転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

244 / 253

 転生あるある聞きたいかい





彼と彼女のドリーム・イレブン
転生あるある早く言いたい


 

 

 

「それでは! 第一回、転生者トークパーティを始めまーす!」

「ぱちぱちぱち」

 

 ウィルはそう宣言した直後、ぺちぺちとその手を叩く。

 ……手を叩いたのはウィルじゃなくてホシノウィルムだな。言い終わると同時すっと表情消えてたし。

 

 今日はウィルと俺の両方がお休みの日だ。

 ウィルの方は、シニア2年目に突入して本格化が終わったことにより、これまでより負荷を落としての進行になるため、休みの日がやや増えており。

 俺の方も今年の頭、秋川理事長から「もう少し休むべし! ただし担当は2人新しく取りたまえ!」ととんでもない無理難題を課されたため、昌と、今年からもう一人増えたサブトレーナーに業務を委任し、完全休養日を取ることになり。

 俺たちはどちらも、勿論「多少は」というレベルでこそあるが、お休みの日が増えた。

 

 そんなこんなで、2人ともお休みの今日。

 落ち着いて2人で話でもするかと、一緒に過ごす約束をしたが……そうなると、問題は場所だ。

 今日もトレーニングを課してるブルボンやローレルたちが使うから、トレーナー室で遊ぶわけにもいかないし。

 

 ウィルは俺といる時はテンションが荒ぶりやすく大声を上げることがあり、なおかつあまり親密にしているところをメディアに抜かれでもしたら煩い。

 いわゆる有名税というヤツで、俺たちは割と制限を課される身なのだが……。

 

 しかし、俺たちはこの問題解決にもってこいの場所を知っている。というか所有している。

 

 そこはトレセンから車でしばらく行った先、俺が去年の春、ウィルにバースデープレゼントとして贈った家。

 去年は忙しさ故に放置されがちだったが、今年のウィルの誕生日プレゼントとして内装に手を入れたり家具を購入したりした結果、ただの大きな箱だったそれは、今やしっかりと一軒家になっている。

 勿論防音設備も徹底しているし、周辺の住民への根回しもバッチリ。

 ここでなら、俺とウィルがどれだけ騒ごうと問題にはならないし、パパラッチも防げるというわけだ。

 

 そんなわけで、リビングでアンティークな机に着いた俺とウィルは、紅茶をしばき茶菓子を摘まみつつ、雑談に興じていた。

 ……ちなみに、テーブルに着いて、とは言ったが、別に対面に座っているわけではない。

 ウィルはいつも通り俺の膝の上に乗っている。これが叙述トリックと言うヤツです。

 

 で、そうしてお話をしている中で、急にウィルが先の宣言をした、というのが現状である。

 

「それで、転生者トークパーティ…っていうのは?」

 

 俺が後ろから体を抱きながらそう言えば、ウィルはぴんと人差し指を立てた。

 

「ここに揃ってるのは転生者たち! であれば共通の話題もあるでしょうって話です! 逆にこういう違いもあったんだー、っていうのも盛り上がるかなーと」

「ああ……さっきのアレからの発想か」

「然り!」

 

 

 

 先程まで話していたのは、転生云々の話。

 俺とウィルは久々に落ち着いたということもあり、その辺りの認識の擦り合わせを行っていた。

 

 そしてその中で発覚したのが……。

 

「ウマ娘ってアニメじゃないんですか!?」

「ウマ娘ってアプリじゃないのか?」

「アニメ? アプリ?」

 

 三者三様、微妙に異なる世界から転生してきたらしい、ということだった。

 

 ウィルの世界には、アプリウマ娘が存在しない。

 代わりに、俺の知らないアニメ版ウマ娘が存在する。

 

 そして、ホシノウィルムの世界は……アニメとアプリ版ウマ娘のことは、ちょっとわからないが。

 俺とウィルの前世の知識、特にそれぞれがハマったウマ娘のそれを元に考え……。

 結論として、ホシノウィルムは恐らく、俺たちの世界には存在していない馬であるという仮説に至った。

 

