転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 死語すぎて読者様の80%くらい知らなさそう。

 それと先に申しておきますと、前回の次回予告はちょっと予告詐欺気味です。
 書いてる内に別の話になっちゃう現象。





彼と彼女と有マの季節
えんちょつ


 

 

 

 もはや何度目だ、という話だけども。

 競走ウマ娘は真摯にレースに臨むアスリートであり、パフォーマンスでファンを魅せるアイドルであり、そして同時、様々なことを学んでいくべき学生でもある。

 

 ……改めて考えても、思春期の少女たちに負わせるにはなかなかにハードな役目だな。

 本来あの年頃の少女は、学生というただ一つの役目を負っただけでも思い悩むことも多い。

 それなのに、そこに度重なるトレーニングによって身体的な負担が多くなるアスリートと、多くの人から注目されて精神的な負担の多くなるアイドルが重なっているわけで。

 ぶっちゃけ競走ウマ娘って、当人たちがまだ中等部~高等部であることを加味すれば、俺たちトレーナーと同じくらいのブラックさではなかろうか。

 

 まぁしかし、契約トレーナーもそうであるように、どれだけブラックであろうと本人が楽しく納得できていればそれが天職となるわけで。

 彼女たち競走ウマ娘は、走るということを誰より楽しみ、競うことを誰より喜ぶ性を背負った者。

 故にこそ、こんなに負荷の強い毎日も楽しむことができるわけで……。

 

 興味があって楽しめる事項と、多くの人から求められる価値ある仕事。

 この2つが重なっている彼女たちは、ある意味じゃ、世界で最も幸せな存在と言えるのかもしれない。

 

 ……が、しかし。

 当然ながら、彼女たちはアスリートとアイドルだけをやっていればいい、というわけでもない。

 

 必ずしもその必要があるわけではないが、若い頃には、自らの可能性を拓くため、広い世界を知り、様々なことを学んでおいた方が良い。

 彼女たちは競走ウマ娘である前に、教育を施されるべき学生であり、将来の可能性を尊重されるべきウマ娘ということを忘れてはならない。

 

 そして彼女たちが学生であれば、これまた当然のことと言えるかもしれないが……。

 彼女たちも時には、学生らしいイベントをこなす必要があるわけだ。

 

 そう、それこそ進路相談とかね。

 

 

 

 進路相談。

 通常の学生であれば、中等部や高等部の2年の終わり頃から行われるこれは、しかしトレセン学園では少しばかり変則的なスケジュールとなる。

 というのも、トレセン学園では学生としての進路相談と、競走ウマ娘としての進路相談が、別の軸として存在するんだよな。

 

 中央トレセンは中高一貫校だ。

 入学したウマ娘は、本人が望まない場合を除き、中等部を終えればそのまま高等部へと入学することとなる。

 だが、中央トレセンに入って現実のハードルの高さと自らの能力の限界を知って、競走ウマ娘としての道を諦めたり、あるいは地方へと移ったりして、別の高校へと移る場合もある。

 そうでなくとも……トレセンという学園の性質上、そして時勢的にもそう多くないけど、中学を出たらすぐ社会に出て働く、という子もいないわけではないだろう。

 こういった、一般的に言われる進路を決めるのが学生としての進路相談であり、こちらは今年の頭辺りに行われている。

 

 ウィルのこれがどんなだったかと言えば……まぁ、至極真っ当な結果。

 俺の愛バは最強だし貪欲なので、勿論トレセン高等部への所属と競走の続行を決定した。

 というか、進路「相談」というのは名ばかりで、開始して3分くらいでそう決まったんだよね。ウィル、俺、ファン、担任、学園、そしてURA。その全てが走り続けることを望んでたから、至極当然の結論だった。

 担任教師としても、「競走ウマ娘辞めます!」とか言われなかったことにすごく安堵していた様子だったのが印象深い。

 

 さて、そんな学生進路相談の一方。

 「最初の3年間」……本格化で一気に身体能力が向上し切り、また競走ウマ娘としての力の天井がある程度見えて来るこの期間を、そろそろ終えようとしている頃。

 もう1つの、つまりは競走ウマ娘としての進路相談が行われる。

 

 トレセンに所属して競走を続けるのは確定として、今後どのようにレースに出て、どのような売り出し方をして、何時頃に引退、あるいは何時頃に上位リーグ入りを考えているのか。

 そういったことをしっかりと学園・トレーナー・本人・保護者間で共有する時期なのである。

 

 

 

