転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 ガチャノヒッキー
 スリヌケノガシタル
 トーゼンテンジョーダン





カネヲカケル

 

 

 

 LUC、というステータスがある。

 昔ながらのRPGゲームでは王道の、いわゆる「運の良さ」を示すステータスだ。

 私の印象としては、正直一般的なステータスの中では一番微妙な数値って感じ。

 

 まず一番大事なのは、敵をスムーズに倒すSTRとかINTとかだ。これらがないと無駄に攻撃を受けたり行動されることになるし、ジリ貧になる可能性が高い。

 次に、相手を殴り倒すまでに攻撃を耐え切るDEFとかVITあたり。やりこみプレイの領域になると無駄に回復行動とかしてる暇がないので、この辺の数値も結構大事な印象がある。

 その次あたりに、回避率や命中率を決めるAGIとかDEXあたりが入って来るか。正直回避は望み薄だが、こちらの攻撃が命中しなければ勝負にもならない。最低限の数値は欲しいところだね。

 ……で、最後にLUC。状態異常の付与・被付与率とかクリティカル率、ドロップ率とかに関連する数値だ。でも、逆に言えばそれだけ。稼ぎ中や縛りプレイ、RTAで使うことはあっても、通常プレイで優先的に上げることはあんまりないだろう。

 

 もちろん、人によってステータスの重要性は変わって来るし、これが唯一無二の正解なんて言うつもりはない。

 ゲームの質によってはタンクとかヒーラーとか、役割を分けないといけないことも多いしね。

 そうなると全員1種のステータスに極振りするよりも、それぞれ役割に添ったステータスに極振りした方が良かったりもするわけで……。

 

 ……いやいや、本題はそっちじゃなくて。

 

 今大事なのは、私にとってLUC、つまり運は微妙なステータスだったってこと。

 

 でも、それはあくまで前世でやってたゲームの中での話。

 リアルの世界で一番重要なステータスって、ぶっちゃけ運だと思うんだよね。

 

 リアルで運がないとどうなるかと言うと……。

 例えば、両親との仲が噛み合わず家庭が崩壊した上、本来の形を取り戻せないまま死に別れたりする。

 いや、勿論運だけってわけじゃなくて、それぞれが相手に寄り添うだけの余裕を欠いていた部分も大きいんだけど……そこも含めて、環境を構築する運がなかったなとは思うね。

 

 で、逆に運が良いとどうなるかと言うと……。

 例えば、トレセンに来てすぐに理想のトレーナーと出会えたり、信頼できる良き先輩、尊敬と友情を抱けるライバルたちと知り合えたりする。

 これも運だけってわけじゃないけど以下省略。

 

 ……こう見てみるとわかるんだけど。

 ホシノウィルムっていうウマ娘は……なんというか、運の偏りがすごい。

 時にLUCが1になることもあれば、99になることもある。そんなピーキーなウマ娘なのだ。

 

 で。

 そんな上振れと下振れが日常生活でも襲ってくるわけで。

 つまり何が言いたいかって言うとさ。

 

 ……爆死する時には、そりゃもう綺麗に大爆死するのだ。

 

 

 

「くっ……! ふっ、ふーっ……うぐぐ……!」

 

 おかしい。

 おかしいおかしいおかしい絶対おかしい!

 

 私は病室で1人、息も荒くスマホを握り潰し……かけて、ウマ娘パワーだと本当に潰れかけないので我慢していた。

 

 憎しみを込めた視線の先には、最近流行ってるらしいソーシャルゲーム……そのガチャ結果が示されている。

 10枚並んだカードは、その内9枚が銀色の縁取りで、1枚だけが金色。

 このゲームにおける最高レアリティは虹色の縁取りであり、ぶっちゃけそれ以外は全部ハズレだ。

 更に言うと、10連で引くと1枚は必ず金になるので、この結果はいわゆる最低保証というヤツになる。

 

 つまるところ、完膚なきまでに爆死であった。

 

 しかし私も素人ではない、たかだか10連回して最低保証を引いても「まぁそんなもんでしょ」と受け止める、ソシャゲガチャに慣れ切ったオタクメンタリティを持っている。

 ……いや、今世でソシャゲやるのはこれが初めてだし、持っていた、って言うべきかな。

 

