転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 百合かと思ったらハーレムかと思ったら直火で炙った焼きとうもろこしだった。
 これはガンダムだ、私がそう判断した(判断が遅い)。 





ズッコケ三星組

 

 

 

 不幸中の幸い、と言うべきか。

 ホシノウィルムの故障は、骨折という分類の中ではかなり治りの早いものらしい。

 どうやら実際に折れてから検査を受けるまでの時間が非常に短かったらしく、競走ウマ娘の骨折後の状態としてはとても良好なものだったとのこと。

 どれだけ遅くても今年中には復帰できるのだ。一度の骨折で選手生命を奪われるウマ娘が多数いることを思えば、これは僥倖だと言えるだろう。

 

 さて、ホシノウィルムは今まさに、その負傷の療養期間なのだが……。

 骨折の治療というものにも段階がある。

 

 今回は複雑な骨折ではなく手術の必要もないので、最初は骨折部位をギプスで固定する保存的治療を行う。

 ……とはいえ、彼女の場合痛みもほとんどないようなので、2、3日経てば松葉杖付きで出歩くこともできるだろう。

 この際、負傷部位を痛めない程度に周辺の筋肉や関節を伸ばす程度の軽い運動を行っておくとリハビリに効果的らしい。

 

 1か月強経てば、ある程度骨が固まり、ギプスを外しても良い程度の状態になる。

 ここからが本格的なリハビリの始まり。

 硬くなってしまった関節をしっかりと伸ばし、体を解しておく。

 勿論過度な運動は厳禁だ。脆くなっている骨を再び折りかねないからな。

 

 で、3か月程度で骨が完全に癒合する見込み。

 ここまで来れば、もう動いても大丈夫。

 ただし体はかなり弱っているので、かける負荷を少しずつ上げていき、長い時間をかけて以前と同じ状態にまで体を仕上げ直さなければならない、のだが……。

 

 彼女が入院したのは6月11日。ここから3か月後は、9月11日。

 ……そして、彼女が出走を望む菊花賞は、10月27日。

 その間に空いた期間は、おおよそ1か月半。

 その時間で、彼女が果たしてどこまで以前の走りを取り戻せるかは……。

 彼女の体の丈夫さと、天運と……そして俺次第、というわけだ。

 

「……ひとまず、リハビリに関しても兄に相談しようか」

 

 こういう時身内に医療従事者、それもウマ娘方面に強い人間がいると安心感が違う。

 文字通り、使えるものは親でも使って彼女の復帰をサポートせねば……。

 

 ……あ、そうか、その方法があったか。

 

 今は繊細な時期だから無理としても……そうだな。

 今月末あたり、有給消化と報告も兼ねて、一度実家に戻るとしようか。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ホシノウィルムが入院してから、早くも1週間が過ぎた。

 今のところ経過は良好。

 ……むしろ、良好すぎるくらいらしい。

 

 元より、彼女の体が並み以上の頑丈さを持っていることはわかっていた。

 何せ弥生賞からダービーまでの3連戦を不調なく走り切り、ダービーではあの意味の分からない走り方までして、それでもなお故障はなかったのだ。

 無茶なローテーションや走り方をしなければ、彼女はいわゆる「無事之名バ」的な意味でも名バなのだろう。

 

 しかし……まさか回復力まで飛び抜けているとは思わなんだ。

 

 検査の結果を見るに、既に骨が固まり始め、今はもう軟骨状になりつつあるらしい。

 普通はギプスを取るまでに1か月強かかるはずが、このまま行けば3週間から1か月程度で外せるかもしれないとのこと。

 「負傷の治癒速度には個人差があるものですが、ここまで早いウマ娘はなかなかいませんよ」と医師は語っていた。

 

 改めて、ホシノウィルムというウマ娘は「天才」なのだと痛感する。

 鍛えれば素直に応える体、教えたことをスポンジのように吸収する呑み込みの良さ、並み以上の体の頑健さと回復力、努力に向いた精神性。

 彼女は……勝利の星の下に生まれたウマ娘だ。

 殊「走る」という事柄に関して、彼女以上に才能のある者など、そうはいないだろう。

 ……正直、その才能が羨ましいくらいだよ。

 

