転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 ネタバレ:行列はできない。





行列のできるウィルム相談所

 

 

 

 秋のファン大感謝祭でホシノウィルムが出す企画は、相談所に決まった。

 その名も、『ウィルム相談所』。……すっごい直球で捻りのない名前になっちゃった。

 来てくれたファンの方1人1人のお悩みを聞き、それに答えながらコミュニケーションを取る、っていう企画だ。

 ちなみに会話できるお時間は1分で、相談料金300円。お祭りじゃないと許されないとんでもない暴利である。

 

 正直知らない人と楽しく話す自信がなくて嫌だって言いかけたけど、腹を括った。私を支えてくれるファンの皆に、少しでもお礼をしたいからね。

 

 お忘れかもしれないが、私はコミュ障である。

 ……いや、その実、コミュ障ってほどじゃないかもしれないけど。

 

 前世では人と一緒にいるのが苦痛でぼっちだったし、そういう苦手意識がなくなった今世でも……まぁ色々とあって、友達が少なかった。トレセンに来るまでは絶無だったと言っていい。

 だから私には、人とコミュニケーションを取る経験が足りていないんだ。

 コミュ障と言うよりは、コミュ貧とでも言うべきかもしれない。

 

 でも、手前味噌な話になるけど、私は要領が良い。

 思えば前世から、何かに本気で取り組んで失敗したことはあんまりなかった。

 今世でも、自慢じゃないけど、いやごめん嘘めっちゃ自慢だけど、無敗二冠や初のクラシック級宝塚記念勝利まで辿り着けた一因には、トレーナーの実力と共に私の才能もあると思うんだ。

 

 そんな私だから、人とのコミュニケーションも、できないってレベルではない。

 ただ、それは「自分のトレーナー」とか「後輩」とか、相手の立ち位置が明確に定まってるというか……最初からどういう話し方、どういう話題振りをすればいいかわかる時限定。

 急な対応を求められたりすると「あっ、あっ」となってしまう可能性があるわけだ。

 

 ファンという総体への接し方はわかるとしても、その1人1人に対応しなければいけない相談所という形式で、果たして私は『よし、楽しく話せたな!』と思える会話をできるだろうか。

 

 ……と、そんな弱音を出しかけたんだけど。

 

 ファンの皆にお礼をしたいのは事実で、トレーナーが「それで行くか」と言った以上、そこには十分以上にファンを引き付ける魅力があるってことで。

 需要があっても供給が少ないというのは辛いものだ。私も抽選販売とか即売り切れとか市場に蔓延る転売ヤー(ゴミカス)とか、前世で一杯嫌な想いをしてきた。

 そんな私だからこそ、自分を推してくれる方々の需要には積極的に応えていきたいと思ったんだ。

 

 そんなわけで、私は腹を括った。

 こうなったらもうやるしかねえのだ。

 

 そうして、打ち合わせとかトレーニングをこなす毎日が過ぎて行って……。

 その日はあっという間にやってきた。

 

 ……まったく。

 ちょっとヤだなって思うイベントって、なんでこうも早くやってくるんだろう。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ファン大感謝祭当日、朝早く。

 早朝ランニングを終えた私は、中央トレセン名物の嘆きのウロの前にいた。

 

 学園の中庭にポツンとある、中がウロになった大きな木の切り株。

 ここはトレセン学園の生徒が、その負けた悔しさとかトレーニングの苦しさを叫びとして吐き出す、一種のストレス解消スポットなのだ。

 

 ちなみに、この嘆きのウロっていうのは私が勝手に付けた名前である。

 ここ、アニメにも出てたし結構人気なスポットなのに、明確な名前がないんだよね。大樹のウロとかあのウロって呼ばれることが多い。

 

 なので名付けてみました。

 ウマ娘の悔しさとか苦しさが籠ってるから、嘆きのウロ。

 どう、いい名前でしょ?

