転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 先に申しておきますが、拙作のレース描写はちょっと「重い」展開になります。多分アニメ2期が大丈夫だった人なら楽しめるくらいの重さです。
 その分普段はギャグマシマシすれ違い多めの展開です。
 グッピーが死ぬくらいの温度差をお楽しみいただけたらと思います。

 「シリアスもやる」、「ギャグもやる」。「両方」やらなくっちゃあならないってのが「二次創作」のつらいところだな。





そして でんせつが はじまった?

 

 

 

 ウマ娘にとって第一の関門がトレーナーとの契約だとするなら、それは第二の関門と呼べるだろう。

 

 デビュー戦。あるいは、メイクデビュー。

 

 ウマ娘はこれ、あるいはこれに敗退した際に出走することになる未勝利戦のどちらかで1着を取らなければ、他の公式レースに出走登録することができない。

 

 1着。

 出走でも入着でもなく、1着だ。

 

 幸いと言うべきか、デビュー戦は10人以下という比較的少ない人数で行われるため、フルゲート18人のレースに比べれば1着を狙いやすいと言えるだろう。

 しかしそれでも、10人のウマ娘の中で頂点に立たなくては、夢の入り口にすら立てない。

 

 この世界に来て、競争の世界は優しくないことを痛感した。

 輝く才能のあるウマ娘は、メイクデビューで簡単にスタートラインに立てる。

 鈍い才能のあるウマ娘は、その後の未勝利戦で勝利をもぎ取り、勝負の舞台にたどり着く。

 ……では、才能のないウマ娘は。

 

 …………。

 

 残酷なものだ。

 しかし、それこそが勝負。優劣を決めるものである以上、頂点を決めるものである以上、勝者と敗者は生まれ、その2つの間には決定的な壁が生まれる。

 

 勝者には歓声と栄光が与えられ……。

 敗者は知られることもなく花を散らす。

 

 それがウマ娘たちの世界。それがトゥインクルシリーズ。

 

 俺はその残酷さを、何度も何度も繰り返し、父に諭されてきた。

 

『勝者の一滴の汗と、敗者の海の如き涙。それを受けて輝くのがトゥインクルシリーズだ』

 

 父さん。

 今日、俺は、その言葉の意味を理解することになる。

 

 

 

 * * *

 

 

 

『新たなる才能たちが現れる阪神レース場。芝2000メートル、バ場状態は稍重の発表となりました。梅雨の時期の中、彼女たちの門出を祝福するかのような晴れ間が見えています。新進気鋭の顔触れの中で、トゥインクルの舞台へ足を踏み入れるのは誰だ!』

『さぁ、ウマ娘たちがターフの上に出揃いました』

『1番人気はこの子を置いて他にいない。選抜レースで群を抜いた逃げ足を見せた、ホシノウィルム!』

『作戦を差しから逃げに変えて以来、彼女は調子を落としていないようです。その仕上がりは誰もが認めるところ。今日も余裕のポーカーフェイスを維持していますね』

 

 ターフに現れたウマ娘たちが各々準備を整える中、実況解説の声が聞こえてくる。

 真っ先に歩き出したのは、俺の担当ウマ娘、ホシノウィルムだった。

 彼女の表情に動揺はない。いつも通りの無表情で、何の感慨もなく、淡々とゲートへ入り。

 

 ガチャンと、後方でゲートが閉まった瞬間。

 彼女の顔つきが変わる。

 

 それはささやかな、彼女と長期間に渡って接した人間でないと気付けない程度の変化。

 元々の無表情はその軸をブラさず、けれどより色をなくして……。

 そこに現れるのは、冷徹で冷酷な、ホシノウィルムのもう1つの顔。

 彼女がレースの時……より正確に言えば、誰かと足の速さを競う時にのみ見せる、もう1つの面。

 

「ホシノウィルム……」

 

 俺は手を合わせて祈ることも、手すりを握りしめることもなく、ただ唇を歪めた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それに気が付いたのは、同期のトレーナーの担当逃げウマ娘に併走してもらった時。

 レース勘を培うために組んだその一戦は、結果として得られるものがなかった。

 というのも、ホシノウィルムはこちらの指示に従わなかったからだ。

 

 開始の合図であるフラッグが振り下ろされると同時、彼女は、爆ぜた。

 

「……序盤から突き放すイメージ、とは伝えたがな……」

「あはは……まぁ初めての作戦でペースを掴めず掛かるのはよくあることだよ」

 

