転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 言い訳しますと、これを書いてる頃にちょうどTwitter(X)で流行ってました。
 乗り遅れたわけではありません。断じて。

 そんなわけで、〈ポルクス〉出撃後編。





しかし警部、真の優駿が一度や二度敗北しただけで心折れるでしょうか?

 

 

 

「や、ウィル」

「ネイチャ! 見に来てくれたんですね」

 

 友人の嬉しそうな声に出迎えられる、偉そうな社長出勤ウマ娘は誰でしょう?

 そう、誰あろうアタシ、ナイスネイチャだ。

 

 今日は、ウィルと堀野トレーナーさんの作った〈チーム・ポルクス〉出陣の日。

 ライバルチームたるアタシたち〈チーム・アルタイル〉も、参加こそしないものの、視察に出……。

 ……られたら良かったんだけど、残念ながらアタシは無理だったね。

 

「アンタのレースには間に合わなかったけどね。ゴメン」

 

 今日は前から入ってた、結構大きめの仕事の日だったんだ。

 いくら親友のレースが見たいからと言っても、先方に迷惑をかけるわけにもいかない。

 きっちり責任を持って、役割を演じ切ってきましたとも。

 

 不幸中の幸いと言うべきか、アタシはゲスト枠だったから、早めに上がらせていただけた。

 その後はトレーナーさんにお願いして、急いで駆けつけてこの時間だった次第だ。

 

 とはいえ、そういうのはあくまでアタシの事情。

 せっかく企画した模擬レースを見に来ないのは、親友としてちょっと不義理とも取れるし、怒られてもおかしくはなかったんだけど……。

 

 アタシの友達はその辺り、とても聞き分けが良い。

 今回も笑って許してくれた。

 

「いいってことですよ、ネイチャも忙しい身ですしね。ドラマ、レースと同じくらい楽しみにしてます」

「そう言ってくださると助かるよ、神々の座さん」

「良いってことですよ、ウマ娘の到達点さん」

 

 最近世間から付けられた、アタシに限ってはやや過分な称号を挙げて揶揄い合う。

 

 まったく、アタシが到達点なんて、笑っちゃうよね。

 いやまあ、言いたいことはわかるけどさ。

 ウィルやテイオーのように最初から飛び抜けてたわけじゃない、群衆の中から登って辿り着ける最高峰、というところだろう。

 

 ま、それだってウィルの「神々の座」ってヤツに比べれば、だいぶ低い場所にあるし……。

 アタシ自身は、ここが到達点だなんて、ちっとも思ってないけどね。

 

 ナイスネイチャはまだ終わらない。終われない。

 今のアタシは通過点。一秒後には過去になる、未だ至らない進化中のアタシ。

 アタシの隣にいる、誰より眩しくて、誰よりカッコ良くて……誰よりアタシに期待してくれる誰かさんに勝つまで、アタシの脚は止まっちゃくれないのだ。

 

 ……とはいえ、常々そんなに気合を入れてちゃ、肩肘も張るってもので。

 今日のアタシはオフ。競走ウマ娘ナイスネイチャじゃなく、一人のウマ娘でありウィルの友人、ネイチャとしてここにいるんだけどね。

 

 

 

「で、勝ったの? ドリトロの先輩方とのレースは」

「勝ちましたー、ブイ!」

 

 無表情無感情のウマ娘はどこへやら、ウィルは満面の笑顔でブイサインをかざして来る。

 中学デビュー、高校デビューするウマ娘も珍しくはないけど、3年間でこうもキャラが変わったウマ娘は他にいないだろうね。今更だけどさ。

 

 しかし……いやー、勝っちゃったか。

 シンボリルドルフにオグリキャップ、スペシャルウィーク。

 今回出走してた先輩たち、ドリームトロフィーリーグの最強級のウマ娘なんだけどね。

 

「すごいじゃん。こりゃあドリトロに入ったらすぐに無双かな?」

 

 冗談交じりにちょっと持ち上げて見れば、けれどアタシの親友はすっと真顔になって考え込んだ。

 

「いや、流石に公式レースになるとまた違ってくると思いますよ。やっぱりアタシたちが一番力を出せるのって、公式レースですからねぇ。

 それに私の『至星女』だって、何度も見せてる以上対策されるでしょうし」

「……いや、アレは対策しようにも、どうすればって感じだけど」

 

