから……努めて落ち着いて考えながら、言う。

 

「……ええと、長距離前提で、アンダースタンディブルさんがバ群に埋没……いえ、ある程度突出してたら……誰かの陰に隠れて、第三コーナー……でも、最終直線で競うと……それよりは短い直線で一気に差し切って……。

 ご、ごめんなさい……ちょっと、想像では難しいです」

「うん、まぁそうなるね」

 

 私はむしろ、求めていた答えをもらって頷いた。

 

 アンダースタンディブルをどう倒すか。

 これに即答できるのは、あの子を知らないウマ娘だけだ。

 

 何をしたってそれを超えてくる。

 どんな作戦を取ったって上回ってくる。

 それが英雄姫。西洋の最強だ。

 

 いわば「テイオーに必ず勝てる戦法を教えてください」って言ってるようなもので、この問いには答えなんてありはしない。

 その場その場で走りと策の比べ合いをし、純粋に相手を上回る。

 すんごい脳筋に聞こえるかもしれないけど、これだけが答えである。

 

「ハッキリ言えば、アンちゃんは純粋な強さで言えば、私以外のどの日本のウマ娘より強いと思う。

 だから、いくら私の最強のライバルのテイオーだって、いくら新時代の最強になり得るブルボンちゃんだって、まず苦戦は強いられるだろうね」

「か、勝てないってことですか……?」

「そうは言っちゃいない。アンちゃんは単純な強さだけなら確かに最強だけど、それだけで決まる程レースは甘くはないよ。

 日本の芝や高速レース、風土に気候に食べ物に水、ありとあらゆる外的要因がアンちゃんの適性を削って……いやどうだろ、あの子ならそれくらい適応できるかもしれないけど」

「えぇ……」

 

 まあ私にもできたし。チート使ってだけど。

 アンちゃんはチート有りの私に迫れる才気持ち、なんか1か月強で適性上がりました! とか言ってきてもおかしくはない。アンダースタンディブルだしなぁ……。

 

 ……ただ、それでも。

 

「ネイチャが天皇賞で、恐い上に強くなったように……今のテイオーは強い上に恐い。

 プライドも余裕も慢心も、勝利に必要ないものは全部過去に置いてきて、ただ一つのゴールだけを見据えてひた走ってるからね。

 何をしてでも勝ちたいっていう貪欲な想いは強いよ。アンちゃんにだって十分通じ得るくらいに」

 

 共同戦線を組んでいるとは言っても、私はテイオーの力のすべてを把握できているわけじゃない。

 多分歩さんはある程度、スペックを掴んでるんだろうけど……テイオーの力は額面上だけでは測れないしね。

 

「アンダースタンディブルとトウカイテイオー、東洋西洋の天才の衝突! そこにブルボンちゃんまで合わさるんです、どうなるかわかりませんよね!」

「そうだね、ブルボンちゃんもクラシックじゃ飛び抜けてる。……ふふ、あの2人と走って、ほんの欠片程度でも可能性があるって時点で本当にすごいことだ。

 本当に楽しみだよね、ジャパンカップ。きっとすごいレースになるから、皆も見てみるといい。良い勉強になると思うよ」

 

 ……まぁ、このジャパンカップに惜しいことが2つあるとするなら。

 その片方は、ブルボンちゃんは未だ未完成ってことだ。

 

 いや、未完成、って言うと語弊があるか。

 あの子にはまだ伸びしろがある。なにせまだクラシック級だ、本格化だってこれからいよいよってところ。その走りも、これ以上なく極まってるとは言い辛い。

 新たな可能性を拓いた彼女は、ここからまだまだ伸びるだろう。

 

 ……もしも、タイミングが違えば。

 ミホノブルボンが本格化を終え、走りの技術を培い、その熱を乗りこなせるだけの経験を積み……あるいは、当代の最強と呼ばれるまでになっていれば。

 

 トウカイテイオーとアンダースタンディブルに並ぶ天才の一角として、あるいは彼女も、ジャパンカップで覇を競っていただろうか。

 

 ああ……惜しい。

 惜しいな、本当に惜しい。

 

 

 

 その三人を同時に噛み潰せたら、きっと最高に芳醇だろうに。

 

 

 

 思わず吊り上がりかけた口端を、必死に繕う。

 いけないいけない。妄想で愉悦に浸るなんて二流のやることだ。

 

 私は競走ウマ娘であり、最高の契約トレーナーが付いていてくれてる。

 「ウマ娘を育てる最適解は最強の敵を用意することだ」と語る、世界最高のパートナーが。

 

 であれば、妄想ではなく、現実で愉しめばいいのだ。

 心を震わせる強大なライバルとの戦いは、すぐそこに迫ってる。

 

 年末、今年の大一番。

 ホシノウィルムに許される残り少ないそれで、私は再び、この心に熱を灯すのだろう。

 

 

 

 ……そして、この場にいるウマ娘は、私一人じゃない。

 

 熱すぎるレース、その未来。

 それを思い、心の底に熱を灯されたのは、私だけじゃなかったわけで。

 

「先輩っ! そろそろ休憩終わりにして走りましょう!」

 

 後輩ちゃんの一人、ディーズちゃんが立ち上がる。

 

「私だって……私だってウマ娘です! しょげてらんない、諦めてらんない!

 もっともっと、もっともっともっと走って、より速く、より前へ!!」

 

 ぐっと拳を突き上げる、黒鹿毛のウマ娘。

 それはまさしく……ああ、まさしく。

 

 私の大好きな、ウマ娘だ。

 

「ふふっ……ああ、行こうか。

 負荷を落とすつもりだったけど、予定変更。己の限界に挑んでいくよ、皆」

「「「はいっ!!」」」

 

 

 








 ソウリちゃんの友達の後輩ちゃんズを深堀りできてないのが悔いの1つでした。
 これも解消できたので、次回から少し飛んで、いよいよジャパンカップ。
 西洋の最強と日本の最強と新時代の三冠バが衝突します。



 次回は一週間後。未知の大器の視点でジャパンカップ前編。
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