 ウィルの見ていたアニメ版ウマ娘には、トウカイテイオーとナイスネイチャが同じ年のクラシック戦線で戦う予定の同期として登場したらしい。

 そこに関しては、この世界と同じだ。恐らくは史実通りの世代なのだろうと思う。

 

 けれど一方、そこにホシノウィルムはいなかった。クラシック戦線の話で、ちらっとすら出てこなかった。

 これだけ目立つ子を登場させないというのは、まあちょっと考え辛い。

 更に言えば、俺のやっていたアプリウマ娘では、トウカイテイオーといえば最強の天才肌的キャラクター。もしもホシノウィルムが実在していたのなら、また別のキャラ付けをされるだろう。

 

 それらの推論から……。

 俺が、「ホシノウィルムのいない、アプリ版ウマ娘があった世界」。

 ウィルが、「ホシノウィルムのいない、アニメ版ウマ娘があった世界」。

 ホシノウィルムが、「ホシノウィルムがいた世界」。

 それぞれから転生してきているのだと推察。

 

 それぞれちょっとずつ違う世界から転生して来たのではないか、という疑惑が立ち……。

 

「え、じゃあ歩さんの世界のポケモンの最新作、タイトル何でした?」

「ナン/ライス」

「んなわけないでしょ!?!? スプラのフェスじゃないんだから!!」

「いや実際そうだったし……当時は割と面白がられてネットミーム化してたけども。

 ウィルの方はどうだったのよ、最新作」

「そりゃあヘヴン/ヘルですけど」

「か……カッコ良い! いいなぁめちゃくちゃカッコ良い伝説出そう。ウチの世界にはそんなタイトル全くなかったけど……」

「あれぇ!?」

 

 ……話し合ってみるに、どうやら間違いないらしい。

 

 登場するポケモンは大体同じでも、タイトルが違ったり。

 そもそもゲームハード戦争でセガが勝ち抜いて、エンドサターン4で任天堂と覇を競ってたり。

 ゲーム以外だとオリンピックで日本がメダルを取ってたり取ってなかったり。

 歴史の教科書に書かれた年代が微妙にズレていたり。

 某国の首相の名前が、ちょっとだけ違ったり。

 

 俺とウィルとホシノウィルムは、それぞれちょっとずつだけズレた世界から転生してきたようだ。

 

 

 

 そんなことがわかったのが、数十分前。

 

 俺はそれに、少し面白さも覚えていたんだが……。

 どうやらウィルも同じだったらしい。

 

 それぞれの世界の話を終えるや否や、今度は転生者の話に転換してきたわけだ。

 

「というわけでトークパーティ、まずはあるある話しましょう! あーそれわかるーとかへーそーなんだーとか言い合いましょう!

 そんなわけで、転生者特有のあるある、何かあります?」

「本当に俺たちしか話せなさそうな話題来たな」

 

 苦笑する俺に、すっと表情を消したホシノウィルムが言ってくる。

 

「はい、私ある」

「はいホシノウィルム、どうぞ」

「転生して視野、めっちゃ縮んだ」

「すまん、ちょっと共感は難しいかも」

 

 前世の馬の視野は、驚異の全周360度中350度。

 人やウマ娘の視野は200度程度と言われているため、そりゃあ一気に縮んだように感じるだろう。というか実際縮んでるんだけど。

 

 が、残念ながら俺もウィルも、ホシノウィルムと違って元々人だ。その手の話に共感は難しい。

 

「……ちなみに視野が縮むのってどんな感覚なの?」

「んー……なんかこう、ぎゅっと、歪む感じ」

 

 そう言って、一時的にウィルの体を借りたらしいホシノウィルムは、自分のほっぺを左右からむにゅーっと押し潰んで見せた。

 ごめん可愛すぎて話が入ってこない。俺の最愛のウマ娘、美少女すぎるだろ……。

 

「あ、ちょっと! あー……あ! 私もあります!」

「はいウィル、どうぞ」

「転生後の家族との距離感、最初は戸惑いがち!」

「あー」

 

 なくもない。ややある、といった感じ。

 俺、家族にはとんでもなく恵まれたからなぁ。

 

