多分これが一番早いと思います。
ホシノウィルムは、ジャパンカップを制した。
……いや、こんなにさらっと流して良い事実じゃないんだけどな、これ。
ジャパンカップは、多くの海外のウマ娘が乗り込んでくる、シニア混合のG1レース。
本来その勝利に対しては、もっとこう、「うおおおお、ホシノウィルム、やったなぁぁぁ!!」みたいなノリが正しいんだろうが……。
もうここまで来ると、G1に勝っても「よく頑張った!」以上の感想はなかなか出てこない。
どうやら彼女のレースの勝利に関する価値観は、既に壊れてしまっているらしい。
……まぁ、俺が一番祝いたいのは
地下バ道に帰って来たウィルは、やはりというか、いつも以上に疲れを滲ませていた。
それでもいつものように、こちらを視認すると駆け寄って来ようとするので、「歩いて、な」と苦笑いで応え、ゆっくりと歩み寄って来る彼女を待つ。
そして彼女が擦りつけようとしてくる頭に手を置いて、少し乱雑気味に撫で回した。
「わ、わっ」
「おかえり、……ウィル」
「へへ……ただいま、あゆ……ん、ん。トレーナー」
「よく無事に帰って来た。ずっと見ていたぞ」
「うん。応援の声、聞こえてましたよ」
「……聞こえるものなのか?」
「私、走ってる間は耳が良いって言ったでしょう?」
「む……」
そんな会話を交わしながら、俺たちは昌やブルボンが待っている控室に向かう。
……ウマ娘の仕事は、レースだけで終わりってわけじゃない。
彼女には今日、もう一、いや、二仕事してもらわないといけない。
「それじゃ……少し体を休めたら、勝利者インタビューに向かうぞ。やれそうか?」
「勿論です。ファンの皆さんが待っててくれてますから」
ウィルはそう言って楽しそうに、不器用な笑みを浮かべた。
* * *
トゥインクルシリーズの原則として、八大競走に勝ったウマ娘には、当日の内にインタビューが行われる。いわゆる勝利者インタビューというヤツだ。
本来インタビューはウマ娘の負担も考えて後日に行われることが多いが、八大競走……つまり国内でも最大規模・最高級の格を持つレースは例外となる。
運営しているURAとしては早急な対応を取りたいだろうし、何より少しでも早く生の声が聞きたいというファンの方が多いからな。
が、同時。ハプニングや例外というものは往々にして存在する。
例えば、1着2着がどちらも負傷してしまい、インタビューどころかウイニングライブすらままならなかった今年のダービー……とは、まったく逆の方向性にはなるが。
今回のジャパンカップのようなレースもまた、例外的なレースの1つに数えられる。
これは八大競走には数えられないが、当日中にインタビューが行われるんだ。
八大競走に数えられるのは、皐月賞・日本ダービー(東京優駿)・菊花賞・桜花賞・オークス・天皇賞(春・秋)・有馬記念の8つ。
今はこれらに加え、宝塚記念やエリザベス女王杯、ジャパンカップなど、中長距離に限ってもこれらと十分並ぶようなレースがいくつも開催されている。
そもそも、八大競走という枠組みができたのはだいぶ昔のこと。G1とかG2とかのグレード制ができる、その更に前の時代。
今で言うG1もG3も全て「重賞」という区切りだった時代、その中でも一等格の高いレースを区別するために生まれたんだ。
故に、今は必ずしも、八大競走が最大の規模や格を持つというわけではないわけで。
なので今は、ジャパンカップに代表されるような八大競走に並ぶ大規模レースもまた、当日中にインタビューが行われるようになっているのだった。
で、この勝利者インタビュー。
これはレースに勝ったウマ娘が得る、ウイニングライブと並ぶ1つの特権とも言えるものだ。