「あと10年くらいトゥインクルシリーズ走りたいですね!」

「無茶を言うんじゃありません」

「あべしっ」

 

 たわけたことを言い出した担当を、軽いチョップで嗜める。

 ウィルのクラスの担任をしているウマ娘の教師は、そんな光景を見て「たはは」と苦笑いを漏らした。

 

 ウィルが本格化を迎えてから、実に2年と11か月。

 俺たちの「最初の3年間」が終わろうとする12月1日、暖房の良く効いたトレセンの教室で、俺とウィルとウィルの担任教師は、競走ウマ娘ホシノウィルムの進路相談を行っていた。

 

 本来これは保護者も交えての四者で行うものなのだが、ウィルは天涯孤独の身。

 幼少の彼女を支えてくれていた数少ない親戚も、トレセンに入る際に殆ど縁を切ってしまっており、恩返しのために細々と金銭を送金するだけになっている。

 ……まぁ彼女の親戚を名乗る者ならたくさんいるんだけど、本当の親戚などほぼいないわけだ。

 

 そんなわけで、俺は今回、彼女の保護者代理の立場も兼ねてここにいる。

 本来であれば少々越権行為に当たるんだが……昌越しに、今は亡き彼女の両親から「よろしくお願いします」と言われてしまったからには請け負う他あるまい。

 競走ウマ娘としてだけではなく、彼女のこれからの人生を考えなければならない。

 

 そんなわけで、しっかりスーツに身を包み、ここに向き合っているわけだ。

 

 対面に座る先生は、俺たちの様子に笑みを漏らした。

 

「はは、仲が良いようで何よりです。

 しかし現実的に考えて、確かに10年というのは少々難しいかもしれませんね。

 特にホシノウィルムさん、トウカイテイオーさん、ナイスネイチャさんのお三方、いわゆる星の世代の三星と呼ばれる皆さんは、ファンの皆さんから……いえ、道理の通らない話とは理解しているのですが」

「問題ありません、ウィルは聡い子です。そういった人の感情的側面にも配慮できます」

「私たち、強くなりすぎましたしねー。私に至ってはドリトロの先輩方とほぼ互角に張り合えますし。それならさっさと上位リーグ上がれーって思うのは不自然じゃないですよね」

「ははは……いや、なんとも」

 

 担任は何と言ったものかという感じで苦笑い。

 まぁ……URAやらトレセン学園やらを代表する立場でもある教師側としては、なかなかハッキリ言い難いところだろうな。

 

 ドリームトロフィーリーグは、トゥインクルシリーズで大きな結果を残したウマ娘にだけ門戸の開かれる、上位リーグだ。

 上澄みの中の上澄み、最強の中の最強だけが、世代の壁をある程度まで越えて激突する、

 まさしく夢の12Rと呼んでいいそこは、そりゃあもうトゥインクルとは比べ物にはならない規模のとんでもないレースがお目見えするわけだが……。

 

 星の世代の三星は、もうそっち側に片脚を突っ込んでしまっている。

 いや、トウカイテイオーは両脚突っ込んでるし、ウィルは胸元辺りまでどっぷり浸かってるレベルだ。

 

 基本的に、ドリームトロフィーの子とトゥインクルの子が走っても、それはレースにも勝負にもならない。ドリームトロフィーの子のただの独走になってしまうからだ。

 しかし、ウィルとテイオーはトゥインクルに属していながらも、ドリームトロフィーと張り合えるだけの力を手にした。

 つまるところ、もうあの2人をトゥインクルで止められるのは、それこそ2人のどちらかと、アンダースタンディブルくらいのものになったということだ。

 

 そしてナイスネイチャは、ウィルたちドリームトロフィー級とトゥインクル級、その丁度中央辺りに位置しているイメージだ。

 どちらともレースになり、勝負になる。

 ……なりはするが、恐らくもう、ウィルやテイオー、アンダースタンディブルを除いて、彼女を打倒できるウマ娘はいないだろうなとも思う。

 それだけ、ネイチャは力を付けている。恐ろしいことに。

 

 そんなわけで、彼女たちがトゥインクルで走れば、まぁ負けることはないだろう。

 そしてそれを露悪的に解釈してしまえば、他の子たちの勝利の機会損失とも取れなくもないんだよな。

 

 興行的に見ても、特定のウマ娘の一強というのは望ましくないし……。

 ファン感情としても、決まったウマ娘が勝ち続けるのは、どうしても飽きや倦怠が出て来る。

 