 堀野は割と古くから名前を残す裕福な名家でありながら、数代前に行われた大改革によって、その在り方が割と緩くなっている。

 教育の義務やマナーの習得、対外的な繕いこそ求められるものの、婚姻関係は当人の意思次第だったり、強い意志さえあればトレーナー以外の道に進むことすら認められる程だ。

 

 そして当代、俺の家族は、とても温かく善性の強い人たちだった。

 色々やんちゃしたり知識蒐集に走る俺を、家族たちは寛容に見守ってくれていた。

 特に母は「賢い子ね、まるで前世の記憶を覚えてるみたい!」と……いやアレ察してたのかな今思うと。

 

 厳格ながらも確かな能力を有する父、寛容で包容力のある母、俺にとって良き目標であり尊敬できる相手だった兄、距離はあったが確かに家族の情で繋がっていた妹。

 俺は今世で、これ以上なく良い縁に恵まれた。

 

 ……が、一方でウィルは……。

 昌曰く、ご両親の霊は今はそりゃもうバチクソに反省しているらしいので強く言う気もないが、あまり家庭環境が良くなかったタイプだ。

 既に振り切っているフシこそあるが、古傷に触れられて良い気はしないだろう。

 

 なので正直、家族との距離感とかはちょっと触れ辛い。親しき中にも礼儀ありだ。

 

 と、俺が一瞬口ごもったのに気づいたのだろう。

 ウィルはふと気づいたように口を開く。

 

「あ、しまった、こういうのは良くないな。ごめんなさい、歩さん。

 それに、今ここにいるかはわかんないけど、ごめんね、お父さんお母さんも」

 

 その瞬間、机の上に載っていたお菓子入れのトレイが、誰も触れてもいないのに、不自然にガサガサ揺れる。

 なんというか、気にしてないよ、と言わんばかりに。

 

 ……昌曰く、ウィルのご両親は幽霊となってウィルを追っかけしているらしい。

 で、俺としては「その内成仏なさるのかな。いつか直接ご挨拶したいが」とか思ってたんだけど……。

 

 なんかご両親の霊、先日の温泉旅行以降、軽いポルターガイストを起こせるくらいにはパワーアップなされてるんだよな。

 

 昌曰く、「孫の顔を見るまでは逝けない」的な想いで現世と強く繋がってるっぽい? らしく、最近は『抱けーっ! 抱けーっ!』という気ぶり幽霊の視線を感じることも多い。

 今抱いたらウィルを不幸せにしてしまうんだから勘弁してほしい。卒業したらちゃんと責任取りますので。

 

「気にしてないって」

 

 そして昌と並び、霊能力持ちの子がここにも一人。

 ホシノウィルムはウマソウル、つまりは魂が本体であるからか、他の魂を認識できるみたい。

 霊能力持ちが知り合いに2人もいるなんて、世界って狭いものだ。

 

 なので最近は、ウィルとご両親の間の通訳をしたり、昌が同じ霊感持ちの同志を得て喜んでいたり、かと思いきや彼女の方は昌にすごく怯えたりなど、色々あったが……それはともかく。

 

 最近のウィルのご両親は、なんというか……「私たちはいないことにして、後はお若いお2人で」みたいな空気を醸し出しているらしい。

 ウィル曰く、「多分観葉植物になりたいんじゃないですかね。ある種の推し活?」とのこと。

 正直俺としては「それでいいの? 本当に?」と思わなくもないが、当人たちが納得しているようだし、他所から口出しすることでもない。

 

 そんなこんなで、ご両親はあまり積極的に会話に絡んで来ることはなく、俺たちからもあまり声はかけないようにしている。

 

 

 

「そっか、良かった。……いや、歩さんとのいちゃいちゃを見られてるのはちょっと微妙な気分だけど。

 じゃあ、あるあるに話を戻して。前世じゃできなかったことに挑戦、ってのはどうです?」

「それはある」

「私もー」

 

 俺とホシノウィルムは揃って頷いた。

 

「前世はクソカスだった自分を鍛え直して、今度こそ何かできる真っ当な人間になろうと……」

「うーん、なんで私たちが話すとこう暗い話になっちゃうんですかね?」

 