 思わず苦笑が漏れ出た。

 

 『至星女』。

 堀野トレーナーさんがそう名付けたあの領域は、おおよそ既存の領域とは格が違う。

 

 ドリームトロフィーを走っている、最上級のウマ娘の抱くそれよりも、更に先。

 アタシたちの力の神髄を見せ付けて来るような、謎めいた領域だ。

 

 全ての領域、全ての世界、全てのウマ娘、全ての努力、全ての意志。

 それらを燃やし灰にして、自らの輝きを明かす一つだけの星。

 

 アレは、一度や二度見たからって対処できるモノじゃない。

 万全に整えた準備も、完璧に取った対策も、全部が灰と化すんだから。

 

 だからこそ今日のレースでも、技術の面で大きくリードされているはずの先輩たち相手に、勝利を収めることができたんだろう。

 

 まったく、ホント恐ろしいウマ娘になったもんだよ、この子。

 ……いや、この子が恐ろしくなかった時期とかないな。一瞬たりとも。

 

 ホシノウィルムは最初から最後まで、ずっとアタシの輝き星だ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「んで、今第何レース?」

「もうそろそろ第三レース。テイオープロデュース、ジュニア級中距離理解らせ大会ですね」

「あー」

 

 ひっどい命名に苦笑しちゃうけど、それもままなるかな。

 言葉通りだから否定のしようもない。

 

 今グラウンドの上で、ゲート代わりのスタートラインに並んだウマ娘たち。

 他にも評価に値する子はたくさんいるけど……今見るべきは、あの2人だろう。

 

 〈チーム・ポルクス〉所属、サクラローレル。

 そしてトウカイテイオーと同門、ナリタブライアン。

 

 来年のクラシック戦線で、中核となるであろうウマ娘たち。

 

 

 

 その内でもまず目を惹くのは、やっぱりというか、ブライアンの方だ。

 

「うん、ジュニア級とは思えないくらい仕上がってるね。いやホントに」

 

 スタートラインに並び、腕を組んで時を待つブライアンを見ての一言。

 

 これはウマ娘特有の感覚だと思うけど、ある程度走れるようになってくると、相手がどれくらいヤバいかは感覚的に理解できるようになる。

 そんなアタシの勘が、ナリタブライアンは相当にヤるって、そう言ってきてた。

 

 一方ウィルも同じようにそっちを見て、肩をすくめた。

 

「ま、テイオーのトレーナーさんですから。

 フィジカルギフテッドを純粋に育て上げるのに関しては、それこそ歩さん並みでしょうあの人。……いや歩さんには劣るか流石に、三枚くらい」

「普通に失礼」

「いや歩さんは普通のトレーナーさんと比べちゃ百枚上手なので、やっぱりあのトレーナーさんだいぶすさまじいですよ」

「違った、基準が狂ってた」

 

 いやまあ確かに堀野トレーナーさんは狂ってるとは思うけど。

 アタシのトレーナーさんの次にすごいと思うけど。

 

「実際、純粋な体の仕上がりだけだと随一っていうか……モノが違うね」

「ぶっちゃけ2年前のネイチャもあんなもんだったと思いますが」

「いやあそこまでムキムキマッスルではなかったけど? そもそもアタシって策士の頭脳派じゃん?」

「今のシニア級ではおおよそ三本指に入るだろうスペックゴリラを、頭脳派と呼んでいいのなら……」

「ダントツでぶっ壊れたハイパーエクストリームゴッドゴリラが何言ってんだか」

「ウホウホ」

「ゴリラ娘だったかー」

 

 まあどうあれ、だ。

 

 ナリタブライアンは、間違いなく優駿の卵。

 今この瞬間にはアタシたちには届かないとしても……1年後、2年後にはわからない。

 

 そう思わせて来るくらいの才覚を、ひしひしと感じさせた。

 

 

 

 で、その一方。

 恐らくはブライアンの対抗バとして見られるであろう……いや、人によっては本命に見るかな?