 

 ……で。

 そんな場所に、何故私がいるかと言えば……そりゃ、理由なんて1つしかない。

 私だって、吐き出したいものはあるんだ。

 具体的には、不安とか言い訳とかゲロとか。

 

 大感謝祭当日。

 ホシノウィルムは、久々に緊張と不安というものを味わっていた。

 

 

 

 大丈夫、窮地なんてこれまで何度も越えて来たんだ。今更これくらい何とでもなる。

 宝塚記念の最終コーナーなんて、脚は折れかけてたしめっちゃ抜かされたしでもっとヤバかったぞ。

 あの時の逆境に比べれば、今の状況なんてゆるゆるだ。突破は容易い。容易いに決まってる。

 そうだ、行ける、私なら行ける、行ける……。

 

 いくら自分に言い聞かせても、緊張と不安が消えない。

 うぅ、楽しむべく来てくれたのに、私が「アッハイ、あっスーッ……あ、そうですね、あ、アッ」みたいなクソ対応しかできなかったらどうしよう。

 

 レースではほとんど不安を覚えたり緊張したりしない私だけど、それはターフの上が私のホームグラウンドだから。

 これでも幼い頃から、起きてる時間の半分以上は走って来たんだ。そりゃ今更緊張も何もない。

 

 だけど今日は、完膚なきまでのアウェー。

 コミュニケーションという、経験のない土俵で勝負することになるんだ。

 その上、絶対に失敗できない。

 何せ今日開催されるのは秋のファン大感謝祭。ファンの皆には、楽しんでもらわないといけないから。

 

 私、本番には強い方って自負はあるんだけど、これでも前もって準備を積み重ね、万全の態勢で事に臨む派なのです。

 一応ミーク先輩を相手に、30回くらい相談所の真似事をして練習こそしてきたけど、気心の知れた先輩と違って、今日来てくれるのはほぼほぼ初対面と言ってもいいファンの方々。

 どこまで練習の成果が発揮できるかは未知数だ。

 そういう意味で、今回は準備や練習のしようのない、ぶっつけ本番の勝負になると言っていい。

 

 よくわかんない人向けに、今の状況を例えるなら……。

 あまり練習も積めないまま、絶対に勝たなきゃいけないダートのG1レースに出るような心境です。

 そりゃあ当然、勝たなきゃって緊張もするし、勝てるのかって不安にも思うわけで。

 

 

 

「……どうしよう」

 

 ボソリと、ウロに言葉を落とす。

 

 どうしようって言ったって、やるしかない。

 だからこそ、覚悟キメて腹も括ったつもりだったけども……。

 それでもなお、不安になってしまう。

 

 ……今世を生きる私には、もう関係のない話に近いけど。

 

 前世の「私」は、人とのコミュニケーションを嫌っていた。

 何故かっていうと、多分単純に向いてなかったんだと思う。

 人と一緒にいると気を遣う。相手に合わせなきゃいけない。こっちから何らかのアクションを取らなきゃいけない。

 それが億劫で、面倒で、一人でいる方がずっと楽だったんだ。

 

 でも「ホシノウィルム」は、そうは思わない。

 確かに気を遣わなきゃいけないかもしれないけど、それは当然の必要経費だし、何より仲良くなればその気遣いすら必要なくなる。

 合わせるのも時には有益だ。一体感も高まるし、そうやって同調する中で相手のことをより深く理解できるようになるし。

 こちらからアクションを取り、相手が反応を返してくれることに、今は楽しさを覚えられるようにもなった。

 

 ホシノウィルムになって性質が変わったのか、あるいは歩さんやネイチャたちによって変えられたのか。どちらなのかはわからないけど……。

 とにかく、今の私は、人とのコミュニケーションをそこまで苦にしない。

 

 ……が、だからこそ、不安になる部分もある。

 

 知らない人と話して、そこで何かしら……昔の「私」を感じたらどうしよう。

 

