転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 ウェーイwww オタクくん見てるー?
 オタクくんの大好きなネームドウマ娘、本編に出しちゃいま~~す!www
 我ながら可愛く書けたと思うから、楽しんでね~~!





無敗三冠を無礼るなよ

 

 

 

 問題です。

 昼間にスカウトを断ったトレーナーに出くわし、オーバーワークを厳しく叱責されて。

 更には急に自分のトレーナーだと言い出し、その後ぶっ倒れ。

 気付けば寮の自室で寝ていたウマ娘がいたとします。

 その子は今、どんな気分だと思いますか。

 

 答え。

 ……あーもう、最悪なんですけどっ!!

 

「う、う……」

 

 事件のあった次の日の朝、寮の自室。そこには布団の中で悶える私がいた。

 私、暴走しすぎ! こんなことにならないよう普段から感情を抑えるようにしてるのに!

 なんでこうなっちゃうのかなぁ! 元はトレーナー契約が欲しくて模擬レースに出ただけなんだどなぁ!

 

 ……いや、わかってる。何が悪いかは明白だ。

 

 

 

『…………寒い』

 

 

 

 あの感覚。私の平静を奪い、ただ勝利だけしか見えなくなる冷たい感じ。

 いつからか、レースを走るたびに感じるようになったそれは、恐らく私の精神かウマソウル、そのどちらかに起因するものだろう。

 そのどちらなのか、そして何故そうなってしまうのかは、私にもよくわからないんだけど。

 

 ああなってしまうと、私は自分の勝利に向けて暴走してしまう。他の全てがどうでもよくなってしまう。

 ……いや、いつだって勝ちたいという気持ちはあるんだけど、それが極端に強くなるのだ。

 そうなってしまえば、私はもう止まれない。暴走と呼んで差し支えない状態になってしまう。

 

 でもその暴走も、悪いことだけじゃない。

 勝利しか頭になくなるってのは、つまりは勝利のみに集中できるってこと。

 レース中の私は一切集中を乱さず、冷静に冷徹に前を目指す。

 並大抵のアクシデントでは動じなくなるし、いつも以上に頭も体もキレが良くなるんだ。

 何より、昨日以外はこの感覚、レースが終わればじきに引っ込んでたんだよね。

 自分の考え方が歪んじゃうのはちょっと怖いんだけど、それ以外はメリットだらけ。だから、私はこれと上手く付き合ってきた。

 

 この感覚が何なのか。それは私自身にもよくわからない。

 これまでは上手く使ってきたつもりだったけど、そうもいかなくなったかもしれない。

 今回の模擬レースで理解できたこととして、北海道とここではレースの格が違う。あの感覚と私の全力をもってしても、勝てないウマ娘がいる。

 そしてもう1つ。昨日、レースに敗北した後。徐々に戻ってくるはずの熱が入らず、私は勝つために走り出し、止まらなかった。

 レース中に限るはずだった暴走が終わらず、あそこでトレーナーと会えなければ……最悪、私の足は……。

 

 あの寒さ。私の中の何か。

 それが何なのかをきちんと解明し、なんとかしないと。

 最悪、また負けた時に暴走を起こすかもしれない……。

 

 

 

「いやまぁ、それはそれでいいか」

 

 

 

 冷静に考えると、負けなければいいのだ。

 勝てば官軍負ければ賊軍、私が速く走って速くゴールすれば万事解決である。

 つまり「寒い」感覚を何とかするよりも、より速く走れるように特訓する方がいいってこと。

 そもそも負ける私に価値はない。その時は粛々と運命を受け入れるか。

 

 

 

「……ウィルちゃん、起きてますか」

 

 どこかふわふわした、聞きなれた声がする。

 続いてぴょこんと飛び出る頭。うーん、先輩今日も可愛いな。

 

「何か御用ですか、ミーク先輩」

 

 珍しい白毛の髪に、眠たそうな淡いピンクの垂れ目。

 いつもぼんやりほわほわしているこのウマ娘は、私の同室の先輩、ハッピーミークさん。

 4年以上もトレセン学園で走り続け、更には色んなレースにも勝利している、偉大な大先輩である。

 ……でも同時、マイペースですっごく可愛らしい先輩でもあった。

 部屋の窓からぽやーっと幸せそうに空見上げてる姿とか、見てるだけで幸せをおすそ分けされる。

 

