最近はモンスターをハンターしつつ書いてます。
基礎攻撃4+切れ味の麻痺アーティアを出すまではやめられないんだ……。
あとまた次回予告詐欺気味です。最近多いなこういうこと。
「ウィル、明日土曜は休養日だったな。もし予定がないのなら、どこかにお出かけでもしようか」
「ブルボンちゃんと一緒にですか?」
「いや俺と2人で」
「い゛き゛ま゛す゛!!!」
「声でか」
そんなわけで、歩さんとお出かけをすることになった。
実のところ、私と歩さんは、2人だけでお出かけすることは滅多にない。
というのも言ってしまえば当然で、今や歩さんは私だけのトレーナーではなく、ミホノブルボンという新世代の優駿も抱えているのだ。
私にばかりかかりきりになるわけにもいかないわけで、ジュニアやクラシック級の頃よりは私にかけられる時間は減ってしまっている。
追加で、ウチの陣営には彼の妹さんであり我らがサブトレーナーである昌さんもいる。
どこかに一緒に行くとなれば昌さんもいることが大半だし、最近はお出かけにご一緒してくれるのも多忙な歩さんに代わって昌さんであることが多くなっている。
……多分、歩さん的には「同じ女性の方が色々と話しやすいだろう」とかそういう配慮してくれてるつもりなんだろう。実際話しやすいのは事実なので否定し辛い。対歩さんアプローチの方法とか、色々教えてもらってるし。
なんとも皮肉なことに、私が歩さんへの想いを確かにした頃からちょうどブルボンちゃんがやってきてしまい、それから少ししてから昌さんも合流してしまった。
個人的には、いや勿論ただのエゴだけどさ、もうちょっとだけ2人で過ごしたかったなぁと思わないでもなかったんだよね。
だからこそ、フランス遠征の時に歩さんを独占できたのは、心の底から嬉しかったんだけどさ。もうああいう機会はあんまり来ないかなぁと思うと少し寂しいね。
更に言ってしまえば、外側の環境だけじゃなく、自分にも問題がある。
クラシック級の頃に比べて、私もめーっちゃ忙しいのだ。
あまりにも色んなタイトル取ったり良いレースをし過ぎた結果、ホシノウィルムの名声は……手前味噌な言い方になるけど、文字通り天を突く勢いだ。
この前ちょっとだけ話したルドルフさんなんか、「私の現役時代でも……いや、誰の現役時代にも、ここまでの盛り上がりはなかっただろう」って笑ってくれたくらい。
そうすれば当然お仕事が増える上、本格化終盤の激アツ成長確変タイム突入も重なって、更にそこに先日からの秋天とジャパンカップ観覧で私の中の熱が上がってる状態だ。
とてもじゃないけど、ホシノウィルムの方にも十全に遊べるような余裕がなかったのです。
まぁ隙あらば走りに出ちゃう私が悪いと言えばそれは間違いないんですけどね。はい。
が、しかし、だ。
歩さんが強制的なお休みを課したということは、それが私の育成の最高効率プランであり。
その上でお出かけを提案してきたということは、あらゆる面で見てそうしても問題ないという証明でもある。
つまりは超久々に、何の気負いもなく、歩さんにべったりできるのだ。
私からすれば歩さんの時間を独占できるのは、実に2か月ぶりになる。
当然ながら私の中のアユムサンニウムは既に枯渇寸前であり、すぐにでも大量摂取をしたくてたまらない衝動に駆られている状態。
食事に例えるのなら飢餓状態、最高のスパイスは既に振りかけられている。
「いえーいデート!!」
「外聞が悪いからお出かけって言ってね」
控えめに言って、最の高な状態であった。
「そんなわけで当日朝が来たわけですが」
「なんで説明口調?」
「早めに集合場所行こうと思ってたら当然のように歩さんがいた動揺を鎮めるためですねぇ!」
実に集合時間9時の30分前、8時30分。
集合場所に指定されたトレセンの正門前には、いつものスーツとは違う、私服姿の歩さんがいた。
早い。早くない?