 まずはこっちが楽しまなきゃ、相手も楽しめない……とは、言わないけど。

 それでも何時間もかかるイベントで、完璧に負の表情を隠し切ることはできないだろう。

 察しの良い人や、観察眼の鋭い人なら、私の表情から不快を見つけ出してしまうかもしれない。

 

 それで、嫌な気持ちにさせたらどうしよう。

 私はファンの皆にお返しをしたいのに、むしろマイナスになっちゃったら。

 

 ……どうしよう。

 

 ぐちゃぐちゃと、悪いことばかり考えてしまう。

 悪い想像が止まらない。

 

 それらを振り切るためにここに来たのに……むしろ悪い方向に転んでいっているような。

 

 

 

 

 

 

「ホシノウィルム」

 

 ぴくりと、反射的に体が震えた。

 背後からかかった聞きなれた声に、私は慌てて表情を取り繕い、振り向く。

 そこにいたのは、薄いオレンジ色の朝日に照らされた、私のトレーナー、歩さんだった。

 

「トレーナー……」

「ここにいたのか。何かあったか」

「いえ。……ただ、ファンの皆に楽しんでいただけるよう、色々と考えていました」

 

 嘘は吐いてない。

 

 この不安を切り捨てて行かないと、私は今日の企画、上手くこなせないかもしれない。

 だからここまで来て、それを吐き出そうと思ってたんだ。

 

 ……でも、実際に来てみると、私の不安はなかなか言葉にならなかった。

 

 レースに勝つのは、そう難しいことじゃない。

 誰よりも速くゴールに駆け込めば、問答無用で勝てるんだから。

 でも、コミュニケーションを楽しみ、楽しませるっていうのは、難しい。

 初めて会った人の波長にアドリブで合わせて会話をしなきゃいけない。それは不慣れな私からすれば重労働だってことは容易に想像できて……。

 果たして私は、それを楽しめるだろうか。そしてファンをきちんと楽しませることができるだろうか、って。

 

 纏めるとそういうことになる……のかな。

 感情がぐちゃぐちゃで、正直自分でもよくわからないんだけど。

 

「珍しいな、君がそこまで不安がるのは」

「え、不安……」

「ずっと君を見て来たんだ、それくらいはわかるさ」

 

 ……か、隠してたつもりだったのに。

 思わず、顔が熱くなる。

 

「そうして素直に感情を出す君も良いと思うぞ」

「あ、ちょっ、見ないでください!」

 

 トレーナーの腕を引っ張って後ろを向かせて、両腕を掴んで振り向かせなくする。

 

 ……うぅ、油断した。

 いやもう別に、トレーナーになら感情見せても問題はないんだけどさ。

 でもあれよ、恥ずかしいもんは恥ずかしいのよ。超絶恥ずかしいのよ。

 

 私の素顔は、ずっと隠してきたんだ。ずっとずっと、大事に隠してきたんだよ。

 理屈の上では見せていいとか、そういうんじゃなくてさ。

 例えるなら、それは裸と一緒。

 不意に見られたら、そりゃもうすっごく恥ずかしいんだって!

 

「はぁ、もう、えっと……何の話でしたっけ。

 ああそう、不安なんて……」

 

 誤魔化そうとして、もう誤魔化す意味もないことを思い出す。

 私の地を、素顔を少しだけ知ってくれてる、唯一の人だもの。

 不意打ちならともかく、ちゃんと話せる場なら、今更弱音を隠す必要なんてない。

 今の私には、支えてくれるトレーナーがいるんだ。いっつも頼りっぱなしで申し訳ないけど、今は弱音を吐き出させてもらおうか。

 

「いえ、確かに、私は不安を感じています。無事に今回のイベントで、責務を達することができるか」

「成程。不安に感じることはないと思うが」

「……私はトレーナーが思っているほど、人とのコミュニケーションが得意ではないのです」

「そこまで好きでも得意でもないが、決して苦手ではないだろう?」

 

 うわ、そこまで見抜かれてるのか。

 思いの外、トレーナーは……私をよく知ってる。見てくれてる。

 