本来ウマ娘は、ただ純粋な実力主義ではなく、人気商売としての側面も内包している。なにせアスリート性半分、アイドル性半分みたいな存在だからな。
グランプリレースを除く一般的なレースへの出走の優先度は、そのウマ娘の実力と共に、抱えているファンの数を基準にして決定される。
要は実力・人気の両面を具え持つ子が優先されるわけだ。
故に人気のないウマ娘は、たとえ多少の実力があったとしても、レースに出ることすらできない場合がある。
……ま、善性の人間が多い影響か、そんなことはそうそう起こらないけどね。
ごく稀にラフプレーしがちな子とかが弾かれるくらいで、基本的には実力と人気は比例に近い相関関係を持っている。
で、人気商売って意味においては、勝利者インタビューは自らをアピールする絶好の機会でもある。
自分が勝ったこと、他の子よりも強いことをアピールし、次回に出走したいレースなど伝えることで強く意識してもらう、というわけだ。
とはいえ、俺の担当であるウィルとブルボンはどちらも極めて実力派のウマ娘であり、集める期待は相当のもの。敢えてアピールしなければレースに出られない、ということは起こらないだろうけども。
故に、俺たちにとって勝利者インタビューというのは、少なくともアピールの場という意味では、あまり大きな意味を持つイベントではない。
しかし同時、レースを見た直後ファンにとって、彼女たちの生の声は是が非でも聞きたいもの。
最近ファンサービスをしっかりと考えてくれるようになったウィルにとって、これがファンの応援に報いる大事な機会であることは間違いないだろう。
* * *
ホシノウィルムはしばしの休息の後、勝負服のままでインタビューの舞台に上がった。
灰のマントこそ畳んでいるが、レース直後の彼女からは、レース後の余韻とでも言うべき熱が立ち上ったままだ。
その姿を、数えきれない程のカメラが一斉に捉えた。
パシャパシャと光るフラッシュに、ウィルは少しだけ眩しそうに目を細める。
多くの人にその声を届けるために、彼女はここに立っている。
勝利の感慨を。未来への展望を。次走への意気込みを。
……そして、その姿を見せるために、ここにいる。
だから彼女は、今もこうして堂々と、カメラのフラッシュに耐える。
勝者としての誇り高い姿を、そのレンズに焼き付けるために。
俺は契約トレーナーとして、そんな彼女の隣に立つ。
この場で、俺にできることは少ない。
彼女の言葉に余計な装飾を加える気もないし、逆に言いたくないことを言わせる気もない。
ただ彼女に答えられないこと、答えにくいことがあれば、それを話すくらいだ。
それと、効果があるかはわからないが……彼女の隣にいてやること、か。
彼女にはもう、この世界に保護者と呼べる人がいない。
遠縁の親戚はいるようだが、ウィルはその方々とは一定の距離を保っているようだ。
少しだけお話させてもらったところ、あちらとしてもウィルのことを子供というよりは1人の親戚として見ていたようなので、保護者とは呼び辛い。
だからこそ俺は、そんな彼女にとって、たとえ一時だとしても休める木陰になれればと思う。
大した助けにはなれないと思うけど……少しでも邪魔な陽射しを避け、警戒することもなく昼寝ができるような場所になれたらいい。
……いやまぁ、そうなれるかはわからないし、なれたとしてもどれだけ彼女の助けになるかはわからないけどさ。
さて、檀上にウマ娘とトレーナーが揃ったことで、勝利者インタビューが始まる。
早速インタビュアーの1人が口を開いた。
「ホシノウィルムさん、ジャパンカップの勝利おめでとうございます!
