転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 隙を見せた方が悪い

 別視点回です。
 今回、視点の子に関する捏造があります。
 どうしてこんな考え方をするのかとか史実とかを鑑みた結果こうなりました。苦手な人はごめんね。今更か。





おまけ 隙あらば昔語り

 

 

 

 「食事を取る」という行為は、ウマ娘にとって、非常に重要なものであると言えるでしょう。

 私たちは生きるため、そして走るために、必ず食事を取る必要があります。完全に結びついているわけでこそありませんが、食事を取り、エネルギーを補給する程に活動しやすくなると言えるでしょう。

 そして「美味しい」と感じるということは即ち、それだけ私の味覚が、体に有用なものであると感じている証拠。

 つまり、ウマ娘が美味しいものをたくさん食べることに、何ら不自然はないのです。

 

「だから、その、トレーナーさん? 私が多少体型を崩してしまったとしても、許してくださいますわよね……?」

「外周1000周」

「殺す気ですの!?」

「冗談だよ、半分は」

「お許しくださいまし! お許しくださいまし!」

 

 深まっていく冬空の下、私とトレーナーさんの鬼気迫る……けれどどこかふざけたような、穏やかな声が響きました。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 メジロマックイーン。

 私はその名に、誇りを持っています。

 

 メジロ、という冠名には特別な意味がある。

 私たちメジロ家は長く、そして多く伝わっている、由緒正しき一家。華麗に、優雅に、完璧に勝利することを義務付けられる、栄誉ある一団なのです。

 

 そんな誇りあるメジロ家の一員にして、今や「最優のステイヤー」などと呼ばれている私ですが……。

 しかし何も、昔からそのように過大な評価をいただいていたわけではありません。

 

 幼少の折、私はメジロの広大なお屋敷を冒険に繰り出し、道に迷ってじいやに迎えに来てもらうような、ただのやんちゃな子供でしかありませんでした。

 勉強もトレーニングも中途半端。メジロに相応しいものとはとても呼べないものであったでしょう。

 

 そしてそうなると、あるいは当然と言うべきか。

 私と同世代にメジロのウマ娘は複数人おり、私はその中でも……とても本命とは言えない、期待度で言えばライアンに次いで3番目にあたるような子供だったのです。

 

 では、そんな私が、今の「私」になったのは、いつだったのか。

 幼く、何も知らず、責務などというものとは縁遠い心をしていた私が、メジロとしての誇りを抱くようになったのはいつだったのか。

 

 それは、恐らくあの時。

 私たちの世代の中で、最も期待されていたメジロのウマ娘が、故障してしまった時でしょう。

 

 彼女は将来を期待される、非常に整った体をしたウマ娘でした。

 けれど……その未来は来なかった。

 彼女はトレセンに入る以前に腰を痛めてしまい、思うままに走れなくなってしまったのです。

 

 悲劇と言う他ありません。

 将来を期待された、最高の素質を持つ子が、不運な事故で走れなくなってしまった。

 振るうべき力を持てず、得るべき栄誉を掴めなくなってしまったのです。

 

 まだ幼かった私にとって、それは途轍もない衝撃でした。

 いつも凛として美しかった彼女の走りを、私たちは、この世界は二度と見ることができない。

 それは大いなる損失であり、決して他には替えようもない、無二の出来事であると感じたものです。

 

 ……しかし。

 それは、間違いだった。

 

 メジロのおばあ様やじいやたちもまた、彼女の故障について酷く悲しんでいました。

 けれど、それだけ。

 ただ悲しむだけで……私程に驚いている方はいらっしゃいませんでした。

 

 それを見て、私はようやく理解いたしました。

 これは、この残酷な世界で、ありふれたことなのだと。

 

 ウマ娘が故障して走れなくなることなど、珍しくはないのです。

 私たちが毎日走ったり食べてたりしてる間に、この世界のどこかではウマ娘が故障し、絶望している。

 いいえ、それだけではなく。……きっと、生まれた瞬間に絶望する者すらいる。

 自分よりも優れた才能を羨む気持ちは、私にもわかるつもりです。あるいは諦観にまでなる程、それは冷たく苦しいものなのです。

 