 確かに、苦手ってほどではないかな。

 私が苦手なのは、それこそトレーナーに……恋愛的なごにょごにょすることくらいだし。

 

 ……でも他人の相談に乗るのは、ほんのちょっとだけ苦手かもしれないんだよね。

 後輩ちゃんたちの相談も、ちゃんと解決できてる気はしてなかったし。

 ただ表情と声で話せるように誘導、相手が求める反応と、それに反しない程度のアドバイスを送って、それからトレーナーにも相談して色々と対策を取ったくらいだ。

 その多くは、抜本的な解決ができたわけじゃない。革新的なアイデアなんてそうは浮かばない。

 良いトレーナーと巡り合えないって子には、トレーナーに相談して、その子に合いそうなトレーナーさんを紹介とかしてあげられたけど……大半は話を聞いて、表面的な対策を提案したくらいだ。

 それなのに、ブルボンちゃん曰く高評価貰えてたらしい。なんで?

 

「それでも……上手くファンの皆さんの相談に乗れるか、不安です。

 きちんとその場で解決策を思い付かないと、会話も弾まないかもしれませんし……」

「……? あぁ、成程、そうなるのか」

「はえ?」

「いや、別に相談に乗るからと言って、解決する必要はないぞ?」

 

 ……???

 

 え、いや、でも、相談ってどうしていいかわかんないからするんだよね?

 解決する必要はないって、なんで?

 

 困惑のあまり、彼の両腕を離してしまった。

 するとトレーナーは振り向き、しっかりと私の目を見てくる。

 うっ……視線がくすぐったい。

 トレーナーは誰かと話す時、必ずじっと目を見るんだけど……彼に惚れてる身からすると、ちょっと恥ずかしいんだよね、これ。

 

「相談というのは大概の場合、話を聞いて欲しいか、背中を押して欲しいか、だ。

 想定外の解決をできなかったら駄目ってものじゃない。相手に寄り添ってきちんと話を聞き、失礼にならない程度に自分の思ったことを言えばいい」

「いえしかし、せっかく相談してくれたというのに……」

 

 頭に、温かな手が置かれる。

 差し込んでくる陽射しが眩しい。思わず目を細めて見上げると……トレーナーは、仕方なさそうに笑っていた。

 

「気負うな、ホシノウィルム。

 君は確かに、多くの人から期待されるウマ娘だ。

 ……けれどそれ以上に、まだ年若い中等部の子供に過ぎない。何かをしなきゃいけないよりも、まずは何をしたいか、何を楽しく思うかを優先しなさい」

 

 ……気負って、たんだろうか、私は。

 確かに、思えばファンの皆を楽しませなきゃいけない、相談を解決しなきゃいけないって考えすぎてた気がする。

 

 やりたいこと優先……か。

 

「……トレーナー」

「うん」

「私、誰かとコミュニケーションを取るのは、苦手ではありませんが、得意でもありません。

 はっきり言って、気が重いです」

「そうか。……すまない、負担を強いたな」

「いえ、私もすべきだと思ったのです。だからお気になさらず。

 ですが、それだけ担当が頑張るのですから……『ご褒美』があっても良いとは思いませんか?」

 

 言うと、トレーナーは驚いたように固まり、少し考え込んだ。

 

「そうか、そういう選択肢もアリなのか。

 ……うん、良いだろう。せっかくだから、久々の勝負と行こうか。

 君がこの大感謝祭で、最後までファンを楽しませながら、自分も楽しんで過ごせるか。

 もし君にそれができたら、『ご褒美権』を贈ろう」

「やった」

 

 楽しく過ごせるか、ね。

 「失敗しない」じゃなくて「楽しむ」。トレーナーが優先してるのはそっち側なんだろう。

 

 気負わず、楽しむ……。

 そうだよね。

 せっかくのお祭りなんだし、精一杯楽しまないと嘘だ。

 

 ……お祭りを楽しむ、なんて前世ぶり。

 本当に……本当に、久しぶりだ。

 

「さて、そろそろスペースの設営に行くんだが……手伝ってくれるか?」

「当然です。私の企画ですから!」

 

 いつしか不安も緊張も、朝日の中に溶けて消えていた。

 

 さぁ……相談所、開設!

