NTRをなんとかしろ!
本当に申し訳ないんですけど、次回予告をコピペミスしてウィルム視点回が2連続で同じ内容になってました。
次回予告のミス多すぎて自分でも乾いた笑いが出ちゃう。
今更こんなことを言うのもアレだけど、トレセン学園は資金的な意味でも、とても恵まれている。
ウマ娘の競走っていうおおよそこの世界で最もお金が行き来している業界、その日本の中心点なんだし、当然と言えば当然なんだけどね。
そんな学園に所属する私たちウマ娘、その拠点である栗東寮と美浦寮も、これまた結構なお金がかかってる。
広大な敷地の上に建った4階建ての2棟は、それぞれ大体800人ずつの生徒を住ませている。
そんな大所帯だっていうのに、原則二人部屋な上比較的広くて、走ること以外無趣味気味な私としては、むしろ持て余すくらいだ。
流石にトイレとか洗面所は共有だけど、それにしたって800人もいるっていうのにこの広さは驚異的。
それも、私の故郷みたいなド田舎ってわけじゃなく、都内の結構な土地だよ? まったく、お金っていうのはあるところにはあるものなんだなぁと思うわけです。
で、だ。
そんな私たちの暮らすお部屋には、ベランダが備え付けられている。
クラシック級の頃、私が不法侵入……いや別に不法じゃないけど、玄関が締め切られる時間になっても無理やり部屋に戻れていたのは、主にこのベランダのおかげだ。
ただ、ベランダっていうのは本来、雨どいからジャンプして飛び乗るためにあるものではない。
個人的だったり大切だったりする洗濯物を干すだとか、日光が必要な植物を鉢植えで育てるだとか、あるいは同居人にプライバシーを知られないよう一旦外すだとか。
そういう用途でも使われる、っていうかそっちで使われるのがメインだよね。
で、私だって年頃の乙女、時にはそっちの使い方だってするわけで。
本日はそういう理由で、お部屋からベランダに出て来たわけだ。
「んー、寒い寒い」
もう12月も中旬、その20時過ぎとなればいよいよ気温は下がってくる。
私は代謝がとても強いらしく、寒さを感じにくい質なんだけど……それでも5度以下ともなれば、流石に肌寒さくらいは感じるね。
風邪を引いて有馬辞退とか笑いごとじゃないし、パジャマの上にガウンを羽織り、ネックウォーマーも付けた完全装備だ。
ぬくぬくウィルム、フルアーマーモードである。同室の先輩には「……かわいいです」と評判だ。
さて、ここまで分厚い装備をして出て来たのには、勿論理由もあるわけで。
キラキラ光る東京の夜景を見ながら、私はウマ耳にイヤホンを装着、スマホを口元に寄せて声を上げた。
「ん、もしもし。聞こえるかな?」
『Good……oops, こんばんはですね、ホシノウィルム!』
即座に聞こえて来る、今日も今日とて元気いっぱいな挨拶。
夜遅くなのにテンション高いなー、と思ったけど……そういえば、あっちとは9時間くらい時差があった。
今が20時過ぎだから、あっちは11時。まだまだ午前中なわけで、そりゃあ元気いっぱいか。
……今日って平日だけど、なんでこの子普通に通話かけてきてるの? 授業あるんじゃないの? そりゃこの時間なら空いてるって言ったのは私だけどさ、別にもうちょっとそっちに合わせてもいいんだよ?