まだ30分前だよ? めちゃくちゃワクワクしてた私が待ち切れず出発してようやく今だよ?
まったく、どんだけ私とデートしたかったんですかって話!
まぁ私も昨夜は楽しみ過ぎて寝付くの遅くなっちゃったけどさ。
「担当ウマ娘を急かすのが仕事のトレーナーが、まさか待たせるわけにはいかないからな。少々早めに到着しておいた」
「いや、カッコ良いですけど……カッコ良いですけど! 本当にカッコ良いですけど! 大事なことなので三度言いましたけど!!
でも、重いとちょっと引かれちゃいますよ? 私以外には」
「君にならいいんだろう? それなら問題はない」
「んへへ、まぁそうですね。歩さんは私以外とこういうことしないですし~?」
「ブルボンとはするが」
「んッ、ぐ……いやまぁ、私とブルボンちゃんじゃ、温度感とかも違うでしょうし。
それで……ん、ん……ええと。待ちました?」
「いや、今来たところ」
わざとらしく定番のやり取りを交わし、くすりと苦笑。
……この人と出会ってから3年、本当に馴染んだなぁと思う。
きっと最初の頃に今の投げかけをしたら、歩さんは「30分程待った」とか言ったり、あるいは意図が読めず戸惑ったりとかしたんじゃないだろうか。
私だって、そんな返しをした歩さんが何を思っているのか、どう意識しているのか、全くわからずに困ってしまったかもしれない。
それが今では、互いの求める言葉が、互いにかけたい言葉が、手に取るようにわかってしまうんだもん。
亀の甲より年の劫……とは少し違うかな?
とにかく、長い時間をかけて培った関係性というものは本当に強固で、そして愛しいものだ。
歩さんもそう思ってくれてるのが、この温かな笑顔からわかる。
それを嬉しく思いながら、私は軽く自分が着ている服を歩さんにアピール。
薄灰を基調とした、なんかこう、いい感じのヤツである。
「ふふ……どうです、この服。ネイチャと一緒に選んだおめかし服です。かわいいでしょ?」
「うん、かわいい。とてもよく似合ってる。オーバーサイズだから体型が出にくいし、ちゃんと変装が意識できてるのが偉いな」
「うへへ、褒められちゃった」
「更に言うと、そろそろ君の本格化も終わるわけだが、そうなると体型の固定もなくなる。
ウマ娘によって大きく個人差は出るが、この時期から一気に体型が変わる場合もある。そういう意味でも、少しオーバーサイズの服を選んでいるのはとても偉い。よしよし」
「私の成長に乞うご期待! です!」
本格化はウマ娘の体型を固定する。ウマ娘の不思議現象の1つだ。
歩さん曰く、急激な成長の過程で体型の変動が枷にならないようにしているのかもしれない、とのこと。
つまるところ、これが終わってしまえば、中等部3年にもなって未だに身長145センチというロリ体型の私も大人のレディーになれる可能性があるわけだ。
豊満な体付きで歩さんを悩殺する日が楽しみだ。
「それで、どこ行きます? 今日は丸一日フリーですが」
「夜の自主トレは?」
「今日はお休みでーす。昨日そう決まりました!
幸いライスちゃんは今日完全休養日らしいので、約束もなかったですしね」
私がそう言うと、歩さんはちょっと遠い目で彼方を見やる。
「ライスシャワーなぁ……まさかクラシック級の子が君の自主トレに付いて行くとは。本当、あのトレーニングへのガッツというか、勝利への冷たい執念はすごいよな。
しかも君と違って、トレーニングに苦痛を感じていないわけじゃない。その苦痛を踏み越えてなお前を目指す彼女は、まさしくウマ娘の鑑だろう」
「ですねぇ。ああいう子は先輩後輩抜きに尊敬しちゃいますね。
しかも、それで脚を壊さないっていう頑健ぶり。まさしく本人の気性と体の特性が合った子と言えそう」
「ま、それでも俺のブルボンは負けないが」
「長距離適性こそアレですが、シンプルにスペックの伸び方が暴力的ですからねぇブルボンちゃんは。ある意味才能vs努力、テイオーと私の再現とも言えますか。……いや、私たちとは真逆かな?
