転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 その転生者の、物語の終わり。





「ホシノウィルム」

 

 

 

 暗い。

 

 

 

 ……足を緩め、止める。

 

 気付けば、私はそこにいた。

 

 

 

 右を見ても、何もない。

 左を見ても、何もない。

 当然ながら前にもなく。

 ……気付けば、元来た後ろにも。

 

 

 

 そこは暗くて何もない、がらんどうの空間だった。

 

 

 

「……何、ここ?」

 

 口を開くと、冷たい空気が口に流れ込んでくる。

 喉の底まで一瞬で乾いて、痛みすら感じるくらいで……。

 慌てて口を閉じて、ようやく悟った。

 

 ここは、暗くて何もないだけじゃない。

 ……酷く、寒いんだ。

 

 

 

 ここ、何なんだろう。

 そもそも、なんでここにいるんだろうか。

 直前の記憶は……ええと。

 

 ……記憶が混濁している。

 まるで寝不足の頭でものを考えるような不快感。

 泥濘に足を取られるように思考が停滞し……同時、冷たい空気が思索を妨げる。

 

 頭を押さえて、記憶を掘り返す。

 思い出せ。私は直前に、何をしていた?

 

 

 

 私、確か……そうだ。

 私は、宝塚記念を走っていたはずだ。

 

 宝塚記念。

 マックイーン先輩、ライアン先輩、そしてスカイ先輩と一緒に走る、今まででも一番難しいG1レース。

 

 実際、私は……そう、スカイ先輩。

 スカイ先輩にハメられて、彼女に追い抜かれた。

 勝利条件の1つを、満たせなかった。

 

 ……寒い。

 

 それで、焦った。

 スパートをかけないと、完全に置いて行かれる。勝てなくなる。

 

 でも、遅すぎた。

 スカイ先輩に気を取られ過ぎて、スパートの判断を、誤ったんだ。

 そもそもペースが遅いのだから、ロングスパートすべき、って発想が、遅くなった。

 

 それで……ええと、それで。

 

 …………。

 あ、ああ、そうだ。

 

 そう、それで、ライアン先輩と、マックイーン先輩に、追い抜かれた。

 2人とも、スカイ先輩と同じように、領域を開いて……あっさりと、私を抜いていった。

 

 …………寒い。

 

 それで、それで……どうしたんだっけ。

 

 右足が、コーナーの途中で……。

 途中で、どうした?

 

 

 

 私、どうした、んだ?

 

 

 

「さむ、い」

 

 

 

 思わず、呟いた。

 寒い。

 ここは、寒すぎる。

 

 思考が、止まる。凍り付いてしまう。

 

 考えるのは、後だ。

 ここを、出ないと。

 本当に……寒すぎる。

 

 早く……早く、帰らないと。

 

 

 

 帰る?

 

 ……どこに、帰るんだっけ。

 

 

 

「…………?」

 

 

 

 動かない。

 脚が……動かない。

 

 霞む目で見れば……私の脚は。

 凍り付いて、いた。

 

 いや、脚、だけじゃない。

 

 私は、私の体は、既に、凍り付いている。

 

 

 

「さむ、い……」

 

 

 

 動くのは、もう、口と思考くらいで。

 

 私は……。

 

 もう、ここまで、なのかな。

 

 

 

 

 

 

 まったく、さ。

 調子に乗ったものだよね。

 

 私が、最強、とか。

 知っていたはずだ。わかっていたはずだ。

 

 ……私は、何者でもない、ただのモブだって。

 

 

 

 私は、転生者だ。

 別の、ウマ娘のいない世界から、この世界に転生してきた。

 記憶と人格を引き継いで、「アニメ転生」を持って。

 

 けれど、その心も魂も。

 何も特別じゃない、どこにでもいる、モブのものでしかないんだ。

 

 ホシノウィルムなんていうウマ娘は、元々存在しない。

 アニメのどこにも、そんな名前は出てこない。

 ……きっと、実際の歴史を調べても、そんな馬はいないんだろう。

 

 私は、ホシノウィルムという空っぽのアバターに入った、フツーの人間。

 

 そりゃあ、領域なんて得られないはずだ。

 最初から、私には……元になった存在も、心象風景も、ない。

 

 強いて言えば、それこそ、この無。

 寒くて、暗くて、何もない。

 そんな無が、私にはお似合いなんだろう。

 

 

 

 寒さが、思考が染み込む。

 

 脚から伝わる冷たさが、私の心を諦めさせていく。

 

 

 

 ……ぁ、あ。

 

 寒い。

 

 寒い、な。

 

 それに、もう、体も動かないし。

 

 

 

 …………もう、諦めちゃえば、楽になるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ホシノウィルム』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩しい、光。

 

 光?

 

 この、何もない場所に、光?