ともあれ、楽しそうにしてくれるのは何よりだ。
私も時間を取った甲斐があるというもので。
「元気だね、アンちゃん。一週間ぶり」
『はい! ホシノウィルムも元気そうで何よりです!』
西洋の最強、英雄姫アンダースタンディブル。
トウカイテイオーが未知を持って打ち倒した彼女は、ジャパンカップ終了と共にイギリスへと帰還した。
……まぁ、当日はすっご~く、不満たらたらな様子だったけど。
「いや! いや~! 私もっと日本いる! 有馬見る!!」と喚きながら、トレーナーさんに引きずられて空港のゲートに消えていったのは印象深い。
とはいえ、ウマ娘のパワーで人に負けるわけもないし、ポーズだけなんだろうけどね。アンちゃんって感情はありつつも理屈で呑み込めるタイプっぽいし。
本人も言っていた通り、アンちゃん的にはせっかく日本にまで来たってことで、有馬記念まで見て帰りたかったらしいんだけど……。
私とかアンちゃん級になると、年末年始は色々お仕事なりで忙しいからねぇ、うん。
あ、イギリスはキリスト教圏だから、お正月はそんなに祝わないんだっけ? なんか歩さんが言ってた気がする。代わりにクリスマスを盛大に祝うとかなんとか。
ともあれ、この周辺が忙しいのはあちらもこちらも同じだろう。
つい一週間前の通話でも、この子「クリスマスのライブ撮ってきました! 見てください!」とか言って、仕事の衣装の自撮り送ってきてたし。
可愛らしいサンタっぽい意匠だったけど、色が緑なのはちょっと驚いたね。なんでもサンタって、イギリスでは緑のイメージなんだってさ。
……とと、少し話が逸れてしまったけれども。
アンちゃんは仕事とかレースへの調整の都合で、本拠地のイギリスに帰ってしまったけれども……。
どうにも彼女はこの強制的な帰国に拗ねてしまったらしく、「もういや! レース出ない!」と、世界最高峰にあるまじきとんでもないストライキを開始。
イギリスに帰った彼女のトレーナーさんから歩さんへ、かなり慌てた様子の協力要請が飛んできた。
即ち、彼女の推しであるらしい私と歩さんからの執り成しだ。
で、そこから色々と交渉した結果。
歩さんと私はそれぞれ、週に一度30分程彼女と通話をすることで、機嫌を直してもらえることとなった。
歩さんが他のウマ娘と話すことに思うことがないでもなかったけど、「アンダースタンディブルはレースへの感覚が非常に鋭い。話していて得になることは多いよ。あっちのトレーナーとレース運営団体にめちゃくちゃでかい恩も売れたし、君たちの育成に役立てることもできそう」とのこと。
この人はやっぱりどこまでも私の契約トレーナーで、そこはひとまず安心だ。
一方私は、あの子とは普通に友達だと思ってるし、通話なんていつでも何時間でもウェルカムなんだけど……なんでも、「推しと通話なんて恐れ多いので! ので、30分で我慢です!」とのこと。
なんとも変な子……と思ったけど、元オタクとしてはわからなくはないね。自分がどんな立場になっても、推しっていうのは恐れ多いものなのだ。
さて、そんなわけで、本日は久々のアンちゃん通話日。
私は栗東寮のベランダで、彼方にいるだろうアンちゃんへと言葉を投げかけた。
「そっちはどう? 最近」
『いよいよクリスマスムード一色、という感じですね。11月下旬辺りからもう準備は始まっていたんですが、もう直前ですから。
公共の交通機関や観光スポットも軒並み閉まりますし、買い出しも今の内にということで、スーパーはかき入れ時ですね』
「おー、文化の違いって感じだ。日本ではクリスマスってあんまり派手にお祝いしないからなぁ」
日本でもお正月はお店閉まったりするし、イギリスでのクリスマスはそういう印象だろうか。
ゆっくりゆったり家族と──私には肉親はいないので、未来の家族になる(と良いなと思ってる)歩さんたちと──過ごす平穏な日々、というわけだ。
そう言えば、あっちではクリスマスに子供を放っておくのはネグレクト級にマズいことなんだっけか。
確かに、日本でお正月に子供放り出して遊んでる親、って言うとめちゃくちゃ印象悪いね。
ぼんやりそんなことを考えていると、向こうからは苦笑が返って来た。
『あはは……こちらの感覚としては、特にキリスト教圏でもなくクリスマスをお祝いする日本の方が……なんというか、変わっている? ように思えますけど』
「ああ、日本はその辺り変わってるってたまに聞くね。宗教観が特殊というか、カオスというか」
神道とか仏教とかキリスト教とか、その他様々が色々ごちゃごちゃになっているのが日本だ。節操がなくて申し訳ないね。
なんなら、クリスマスがキリストの降誕祭だってことも知らない人も探せばいそう……なんて言ったら、流石に怒られそうだから言わないけどさ。
……しかし、この2か月でアンちゃんの日本語も上手くなったなぁと思う。
初めて会った時は、かなり上手いけど海外の人なんだろうってのはわかるくらいには訛りとか言葉選びの拙さとかが出てたんだけど、今や日本人と言われると何の違和感も覚えないくらいに上達してる。
驚異的と言うべきか、流石と言うべきか。流石は天才だ、学習能力が段違い。
……一方で私は、日本語のテストですら70点にも届かないんですけど。一応は同じ天才枠に割り振られるだろうキャラとして、お恥ずかしい限りで。
アンちゃんと色々話しながら、ベランダの柵にもたれかかり、月を見上げる。
残念ながら、通話先の相手と同じ月を見上げる……なんてことはできない。
時によって変わる色、星の並び、月の満ち欠けにその形。見上げる空は同じものじゃない。
けれど、それでも、私たちは一続きの同じ空の下で、競走ウマ娘をやってるわけで。
そう考えると、1万4千キロって距離も、大したことなさそうに思えるね。
同じ世界でウマ娘やってるんだもん、いずれまた走れることもありそうだ。
『はぁ、またホシノウィルムと走りたいです……次っていつ一緒に走れます?』
「あ、同じこと考えてた。うーん、そうだね……来年は凱旋門は出ない予定だしなぁ」
『あ、やっぱり。秋の天皇賞、まだですもんね。となると、堀野トレーナーの指針から考えて、秋は無理しない方針だし、ジャパンカップはちょっと期待薄?