 

 

 去年の4月。

 新たな生活、友達作り、そしてこれからの競争人生。

 色々な不安を抱えてこの学園に入学し、寮に荷物を運びこんでいた最中、ミーク先輩は唐突に現れた。

 いや現れたっていうか、私が知らなかっただけで同室だったんだけども。

 段ボールを置いた私は、唐突に部屋に入ってきたミーク先輩を見て固まった。自分の部屋に不審バが入ってくるという突然の事態にどう対処すればいいのかわからず、処理落ちしたのである。

 ミーク先輩も足を止めて、ぼんやりと私を見つめてきた。今思うと、多分何も考えてなかったんだと思う。

 

 そして、無言の時間が1分くらい続いただろうか。

 とりあえず私は、両手を上げることにした。もし不審者だったら怖いもん。

 ……うん、今考えると、なんで同室の子だって思わなかったんだろうね。混乱してたからかなぁ。

 で、そうしてガクブルホールドアップした私に対し、ミーク先輩はくすっと笑い、言った。

 

「……ふふ……カニさんみたい」

 

 それが私たちの、なんともシュールな出会いなのであった。

 

 最初こそグダグダだったけど、半年以上一緒に生活している内、ミーク先輩とは自然に仲良くなっていった。もちろん仮面を外すようなことはないけどね。

 ミーク先輩になら色々相談できるくらいには、私はこのほわほわした先輩を信頼している。悩みを相談すると、顔を赤くするくらい必死になってくれるので、とてもかわいい。

 ミーク先輩の方は……うーん、どうだろう。いつもぽやーっとしてるから、どれくらい親しく感じてくれてるのかわからない。

 大好きなトレーナーさんとの惚気話をしてくれるので、ある程度は仲良く思ってくれてる……と、嬉しいな。

 

 

 

 で、そんな癒し系ウマ娘、ミーク先輩。

 彼女はふにょんと頷くと、こちらに便せんを差し出してきた。

 

「これ……ウィルちゃんのトレーナーさんから、預かりました」

「私のトレーナー……」

 

 うぅ……今日日見ないようなしっかりしたお手紙だ。何が書いてるんだろう、開けるのが怖い……。

 ミーク先輩は黒ヤギさんではないので、きちんと渡してくれたわけだ。どうせなら食べてくれてもよかったのに。

 ……お手紙むしゃむしゃする先輩、めっちゃかわいいだろうなぁ。ちょっと見てみたい。

 

 …………。現実逃避はここまでにするか。

 

「ありがとうございます、ミーク先輩」

「……ぶい」

 

 超絶可愛い先輩は、どや顔でブイサインを作ると、てくてくと部屋を出ていった。

 はー、ほんと可愛いなぁミーク先輩。

 先輩相手に失礼かもだけど、気ままな子猫を見るようで癒されるよ。

 

 

 

 ……あー、うん。やっぱり手紙、読まなきゃ駄目だよね。

 怒られるんだろうなぁ。昼間の失礼な態度、夜の過度な自主トレ、そして直後の気絶と、あのトレーナーさんには迷惑かけっぱなし。

 手紙の中身を想像すると本当に気が滅入るよ。

 でも、私のトレーナーになってくれた人だもんな。見なきゃいけないよな。……うぅ。

 せめてそんなに怒ってないといいな。顔文字とか絵とか描いてたら和むんだけど。

 

 ぺらり。

 

『放課後、俺のトレーナー室に来るように。

                   堀野』

 

 

 …………。

 私、殺されるの?

 

 

 * * *

 

 

 

 お叱りはなかった。

 というか謝ったら、いつも通りの無表情で「気にするな」と言われてしまった。

 うぅ、それでも端正な真顔は威圧感がすごい。実は怒ってない? 大丈夫?

