転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 驚異の侵略者 アキラ/ザホリーノ





侵略! ヒト娘

 

 

 

 Q.話にだけは聞いていた好きな人の妹が急に現れた時の女の子の反応を述べよ。(配点・20点)

 

 A.めちゃめちゃ動揺する。

 

「改めて、堀野昌と申します。あなたたちのトレーナー、堀野歩の妹にあたります。

 ホシノウィルムさん、ミホノブルボンさんですね。

 兄から素晴らしいウマ娘たちであると伺っています。これからよろしくお願いします」

「ミホノブルボンです。よろしくお願いします」

「アッ……えっ、えっと、あ、よろしくお願いします……」

 

 まぁ勘違いすることはないと思うけど念のために言っておくと、返事の内、後者が私のものです。

 うぅぅ、めちゃくちゃ素のコミュ障なトコが出ちゃってるんですけど!

 

 私、これでも結構要領は良い方なので、こういう挨拶も普段ならそつなくこなせるんだけど……。

 今回は、ちょっとばかり事情が異なる。

 何せ彼女は、私の契約トレーナーであり、私の救い主であり、私の好きな人の妹さんなんだもの。

 

 改めて、歩さんの妹、堀野昌さんを覗き見る。

 まず、総評としては……うん、スーツ姿の働く美人さんって感じ。

 

 ウマ娘レベルとまでは言えないだろうけど、きちんとケアされてる肌は潤いがあって髪もさらさら。

 顔は若干童顔気味だけど、少しキツめの吊り目と表情のなさ、それから170センチ前後という高めの身長、そしてそこそこあるお胸が、大人の女性としての威風を醸し出してる。

 

 本格化中のウマ娘みたいな、完璧に整った不朽の美ってわけでこそないものの、普通の人間としてはかなり偏差値が高いと思う。

 ミスコンとかに出ても文句は言われず「まぁ出るよね」って反応になるかなってくらいだ。

 

 ……確か、歩さんのお兄さんもすごいイケメンって話だったよね。

 この一家、顔面偏差値高くない? 何なの? そういう遺伝子を選んできたの?

 

 いやまぁ、別にいいんだけどね、堀野家が美人な一家でも。

 そこ自体は別に言うことなしだけどさ。

 

 問題は顔面ではなく、むしろ内側で……。

 

「他人の心への理解が足りない上に頑なに過ぎる愚兄ですから、きっとお2人にも迷惑をかけていると思います。

 申し訳ありませんが、これからもこの面倒臭い兄にお付き合いいただければと」

「……お言葉ですが、マスターはステータス『面倒臭い』には該当しないものと考えます。

 非常に理解しやすい指針とその判断基準、適切なトレーニングを提示し、私たちを効率的に導いていただいています」

「なるほど。察するに、ミホノブルボンさんは兄と相性が良いのでしょうね。

 あなたのようなウマ娘が近くにいるのは、兄にとって幸運なことでしょう。どうかこれからも、兄をよろしくお願いします」

「お願いするのはこちら側であると主張します。マスター、そして堀野昌さん共々、トレーナーとしてウマ娘を支えていただくのですから。

 改めて、こちらこそよろしくお願いします」

 

 ブルボンちゃんと昌さんは、一瞬で意気投合したように握手を交わしてる。

 ブルボンちゃんが若干喧嘩腰で反論し始めた時はどうなることかと思ったけど、どうやら2人は気が合いそうだ。

 

 ……私も昌さんと仲良くなれるだろうか。

 ちょっと、いやだいぶ心配です。

 

 

 

 「好きな人の妹」という存在は、とんでもなく大きい。

 なにせその、仮に、仮にね?

 仮に私が、歩さんとゴールインしたとするじゃん?

 競走ウマ娘を引退して、その後は契約トレーナーと担当ウマ娘ではなく、男性とウマ娘の関係になったとして。

 それで最終的に、その、家族になったとして……。

 

 ……家族。家族、かぁ。

 そういえば私、前世でも家庭環境微妙というかぶっちゃけ崩壊気味だったし、今世では気味どころか完全に崩壊してたわけで、家族って言える家族を持ったことがないんだよなぁ。

 歩さんと家族になる……ってのも、なかなかどうして想像が難しい。

 家族って、どういう関係を言うんだろうな。

 お互いを好き合い、一緒にいるのは間違いないとして……。

 ただ一緒にいるだけでは、家族とまでは言わないよね。そこに足りないピースは何だろう。安定感? それとも既成事実?