で、そこにアンチピックになり得るソウリちゃんが来る、と」
「ソウリクロスはブルボンに対してかなりの好相性だからなぁ。……次世代のネイチャとなり得るかは、まだまだここから次第というところだが」
どこに行くかの話も忘れ、思わず後輩ちゃん談義をしてしまう。
私も歩さんもウマ娘とレース大好きウマ娘&人間だからね。ちょっと油断すればこれである。
駄目駄目、せっかくのデートなんだ、もっと色気のある話をせねば!
「話を戻してどこに行くかですよ! 何か案とかあります?」
「君はどこか行きたいところとかあるか?」
「うーん……そうですね、まだゆったり映画とか見るアレでもないですし、カラオケとかどうです? 歩さんと行くのはだいぶ久々ですよね。
へへへ、ホシノウィルムの生歌なんて、そうそう聞けるものじゃないですよ~?」
「それはそう。実際録音して販売したらとんでもない額になりそうだし」
「ビジネスの予感!?」
「まぁでも、今の時代は生放送で歌枠取ってスパチャしてもらった方が稼げるぞ。上手く希少価値付ければ、君なら2時間で3000万くらいは余裕。頑張れば億いくかも」
「おっほ……金銭感覚壊れちゃう……」
アイドルって怖い。
浴びせられる膨大な視線と好感、満たされる承認欲求と懐。
こんなの体験したら、もう一般人に戻れないでしょ。麻薬を超えるとんでもない中毒性ですよ。
まぁ私はあんまその辺に興味ないからいいけどさ。
承認欲求とかよりウマ娘としての走欲が超強いタイプなのです。
「しかし、カラオケか。俺、ウィルとしか行ったことないな、これまでの人生で」
「え!? 学生時代とか行かな……あっ……」
「やめなさい、ちょっとかわいそうなものを見る目は。知ってるでしょうが、単純に自己研鑽に時間を使い過ぎて遊びに費やすだけの時間がなかっただけだ」
「あっ…………」
「やめなさい、もっとかわいそうなものを見る目は。いいんだ、それだけ頑張ったからトレセンに入れて、それだけ頑張ったから君に会えたんだから」
「歩さん、これからいっぱい楽しい思い出作りましょうね……」
「だからやめなさいって、俺はこれでも君に会えた自分の人生に満足してるんだから。
それに、君と一緒にいることで、これ以上ないくらい楽しい思い出はでき続けているさ」
* * *
そんなわけで、私たちはトレセン近くのカラオケに入った。
この世界じゃ、ウマ娘がトレーナーとカラオケに行くっていうのは、そこまで珍しいことじゃない。
私たちはウイニングライブのため、そこそこの頻度でボイストレーニングでお歌の練習をするわけだけど、音痴で練習が必要な子っていうのはいるもので。
そんな子たちがレッスンの時間外に練習する際には、やっぱり防音がしっかりしてるカラオケが最適なのだ。スタジオレンタルが理想的なんだけど、誰しも懐事情が潤ってるわけじゃないし。
トレセン近くにはそういう需要があるわけで、そうなれば当然供給も増える。
私たちが入ったのは、そんなカラオケの1つ、ちょっと広めのお部屋だ。
「さて、何歌おっかな~! 歩さん、何かリクエストあります?」
「君の歌なら何でも楽しみだよ」
「模範的解答! ちなみに私、結構歌自信ありますよ?」
「知ってるよ、毎度君のウイニングライブに酔いしれてるんだから」
「あ、ウイニングライブの曲! 私ね、時々ネイチャと来てデュエットとかしてるんですよ? せっかくだし……ファンの皆に向けてじゃなく、歩さんだけに向けて歌ってあげますね!」
「ほなうまぴょい伝説か」
「い、いや、アレはまだちゃんとは練習してないので……できればURAファイナルズ終わるまで待ってもらえると幸いです……」