 俺としては、あんまり暗い話なつもりはないんだけどな。

 もっと前に進もう、自分をより良くしようという向上心、それ自体は悪いことじゃないはずだ。

 ……当然、ちょっと過剰だったきらいがあるのはわかってるけどね。

 

 その一方で、ホシノウィルムはぴんと手を挙げて言った。

 

「私、前世じゃあんまり味とか拘らなかったから。今は色々食べるの、楽しいよ」

「もう一人の私はほわほわしてていいですね~! こういうのですよこういうの」

「ホシノウィルムは可愛いなあ。ほら、塩飴舐めな」

「おいしい」

「こらーっ! 駄目! 歩さんが可愛いって言っていいのは私だけ!」

 

 

 こんな風に、3人でわちゃわちゃやってるのは、正直とても楽しい。

 俺とウィルは3年の付き合い。そこにホシノウィルムという変数が入って、関係性がどう動くかと正直少し心配もしていたが……。

 結果として、それは杞憂に終わった。

 

 ホシノウィルムは、なんというか……俺たちによく馴染んでいた。

 最初からそこにいたように、最初から言葉を交わしていたように、自然と俺たちと触れ合う。

 

 ……いいや、「ように」、ではないのか。

 彼女は最初からウィルの中にいて、ウィルを通して俺たちと接触していた。

 俺たちも馴染み深いように感じているのは、あるいはそういった慣れを無意識に感じていたからか。

 

 他の要因としては、ホシノウィルム自身、あまり積極的に出て来ることはないというのもあるか。

 あくまでこの体の持ち主はウィルの方であると明言し、大半の時間はものを言う事もなく、ウィルの目から世界を楽しんでいる。

 気が向けば今日のようにお喋りに興じることもあるが、長いと1週間に1度しか出てこないようなこともあるくらいだ。

 

 気ままな性格というのもあるかもしれないが……。

 「もう一人の自分」であり「この世界の自分」であるウィルに、かなり気を遣ってくれている。

 そういった気遣いが、俺たちからして彼女を受け入れやすくしているのだ。

 

「眠くなってきた。おやすみー」

「はい、おやすみ」

 

 ……まあ、一番の理由は、この気まぐれなペットのような奔放さかもしれないけども。

 

 無表情のウィルの可愛らしい容姿、邪気のないその振る舞いからして、彼女はまるでよく懐いた動物のようで──いや、実際その通りなんだけど──、俺とウィルは、こう言っちゃなんだが、まるでペットか子供のようにホシノウィルムに接することができていた。

 

 

 

 そんなホシノウィルムは、「すやあ」とふざけた調子で漏らし、ウィルの身体の中で眠りに就く。

 彼女が眠ってもウィルには特に関係ないらしく、彼女はもう一人の自分の奔放さに苦笑していた。

 

「相変わらず唐突というか、本能に忠実というか」

「ま、こういうところがホシノウィルムのかわ……人好きのするところだろう」

 

 俺が肩をすくめると、ウィルは膝の上でニヤリと笑って見上げて来る。

 

「よし、ギリセーフです。よくぞ踏み留まりました。歩さんの失敗に学ぶところ、好きですよ♡」

「はいはい」

 

 俺は膝の上のウィルの頭をぞんざいに撫でた。

 きゃーっとふざけたような悲鳴が何とも耳に楽しい。

 

 ……温泉旅行の夜。俺たちが真に理解し合い、打ち解け合い、心よりのパートナーとなったあの時。

 あれからウィルは、なんとも平然と「好き」と感情をぶつけてくるようになった。

 

 昌が以前語っていた、俺の勝利条件。

 「卒業まで彼女に告白されないこと」は、達成できなかった。

 ウィルはもう、躊躇しない。至極平然と熱っぽい視線と共に想いを伝えて来る。

 

 が。

 

「あ、ところで次のレースなんですけど!」

「春は駄目。今の君に中1か月の4連戦は許容できません。今年は凱旋門も駄目、秋天に本命集中」

「えー」

 

 その小さな想いの独白を俺はさらりと流し、ウィルも深追いすることはなかった。

 

 転生者であり、人生経験の長さから感情を抜いた理屈で物を考えられるウィルは、正しく理解している。

 トレーナーはつまり教師であり、競走ウマ娘はつまり教え子。

 日本どころか世界で有名になっている彼女が、そのトレーナーである俺と、在学中に結ばれることがどれだけ問題なのか。

 