 正しく、圧倒的な速度。クラシックの重賞で走っても十分に通用する程のスピードで、相手を引き離す鹿毛のウマ娘。

 けれどそれは、自分の作戦を貫くことができず、暴走してしまっているだけ、と。

 人当たりの良い同期のトレーナーは、ホシノウィルムをそう評した。

 

 ……けれど、俺はそうでないことを知っている。

 ハイ、ミドル、ロー。ペースをその3つに分けるとすれば、今の彼女はミドルペース。

 ただ、彼女のミドルは他のデビュー前ウマ娘のハイ。彼女にとっての普通が、他者にとっては異常なのだ。

 そこにはこれ以上ない程、無情な性能差が表れていた。

 

「大逃げか……。しかし驚いた、まだ落ちないとはね。彼女、長距離専門にする気かい?」

「いや、中長距離だ。……単純に、彼女の素養が高すぎる」

 

 

 

 速度は高めれば高める程、加速度的にスタミナを消耗するようになる。その上呼吸で酸素を得にくく、体幹はブレやすくなり、更には冷静にレースの状態を見ることだってできない。

 ウマ娘にだって限界はある。各々の最適速度の上限を超えれば、そこから先はレース全体のタイムを落とすだけの非効率な結果に終わる。これがいわゆる掛かりってヤツだ。

 

 故にウマ娘たちは、自分の最高速度とスタミナ、周りのバ群状況や距離感、そしてバ場状態にレース全体のペース。

 その全てを考慮し、最適な速度とそれを出すタイミングを算出する必要がある。

 

 同期のトレーナーの言ったように、ホシノウィルムの走り方は「大逃げ」に分類される。

 これはレース序盤にバ群を可能な限り引き離し、その圧倒的なリードを以て先頭を維持するという、いわば追込の真逆をする作戦だ。

 ……だが、最初に速度を出しすぎれば、脳に回る酸素が減り、ペース配分を考えることすら難しくなってしまう。勿論後方のバ群とも離れるから、レースの状況を把握することもできないだろう。

 だから、最初にスタミナを消耗して速度を出す大逃げは難しい。勝ちの王道にはなり得ない。

 

 

 

 ……だが、その問題は、ホシノウィルムの強靭なスタミナと肺活量によって解決されている。

 

 

 

 流れる鹿毛は減速しない。突き放した相手を気にすることもなく、直線では常に一定の速度を維持。

 長期間高い速度を出し続ければ、足が重くなり思考が鈍くなる。だからこそウマ娘は息を入れ、足を溜めるのだ。

 だと言うのに、彼女はその常識を覆している。

 強いて言えば、ミホノブルボンのそれに近い等速の疾走。

 才能がどうあれ、血の滲むトレーニングを積めば、かろうじて可能になる秀才の技だ。

 

 しかしそれは、常識的に考えて、ジュニア級の2月に出せるはずのものではない。

 

「……どういう育成をしてるんだ。コーナーでこそ速度を落とすが、直線になれば再び戻る。彼女の体力は無尽蔵なのかい?」

「さてな。俺からしても、未だ彼女の底は見えん」

「天性のステイヤーだと?」

「えっ転生?」

「ん? どうした?」

「あっいや、すまん。……あぁ、まさしく天から与えられた才能だよ」

 

 いやホントにな。

 彼女が何故こんなにも強いのかは、恥ずかしながら俺にもわからない。

 才能という側面は確かにあると思う。けれど、それだけではない。

 本来、本格化を始める前のウマ娘が、身体的能力をここまで伸ばすはずがない。だからこそ「最初の三年間」は重要視されるのだ。

 それなのに、彼女は最初からクラシック……スタミナや根性に至ってはシニア並みのステータスを持っていた。

 

 その理由として考えられるのは……彼女のコンディションの1つ、「命がけ」か。

 それが一体どんなコンディションなのか、俺は未だ、正確に把握できていない。

 だが、強いて言うなら。

 これまでトレーニングを付けた1か月間。彼女のステータスの伸びは、高かったように思う。

 いや、正直アプリ版で一人でトレーニングした時どれくらい伸びるとか覚えてないけど。

 

 そこで、俺は1つ仮説を立てた。

 「命がけ」は、少なくともトレーニングの効果を上げる効果があるのではないか、と。

 それも倍率を乗算するのではなく、固定値を加算する、という形式で。

 