歩さんにはやっぱり歌上手いなって思ってほしいし、本格的に練習したことのない曲はちょっと……。
うまぴょいは基本シニア2年1月から練習なので……はい。
私ことホシノウィルムは、まぁ転生チートのおかげもあって天才寄りではあるけど、実のところどっちかと言えば秀才寄りだ。要領が良い、って表現が的確か。
テイオーみたいに、やったことのないことをその場のアドリブで再現するとかは……無理ってわけじゃないけど、あの子程にはできない。
やろうとすると、ダービーの時とか大阪杯の時みたいに、まぁやらかしてしまったりするわけだ。
歩さんの安全重視な方針もあって、私は基本的に事前のトレーニングでしっかりと地力を培い技術をマスターしてからぶつかる、というスタンス。
歌や踊りも勿論そうで、しっかり練習したそれらには自信があるんだけど、練習してない曲を抜群に熟せる自信はあんまりない。
そんなわけで、「Special Record!」とか「NEXT FRONTIER」とかは自信あるけど、うまぴょいはちょっと厳しいんだよね……。
よし、仕方ないし勝手に入れちゃお。
まずは……最近歌ってなかったし、錆落としも兼ねて「Make debut!」からいきますか。
ウイニングライブで歌い踊る楽曲は、勝利したレースに応じて変わる。
……ただ、ちょっと残酷なことに、G2以下のレースでは全部「Make debut!」という曲だ。
未勝利戦で勝っても、オープンレースで勝っても、G2レースで勝っても、尽く「Make debut!」である。全然レベル違うと思うんだけど、G2級までの子たちは生涯一曲しか歌い踊ることを許されない。
もうちょっと多様な曲があってもいいんじゃないかと思うんだけどね。その辺上の人たちはどう思ってるんだろうか?
ともあれ、話を戻すと。
G1レースになるとその路線とか種類とかで楽曲が変わる。
私がこれまでに取ったのは……。
ジュニア級G1を獲った時の「ENDLESS DREAM!!」。
クラシック三冠レースで3回勝ったけど2回しか踊れなかった「winning the soul」。
宝塚記念とジャパンカップ、大阪杯で踊った「Special Record!」。
今年の春天獲った時の「NEXT FRONTIER」。
「Make debut!」も合わせたこの6曲に関しては、私は結構自信がある。相当練習したからね。
というわけで、ちょっと広めのカラオケルームの中で、軽く振り付けも見せながら歌っていく。
「~♪」
慣れた振り付け、慣れた喉の動き。
指先まで意識を徹底し、お腹から息を吐き出す。
練習し身に宿してきたそれらの技術は、ある種手足の延長だ。私の意思に応じて自由自在に動いてくれる。
ただ、ちょっと難しいのが、マイクだね。
いつものライブは、マイクがスタンドで立ってたり、あるいはインカムみたいな小型マイクを耳にかけているんだけど……今回はカラオケだから、当然マイクは手持ち。
片手が塞がってしまってるのを加味して、適宜振り付けやアピールをそれっぽく変更していく。
この程度のアドリブなら私程度の才能でもなんとかなるのだ。
そんなわけで熱唱に熱唱を重ね、凡そ30分、私はノンストップで歌い続けた。
いやぁ改めて、ウマ娘の肺活量ってすごいよね。
6曲連続で、それも割とガチで歌って踊ってるのに、全然息切れもしないし疲れもしない。
まぁそうでもなければレースなんて走れないけどさ。あっちの方がよっぽど疲れるし。
「ふぅ。どうでした? まあまあ上手いでしょ」
「まあまあなんてもんじゃない、めちゃくちゃ上手い。流石プロだな」