 ただ、幼かった私の視野には、それが映らなかっただけで……。

 この世界はどうしようもなく理不尽で、幸運と不運があり、私たちは自由に走ることができるだけで幸せなのだと。

 私はそれを、ようやく理解できたのです。

 

 

 

 メジロマックイーンは、恵まれたウマ娘でした。

 瞬間的な加速力こそ甘いものがありますが、生まれついて体力が付きやすい体質と、強すぎず弱すぎない闘争心、そして戦術的なセンスまで。

 「将来はステイヤーとしてG1レースを制する可能性もある」とまで言っていただける素質を持って生まれたのですから。

 

 それは、疑いようもない幸運です。

 この世界に何千といるウマ娘の中でも頂点に立ち得る素質を持つ、メジロのウマ娘。

 これを幸運と呼ばずして、何と呼ぶのでしょう。

 

 だからこそ、私は奮起したのです。

 幸運の下に生まれて、幸運にも走れるのだから……不運にもまともに走れなくなってしまった彼女の分まで走らねばならない、と。

 

 恵まれた境遇、強い立場。だからこそ、メジロのウマ娘として相応しい働きをしなければならない。

 ノブレス・オブリージュ。それこそが、私のそれからの指針になったのです。

 

 それからは私は、真面目にトレーニングに励むようになり、将来のために知識も蓄え始めました。

 そうしている内にいつしか、私よりも期待をかけられていた幼馴染であり同期のライアンよりも注目を集めるようになっていたのですが……。

 幸いなことに、彼女はそれにひがんだりすることもなく、むしろ「すごい」とキラキラした目で褒めてくれるような、優しい子でした。

 故に、ドーベルも含めた私たち幼馴染の仲は悪化することもなく、今も親しくすることができています。

 本当に、ライアンには感謝しかありませんわね。

 

 

 

 そうして、辛いことも楽しいことも多かった幼少期が終わり。

 先に入学したドーベルを追うように、私とライアンはトレセン学園に入学したのです。

 

 ……けれど。

 ジュニア級の内にデビューしたライアンと違い、それからの私のトゥインクルシリーズは、とても順風満帆とは呼べないものでした。

 私の素質と誇りを見初めてくださり、現実的なプランを作ってくださるトレーナーさんを得たところまでは良かったのですが……。

 本格化が遅れてしまい、デビューしたのはクラシック級の2月。

 更には、ライアンとの決戦という意識もあり日本ダービーを目指すも、骨膜炎を発症してしまい療養を強いられてしまいました。

 

「……いいでしょう。こうなれば、秋。

 ステイヤーらしく、菊花賞を取りに行きましょう、トレーナーさん」

 

 私たちは、菊花賞に向けて歩みを進めました。

 けれどその旅路もまた、決して盤石なものではなく。

 秋以降に出走したオープンとプレオープンのレース、私の戦績は2戦2勝。

 ……私が菊花賞に出走叶ったのは、歯に衣着せず言えば、奇跡と呼んでいいものでした。

 

 結果として、皐月賞や日本ダービーの勝者が不在であった菊花賞においてなお、メジロ家という名家の出身にも関わらず……私は4番人気という評価に甘んずることになったのです。

 1番人気は、メジロライアン。

 私のライバルであり……昔も、そして今も、私よりも高い評価を受ける、メジロ家のウマ娘。

 

「マックイーン……」

「心配なさらないで、トレーナーさん。今の私に動揺はありません。

 行って参りますわ。……貴顕の使命を、果たすために」

 

 そうして……。

 

 

 

『先頭は、僅かに外を突いたメジロライアンか、メジロマックイーンか! それとも内からイノセントグリモアか!? この3人の勝負!

 今抜け出して、先頭は中を突いてきたメジロマックイーン! イノセントグリモア内から伸びるが届かない、届かないか!

 マックイーン、マックイーンだ! メジロでもマックイーンの方だ! メジロマックイーン今先着ゴールイン!!』

 

 

 

「マックイーン、G1勝利おめでとう!」

「ありがとうございます、トレーナーさん。……でも、ここからですわよ?