 アドリブのぶっつけ本番勝負、行くぞー!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 こういう言葉がある。

 

 案ずるより産むが易し。

 

 私は今、その言葉を、強く強く痛感していた。

 

 

 

「あっその……えっと、おっ、おえっ」

「嘔吐ですか? 袋、ありますよ」

「だ、大丈夫ですっ! あ、いやそうじゃなくて、その、お、応援してます!」

「なるほど。いつも応援、ありがとうございます」

「えっ、え、笑顔……! 本当に笑ってくれるんですね……!?

 ライブ以外はいつも無表情クール系なので……ていうか近くで見るとやっぱり顔が良いっ!」

「どや、我ながら自慢の顔です。……さて、そろそろご相談をどうぞ」

「あっそうでした! えっと、最近ダイエットしてるんですけど、どうしても欲望に勝てなくて……」

「そうなのですか、それは……大変ですね。私はどれだけ食べても太ったことがないのでお気持ちはわかりかねますが」

でで、出たっこんなところでも無自覚最強発言……! 強すぎる、録音して目覚ましにしたい……!

「無自覚最強……?」

「あっいえすみません、お気になさらずっ!」

「ダイエット、ですよね。ぜん……いえ、一般論になりますが、食べる量を少し減らし、運動する量を少し増やすことから始めるといいかもしれません。

 ダイエットと言うと辛いイメージがありますが、自分の生活基準を少しずつズラすイメージで行うと、そこまで苦労もせず、自然と体重を落とせるはずです」

「おおおぉ! これが龍のダイエット法……! 早速身内で共有しなければ!」

「いや、あくまで一般論ですよ? ……一般論ですからね?!」

 

 

 

 私は1つ、大事なことを見落としていた。

 

 トレセン学園のファン大感謝祭は、そもそも入場自体がとても倍率の高い抽選制。スターウマ娘と触れ合えるってこともあり、入場チケットもなかなかの金額らしい。

 中で行われているのは学園祭みたいなものだが、外から来る時は前世におけるライブイベントに近いものがある。

 だからこそ、ある程度民度は保証されるっていうか……ぶっちゃけ、私たちウマ娘が大好きな人しか来ないんだ。

 

 皆、ただお話するだけだっていうのに、すごく楽しんでくれる。

 そしてそんなファンの反応を見ているだけで、自然とこっちまで楽しくなってくる。

 

 ……本当、案ずるより産むが易し。

 楽しみ、そして楽しませる。やってみれば、案外難しいことじゃなかった。

 

 

 

「こ、こんちは~……ってうわ、マジで本物ホシノウィルムじゃん……!」

「こんにちは、本物ホシノウィルムですよ。偽物ホシノウィルムと思いました?」

「あ、いや、なんかすんません。……うわすげー、やっぱオーラあるってゆーか」

「そうでしょう? 何せ無敗二冠ウマ娘ですから。どやぁ」

「あー……なるほど、やっぱそーいう」

「そういう……?」

「いや、何でもないっす。

 そんで早速相談なんすけど、実は幼馴染のウマ娘が中央トレセン入りたいって言ってて、俺もなんか力になってやりたいんすよ。ウマ娘視点で、されて嬉しいこととかってないっすかね?」

「なるほど……。ひとえにウマ娘と言っても十人十色ですが、やはり自分のことを理解し、寄り添ってくれる方がいるのは大きいと思います。どうかその子に優しくしてあげてください」