 そんなわけで、強すぎるトゥインクルのウマ娘というのは往々にして、早期のドリームトロフィー移行が望まれたりするわけだ。

 ……いやまぁ、それこそルドルフとかウィル級の子にもならないと、そこまではいかないんだけどさ。テイオーとネイチャも言われてるけど、割とウィルに巻き込まれた側面が強いし。

 

 なかなか難しいな、と思っていると、ウィルが口を開く。

 

「真面目な話をしますと、トゥインクルには……そうですね、できれば再来年の冬、有まで残りたいと思ってます」

「なるほど……理由を伺っても構いませんか?」

「約束がありまして。あ、いえ、約束って程でもないんですが、せっかくなら1回だけでも後輩ちゃんと走ってから抜けたいなと思いまして」

 

 そう語るウィルの顔は、珍しく真面目なものだった。

 

 約束。

 今年の春のファン感謝祭で出くわしたという、黒鹿毛のウマ娘──ビワハヤヒデを姉と呼んでいたらしいから、多分ナリタブライアン──といずれ戦う、というものか。

 それとも、先日出会ったという、サクラローレルというウマ娘が望んだものか。

 あるいは、その両方かもしれない。

 

 ウィルはちょっと狂気的なまでにレースジャンキーなウマ娘だが、同時に私生活においては後輩思いな優しい女の子でもある。

 後進の良き目標たろうと、「一度でも公式レースで走ってあげたい」と思ってるんだろうな。

 

 1か月後に入学してくる新一年がシニア級と走れるようになるのは、彼女たちがシニア混合レースを走れるようになる、クラシック級の末。つまりは、彼女の言う通り再来年の冬だ。

 ……うーん、どうかな。改めて考えても、まずまず厳しいね。

 

「うーん……そうですね。ホシノウィルムさんは……」

「先生、ハッキリ言ってくださって問題ありません。ウィル、それはどこまで妥協できる?」

「んー、まぁぶっちゃけファンが望むんなら仕方ないなーって感じです。あくまで私のエゴですし、それが世間感情より優先されることはないですね」

「さ、流石無敗三冠ウマ娘というか、改めてとても理性的ですね。助かります」

 

 別に無敗三冠と理性は関係ないと思うけど……。

 いや、他の例であるルドルフとブルボンがかなり理知的な子だから、そういう判断にもなるかもしれないな。

 実際は多分、少なくともウィルに限っては、前世の記憶を持ってるからこその歳不相応な理性を持ってるだけなんだろうけど。

 

「あ、でもできれば、最低でも来年の秋までは走りたいかもです。

 まだトゥインクルで取れてないシニア中長G1あるんですよ。秋天なんですけど」

「この子しれっと有は取れたことにしたな」

「ま、今月ので取るので」

「あ、あはは……そっか、ホシノウィルムさんにとって、G1タイトルって全制覇するものなんですねぇ……」

 

 担任は達観するように虚ろな目をしてしまった。

 

 まぁホシノウィルムだからね。史上最強のウマ娘だし、中長G1制覇くらい当然だね。

 ……俺としては、ここで「来年からはいっちょマイルに挑んでみるつもりなので!」みたいな爆弾が投下されなかったことに安堵するばかりだ。

 

 

 

「しかし……この数年で、トゥインクルシリーズの常識は大きく揺らぎましたね」

 

 混乱を収める時間が欲しいんだろう、担任は雑談を振って来る。

 ウィルは「多分そうなんだろうなぁ」程度の緩い反応だが、一方俺は大いに頷いた。

 

「そうですね。俺のウィルが最強すぎたので」

「えへへぇ、照れますねぇ」

「……これを欠片も否定できないところが恐ろしいですね」

 

 担任は困ったように苦笑している。

 本来は進路相談の際、トレセン学園の教師は、夢見がちなこともあるウマ娘たちに非情な現実を教えなければならないこともあるのだが……ウィルに限っては、あながち勘違いってわけでもないからね。

 

 あの月の見下ろす夜、ホシノウィルムと契約を結んで早3年。

 この3年で、トゥインクルシリーズにはこれ以上ないくらいに激震が走った。

 

 ブラッドスポーツと呼ばれ、血統による適性の壁が絶対視されていた世界で、完全に無名の存在だったウィルがG1レースを勝ち切り。

 当時一強と認識されていたテイオーを皐月賞で千切って。

 史上初めて、殆ど不可能とさえ言われていたクラシック級時点での宝塚記念に勝ち切り。

 ライバルを打ち倒して菊花賞を征し、ルドルフ以来の無敗三冠を達成。

 熾烈なレースを越えて史上初の春シニア三冠を達成。

 日本の夢であった凱旋門賞を制覇。

 

 …………いや、やりすぎでは?