 しかし。しかし、だ。

 最高レアの確率は3%、ピックアップの的中率はその半分。

 つまり、期待値的には大体66回程度回せば1枚命中すると言える。

 

 それなのに……。

 

「回転数、600……おかしい、60連で命中する確率を2分の1とするなら、既に1024分の1023の確率で引けているはずなのに……!」

 

 偉い人は言いました、回転数こそ全てであると。

 どうこういう条件なら当たるという宗教も、単発で引いた方が当たるという迷信も、全ては無価値。

 ガチャに王道なし。

 結局は回した試行回数こそが正義であり、それによって「当たらない可能性」を排除していくことが唯一の歩みなのである。

 

 でも20人近い諭吉が消し飛んで1枚も命中しないのは違くないか。

 違うでしょ! もっと私に優しくあれよ現実!!

 

 

 

 ……私は今年の4月あたりに借金生活を抜け出し、今ではすっかりお金持ちとなった。

 オープンを1つ、G2を1つ、G1を4つ制し、いつしか戦績的には競走ウマ娘の中でも最上位と言っていい状態まで来た。

 その上私はこう見えて、ライブやファンサービスは割としっかりこなす方だ。

 そうなると当然人気も出てくるわけで、人気がすごくなればグッズが飛ぶように売れるわけで。

 口座の通帳を見ると、ちょっとすごい数字が記入されてる。

 多分、質素に暮らそうとすれば一生持つかな、くらいの金額である。

 

 でも、金銭感覚が即座に跳ね上がるかと言うと、それは違った。

 今でも特売と言う言葉には心躍るものがあるし、割引シールには目を引かれる。

 だいぶ慣れてはきたけど、コンビニで物を買うのにも少し抵抗が残っているくらいだ。

 

 だが「私はめっちゃお金を持っている」というイマイチ現実感のない認識もあるわけで。

 ……それがつい、財布、というか通帳の紐を緩めてしまった。

 

 その結果何が起こったかと言うと。

 ついソシャゲに課金してしまっては「私はなんてことになんて量のお金を使ってるんだ……!」とすごい罪悪感に襲われる、っていうアホみたいな自滅が繰り広げられていた。

 しかもここまで来ると引くに引けない。途中で挫折したなんて失敗案件は残せない……!

 

 

 

「ぐっ……ぐぎぎぎぎ……!」

 

 病室が個室なのを良いことに、小さくベッドの上で呻き声を上げる。

 

 いや、別に課金は悪いことじゃないんだ。

 このゲームにはお金を払うだけの楽しさや充実感があったってことで。

 これはひとえに楽しませてもらったことへの返礼であり、続きの開発も楽しみにしてますという意思表示でもある。

 

 ……でもさ、爆死は違うじゃん。

 もうちょっとユーザーに優しくてもいいじゃん。

 

 もしかして、私のアカウントだけバグってる?

 というかむしろバグであってくれない?

 もしくは私のガチャからだけは排出されない仕様じゃない?

 

 既に3回天井して3凸したわけだが、ピックアップ対象のカードが当たった回数は0。

 あと1凸しないと……あと1凸しないと、この子の本当の性能は出せない。

 ただでさえ1回ガチャを回すのに300円っていうアホみたいなお金かかるのに、まだあと200連、ろ……6万円、かけなきゃいけないの……?

 

 というか、ここまでの600連、当たった最高レアはすり抜けの1枚だけだった。

 600連回して、3%が1枚。

 期待値は18枚なのに、現実は1枚。

 

 あまりに悲壮な現実に、私は自分の心が闇に落ちていく感触を味わった。

 

「ぐぐぐ……運命め、そんなに私が嫌いか……!」

 

 憎いよ……この世界の全てが、憎い……!

 

 許せない……SNSで煽って来るヤツも……単発で当たった報告するヤツも……!

 あと悪意はないと思うけど、私のウマッターでの爆死報告に「こっちは当たりましたw」とかってガチャ結果送りつけて来るヤツも……!

 

 私と比べて遥かに少ない労力で勝利と喜びを甘受するなんて……許せない……!

 ガチャは悪い文明……この世界には不要。

 滅ぼす……滅ぼしてくれる……!!