 

 かろうじて動く視線を、上に向ける、と。

 

 

 

 そこには、私に差し込んでくる、一筋の光が、あった。

 

 

 

 あれは。

 あれは、何だったか。

 

 光は、私の頭に……頭の上に差し込んでいる。

 温かい。

 それと何故か、少しだけ、ゴツゴツしたような感じ。

 

 これは……この感触は、何だったか。

 確かに覚えのある、私の大好きだったもの。

 私の、帰るべき、場所。

 

 

 

 私は知っていた。

 この温かさを。私を温めてくれる何かを。

 

 ……私は知っている。

 今もなお私を信じ、待っていてくれる人を。

 

 …………私は、恋しているんだ。

 私を救ってくれた、実はダメダメで、けれどいつも、私のために頑張ってくれていた……。

 私の契約トレーナー……堀野歩に。

 

 

 

「トレー、ナー……」

 

 

 

 ……わかってる。

 正直、わかってたんだ。

 

 私は、この世界にいちゃいけない存在なのかもしれない。

 本来あるべき運命を乱す、川に落ちて来た岩なのかもしれない。

 川は、正常な流れを取り戻すために、岩を押し流そうとする。

 そしてそれは至極当然のことで、むしろ私の方が悪者なんだろう。

 

 どうしたって、レースに勝てるのは1人だ。

 私がいれば、そして私が勝てば、負けるウマ娘が出てくる。

 本来勝つべきだったウマ娘が負けることも、起こってしまう。

 ……「無意味な曇らせは嫌い」なんて言いながら、私は存在するだけで、多くのウマ娘に本来生じるはずのなかった悪感情を与えてしまう。

 

 ……ここで私が消えるのが、一番自然で、一番合理的で、一番道理なんだろう。

 転生チートウマ娘なんて……本来、存在するべきじゃないんだ。

 

 

 

 ……でも。

 

 それでも、私は。

 

 

 

「あなたと、勝ち、たい……!

 このレースに……これからも、ずっと……!!」

 

 

 

 凍り付いていた体は光に温められ、少しだけ動くようになっていた。

 

 だから、手を、伸ばす。

 

 あの光に。私を導いてくれる、光に。

 

 

 

「私、だって……ウマ娘だ!

 この世界に生まれた、ウマ娘なんだ……!!

 勝ちたいんだ……誰かを、負かしてでも……!!」

 

 

 

 このまま、止まってたまるか。

 

 私は勝つって言ったんだよ。宝塚記念にも、トレーナーにも。

 

 ……世界が、私を認めなくても。

 

 誰かが私を否定しても。

 

 彼が、私の勝利を信じてくれる限り。

 

 止まるわけには、いかないんだ!

 

 

 

「『私』は……『ホシノウィルム』は、こんなところで折れたりしないんだよッ!!!」

 

 

 

 手を、光に向かって伸ばした瞬間。

 

 

 

 

 

 

 私を包んでいた雲が、晴れた。

 

 

 

 

 

 

「ここ、は……」

 

 呆然と、周りを見渡す。

 そこは既に、何もない暗い空間じゃない。

 

 

 

 満天の、数えきれない光が……星が、私を包んでいる。

 

 

 

『行けーっ!!』

 ある星は、私に進むことを求めてくれた。

 その願いが、熱となって私に降り注ぐ。

 

『差せ、差し返せー!!』

 ある星は、私に逆転を望んでくれた。

 その願いが、熱となって私に降り注ぐ。

 

『行ける、絶対行ける!!』

 ある星は、私を信じてくれた。

 その願いが、熱となって私に降り注ぐ。

 

『常識破ってくれーっ!!』

 ある星は、私に型破りな未来を見てくれた。

 その願いが、熱となって私に降り注ぐ。

 

『蛇、頼む!!』

 ある星は、私に期待を寄せてくれた。

 その願いが、熱となって私に降り注ぐ。

 

『逃げて差せーっ!!』

 ある星は、私に熱中してくれた。

 その願いが、熱となって私に降り注ぐ。

 

『初のクラシック級グランプリウマ娘になって!!』

 ある星は、私の明るい未来を想ってくれた。

 その願いが、熱となって私に降り注ぐ。

 

『諦めるなぁーっ!!』

 ある星は、私を奮い立たせてくれた。

 その願いが、熱となって私に降り注ぐ。

 

『怪物を継ぐ走りを見せてくれー!!』

 ある星は、私に過去を重ねてくれた。

 その願いが、熱となって私に降り注ぐ。

 

『勝って、ホシノウィルムーっ!!』

 ある星は……勝利を、夢見てくれた。

 その願いが、熱となって私に降り注ぐ。

 

 

 

「星が……私を……」

 

 その星たちは、数えきれない星たちは、最初からそこにあったんだ。

 ただ私が、自分で雲をかけて、それを見ていなかっただけ。

 

 ずっとずっと、数えきれない……それこそ何万、何十万という人々が、私に望み、願い、祈ってくれる。

 私の勝利に喜び、私の不運に怒り、私の故障を哀れみ……私のレースを楽しんでくれる。

 ……私を、見て、くれている。

 

 私は……最初から、とっくの昔に。

 世界に、愛されていたんだ。

 

 

 

『……ウィルちゃん、頑張れー……!