 私はメジロの名を負う、メジロマックイーンなのですから」

 

 私はようやく、最初の1歩を踏み出したのです。

 

 

 

 菊花賞の勝利以来、私は多くの人の期待を受けるようになりました。

 

 メジロライアン、イノセントグリモア、そしてメジロマックイーンが形作る「新三強」の一角。

 あるいは、3000メートルをものともしない新たな時代の最強ステイヤー。

 あるいは、メジロの誇りを継ぐ新たなG1ウマ娘。

 

 様々な言葉が私を形容し、私を覆い……その期待が、メジロマックイーンの形を作り直していく。

 

 応えなければなりません。

 私は恵まれたウマ娘。力を持つウマ娘。

 だからこそ、それら全ての期待を背負い、応えなければならない。

 それこそが、ノブレス・オブリージュ。果たすべき貴顕の使命なのですから。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……それなのに。

 

『セイウンスカイ、メジロマックイーンの猛追を振り切り、今ゴォォオオルイン!!

 なんと1年半という時を超え今、復活! トリックスターが復活しました!!

 京都に広がるのはあの時と同じ青空!! 1着はセイウンスカイ! セイウンスカイです!!』

 

『今、ホシノウィルムが1着でゴォォオオルイン!!!

 信じられません、ホシノウィルム、ホシノウィルムです!!

 クラシック級王者ホシノウィルム、宝塚の主役を勝ち取り、ファンの夢と願いを叶えた!!

 史上初の宝塚記念クラシック級勝者はこの子、ホシノウィルムだーーっ!!!』

 

 私は。

 

 ……私は、勝てない。

 

 ファンの皆さまの期待に、応えなければならないというのに。

 天皇賞というメジロの悲願。宝塚記念という上半期の最強決定戦。

 その両方で、私は……敗北したのです。

 

 開けたと思った道が、閉ざされた錯覚。

 外面こそ取り繕っていたものの……どうしても振るわない日々が続きました。

 

 トレーナーさんには……相談できません。

 あの人は、既に私の管理をお任せしているのです。これ以上の迷惑はかけられませんわ。

 私の心の問題は……私自身で解決しなくては。

 

「……落ち込んではいられませんね」

 

 かつての目標を超えた先で新たな目標が見つかる。そんなこと、珍しい話ではありません。

 上の世代の先輩である、セイウンスカイさん。

 下の世代の後輩である、ホシノウィルムさん。

 この2人が、今のメジロマックイーンの前に立ち塞がる、新たな壁。

 

 ならば、私の脚で乗り越えるしかありません。

 私は……私は、メジロマックイーンなのですから。

 

 

 

 けれど。

 

 秋のG1戦線の試金石、京都大賞典。

 自らに発破をかけるためにホシノウィルムさんを招いて走った、大事なG2レース。

 ……そこで勝利を刻んでも、私の心が晴れることはありませんでした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 下がるばかりだった私の調子。

 それに転機が来たのは、京都大賞典の数日後でした。

 

「マックイーン、結論から言うぞ。今日は君の悩みを話さない限り帰さない」

 

 それまで私の様子を静観していたトレーナーさんが、突然そう言ってきたのです。

 トレーナー室の鍵を閉め、あろうことかその鍵を窓から放り投げて、カーテンを閉め、電話線やコンセントの類まで全て抜いて、徹底抗戦の構え。

 

「君が何かに悩んでいるのは、見ていればわかる。そしてそれは、あるいは俺には解決できないことなのかもしれない。

 ……でも、それでも! 俺は君のトレーナーだ!