むむむ……春天は距離的にやや不利、宝塚はあんまり例がないですし、大阪杯も……有馬はむしろ見てたいですしねぇ……』
「すごいね、アンちゃん。理解度が」
『え? そうですか? へへ、嬉しいです!』
いや本当にすごい。
競走ウマ娘のレース出走予定であるローテーションは、年度の初め、春に発表することが多い。
当然というか、私の陣営が来年の秋天を獲りに行くって方針はまだ発表してないんだ。
なのに、凱旋門賞に出ないって言っただけでそれを先読みし、更には歩さんのローテーションの方向性まで言い当ててるよこの子。
競走ウマ娘ホシノウィルムへの理解度が……なんというか、熟達のオタクレベルだ。
あと何気に、日本のレースへの海外バの出走の傾向理解してるのもすごい。
日本語もそうだけど、アンちゃんって研究を怠らない質だよね。
……ああいや、目の前に追うべき背中とかやるべきことが見えてるなら当然のようにそれをやる性格、って感じかな?
そういうところ、歩さんに頼り切りの私としては尊敬しちゃうな。
『というかそもそも、春の間は日本行けそうにないですし……いっそ、そちらが欧州に来てもらえませんか?』
「ん? ああ、そっちのレースに集中する感じ? まぁ西洋での人気を固めておくのは悪くない選択肢か」
『あー、いえ、そうじゃなくて。ちょっと色々あって』
ちょっと気になって聞き返すと、アンちゃんは……なんとも微妙な声音で答えた。
『実は、ネディが引退するー、とか言い出しちゃって』
「え、ネディリカが?」
ネディリカ。
私とアンちゃんが凱旋門で競い合った、競走ウマ娘の一人である。
日本で言えば武士みたいな性格をしている……あっち的には騎士なのかな? そういう剛毅なウマ娘。
なんか本人は自己評価低いみたいだったけど、あのレースでアンちゃんを越えて見せた紛うことなき優駿だ。
叶うならまた走りたいなぁと思っていた子でもあるので、引退するって言葉には、思わず素の驚愕を漏らしてしまった。
対して、アンちゃんはどこか愚痴るような、困ったなーって感じの口調で続ける。
『そうなんですよ。ネディったら、「既に私は為すべきを為した」とか「これ以上は恥を上塗りするだけ」とか言って、advanced……日本で言うドリームトロフィーにも上がらないって言ってて。
最近は私とウィッチで、なんとか残るように説得してるんです。で、その一環として、春にまた一緒にレースを走って消えかけちゃった火をもう一度灯そうと』
「はえ~」
あ、「はえ~」じゃないわ。
同格以上の相手とはいえ、アンちゃんはクラシック級、私の1つ下の年齢だ。私は先輩にあたるので、ちょっとカッコ付けて対応している。
……まあ、歩さんとのアレコレは既に見られているし、先輩としての尊厳が残っているかと言われると微妙なところかもしれないけども。
ともあれ、今はネディリカだ。
私としても、彼女が引退するとなれば、思うところはある。
ある、んだけど……だからと言って、口出しできるかって言われるとなぁ。
「うーん……難しいところだよね。引退云々ってやっぱりその人の判断によるところが大きいから、あまり強制すべきじゃないし。
やっぱりネディリカが本心から退きたがってるのかどうかが大切になるかも」
『えー!? なんでです、駄目ですよネディが引退なんて! あんな楽しいレースができる子がいなくなるなんて寂しいですし!』
びっくりしたような声が飛んできて、思わず苦笑を浮かべる。
やっぱりこの辺の考え方は、私と彼女でちょっと違うね。
私は良くも悪くも自他に境界をしっかり引く方で、彼女はその辺りがちょっと曖昧……いや、年相応かな? 忘れがちだけど、この子ってまだ14歳くらいの女の子だし。
まあでも、私の距離の置き方を心地良く思ってくれる人もいれば、アンちゃんの強引さに救われる人もいるだろう。この辺りもまた、人に対して強制すべきことじゃない。
ネディリカ。ただ一度だけ一緒に走ったウマ娘。
引退を引き留める程に、私は縁が深いわけじゃないし……。
あの子がこれからも走るかどうかは、アンちゃんにかかってるかもだ。
『なんかウィッチも慎重派っていうか、もっと相手を気遣おうよみたいなこと言ってきたり、あっちにアポ取ろうとか言って来たり、無理やりはよくないとか言ってますし……なんなんですかね?』
「それは流石にウィッチちゃんが正しいかもなぁ」
……違うかも。アンちゃんじゃなくてウィッチちゃんにかかってるかも。
頑張れウィッチイブニング。
凡人の心わかんない系の天才と、存在証明しちゃった系の秀才。
2人の仲を取り持てるのは、どうやら君しかいないっぽいぞ。
『こっちはそんな感じです。今度はそっちのことも聞かせてください!
