転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 あけましておめでとうございます!
 今年もマイペースに投稿していきますので、今年もどうぞよろしくお願いします。





ウィルムさんニヤニヤでワロタ

 

 

 

 ついにというか、なんというか。

 11月中旬に入り、スペシャルウィークとサイレンススズカ、2人の有記念参戦の報道が始まった。

 所詮噂でしかなかったその情報は、URAが認めるという何よりも確かなソースと共に知れ渡り、すぐさま日本中の認知するところとなる。

 

 彼女たちの参戦自体は数か月前から決まっていたことらしいが、それが表沙汰にならなかったのは、ひとえに今のトゥインクルシリーズ、特にクラシックレースのためだ。

 

 当然のことながら、クラシックレースを走っているような子より、スぺやスズカの人気は高い。

 レースを観戦するファンにとって、クラシック級のウマ娘は「まだ出て来たばかりの新鋭の子」に過ぎない。

 自分たちの前で長らく走ってきた、慣れ親しんだシニア級の子と比べると、どうしても感情移入の度合いが下がってしまうんだ。

 

 で、そんなシニア級の子たちの中でも、スペシャルウィークとサイレンススズカの人気は更に図抜けていると言っていい。

 片や総大将、日本の威信をかけて戦った我らが日本一のウマ娘。

 片や異次元、あらゆるファンに夢を見せてくれた生ける物語の主人公。

 もはやトゥインクルシリーズでは彼女たちの走りを見ることはできないと思われていたからこそ、そして誰もが内心では「もう1度」と思っていたからこそ、その報は速やかに日本中に広がっていったのだ。

 

 そんな2人が「今年の有記念にラストランとして出走する」なんて情報が広がってしまえば、誰もが強すぎる衝撃を覚える。

 その結果、当時開催されていたホシノウィルム……もといウィルたちのクラシックレースの話題なんて吹っ飛んでしまいかねなかったんだ。

 中央のレースを運営するURAとしては、そんな混乱はなんとしても避けたいところ。

 なので、スぺとスズカの両名、そしてトレーナーに対し緘口令を敷いたのだという。

 

 ……ま、隠そうと思って隠し通せる規模のことでもないんだけどね。

 「日本にいるはずがない」ってあまり信じられてなかったけど、変装したサイレンススズカの姿はちょくちょく目撃されていたし、スカイなんかには既に情報が筒抜けだったし。

 そうして漏れ出した、あまりにもソースに乏しく信じ難い風説。

 それこそが、「有記念の噂」の顛末だった。

 

 更にこの情報を受けて、今年は短距離・マイル方面へ挑戦していたため有記念は回避する方針だったハッピーミークも参戦を表明。

 結果として、今年の有記念へ出走予定のネームドは……。

 シニア4年目のサイレンススズカ。

 シニア3年目のスペシャルウィーク、セイウンスカイ、ハッピーミーク。

 シニア1年目のメジロマックイーン、メジロライアン、ダイタクヘリオス。

 クラシック級のホシノウィルム、トウカイテイオー、ナイスネイチャ、ツインターボ。

 この、計11人となる。

 

 ……地獄か?

 

 まだまだ開催までは時間があるが、既に頭が痛い。

 今年の有記念は、荒れる。荒れるというか、もう他に類を見ないめちゃくちゃなレースになるだろう。

 勿論俺としては、自分の担当であるウィルの勝利を信じるばかりだが……。

 

 世間は、そうもいかない。

 この1か月半後に迫った、信じがたい奇跡のような──というか、ハッキリ言って奇跡そのものなんだけど──レースについて、少しでも多くの話を聞きたい、という需要が透けて見えた。

 

 その結果として。

 俺とウィルは、次走ジャパンカップと年末の有記念について、メジロマックイーン陣営と合同でインタビューを受けることになったのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 某所、スタジオにて。

 俺とウィル、それからマックイーンとそのトレーナーは、取材陣に取り囲まれていた。

 

「では、インタビューを始めさせていただきます。お2人にはいつも通り、気楽にお答えいただければと思います」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いしますわ」

 

 インタビュアーが言うと、ホシノウィルム、メジロマックイーンの両者がぺこりと頭を下げた。

 彼女たちの一挙手一動作を見逃すまいと構えていた取材陣は、堰を切ったように一斉にパシャパシャとフラッシュを焚き始める。

 