強力なウマ娘たちを退けての勝利となりましたが、今の率直な感想をいただいてもよろしいでしょうか」
俺が彼女にマイクを渡すと、ウィルはすぐにそれを口元に寄せた。
「最高のレースでした。まずは一緒に走ってくれたウマ娘の皆さん、そして見ていただいた皆さんにお礼が言いたいですね」
おぉ……。
無難と言えばその通りだが、素晴らしく堅実な回答である。
半年前の彼女なら『死ぬ程つまらないレースでした。もっと強いウマ娘いないんですか?』とか言い出しかねなかったことを考えると、これがどれだけ真面目で得難いものなのかがわかるだろう。
最近じゃメディアにも「最近のホシノウィルムは気性難が抜けつつある」と報道もされがちな彼女だけど、実際それは事実に近い。
一種の場慣れだろうな。特に彼女が三冠を取って以来、そりゃあもうインタビューとか取材とかすごかったし、経験値は相当に得られたはずだ。
レースでの暴走もそうだが、インタビューにおいても、ホシノウィルムの気性難……というかちょっと非常識な回答はその数を減らしつつある。
まぁ勿論、少し前のマックイーンとの合同取材のように、完全になくなったわけではないので油断は禁物なんだけども。
ホシノウィルムの回答に記者がメモを取っている間に、他の記者が質問を出してくる。
「結果はメジロマックイーンさんと2分の1バ身差とのことですが、彼女について何か感想を」
「やはりと言うべきか、あるいは当然と言うべきでしょうか? 素晴らしく強い先輩です。
トレーナーの指導の下、逃げウマ娘として自分が有利になる戦術を取ったつもりでしたが、彼女はそれを真正面から打ち負かしに来た。
あとほんの少し私のスタミナが持たなければ、あるいはあとほんの少しマックイーン先輩の脚が伸びれば、今回の結果は覆っていたと思います」
……そうなんだよなぁ。
無表情を保ちながら、俺は内心で少し気落ちした。
恥ずかしながら、俺は今回のレースの展開を読み違えた。
それも、よりにもよって確かにデータを取っていたはずだったマックイーンの伸び方を、だ。
結果として、最終直線ではホシノウィルムに無理を強いてしまった。痛恨のミスと言っていいだろう。
今回のミスの要因としては、未知の部分が大きい海外のウマ娘に注目しすぎたこと、宝塚記念や天皇賞(秋)でメジロマックイーンの限界を知ったような気になっていたことが挙げられるだろうが……。
何にしても確かなのは、俺の立てた作戦はウィルの手を勝利へ引くことはなく、むしろその脚を引っ張ってしまったという結果だけ。
深く反省し、二度と同じ間違いを犯さないよう気を付けなければならないだろう。
……だが。
今は、ホシノウィルムの勝利を祝い、彼女の感動を伝える場だ。
反省は後でするとして、今は目の前のインタビューに目を向けなければ。
「海外のウマ娘たちに対してはどうでしょう」
「日本の芝という慣れない戦場で、とても良く走ってくれたと思います。
ただ、やはり私のような慣れない大逃げウマ娘と一緒に走るとなると、どうしてもペースを見誤ってしまうのかもしれませんね。再び走る機会があれば、今度は万全の彼女たちと走ってみたいものです。
……無論、次も私が勝ちますが」
今回俺が立てた作戦は、ハイペースのラップを刻み、大逃げに慣れない海外のウマ娘たちの判断を乱すと言うもの。
実際、海外のウマ娘たちはただでさえペースを上げられたことに加え、マックイーンが抜け出したのを見て早めの仕掛けを強いられ、結果として多くの子たちが垂れていった。
ホシノウィルムに迫ることができたのは、無尽蔵に近いスタミナを持っていたマックイーンだけだ。
まぁ、あのマックイーンと叩き合えたホシノウィルムだ。仮に海外の子たちが垂れなかったとしても、十分に逃げ切れていた可能性は高いが……。
最悪、マックイーンの更に後ろから追い込んでくる子がいないとも限らなかったからな。その可能性をケアできたのは悪くはなかったと思う。
いや、その結果ウィルが負けかけていては悪くないも何もないんだが……。
「では次に、今回打ち立てた記録について。今回の勝利によって、ほぼ理論上最速のG1レース6勝を飾ったわけですが、感想はありますか?」