「プロ? ……ああ、プロですもんね私。そっか、プロなのかぁ」
私は歌手ではないけど、アイドルではある。
私たちのために作られた歌を誰より上手く歌わなきゃいけないって意味だと、私たちは確かに、間違いなくプロだった。
あんまり自覚はないけどね。やっぱり本業はアスリート側で、アイドルはあくまでファンへの感謝の表明って印象が強くて。
そんな調子で、暫くは私が、そしてたまに歩さんが歌って過ごす。
喉というものは錆付くもので、定期的に使ってあげないと歌が下手になっちゃう。そういう意味でも、好き放題歌えるのは楽しかったし……。
一方で歩さんの歌は、まぁぶっちゃけカラオケ採点65点くらいの音痴っぷりだけど、それはそれで聞いてて楽しかった。
カラオケって別に上手く歌う場所でもないからね。楽しければそれでいいのである。
で、おおよそ2時間後、ある程度歌って満足した私たちは……。
「それで結局、テイオーの領域併用はどういうものなんだ?」
「んー、多分ですけどアレですね。ルドルフさんのヤツは軸の領域を領域のまま使って、追加で併用するのをスキル化してるっぽいんですけど、テイオーのはスキルの二刀流って感じ。
多分一般的なウマ娘は、脳のリソース的に領域2枚はキツくて、めちゃ頑張ってもスキル化領域から領域に連続展開が限界なんですけど、スキル化領域2枚ならギリいけるんじゃないんですかね。感覚の話なので多分って感じですが」
「なるほどな……。スキル化すればそれは未知、アンダースタンディブルもコピーできないだろうとは思っていたが、まさかそれを2枚とは。やはりテイオーは予測を上回ってくれるな。
しかも、連続でも同時展開でもなく……」
「なんというか、融合、って感じでしたよね。スキルを組み合わせて使うみたいに、スキル化領域も一緒に使うことができる、みたいな理屈でしょうか?」
「アレを事前の練習も打ち合わせもなくやってのけるのがトウカイテイオーの怖いところだな。なんでトレーニング管理してた俺が知らない技使えるんだあの子は……」
頼んだポテトをつまみつつ、レースの話をしていた。
だってしょうがないじゃん!
どんだけ騒いでもいいし、話してる内容は外に漏れないし、お話するには最適の環境なんだもん!
そして私たち、共通の最大の趣味がレースなんだもん!
そっちに話題が流れちゃうのはもはや自然の摂理でしょ!?
「…………」
「やりたいならやりたいと言いなさい」
「怒るでしょ? 私だって自重はできますよ」
「土壇場でやればね。事前に練習するのなら……むしろ、ウマ娘の不可思議現象の研究の一環として、こちらからお願いしたいくらいだよ」
「まぁ、できれば、の話ですけど」
「君ならできるでしょ。1か月あるし」
「私のこと神か何かだと思ってる?」
「天使とは思ってる」
「ぐっへへへへ……」
天使ですってよ奥さん! ……奥さんは私か? 将来の。
「ならその感じで。……しかし、ネイチャはどこまで読んできますかね」
「まぁここまでは読んで来るな。その上で……最悪の場合、無理に領域を引き出す領域なんかを使われる可能性もあるか」
「逆に? なんというか、ピンポイントメタ極まってますね」
「あの子なら、というかアイツの陣営のウマ娘なら、それくらいはあり得るだろ。
……こう言っちゃなんだが、一般家庭の出のトレーナーとテイオー級の天才でもないウマ娘が、俺たちを脅かしてるんだぞ? ある意味じゃテイオー以上に脅威だからねあの陣営」
「そう言われると、何も言い返せませんねぇ」
ナイスネイチャ。ホシノウィルムの無二の親友であり、最恐のライバル。