 

 手始めにお前だ、私の手の中のクソスマホ、この煮えたぎる怒りを思い知……!

 

 

 

 ブーッ、とスマホが振動して、思わず振り上げた手の中でわたわたとスマホをお手玉。

 慌てて掴みなおして、応答ボタンとスピーカーボタンを押した。

 

 このスマホ、私は連絡手段としてはほとんど使ってない。

 主な用途はSNSでの情報発信、ソシャゲ、動画視聴の3つだ。

 連絡先なんて、トレセンに入るまで助けてもらってた親戚の方やネイチャにおススメされた美容院とかも含めて5件くらいしか登録していないし、SNS関係は全部通知切ってる。うるさいから。

 

 その上で、私のスマホが振動するとなれば、それは即ち……。

 

「トレーナー!」

『うん、こんにちは、ホシノウィルム。今、時間、平気か?』

 

 そう、私のトレーナー、堀野歩さんからの通話なのだ。

 

 スマホのスピーカーから聞こえてくるのは、いつもと少し違う、電波に乗ったトレーナーの声。

 どうやら歩きながらの通話のようで、時々車の行き交う音や何かのアナウンスみたいな声が途切れ途切れに伝わって来る。

 

「大丈夫です、何かありましたか?」

『いや、特には。今日は様子を見に行けないから、少し声と調子を聞いておきたかっただけだ』

「なるほど。……えっと、あと2時間程度なら大丈夫です」

『いや2時間は話さないが。……うん、今日も元気そうだな、安心した』

 

 うへへ……めっちゃ気を使ってもらってる。

 やっぱ嬉しいね、好きな人に心を割いてもらえるのは。

 

 今日はトレーナーがお見舞いに来れないらしくて少し残念だったけど、こうして声が聴けるとは。

 心を満たす温かい気持ちに、思わずスマホを両手で包みこむ。

 私とトレーナーを結ぶ大事な縁の1つ。スマホ様は神様だ。

 かろうじて壊さず我慢したからこそ、こうして今日もトレーナーとお話できるわけで。

 うん、いくら爆死しまくったとしてもやっぱり物に当たるのは駄目だよね!

 

 皆、爆死したとしても、その苛立ちを物にぶつけちゃダメだよ!

 物は大事に使おう! 憎しみは何も生まない! 暴力反対、ラブ&ピース!

 

『何か変わったことはあったか?』

「…………特には。ああ、今日は師匠のレースが見られるので、楽しみにしています」

『うん、君と同じ大逃げウマ娘だ、参考になる部分もあるかもしれない、しっかり見ておくように』

「トレーナーの方は……えっと、ご実家に帰省、でしたよね」

『すまない、本当は君の傍にいたかったが……明後日にはまた見舞いに行けると思う』

 

 聞くに、トレーナーは3年ぶりに実家に帰省してるらしい。

 ずっと「いい加減有給消化してくださいね?」ってたづなさんに怖い笑顔で詰められてたし、ご実家の方に用事があるとのことで、私のリハビリが本格的に始まる前に消化する方向に舵を切ったらしい。

 

 ……本音を言うと、2日間とはいえ会えなくなるのはちょっと寂しいけど、トレーナーにもトレーナーの生活がある。

 そこを束縛するのは、何というか、よろしくない。

 私はトレーナーに好いてほしい。けど、そもそもまだ意識すらされていないのが現状だ。

 「私だけを見てほしい」みたいな領域には、とてもじゃないけど入ってない。それを求められるだけの、トレーナーからの想いがない。

 そんな時に束縛なんかしてみ? そりゃもう嫌われ一方通行よ。

 

 てかそもそも私、重い女にはなりたくないんだよな。

 私は堀野歩トレーナーのことが好きだ。人としても、恋愛的にも。

 でも、だからって必ずしも彼が私の感情を受け取り、同じものを返してくれるべきとは思わない。

 

 「これだけ愛してるのになんでわかってくれないの!?」とか言い出すメンヘラがよくいるけど、そりゃお前が相手を慮らない、独りよがりでエゴイスティックな愛しか持っていないからだ。

 自分から出したら相応のものが返ってくるというナイーブな考えは捨てろ。

 この世界はそんな優しくない。私はそれを、よく知っている。

 愛されたいのならば、相手が愛してくれるように気に入られるしかない。

 本当にすべきは、相手の方から求めてもらえるよう自分の魅力をしっかりアピールし、決して迷惑をかけないようにすることだ。

 