 しかし、どんな名馬が元になれば、こんなトンデモウマ娘になるんだろうな。

 残念ながら前世の俺は競馬の歴史に詳しくなかったので、「ホシノウィルム号」が前世でどのような戦績を上げたのかは知らない。

 やっぱり、無敗二冠の後、史上初の若さで宝塚記念を取った馬だったんだろうか。

 あー……まぁ確かに、それくらいのぶっ飛んだ最強名馬だったら、彼女のウルトラフィジカルギフテッドも納得できるかもしれない。

 

 あるいは、やはりウマ娘のオリジナル存在、誰かにとってのライバルウマ娘なのだろうか。

 しかし……それにしては、彼女はヒロイック過ぎる気もするんだよな。

 「辛い過去を乗り越えて今を生きる、無敗二冠ウマ娘」。これじゃ誰かの引き立て役じゃなく、主人公そのものだ。

 そう考えると、以前の「ホシノウィルムライバルウマ娘説」は説得力を失ってくるな。

 とすると、やはり前世には……いや、「このウマ娘世界の元になった世界」には、ホシノウィルム号が存在していたと考えるべきか?

 

 んー……駄目だな、わからん。

 というか物証がない話なので、いくら考えても意味がない。

 

 間違いないのは、ホシノウィルムが真正の天才であるってことだけ。

 それ以上は……無理に考える必要はないだろう。

 

 俺が今考えるべきは、「彼女がどういう存在なのか」ではなく「ホシノウィルムというとんでもない天才をどう支えていくか」だ。

 今は彼女にとっても大事な時期。きちんと切り替えていかねば。

 

 

 

 ……しかし「とんでもないウマ娘を担当してしまった」と思い直すのも、これで何度目だろう。

 流石にもう慣れてきたのか、弱音は出てこない。

 いや、むしろ……。

 

 俺はそういう彼女に憧れたのだから、改めて奮起しなければ、と。

 そういう、決起の想いが強かった。

 

「改めて……うん、頑張ろう」

 

 彼女が高く舞い上がるのならば……俺は彼女に惚れた身として、それを支えられるようにならねば。

 そう思い直し、俺は彼女のいる病室へと向かった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、毎日通った結果見慣れつつある廊下を歩き、彼女の病室の扉をノックした、のだが……。

 

「トレーナー!」

「うわ、ちょ、ウィル落ち着きなって! と、堀野トレーナー、おひさでーす」

「もー、あんまり動くとまた折れちゃうよー?」

 

 いつもは静かな病室に、今日はどうやら先客がいたらしい。

 ベッドから嬉しそうにこちらを見るホシノウィルムの他に、病室には2人のウマ娘の姿が窺えた。

 

 1人は、豊かな鹿毛をツインテールにした、赤と緑のクリスマスカラーなメンコを付けたウマ娘。

 その名を、ナイスネイチャ。

 思わず身を起こしかけた患者を止めようと肩に手を置くネイチャは、ホシノウィルムにとって最も親しい友人。

 同時に、レースではありとあらゆる手段を使って彼女を超えようとしてくる、油断ならないライバルでもある。

 

 もう1人、鹿毛の中に綺麗な流星を持つ端正な顔つきのウマ娘は、トウカイテイオー。

 今は窓側のベッドの縁に腰かけて、ホシノウィルムやネイチャを呆れたような顔で眺めている。

 彼女はホシノウィルムに次ぐフィジカルギフテッドで、彼女をハナ差まで追い詰めたこともある実力者。

 しかし激戦となった日本ダービーで負傷が発生してしまい、現在は療養中だ。

 復帰はホシノウィルムよりも少し遅く、年末あたりになる予定らしい。

 

 数日前からホシノウィルムのお見舞いを解禁して以来ちょくちょく来てくれていた彼女たちだが、今日は2人揃って来てくれたようだ。

 

 

 

 ……しかし、ホシノウィルム、トウカイテイオー、そしてナイスネイチャか。

 注目のウマ娘がここまで集まってるのは、ちょっとばかりすごい光景だ。

 

「驚いたな、星の世代の三星が揃い踏みか」

 

 俺が思わず呟いた言葉に、3人は首を傾げた。

 あら、病院暮らしのホシノウィルムとテイオーはともかく、ネイチャも知らないか。

 世間じゃ少しずつ浸透しつつあるあだ名なんだが……さてはトレーニングに集中し過ぎているのか?