 改めて客観的に考えてみると、とんでもなさすぎる。

 これもう教科書載るどころか千年後の歴史にも残るだろ。

 

 そんなウマ娘のトレーナーとして、彼女を支えられたことを光栄に思うと同時……。

 歴史的な一瞬に立ち会ったことには、どうにも現実感がない。

 惚れたウマ娘を必死にサポートしてたら、気付いたらこんなところまで来ちゃった、というのが実情だ。

 

 しかもこれ、全然楽勝だったわけじゃないし。

 

「それに、ウィルに釣られるように他の子たち……三星を筆頭に、多くのウマ娘が伸びてきましたからね。

 ウィルと同時に皆が伸びたからこそ、この激動の3年はあったのだと思います」

 

 ウマ娘の成長は、ライバルによって促されることが多い。

 トウカイテイオーやナイスネイチャ。彼女たちライバルがウィルに追従していなければ、きっとウィルは今程の圧倒的な強さまでは持ち得なかっただろう。

 そうなれば、恐らくはアンダースタンディブルの覚醒もなかったかもしれないわけで……。

 ……いや、そもそもウィルがいなければテイオーたちも伸びて来なかっただろうし、やはりあの子が全ての始点になっているんだろうが。

 

 それでも、ここまでレースの根底を覆し得る事柄が行ったのは、間違いなくテイオーやネイチャのおかげだ。

 本当にありがとう、ウィルの糧になってくれて。これからも精一杯活用させてもらうとしよう。

 

 と、そんなことを思っていると、担任がどこか夢見心地に口を開いた。

 

「ええ、そうですね。……ですがやはり、私としてはホシノウィルムさんが全てを変えたように思います。

 まるでそれまでの歴史が、彼女の登場によって全て、そう、それこそ新たな神話に塗り替えられてしまったような……そんな印象を覚えてしまいますね。

 それ程までに、ホシノウィルムさんは、この数年光り輝いていました」

「えへへ、照れますねぇ」

「恐縮です」

 

 軽く頭を下げる。

 褒められたのはウィル個人というより、「競走ウマ娘ホシノウィルム」だ。

 その構成要素の幾らかはトレーナーである俺であり、これはありがたい賞賛だった。

 

 ……が、ウィルはにっこにこでやや調子に乗っているようなので、少し嗜めておく必要があるな。

 

「その調子で、勉強も頑張ってくれれば良いんですけどね……」

「そうですね……ホシノウィルムさんの成績は、ちょっとその、いえ、頑張っているのはわかるんですが……」

「な、なんですか! これでもちょっとは成長してるんですけど!? 平均点50オーバーですよ、入学してから20点も伸びてるんですよ!? もっともっと褒めるべきでは!?!?」

「ちなみに堀野の家で求められるボーダーとしては95点以上だぞ」

「グギギギギッギギギッギッギィイイイイ……!! もうぢょっど頑張りまずゥ……!!」

「はは、すんごい声」

「あはは……いやあ、本当に仲が良いというか、なんというか……うーん、これって学園長に報告すべきかしらね流石に……」

 

 

 

 それからおおよそ30分程で、雑談を交えながらの進路相談を終えた。

 担任はトレセンの、そしてURAの意思を代表しているので、実質的にはこれからのウィルの方針と売り出し方を決定したことになる。

 

 結論としては、以下のような感じだ。

 ・アスリートの方針としては、基本的にはウィルの脚の状態を見つつ従来通り、つまりは中長距離G1総舐めルートを取る。最優先は天皇賞(秋)。そのためにも凱旋門賞は避ける?(未定)

 ・アイドル売りの方針としては、URAはウィル単体より三星をプッシュしたいようなので、来年からは二陣営と協調して案件を多めに受ける。

 ・学生としてはもっと勉強を頑張る。毎日自主トレの時間を30分減らして勉強に当てる。

 

 他にも細々と決まったことはあるが、まぁ大体そんな感じだ。

 

 勉強時間の延長に関しては教師同伴の下念書も書かせて判も押させたので、もう逃げられない。

 別に勉学が人生の全てというわけではないし、競走ウマ娘として偉大すぎる結果を残した以上、彼女はもう働かなくとも金銭的に困窮することもないだろうが……。

 それでも、知恵と教養は人生を豊かにするからな。

 好きな人には幸せになってほしい。男として当然の想いだろう。

 