 すみません、反省してます。後悔もしてます。次はもっと早く加速して絶対に勝ちます。

 

 その後、トレーナーは何やらコクコクと頷いたり、小首を傾げたりしていた。

 思わずトレーナーと同じように小首を傾げる私。

 ……何考えてるんだろ、この人。なんか一人芝居を見ているようで面白いんだけど、同時にこの人にトレーナー任せて大丈夫かなって不安にもなる。

 とか考えてたら、いきなりトレーナーはこっちに向き直った。

 

「改めて、自己紹介をしようか」

 

 いや急だね!?

 昨日もそうだったけど、このトレーナー、話題の転換が急というか……多分自分の思考と相手の認識のすり合わせが上手くいってないんじゃないか。

 ……あーいや、どうかな。私の理解力不足かも。

 私は前世も今世も、あまり明るい人生を歩いてこなかった。友達とか少なかったし……いやちょっと見栄張った。今世はミーク先輩がいるけど、前世は友達一人もいなかったね。ハハハ。

 なので、当然と言うべきか、私はコミュニケーション能力が欠如している。いわゆるコミュ障だ。

 普通のウマ娘なら、このトレーナーの話し方にもついて行けるのかな。

 そう思うと……ちょっと悲しいな。

 

 

 

 自己紹介はつつがなく終わった。

 トレーナーのは、まさしく隙のない大人という感じ。

 不要な自分は見せない、自分は君にとってトレーナーであり、それ以上でもそれ以下でもないと、そう主張するものだった。

 多分、生真面目なんだろうなと思う。自分の職務に忠実で、そこに神経を注いでいるようだった。

 少し寂しいと言えば寂しいけど、こういうキャラこそ攻略する熱意が湧くよね。乙女ゲーの話だけどさ。

 

 一方私の自己紹介は、前から考えてた奴だ。

 私はかしこいので、友達とかトレーナーができた時にすぐ自己紹介できるよう、トレセンに来る前からしっかりと作りこんでおいたのである。もちろんミーク先輩にもぶつけた。ぽやーっとした反応しか返ってこなかったけど。

 自分の名前、出身地、好きな食べ物、趣味、特技。対トレーナー相手には、これまでどう走ってきたか、どう走れると思うかを付け加える。

 実は、昔読んだ『バ鹿でもわかる友達の作り方』に載ってた自己紹介の方法をそのまま流用している。

 でも、ハウツー本に載っていたってことは、それはもう間違いない方法のはずだ。

 きっとトレーナーも、ぐっと私を親密に感じてくれたに違いない。無表情のままだからわかんないけど。

 

 

 

 自己紹介が終わると、またトレーナーは少し間を開けて口を開いた。

 

「さて、君のことだから、より速くなる方法を聞きたがるのではないかと思」

「はい、是非教えてください」

「……うむ。熱意があって非常に結構」

 

 当たり前だ。この学園に入学した生徒で、それに興味を持たないウマ娘はいないだろう。

 殊に、私はここに、速くなるために……誰にも負けないために来たのだから。

 

「とはいえ、難しいことはない。

 君もウマ娘、距離や脚質の違い、適性は理解できていると思うが、」

「すみません、私には殆ど知識がありません。教えていただけると嬉しく思います」

「…………うむ。了解した」

 

 いや本当ごめんなさい。やっぱりちゃんと競馬の知識付けてくればよかった。

 

 ちなみに殆どとは言ったが、全くないというわけではない。ウマ娘として生きてるだけでも耳にする機会が多いしね。

 流石にマイルとか中距離、長距離という単語は知ってる。あと大逃げとか。超逃げ、爆逃げ? みたいな単語もあったはず。

 言われればニュアンスで理解もできるしね。私はそうやってのらりくらりと生きてきた。

 なので私は、ある程度は話にもついて行けるだろうと高をくくって、トレーナーさんの口が動くのを見守った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ヤバい、知らないことしかない。そんないっぱい区別あるんだ!?