 頼むから、1人で悩まずに一緒に背負わせてくれ!」

 

 そう言って眉を寄せるトレーナーさんの表情は、悲痛に過ぎるもので。

 それを見て、私は……ようやく気付いたのです。

 

 トレーナーさんは既に、私が悩んでいることに気付いて、それでも私のために静かに見守ってくださっていて。

 ……私は、「自分で解決するだろう」という期待に応えられなかったのだと。

 ファンの方々と同じく、私はトレーナーさんに……失望されたのだと。

 

「話すべきことはありませんわ。最近振るわないのは、ひとえに私自身の力不足。トレーナーさんはいつも通り仕事をしてくださいませ」

 

 トレーナーさんに、失望の視線を向けられるかもしれない。

 その可能性に怯えて、それ以上声をかけられることを恐れて、私は背中を向けました。

 

 ……私がどれだけ勝てずとも信じてくださり、ついにはここまで連れてきてくださった、私のトレーナーさん。

 彼に、たとえどんなことでも失望されることは……私にとってこれ以上なく、恐ろしいことなのです。

 

「……それでは、失礼しますわ」

 

 ドアの鍵は閉められましたが、ウマ娘にとってそんなことは大きな問題にはなりません。

 無理やりにでも開けようと、ドアに手をかけて……。

 

 もう片方の手を取られて、私は動きを止めました。

 

「離してくださいまし。これからトレーニングに行かなければならないのです」

「駄目だ! 今の君の走りは見てられない! トレーナーとして、トレーニングを許可できない!」

「何故そんなことを! 私は……っ!」

「俺が、メジロマックイーンのトレーナーだからだ!」

「っ……」

 

 思わず、その勢いに押されてしまいました。

 トレーナーさんの顔は苦しそうに歪んで……それは、とてもではありませんが、私が見たかったはずのものではなくて。

 

「俺は、メジロマックイーンのトレーナーだ! 華麗に、優雅に、完璧に勝利するべき、メジロマックイーンっていうウマ娘のトレーナーなんだ!!

 だからこそ、これ以上君の走りが鈍るのは見ていられないんだよ!!」

 

 ……私が契約の際に、トレーナーさんに言った言葉。

 

『私はメジロのウマ娘。華麗に、優雅に、完璧に勝利することをこの名に義務付けられておりますわ』

『私を担当すると仰るのならば、貴方にもまた、メジロ家のトレーナーという自覚を持っていただかなければなりません』

『いかがです? ──その覚悟は、おありかしら?』

 

 ……トレーナーさんは、その覚悟を持ってくださっていた。私の走りと勝利を、どこまでも信じてくださっていた。

 トレーナーとして私を支え、私を名に恥じぬウマ娘にしようと、己の使命を果たしてくださっていたのです。

 

 では。

 ……果たすべき使命を放棄しているのは、誰?

 

「私、は……」

「マックイーン、俺を使ってくれ。君の予定を整える装置として、君の走りを支えるサポーターとして、君の隣に立つ相棒として、俺を便利に使ってくれ。

 君の役に立つ。それが、君のトレーナーの、一番の望みなんだから」

 

 彼を頼ると決めながら。

 私の不足を補ってくれる方だと思いながら。

 『一心同体』であると、そう謳っておきながら。

 

 ……それなのになお、彼を信じ切れていなかったのは、誰だったか。

 

「トレーナーさん」

「うん」

「私……ファンの皆さまから受けた期待を、裏切ってしまって」

「うん」

「春の天皇賞も、宝塚記念も、ふがいない走りをしてしまって」

「うん」

「焦っているんです。もっと強くならないといけないんだって。

 怖いんです。秋の天皇賞でも、また、多くの方々の期待を裏切ってしまうのではないかと。

 ……予感がするんです。すごく、嫌な予感が」

「うん」

「どれだけ足掻いても、まるで沼に足を取られているように……脚が鈍ってしまうんです。

 自分の感情と、体、それと外から聞こえてくる声。どうしてもそれらが噛み合わない。

 私は……私に、この名は相応しくないのではないかと、最近、そう思ってしまうんです」

 

 ノブレス・オブリージュ。

 強き者、貴い者は、自らの使命を果たさなければならない。

 メジロの名を負い、幸福に生まれて、こうして走ることのできる私は、応援してくださるファンの方々の期待に応えなければならないのに。

 ……トレーナーさんの期待にも、応えたかったのに。

 

「私は……私は、強くなければならない。メジロのウマ娘として、勝たなければならないのに!

 セイウンスカイさんに負け、ホシノウィルムさんに負け、ライアンにも負けて!