 ……ずっと頑張ってたあなたなら、行けます……!』

 

 彼方にぼんやりと見える星は、そう言っていた。

 大声を上げるのは得意じゃないだろうに、必死に声を張り上げて。

 その応援は誰よりも実感を伴って、私の脚の強張りを解いた。

 

 ずっと前からの付き合いで、ずっと私の面倒を見てくれた先輩。

 感謝してもしきれない、私の大好きなウマ娘の1人。

 

 ミーク先輩の願いは裏切れない。

 1年半の間、面倒な後輩を辛抱強く支えてくれた恩。

 それを返すためにも……早く、行かないと。

 

 

 

『ウィルム!! こんなトコで負けないでよ!!

 ボク以外に負けるなんて許さないぞーっ!!』

 

 煌々と光り輝く星は、そう言っていた。

 ……まだ脚も治り切ってないだろうに、来てくれたんだ。

 その泣きそうなくらいの……いや、必死の涙声を聞けば、自然と心が温まる。

 

 こんなにも必死に、ライバルの勝利を望んでくれる。

 自分が打ち倒すべき相手であり、同時に競い高め合う友達だから。

 

 ……その期待に応えるよ、トウカイテイオー。

 私が得た、最強のライバル。

 またあなたと走って、またあなたに勝つために。

 

 

 

『ウィル、行けぇぇぇえええッ!!

 壁なんてぶっ壊せぇぇぇえええ!!』

 

 鈍く、けれど強く瞬く星は、そう言っていた。

 喉を壊しかねない絶叫なんて、アイドルでもあるウマ娘としてあるまじきことだけど……。

 複雑な言葉なんてない、ただただ私の前進を願ってくれる声を聞けば、脳に震えるほど血が上る。

 

 あなたは、私が今世で得た、最高の友達だ。

 いつも相談に乗るし乗ってくれる、話をし出せば限りがない、そして競い合い高め合える、最初で最後の親友だ。

 

 ただその無事と勝利を願い、少しでも背中を押そうと声を上げてくれる。

 だって、自分にとっての星、暗い世界の道しるべだから。

 ……私にとって、ナイスネイチャがそうであるようにね。

 

 

 

 そうして。

 私にとっての一等星が、強く強く、言っていた。

 

『負けるな、ホシノウィルムーーッッ!!!』

 

 ……あぁ。

 やっと、やっと聞けました。

 堀野のトレーナーじゃない、「堀野歩」の叫び。

 あなたの、本当の心からの言葉を。

 

 私を救ってくれた人。

 私が恋する男性。

 ……私の、契約トレーナー(うんめいのひと)

 

 あなたが望むのならば。

 ……いいえ、あなたと私の望みだから。

 

 

 

 勝ちましょう、一緒に。

 

 

 

 1歩、踏み出す。

 もう体は冷たくない。寒さなんてどこにもない。

 

 私の世界(りょういき)は完成されてる。

 暗い(からっぽ)を、何万何十万という星々(ねがい)が照らし、温めてくれる。

 

 もはや、どこにも不足はない。

 私はどこまでだって行けるんだ。

 

 だから、歩き出して……。

 

 

 

 

 

 

『────。』

 

 

 

 

 

 

 背後からかけられた言葉に、足を止めた。

 それは、もうこの世界に知る者のいない名前。

 私が「ホシノウィルム」に目覚める前に、私を産んでくれた誰かが付けてくれた幼名。

 

 振り返れば、そこには……2つの星があった。

 

 遥か遠くに光る、2つの星が。

 

 

 

「お父さん、お母さん……」

 

 

 

 懐かしい、気持ちになった。

 

 その名で呼ばれたのは、もう10年ぶりだ。

 私はその名前が好きだった。

 綺麗で、澄んでて、美しい名前だって気に入っていた。

 

 ……思えば、私たちが破綻しちゃったのは、呼ばれる名前が変わってからだったね。

 私が大したウマ娘じゃない、競走ウマ娘以外の道を行くような女の子だったら……。

 もしかしたら2人は、今でも笑顔で生きていたかもしれない。

 

 でも、そうはならなかった。

 私は転生者で、母はその能力に嫉妬してしまい、父は母の死を受け入れられなかった。

 

 誰が悪かったかで言えば、この素敵な世界に侵入してしまい、秩序を乱した私が悪いんだろう。

 

 

 

 ……それでも。

 私は今、生きている。

 

 ごめんね、お父さん、お母さん。

 そこに行くことはできないんだ。

 私は、生きたい。

 私を拾ってくれたトレーナーと、これからも生きていきたい。

 

 

 

「ホシノウィルムを産んでくれて、ありがとう。愛してたよ、2人とも。

 でも、私は前に進みたい。ここで止まってはいられないんだ。

 だから……そこから見ていて。

 あなたたちの娘が……2人に誇れる、最高のウマ娘になっていくところを」

 

 そう言って、再び前を向く。

 もう、振り返らない。

 

「それじゃ、行ってきます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『行ってらっしゃい』

『頑張るんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……っ。

 