 メジロマックイーンは勿論、今やホシノウィルムも立派なスターウマ娘。

 インタビューともなると独占とはいかず、どころかちょっととんでもない人数のメディアが押しかけてくることになる。

 更に、ウマ娘はアスリート性と同時にアイドル性も兼ね備えているため、こういったインタビューの際は写真撮影も同時に行われるのだった。

 

 今回は、恐らくこの企画の発起人であろう主導のインタビュアーの他に、月刊トゥインクルを含めて多数の他社メディアもマイクとカメラを握ってる。

 誰もが2週間ほど後に迫ったジャパンカップ、そして年末の大嵐有記念について、少しでも有用な話を聞き出してやろうと言う気迫に満ち、目を爛々とさせている。

 まぁ俺たちトレーナーが横に控えている以上、滅多な話をさせるつもりはないけどね。

 

 

 

 そうこう考えている内、インタビュアーとの打ち合わせも終わり、いよいよインタビューが始まった。

 

「今年も秋のG1戦線が始まり、早くも秋華賞、菊花賞、天皇賞(秋)、エリザベス女王杯が終わりました。その内、ホシノウィルムさんは菊花賞、メジロマックイーンさんは天皇賞(秋)に勝利されましたが、その感想をお聞かせください」

 

 いよいよ始まったと、俺はいつも通り内心で気を揉んだ。

 ウィル、今回は爆弾発言とかしないだろうか。いや、爆弾発言するのはもう許容するとして、ちゃんと本音を過たずに伝えられるだろうか。

 この子、大体のことはそつなくこなすくせ、インタビューとか取材に応えるのは若干下手というか、やらかしちゃうことがあるんだよなぁ……。

 

 昨日の内に「こういう話をする」って予定は聞いてるんだけど、彼女は無意識的な強者故の傲慢があるというか、時々突拍子もなく擁護しにくいこと言ったりするからね。

 最近のインタビューではその癖の強さも控えめになり、他の子を讃えたりレースへの満足感を語ったりすることも増えたけど……。

 俺としては、いつ彼女の中の不発弾が炸裂するかと気が気じゃない。

 

 そんな杞憂に満ちた俺の隣で、ホシノウィルムはちらりとマックイーンの方に視線をやり、彼女が先を譲っていることを確認して、改めて口を開いた。

 

「菊花賞は非常に楽しいものでした。

 多くのファンの方々に期待していただいて、私のライバルであるネイチャと競り合うことができて、当初の目標であった無敗の三冠を取ることができました。

 この上なく楽しいレースに、改めて感謝したく思います。私を生んでくれた両親に、ここまで育ててくれたトレーナーに、速さを競いながらも親しくしてくれた友人に、そして応援してくださったファンの皆さまに……ありがとうございました」

 

 ……おお、なんというか……普通。

 いや、悪い意味じゃなくてね? すごく良い意味で、きちんとインタビューに答えてるって感じだ。

 強いて言えば、一言目から感謝述べるのはちょっと気が早いと言えるかもしれないけど、そのくらいは学生らしい茶目っ気として十分許容できる範囲だ。

 

 最近はインタビューにも真っ当に対応できるようになってきたと思ってたけど、今日はその中でも一等まとも、というか普通だ。

 やっぱりあのインタビューでの強気の態度って、半分くらいは強者の傲慢だったんだろうけど、もう半分は彼女のトラウマが関係していたのかもしれないな。

 「負けてはいけない」「勝たなければならない」。その強い思い込みが、彼女の態度を過度に強めていた。強気に出ることで「自分は負けない」と自己暗示をかけていたとか、そういう感じかな。

 テイオーを煽った時のことなんかも、まさか世代一強と名高かったトウカイテイオーの存在を知らなかったわけもないし、それ以外にテイオーを煽った意図も見えないし……。

 

 そう考えると、これからは彼女のインタビューへの態度も軟化していくのかもしれないな。

 トレーナーとしてはとてもありがたい。相手方に菓子折りを持って謝罪しに行く手間が省けるので。

 

 さて、ウィルが回答を終えたことを受けて、マックイーンも口を開いた。

 

「私は……ホシノウィルムさんと違い、申し訳なかった、という気持ちがありますわ。

 天皇賞(春)から半年近く、ファンの皆さまには酷くふがいない走りをお見せしてしまいました。

 けれど、今の私は一味違います。必ずや、皆さまのご期待にお応えできる走りをお見せしますわ」

 

 うん、マックイーンは相変わらず安定した受け答えだ。

 危惧していた精神的なブレはもはや窺えず、今は充実感と達成感、そしてやる気に満ち溢れている。

 