 故に、先のそれは、実のところ独白であって告白ではないのだ。

 彼女は想いを俺に伝えているだけで、それ以上、つまりは関係性の変化を望んでいるわけではない。

 

 ……と、いうことにしている。

 

 恐らく、ウィルはそれを望んでいるだろう。

 俺も……正直、それを望んでいる。

 そこに即物的な問題があるかと言えば、否。

 ウィルは前世を含めれば、精神的にはとっくに大人らしい(実際の年齢は教えてくれなかった)し、今更彼女が盲目的な視野の中で判断を誤っているとは思わない。

 

 が、それはそれとして。

 精神はともかくとして体は未成熟──本格化が終わって4か月、未だ1ミリも身長が伸びていないことから、彼女の身体の成長は終わっている疑惑が強まって来たが──であり。

 世間体からしても、未成年と大人が付き合うというのは、決してよろしくない。

 

 いわゆるトレウマ概念というヤツは、とても仲良しとか両想いとか実質デートとか、そういう淡いレベルの想いがウケているのだ。

 交際だとか関係だとか、そういう生々しい話になると、やはり許されるラインを超えてしまう。

 

 というわけで、俺とウィルの「好き」という言葉を、敢えて深く受け取らないようにしているし。

 ウィルの方も、俺が深く受け取る前にさっさと話題を流している。

 

「テイオーなんか、私を待ち構えるために先にドリトロ上がるとか仄めかしてるんですよ!? もっとガンガンレース出て行かないともったいないです!」

「テイオーの性格とあそこの陣営の性質から、次に出走するのは多分今年の有でほぼほぼ確定だ。当陣営もそこを決戦の舞台と据えているとも」

「わーい歩さん好き好き♡ 愛してる♡♡♡」

 

 ……なんかもう、そういう暗黙の了解が出来てから、この子やりたい放題になっちゃてるけども。

 そういうところも可愛いので、問題はない。可愛さは正義だ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんな調子で話していると、ふと膝の上のウィルがこちらを見上げ、訊いてくる。

 

「あ、転生と言えば。……歩さんって私が転生者ってことに勘付いてたんですよね?」

「ああ」

「すごいなぁ、私なんて一度も疑ったことなかったのに」

 

 そんなことある?

 

 いやまあ、彼女と違って俺は、自分の転生特典らしき「アプリ転生」のことを語る機会が少なかった。

 言ってしまえば超絶すっごい観察眼という言葉で片付けられる範囲だったしね。

 

 が、それに対してウィルの思考力加速能力……もとい、「アニメ転生」は、戦術を組み立てる上で非常に大きな要素だった。

 故にその話が出る頻度は高く、その度に「アニ、いえ思考力加速」「転生チー、いえ思考力加速」とかとんでもない勢いでお漏らししていたのだ。

 そりゃあ察しもするというもので……。

 

 いや、実のところもっと前から疑いはしていたのだが。

 

「ちなみに、最初に疑ったのっていつでした?」

「確か……クラシック級の2月辺りだったか?」

「2年前!?!?!?!?」

「その時は、まああり得ないかー、とか思ってたけどね。確信したのは今年だし」

「えぇ……私ってそんなにわかりやすいです? ちょっと自信失いそう」

「いや、そんなことはないぞ」

 

 彼女が「仮面を被る」と称する演技能力の精度は、非常に高い。

 ファンの前ではアイドルの顔を、先生の前では生徒の顔を、俺の前ではウィルの顔を。

 それは社会に生きる上で当然のことのように思うが……自らの価値観や好悪の観念までカチッと切り替えているのだから、絶技と言う他ない。

 彼女はいわゆる憑依型の演技に近い、瞬時に自らの人格を切り替える能力を持っているのだ。

 

 ……いや、能力を持っている、とは少し違うな。

 ウィルは世界で一番賢くて天才で要領が良いウマ娘なので、そういうことを咄嗟にできちゃうのだ。

 本人曰く「なんかこう、ノリで? 今はそういう私が求められてるならそうしなきゃいけないなー、と言う感じに?」らしい。

 感覚派の天才、怖すぎる。

 