 私は、前を向いて、駆け出す。

 

 彼方に見える、導きの星に向かって。

 

 満天の星の中、まるで(そら)を飛ぶように……。

 

 どこまでも、遠くへ。

 

 限りない、未来へ。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 駆け抜けた星の宙は、いつしかターフの上に戻っていた。

 けれど同時、私の世界は眼前に広がったまま。

 

 これが……領域。

 なるほど、確かに……全てが変わった気がする。

 

 焦りもない。悔いもない。不調もなければ疲れもない。

 感じるのは、ただただ充足感と、楽しさ。

 

 自分の全力をぶつけるに足る相手。そんな相手と共に走るレース。

 それは何て素敵で、何て輝いて、何て満ち足りているんだろう。

 

 

 

「トレーナー」

 

 再び目が合ったトレーナーは、寸前とは違い、覚悟の決まった目をしていた。

 誰よりも私を信じ、勝利を願ってくれる、堀野歩の目をしていた。

 

 ……ええ、その願いを叶えます。

 私はあなたの、担当ウマ娘。

 あなたが鍛え上げた、最強のウマ娘。

 ……そして、他の世界から転生してきた、転生チートウマ娘だもの。

 

 負ける道理なんて、どこにもない!

 

 だから……今!

 この、楽しいレースで!!

 

「勝ちます!!!」

 

 

 

 瞬間。

 脳内に情報が溢れた。

 

 

 

 ……いや、溢れたって表現は正しくなかった。

 それだと抑えきれない、とか処理しきれない、みたいなニュアンスが含まれてしまうもんね。

 より正しくは……そうだな、視野が広がった、という言葉が近いだろうか。

 

 いつもの何倍も、ターフがよく見える。

 揺れる芝の1本1本、そこに照り返す日光、隙間から覗く地面。

 その全てが、よくわかる。

 

 勿論、それだけじゃない。

 10バ身どころじゃない、とんでもない広さに聴覚の範囲が広がる。

 その上、より正確に聞き取れる。

 ……もうこれ、聞き取れるって次元じゃないな。

 そこでした足音の反響から、どんな角度で地面を蹴り飛ばしたかとか、蹄鉄やシューズのフィット具合まで察することができる。

 ひょっとして私、ウマ娘からコウモリ娘になったんじゃないかって疑うほどだ。

 

 他にも……五感が極めて鋭くなっているのを感じる。

 その上、大きな情報に弱くなっているような気もしない。

 多分、強い光や音に怯むようなこともないだろう。

 

 なんだこれ、どうなってる?

 

 

 

 ……あぁ、なるほど、理解した。

 これは、五感が鋭くなってるんじゃないな。

 いや、鋭くなってるのは間違いないんだけど、それ以上に……。

 

 私の思考力が、とんでもなく加速しているんだ。

 

 

 

 いや、正直ね、ちょっと思ってはいたんだよ。

 私、転生チートウマ娘にしては弱くない? って。

 

 普通、いや転生モノに普通を求めるのはナンセンスかもしれないけど、普通転生者っていうのは段違いに強いものだ。

 誰もが有限の回数しかできないことを無限にできるとか。

 普通の人の何百倍っていう魔力があるとか。

 無限に何かを生み出せるとか。

 そういう、物語の根底を覆すレベルの何かを持っていることが多いのだ。

 

 それに対してホシノウィルムの転生特典、ちょっとショボくない?

 だってただ体が強いだけだよ?

 それも、走り方間違えたら簡単に負けるんだよ?

 正しい走り方で、最高の相棒に鍛えられても、それでもなお負けかけたりするんだよ?

 

 「転生チートウマ娘」って言うにはちょっと……いやかなり弱い。

 強いて言えば、「転生かなり強いウマ娘」くらいだろう。

 

 でも、ようやくわかった。

 私は確かに転生特典を持っている。

 だけど、体が強くなるのはオマケ程度でしかなかったんだ。

 

 

 

 転生特典の本体は……この、レース中の圧倒的な思考能力の上昇だ。

 

 

 

 思えば、確かにその片鱗はあった。

 レース中、やけに周りがよく観察できたり。

 相手までの距離やコースの残り距離を、かなり正確に測れたり。

 不自然なくらいに耳が良くなる……つまり聴覚情報の処理能力が上がったり。

 あれは全部、この封じられた転生特典から漏れだしたものだったんだ。

 

 では何故、転生特典が封じられていたのか、については……。

 まぁ、うん。

 今思うと、なんで気付かなかったんだって感じだけど……。

 お父さんだ。

 

 負けられないという氷のような呪縛。「寒さ」。

 あれは謂わば、めちゃくちゃ緊張してめちゃくちゃ集中する、っていう状態。

 緊張すれば、当然思考能力は硬直し、働きにくくなる。

 更に思考の集中というのは、つまり思考力という水を1つのパイプのみに流す行為なわけで。

 

 うん、つまりはそういうことなんだ。

 私、海みたいな量の膨大な水を緊張でカッチカチに凍らせて、その上残ったのも、全部細いパイプにだけ流し続けてた。

 要は、すっごい無駄使いしてたっぽい。

 

 ……お父さんさぁ。

 いや、お父さんは別に悪いわけじゃないよ?