 〈チーム・ポルクス〉のサクラローレルはと言えば、だ。

 

「純粋な仕上がりは一歩劣る……かな?」

「あー、まあ、そりゃ無理ですよブライアンちゃん級に仕上げるのは」

「およ、思ったより弱気な台詞じゃん。堀野トレーナーさんならできますとか言うかと思ったけど」

 

 「は? 劣ってませんが? 歩さんに対する非難かそれは???」とでも言われるかと思ってたアタシは、ウィルの苦々しい言葉に梯子を外されたような気になって。

 直後の言葉に、外された梯子を急に戻された。

 

 

 

「流石に本格化して1か月じゃあね……」

 

 

 

「は?」

 

 後頭部に手をやったウィルの言葉に、アタシは目を見開いた。

 

 ……1か月?

 ローレルの本格化が始まったのが?

 

「待った。ブライアン、ほぼ最速で本格化来たって話だったよね。

 ……あの子とローレルで、1年弱くらい、本格化の開始にラグがあるってこと?」

「ええ、9か月くらいですかね。

 元よりローレルちゃんの脚って、無理めな走り方もあってちょっと不安定だったらしくて。

 ここまで無理してきたからか本格化もなかなか来ないし、それならってことで、もっぱら本格化に向けた地道な準備と走法と脚質改善に時間を使ってました。

 で、1か月くらい前にようやく本格化が始まって、これまで仕込んでた分なのか一気に成長して、今はあそこまで至ってるって感じ」

 

 ……………………。

 

 いや、うん、まあ?

 わかってたつもりではあるんだよ。堀野トレーナーは化け物だって。

 

 アタシとトレーナーさんが頭を突き合わせたって、彼のレースへの理解力や洞察力には勝てない。

 なんなら単純な策を比べ合っても勝てないまである。

 

 あの人は……表舞台に立つことが少ないから目立たないってだけで、ウィルと同じかそれ以上の天才。

 あるいは天災だ。ただ一人いるだけで、周囲の環境を激変させる怪物。

 

 そう、理解してた……つもりだった。

 

 だけど、まさか、1か月?

 本格化が始まって1か月で、ジュニア級も終わりって頃のブライアンに迫るの?

 

「やばぁ……」

「まあ、私の歩さんなので。むふん」

 

 流石に絶句したアタシに、ウィルは自慢げに無い胸を張る。

 

 そっかぁ……ローレルこの子、実質入学して1か月くらいの状態なのかぁ……。

 アタシから見ても、既にまあまあ手強そうっていうか、ぶっちゃけブライアン以上に相手にしたくないって思えるくらいなんだけどなぁ。

 

「まあでも、何より見るべきはパワーじゃなくてスキルですよ」

「ふぅん? アタシにそれ言う?」

「言いますとも言いますとも。ネイチャも確かに技術面で強いですが、その中でも策謀に特化してますからね。ローレルちゃんとはだいぶ方向性も違いますので」

 

 へえ、ウィルがここまで言うとは、ちょっと珍しい。

 

 自分が思ったことなら素直に口に出して賞賛する子ではあるけど、そもそもこの子が競走ウマ娘に関して「すごい」と思うこと自体がだいぶレアだ。

 

 当たり前と言えば当たり前だけど、自分にはできなかったり難しかったり、あるいは経験の割に力を出せてると思うからこそ「すごい」わけで。

 史上最高峰の才能を持つ自分の経験や記憶を参照するウィルにとって、それらがどれだけ敷居が高いものかは察しも付くというもの。

 

 流石に本格化して1か月の時点から、総合力でウィルを唸らせるとは思い難いし……それだけの一芸持ち、ってところかな。

 

 「無理めな走り方」って話もあったし、その走りの才覚に体が付いて来ないテイオータイプ?

 ……正直、ウィルのレースを見逃したってことでちょっとテンション下がってたけど、これは思ったより良いものが見れるかもね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ウィルと話してる内、またウィルに負けたってことで悔しがってるテイオーも合流して、アタシたちはいつもの三星メンバーとなった。

 

 正直、レースの方と同じくらいに視線が集まるってのはどうかと思うけど、いい加減慣れたもので。

 アタシたちは、ついに始まった第三レースを気楽に見学する。

 

「とは言っても、今回の勝敗はもう決まってるようなものなんだけどね」

「お、辛辣ゥ」

「辛辣って言ってる時点でウィルムもあの子が負けるって思ってるじゃん」

 

 苦笑するテイオーの言葉を聞きながら、アタシは駆け出していく一団に目をやった。

 