 自分の恋愛感情を叶えることも大切だが、その欲望は相手の感情と等価値。

 どちらを優先していいってものでもない。

 大事なのは相手の気持ちを尊重しながら、それを自然と自分の方に傾かせていくこと。

 つまりは篭絡だ。いや篭絡はちょっと言い方悪いか。ちゃんと好きになってもらうこと、かな。

 そうして土台からしっかりと作り上げた関係でなければ、決して長続きしない。

 

 ……以上、前世で100冊以上の恋愛漫画を読み漁った私の恋愛哲学でした。

 

 まぁ恋愛に限らずとも、自分の汚い感情やエゴを丸出しにして、評価されたり好かれたりすることなんてないからね。

 その辺の欲望はひけらかさず、同時に抑えつけない、適度な形での昇華が望ましい。

 なので……そうだな。

 

 ……これくらいは、言っても良いよね。

 

「寂しいので、早く帰って来てください。

 ……いや、早く帰って来てね?」

『……ああ、明後日には必ず会いに行くよ』

 

 

 

 それから10分くらい話して、トレーナーとの通話は終わった。

 もう声が聞こえてくることのないスマホを……なんとなく、胸の前で抱き締める。

 

 ああ……私、やっぱり好きなんだな。

 堀野トレーナー……堀野歩さんのこと。

 

 更に言えば、こっちはあくまで友人としてだけど、ネイチャも、テイオーも、ミーク先輩も。

 師匠も、ブルボンちゃんも、後輩ちゃんたちも、皆好きなんだと思う。

 

 私は、今自分がいる環境が好きだ。

 ずっと続いてほしいって思うくらいに、大好きだ。

 

 この環境がどれだけ恵まれたものか知ってる。

 残酷な世界の中で、どれだけ得難いものであるか、よく知ってる。

 だからこそ……。

 

「……壊れてほしく、ないなぁ」

 

 ……1週間と少し前。

 「なんでターボのことを師匠って呼ぶの?」とテイオーに聞かれた時、私は仮面で隠しきれないほど動揺し、緊張してしまった。

 怖かったんだ。

 前世の記憶がある、なんて知られたら……またあの目を向けられるかもしれない、って思うと。

 

 そんなわけないって、理性ではわかってる。

 ネイチャもテイオーも、どっちもすごく優しい。トレーナーならきっと受け入れてくれる。

 そう頭では理解できても、それでも怖いんだ。

 

 もしも今の環境が崩れれば……私はきっと、今度こそ耐えられないから。

 

「でも、いつか……トレーナーにだけでも、明かせるようになる日が来るといいな」

 

 それは仄かな、何の保証もない希望だったけど。 

 ……未来に希望があるってのは、思っていたより何倍も……温かくて、気持ちの良いものだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 トレーナーとの通話が終わって、改めてガチャを回したら、最初の10連で2枚抜きして微妙な気分になったり……。

 SNSにこの爆死の形跡を残した後、落ち着くために動画サイトでペットの動画とか見て心を満たしてる内、時間は過ぎていき……。

 

 

 

 時刻は15時30分過ぎ。

 そろそろダブルジェット師匠の走るレース、ラジオNIKKEI賞が始まる頃合い。

 私はベッドの上で、スマホからレースの中継を見ていた。

 

 G3、ラジオNIKKEI賞。

 福島レース場右回り、芝1800メートルのコース。天気は晴れ、バ場状態は良バ場の発表。

 

 私は福島レース場で走ったことがないから、正確にはわかんないけど……。

 緩やかとはいえ3回も登り坂を越える必要があるのは、大逃げウマ娘である師匠には若干厳しいと言えるのかもしれない。

 ただ、その距離は1800メートル、マイルの範疇だ。

 そこまでスタミナが必要なレースじゃないと言っていいと思う。

 

 師匠は根っからの逃げウマ娘。

 前半で稼いだリードでなんとか逃げ切る、ってのがメインの戦術になるだろう。

 距離の短さは基本的に有利に働くはずだし……。

 

「うん、大丈夫そうだ」

 

 カメラが遠くから、師匠の姿を捉える。

 