 

 俺はタブレットに定期購読している月刊トゥインクルの記事を表示し、彼女たちに見せた。

 そこには例の狂じ……ちょっとヤバめのライター、乙名史記者の書いた記事が載せられている。

 

『星の世代三星! 三等星トレーナー、最新のトレーニング機材購入のため1年間絶食宣言!』

 

 ……後半はいつも通りの誇大妄想、純度100%の妄言なので無視するとして。

 前半の内容は、星の世代という名称や、この世代で三強と目される彼女たちに触れるものだ。

 それを見た彼女たち3人の反応は、三者三様だった。

 

「星の世代……? 私たちの世代のこと、ですか」

「えー、何それ、帝王世代じゃないの?」

「ちょ、は!? これアタシのトレーナーさんなんだけど!? 何やってんのあの人!?」

 

 ……そうか、ネイチャはあの記者の記事を見るの初めてか。

 新鮮な反応を見ると、なんだか温かい気持ちになるね。

 

「安心しろ、後半はただのガセだ。

 だが前半、つまり君たちの世代が星の世代と呼ばれ、それぞれ1から3の等級で呼ばれ始めているのは事実だぞ」

「私が一等星……ちょっとカッコ良いかも……」

「二等星かー。まあいいや、すぐに一等星に上がっちゃうもんねー」

「3……また3……」

 

 あ、そっか、ナイスネイチャにとって3って数字は……。

 い、いやでも、この呼称どんどん広まってるから、どちらにしろ近く彼女も知ることになったはずだ。

 ちょっと落ち込ませちゃったのは申し訳ないけど、こればかりはもう彼女が乗り越えるべき問題だろう。

 すまん……強く生きてくれ、ネイチャ。

 

「つまるところ、君たちが揃っているというのは、おおよそこの世代の最強が揃っているようなものだ。

 不注意に集まらず、記者にすっぱ抜かれておかしな誤解を生まないよう気を付けなさい。

 それとトウカイテイオー、ナイスネイチャ、彼女の見舞いをありがとう。彼女のトレーナーとして感謝する」

「うぇ……ボクたち今怒られたの? 感謝されたの?」

「切り替え早すぎてわかりにくいけど、トレーナーとして注意すべきところを注意した後、個人的な感謝をしてる感じだね、ありゃ。

 怒ってるみたいな言い方だけど、ただ『気を付けてね』って注意しただけと見た」

「ネイチャ、なんか詳しいね」

「これでも半年くらい合同トレーニングで見てもらってたからねぇ……」

「あのスパルタトレーナーに? うわぁ……」

「んまぁ……確かに結構スパルタではあるけど。音を上げても『まだ行け、やれるだろう』って言われたりするし」

「ホントにスパルタなんだ。気絶してもビンタで起こされるってホント?」

「いやいや、流石にそれはデマだって。常識はちょっと足りないけど良識はある人だから」

 

 なんかテイオーとネイチャがボソボソと話しているが、触れても良い未来は見えないのでスルーすることにした。

 漏れてくる言葉を聞くだけでも……うん。

 俺、そんな噂立てられてるんだね。泣いてもいいですか?

 

 

 

 ……さて、改めて、取り敢えず挨拶から。

 

「こんにちは、ホシノウィルム。今日の調子はどうだ」

「こんにちは、トレーナー。今日は2人が遊び……お見舞いに来てくれたので、退屈を持て余さずに済んでいます」

 

 それは良かった。

 いや、本当に良かった。

 彼女はこの一週間、余りにも暇だからってソシャゲに手を出してしまい、レースで得たお金を湯水のごとく溶かしていたからな。

 別にその行為自体が悪いと言うつもりはないし、それで彼女のストレスが紛れるなら俺が金を出してもいいくらいだが、ぶっちゃけ復帰したらやる暇もなく走ることが目に見えてるからなぁ。

 無駄遣いは程々に、だ。

 

 ……というか、少し意外なんだよな。

 ホシノウィルム、案外ゲームとかにのめり込むタイプだったらしい。

 こう見えて結構負けず嫌いな子だし、1つの物事に集中するタイプなので、射幸心を煽られるソシャゲには弱い方なんだろうが……。

 

 なんというか、彼女がゲームで遊んでいる光景は……ちょっと意外に映る。

 いや、これは俺がストイックな彼女ばかり見ていた弊害か?