 恐らく、「熱モード」「寒モード」と彼女が呼ぶ、レース中での精神状態の変化も、彼女のこの能力に由来するものなのだろう。

 改めて、羨ましいを越えて憧れてしまうくらいの才覚である。俺の愛バ、最強。

 

「君のスイッチの切り替えは非常に良い精度を持っている。

 初見からそれが仮面であると見抜ける人間なんて誰も……ああいや……うん、おおよそ一名を除いて他に思いつかない」

「ああ、お義母さん……いやすごい人でしたねホントに」

 

 俺の母は、なんというかこう、無敵感のある人だ。

 俺が転生者であることも見抜いていたフシがあるし、反抗期に突入した昌もあの人だけは突っぱねられなかったし……1年前に実家にウィルを連れて行った時なんか、お赤飯がどうとか言ってたし。

 なんかこう、未来が見えてるのか、あるいは心が見えてるのか、そういうレベルの浮世離れした人間である。

 

「あの人には昔から、演技とか通用しなくてなぁ……。収益と言う意味ではともかく、人間関係という意味ではあの人こそ堀野の大黒柱だ」

「ああうん、そういう感じ。すごいですよね、お義母さん」

 

 なんかさっきからお母さんという言葉のニュアンスがおかしい気もする。おかしくない気もする。

 

「やっぱりウィルも感じたか。あの異様さを」

「はい。多分アレですね、見えてるウィンドウが1つ多い感じ。いや、思考も含めて2つでしょうか? あんまり説明をしない辺り、思考の方は共通ウィンドウがない感じでしょうか」

「え、ちょっとごめんよくわからないかも」

 

 急に難しい、というかスピリチュアルなこと言い出すじゃんこの子。

 

「なんていうかこう、同時に開いてるウィンドウが1つ多くて、その分得られる情報が多いというか。……うーん、説明が難しいですねこの感覚。テイオーならこれで理解してくれるんですけど」

「すまん、非才の身にはちょっと厳しい」

「いやこっちこそすみません、私語彙力には自信がなくて……」

「それでは弱点克服のため現代文の勉強を開始する。今から風の又三郎を全文暗唱するので、後ほど出す問題に答えるように」

「あまりにいきなりですし、読み返し禁止は鬼畜すぎませんか!?」

 

 

 

 ウィルは、おおよそ欠点のない完全なウマ娘だ。

 

 まず可愛い。

 競走ウマ娘としての尋常じゃない力に反してその容姿は比較的幼く、少女としての幼い魅力と共にどこか女性らしい怜悧な美貌も兼ね備えるという至高の美。

 多分アイドルとかやったら地球人全員ファンになってライブの倍率数十万倍になるだろう。俺は関係者なので舞台袖から見れる。余りの特権に震えが来るね。

 

 次に煌めく才能。

 おおよそ何事もやろうと思えばできちゃうという凄まじい要領の良さを持ち、まさしく切れ者◎である。

 テイオーが本物の天才とか言ってるけどぶっちゃけこの子も大概というか、別に相手を貶める意図はないが、俺からすればこの子の方が圧倒的に天才なんだよね。

 多分この子が1年ちゃんと勉強したら、俺トレーナーとしての実力追い抜かれると思う。それくらい、彼女の才気はとんでもない。

 

 更に聖女のような性格。

 優しく前向きで慈愛に溢れたその心は、果たして何人の心を救ってきただろう。少なくとも1人、ここに救われた実例がいるわけだが。

 友人思いで情に厚く、走りを愛し、茶目っ気とユーモアもあり、甘え上手で、恥ずかしがりで、時に厳しく、メリハリも付けられる。

 おおよそ彼女の精神性にケチの付くところはないだろう。ケチ付けたヤツは俺が適切に「対処」するので法廷で会おう。

 

 そして極めつけに、圧倒的な走力。

 日本最強、世界最強、そして史上最強のウマ娘であるところの彼女は、俺が適切に舵取りさえすればおおよそ誰にも負けることはない。

 素質の面でも素養の面でも飛び抜け、果てには転生チートとウマソウルの起床という他にない強みまで持っているのだ。

 改めて、俺も彼女に相応しい活躍をすべく奮起せねばならないだろう。

 