 悪いわけじゃないんだけど……お父さんさぁ。

 

 はぁ……まぁいいや、今はすっかりこの思考力を使えるわけだし。

 お父さん、そっちで反省しててね?

 娘に変な思考植え付けちゃったこと。

 あと何より、ちゃんと娘を見てあげられなかったこと!

 私もこっちで、お母さんを救えなかったこと、ずっと反省してるから。

 これでおあいこ、ね!

 

 

 

 ……さて、ここまでは平行して進めていたサブの思考。

 すごいね、全体の1%足らずで、いつも通りの思考ができるなんて。

 それも、まだ次の1歩が地面に付いてないよ。どこまで加速するんだこの思考は。

 

 で、一方。

 それを除く99%、メインの思考力は今、このレースの考証に費やしている。

 

 今私が立っている場所、そして1歩先以内の範囲の芝の状況。

 ここから先、ゴールまでの進路。

 メジロマックイーン先輩、メジロライアン先輩、そしてセイウンスカイ先輩との距離。

 後方から詰めて来ようとしているウマ娘たちの足音。

 使える策と使ってくる策。

 私が今使える、最良のスパート方法。

 ……故障を起こしかけている、右足のこと。

 

 それらを纏めて、最も効率よく勝つ方法を考察する。

 

 

 

 そうして、次の1歩が地面に着くまでに、結論が出た。

 

 ここからセイウンスカイ先輩を差し切れる可能性は、おおよそ1000分の17。

 つまり、脳内で想定できる1000回の内17回、勝つパターンを発見した。

 

 その内で、最も右足に負担がかからず、かつ何かされても確実に勝つパターンを採用。

 

 さぁ、準備は整った。

 

 ファンの期待、友の声、彼の願い。

 

 それらに応えに……行くぞ!!

 

 

 

『ここまでかホシノウィルム、灰の蛇は……いえ、最終直線で再加速!

 出ました、怪物を継ぐ前傾姿勢! 逃げた末の差しは、メジロの2人とトリックスターに届き得るのか!?』

『日本ダービーの奇跡は再び起こるのか!? もはや彼女に不可能という言葉は通用しない!』

 

 

 

 ……すごいな、普段はぼんやりとしか聞こえない実況解説の声までクリアに聞こえるよ。

 それにしても、はっずかしいコト言うなぁ。

 不可能という言葉は通用しない、だってさ。

 ま、今からそれを事実にするんだけど。

 

 

 

 私を中心に、星の宙が広がっていく。

 それはすぐにマックイーン先輩とライアン先輩の領域とぶつかり合い、削り合った。

 

 

 

 マックイーン先輩の領域は、高貴の世界だ。

 自らの高貴さとその責務を理解し、それを果たすべく走り出す。

 彼女の持つ誇り高い精神が形になったような領域。

 

 削り取った世界の欠片から、彼女の想いが伝わって来る。

 

『負けるわけにはいきませんわ!

 メジロのウマ娘として……いいえ、一人のウマ娘として!

 この勝負、譲れない!!』

 

 ……負けるわけにはいかないのは、こっちだって同じだ。

 

「っ!」

 

 ほんの一瞬、並ぶこともなく芦毛の彗星を追い抜かす。

 

 

 

 メジロライアン先輩の領域は、鍛錬の世界だ。

 自らを鍛え上げ、彼方にいる誰かを目指し、その背を超えるべく走る。

 憧れと、劣等感と、それらを超える夢の詰まった領域。

 

 削り取った世界の欠片から、彼女の想いが伝わって来る。

 

『この距離じゃ、負けられない!

 憧れるだけじゃない、あたしだって、1人のウマ娘として……!

 このレースに勝って、スターウマ娘になるんだ!!』

 

 ……その夢は、ここで破る。

 

「くっ……!」

 

 ほんの一瞬、並ぶこともなく鹿毛の流星を追い抜かす。

 

 

 

 負けられないのは、誰だって同じだ。

 願いに貴賤はない。誰の願いも尽く平等であり、等価値。

 だからここにあるのは、正義じゃない。

 

 私たちの燃料は、ただのエゴイズム。

 ただ自分が勝ちたいという、それだけの感情だ。

 

 それをぶつけ合い、競い合い、潰し合う。

 勝つのはただ1人で、残りは全て敗者。

 夢も希望も全てバラバラに砕いて、残るのは僅かな喜びと、膨大な涙だけ。

 

 ……でも、それでいいんだ。

 

 それこそ、私たちの本能。

 誰かを負かしてでも勝ちたい。

 

 ただ……誰より速く、駆け抜ける。

 

 それこそが、ウマ娘が生まれて来た意味なんだから!

 

 

 

『なんということでしょう、クラシック級ホシノウィルム、ほんの100メートルでメジロマックイーン、メジロライアンを纏めて撫で切った!?