「優しくはしてるつもりなんすけど、なんかすぐキレるんすよね。何が駄目なんすかね」

「どういう時に怒るんですか?」

「俺がクラスの他の女子と話したり、ウマ娘のレースの中継見てるとキレるんすよ。

 ……あ、実は今日も内緒で来てるんで、もしアイツが来ても、俺が来たってことは内緒で頼んます」

「あーそれは……うん、私から言えることは何もありません。どうかその子のことを幸せにしてあげてください」

「え? あ、はい。まぁアイツの幸せは願ってますが。

 ……あ、そうだ、もし良ければサインもらっていいっすか、アイツホシノウィルムさんの大ファンなんで、喜んでくれると思うんすよ」

「…………偶然会って、サインをもらってすぐ別れたってことにしましょう。それならきっと喜んでくれますよ」

「え? あー、はい。了解っす?」

 

 

 

 私は無敗二冠ウマ娘ってこともあり、当然と言うべきか、企画には長蛇の列ができるくらいのファンが詰めかけてきてる。

 ……実際には、長蛇の列はできてないけどね。

 

「整理券44番の方、テントへどうぞ! ……あ、はい、『ウィルム相談所』はこちらです。そちらの発券機で整理券の方を。料金300円となっております。

 はい、整理券を取ったら、そちらのベンチへどうぞ。まだ陽射しも強い中なので水分補給はお忘れなく、あちらの案内板を見てお待ちください。

 ……すみませーん、現在1時間待ちとなっております! 12時から14時はお昼休憩となっておりますので、ご注意ください!」

 

 私たちのいるテントの外では、トレーナーが迫り来るお客さんを整理してくれてる。

 

 トレーナー、なんと自前で整理券の発券機とか用意して、効率的にお客さんを捌いてくれてるのだ。

 ありがとう、本当にありがとうトレーナー、すごく助かります。

 でもちょっと本気すぎませんか。学園からベンチとかテントを借りるのはともかく、わざわざ発券機とか発電機までレンタルしてくるのはビビるって。

 

 ……まぁそうでもしないと、この人数のお客さんを捌くは難しかっただろうけど。

 テントの外には、優に50人を超える人たちが待ってくれている。

 列で並んでもらってたら……今日は綺麗な日本晴れだし、相当辛い時間が続いてただろう。

 カップルで夢の国に行くとあまりの待ち時間の過酷さに別れがちって聞くし、トレーナーによる設営がなければ、多少なりとも雰囲気が悪くなっていたかもしれない。

 

 こんなとこまで全力サポートしてくれるトレーナーには感謝するしかないな、ホントに。

 むしろご褒美権を渡すべきは私なのでは? ウィルムは訝しんだ。

 

 

 

「ヒョワェェェェエエ! あの、あのホシノウィルムさんが目の前にぃぃぃいい!」

「落ち着いて、深呼吸しようか。はい、吸ってー、吐いてー」

「すーっ……はーっ……うわすごい良い匂い、グッドスメル超えてゴッドスメル……! これが在り得べからざる神話の香り、現代に舞い降りた女神の一柱……!

「なんて?」

「あ、へ、へへ、すみません動揺が、その、すぅうっ、へへへ、抽選をすり抜けて来てみたはいいものの、まさかご本人、すぅぅぅうううっ、いえ御本尊と一対一でお話できるとは思わなくて! ……あっ過呼吸で頭が」

「大丈夫だから、一旦落ち着こうね。

 ……いや、もうお話しながら緊張を誤魔化そうか。持ってきてくれたご相談は何かな?」

「あっ、フヒ、えっと、あっあたし、見ての通りウマ娘なんですが、どっちかと言うとウマ娘ちゃんたちの頑張る姿を見るのが好きでして! レースもウイニングライブも、観客として楽しんでたんです。

 ですが、ですがッ! もう遠くから眺めているだけでは満足できなくなってしまったのです!

 もっと近くで、レースを走るいと尊き姿を見たいッ! 傲慢にも、そう思ってしまうのですッ!