 誰のっ、期待にも応えられず! なんて、なんて情けない、無様な……!」

「うん」

「それに、悔しいのです! 天皇賞も宝塚も、あと1歩というところにすら迫れていない!

 偶然でもなく、必然に……私の実力が足りずに負けたのです!

 それが、それが……悔しいっ!!」

 

 いつしか、私はトレーナーさんの胸に泣きついていました。

 まるで、あの時に失った幼児性が蘇ってきたように、彼の胸元に両手を突いて、顔を押し付けて。

 

「てんっ、天皇賞はっ! メジロ家の悲願なのに……! 絶対に、取る、はずでしたのにっ、負けてしまって……!

 宝塚記念では、ライアンにも、またっ、また追い抜かされてしまって……!

 悔しい、私、悔しいですっ!!」

 

 

 

 そうして、ずっとずっと、溜めこんできたものを吐き出して……。

 涙も言葉も枯れ果て、私がただ彼の胸に縋るだけの子供になった頃。

 

「マックイーン。……また1から始めよう。

 君はこれまで、何度も成し遂げて来ただろう? 期待されない3番手から這い上がって、遅れた本格化と骨膜炎にも負けずにここまで来たんだ。

 だから、また1から始めて……そして、秋こそは取りに行こう、天皇賞」

 

 そう、言われて。

 

 私は改めて……いいえ、今度こそ、本当に。

 唯一無二、一心同体のパートナーを得たのです。

 

 

 

 

 

 

 そうして、1か月後。

 

 

 

『メジロマックイーン伸びる、後続も懸命に追い縋るがその差は縮まることを知らない!

 100メートルを切って、メジロマックイーンこれは楽勝! 3バ身4バ身の差を付けて今ゴールイン!!』

『結果が確定、春の雪辱を果たして今、メジロマックイーンが念願の盾の栄誉を手にしました!!』

 

 

 

 私はようやく、この名に相応しい……いいえ。

 ファンの皆さまの期待に応えられる、私に相応しい私になれたのでした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 と、まぁ、そんなことがありまして。

 

 ついに念願の天皇賞を制覇した私は、トレーナーさんの業務が落ち着くのを待って、トレーナーさんが担当している他のウマ娘さんたちと一緒に、祝賀会として食べ放題の高級ビュッフェに向かい。

 想像よりもずっと充実したスイーツの群れに、ここしばらく減量中だった私の理性が融解し、数多の制止を乗り越えてしまい……。

 ……天皇賞(秋)の時と比較して、少しばかり……いいえ、隠さず言うならかなり数字が、何とは言いませんが数字が増えたのです。

 

 しかし、これに関しては、果たして全面的に私が悪いと断言できることなのでしょうか?

 私をあのようなビュッフェに連れて行けば、必ずこのような結果を生むと、トレーナーさんは予測できたはずです。

 なにせ私たちは一心同体、彼は私のことならば100%完全に理解しているはずなのですから。

 それなのに、トレーナーさんは私をあそこに連れて行ってしまった。

 

 つまるところ、高所からガラスのコップを落とせば割れるのと同じことです。

 高所からガラスのコップを落としたら割れる。この時、悪いのは割れたコップではなく、落とした人なのではないでしょうか。

 では、ビュッフェに連れて行けば私はスイーツの誘惑に勝てない、というケースでは?

 私を連れて行った方にも相応の責任はある……いえ、一番責任を負うべきは、やはりトレーナーさんなのではないでしょうか。

 

「ご安心くださいまし、トレーナーさん。私たちは一心同体、あなたの責任は私の責任、そして私の責任はあなたの責任ですわ! 一緒に背負って参りましょう!」

「何を言ってるかわからないけど外周行こうか。あとスイーツは一週間禁止」

「殺生ですわ! お願いですから1日1モンブランはお許しくださいまし!」

「モンブランは一番駄目です! 毎回食べ過ぎるか落とすかするでしょ君!」

「そんな! 私を殺す気ですの!?」

「君モンブランで生きてるの?」

 