 えーと、芝、ダート。短距離、マイル、中距離、長距離。それに逃げ、……せ、先行、差し、追込。

 うん、一部怪しかったけど、ちゃんと全部覚えてるよ。

 

 ウマ娘はこれらに合う、合わないがあって、私にはマイル距離とか差し脚質は合わないんだって。

 合うのは中距離長距離、そして逃げ。言及がなかったってことは、多分芝はそのままでオーケー。

 つまり私は、これから芝、中から長距離のレースに、逃げの脚質で出ていくことになるんだろう。

 

 いやー、見事に知らないことばっかりだ。もうこれ教えてもらえただけでトレーナーさんと契約した価値があったんじゃないだろうか。

 しかし、私に合う距離とか脚質を一瞬で見抜くあたり、このトレーナーさんってひょっとしてすごい人なんじゃないの? 新人トレーナーって話だったけど、やっぱり名門は違うんだろうか。

 

「さて、次にもう1つ、非常に重要な話をするが。……その前に、1つ尋ねてもいいか」

「私に答えられることならば」

 

 もう何でも聞いてほしい。何でも答えちゃうよ。

 私は既に、堀野トレーナーに全幅に近い信頼を寄せている。私を唯一スカウトしてくれたし、昨日すごい迷惑かけたのに許してくれてるし、その上有能で、ついでにイケメンだし。

 

 ……あれ、もしかして私、チョロい? 

 いやいや、でも契約したトレーナーであるこの人を信頼するのは多分正しいことだと思うし。

 チョロくない、チョロくない。

 

 とにかく、トレーナーが訊くってことは私が速くなるために必要なことなんだろうし、答えない理由なんてないわけで。

 さぁ、何でもどんとこい!

 

 

 

「では尋ねるが。君は自らの異常性に気付いているか」

 

 

 

 

 

 

 思考が、凍り付いた。

 

 

 

 気付かれた? 私が転生者だってこと。前世から記憶を引き継いでるって。異常だって。

 

 嫌だ。怖がられる。のけ者にされる。怖い。……寒い。

 

 なんで? なんでばれたの? 私、何も、おかしなこと言ってないはず。

 

「…………、それは、どういう意味でしょうか」

 

 お願い。私の勘違いであって。気付かないで。

 

「無論、君の力のことだ。それだけの力に、まさか自分で気づいていないわけではあるまい」

 

 

 

 おねがい。

 やめて。

 

 

 

「……どこでそれを知ったのですか」

 

 

 

 たすけて、おとうさん。

 

 

 

「簡単だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君がとてつもなく仕上がった体を持っていることはわかっている。

 何故なら、俺はウマ娘の足を見れば、その仕上がり具合が完璧にわかるからだ……!」

 

 

 

 …………。

 え、あ、……う?

 何、えっと、違った? 気付かれて、ない?

 私の体が仕上がっている? って、それだけ?

 

 「アニメ転生」。私の得た転生特典は、この体を極めて頑健にした。少なくとも地元では負け知らずだったくらいには。

 トレーナーの言葉を信じるなら、今までの私は不利な戦場で不利な戦い方をしていたらしいし、あるいはもっと強くなれるのかもしれないけど。

 

 ただ私が強いことに気付いただけ。

 それだけ。それだけなんだ。

 

 ……良かった。

 

 それにしても、足。足を見れば、仕上がり具合がわかる、か。

 なんか聞き覚えがあるような……? ちょっと条件は違ったような気がする……もうちょっとヘンタイっぽかった気がするけど……。

 

 

 

 ……え!? いやそれ、沖野Tじゃん!!

 

 

 

 その瞬間、私は全てを理解した。

 沖野と堀野という、なんとなく似た名前。その有能っぷりと懐の広さ。そして何より、トモを見れば仕上がり具合がわかるという能力。

 

 堀野トレーナー、沖野Tの代わりなんだ……!!