今では星の世代の三等星、永遠の三番手(良い意味で)……なんて言われてる彼女だけど、ぶっちゃけて言えばあの子には、私やテイオーと並べるような最高級の才能はない。
実際、私が惚れたのも、彼女の才能じゃなくガッツに対してだった。
あの日開催した疑似レースで、彼女は私に勝てないと心底まで理解しながらも、それでもなお懸命に走り続けた。諦めるということを知らなかった。
そんな「ウマ娘らしい」姿に、誰とも走ることのできなかった私は、初めてライバルというものを得られた気がしたのだ。
そう……私が知る限り、ナイスネイチャは誰よりも一番「ウマ娘らしい」んだ。
どれだけ高い壁があっても諦めず、自分を腐しながらも根底では認めず、負けん気と根性だけでどれだけ苦しいトレーニングも耐え抜き、懸命に思考を巡らせて勝ちを拾いにきて……そして、ついには「こちら側」にまで脚を踏み入れかけている。
あの子は、ウマ娘としての理想。あるべき姿だ。
トウカイテイオーが、転生チート持ちの「偽の天才」とは違う、「真の天才」であるのなら……。
ナイスネイチャは、チートと要領の良さに胡坐をかく「偽の主人公」とは違う、「真の主人公」だろう。
……ふふ。
前世アニメを大事にしてた昔の私なら、やっぱり主人公はテイオーだ、なんて言ってただろうけど……。
ここは前世アニメとは違う世界で、彼女たちはキャラクターではなくライバルだもん。
重ねて見るのは失礼ってものだよね。
そんなことを思い、ニコニコしていた私に対し……。
歩さんは穏やかな笑顔を浮かべ、足を組んで言った。
「さて……トウカイテイオーとナイスネイチャはいよいよ極まったと言っていい。これで準備は整ったかな」
「準備? 何の?」
「君の、シニア1年目の有馬記念のだよ」
「ああ、去年の逆襲っていう?」
「そうじゃなくて」
歩さんは……どこか、遠い過去を思うようにまぶたを閉じ、ゆったりと指を組む。
「……少し、自分語りをしていいか?」
「? はい、どぞ」
珍しい、と目をぱちくりさせながら、私は頷いた。
歩さんは、あんまり自分のことを語らない人だ。
ウマ娘第一主義だからだろう、私たちのことを訊くことはあっても、自分を語ることはない。
最近はちょこちょこ教えてくれるようになってきたけど、それだって頻度は高くないしね。
ぶっちゃけ歩さんの昔の話は、本人よりも昌さんから聞いたことの方が多いまである。
そんなだからこそ、歩さんが前置きしてまで自分のことを話そうとするのは……本当に珍しく感じた。
「俺はトレーナーになるまで、良き堀野のトレーナーになるために必死でな。一般に言う遊びの時間は殆ど持たなかった。
……まぁ、君からすれば、その程度の努力は当然だと思えるのかもしれないが」
「いや思えませんが? 必死すぎて若干キモいですよ」
「言い方。……いや、紛うことなき事実なので否定はしないけどさ」
苦笑する歩さんだけど、昌さんから聞いた感じ、当時の歩さんは人間性が希薄すぎるんだ。
……「彼女」。
歩さんの幼い頃にあったという決定的な挫折。
その問題はもう忘却という形で解決したらしいけど、それが遺していた痕はあまりにも深かった。
ライスちゃんみたいに、自分が目指すものに向けてひた走るってわけじゃない。
もうどうしようもなく取り戻せないもののために、マゾヒスティックに自分を傷つける。
愛する人がやるそれを、キモい以外にどう表現しようものか。
「まぁとにかく、その頃の俺は君に感覚を壊されることもなく、真っ当にトレーナーとしての夢を見ていた。
将来は、それこそ有馬記念に出走するウマ娘を支えたいものだ……とね。