 私たちはどこから家族になるんだろう。家族と他人の境界はどこにあるんだろう。

 

 ……とと、思考が暴走してた。ポエミーな私は封印封印。

 今考えるべきはそこじゃなくて。

 

 その、最終的に籍を入れたとしてね?

 そうなると、歩さんの妹である昌さんとも家族になるわけですよ。

 もしも相性が悪いとか仲が悪いなんてことになれば、それだけで私たちの幸せ新生活が破綻する可能性があるわけで……。

 つまるところ昌さん、というか歩さんとの家族との関係というのは、私にとっては非常に肝要な要素になるんだ。

 そりゃあ緊張するし、どうしたものかとわたわたしてしまうんだわ。

 

 しかし、いつまでも後手に回っているわけにもいかない。何事も、成果を手にするためには自ら動かなきゃダメなんだから。

 

「あ、あの……よろしくお願いします」

 

 会話の途切れ目を狙ってゆっくりと差し出した私の手を、昌さんは快く握ってくれた。

 けれど同時に……少しだけ、彼女の瞳が見開かれる。

 

「えぇ、よろしくお願いします……ホシノウィルムさん」

 

 僅かに歪められた口端に、何かの感情を見出しかけた瞬間……。

 スッと、その瞳が逸らされた。

 

 それは……そのタイミング、その行動は。

 

 ……この人、多分だけど。

 歩さんの妹とは思えないくらい、感情を隠し、取り繕うことのできる……堅い仮面を持ってる人だ。

 

 それに共感を覚えるべきか、あるいは警戒すべきか悩む内に……。

 

「兄さん、どうぞ」

「あ、ああ、うん」

 

 声をかけられて、部屋の隅に追いやられていたトレーナーが、どこかおずおずと歩み出てくる。

 トレーナーはいつも、少なくとも表面上は自信ありげにしてたから、その様子はちょっと新鮮というか……ふふっ、可愛い。

 

 微かに微笑む私にも気付かない様子で、改めてトレーナーは咳払い1つ、話の進行を引き継いだ。

 

 

 

 改めて、今日はトレーナーとブルボンちゃんが開いてくれたサプライズパーティの翌日。

 予定では、これからのレースやトレーニングの方針を決めるためのミーティングが開かれる……はずだったんだけど。

 そこに突如として現れたのが、堀野昌さんだ。

 流石に今日ばかりはいつも通りとはいかず、ミーティングに先んじて、堀野昌さんの自己紹介とかが行われていたわけだった。

 

「そんなわけで、俺の妹、昌だ。

 たづなさん曰く、来年の4月までインターン扱いで働いて、そこからは正規に新人サブトレーナーとして働くことになっている……らしい。間違いないか?」

「そうだけど。兄さん、担当ウマ娘の前ではそんな口調なんだ。父さんの真似?」

「う、うるさいな、いいだろ別に……。

 というか昌、大丈夫なの? インターンってお金出ないだろ。住む場所とか生活費はどうするの。というかトレーナー免許は? 大学は? ちゃんとご飯食べてる?」

「うるさい、過保護。今はまだ仕送りがあるし広告収入もあるから質素に暮らす程度は問題ない、近くに賃貸借りてる、免許は9月の試験で取れた、大学は免許取った後中退。ご飯については兄さんにだけは何も言われたくない。これで満足?」

「中退!? なんで!?」

「……別に深い理由なんてないけど。トレセンは学歴より能力と人格重視らしいし、ゼミの教授調子乗っててクソうざかったから」

「…………なんだかんだ真面目な昌のことだし、きちんと考えがあってのことだって信じてるけど。せめて相談とか報告とか欲しかったな」

「ウザい。それと、ずっと帰って来なかった誰かさんに言われたくない」

「そ、それを言われると弱いな……」

 

 わいわいと繰り広げられる、兄妹らしい気安い会話。

 これまでに見たことのないトレーナーの表情と声音に、思わずブルボンちゃんと目を合わせる。

 

 トレーナー、コミュニケーションに関してはちょっとアレだし、妹さんもちょっとやさぐれてるって話を聞いてたけど……。

 仲が悪いって感じじゃないし、昌さんも荒れてるっていうんじゃなく……ちょっと方向性が違う気がする。

 相手のことを認めてないんじゃない。認めて、寄りかかることができるっていう前提で反発してる……強いて言えば、反抗期に近いような感じ?