 

 

 

 元の世界の私は、オタク文化に親しんだ人間だった。

 ラノベもアニメもゲームも漫画も、自分の興味に従って節操なしに手を出していた。

 その中には当然、当時流行っていたジャンルの二次創作も入っている。

 だから、理解できたのだ。

 ……あっ、これオリ主モノゼミでやったとこだ! と。

 

 オリ主モノ。つまりは、二次創作におけるオリジナル主人公モノ。

 それは大抵の場合、非業に終わった結末をオリ主が塗り替えたり、ストーリーにオリ主が介入して無双したりする内容になる。

 とはいってももちろんその実千差万別。いわゆるアンチ・ヘイトだったり原作再構成だったり、方向性は多岐に渡るのだが。

 原作厨には嫌われがちなジャンルだが、実は原作の魅力を飾り立てるようなオリ主モノも存在し……。

 ああいや、長くなるからこの辺にしとこうか。

 

 そんなオリ主モノの中に、時々あるタイプのヤツ。

 原作であと一歩足りなかったり不満点があるキャラを、作者が考えたオリキャラやオリ主で上書きしちゃうという荒業。

 私はこれを、置き換え形式と勝手に呼んでいる。何かちゃんと名称とかあるのかもしれないけど、いちいち調べる気にもなれないし、どうでもいいや。

 当然、置き換えられたキャラのファンには鬼のように叩かれたりするものだが、まぁそれはそれとして。

 

 もしこの世界が、置き換え形式のオリ主モノなのだとすれば、もしかしたら、と思うことがある。

 私の出身地は北海道の片田舎。……そして記憶に間違いがなければ、アニメ1期主人公のスペちゃんも、北海道出身だったはずだ。

 これが指し示す仮定は、即ち。

 

 もしかして私、スペちゃんの代わりだったりする……?!

 

 つまるところ、この世界におけるオリキャラは2人。

 沖野Tの代わりに配置された、チートトレーナーである堀野トレーナー。

 そして……スペちゃんの代わりに配置された可能性のある、転生チートウマ娘のホシノウィルム!

 うおお、マジか! これ1期のオリ主モノだったの!? 私、最終的にはあの怖い海外のウマ娘と争わないといけないのか!?

 

 ……などと。

 正直内心はめちゃくちゃに荒れ狂っているのだが、それを表情には出さない程度の分別はある。

  

「なるほど、そういうことでしたか。納得しました」

 

 すまし顔で頷いておく。

 納得はした。多分、トレーナーが思っているのとは違う納得だけど。

 ……いや、理解はしたけど、納得しているかと言えば微妙か? せっかくウマ娘世界に転生したってのに、沖野Tにもスぺちゃんにも会えないのはなぁ……。

 

 ……? しかし待てよ?

 私は既にトレセン学園に入学している。クラスも振り分けられ、毎日授業を受けている状態だ。

 でもそのクラスメイトの中に、スカイちゃんがいないんだよね。

 アニメを見たのも結構昔のことになる。時々思い出したり書き出しているけど、その記憶も万全とは言えない状態。

 しかし、スペちゃんのクラスにスカイちゃんがいたことは覚えている。間違いないはずだ。

 とすると、スカイちゃんまで誰か他のウマ娘に置き換えられてる?

 うーん、そこまでいくと改ざんし過ぎだと思うんだけど……そういうのもあるのかなぁ。

 

 更に言えば、同室もスズカさんじゃなくてミーク先輩だ。

 先輩ってとこでは一致してるけど、あまりにも雰囲気が違いすぎる。ミーク先輩、確か逃げはしないって言ってた気がするし。

 

 どういうことなんだろう。なんか逆によくわからなくなってきたな……。

 

 

 

 ん、トレーナーが口を開く気配。一旦思考を中断しよう。

 

「ふむ、納得してもらえたなら問題ない。ありがとう」

「? 何故感謝するのですか?」

「感謝は大事だからな。俺は隙あらば感謝するようにしている。感謝感謝」

 

 …………???

 感謝感謝て。堀野トレーナー、そういうこと言うタイプだったっけ?

 

「ん、ん。とにかく、俺は君のコンディションやステータスを知ることができる。恐らくは他のトレーナーよりも、かなり正確に。

 故に、少し変わった育成方針を打ち出すこともあるかもしれない。

 変わった判断だと思ったら迷わず訊くように。きちんと理由は伝える」

「はい、頼らせていただきます」

 

 いやもう、今度こそ全幅の信頼ですよ。

 沖野Tの代わりに用意されたってことは、少なくともコンディションを見抜く力は十全のはず。

 昨日の夜の対応を見るに、こちらの意思を尊重してくれる姿勢は間違いないと思う。

 これはもう完璧なトレーナーと呼んで差し支えないでしょう。

 不安だらけで始まったけど、私はとんだSSR出走チケットを引き当てたみたい……!