 ……本人が嫌がるようなら緩めちゃう甘さが俺の悪いところなので、今回の念書は俺を縛るものでもある。

 もうそのうるうるおめめ攻撃は効かないぞ。

 

「うるうる……」

「無駄だ」

「ちぇっ」

 

 拗ねた彼女の頭を撫でれば、ちょっと不機嫌そうだったウィルはすっかりニコニコ。

 まったく、現金な子め。そういうところもかわいいね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 トレーナー室への帰路、冬の風の吹きすさぶ中で、制服姿のウィルは少し肌寒そうに両腕で身を抱えていた。

 羽織っていたコートを渡すと、「ありがとうございます」と言って微笑んでくれる。

 

「いやぁ寒い寒い、もう12月ですしね。……でもそっか。さっきも話してましたけど、もう3年なんですね」

「そうだな、もう3年だ」

 

 どことなく遠い目をするウィルの言葉、その意味を問い質すこともなく肯定する。

 

 言いたいことはよくわかる。

 先程の担任の先生との問答で、懐古の念が顔を出してしまったのだろう。

 

 彼女にとって、この3年は……。

 トレセンに来てから3年であり。

 俺と出会ってから3年であり。

 走り始めて3年であり。

 そして、彼女の人生が変わり始めて3年である。

 

 そして俺にとっても。

 担当を持ち始めてから3年であり。

 彼女と出会ってから3年であり。

 ウマ娘を支え始めて3年であり。

 そして、俺の人生が変わり始めて3年だった。

 

 おおよそ俺たちにとって……いや、彼女の前世の記憶について聞いてはいないし、今世でも幼少期は相当にハードなものだったから、明確に一番だと断言はできないけれど。

 とにかく、この3年間は、とてもとても濃密なものだった。

 

「一瞬だったな。気付けばここまで来てた」

「同意ですね、これまでの人生の一兆倍速かったです」

「すごい。オタクがめちゃくちゃ数字盛るの、リアルで初めて聞いた」

「歩さんが結構こっちへの理解あって横転」

「横転?」

「理解なくて顔ない」

「可愛い顔はあるが?」

 

 何言ってんだこの子。

 ……まぁウィルが独特の悪ノリを見せるのは珍しいことではない。ここはスルーだ。

 

 

 

 取り敢えずウィルのペースに併せて歩いていると、彼女はふと思い出したように……いや、そう装ってるけど、どこか不安げに声をかけてくる。

 

「でも、歩さん、アレですね。その、そろそろ3年ですし? さ……再契約のお話とか、した方がいいんじゃないかなーって思うんですけど?」

「ん? ああ、やっとく?」

「はー!? なんですかその軽いノリ!? 私なかなかその話来ないなーってちょっとドキドキしてたんですけど!?」

 

 一気にぷんすこモードに突入したウィルに、「ごめんごめん」と苦笑。

 この3年間で最も大きく変わったのは、トゥインクルシリーズの常識ではなく、彼女のキャラクター性だったかもしれない。

 

「いや何、どうせ互いの意思は定まってるからな。そろそろ話そうとは思っていたが、特に焦ってはいなかったんだよ。

 ただ、確かに良い機会ではあるか」

 

 少し笑った後、俺はウィルの方に視線を投げる。

 

 青白い、かつては冷たく思っていた瞳。童顔ながら整った可愛らしい顔貌。

 いつかよりも見慣れたそれらには、いつか見られなかった信頼と親愛の情が浮かんでいた。

 

「『最初の3年間』は終わった。ここで一度、俺と君の縁は切れることになる。

 だが……俺はこれからも、君と歩いて行きたい。君の走りを支え、君の生涯の隣にありたい。

 君はどうだろう。これからも、俺と共に来てくれるか、ウィル」

 

 真摯に問いかけた言葉に、ウィルは満面の笑みで答えた。

 

「当っ然、です! 私が走るとこ、これからも一番近くで支えてください!

 私も、頑張って歩さんの助けになりますからね!」

「じゃあもうちょっとしっかり勉強してね。わからないところは教えるから」

「うぐぐぐぐ……いや真面目な話そこは必須ですよね、ええ。わかりましたよ、勉強頑張りますー!」

 

 

 







 そんなわけで、契約延長。
 ウィルは今年末までに再契約といけないと思ってやきもきしていましたが、実は来年の2月まで猶予があるので堀野君は焦っていませんでした。
 これが大人の余裕ってヤツ。



 次回は一週間以内。ホシノウィルム視点で、列強たちの話。


(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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