 

 ともかく……トレーナーと昌さん、仲が良い方なんだなぁ。

 いや、兄妹だし、何の問題もないんだけどさ。むしろ仲は良いに越したことはないけど……。

 うぅ、なんかこう……もやもやする。

 昌さん、あんまりトレーナーに似てないし、美人さんが好きな人と仲が良いと、ちょっとこう……胸がざわつく。

 

 とはいえそんなことを表情に出すわけにもいかず、もにょもにょする胸を抑えながらぼんやりと2人を見ていると……。

 トレーナーはこちらの様子に気付いたか、少し恥ずかしそうに咳払いした後、改めて話を続けた。

 

「……とにかく、これからは昌がサブトレーナー見習いとして、仕事を手伝ってくれる。

 言葉遣いが荒かったり多少露悪的なところがあるが、根っこの部分は優しいし真面目な子だ。俺からもよろしく頼む」

「何目線ですか。それに何分かったようなこと言ってるんですか。

 それはそれとして……ホシノウィルムさん、ミホノブルボンさん、改めてよろしくお願いします。お2人を支えられるよう、頑張りますね」

 

 そんなわけで。

 

 たらららったったったー。

 ほりのあきらさんが なかまに くわわった!

 

 ……なんて、陽気に言えることなのかはわかんないんだけど。

 

 季節は廻り、私とトレーナーにとって2年目の秋。

 野分のような強風が、私たちの関係に吹き込んできたのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、昌さんの紹介が終わったら、いよいよ今日の本懐。

 私とブルボンちゃんのこれからを考えるミーティングだ。

 

「……それじゃあ、昌も来たことだし、改めて今後について確認していくぞ」

 

 トレーナー室の隅に寄せられていたホワイトボードを引っ張り出し、トレーナーはマーカーを握った。

 昌さんは一歩引き、バインダーにメモ帳を置いて聞きの姿勢を取る。

 私とブルボンちゃんも、改めて居住まいを正した。自分たちのことなんだし、集中して聞かないとね。

 

 1つの季節が終わったら、次の季節が来る。

 三冠を競うクラシックレースが終わったということは、次のレース群が目の前に迫ってるってことなんだから。

 

「取り敢えずは年内、有記念まで。時系列……いや、ミホノブルボンとホシノウィルム、それぞれの目標レースに分けて、今後のローテーションについて確認する」

 

 トレーナーはホワイトボードに「ミホノブルボン」「ホシノウィルム」とスペースを空けて書いた後、更に前者の下に2の名前を書き込む。

 内容は、ブルボンちゃんの出走予定のレースだ。

 

 11/17 pre-op ベゴニア賞(東京・左 芝1600m)

 12/8 G1 朝日杯フューチュリティステークス(阪神・右外 芝1600m)

 

 ブルボンちゃんのジュニア級の公式レースは、残りこの2本だ。

 主眼に置くのは、やはりG1である朝日杯FS。そこに向けて調整していくことになるんだろうね。

 

「ミホノブルボンの最終目的地点は『クラシック三冠』。

 皐月賞までは出走に足るようファンを獲得しながら、君の適性不足を補うため、少しずつ限界距離を伸ばしていくことになる。

 とはいえ、今年の目標は別だ。G1という大舞台に慣れることと……」

「トレーナーに、私の走りを認めてもらうことですね」

「うん、それもある」

 

 ……あ、そっか、それもあったね。

 

 

 

 忘れがちだけど、というか私は完全に忘れちゃってたんだけど、まだブルボンちゃんはトレーナーに認めてもらってるわけじゃない。

 トレーナーは宝塚記念で、私の走りに惚れてくれた。恋愛的な意味じゃなく、トレーナーとして担当ウマ娘の脚に惚れ込んだ、という意味でね。

 で、そこから彼は「トレーナーはまず第一に担当の走りを好きにならないといけない」という考えに行き着いたらしく、自分と契約するように頼んできたブルボンちゃんに「じゃあ俺を惚れさせてみろ」と試練を課したのだった。

 ……あれももう、2か月以上前のことかぁ。時が経つの早い。特に最近は早すぎる。

 

 で、ブルボンちゃんがトレーナーに走りを認めさせるための舞台が、年末のジュニア級G1レース、朝日杯FSなのである。

 担当する条件としてG1レースの勝利を突き付けるあたり、もしかしたらトレーナー、鬼畜なのかもしれない。G1に勝てるウマ娘なんてほんの一握りなんだけどね……。

 ま、私から見てもブルボンちゃんは、私程ではないにしろ逸材だ。

 そこにトレーナーの管理と育成が挟まるわけで、G1レース1着というのも決して不可能な話ではないと思うけどね。

 