どうです、トウカイテイオーやナイスネイチャは! やっぱり有馬に向けてムキムキに鍛え直したりしてます?』
「ん? んー。そうだね、鍛え直してるのは間違いないだろうね」
『ん、あー……やっぱり情報隠されてますか。堀野トレーナーいますもんね』
そうなのです。
最近、私はテイオーやネイチャとの接触機会が少ない。
これまでは基本的に一緒していた昼食や、たまの放課後お出かけも避けられているくらいだ。
私がやらかして2人にめちゃ嫌われてしまった……というわけではなく、どうにも歩さんのトンデモ鑑定眼を逃れるためっぽい。
ネイチャは前にもやってた隠蔽戦略を、今度はテイオーまでやり始めてしまったわけだ。
流石に寂しい。ホシノウィルムはさみしんぼなのに。
唯一の救いは、同陣営のブルボンちゃんとの併走と、歩さんがいないタイミングだから許されてるっぽいライスちゃんとの夜の自主トレだけだ。
これまで失われれば、私は完全にぼっちになっちゃう。
いやまぁ、後輩ちゃんたちが構ってくれたりはするけどさ。時々今のジュニア級の子とお話する機会もあったりして、孤独って程じゃないんだけどさぁ。
歩さんが隣にいるのはすごく心強いし、絶対に私になくてはならない人だけど、有能すぎるからこその贅沢な悩みも生まれてしまうんだよねぇ、これが。
孤独の寂しさと辛さを教え、だからこそ寄り添い共に走る温かさを示してくれたあの人が、まさかさかしまに私を孤独にするとは……なんたる皮肉。
『私もトレーナーの目が強いので、最近はちょっと避けられがちで。そのお気持ち、よく分かります』
「いや、それは君の目を恐れてる部分も多いと思うけども」
『そんなー』
目で言えばアンちゃんも大概だ。ていうか、この子こそなんでもかんでも言い当てて来て怖い。
歩さんとかアンちゃんトレさんは理屈とか理論で攻めて来るけど、アンちゃんは超常的な第六感的なアレなので、防ぎようもなければ騙しようもないのだ。
そういう意味じゃ、アンちゃんはネイチャの天敵かもしれないな。情報操作効かないだろうし。
一方で、テイオーはアンちゃんに対して相性有利かも。常に最善最高を更新し続ける絶対の帝王は、彼女の未知足り得る人材だしね。
私はネイチャには不利、テイオーには有利気味な感じがあるので、その辺りの相性は綺麗に反転してるかな。
……どうなるかなぁ、私とアンちゃん+テイオーネイチャコンビで走ったら。
ネイチャの予知にも近い作戦立案は歩さんとアンちゃんにガンメタされて潰されそうだけど、それだけでへこたれるあの子じゃない。
一方でテイオーは私が正面から潰すとして、問題はアンちゃんがテイオーと私の領域どっちもコピれそうってこと。事実上の二重展開になるわけで、彼女にとってはめちゃくちゃな強化になるだろう。
だからこそ、ネイチャはそこをメタりそうな気がするんだよなー。誰かの本気を出させないことに関しちゃ、あの子は私たちの中でも一番ガチだし。
アンちゃんがそれを悟れるかって話になるけど、あの子そういう企みの看破ってちょっと苦手そうだし、そこはアンちゃんトレにかかってるかも?