 ウィルには少し申し訳ないが……俺は彼女のそんな姿に、少しばかり安堵を覚えた。

 

 

 

 正直、俺は前世の競馬についてそこまで詳しくはないし、ちょっと記憶があやふやな部分があるんだけど……。

 前世世界の史実において、メジロマックイーンは春の天皇賞には2度勝利したが、秋の天皇賞には勝てなかったはずだ。

 唯一出走した際にも、1位入線し2着と圧倒的な差を付けておきながら、進路妨害による降着処分を受け、18着という結果になった。

 

 ウマ娘のマックイーンも、メインストーリーで同じ未来を辿るんだけど……。

 その最たる敗因は、焦りだ。

 宝塚記念でライアンに負けた際、大きく外を回らされたという記憶。それが彼女に、急いで内に入るという選択肢を取らせてしまった。

 不良バ場によるバ群の密集、マックイーンの圧により他の子たちも急いで内に入ろうとしたこと、そしてマックイーンがその進路を塞ぐように内に切り込んだこと。

 それらの状況が重なった結果、彼女は天皇賞という大舞台で大きすぎるミスを犯してしまった。

 ……って感じだったと思う。ちょっとうろ覚えだけどね。

 

 更にこの世界では、彼女は宝塚記念だけではなく、勝つはずだった天皇賞(春)でも敗北を喫している。

 俺がセイウンスカイを焚き付け、そしてホシノウィルムを育てたことで、マックイーンは従来以上の苦境を味わうことになったんだ。

 だからこそ……あるいは、天皇賞(秋)は、前世のそれよりも酷いことになるんじゃないかと、そう思ってしまって……。

 

 彼女を助けたいと、そう思った。

 

 それをウィルに見抜かれ、許されて……俺は、自分のエゴイズムで行動を起こすことにした。

 ……とは言っても、大層なことができたわけじゃないけれどね。

 俺にできたのは、彼女のトレーナーに、「メジロマックイーンは精神的に不調に陥っている。致命的なところに行く前に、今すぐに彼女と話し合い、彼女が背負い込んでしまっているものを一緒に抱えてあげてほしい」と伝えることくらいだ。

 

 メジロマックイーンの不調は、その精神的なストレスと焦りによるもの。彼女のトレーナーが適切に処置できれば、あるいはそれを解消できるかもしれない。

 そう思っての進言だったけど、相手のトレーナーもそれは感じていたのか、俺の言葉に背中を押される形で行動に移してくれたようだ。

 

 その後、彼女たちの間に何があったのか、詳しくは知らない。

 事後報告として、マックイーンのトレーナーから「君のおかげで、俺は大きすぎる間違いを犯さずに済んだ。本当にありがとう、この借りはいつか必ず返すよ」と言われたので、ひとまず円満に事が済んだのは間違いないけど……。

 果たしてマックイーンが自らの運命を乗り越えられるかは、俺にはわからなかった。

 

 

 

 けれど、俺程度でもその背中を押せたのか、あるいはそのきっかけになれたのか。

 

 結果として、今、俺の目の前にいるメジロマックイーンは天皇賞(秋)に勝って、迷いのない表情でインタビューに臨むことができている。

 それを、俺は……多分、嬉しく思っているんだ。

 彼女のトレーナーでもないのに、彼女が勝てて良かったと、心から安堵している。

 

 ……本当、俺はトレーナーに向いてないんだろうな。

 担当のことだけを見ていればいいのに、どうしても他の子のことが視界に入ってしまう。

 あるいは、そういうところから視線を外すのも才能なのかもしれないが……。

 

 ともあれ、今は彼女たちのインタビュー中だ。

 意識を現実に戻さなければ。

 

「お二方ともに満足のいく走りをできた、ということでしょうか」

「はい。きっと皆さんのご期待にお応えできたと思います」

「勿論私も、今の自分に持てる力を振るえたと思いますわ」

「なるほど。ではそんなお互いに対し、何か思うところはあるのでしょうか?」

 

 インタビュアーにそう聞かれ、今度はウィルではなくマックイーンが先んじて答える。

 

「私にとってホシノウィルムさんは、越えるべき壁であり、同時に尊敬できるウマ娘ですわ。

 宝塚記念では見事に超えられてしまいましたが、いつまでも後塵を拝するようではメジロの名折れ。いつか、必ずやその背中を越えてみせましょう。

 そして同時、ホシノウィルムさんは人格的にも非常に優れたウマ娘であるとも思います。いつも後輩の相談に乗ったり、道に惑うウマ娘に手を差し伸べていると伺っております。その精神には見習うべきところが多くありますわ」