 

 ……ん? SSR?

 何かが頭に引っかかった、その瞬間。

 トレーナーの顔が僅かに白くなり、そしてすぐに赤みを増して。

 

 パンッ!

 

「!?」

 

 堀野トレーナーが、急に両手で頬を挟んだ。それも結構な勢いで。

 

 え、何!? どうしたのいきなり!?

 わ、わ、何、どうしたのこれ? どうすればいいの私?

 なんかトレーナーは決意を秘めたような瞳してるけど、全然意味わかんないんだけど!?

 

「あ、あの……大丈夫ですか」

 

 いや本当に大丈夫? ちょっとおかしくなってない?

 ちょっと引き気味に聞く私に、トレーナーはぎゅっと振り向き。

 

「大丈夫だ、ホシノウィルム」

「そうですか、それなら良いのですが」

「何があっても、俺が君を守る!」

「……ええと?」

 

 あの、えーっと、その。

 そんなやる気マックスみたいな表情をされましても、意味がわかんなくて。

 何がどうしてそういう結論に行き着いたんだろう。トレーナーの脳内を覗いてみたいんだけど。

 

 ……いや、待って、もしかして。

 

 

 

 実は、この仏頂面のトレーナーについて、私には1つ憶測があった。

 

 もしかしてトレーナー、自分の中で色々考えるだけで他人に伝えない、いわゆる言葉足らずなタイプなのでは、と。

 

 昨日の模擬レースの後。明らかに私と彼で話のテンポがズレていた。

 会話というより、一問一答というか……トレーナーから一方的に投げられた言葉を、私が打ち返していたような感じ。

 彼の言葉は最低限。むしろ必要なパーツが足りないから、かみ合っていないように感じるんだろう。

 自己紹介の時も、無駄な情報なんて何もなくて、ただトレーナーとしての責務を果たすようで。

 

 ひょっとして、人に自分のこと話すの、苦手なのかな。

 ……私と同じように。

 

 ああ、でも、そう考えるといろんなことに納得がいく。

 例えば昨日の会話。名前を聞く、何故この距離と脚質で走ったのか聞く、そして即スカウトと、あまりにも会話のペースが速いと感じていたけど。

 そもそも話しかけてきたってことは、スカウトをする前提だったんだろう。そして沖野Tに近い能力を持つトレーナーは、模擬レースの距離と私の脚質が適切じゃないことを理解していた。

 その辺りから考えるに。

 まず会話を円滑にするために名前を聞いて、遊びで模擬レースに出たわけではなく、本当にスカウトを受ける気があるかの確認に質問をし、その上で私が大丈夫そうだからスカウトした。

 こう考えれば、納得がいく。

 

 当然と言えば当然なんだけど、ミーク先輩と同じように、トレーナーも色々と考えて発言しているんだ。……先輩は時々、本当に何も考えてないけど。

 本当に言葉足らずだなぁ。もうちょっと自分の考えを話してほしいとは思う。困惑しちゃうので。

 

 さて、ではさっきの「君を守る」発言はどういう意図だったのか。

 直前に話していたのは、自分の育成方針が他トレーナーとは少し異なる、ってことだった。

 トレーナー視点になって、この発言へのウマ娘の反応を考えると……。

 なるほど、読めた。

 

 トレーナー、私が不安になったと思って、気を使ってくれたんだ。

 

 すとんと、色々腑に落ちる。

 昨日から感じていた違和感。トレーナーの測りかねていた感情が、一気に理解できた気がした。

 自分の走り方を理解していないウマ娘をスカウトし、オーバーワークを見かねて止めて、無理やり担当を決められたのに受け入れて、倒れたウマ娘を不平も言わず寮に運んで。

 迷惑をかけられたのに怒りもしないし、何も知らない私にたくさんのことを教えてくれて、そうして不安にさせたかもと気を使って。

 

 

 

 ……この人、ただわかりにくいだけで、すっごく優しい人なんだ。

 

 

 