 それならば、本来ステータスの伸びないはずの本格化前に強くなったことも頷ける。

 頷ける、が……。

 

 

 

 そんなコンディション、あまりに強すぎる。

 

 名前が「命がけ」で、その上こんなに強い効果を持つとなれば……代償があるのは想像に難くない。

 

 それは、一体……。

 

 

 

「おい、まだ伸びるのか!? 彼女は大丈夫なのか!?」

 

 同期の声で思考が停止。ぼんやりと眺めていたレースに目を向けなおす。

 ホシノウィルムはラスト200メートルで更に速度を上げた。

 正真正銘彼女のハイペース、クラシックのスパートレベルに。

 

「あのバカ……!」

 

 使うなって言ったよね! 今日この後トレーニングだからミドルまでって言ったよね俺! というか相手に並べって言ったんだけどね!

 

 思わず立ち上がりかけ、少し考えて、座りなおす。

 止めようとしたところで、ウマ娘である彼女を止めることはできない。

 たとえ大声を出したところで、こちらの指令を無視してまでスパートした彼女は止まるまい。

 

「……もしかして、気性難なの?」

「まあな。……本当、困ったことだ」

 

 同期のトレーナーは自分のウマ娘の方を見ながらも、気づかわしげに声をかけてくる。

 出来た人だ。自分の担当のウマ娘の併走機会を台無しにされたのに怒ることもなく、こちらを気遣うとは。

 俺は幸運だな。こんな近くにも、尊敬できるトレーナーがいる。

 堀野のトレーナーは日進月歩だ。彼と付き合う内に、得られるものは多いだろう。

 

 ……が、それはそれとして。

 ゴールラインを越え、俺たちの見守る前でようやく減速し始めた鹿毛のおバ鹿は、もう併走には出せないだろうな。

 

「ホシノウィルム」

 

 外ラチを乗り越え、立ち止まったホシノウィルムに駆け寄る。

 彼女はこちらの声にも反応せず、肩を上下させていた。

 だらだらと汗を流し、足なんて軽く痙攣している。

 ……今日はトレーニング中止だな。明日からも足の状態を見てしばらく禁止か。

 

 伝えたはずなんだけどな。

 今日の併走は、ウマ娘と競う感覚を知るためのもの。競争ではなく併走、つまりは基本的に横に並んで走るんだ、と。

 勿論、多少速度を乗せてもいい。けど、振り切ったりせず、きちんと並んで2000メートル走りきるように、と。

 あまり言いたくないが、おそらく相手のウマ娘は、君よりも遅い可能性が高い。それでも我慢して合わせるんだ、と。

 おい聞いてるか、この後もトレーニングはあるからな。体力を使いすぎるなよ、と。

 いいか、絶対ハイペースは出すなよ。絶対だぞ! と。

 ……伝えたはずなんだけどなぁ。

 

「ホシノウィルム。おい、聞こえているか」

 

 肩に手を置くと、彼女は初めてこちらを向く。

 

 そして、俺は。

 

 

 

「……っ」

 

 向けられた敵意に、思わずその手を放してしまった。

 

 彼女の視線は、この1か月俺に向けられていた、ほんの僅かながら信頼が込められたものではない。

 勝負と勝利に固執し、その邪魔をする者は全て敵とみなす、研ぎ澄まされた針のような冷たさと鋭さ。

 この目は……見たことがある。

 模擬レース後、ストレッチをしていた時。強烈な意思を宿していた彼女の瞳だ。

 あの時よりもなお鋭く、もはや殺意に近いものまで感じるが……間違いない。

 実に1か月ぶりに見たことになる、彼女の側面の1つ。

 

「ホシノウィルム、君は……」

 

 だが、すぐに。

 その瞳の、隔絶を感じる冷たさはなくなっていく。

 瞬きをするたびに、呼吸をするたびに、彼女はいつの間にか、俺の知っているホシノウィルムへと戻っていく。

 

「……すみません、トレーナー、少し……気持ちが乗りすぎました」

「…………。少しではないぞ、ホシノウィルム。君のせいで今回付き合ってくれたウマ娘の時間と、これからしばらくの君の時間が無駄になった」

「申し訳、ありません」

 

 ぺこりと下げられた頭が戻った頃には、痕跡すら残っていない。

 そこにあったのは、元通りのホシノウィルムの表情だった。

 

「……君が謝るべき対象は俺ではなく、彼と彼の担当だ。行くぞ」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 あの時、確信した。

 ホシノウィルムには2つの顔がある。

 