 彼女だってそれが許される環境であれば、歳相応にゲームやったり漫画読んだりすることもあっただろうし。

 

 むしろ、幼い頃にできなかった分、ここでどっぷりハマってしまったのかもな。

 だとすれば、ここは多少甘やかすのも大人の仕事か。

 うーん……よし、今月の請求額が7桁に行くまでは黙って見守ろうか。

 ……この数日で、既にその限度額の40%くらいは使ってしまっているけども。

 

 話を聞くに、キャラクターカードとサポートカードが別のガチャから排出されるため、好きなキャラクターを強くするには巨万の富が必要なのだと言う。

 ……なんかそのソシャゲに既視感を覚えないでもないが、きっと気のせいだろう。

 

「痛みなどはないか? 時期からして、そろそろ炎症が始まってもおかしくない頃合いだが」

「これと言って感じませんね。今のところ炎症も見られないそうです」

「そうか、それは何より。……すまない、話の邪魔をしたかな。席を外そうか」

 

 同年代の同性、同種族でしかできない話もあるだろう。

 また後で出直そうと思ったが……ネイチャがパタパタと手を振って止めてくる。

 

「別にいいですよー。聞かれて困るような話もしてませんし」

「そーだねー。強いて言えばウィルムが……」

「わ、わーっ! ちょっと、それは秘密だって言いましたよね、テイオー!」

 

 ホシノウィルムは慌ててテイオーの言葉を制するが、テイオーの方はキシシといたずらっぽく笑うばかり。

 元よりそれを言うつもりはなく、からかってたんだろうな。

 

 ホシノウィルムとネイチャは元々仲が良かったのだが、テイオーとも前回の1週間と今回の1週間の入院で、かなり仲良くなったようだ。

 入院生活はとかく刺激がないものらしく、同世代の同性と話すだけでも、かなり退屈が紛れるらしい。

 そのためテイオーは、時々松葉杖を突いて、ホシノウィルムと話しに来ていたのだ。

 

 それに加え、元よりネイチャはテイオーと交友を持っていたらしい。

 結果としてホシノウィルムとネイチャ、ネイチャとテイオー、そしてホシノウィルムとテイオーの間に交友関係が発生。

 そうなると当然というか、自然な流れで3人はつるむようになった。

 

 ……世代でも最強の3人が自然と集まったというのには、どことなく運命を感じるな。

 いや……考えれば、テイオーが興味を持つのは一定以上の強者だけだろうし、ホシノウィルムもネイチャが迫って来たからこそ急激に仲を深めたイメージがある。

 この関係はネイチャの努力によって出来上がったと言える。

 そういう意味では、少し意外だけど、この3人の関係の中心はネイチャなのかもしれないな。

 

「仲が良いようで何よりだよ。

 ……あぁ、忘れていた。ほらホシノウィルム、頼まれていたスマホスタンドだ」

「ありがとうございます。寝ている時、手を使わず動画を見たかったので……助かります」

 

 ぺこりと頭を下げたホシノウィルムは、なんというか本当に……現代文明に急速に馴染んでいる感じだ。

 いや、別に彼女が原始的生活を送ってたわけではないんだけど……寝ても覚めてもトレーニング三昧だった頃に比べると、だいぶ中等部の女の子らしい趣味を持つようになったものだと思う。

 ベッドで横になりながら動画サイトを眺めたり、ひたすらソシャゲの周回をしたりと、コンテンツの消化に余念がない。

 

 ……うん、楽しいなら何よりだけどさ。

 大丈夫だと思うけど、あんまりハマりすぎないでね?

 走れるようになったのにそっちにハマっちゃってサボり癖が付くとか……うわぁ、めちゃくちゃありそうで嫌だ……。

 前世アプリのサボり癖イベントって、本当にそんな感じだったからな……。

 いや、今でも俺が来ればすぐにスマホをスリープにして、楽しそうにレースの話をしているのを見るに、そんなに心配する程でもないと思うけどさ。

 

 

 

 ……さて、落ち着いたところで。

 今日はどの話題を振ろうか。

 彼女たちの会話をただ聞いている、というのもアレだし、俺からも何か話題提供したいところだ。

 

 俺はここ一週間、毎日ホシノウィルムのお見舞いに来ているわけだが……。

 何気に困るのが、話題だ。

 

 最近のホシノウィルムは情緒が豊かというか、感情を少しだけ表に出すようになった。

 流石にこの状態の彼女としりとりをするのはちょっと申し訳ない。

 ……いや、仕方なそうに受け入れてくれて、その上で割と楽しんでくれはするんだけど。

 どうせなら、もっと楽しめる話題を振り、少しでも不安を取り除いてやりたいからな。

 