 まぁ、別に私は不安を感じてないし、勘違いでいきなり自分の頬を叩くとか、なんとも間抜けな感じだけどさ。

 

「トレーナー」

「なんだ、ホシノウィルム!」

 

 あぁ、やっぱり。

 少しでも不安を感じさせまいと、そんなにハキハキと答えて。

 無表情で無愛想なのも、不器用なだけなのかな。

 それだから悪い噂なんて流れるんだよ、トレーナー。

 そういう気遣いを見せれば、みんなすぐにわかってくれるだろうに、さ。

 

 

 

 ……あぁ、温かいな。

 

 

 

「よく、ふふっ……少し抜けてるって、言われませんか?」

「な?! ホシノウィルム、どこでそれを知ったんだ!」

 

 おかしかった。何がおかしいのか、自分でもよくわからなかったけど。

 仮面で感情を抑えようという自制も忘れ、私はしばらくの間、笑みを漏らしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 いや、はっず!

 ひ、久々に笑った顔他人に見られた……。うぅ、もうお嫁に行けない……。

 しおしおと枯れて小さくなる私に、トレーナーさんは相変わらずの無表情で話しかけてくる。

 

「さて、改めて話を続けよう。今日中に決めておきたいことがある」

 

 もう、そんな淡々として。恥ずかしがってるレディに何か言うことはないんですか?

 ……まぁ、今の私は何を言われても反発しそうではある。

 だから何も言わず、見なかったことにする……ってのは正解なのかもしれないけどさ。

 

 あー……このままじゃまともに話もできないか。

 心を落ち着けよう。

 私はホシノウィルム。勝つためにここにいる。

 ……よし。

 

「承りました。要件は何でしょうか」

「うむ。……とはいえ、今の君には想像しづらいことかもしれないが。

 簡単に言うと、君の今後。どのように進んで、どのようなレースに出たいか。

 君に展望や夢があるなら聞いておきたい」

 

 なるほど、展望や夢ときたか。

 お恥ずかしい話だが、ホシノウィルムにそんなものはない。ただ勝ちたい。勝たなきゃいけない。それだけだ。

 だからこそ、どう答えたものか迷う。

 何もありませんと言えば、トレーナーは私にとって最適なスケジュールを組んでくれるだろう。

 ……けれど多分、それは体の安全と、確実な勝利に配慮したものになる。

 

 それじゃ、私の目標を1つ果たせなくなるかもしれない。

 

 勝てればどんなレースでも構わない。……それは、あくまで「ホシノウィルム」の話だ。

 「転生者としての私」には、果たしてみたい目標がある。

 

 

 

「では、ひとまず無敗三冠を」

 

 

 

 無敗の三冠ウマ娘。

 アニメ2期で、トウカイテイオーちゃんが非業の怪我により成しえなかった、彼女の夢。

 それは決して私の夢ではない。私が果たしたところで、何の意味も持たない。

 ……でもさ。やっぱり、オリ主としては果たしたくなっちゃうんだよ。

 仇討ち……ではないけど。代わりに夢を背負うなんて、そんなご大層なものでもないけど。

 

 私に課された役目が、スペちゃんの代替だとしたら……これはもしかすると、本題から離れた行為になっちゃうのかもしれない。

 私というオリ主の冒険を読む読者がいれば、「キャラが暴走するとかつまんね」って言って、ブラウザを閉じちゃうかもしれない。

 それでも。

 

 あんなに頑張って叶わないなんて、悲しすぎるから。

 

 

 

 「私」は、無敗の三冠ウマ娘を目指す。

 たとえそこで、誰が立ちふさがろうと、勝ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 私は全然理解してなかった三冠のヤバさを授業で知り、顔を真っ青にしたのだった。

 

 

 







 トレーナーも無敗三冠という言葉に色んな意味で顔を真っ青にしてます。



 次は3、4日後。一気に飛んでメイクデビューの話。



(追記)
 堀野トレーナーの黒い噂についてなど、本編にそこまで関係しない小ネタや設定などを活動報告にて掲載しています。
 もしも興味がある場合は是非ご一読ください!

(追記2)
 誤字報告をいただき、修正させていただきました。ありがとうございました!
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