 1つは、俺のよく知る顔。少し読めないところはあるが、勝利と理想を追い求める真面目で不器用な少女のそれだ。

 トレーニングを真面目にこなし、更には追加の自主トレを申請してきたり。

 自主トレのしすぎで軽い炎症を起こして、無表情ながら落ち込んだ様子で謝ってきたり。

 スクワットをしているように言って席を外したら、脂汗を流しながら何時間も続けていたり。

 一日体を休めるように言ったのに黙って筋トレしていたり。

 コミュニケーションを取ろうと最近あったことを聞いたら、フリーズしてしまって動かなくなったり。

 歌の練習にカラオケに行ったら、どうやら俺の前で歌うのが恥ずかしかったらしく、ほんの少しだけ頬を赤くしたり。

 時々、本当に時々だが、よくわからないタイミングでくすくすと控えめに笑ったり。

 

 ストイックで不器用、だが等身大の少女。これがホシノウィルムのメインの顔だ。

 

 

 

 けれど、レース……公式非公式関係なく、他のウマ娘と速度を競う戦いが始まれば、彼女のもう1つの顔が表に出てくる。

 

 何度か他のウマ娘と走らせて、わかったこと。

 彼女は基本的に無表情だから、よく観察しなければ、違いもわからないだろうが……。

 その伏せがちだった目が開かれ、青白く鋭い視線が眼前のターフを睨みつける。

 重心が僅かに前に傾き、歩幅をより広く取ろうとする。

 ただでさえ少なかった感情の変化が更に減り、何が起ころうと心を揺らさなくなる。

 そして何より、勝利のために、その全力を費やすようになる。

 

 彼女の普段の顔が、勝利への渇望という「熱」の表情だとすれば。

 レースの時のそれは、機械のようにゴールへと突き進む「冷」の表情。

 

 そして。

 

 

 

『ゲートイン完了。出走の準備が整いました』

『……スタート!』

 

 

 

 「冷」のホシノウィルムに、敗北の二文字は似合わない。

 

 

 

『各ウマ娘、綺麗なスタートを切りました! ハナを切るのはやはりホシノウィルム! ジュニア級とは思えない脚力でぐんぐんと後続を引き離していきます!』

『かなりのハイペースですが、掛かっているとも言い切れないのがこの子の怖いところです』

 

 

 

 アプリをやっていた上、この世界で堀野の歴史とハウツーを学んだ俺は、逃げウマの敗北条件を知っている。

 まず最も多い、スタミナ切れと配分の失敗。自分のスタミナのやりくりに失敗したウマ娘はリードを維持できず、バ群の中に沈む。

 そして、後方からの圧力。ウマ娘はああ見えて繊細な生き物だ。後方から追い立てられることにストレスを感じ、掛かったり沈んだりするウマ娘も珍しくはない。

 末脚の甘さと最高速度の不足。後続のウマ娘の末脚で真正面からリードを埋められる……最初から勝ち目のなかったパターン。

 

 つまるところ。

 スタミナが十全以上にあり、圧力にも動揺しない精神を持ち、根本的な最高速度が他のウマ娘に負けないのなら……。

 その逃げウマ娘は、理論上負けることはない。

 

 

 

『すごい、すごいぞホシノウィルム! 昇り坂の勾配を物ともせず減速しないまま1000を通過! ギミーワンラブ食い下がるがその差は埋まらない! 現在一体何バ身開いているのか!』

『後方で足を溜めている子もいます。最後まで勝負はわかりませんよ』

 

 

 

 いいや、勝負はもう付いてるよ。

 ホシノウィルムに引きずられて、全体のペースが速くなりすぎている。ジュニア級の子たちが……いいや、俺の目に見えているあの子たちでは、終盤までにスパートに必要なスタミナを維持できない。

 

 残酷なことに、戦いは始まる前に終わっていた。

 まだ未熟なジュニア級のウマ娘たちは、ホシノウィルムのスタートダッシュを止める方法も、焦らせる方法も、疲れさせる方法も、追いつく方法も持たない。

 ゲートインが完了した時点で……いいや、このメイクデビューに出走登録してしまった時点で、彼女たちの最初の挑戦が失敗に終わることは決定的なものになってしまった。

 

 

 

『さぁ400を切りました、ここからの最終直線で勝負が決まるぞ! 待機していたコードオブハートバ群を抜け出し前を目指す!』

『前をひた走るホシノウィルムはまだ動く様子を見せません、詰め寄ることができるでしょうか』

 