 なので、最近の俺の業務には「ホシノウィルムに持っていく話題探し」が加わった。

 

 それは例えば、先日トレセンで行われた模擬レースや、そこで好走を見せたウマ娘とか。

 この手の話題はかなりウケが良い。

 宝塚記念で完全に色々振り切ったらしいホシノウィルムは、レースやウマ娘への強い愛着を持ってくれるようになったらしく、話を聞くだけでも楽しそうにしている。

 最初は故障を起こして走れない状態のウマ娘に対して振る話題ではないと思ったのだが、彼女の方からせがまれて以来、毎日のように話すお決まりの話題になっていた。

 

 例えば、来年のレースのこととか。

 勿論来年のことは来年にならないとわからない。

 レース場に改修工事が入ったりする可能性もあれば……考えたくもないことだが、彼女が再び故障を起こして走れない可能性もある。

 故に、まだ予定と呼べるものではなく、あくまで雑談程度でしかないが……。

 それでも彼女は「大阪杯と天皇賞春で春シニア三冠! 宝塚二連覇!」と鼻息を荒くしていた。

 ……その頃になれば、彼女のステータスは今以上に上がっているはずで、もう彼女を止められるウマ娘なんてほとんどいないかもしれない。

 ホシノウィルムの勝利を支えるべきトレーナーとしては矛盾したような発言だが、それは少し困る。

 彼女が十全にレースを楽しむためには、誰かに追い詰められねばならないからな。

 彼女のライバルであるネイチャやテイオー、1つ世代上のマックイーンやライアンたちの奮闘に期待しよう。

 

 例えば、俺の個人的な話とか。

 正直、これは話題に困った時に出したその場凌ぎだったけど、これが案外ウケる。

 昔話とか家族の話とかすると、興味津々って感じで食い入って聞いてたな。

 俺自身はずっと本を読んでいたり体を動かしていたくらいしか話すことがないけど、超人すぎて当時から色んな事件に巻き込まれてた兄、ずっとお兄ちゃんっ子だったのにいつしかグレてしまった妹の話とか、結構人気がある。

 正直、ちょっと気持ちはわかる。

 特に兄は色々すごい人だから、物語として聞くと面白いとは思う。

 ……周りにいると、割と気苦労が多くて大変だったりするんだけどね。

 めちゃくちゃ好き好きアピールしてくる子に気付かず、刃傷沙汰に発展しそうになったりもしたし。

 あまりにも鈍感が過ぎて、当時はため息が出たものだ。鈍感系主人公って、見てるこっちがハラハラするんだよなぁ……。

 

 後は、例えば……今日持って来た、彼女が興味を持っているらしいツインターボの動向とか。

 

 

 

「もう知ってるかもしれないが、近々ツインターボがレースに出走するぞ」

「アクセル師匠が?」

 

 誰だよアクセル師匠。ここに来て新キャラかな?

 

「6月30日のラジオNIKKEI賞に出走予定だ。1800メートルのG3レースだな」

「おお……師匠、ついに重賞デビューを飾るのですね」

「本格化の遅れもあり、勝率は不安視されていたが……ここまでの戦績は2戦2勝。デビュー戦も1発で3バ身差を付けて勝っている。

 ここ2戦は距離の長さや調子の悪さで垂れてしまったが、今回は期待できるかもな」

「師匠ですからね……気持ち良く勝つか大きく負けるか予想が付きません。いえ、きっと勝ってくれると信じますが」

 

 うんうん、と頷くホシノウィルム。

 

 それを見ながら、俺は……テイオーとネイチャに視線を巡らせる。

 うん、やっぱり2人もちょっと疑問って表情だ。

 

 

 

 ツインターボ。

 ツインテールに結った綺麗な青髪と、珍しい赤と青のオッドアイが特徴的なウマ娘だ。

 性格は明朗快活、少し幼げこそあるが、いつでも真っ直ぐ、目の前のことに全力を尽くすタイプ。

 ホシノウィルムと同じ、世代でも有数の大逃げウマ娘でもある。

 

 ……のだが。 

 

 だからと言って、ホシノウィルムが記憶に残すほど有力なウマ娘とも思えないのが現状だ。

 

 確かに、その素質は高い。

 特にスピードやレース勘に関しては見るべきものがある。

 最速で本格化を迎えていれば、あるいはネイチャたちと並んで、ホシノウィルムのライバルに数えられていたかもしれない。

 