うーん、考えれば考えるほど、アンちゃんも加えて三等星で走ってみたい感がすごい。
誰かの持ち味を誰かが潰し合う、三竦みならぬ四竦み状態……ああいや、私って弱点とかないし、私を除いた3人の三竦み状態に私が追加されたような形か。
「アンちゃんとテイオーとネイチャ、誰が私に迫ってくれるかなぁ」
『ホシノウィルムとネディとウィッチ、誰が一番楽しませてくれますかねぇ』
「ん?」
『Huh?』
……どうやら同じようなこと考えてたみたいだね、私たち。
三冠同士通じ合うものがあるんだろうか。彼女のは日本で言えば変則ティアラ無敗三冠みたいな感じだけど。
「んー……真面目な話、私はネディリカにはガン有利だし、ウィッチちゃんも……いや、ガッチガチに覚醒したウィッチちゃんと西洋芝でやり合ったことはないからわからないか。この前も病み上がりっていうか、不調明けすぐって感じだったし。
でもまぁ、負ける気はさらさらないよ。これでも最強だからね」
『私だって……いやすみません、説得力ゼロですね、トウカイテイオーには負けたし。
でも、次は勝ちますよ! もうあの二重廉価展開は見て覚えたので! というかアレの対策のために2つ目の領域には目覚めて、今絶賛廉価に調整中なので!』
「もうそこまでやってるんだ、こわ……」
この子ってホント、未知には弱いけど既知には強いっていうか、未知が既知になった瞬間尽くをメタってくるというか……そういう方面じゃ規格外だ。
常に最高の状態を更新し続けなくては、アンダースタンディブルの前は走れない、ということだろう。
しかし、そうかぁ、ネディリカにウィッチイブニングか……。
ネディリカは、シンボリルドルフすら超えるかもしれないくらいの強い強制力を持つ、領域閉鎖能力持ち。
ウィッチイブニングはまだ測りかねてる部分はあるけど、多分自己実現的な領域の使い手だろう。
三等星の私たちと彼女たちを組み合わせると、どうなるかな。
ぼんやりと、この6人で戦うレースを想像する。
キーになってくるのはネディリカで間違いない。彼女が本領を発揮すれば、領域っていうトンデモパワーを使えなくなっちゃう。
となると、現状スキル化、アンちゃんの言い方だと廉価化を済ませているテイオーや、多分一か月も経たず完成させちゃうアンちゃんがめちゃくちゃ有利になっちゃうかな。多分アレ閉鎖効かないし。
今度歩さんに相談して私も覚えようかな、領域のスキル化。多分「アニメ転生」使えば比較的簡単に習得できると思うし。
しかし領域が使えないとなってくると、単純なスペックと技量、作戦のバトルか。
……なんか懐かしいな、そんなシンプルなレースも。
そうなれば、まず有利なのが私。だってスペック最強で歩さんがバックにいるからね。
けど、テイオーとアンちゃんがどれだけ爆発してくるかも大事になってくる。ぶっ飛んだ覚醒するとスペックとか関係なくなるからこの二人。
で、それをネイチャがどこまでコントロールできるか、そしてウィッチちゃんがどう食らい付いてくるか。
展開的には、やっぱり第三コーナーからの抜け出しに私が抗する形になるかな。それとも、最終コーナーから一気に追い上げられたりして?
うーん……面白い。
惜しむらくは、ここまで豪華で東西にまたがったレースとなると、なかなか成立しそうにないってことだね。
『I think, maybe I should get them to move to Japan…….』
「ん? ごめん、なんだって?」
『あ、いえ……みんなと一緒に日本のレースも走ってみたいなぁ、と。
でも、こっちのレースもこっちのレースで魅力がありますし……ああ、悩ましいですね! まったく、世界は、レースは楽しさに満ちてます!』
通話向こうのアンちゃんはニッコニコだ。
気持ちはよくわかる。そして……彼女がそれをわかるようになってくれたことを、嬉しくも思えるね。
『それで言ったらやっぱり、今注目してるのは有馬記念ですよ有馬記念!
こっちだと大体朝6時くらいの放送なので、ウィッチとネディと一緒に見る約束してます!』
「ありがとう。ふふ、応援してくれるかな?」
『もちのろん! でしたっけ。当然、私の一番の応援はホシノウィルムに捧げます! で、二番目はトウカイテイオー、三番目はナイスネイチャ!