 彼女は本当にクラシック級なのか!? その速さはもはや天井知らず、セイウンスカイまであと2バ身!!』

『もはや常識の埒外と言う他ありません! これが型破りの蛇の実力!! これが無敗二冠の実力!!』

 

 

 

 ゴールまであと200メートル、先頭セイウンスカイ先輩まで2バ身差。

 この距離感なら、余裕を持って詰め切れる。

 

 ……とは、思えない。

 

 速度を緩めないまま、むしろ上げ続ける。

 

 スタミナは問題なく、足りる。

 前半で飛ばさずに温存した上……今の私なら、その消耗を大きく削ることができるから。

 足が地面を踏みつけ蹴り上げる、その角度と力の流れを完璧にコントロールすることができれば……。

 上から下へと、受け流すだけだもの。過度に疲れることはない。

 

 ……問題があるとすれば、右脚。

 脚に負担をかけない走りとはいえ、完全にゼロにはできない。

 どこまで負担をかければ、耐えきれなくなるだろう。

 首の皮1枚で繋がっているこの脚が……果たして最後まで持つのか。

 

 いや、持たせる。

 絶対に、絶対に、私は……負けない。

 

 このレースにも、スカイ先輩にも、トレーナーにも……運命にも。

 

 

 

 すぐにスカイ先輩までの距離が縮んだ。

 あと、1バ身もない。

 このまま行けば、残り100メートル弱で、私は差し切れる……。

 

 

 

 ……もしも、スカイ先輩が無策なら、の話だけど。

 

 

 

「来たかっ! ……でも、ここからぁ!!」

 

 

 

『差し切られるかと思われたセイウンスカイ、更に伸びる!

 もはや別次元! 5番手以下を大きく引き離し、別次元の戦いが繰り広げられている!!』

『淀の坂を越え3200メートルを逃げ切ったスタミナは伊達ではないぞ!!

 セイウンスカイ逃げ切るか!? ホシノウィルム差し切れるのか!? それともメジロライアンが差し返すか、メジロマックイーンが伸びるか!?』

 

 

 

 わかっていた。

 セイウンスカイ先輩は、ここで甘えさせてはくれないさ。

 

 第一のトリックは、足音を消して私を交わし切り、領域を展開したこと。

 ……そして第二のトリックは、真似ていた他人の走りのコピーをやめて、本来のスペックを取り戻すこと。

 

 このままなら詰め切れるという油断。

 直後に繰り出される、彼女の本当の力。

 再び広がる差に絶望し、もう無理だと諦めてしまう……。

 

 それこそが、彼女の敷いたレース展開。

 トリックスターの必殺の策。

 

 ……けれど。

 

 こっちは転生チートウマ娘なんだよ。

 その程度の策なんか、スペックだけで跳ね返してやる。

 

 

 

「すぅぅぅ……」

 

 大きく大きく、息を吸い込んで、酸素を取り入れる。

 最後の小休止だ。

 

 キラキラと星が輝く中、思考を回す。

 ウマ娘。人間の体をし、馬の力を持つ存在。

 その体の形と、筋肉、関節、骨格、全身に巡る血管、心臓、肺。

 

 その全てを組み上げて、生み出す。

 

 

 

 「私の理想の走り」を。

 

 

 

 ……見えた。

 

 全身全霊、天星のスパート、開始。

 

 

 

 強く、芝を踏みしめる。

 この体に出せる、限界出力。

 それを余すことなく大地に伝えて、渾身の力で蹴飛ばす。

 

 不思議と、大きな音はしなかった。

 そのエネルギーのほとんどが、私を前に進める力になる。

 

 

 

「っ! 負ける、もんかぁぁあああッ!!」

 

 

 

 勿論、スカイ先輩もただでやられるほど楽な相手じゃない。

 長い経験と研究で培ってきたんだろう、全身全霊。

 不意打ち的に追い抜けた2人とは違って、その差はなかなか縮まない。

 

 ……やっぱりすごいな、スカイ先輩は。

 領域は、展開できる時間に限りがある。

 当たり前の話、超集中状態なんて保ち続ければ脳も体もパンクしてしまうから。

 

 彼女の領域は、私が迫った時には、もう閉じてしまっていた。

 

 だから今、彼女は領域に入れていない。

 私の領域に一方的に呑み込まれ、それでもなお、私とそう変わらない速度を出している。

 

 ……まったく、何がトリックスターだよ。

 そもそも最初から、めちゃくちゃ強い。

 トリックなんてなくても勝てるような秀才じゃないか。

 

 

 

 だが、それでも。

 

 

 

 私は、愛されている。

 多くの人に、この瞬間も。

 

 全部、聞き取れるよ。

 私の勝利を望んでくれる声。私の幸せを願ってくれる声。

 ……そして、大事な人の、叫びが。

 

 その全てが星となり、私を照らし、背中を押してくれる。

 だから、負けない。

 

 

 

 ホシノウィルムは、負けない!!