 逃げウマ娘が1人しかいないレースで、何人かは出遅れちゃったけど、バ群は割と纏まってる。

 いや、別にそれが普通だし、なんなら逃げがいないことだって珍しくないのがレースなんだけど……。

 どこかの誰かさんのせいで異形なレースに慣れちゃったから、どうにも違和感があるね。

 

 さて、注目のブライアンはやや後ろ目な先行集団、ローレルはそのすぐ後ろに付いた。

 互いに自然、かつ秀逸な位置取りではあるけど……。

 

 ……見ればわかる。

 ペースをブライアンに合わせてる。ガッツリマークしてるね、ローレル。

 

「〈ポルクス〉では珍しいね、マーク戦法」

「現時点でのローレルちゃんじゃ、自由気ままに走って勝つというのは難しいでしょうしね。

 それにあの子自身、あまり私とかテイオー、あとそれこそブライアンちゃんみたいに、自分らしく走るみたいな感じじゃないっぽいので」

「ふぅん?」

 

 テイオーはちょっと生返事だけど、私からすれば身近な話だ。

 というかむしろ、ウィルとかテイオーみたいな唯我独尊な子こそ例外なんだよ。

 本来レースっていうのは、互いの出方や走りを窺いながら、刹那の勝機を見つけ出すモノなんだから。

 

 ウィルみたいにスペックのゴリ押しで勝ちにいけたり、テイオーみたいに直感で勝機を掴めるのは、本当に例外中の例外と言っていい。

 ……そのはずだ、うん。最近アタシが戦ってるの、そんなんばっかだけど。

 

「ていうかボクたちも、別に他のウマ娘が見えてないってわけじゃないよ。

 先行のボクだって、周りのウマ娘たちがどう動くかなとか、ウィルとの距離どれくらいかなとか、色々見てるんだから」

「大逃げの私も、後方集団はどこまで迫って来てくれてるかなとか、どんな面白い世界見せてくれるかなとか思ってますよ」

「テイオーのは置いとくとしても、ウィルのそれは単純な興味と闘争本能じゃん」

「いやいや、警戒してますって。特にネイチャとかは警戒しとかないと、普通に策中にハマって落ちちゃいかねないですからね。

 まあいざとなれば焼き払いますが」

「テイオーアンタのライバルでしょ、この子の暴虐っぷりどうにかしてよ」

「ネイチャのライバルでもあるでしょ」

 

 

 

 雑談しながらも、アタシたちの視線はレースの動きに注がれてる。

 

 やはりと言うべきか、経験の少ないジュニア級の子たちのレースってこともあって、原始的で捻りのない、良く言えば純粋な力比べの展開だ。

 アタシみたいに周りをコントロールする技量を持った子もいなければ、ウィルみたいに集団から突き抜けた化け物もいない。

 

 ブライアンはだいぶすごいけど、それでもまともにレースが成り立ってはいる。

 彼女は先行ポジションから抜け出しを狙うばかりで、全部ぶっちぎって独走まではしていない。

 

「うん、平和なレースだね」

「ネイチャも大概だよねーその辺り。ジュニア級とは思えないくらいのハイペースだし、多分殆どの子、終盤末脚のキレなくなっちゃうよ、アレ」

「みんなブライアンちゃんを意識してて、結果としてあの子がペースメイクしてますしね。

 ネイチャみたいなタイプが一人いれば、ブライアンちゃんに本領の走りをさせないとかできたんでしょうけど、みんな自分の走りで手一杯って感じ。あ、ローレルちゃんを除く」

 

 ウマ娘には脚質があって、バ群の中の適切なポジションじゃないと、綺麗には走れない。

 

 例えば、逃げウマ娘がバ群に呑まれちゃうと、焦ったり戸惑ったりしてしまうし。

 逆に、後方適性のウマ娘が先頭に出れば、周りにウマ娘がいないことで闘走本能が弱まる。

 良くも悪くも、どんなウマ娘もバ群の中でレースの流れに身を預ける他ないわけだ。……一部例外を除いて。

 

 そして、そのバ群を走らせるペースは、基本的に逃げウマ娘が掌握するんだけど……。

 今回はブライアンがそれを握ってて、他の子たちからするとかなりマズい展開だ。

 