 ……まぁ、とはいえ。

 もし仮に、ブルボンちゃんが1着を取れなかったとしても、トレーナーとブルボンちゃんとの契約は解除させないけども。

 一度契約した以上、彼はブルボンちゃんの今後に責任を取ろうとするだろうし、この学園で歩さん以上に彼女の夢を信じているトレーナーさんは多分いない。

 他に彼女のトレーナーを見繕おうとしても、彼以上の人材がいない、という結果に陥るのは目に見えてるわけだし。

 

 それに、宝塚記念以前のトレーナーならともかく、今のトレーナーならきっと……感情的な部分も見てくれるはず。

 歩さんの管理能力は中央のどのトレーナーよりも高い。ブルボンちゃんが三冠を目指すなら、彼以上のトレーナーなんていないだろう。

 だからきっとブルボンちゃんは、必要に駆られてトレーナーを求める。

 そしてトレーナーも、ここまでの2か月間でブルボンちゃんに感情移入している。彼女を支えてあげたいと思ってる、はずだ。

 だからきっとトレーナーも、感情的にブルボンちゃんを求める。

 

 結局、彼らが契約解除する理由なんて、トレーナーが自身に課している「走りが好きな子しか担当しない」という制約ただ1つ。

 信条を守るのは立派だけど、それに振り回されてちゃいけない。時には臨機応変に曲げることも必要なんだと思う。

 

 第一、別にジュニア級の内に好きになる必要なんてないはずだしね。

 私なんて宝塚記念まで来てようやくトレーナーに好きになってもらったんだし、ブルボンちゃんもクラシックレースでトレーナーを惚れさせればいいんだ。

 それまでトレーナーには、しばらく待ってもらおう。

 

 ……もしもその辺をトレーナーが弁えないようなら、私にも考えがある。

 私からもブルボンちゃんとの契約続行をお願いする、って策だ。

 

 歩んでいく道の途中でトレーナー契約の解除を申し入れられるのは、想像以上にキツいものがある。

 例えるとすれば、頑張って歩いている中で、ふと気付けば片足がなくなってる、みたいな感じだ。ぶっちゃけ絶望感がすごい。

 できればそんなこと、ブルボンちゃんに体験してほしくはない。

 先輩ウマ娘として、なんとか先んじてトレーナーを説得する必要がある。

 

 そのためにも、この前もらった菊花賞の「ご褒美権」は残しておく予定だ。

 この命令権があれば、トレーナーにブルボンちゃんとの契約解除をしばらく待ってもらうってこともできる。最終手段として保持しておこう。

 

 ……ま、どっちにしろ。

 朝日杯FSでブルボンちゃんが結果を出してくれれば、それでオールオッケーなわけなんだけどさ。

 

 

 

 私が脳内で次善策を考えている内、トレーナーは話を進める。

 

「が、もう1つ、目的がある。

 ……ミホノブルボン。君には3つの弱点がある。自覚はあるか」

「弱点……。データの検索を開始します」

 

 ブルボンちゃんは、上を見上げてぬぼーっとした表情で数秒考えた後、改めてトレーナーに視界を戻す。

 私も考えてみるけど……3つかぁ。

 考えられるとすれば、血筋とスタミナと、それから……アレかな?

 

「向かない血筋、長距離を走る持久力不足の2点は推測が可能。もう1点は何でしょうか」

「うむ。言い換えると適性不足、そしてスタミナ不足だな。そこに関しては正解だ。

 で、最後の1点だが……それは、君の気性だ」

 

 あー……やっぱりそこなんだ。

 なんとなく察しの付いていた結論に、私は内心で頷く。

 

「ミホノブルボン、君は確かに強い。

 ……だが、メイクデビューではゲートの中で集中力を切らし、この前の模擬レースではライスシャワーの存在に気を取られて掛かった。

 普段の君の走りなどからも類推するに……君はレースになると闘争心が強くなり、掛かりやすくなってしまうタイプであると推測できる。

 一言で表すと、気性難だな」

「私が……」

 

 無表情のまま、少しばかり固まるブルボンちゃん。

 