 

 

 

『なんという末脚だ、この2人は本当に逃げウマ娘なのか!?

 互いの末脚がぶつかり合う、短距離レースと見紛うようなペースだ!!

 後ろからメジロマックイーン、メジロライアンも猛追を見せる!!』

『迫る迫るホシノウィルム!! 宝塚記念の勝利は目前だ!!

 残り50メートル、スポットライトを浴びるのは彼女なのか!?』

 

 

 

 星々が、輝く。

 数多の夢が、勝利への道筋を照らし出す。

 

「これが……ッ」

 

 ゴールの先で私を待つ、最も光り輝く星。

 あの一等星が私を導く限り。

 私はもう、惑わない。

 

「これが、ホシノウィルム、だぁぁぁあああッッ!!」

 

 

 

 葦毛の巨星を、かわして。

 

 

 

 

 

 

 私は、ゴール板の前を、ただ1人、駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

『今、ホシノウィルムが1着でゴォォオオルイン!!!

 信じられません、ホシノウィルム、ホシノウィルムです!!

 クラシック級王者ホシノウィルム、宝塚の主役を勝ち取り、ファンの夢と願いを叶えた!!

 史上初の宝塚記念クラシック級勝者はこの子、ホシノウィルムだーーっ!!!』

『2着はセイウンスカイ、3着はメジロライアン!

 見事に古豪と最優、そして隠れた実力者を差し切り、彼女に不可能がないことを証明してみせました!!

 地を這う蛇は天に昇り、空を舞う龍へと生まれ変わった!!

 伝説はまだまだ続く、果たして彼女はどこまで私たちに夢を見せてくれるのでしょうか!!』

 

 

 

 ……終わった。

 あぁ、終わってしまった。

 

 なんて……なんて勿体なくて、残念な。

 もっと走っていたかった。

 ずっとずっと、このとんでもなく強い先輩と、走っていたかったのに。

 

 星宙の領域が緩み、霧散する。

 こっちも残念だ。……また次のレースで、この光景を見たいものだね。

 

 足を緩めて立ち止まる。

 そして……スタンドに向き直った。

 

 

 

 そこには、私を支えてくれた、たくさんの煌めきがあった。

 たくさんの熱が、たくさんの想いが、たくさんの愛が、私に注がれていた。

 

 領域が閉じ切ってしまった私には、もうそれら1つ1つを聞き分けることができないけれど……。

 でも、皆が祝ってくれているのは、よくわかった。

 

 

 

 ……そうか、私、勝ったんだ。

 宝塚記念にも、スカイ先輩たちにも、トレーナーにも……自分の運命にも。

 

 

 

 それをようやく自覚すると共に、心の底から堪え難い熱が沸き上がる。

 

 勝った。

 

 勝った、勝った、勝ったんだ!!

 

 不可能と言われるレースに。

 トレーナーさえ困難だって言っていたレースに。

 強敵たちとのレースに。

 ……勝ちたかった、このレースに!

 

 その歓喜は容易く自制を突き破って、私は感情のままに、右腕を突き上げる。

 

 どっ、と。空気が揺れた。

 

 ……はは、すごい歓声だ。

 

 ありがとう、皆。

 本当に、ありがとう。

 皆のおかげで、私は今、ここに立ってるよ。

 

 

 

『右手を突き上げたホシノウィルム!

 その勝ちタイムは……2分11秒、2!!

 異次元の逃亡者しか破ることのできなかった12秒の壁を破り、今!!

 新たなる伝説、新たなるレコードがここに誕生!!

 異次元を継ぎ、異次元を超えて、今、彼女は自らの唯一性を証明しました!!!』

 

 

 

 * * *

 

 

 

 地下バ道。

 ターフの上から降りて、控室に戻る過程で、私はいつも通りその人の姿を発見した。

 

 堀野歩。

 私の契約トレーナーであり、私を導いてくれる一等星を。

 

「トレーナー!」

「走るなよ」

「……はい」

 

 なんだよ、今日くらいは盛り上がってもいいじゃん。

 ちぇっ、と内心拗ねながら、でも彼の意見は至極もっともなので、仕方なく歩いて彼の下に向かう。

 

 と、そう思ったけど……。

 私が行く前に、トレーナーが駆け寄ってきてくれた。

 いつも私が歩み寄るまで、そこで待っていただけだったのに。

 ……へへ、それだけ認めてくれたってことかな。

 

「やったな、ホシノウィルム」

「はい、やりました、トレーナー」

「違うわ。前傾スパートだ。君、やっちゃったな」

「…………」

 

 いやまぁ、確かにやっちゃったけどさぁ。

 でもあれ、前傾スパートじゃないもん。それを改良した天星スパートだもん。

 

 カッコ良くない?

 天の星に導かれるスパートだから、天星スパート。

 我ながら最高のネーミングセンスだ。へへ。

 

 ……いや、そうじゃなくてさ。

 

 史上初、クラシック級の宝塚記念勝利、とかさ。

 あのマックイーン先輩、ライアン先輩、それにスカイ先輩に競り勝った、とかさ。

 色々褒めること、あるよね?