 

 

 自分の担当ウマ娘が圧倒的な勝利を収めようとしているのに、俺はといえば、素直に喜ぶ気にもなれなかった。

 この世界に来てから、その残酷さを何度も何度も諭されたとはいえ、実際に見ると、やはり感じるものはある。

 ……圧倒的な実力によって、若い才能が摘み取られていく瞬間は。

 

 無理だ、と。何人ものウマ娘の表情がそう告げている。

 レースの途中で、既に勝負を諦めてしまっている。明確な格付けによって、その闘争本能を根本からポキリと折られてしまっている。

 このレースの後、何人が立ち上がれるだろう。何人が絶望するだろう。

 1人のウマ娘が勝利するために、6人のウマ娘が心を折られる。その後、彼女たちが再起できるかは誰にもわからない。

 

『勝者の一滴の汗と、敗者の海の如き涙。それを受けて輝くのがトゥインクルシリーズだ』

 

 あぁ、父さん。まさしくその通りだ。

 

 

 

『残り200、ホシノウィルムスパートをかけた! 最後の坂を軽快に駆け上がり、速い速い完全に独走状態! 何が彼女をここまで走らせるのか、もはや勝利は揺るがない! 先頭の景色はホシノウィルムが手にした、1着でゴールイン!』

『1着はホシノウィルム、2着との間に埋められない大差を付けての完全勝利! 新時代のニューホープが今、産声を上げました!』

 

 

 

 大きな歓声とどよめき。

 ありえないと思いながらも、心のどこかでその姿を期待していた観客たちは、自らの夢を思い出して快哉を叫ぶ。

 

「異次元の逃亡者……」

 

 誰かの呟きが聞こえた。

 あぁ、そうだろうな。思い出してしまうだろう。

 ……既にトゥインクルから姿を消した、最速の逃げウマ娘の姿を。

 

 

 

 今から2年前、トゥインクルシリーズには最強の逃げウマ娘がいた。

 異次元の逃亡者、サイレンススズカ。

 逃げに転向してからは当然のように勝ち続けた彼女は、残念ながら天皇賞(秋)で骨をやり、療養の後、現在は海外の芝を荒らして回っているという。

 シニア3年目にして未だに連勝続き。彼女はどこまで現役を貫くんだろうな。

 ……ま、俺の世界の彼女の結末を考えたら、どこまでも伸び続けてほしいとさえ思うけどさ。

 

 サイレンススズカの作戦は、圧倒的な速度で他者の追随を許さない、典型的な大逃げだ。

 ただし彼女に限っては、終盤に入っても大して減速しないというとんでもスペックだったが。

 調子次第では終盤で更に加速していたという、半ば生きる伝説と化したウマ娘だ。

 

 ホシノウィルムが見せた走りは、日本中を魅了した最速を思い出させた。

 彼女との別れを惜しんだ全てのファンが、ホシノウィルムの背中にサイレンススズカの影を見ているのだ。

 

 確かに、今回ホシノウィルムが見せた……というか、彼女の走り方として定着しつつある逃げ方は、サイレンススズカのそれと同じように見える。

 

 見えるだけだが。

 

 実際のところ、当然だが、彼女の走りはまだサイレンススズカに届かない。

 ラップタイムを見ればわかるだろうが、全ての数字がサイレンススズカに劣っている。

 現段階では、シニア級のウマ娘の中に入れば埋もれる程度の速度でしかないのだ。

 このレースがジュニア級のメイクデビューだったからこそ圧倒的に見えただけの、今のホシノウィルムの限界出力。

 故に、所詮は似ているだけの下位互換に過ぎないのだが。

 

 ……それでも、逃亡者の速さに焦がれた者たちは、ホシノウィルムに彼女を重ねてしまうのだろう。

 

 

 

「……はぁ」

 

 見事にスタンディングオベーション状態になった観客たちの中で、俺は1人頭を抱えた。

 これは、えらいことになってしまったぞ。

 

 

 







 スズカさんは色々あって事故を乗り越え、リハビリを終え、今は海外で活躍しています。活躍というか無双してます。
 担当トレーナーも一緒に行って、楽しそうに振り回されてます。



 次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、初めてのウイニングライブの後の話。



(追記)
 すみません、意図せず規約違反をしていたようです……。
 既に該当部分は削除しています。感想の件を読んだ方は忘れていただけると助かります。
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