 うぅぅ、今日のトレーナーさんはつれませんわ……。

 仕方がありません、確かにあまりにも数字を増やし過ぎた私が悪いのは疑いようもないこと。ここは大人しく、トレーニングに行くしかありませんね。

 ……スイーツに関しては、もう少し交渉の余地があるでしょうけれど。

 

「来たるホシノウィルムへのリベンジ、ジャパンカップまでに体重落とし切るからね。しっかりメニューは組んできたから安心して」

「ひぇ……た、食べられる方のメニューですわよね?」

「そんな時間あると思う?」

「ま、まさかそこまで……!? トレーナーさん、人の心をどこに落として来たんですの!?」

「今の俺は君の予定を整える装置だから」

 

 そんな風に、小気味良いやり取りを交わしながらトレーニングに向かおうとしていると……。

 

「ん? ちょっとごめんね」

 

 トレーナーさんは懐からスマホを取り出し、画面を付けて……。

 ぴたりと、動きを止めました。

 

「トレーナーさん?」

「……マックイーン、トレーニングは中止だ。他の担当の子たちを呼び戻して来て」

「え? 構いませんけど……どうしてですの?」

 

 トレーナーさんは、先ほどまでのふざけた顔から一転、鋭く冴えた顔でこちらにスマホの画面を見せて来ました。

 そこには……。

 

 

 

『スペシャルウィーク、サイレンススズカ、ラストランに有記念出走!!

 日本一と異次元が再びトゥインクルシリーズに現れる!!』

『ホシノウィルム、セイウンスカイ、ハッピーミークらも参戦、年末の中山に嵐が吹き荒れる』

 

 

 

 ……恐るべき文字列が、並んでいました。

 

「……あのお二方に、ホシノウィルムさん、セイウンスカイさん、ハッピーミークさん」

「こりゃあ……とんでもないことになったね」

 

 私のジュニア級の時分、日本の威信をかけて戦った、スペシャルウィークさん。

 恐るべき異次元のウマ娘、最強とも名高かった、サイレンススズカさん。

 天皇賞(春)で私を打ち負かした策略家、セイウンスカイさん。

 時に短距離で、時に長距離で戦い、その幅広さにも関わらず恐るべき強さを持つハッピーミークさん。

 ……そして、あの宝塚記念に勝った無敗の三冠……いいえ、無敗の四冠ウマ娘、ホシノウィルムさん。

 

 このメンバーで……戦えるのですね。

 そこで、私も……いいえ、私が。

 

「……こうしてはいられませんわ」

「ん? マックイーン?」

「皆を呼ぶのでしょう? 行って参ります。

 ──ご安心を、2分もかかりませんわ」

 

 勝ちたい。

 勝って、ファンの皆さまの期待に応えて……。

 そして勝利を、トレーナーさんと分かち合いたい。

 

 そのために……まずはジャパンカップですわね。

 海外から来る方々も、そしてホシノウィルムさんも……私たちの前に立ち塞がる壁は必ず、トレーナーさんと2人で超えてみせますわ。

 

 私はメジロマックイーン。

 強く生まれ、幸運にも走れ、メジロの名を背負い……勝たねばならないウマ娘ですもの。

 

 やってみせますわ。

 

 ……必ずや、この手に勝利を!

 

 

 







 ライバルもライバルで背負うものがあるというお話でした。
 サイドストーリーにしてはだいぶ重い話になっちゃったな。

 ……ちなみに、マックイーンが幼かった頃に一番期待されていたメジロの子ですが、腰を痛めておきながらもなんとか中央トレセンに入ったものの、現実は甘くなくて、デビューに失敗して既に競走ウマ娘を引退しています。
 しかしその後、彼女は競走ウマ娘専門のカウンセラーとして活動を開始し、今は全国の「不幸な子」たちの心を支えるために飛び回っているのだとか。
 今でもマックイーンやライアンとは交友があり、定期的に長電話するくらいには仲良くしているようです。



 次回は3、4日後。トレーナー視点で、合同インタビューの話。
 今年の投稿はこれで最後になります。皆様、良いお年を!



(追記)
 誤字報告をいただき、訂正させていただきました。ありがとうございました!
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