 もしも仮にアタシがこのレースに出ていれば、ウィルの言う通り、みんなの意識とペースをコントロールしてブライアンちゃんが本気で走れないようにしてただろうね。

 ……ま、ジュニア級の頃のアタシじゃ、到底そこまではできないだろうけどさ。

 

 

 

 さて、レースは残すところ600メートルといったところ。

 第三コーナーを回ってついに最終コーナーだ。

 

 ここでブライアンと……それに続き、ローレルが抜け出した。

 

「行ったね」

「やっぱりあの2人だけが残りましたねぇ」

「順当な結果だね。このままシンプルなスペック勝負になれば、ブライアンが勝つけど……」

「ま、きっとそうはなりませんよ。見ててくださいって」

 

 ブライアンは持ち前のパワーで急加速して、バ群を抜け出し。

 対するローレルは、それから一切離されない、完璧な追従を見せた。

 

 正直、「おお」って声が漏れそうな光景だ。

 

「ローレル、純粋な脚力じゃブライアンに勝てないよね? よく付いてけたね、今の」

「ね、それボクも思った。瞬発力すごくない?」

「ふっふっふ……これがあの子の走り。めっちゃ急激で激しい、ペースチェンジによる急加速!

 あの子、足首の使い方めっちゃ上手いんですよ、才能ですねぇ」

「……いやソレ、昔のボクの走りに近いヤツじゃん。大丈夫なの脚部不安」

「なんか歩さんが魔改造して大丈夫にしたらしいですよ。知らんけど」

「胡乱すぎるでしょ、アンタのトレーナーさんとアンタの認識……」

 

 まあ、あの人が大丈夫にしたっていうんなら、大丈夫なんだろう。

 ……ウマ娘が一生抱えて走るべき問題を半年強で解決しちゃうのは、うん、なんかもう凄まじいけど。

 

 

 

 それはともかく、レースに意識を戻して。

 

「あ、ブライアン、ちらっと後ろ見たね」

「意識しちゃいましたねー、はいおしまい」

「え? 何、どゆこと?」

 

 肩をすくめたウィルに眉をひそめ……。

 しかし、次の瞬間、理解する。

 

 ああ、なるほど。

 今回のあの子の勝利条件、それなのね。

 

 だから徹底的にマークして、ガッツリと追い縋った。

 こりゃあ堀野トレーナーさんの作戦勝ちだ。

 

「うわっ気持ち悪っ何アレ」

 

 なんかドン引きしたようなテイオーの言葉に、アタシは改めてローレルの走りを見て……。

 どことなく、違和感みたいなものを覚えた。

 

「ん? なんかペースぐちゃぐちゃしてる? いや、してない……?」

「ふふん、驚いてくれましたか。そう、アレこそがローレルちゃんの変態走法!

 走りの慣性は殺さないまま、一歩ごとに細かくピッチのペースを上げたり落としたりするというよくわからん技法で、ライバルの気配を捉えられるレベルの強者の感性をぐちゃぐちゃに乱す……名付けてランダムギアチェンジ!」

「ジュニア級の頃に培う技術かなぁそれ!?」

 

 先にも考えてたけど、ウマ娘は自分に適した位置を取ることで……言い換えると、他のウマ娘との距離感を適切に保ってこそ、その本領を発揮できる。

 こう拡大して考えれば、ウィルさえも例には漏れない。あの子の領域は昔から、他のウマ娘に迫られてこそ真価を発揮するものだったしね。

 

 だからこそ、自分の後方を走って来る相手から一気に加速して距離を詰めて来る気配がしたと思ったら、逆に急に距離が離れるような気配がする……なんて気配を感じ取れば。

 そりゃあ彼我の距離感を捉えられなくて混乱もするし、調子を崩されるのは道理というものだろう。

 

 これに関しては、実力とか何とか関係ない。

 アタシだって実際に走る中であの子を意識すれば、影響を受けちゃうだろうね。

 

「ウィルとかテイオーには効かなそうだけども」

「そりゃあ、私は足音聞いて距離測れば、実際には等速で走ってるってわかりますし」

「ボクも直感で『気にしなくていいなコレ』ってわかるし」

「ホントになんだコイツら」

 

 大概チートな友達に溜め息が出てしまった。

 

 

 

 ローレルの変則的な走りを前に、ブライアンはペースを乱し、自らの走りをいささか崩して。

 そして残り200メートル、ここで一気呵成に前へ跳び出たローレルに対応しきれず……。

 