 私は一体どうすればいいのでしょうか……ッッッ!?」

「……なるほどね。わかるよ、その気持ち。

 推しを、味わいたい。その想いは誰にも止められない」

「ウェエエェェエェ!?!? まっ、まさか……まさかまさか、同志でいらっしゃるのですかァ!?」

「最高の推しで、最高のライバルで、最高の友達がいるから……細かい宗派は違っても、広義においては同志だね。

 でもこれ、トップシークレットだよ。言いふらしたりはしないように。

 そして解決策は簡単だ。君も一緒にレースを走って、誰より近くで推しと、推しとのレースを楽しめばいいんだ。

 君もおいで、最高のウマ娘たちと最高に熱いレースを楽しめる、トゥインクルシリーズに」

「あばばばばば、こ、これは夢……!? まさかホシノウィルムさんが同志だとは……!!

 しかも、しかもしかも! トゥインクルシリーズにご招待されて!! あのホシノウィルムさん本人から、直接に!?!?

 ま、マズい、天に召され……アッ」

「あ、倒れちゃった……どうしよう」

「1分が経過。お客様を保健室へと運搬します」

「ごめんねブルボンちゃん、頼んだ」

 

 

 

 協力してくれてるのは、トレーナーだけじゃない。

 後輩であり、まだ大感謝祭に参加する義務もないブルボンちゃんまで手伝ってくれている。

 彼女の役割は、テントの中での私の補佐だ。こうして何か問題が起きた時なんかに、その対処を手伝ってくれる。

 ……まさか、頭に血が上り過ぎて気絶するウマ娘が現れるとは思いもしなかったけども。あのピンク髪のウマ娘ちゃん、大丈夫かなぁ。

 

 他にも、ブルボンちゃんは体感時間がめちゃくちゃに正確なので、相談所の1人につき1分という制限時間もピッタリ計ってくれたりもしてる。

 お客さんの前でタイマーを動かしたりするのはちょっとイメージ悪いので、何気に助かってる。

 

 

 

 ブルボンちゃんが小さなウマ娘ちゃんを運んでいったことで、私はテントの中で数時間ぶりに1人きりになった。

 

 足元に置いてた水の入ったペットボトルを拾い上げて、口元に運ぶ。

 

「……うま」

 

 久々に飲んだ水は、何故だかすっごい美味しかった。

 おお、これが甘露ってヤツか……。

 

 ……うん、ただの水を美味しく感じるくらい、しっかり疲労してるってことだ。

 

 ファンの皆との交流は、ぶっちゃけすごく疲れる。

 何せ今日来てくれるのは、ファンの中でも特に気合の入った人たちだ。

 皆、熱がすごい。そりゃもう、熱波にやられそうになるほどすごい。

 中にはレースの時のウマ娘かってくらいの、圧巻の熱量をぶつけてくる子もいる。さっきのピンク髪ちゃんみたいにね。

 

 それを真正面から相手すれば、自然と私もテンションを吊り上げられてしまう。

 結果として、かなり疲れちゃうんだ。

 

「……ま、その何倍も楽しいからいいんだけどね」

 

 現実にいるファンと交流するのは、楽しい。

 

 本当、その一言に尽きる。

 

 

 

 知っていたはずだ。

 ファンは確かにそこにいるって。レース場で走り終わった後、毎回見ているんだもの。

 それでも、どこか実感がなかった。

 私を推してくれるファン、その1人1人が存在するんだっていう実感が。

 

 ……でも、今回でよくわかった。

 

 皆、生きてる。

 それぞれがそれぞれに生きて、そこにいる。

 そして、私を見てくれている。

 

 こんなに嬉しいこと、他にないよ。

 

「さ、トレーナーに、次の人どうぞ、っと」

 

 だから今、この瞬間だけは……。

 レースも、トレーニングも忘れて、楽しむとしようじゃんか。

 

 

 







 大感謝祭はあと2話くらい続く予定。



 次回は3、4日後。トレーナー視点で、大感謝祭中編、お祭りを回ろうの話。



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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