 けれど、彼女は半年以上本格化が遅れてしまった。

 そのため同期のウマ娘たちより半年分、ステータスやスキルが出遅れてしまっている。

 特にそのスタミナの低さは、逃げウマ娘として致命的と言っていい。

 回復系のスキルを覚えていないため、道中で上手く機転を利かせなければ垂れてしまう。

 ……たとえ機転を利かせて脚を溜めても、恐らくその距離限界は2000メートル。頑張っても2200メートル程度だろうというのが俺の推測だった。

 

 それでもなお2戦2勝というのは、確かにすごいものがあるが……。

 ハッキリ言って、今のターボは重賞優勝ウマ娘が関の山、G1ウマ娘にはなれないというのが世間の見方だ。

 彼女はレースを盛り上げてくれるし、時に大きく勝ってどんでん返しを見せてくれる。

 ……けれど、ここにいる三星に届くほどではない、と。

 俺から見ても……申し訳ないが、その評価が的外れとは思わない。

 

 しかしそうなると謎なのが、ホシノウィルムが彼女に注目している理由だ。

 彼女は何を基準に、どういうウマ娘に目をかけているのか。

 それは長い間、そして今でも、俺の中での大きな疑問だった。

 

 彼女も最近は、割と他のウマ娘に対してコミュニケーションを取っているんだが……ツインターボのそれは、他と一線を画する。

 何せ、まだ他のウマ娘に関心を持っていなかった頃、その名前を聞いただけで椅子をひっくり返して倒れるくらいの過剰反応だったからな。

 他にもネイチャ、テイオーあたりもかなり反応が強かった覚えがある。

 ……本当、何を基準にしてるんだ?

 

 ウマ娘の素質や素養に反応しているのだろうか。……いや、だとすればハートブロウアップやリオナタールといった強いウマ娘に反応しない理由がわからない。

 距離や脚質、バ場の適性を見ても、彼女が反応するウマ娘はバラバラで統一性がないように思える。

 

 ……やはり、ネームドに反応しているのか?

 しかし、だとすればネームドの中でも反応しない子がいたのが謎だ。

 

 どうにも基準がわからないな。

 もしかして、彼女の元となった「ホシノウィルム号」に関係があるとか……?

 

 そしてもう1つ、彼女の反応基準の他に疑問があるとすれば……。

 

 

 

「ずっと気になってたんだけどさ、なんでウィルム、ツインターボのこと師匠って呼んでるの?」

 

 テイオーが俺の疑問を代弁してくれた。

 そう、そこだ。

 

 ホシノウィルムはツインターボのことを「師匠」と呼ぶ。

 もしくは「ダブルターボ師匠」とか「ダブルジェット師匠」とか「ツインドライブ師匠」とか「フタツエンジン師匠」とか、その他色々。

 真面目な話をする時はきちんと「ツインターボ師匠」って呼んでるあたり、覚えてないんじゃなくてふざけて間違えてるんだろうから、後者は置いておくとして……。

 

 師匠呼びって何なんだろうな。

 

 例えばこれが、ホシノウィルムはターボの大逃げに憧れて自分も大逃げをし始めた、とかならわかる。

 だが彼女が大逃げを身に付けたのは、俺が逃げ方を教えて選抜レースに出した際。

 恐らく、周りのウマ娘に距離を詰められそうになって必死に走った結果、それが大逃げになったんだと思う。

 それで1発でスキル「大逃げ」を覚えるあたり、彼女の「切れ者」っぷりが出ているが、それはともかく。

 

 その時点でのターボは、まだ本格化も来ていなければ、ステータスも……平均よりは高いけど、彼女のように飛びぬけているものではなかった。

 彼女が師匠と仰ぐレベルの大逃げができたとは思えない。

 

 時系列が逆なんだよな。

 一時期世間が言っていた「ツインターボの走り方はホシノウィルムのパクリ」っていうのはあり得ないとしても、大逃げをし始めたのは間違いなくホシノウィルムの方が先。

 強いて言えば、ホシノウィルムの方こそツインターボの師匠になるべきウマ娘なはずだ。

 

 その上、ホシノウィルムとターボの間に面識はなかった。

 いや、ホシノウィルムはターボを知ってたっぽかったけど、それは一方通行のものでしかなかった。

 彼女がターボと知り合ったのは、今年の2月に行った模擬レースの際だ。

 

 では何故、ホシノウィルムはターボを「師匠」と呼ぶのか。

 それは担当トレーナーである俺も知り得ない、彼女の秘密だった。

 

「あ、それアタシも聞きたいわ。堀野トレーナーさんは知ってます?」

「いや、俺も知らない。ホシノウィルム、何か理由があるのか?」

 

 ネイチャの問いに首を振って、ホシノウィルムを見やる。

 

 俺、テイオー、ネイチャの3人にじっと注目され、ホシノウィルムは……。

 

 …………?