……これ、そのまま人気順になりそうですね』
「ま、今は私たちはトゥインクルの中核だからね」
転生チートウマ娘こと私、ホシノウィルム。
ドリトロに片脚どころか両脚突っ込んでる真の大天才、トウカイテイオー。
あのメジロマックイーンをフィジカルで握りつぶしだした肉体派の策謀家、ナイスネイチャ。
勿論他にもG1ウマ娘たちはいるんだけど、この秋のトンデモな活躍もあって、今のトゥインクルシリーズの中心はこの三人だろう。
人気的にも……そして、実力的にも。
『日本のトゥインクルシリーズ、すごいですよね。インフレーションが過剰というか、もう上位リーグの世界に入っているというか。
さっきはああ言いましたけど、ウィッチとネディはあと1枚皮を剥けないと付いて行けそうにないかも』
「実際アンちゃんも負けたしね、テイオーに」
『むぅぅうううう! ……はい、負けました。それは事実なので認めます』
ふふふ、打てば面白いくらいに響くし、すぐに冷静になるのでイジリ甲斐があるね。
本人的に敗北を微塵も重く捉えてないっていうのもミソだ。
アンちゃんの見立てだ、多分彼女の言葉は間違ってないんだろう。
今の日本の競走世界は、他国より一歩先んじてる。
……というか、私たち三星が無理やりに引き上げているっていうのが正確なところだと思う。
逆に言えば、今私たちが引退なんてすれば、他とそんなに変わらなくなるかもだけど……。
ま、今のところ一過性のものでも問題ないさ。
私たちがその姿を見せれば、後続が続く。
この胸に受けた熱をまた誰かが受け取り、想いは継承され、次世代はもっともっと速くなる。
そうして私たちウマ娘は、世代が進むと共により強くなるのだ。
だからこそ、こうして一度取ったリードは、そうそう失われることもあるまい。
少なくとも……感謝祭で見た餓えた黒鹿毛、この前に会った強かな栃栗毛。
あの子たちが次世代を担ってくれるのなら、きっとね。
『むう……こうなっては、いえ、かくなるうえは。私もイギリスのfairy tales*1のレベルを2回りくらい上げるしかないですか。
トレーナーと一緒に、アンダースタンディブル式パワーレベリングを考えなくては』
「この子、こんな言葉を平然と現実にしそうで怖いなぁ」
『しますよ? 有言実行、ですよね?』
「怖いなぁホントに」
2年後くらいには、日本とイギリスだけ異次元のレベルに突入してたりしてね。
……あはは、全然非現実的に思えないや。
私が転生チートウマ娘であるように、言うならばアンちゃんは天然バグ枠ウマ娘だからなぁ。
怖いし……ああ、とっても楽しみな未来だ。
* * *
気付けば30分が過ぎ、通話は終了。
アンちゃんは終わり際、血の涙を流すような声で『来週も絶対絶対絶対ぜーーーったい通話! しましょうね!! 絶対!!!』と凄まじい気迫を見せていた。
……異常オタクの熱量って推しからはこう見えてたんだなぁ。
「不快じゃないけどね。アンちゃん、どこまでも真っ直ぐな子だし。
……いや、それはアンちゃんだけじゃないか。みんなすっごく真っ直ぐで、素敵だ」
微笑んで呟きながら、イヤホンを外してスマホと一緒にポケットに入れ、再び空を見上げた。
寒空の中、澄んだ空気の向こう側には、きらきら光る色の群れ。
ここから見れば綺麗なものだけど、実際それらはただの光じゃない。
命を燃やす恒星群。
自ら輝きを放つ、唯一無二の星たちだ。
並んだそれらは結びつき、星座を成す。
日本で見られるそれとイギリスで見られるそれは全く違うもので……。
けれど時々交わって、これまでにない美しさを見せてくれることもある。
そんな星々の交わりは、見上げる誰かを楽しませ……時には新たな星を生む。
そうして生まれた星として、きっと今、私も人を照らしている。
そんな
それはきっと、とても幸福なことだと思う。
「お父さん、お母さん、どこかから見てくれてるかな。
……この世界に生んでくれて、ありがとう。
私、今、とっても幸せだよ。きっとこれからも、ずっとね」
そう呟いたところで、温かな部屋の中、先輩からお呼びの声がかかった。
よし……うん、感傷に浸るのは程々に。
それじゃあ、楽しく温かな日常に戻るとしましょうか。
世界を愛し、世界に愛される。
これ程幸せな状況はないと思うのです。
次回は一週間以内。トレーナー視点で、有馬記念に向けての話。
(追記)
誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!