「あ、あはは、照れますね……」

 

 公の場で褒め殺しにあって、ウィルは少し赤くなって頬を掻いている。

 ……実際のところ、彼女が他のウマ娘を助けているのは確たる事実だ。その理由はともかくとして。

 

 いやまぁ、「もっとたくさん強い子が出て来た方が楽しいじゃないですか」とにこやかに……より事実に基づいて言えばニヨニヨと語っていたそれが、本当に理由の全てだとは限らないんだけども。

 むしろ彼女の根底にある優しさを考えると、あれは恥ずかしさを誤魔化すための誤魔化しだった可能性もあるくらいだ。

 

 さて、次はウィルの番だが、まぁこの調子であればこの場に合わせた無難な答えをしてくれるはず……。

 

「私にとって、マックイーン先輩は……そうですね、最高のライバルの1人、でしょうか。

 私に迫って来てくれて、私を心の底から熱くしてくれる、得難い競走相手です。

 ……あ、当然ながら性格的にも尊敬していますよ? テイオーに療養施設を提供したって聞きましたし……あっいや私には提供してくれなかったって皮肉とかではなく、ただそういう困ってる子がいたら当然って顔をして助けるのはすごい、というか……」

 

 ……あー、うん。

 ちょっと油断してたわ。

 

 まず「越えるべき壁」とこちらを持ち上げてくれたマックイーンに対して、「競走相手」だと同格、あるいはそれ以下に見てるのが失礼だし……。

 まるで取って付けたように性格を褒め、しかもあろうことか皮肉とかじゃないですよ、と繕ったのがもう本当にアレすぎる。

 

 この子、普段はあんなに話すの上手いのに、なんでインタビューとか取材の時はやらかしてしまうんだろうな……。

 もしかして、対多数……それもホームグラウンドではない、アウェーの状況で喋るのは苦手なんだろうか。

 あるいは、走ることについて話しているだけで楽しくなってきて、テンションが上がってしまい、思わず繕わない本音を答えてしまったか……。

 いやまぁ、考察はともかく、今は仕事をしなければ。

 

「すみません、今のは誤解を招きかねないので、カットでお願いします」

「……ご、ごめんなさい、トレーナー」

「ん? ……何を謝っているのかよくわからないが、カットでいいんだな?」

「はい、よろしくお願いします」

 

 ウィルは少し恥ずかしそうに俯いた。

 

 インタビューは、生配信と違って編集が利く。

 生放送は細かい語弊にも気を付けなければならないため、基本的には台本が用意され、それに沿って進行することになる。

 それに対し、インタビューは先に質疑の内容が教えられることもあるものの、細かい打ち合わせなどは行われないことが多い。

 その方が本音に近い答えを聞けるし、いざとなれば編集で消したり付け足したりできるからだ。

 

 で、ホシノウィルムの回答は、それ単体……の、前半部分だけなら特に問題のないものだっただろう。

 だが、メジロマックイーンの回答は彼女のそれを超える模範的なものであり、だからこそ彼女の回答には粗が目立った。

 

 インタビューではこういうことがままある。

 そして、そういう時に大人としてストップをかけるのも、トレーナーの仕事の1つであり。

 相手との間に誤解やしこりを残さないようにするのもまた、俺の仕事だ。

 

「すまない、メジロマックイーン。この子に君を貶そうというような意図はないんだ。そこは理解してほしい。だろう、ホシノウィルム?」

「は、はい、すみません、マックイーン先輩……」

「ご安心を、誤解などしておりませんわ。ね、トレーナーさん」

「ああ、インタビューの時のホシノウィルムの気性難は知っているつもりだからね」

 

 冗談交じりに言って、マックイーンのトレーナーはくすりと笑った。

 ……そうか。外から見ていると、インタビューの時のウィルは問題児に見えるよな。

 実際には問題児って程ではないんだけど……今はこの辺りの誤解を解いている暇はないかな。

 

「ホシノウィルム」

「はい。ん、ん……。マックイーン先輩のことは、良き先輩として、そして良き競走相手として尊敬しています。

 私なんかよりずっと快く他人に手を差し伸べる方ですし、走っていて心の底から熱くなれる、最高のライバルであると認識しています。

 だからこそ、次走のジャパンカップ、そして年末の有記念での対決は心から楽しみです」

「それは私も同じこと、宝塚記念での雪辱を果たさせていただきますわよ?」

 