 ……そうだ。

 ホシノウィルムには、おおよそ欠点がない。

 完璧な少女、完璧な女性、完璧なアイドル、完璧なアスリート……完璧なウマ娘。

 

 しかし、敢えて。

 そう、敢えて1つだけ、彼女の欠点を挙げるのなら。

 

「勉強いやぁ~……」

 

 あんまり勉強が好きじゃないところだろう。

 

 史上最強のウマ娘がこうまで勉強嫌いで、時に赤点ラインスレスレまで行くのは、割とマジでカッコ付かないから勘弁してほしい。

 マーケティング戦略にまで響いてるからね君の成績。

 

「ほらウィル、問題出すぞ。1609年、徳川家康は大阪より以西の有力大名から、五百石以上の積載量を持つ船を没収し、以後その所持を禁止した。この大船禁止令は何を企図してのものか?」

「あのすみません、それって本当に中等部3年の子供に解かせる問題です?」

「俺は中等部1年くらいでこの辺りまで覚えたし」

「うーん、なんというかちょっと申し訳ないんですが、超秀才の基準で話されても困るといいますか。歩さんってこれまでの人生で、テストで1位じゃなかったことないでしょ」

「何を言う、超秀才なんてことはない」

 

 「超」ということは、つまりそれを超えている、ってことで。

 俺は秀才の域を超えていないし、超えられない。

 

「上には上がいるぞ、2人くらい」

「日本全部と比べて2人かぁ」

「いや、これまでの歴史上で2人だが」

「史上3位だったかぁ……」

「君のように1位にはなれなんだ。これが凡人の限界というところだろう」

 

 結局のところ、俺は全身全霊で努力しようと、至上最高の域に到達することはない。

 ウィルにも語った通り、恐らくはここが凡人の限界到達点。

 どれだけ自らのリソースを割こうと、俺はこれ以上へ至ることはないだろう。

 

 当時は自分の限界に血反吐を吐きそうな思いをしていたものの……最近は、「まあ史上3位ならそこそこ頑張ってると思っていいんじゃないか?」と思ってもきていた。

 まあ、流石に問答無用の人類史上最高到達地点であるウィルに誇ることはできないけどね。そこまで厚顔無恥なわけではないけど。

 それでも、ひとまずめちゃくちゃ頑張ればウィルを支えることはできるのかなと、そう思えてきた。

 

 で、それはそれとして、本題に戻ると。

 やはり、勉強は良いものだ。

 どれだけ才気がなくとも、時間さえかければ無尽蔵に知識を吸収できる。そうして得ていった知識は俺の判断をより鋭利に、そして正しくしてくれる。

 その結果、俺は今ウィルと並び立っているのだ。これまでの研鑽を否定などできようものか。

 

 がしかし、考え方は十人十色、そう思わない者もいるわけで。

 俺の膝に座って頬を膨らませている子が、その典型例だ。

 

「……すっごく子供っぽいこと言っていいですか」

「いいとも。実際君は子供なんだし」

「勉強なんて何の役に立つんですか!?」

「おお、本当にすごく子供っぽい」

 

 まあ現代日本で生きていれば、その手の疑問を一度は抱くものだろう。

 その答えはいつか、自分で見つけるべきもの。本来ならば俺が答えを押し付けるのは良くないが……。

 ……この子、わかって聞いてるからな。言ってもいいか。

 

「まず、最低限の教養がなければ、他者との会話に齟齬が生じる。

 ……正しく今の『齟齬が生じる』という言葉が良い例だろう。マイナーな言葉では決してないが、知らない者もいるくらいの知名度。

 そして『齟齬が生じる』は、言い換えるのなら『食い違いが生まれる』辺りになるが……これらの言葉の間には、少なからぬ意味合いの違い、ニュアンスのズレがある。

 もっと分かりやすく言えば、海外の言語でもいい。それは覚えていなければコミュニケーションに少なからぬ破綻と誤解をもたらしてしまう。

 言葉の理解、そして知識は、対人コミュニケーションを円滑に、誤解なく進める上の前提であり、これらを有さないことは相手とコミュニケーションを取ろうとする意志の放棄とも言える。