 

 今この子、一瞬だけ「あ、ヤバ」みたいな気配を出したような。

 

「て、テイオーがそれを……い、いえ、特に深い理由は……えっと」

「何、恥ずかしい話? ネイチャさんに話してみな~?」

「そうだぞ、テイオー様に話してみろ~!」

 

 かなり珍しいホシノウィルムの動揺に、友人2人はここぞとばかりにからかいに行く。

 

 ……しかし俺は、直前の彼女の表情の方に意識を引っ張られていた。

 彼女の瞳からは、間違いなく……「怯え」、「危機」、あるいは「緊張」の色が見て取れた。

 何故……? ただあだ名の由来を聞かれただけで、何故そこまで危機感を覚える必要がある?

 

 俺はまだ、彼女のことを知悉しているわけではない。

 しかし、それにしても……その反応は、なんとなく違和感があるというか、「ホシノウィルムらしくない」気がした。

 

 ……いや、今思えば、彼女は過去にも何度か、ああいう表情をしていたような?

 

「そ、その……いえ、別に恥ずかしい話というわけではないんですけど。

 デビュー前、果敢に走る師匠の姿に元気をもらって、それ以来勝手に師匠って呼んでるんです」

「なーんだ、ホントに全然恥ずかしい話じゃないじゃん」

 

 その言葉に納得したのは、昔のホシノウィルムをよく知らないテイオーだけだ。

 

「……あの頃のウィルが……?」

 

 ネイチャは怪訝そうに呟いているし……俺も表情には出さないが、違和感を覚えた。

 勝つことで頭が一杯だったホシノウィルムが、誰かの走りを見て「元気をもらう」とは思えない。

 合同トレーニングをしたがるくらい気に入っていたネイチャさえ、いざレースになれば敵としてしか見ていなかったんだから。

 

 走ることを目的ではなく、ただの手段としてしか見ていなかったホシノウィルム。

 そんな彼女が、誰かの走りに元気をもらうなんてことがあるのか……?

 

「む……なんですか、トレーナーにネイチャ。

 私だってウマ娘です、そういうこともありますよ」

 

 そう言った彼女の表情に……。

 

 

 

 これ以上探ってくれるな、と。

 そういう想いが、見えた気がした。

 

 

 

 ……そう、俺はまだ、彼女のことを知悉しているわけではない。

 彼女の最たるトラウマを知り、それを緩和することはできたが……だからと言って、全てを教えてもらえるというわけじゃないんだ。

 

 

 

 だが、それでもいい。

 

 俺と彼女にはまだ時間があるし……最悪、明かしてくれなくても構わない。

 人には誰しも、他人に知られたくない部分がある。普段は意識の奥底に葬って、考えないようにしているようなことが。

 そういうものはきっと、無理に表出させるべきものじゃない。

 今年の春先、北海道の墓前に赴いた際のように……自分が言いたいと思った時に、言いたいと思った人にだけ言えばいいんだ。

 

 それに、わざわざ確認はしないけど……。

 彼女は「ずっと」、俺のウマ娘らしいからな。

 

 ホシノウィルムを知り、信頼を築き直す時間は、まだまだ残されている。

 本当に大事な部分さえ隠さなくていいと思える程に、俺が信頼されれば……。

 きっとホシノウィルムは、いつかそれを明かしてくれるだろう。

 

 故に、そこについての思考を封印する。

 きっといつか、「何だ、そんな理由だったのか」と笑い合える日が来ることを信じて。

 

 そうして俺は、ターボのG3レースに話題を戻したウマ娘たちの会話を聞きながら、しばらく安穏の時間を過ごした。

 

 

 

 







 テイオーが最初気だるげだったのは、それまで1時間以上ホシノウィルムがトレーナーとの惚気話をしてたからです。
 恋愛脳堕ちって怖いね。



 次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、爆死と後輩の話。



(追記)
 誤字報告をいただき、わざと出ない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!
 今回はちょっと多すぎたので反省です……。
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