 しばらく一緒に走っていれば、ウマ娘の気性ってのは段々わかってくるものだ。

 私から見たブルボンちゃんも、トレーナーの推測とそう外れるものじゃない。

 普段は機械のように冷静で、けれどレースになると吹き上がる炎のように抑えが利かなくなってしまう。

 ブルボンちゃんは、そういう二面性を持つウマ娘なんだ。

 

 けどこの子、トレーナー以上にデータ重視というか、精神的な部分に疎いからなぁ。

 自分のこととはいえ、こういうとこには気づきにくいのかもしれない。

 ……いや、宝塚記念以前の私のことを考えると、自分だからこそ気付きにくい部分もあるんだろうな。

 

「だから、これからはレースの経験を積み、場慣れでその気性難を解決する。

 最終的に目指すべきは、その冷静な思考で計算通りにレースを進められるようになることだ」

「方針、了解しました」

「うむ。では実際のレースを見ていく」

 

 トレーナーがマーカーの背でホワイトボードを突く。

 彼女の次走は、11月17日、ベゴニア賞。

 

「君のメイクデビュー後の初レース、プレオープンベゴニア賞。

 が、調査の結果……あまり口にしたくはないことだが、ここには特に脅威となるライバルはいないことがわかっている。メイクデビュー同様、苦戦することもなく突破できるはずだ。

 公式レースの空気感に慣れるために使いなさい」

 

 トレーナーはそう語って、すぐに次のレースに話を進める。

 

 12月8日、朝日杯フューチュリティステークス。

 

「朝日杯。G1レースということもあり、ここには明確な強敵がいる。ある意味君の挑戦はここから始まると言ってもいいだろう。

 脅威になりそうなのは、京王杯ジュニアステークスで1着争いをするだろう、フルーツパルフェやブリーズカイト。そしてメイクデビューではレコードを飾った……マチカネタンホイザか」

 

 マチカネタンホイザちゃん。あるいはタンホイザちゃん。もしくはマチタンちゃん。

 前世アニメにも登場した、ネイチャと共に〈チーム・カノープス〉のメンバーの1人だったウマ娘だ。

 

 私の勝手なイメージだけど、タンホイザちゃんは〈チーム・カノープス〉の一員ってこともあって、めちゃくちゃ強いイメージはないんだよね。

 でもトレーナーが脅威って言ってるってことは、やっぱり強いんだろうなぁ。

 ネームドはネームド。追い詰められたら、ネイチャみたいにぶわーっと来たりするのかもしれないね。

 

 彼女とも走れたらいいなぁとか考えてる私の横で、ブルボンちゃんは無反応だ。

 どうやらタンホイザちゃんのことも知らないらしい。そう言えば前世アニメでも、ブルボンちゃんとタンホイザちゃんって絡みがなかった気がするな。

 一応同学年なんだけど……まぁ中央トレセンのジュニア級って600人くらいいるから、知らなくても不思議じゃない。私も去年、テイオーのこと知らなかったりしたし。

 

「ライバルは確かに強い。……だがそれ以上に、君が戦うべきは君自身だ。

 最適な走りをするミホノブルボンは、決して負けることはない。来年のクラシックレースに向けて、ここで君の気性難を克服するぞ」

「了解。ミホノブルボン、奮起します」

 

 コクリと頷くブルボンちゃん。いや、奮起しすぎちゃマズいんだけども。

 

 ブルボンちゃんは、強い。

 なにせメイクデビューでは壮絶な出遅れの後に、本来適性もない追込で勝ったんだ。

 普段通りの冷静沈着なレース運びができれば、ブルボンちゃんのポテンシャルはかなり高いはず。

 

 私としても、やっぱり対決するなら最高の状態のブルボンちゃんが良いし、是非とも弱点克服頑張って欲しい。

 協力できる部分があれば全力で手伝いますとも。

 

 

 

 さて、ブルボンちゃんの次は私、ホシノウィルムのローテーションだ。

 トレーナーは私の名前の下に、2つのレースの名を連ねた。

 

 11/24 G1 ジャパンカップ(東京・左 2400m)

 12/22 G1 有記念(中山・右内 2500m)

 

 最初に取り上げるのは、当然ジャパンカップ。

 海外の強豪たちと戦える貴重な機会だ。

 

「さて、ジャパンカップ。前にも言ったと思うが、今年の海外勢は例年に比べて小粒だ。

 今年の凱旋門賞ウマ娘、ノーブルシンガーはあのモンジューと同じトレーナーの担当ということで注目していたが、どうやらジャパンカップは避けて療養する予定らしい。

 イギリスのダービーウマ娘、テンダーも凱旋門賞8着惨敗の後体調を崩したため不在。

 その上で注目すべきは……」

 