 そのため、俺たちは人間が構築する社会で円滑に生きるため、教養を身に付けなくてはならない」

「マジレス乙です! 違う、そうじゃない! 逃げるための方便なんですよこれは!! 優しい言葉だけプリーズ!!」

 

 残念ながら現実は優しくないので却下。

 頭を抱えるウィルに更に追い打ちだ。

 

「更に言えば、鉄血宰相オットー・フォン・ビスマルクは『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』という言葉を残している。

 君はこれまで、おおよ15年余りの生涯を送ってきているわけで、君の中には15年分の経験がある。その記憶、知識から学ぶことは簡単だが、しかしデータの総数が少なく、学べること自体は少ない。

 一方で歴史は、明確に文章化されたものに限って言っても、おおよそ2000年弱、それも何兆人分という莫大なデータ量がある。それらは受動的に得られるものではなく能動的に自ら学ばなければならないが、経験に学ぶよりも遥かに学びが多いだろう。

 2000年という人間一人には生きられない時間をかけて人類が踏み固めて来た足跡は、これ以上ない程の王道だ。覇道とは王道を知った上でこそあるもの、何をするにしても、やはり知識の収集は避けては通れないだろう」

「ぐう……!」

「ぐうの音だけは出たな」

 

 怒涛の正論ラッシュに、ウィルは何も言い返せず口を真一文字に結んでいる。

 

 理屈の上では理解しているんだろう。勉強は必要だと。

 ただ、やる気というのは理屈より、価値観と感情に大きく依存するものだ。

 走りに重きを置き、走りを何より楽しむ彼女が、じっと座って勉強することにモチベーションを見出せないのは当然のことで。

 

 今、堀野歩が……彼女のパートナーである俺がやるべきは、理屈で彼女をねじ伏せることではない。

 

 だから俺は、彼女の耳元に口を寄せ……言った。

 

「……頼むよ、ウィル。そろそろ君を、俺から紹介したいんだ」

「え? それは、どういう……」

 

 いたずらっぽく、彼女の自尊心と目的意識をくすぐるように。

 

「社交の場では、ある程度の教養は必要になる。

 俺が君を『パートナー』として紹介するためには……君に、『俺のパートナー』として相応しいだけの振る舞いをしてもらわなきゃいけないから、な?」

「えっ……あっそういう!? あ、え、う……な、なるほど。それは……勉強しなきゃ、ですね!?」

 

 彼女は顔を真っ赤にし、わたわたと両手を泳がせながらも、最終的にはこくりと頷いた。

 うん、勉強のやる気が出たようで何よりである。

 

 そんなわけでたまの休日、俺はマンツーマンでウィルに勉強を教えることになった。

 

「え!? 鎌倉幕府成立って1192年じゃなかったです!? 確か前世じゃそう習ってましたよ、これも世界線の違い!?」

「以前までは『征夷大将軍の任命によって1192年に鎌倉幕府は成立した』とされていたが、この認識は後年になってから生まれたものだ。

 実質的には源頼朝が法皇に守護地頭の任命の他諸々の権利を認めさせた時点で支配体制が成立し安定したため、当時の価値観や定義に基づいて、今ではこちらの1185年が正しいとされることが多い。

 ……ねえ、こういうのって年長者がジェネレーションギャップ受けるのが普通じゃない? 俺と君のポジション、逆じゃない?」

 

 派手な楽しさはないが……こういう休日も悪くはない。

 俺は夕日が沈むまで、膝の上にウィルを座らせたまま、会話を交わしながらも勉強を教えていった。

 

 

 

 ……ちなみに、ウィルは教えたことは一発で覚えて、後になって聞いても全然忘れてなかった。

 やっぱウチの子天才だわ。今から東大目指そうか一緒に。

 

 

 







 前回の次回予告はやや詐欺になっちゃいましたが、蛇足編1話目は日常回。
 これくらいのゆるい雰囲気でやっていきますのでどうぞよろしく。



 次回は一週間以内。今度こそ出会っちまったホシノウィルムファン(3)の話。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。