 2人はそう言って、ニヤリと笑い合う。

 ライバルの熱い舌戦を前に、カメラのフラッシュが瞬いた。

 

 ……うん、数秒で整えたとは思えない、良い答えだ。

 本当、この子は要領が良くて助かるね。

 

 

 

「なるほど、お2人とも良きライバル同士であると。

 ……では次に、ジャパンカップについて窺っていきたいと思います。今回のジャパンカップでは、9人もの海外のウマ娘が出走するとのことですが、お2人が注目しているウマ娘などいらっしゃいますか?」

 

 ウィルは、ちらりとこちらを見てくる。

 本音で答えていいのか、と判断を仰いでいるように思えたので、1つ頷きを返す。

 

「……いいえ、これといって注目しているウマ娘はいません。

 誰が出るレースであろうと、私はただ最善を尽くし、全力で駆けるのみです」

「私は……そうですね。やはりウィッチイブニングさんでしょうか。

 凱旋門賞2着の脚は決して舐められるものではありません。全力を尽くし、この名に相応しい走りを以て応えるつもりです」

 

 2人の対応は対極的だ。

 ホシノウィルムが好戦的で傲慢、唯我独尊であるのに対し、メジロマックイーンは冷静で謙虚、他者へと視線を向けている。

 

 ……きっと、メジロマックイーンのような、海外のウマ娘へ慮った回答こそが正しいんだろうな。

 ウマ娘は実力だけではやっていけない。ファンからの人気がなければ、レースへの出走も難しくなる。

 多くの人がこのインタビューを聞くのだから、より聞こえの良い言葉を残してイメージアップを図った方が良い。

 それは、一面の真理ではあると思う。

 

 ……でも。

 それを本音で言えるマックイーンと違って、ウィルは心の底ではそうは思っていない。

 マックイーンが外向的であるとすれば、ウィルは内向的なウマ娘だ。

 彼女にとって本当に大事なのは、レースに誰が出ているかではなく、自分をどこまで高め、より良いレースを楽しめるか、なのだから。

 

 では、自分を誤魔化してでも、他者に慮った言葉を吐くべきなのか?

 俺はそう思わない。

 

 人気を得るために本音を封じるのを悪と断じるつもりはないが、少なくとも今の彼女がすべきことではないと思う。

 ホシノウィルムというウマ娘には、当然ながら良いところもあれば悪いところもある。

 その内、悪いところを封殺して、良いところばかり見せるのは、果たして健全なのだろうか。

 

 勿論、ウマ娘レースは利益の発生する営利事業なわけで、冷徹な割り切りも必要なのかもしれないが……。

 だからと言って、ウィルに望まない仮面を被せ続けるのが正しいとは、到底思えない。

 

 本当の意味で愛されるというのは、多分、そういった駄目な部分も受け入れてもらうってことだ。

 「コイツはこういうところが駄目。その駄目なところも含めてコイツが好き」と言ってもらうこと。この子の全てを肯定してもらうこと。

 今のホシノウィルムには、そういった体験が必要なんだ。

 ……多分ね。

 

 だから、良い。

 それがどれだけ傲慢で、周りに対する配慮のない言葉でも、ホシノウィルム自身の言葉をこそ、世界に届ける。

 それが今、俺のすべきことなんだと思う。

 

「ジャパンカップが開催される東京レース場は逃げウマ娘に不利と言われていますが、そこに関してはどう思われますか?」

「特には。『不利』は『不可能』ではありませんし、不可能でないなら結果は出せると思います」

「あら、強気の発言ですわね。私も参加するのですよ?」

「そうですね。……だからこそ、決して油断できるようなレースにはならないでしょう。それがとても楽しみです」

 

 マックイーンの言葉にも動揺せず、彼女はその姿勢を貫く。

 傲慢で、強気で、好戦的。

 それがレースを前にしたホシノウィルムであると、世界に見せつけるように。

 

 

 

 それからいくつかジャパンカップについて訊かれた後、いよいよ、ある意味今日の本題である有記念の話題に移った。

 

「では次に、年末の有記念について伺いたいと思います。

 今年の有記念はあのサイレンススズカさんやスペシャルウィークさん、セイウンスカイさんやハッピーミークさんの出走が予定されていますが、彼女たちについては何かありますか?」