 責めるより先にさ。

 ね?

 

「まぁいい、とにかく明日精密検査だ。

 それまでは『おかえり』も、頭撫でも、ご褒美権も、全て延期だな」

 

 ……もう、本当、この人は。

 好きな人に褒められたい乙女心ってヤツに、気付いてくれないもんかねぇ。

 

「……あの、何と言うか、もう少し他にありませんか?

 私、頑張って勝って来たんですけど」

「勿論あるとも」

 

 そう言うと、トレーナーは……。

 その場に片膝をついて、私に視線を合わせた。

 

 

 

 ……え、えっ。

 何、何何何!?

 

 いつも以上に近くなった顔にドギマギしていると、トレーナーはゆっくりと私の手を取った。

 あぁ、あったかゴツゴツで気持ちい……。

 じゃなくて!

 何!? 何なの!?

 

「俺は、最初の最初、大きな間違いを犯していた。

 誰であろうと支える、などと……たとえそれが堀野の家訓であろうと、思うべきではなかった。

 トレーナーと担当ウマ娘は、無二の関係だ。

 俺は……その言葉の本当の意味を理解できていなかった」

 

 そう言って、トレーナーは真面目な顔で、私の手を、両手で包み込んだ。

 

「今回のレースで、君の最後の走りを見て、思った。

 俺は、君がいい。

 君を育てたい。君がこれから勝つ、勝ち続ける姿を見ていたい。

 だから……いや、君からすれば今更な言葉に聞こえるんだろうけど。

 どうか俺と、一緒に歩んでほしい。

 俺を、君のトレーナーにしてほしいんだ」

 

 …………。

 

 はぁ、もう。

 ズルい人だ、本当に。

 

 いつもいつも、言ってほしいことを言ってくれる。

 私が望むことを、自然にやってくれるんだから。

 

 思わずニマニマしかける頬に活を入れて、努めて無表情を保って……。

 よし。

 

「勿論です。

 そもそも、勝負の約束ですよ。私が宝塚記念に勝ったら、あなたは自分の努力を認め、私をあなたのウマ娘にする。

 それはきちんと……果たしてもらいますとも」

 

 言ってて恥ずかしくなってきた。

 いや、耐えろ私。

 これめっちゃ大事なとこだから。

 

 堀野歩トレーナーにとっても、競走ウマ娘ホシノウィルムにとっても。

 きっと、一番大事な瞬間になるんだから。

 

「……コホン。

 私も……ええ、私もあなたと勝ちたい。

 あなたに付けられたトレーニングと作戦で、これからずっと勝ち続けたい。

 だから、堀野歩さん……」

 

 そっと、彼の横に張り付いて。

 その耳に囁く。

 

 

 

 ……まったく、私もチョロいもので。

 

 彼にだけ……。

 本当の私を知ってほしいって、思ってしまった。

 

 

 

「私を……いや、ホシノウィルムを、これからもよろしくね」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 これ以上ない、最高のハッピーエンド。

 それが「私」の物語の終わりだ。

 私はもう何も特別じゃない、ちょっと前世の記憶とすごい力を持っただけの、この世界に生きるウマ娘だ。

 

 これからも、嫌なこととかキツいこととか、きっとたくさんあるんだろう。

 私の存在が歴史を歪めたりすることも、きっと起こってくるんだろう。

 

 ……それでも、私は。

 堀野歩トレーナーと一緒に……。

 ホシノウィルムとして、この世界を生きていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、次の日。

 

「折れてますね」

「え?」

「は?」

「いや、脚、綺麗に折れてますよ。ひとまず入院しておきましょうか。

 菊花賞は……残念ですが、難しいでしょうね」

 

 ……いや、こんな締まらない終わり方なの、「私」の物語!?

 

 

 







 コンディション改善!
 「命がけ」が「一所けん命」になった!

 「命がけ」
 ステータスが上昇しやすくなり、レースの際一時的に絶好調になる。
 ただし体力の消費量が上がり、トレーニングに失敗したりレースで事故を起こした際、致命的な故障が発生することがある。

 「一所けん命」
 ステータスが上昇しやすくなり、レースの際一時的に絶好調になる。
 ただし体力の消費量が上がる。



 コンディション解消!
 「愛嬌×」が治った!



 コンディション解放!
 「切れ者○」が「切れ者◎」になった!






 この時点での相互評価

トレ→ウマ:俺の担当ウマ娘。
ウマ→トレ:私の契約トレーナー。



 本編第一部「ホシノウィルム」終了です。

 第一部の最終章も終わったことですし、おまけ回などを挟んだ後、第二部のプロローグを始めましょうか。
 「転生者の『私』の物語」が終わっても、「転生者2人のお話」はまだまだ続きます。
 どうぞこれからも、2人にお付き合いいただければ幸いです。



 次回は3、4日後。誰かの視点で、菊花賞前半の話。



(追記)
 誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!
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