つまりは、当時の俺にとって……というかトレーナーを志す大半の人間にとってもそうだと思うけど、有馬は夢であり目標の1つだったんだ」
「そんなものですか」
「そんなものですよ」
年末の大一番、有馬記念。
それに出られるようになる頃には、私はもう無敗三冠とか史上初クラシック宝塚とか獲って、望めば簡単に出られる土壌が整っていた。
でも多分、本来はこれに出走すること自体が、とても難しく価値のあることなんだろう。
なにせ日本で最も人気のある18人しか出られないんだ。2000分の18に選ばれる、これを名誉以外の何と言おうか。
……まぁ、実感を伴わない予想に過ぎないけどさ。
「有馬記念。去年君と勝ち切れなかったこともあるが、昔からウマ娘とレースを追ってきた俺個人として、このレースへの思い入れは決して小さくないんだ。
だからこそ……契約ウマ娘との縁が切れるシニア1年の年末、もしも担当を有馬記念に出すのなら、最上の条件を整えたいと思っていた。
当時はその条件を、担当個人の能力を限界まで高める事だと思っていたが……君と付き合っていて、それだけではないと思わされた」
歩さんは、どこか遠くへと投げていた視線を私の許に戻した。
純粋で強い輝きが、どこか熱狂を秘めた視線が、私に絡みつくようだった。
「君を追い詰めるトウカイテイオー、君を打倒し得る可能性を秘めたナイスネイチャ。
それだけじゃない。誰より君を知り狙ってくるだろうハッピーミークに、長距離における好敵手たるメジロマックイーン、新時代の星たるミホノブルボンに、徹底マークにおいて他の追随を許さないライスシャワーに、大逃げで競ってくれるだろうソウリクロス。
俺は君に、これ以上ない舞台を、これ以上ない強敵たちとの戦いを用意したつもりだ。
……満足いただけたかな、ホシノウィルム」
ああ……なるほど、そういう。
私は、口元に浮かぶ笑みを抑え切れず、思わず歩さんに抱き着いた。
「へへへ……最高です、歩さん。やっぱりあなたは、私の最高のトレーナーです!」
トゥインクルにいながらもドリームトロフィーの世界に踏み込んだ怪物、トウカイテイオー。
ただ自らの強みを伸ばし研鑽を積んで、ついには怪物を打倒し得る力を得た傑物、ナイスネイチャ。
彼女たちは二等星や三等星と呼ばれ、一等星たるホシノウィルムを追うようにして伸びたと言われているんだけども……。
実際のところ、全ての始まりは、私ではない。
歩さんだ。
この人が、私という暗く凍てついていた星を、誰かを導く眩い星へと昇華してくれた。
この人は、ホシノウィルムを鍛えることを通して、いつも私にとって最上の環境を作ってくれた。
運命の人、なんて陳腐な表現に思えるけど……。
ウマ娘である私にとって、運命のトレーナーがただ1人いるのなら、それは間違いなく彼だ。
この人でいい、ではないし。
この人がいい、でもない。
この人だけなんだ。
私が共に在りたいと望む人は。
背中に温かな、そして力強い、男の人の手の感覚。
続いて、耳元に愛しい人の声が届いた。
「あるいは去年の有馬に並ぶ、厳しいレースになるだろうが……勝ちに行く算段は付いているし、その道筋は拓けている。
君のために、そして俺のためにも勝ちに行こう。俺の愛バ、ホシノウィルム」
……その言葉が、どれ程嬉しかったか。
きっといくつの言葉を並べたって、他人には理解してはもらえないだろう。
(カラオケに)
椅子に座る成人男性に対して中等部女子がまたがるように抱き着く光景、冷静に考えるととんでもなく危ない一幕では?
次回は一週間以内。トレーナー視点で、3年の変化の話。
いよいよ最終回が近付いて来てます。