 師匠は今日も、やる気満々な笑顔でレースに臨んでいる。

 その様子からは不調の気配なんて感じ取れない。

 5番人気とはいえ、その実力は本物。

 後は緊張して入れ込んだりしなければ……。

 

 

 

 コンコンコンと、規則正しいリズムで病室のドアがノックされる。

 

 あれ、誰だろ。

 看護師さんが来る時間じゃないし、テイオーとネイチャも今日は来れないって言ってたはず。

 勿論、実家に帰ってるはずのトレーナーでもないし……。

 変なマスコミだったらどうしよ、トレーナーを通さず接触するわけにはいかない。

 

 ……とはいえ、流石に外で待たせるわけにもいかないよね。

 ちょっと警戒しながら、訪問者を招き入れる。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 返ってきた言葉は、どこかで聞いたことのあるもの。

 久々に聞いた、冷たく澄んだその声は……。

 

「ミホノブルボンちゃん」

「はい、お久しぶりです、ホシノウィルム先輩」

 

 ドアを開けて入って来たのは、私の後輩。

 ジュニア級ウマ娘、ミホノブルボンちゃんだった。

 

 

 

 ミホノブルボン。

 

 ロングに伸ばされた栗毛も綺麗で、身長も高く胸も大きい、私の1つ下とは思えない大人っぽいウマ娘だ。

 お子様体型に悩まされる私からすると、正直色々と羨ましい。

 

 前世のアニメにも出演してた子で、常に冷静沈着でストイック、感情の読みづらい無表情な女の子。

 ……髪色とか体の大きさとかこそ違うけど、パッと見の属性だけだと結構私と被ってるんだよなぁ。

 

 あ、でもこの子、とてもじゃないけど真似できない大きな特徴があったな。

 アニメではそうでもなかったと思うんだけど、この世界のブルボンちゃん、なんか機械的っていうか、アンドロイドみたいな喋り方するんだよね。

 一度話したら忘れられない、めちゃくちゃインパクトのある個性だ。

 最近無個性なことを気にしてる私としては、こっちも羨ましい。……「隣の芝は走りやすい」ってヤツかもしれないけど。

 

 で、そんなブルボンちゃんと私は、ちょっと前に話したことがあった。

 あれは確か皐月賞直前だったから……もう2か月前のことになる。

 その内容は……今思うと、どういうことだったのかよくわかんないんだけど。

 要約すると、自分の血筋は中長距離に向いてないけど、なんとかクラシック三冠を狙いたいっていう相談だったと思う。

 

 何をトチ狂ったのか、この世界じゃブルボンちゃんはスプリンターとして評価されてる。

 前世アニメにおいて無敗で二冠を取ったブルボンちゃんが、だ。

 

 まぁ確かに、ウマ娘のレースは「ブラッドスポーツ」と呼ばれる側面がある。

 自分の母親の距離や脚質の適性は大抵の場合、子のウマ娘に大きな影響を与える……というか、その素質の大部分を決めてしまう。

 これは広く知られる一般常識だ。

 その上で、ブルボンちゃんの血筋はスプリンター向きのものらしい。

 故に、多くのトレーナーや関係者は、彼女をスプリンターの卵として見てるんだって。

 

 ……でも、血は絶対じゃない。

 しばらく前に一世を風靡したらしい、現ドリームトロフィーリーグ所属の芦毛の怪物、オグリキャップさん。

 皐月賞と菊花賞、そして今年の天皇賞(春)を制した黄金世代の二冠ウマ娘、トリックスター、セイウンスカイ先輩。

 そして何よりこの私、ホシノウィルム。

 

 血に頼らない個人の素質やトレーナーと共に積んだ努力で、その血の限界を乗り越えたウマ娘は実在する。それも、決して少数でなく。

 きっとブルボンちゃんも、そういうウマ娘の1人なんだと思う。

 なので「いや君なら行けると思うけど。トレーナーもそう言ってたし」とマジレスしたら、何やら驚いたような顔で感謝されて、話は終わった。

 