 トレーナーはジャパンカップの下に、2人のウマ娘の名前を書いた。

 当然というか、私は知らない名前だ。

 海外のウマ娘事情なんて、ちゃんとアンテナ張ってないとあんまり入ってこないからなぁ。私あんまりテレビとかも見ないし。

 

「まず注目すべきはやはり、フランスからの刺客、凱旋門賞2着のウィッチイブニング。

 そして……芝の本場ではないために注目度は低いが、アメリカから出走を望むシルバーピジョンか。オベイユアマスターのような例もあるし、決して侮れる存在ではない」

 

 トレーナーが調べて来た、脅威になる海外のウマ娘たち。

 きっと、というか間違いなく、彼女たちは強いんだろう。

 

 ……けど通説として、海外の戦場ではウマ娘たちは体調や調子を崩しやすい。

 そもそも海外と日本ではレースや芝の質が違う。ヨーロッパの芝は日本より長くて密度が高いらしいし、アメリカではそもそも芝よりもダートの方が主戦場になってたりする。

 そういう不慣れな戦場で走るとなれば、自然とウマ娘たちの調子は一回り落ち込んでしまうらしい。

 更に長時間の移動とか時差ボケで調子を狂わせてしまうこともあるのだとか。ちょっと前にミーク先輩もそういう話してた気がする。

 

 だから下手な海外のウマ娘よりも、警戒すべきは……。

 国内の、強力なウマ娘。

 最強の一角と呼ばれる芦毛の先輩だろう。

 

「それと、マックイーン先輩ですね」

「そうだな。メジロライアンやイノセントグリモアなども不在である今、脅威となり得るのはやはりメジロマックイーンだ。

 ……まぁそれも、まずは明日、彼女の天皇賞(秋)での調子を見てからだがな」

 

 トレーナーは含みを持たせてそう言った。

 

「……?」

 

 ちょっと不思議な反応だ。

 セイウンスカイ先輩や私、ライアン先輩のいない今回の天皇賞(秋)。

 実力を考えても、普通にマックイーン先輩が勝ってしまいそうなものだけど……。

 

 あー、前世アニメだとどうなったんだったかな。

 えっと、テイオーが怪我をした年の年末……確か有記念に負けた、みたいな描写はあった気がするんだけど……。

 うーん、どうにも記憶にない。前世アニメのマックイーン先輩、この世界とは違ってジャパンカップ出走しなかったとかじゃなかろうな。

 

 トレーナーの言いよどむ理由について尋ねようと思った時、ちょうどトレーナーが次のレースをマーカーで指したため、私はそれを聞くタイミングを逃してしまった。

 普段なら、それを遮って聞いてもいいんだけど……今回は、口を閉じた。

 トレーナーの口調が、普段よりずっと険しいものだったから。

 

「さて……問題は最後の1レースだ。

 年末の祭典、年度最強決定戦、有記念。

 ……ホシノウィルム、ミホノブルボン、昌も。これから先のことは他言無用だ。絶対に外に漏らすな」

 

 そう言ったトレーナーの表情は、かなり厳しいものだ。

 眉は寄せられ、その瞳にはいつも以上に真剣な色が宿っている。

 

 ここまで真剣な顔をするトレーナーは、それこそ……ブルボンちゃんのメイクデビューの時以来。

 一体何が彼をそこまでさせるのか、内心で首を捻りながら、思わず私は居住まいを正して……。

 

 それを、聞いた。

 

 

 

 

 

 

「今年の有記念には、セイウンスカイ、サイレンススズカ、そしてスペシャルウィークが出走する」

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 サイレンススズカさん。

 そして、スペシャルウィークちゃん。

 いつか一緒にレースをしようと誓い、けれど悲劇の事故により、トゥインクルシリーズ現役の内にはそれを成し遂げられなかったはずの2人。

 

 ……私の過去の記憶を超えて。

 年の瀬、願いの結集した戦いが迫っている。

 

 

 







 長い長い2か月間が始まる……!



 次回は3、4日後。トレーナー視点で、2人のウマ娘と妹の話。



(訂正)
 少し前(38話)、ノーブルシンガーをノーブルソングと間違って書いていました。
 モブウマ娘の名前なんて気にならないとは思うんですが、取り敢えず訂正したと報告させていただきます。

(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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