 ついには、微かな差ではあれど、かわされて。

 ブライアンも慌てて加速して差し返そうとしたんだろうけど……ここまで酷く揺さぶられたのが響いたんだろう、スパート開始時に比べると加速が緩い。

 

 結果として、半バ身の差を付けて、ローレルが前に出る形でレースを終えることとなった。

 

「おー、見事なジャイアントキリング。徹底したマークと才能に基づく高い技術が光ったね」

「シンプルだけど使い勝手良いよねぇ、走りによる精神干渉。ウィルが言ってた通り、ブライアンはローレルを意識しちゃった時点で負けだったか」

「使い勝手良いとか言うけど、私にはとてもできませんけどね精神干渉。

 ……ていうか、なんでレースしてる最中にマインドコントロールとかできるんですかネイチャたち? バトル漫画の世界の住人か?」

「アンタが言うそれ?」

 

 話をしながらも、当然ながらアタシは、未来のライバルたちを観察していた。

 

 1着を飾ったローレルは、ゴールラインの先で両肩を揺らして息を整えながら、空を見上げてその胸に拳を当ててる。

 

 ……あー、マズい。何か掴んだっぽい顔だ。

 あーいう顔してるウマ娘は、決まってめちゃくちゃ伸びて来るんだよね。

 

 いやー怖い怖い。

 ウィルみたいなバーサーカーでもテイオーみたいな自信家でもない私としては、新たな強敵登場はかなり恐ろしい新事実。

 ……まあ、だからと言って嫌ってわけじゃないのもホントなんだけどさ。

 

 強敵とぶつかり合うのは、悪くない。

 高い障害とぶつかって苦労することでこそ、走りのセンスと技術は磨かれていく。

 煌びやかな星に惹かれ、とても届かないと思えるそれに手を伸ばすには……まだまだ私も、足りないものばかりだからね。

 彼女との走りもまた、きっといつか私の糧にしようとも。

 

 

 

 一方で。

 

「テイオー的に、理解らせってヤツはできたの?」

「うん、良いんじゃないかな。しっかり悔しそうにしてるし」

 

 2着入線したブライアンは、じっとローレルの方を見ていた。

 

 ……いや、見ていた、じゃないね。あの眼光の鋭さは、「睨んでた」が正しい。

 全ての感情が抜け落ちたかのような無表情で、ただただ、視線を外すことができずにいる。

 

 あの子は、2年前のテイオーだ。

 視界にも入れてなかったウマ娘に敗北を喫し、現実を認められない気持ちや羞恥に後悔、何より慚愧が胸に押し寄せていることだろう。

 

 本来ならきっと抱くことのなかった、挫折。

 それを今、ナリタブライアンは味わっている。

 

 けど、結局のところ、ウマ娘を成長させるのは正しくそれだ。

 テイオーが、ウィルが、あるいは堀野トレーナーさんたちが与えてあげたかったのが、それだ。

 

 彼女が程々ではなく、遥か高みへと駆け上って行く未来。

 

 彼女はあるいは、今まさに、それを得ているのかもしれない。

 

 

 

 あー、2人纏めて強敵登場だよ。

 未来の優駿たちにも、しっかり対策しないとね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ちなみに、最終レースでは。

 

「ああああーーーもうっ! トレーナーのおたんこにんじん!! 勝てるわけないでしょ~~~!!!」

 

 叫び散らかす〈チーム・ポルクス〉最後の一人であるブリッジコンプが、ダイイチルビーに9バ身差で敗北して終了した。

 

 ……いや、ドリームトロフィーの、それも最上級のウマ娘を相手に大差付けられず食い下がるって、なかなかすごいことだと思うんだけど。

 他のメンツがメンツだから目立たないけど、やっぱりあの子も、〈ポルクス〉のメンバーなんだねぇ。

 

 

 







 ウィルの能力が規格外に伸びていくのと同じように、堀野君の能力もどんどん向上しています。
 うおっ流石にこれは超常すぎ……。

 後日談なのに長くなりすぎちゃったのは反省しているので、次回からはもうちょっとコンスタントになる予定。



 次回は一週間以内。
 一気に時間は飛んで、おおよそ1年後。彼女たちの決戦の話。
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