 

 インタビュアーが口を閉じると、「ついにその話題が来たか」といった感じで、今回はマックイーンが率先して答える。

 

「出走するウマ娘は皆、この上ない強敵になると予感しています。

 だからこそ、私は私らしく、全力で走ることをお約束しますわ。そうしなくては、勝てるものも勝てませんもの」

 

 メジロマックイーンは、多数の戦術を持っているわけではない。

 彼女の走りは王道中の王道、好位抜け出し。よりインコースを取り、より速く駆け抜けるという、非常にシンプルながら隙のない戦術だ。

 

 しかし逆に言えば、彼女にはそれしかない。

 有記念がどのように荒れようと、彼女はその荒波の中に付いて行くしかないわけだ。

 

 そして同時、その荒波が彼女の背を押した時には……彼女は止められなくなるとも言える。

 あまり好きな言葉ではないが、レースは運否天賦。その日のウマ娘たちの仕上がりと調子次第で簡単に展開は覆り、その流れに乗った者が勝つ。

 

 ……そして、今回ばかりは俺の担当の大逃げウマ娘も、その波に呑まれざるを得ない。

 

「今回の有記念には、多くの逃げウマ娘が出走を予定しています。特にサイレンススズカさん、ツインターボさんはホシノウィルムさんと同じく大逃げで知られています。

 そこについて、ホシノウィルムさんはどう思われますか?」

 

 大逃げの強さは、ひとえに周りに影響されないことにある。

 誰の存在も感じない程突出し、誰と競り合うこともなく経済コースを走る。

 故に、無駄にスタミナを消耗することも、掛かることもなくなるわけだ。

 

 ……しかし、今回の有記念には、他にも2人の大逃げウマ娘がいる。

 片や向こう見ずな程の全開エンジン、ツインターボ。

 片やウマ娘としての限界速度と謳われる異次元の逃亡者、サイレンススズカ。

 

 大逃げで走るとなれば、この2人との先行争いは避けられないだろう。

 それは即ち、ホシノウィルムがこれまで独占していたアドバンテージが失われ、他のウマ娘たちとイーブンな、あるいはそれ以下の戦いを強いられることを意味する。

 

 つまり、要約すると。

 大逃げウマ娘であるホシノウィルムにとって、今回の有記念は、これまでになく不利なレースになるだろう、ということだ。

 

 

 

 ……それでも。

 

 俺の担当ウマ娘は、決して顔を下げない。

 むしろ瞳を煌めかせ、口角を上げた。

 

「サイレンススズカさんも、ダブ……ツインターボさんと競り合うのも。そして後方から追って来るだろうスペシャルウィークさんやマックイーン先輩、テイオーやネイチャから逃げるのも、きっとすごく楽しいでしょうね。

 きっと今年の有記念は、すごく、すっごく楽しいレースになると思います。本当に待ち遠しいですよ」

 

 そう言ってニヤリと笑う姿を、カメラのフラッシュが捉える。

 

 もはや彼女に、「負けてはいけない」という縛りは存在しない。

 あるいは「ファンの期待に応えて勝ちたい」はあったとしても、それは彼女を呪うものじゃない。

 だからこそ、ホシノウィルムは笑うのだ。

 本音と演技が混ざり合った結果、すごく……その、邪悪っぽくなった、魔王みたいな笑顔で。

 

 

 

 それを見て、心の中で苦笑すると同時、改めて気合を入れ直す。

 海外のウマ娘と競う、ジャパンカップ。

 年末の祭典、有記念。

 どちらのレースも、彼女が心から楽しんで、そして勝つことができるように……。

 トレーナーとして、精一杯支えないとな。

 

 

 







 大逃げウマ娘が3人! 来るぞ遊馬!



 次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、日々のまにまにの話。



(謝辞)
 本作のUA(読んでもらえた回数みたいなもの)が100万を突破しました! 
 100万……100万!? もう数が正直数が膨大すぎてよくわかんない領域です!!
 登録者様が100人を超えた時点で現実感は消し飛んでたんですが、改めていただいた応援のすさまじさに頭がくらくらしますね……。承認欲求モンスターになりすぎないよう注意せねば。
 改めて、いつもご愛読ありがとうございました!
 そして、今年も本作をよろしくお願いします!

(追記)
 誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました! ありがとうございました!
 ……有記念と天皇賞間違えるってどういうこと? なんで推敲の時気付かなかったんだろう……。
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