 今思うと、彼女が何に納得したのかもよくわかんないし、悩みを解決できたような気もしない。

 ……いや、それを言っちゃうと、時々ジュニア級の子から持ち込まれる相談、私はほとんど聞くことくらいしかできてない。

 精々トレーナーに伝えて、彼女たちに合うトレーナーを紹介してもらったり、アドバイスを伝達したくらいだ。

 頼りがいのある先輩をできてる気はしない……んだけど、あれからもちょくちょく相談持ちかけられたりするんだよな。謎だ。

 

 

 

 さて、そんなことがあってから早2か月。

 私が忙しかったってこともあって、ブルボンちゃんとはお話とかする暇もなかったんだけど……。

 まさかそんな彼女が、お見舞いに来てくれるとは思わなかったな。

 

「いらっしゃい、ブルボンちゃん。お見舞いに来てくれたの?」

「はい。オペレーション『お見舞い』を実行しています」

 

 ……改めて、強烈な個性だなぁ、その喋り方。

 私、強い以外にはあんまり特徴のないウマ娘だから、正直ブルボンちゃんのキャラ立ちが羨ましいよ。

 世間にアピールするにも、トレーナーにアピールするにも、キャラクター性って大事だからね。

 キャラが弱いってのは、それだけでだいぶ致命的なんだ。

 その上私、体がこの通り貧相だし……多分私がソシャゲのキャラとしてガチャに実装されても、全然回らないんだろうなぁ。

 

 と、と、そうだ。

 

「ごめんね、ちょっと待って。友達の重賞レースがあるんだ」

 

 そろそろ師匠のレースが始まっちゃう。

 ブルボンちゃんとは明日も話ができるけど、ジェット師匠のラジオNIKKEI賞はこれが最初で最後。

 ちょっと申し訳ないんだけど、こっちを優先させてもらおう。

 

「……謝意を表明します。お邪魔してしまい、申し訳ありません」

「大丈夫。でも、10分程度待ってもらえる?」

「了解、ミホノブルボン、待機モードへ移行します」

「……ただ待ってもらうのも悪いし、一緒にレース観戦しようか。ほら」

 

 ちょっと端に寄ってブルボンちゃんにスペースを空け、スマホをベッドに立てかける。

 ……ちょうどゲートイン中か。危ない危ない。

 

「先輩のご友人、というのは……」

「4枠7番のダブ……ツインターボし……ちゃんだよ」

「ツインターボ先輩。やはりお強いのでしょうか」

「うーん……うん、少なくともこの中だと強いんじゃないかな」

 

 ちょっと意地の悪い言い方になっちゃうけど、まぁそれはそう。

 今回師匠が出走したラジオNIKKEI賞は、G3レース。重賞の中では最も格が低いとされるレースだ。

 当然と言えば当然なんだけど、格が低いと、それだけ実力者も少なくなるからね。

 本格化が遅れてスペックが控えめな師匠だけど、それでもこの面子の中ではかなり強い方らしい。

 

 トレーナー曰く、今回のレースは「ツインターボが本調子で走れれば7割ツインターボが勝つ」。

 レース全体のペースを基準に考えて、今のエンジン師匠はテンから終いまでハイペースで飛ばせるだけの持久力があるらしい。

 問題があるとすれば、きちんとスタートダッシュを決められるか、最初の内に先頭をもぎ取れるか、そして後方を意識し過ぎて掛からないか。

 それらの不安要素さえ解決すれば、ツインターボはおおよそ1着になれるスペックは持っている、ってトレーナーは言ってた。

 

 勿論、これがG2とかG1になると、レース自体の基本ペースが速まって来て、更に速度を出さざるを得なくなる。

 そうなると必要な体力も跳ね上がっていき、ずっとハイペースとは行かなくなるだろうけど……。

 少なくとも、今の師匠はこの距離のG3なら普通に取れるだけの実力がある、ってことだ。

 故に、「この中なら強い」という評価が妥当なところだと思われる。

 

 ……ってのを、ブルボンちゃんにかいつまんで話した。勿論、トレーナーの受け売りってことも添えてね。

 

「トレーナー、レース展開の予想は今まで9割くらい当ててるから、信じていいと思うよ」

「なるほど」

 

 そう話している私たちの前で……ラジオNIKKEI賞は始まった。

 

 バ群の中からぐんぐん前に足を進める師匠は、少し競り合ってすぐに先頭を確保。

 ちょっと先行争いで飛ばしちゃったから心配だったけど……すぐに3バ身くらい差を付けて逃げ始めた。

 

 最終直線までで1バ身差程度にまで詰められたものの、気合を入れ直した師匠が再加速、3バ身差くらいまで再び差を広げて……結局後続は師匠を捉えきれず、そのままゴールイン。

 

 ツインターボ師匠は見事、重賞初勝利を飾ったのだった。

 ……ふぅ、ちょっと緊張したけど、一安心だ。

 

「うん、多少の加減速はあったけど最初から最後までハイペース、隙のない走りだったね。

 極端に減速せず綺麗に逃げ切れたし、ししょ、ターボちゃんにはこれくらいの距離が一番合うのかも」

 

 綺麗な逃げ切りだったなぁ。

 最初から最後まで速いペースで走るんだから、そりゃあ誰も追いつけないってものだ。プチ異次元の逃亡者って感じ?

 

 うん、総じて半年の遅れなんてものともしない、良いレースだったと思う。

 

「どう思った? ブルボンちゃん」

「……差を離し、後続からの影響を防ぐ。伺っていた通り、ホシノウィルム先輩に近しい走りであると分析しました」

「そうだね。私も彼女も、そういう走りが得意だから」

 

 何せ大逃げって、後ろのウマ娘から影響を受けずに済むからね。

 後ろからの圧力に弱かった昔の私にとっては、これ以上ないくらいの適正脚質だったんですよ。

 宝塚記念でも見せたように、今の私は普通の逃げもできるけど……やっぱり独走しやすくトリックもかけやすい大逃げの方が得意な自覚はある。

 

「ブルボンちゃんも、自分に合う走り方を見つけられるといいね」

「私に合う走り……」

 

 ブルボンちゃんは少し視線を落とし、考え込んでしまった。

 

 トレセンに来るまで適性に理解のなかった私が語るなって話だけど、ウマ娘には確かに、自分に合う走り方ってものがあると思う。

 他のウマ娘からの威圧感に弱い子もいれば、逆にそういう中だからこそ本調子になる子もいる。

 一気呵成な末脚のキレる子もいれば、じわじわと前へを目指すのが得意な子もいる。

 ウマ娘は十人十色、「これが一番速い」という正答はどこにもなく、それぞれがそれぞれの最速の走り方を見つけ出さないといけない。

 

 例えば、私たち……星の世代なら。

 テイオーなら先行、好位置に付いて第三コーナーから抜け出して加速する。

 ネイチャなら差し、後ろからじわじわと距離を詰めて、ここぞって時にスパートをかける。

 私なら大逃げ、最初ドカーンと逃げて中盤で脚を溜め、最後にまたドカーンと追い込むって感じ?

 

 ブルボンちゃんにどんな走り方が合うかはわかんないけど、それを見つけ出さないと……最初の内は苦戦を強いられるかもしれない。

 サイレンススズカ先輩とかはまさにそのタイプだったらしく、シニア級に入るまで成績が振るわなかったって話だし。

 一番の近道はやはり、それを教えてくれるトレーナーに巡り合うことなんだけど……。

 

「……あ、そういえばジュニア級の子に聞いたけど、ブルボンちゃん、契約トレーナーが付いてないって本当?

 もしよければ、私のトレーナーに言って、誰か紹介してもらおうか?」

「その件に関して……ホシノウィルム先輩、リクエストがあります」

 

 ブルボンちゃんは顔を上げて居住まいを正し、改めて私の目を見て、言った。

 

 

 

「ホシノウィルム先輩を担当している堀野トレーナーに、私も契約していただきたいと望んでいます。

 ですが、お返事が芳しくなく……もしよろしければ、ご協力いただけると助かります」

 

 

 







 まだまだ次章には行きませんが、そろそろギプスも取れる頃なので、一旦別視点回を挟みます。
 多分このおまけの次……の次くらいから、ウィルのリハビリが始まります。



 次回は3、4日後。おまけの別視点回で、ネイチャとトレーナーのとある日の話。



(ご報告)
 狩猟系ナメクジ様より、NovelAIを使った支援絵をいただきました!
 表情の変化がストーリーに沿っていて感動しました……!
 小説のあらすじに掲載しておりますので、是非ご覧ください!

(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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