理論上最速、なぁ……。
トゥインクルシリーズで出走できるG1レース、その数自体はそこそこあるが……。
その中で、両立できるレースというのは、存外少ない。
競走ウマ娘の脚は、1度レースを走った後は、1か月程度休めるべきだと言われている。
その理由は簡単で、単純に負荷が強まり過ぎて故障発生の確率が高まる上、それだけ休ませないとフルスペックに実力を発揮しにくいからだ。
特にG1レースなんてのは、その1回のために全ての神経を集中させてようやく勝てるようなもの。とてもじゃないけど無理に脚を使って勝てるようなものじゃない。
その前提で言えば、確かにホシノウィルムのG1レース6勝は、おおよそ最速と言っていい。
クラシック級の11月までにウマ娘が出走することのできるG1レースは……。
まず、ジュニア級の年末に行われる、朝日杯フューチュリティステークスと阪神ジュベナイルフィリーズ、そしてホープフルステークスと全日本ジュニア優駿。
これらはかなりレースの開催時期が近く、連闘でもする覚悟がなければ2勝は厳しい。
更に言うと、このレースに出走するのはまだ体が整っていないジュニア級。ただでさえ負荷の強いG1連闘を許すトレーナーはほぼ皆無だろう。
次にクラシック級4月に行われる、クラシック路線の皐月賞とティアラ路線の桜花賞。
クラシック三冠とティアラはどちらかに絞るのが基本だし、たとえそれらを跨ぐとしても、同時期のものに出走するのはおおよそあり得ないと言っていい。
5月、NHKマイルカップ、クラシックのダービーとティアラのオークス。
前述の通りダービーとオークスへ両方参加することはないだろうし、4月に皐月か桜花に出走している場合はマイルカップは避けるのが常道。というか流石に2か月でG1レース3本は負荷が強すぎる。
6月から7月、安田記念、宝塚記念、そしてジャパンダートダービー。安田と宝塚はクラシック級のウマ娘たち、特に三冠路線やティアラ路線に参加する子は避けることが多いし、たとえ出ても両立はこれまた難しいだろう。
ダートダービーはその名の通りダートなので、単純にG1レース数が少なくて勝利数を稼ぎにくいし。
少し時間は飛んで9月から10月、短距離のスプリンターズステークスに、ダートのマイルチャンピオンシップ南部杯、それぞれ最後となるクラシックの菊花賞にティアラの秋華賞、そして天皇賞秋。
前2つに参加する子は、距離やバ場の関係で他のG1に参加しにくいため勝利数を稼ぎにくく、中長距離路線で走る子たちは菊花秋華、あるいは秋天のどこかに焦点を絞ることになる。
そして最後に11月、ダートのJBCクラシックとJBCスプリントにJBCレディスクラシック、エリザベス女王杯とマイルチャンピオンシップ、そしてジャパンカップ。
もう言うまでもないだろうが、後ろ3つはどれか1つに焦点を絞ることになる。
そもそもここからは本格的にシニア級との混合レースが始まるので、そう簡単に勝てるものでもなくなってくるんだけどね。……いや、そもそも簡単に勝てるG1レースなんてないんだけども。
これらの期間で1つずつ、ホープフルステークス、皐月賞、日本ダービー、宝塚記念、菊花賞、そしてジャパンカップを制してきたホシノウィルムは、ほぼ最速無敗のG1レース6勝、となるわけだ。
「ほぼ」って言うのは、芝もダートも、短距離から長距離まで全部走れる子がいるから一応付けられてるって感じ。当のミークは現在G1レース4勝だけど。
……感覚が麻痺しているのを感じるな。
普通G1レースって、自分の狭い適性距離の中で完璧に調子が噛み合った時、ようやく1勝をもぎ取ることができるとか、そういうレベルなんだけどな。
それを「4勝だけど」って……。4回も勝てば、歴史に名を遺すレベルの優駿だぞ。
やっぱり俺の感覚、どこぞの鹿毛のウマ娘に壊され尽くしちゃったらしい。
しかし、そんなとんでもない偉業を成し遂げた当人は、何の気負いもなさそうに語る。
「前にも言いましたが、個人的には記録というものには、あまり大きな意味は見出していません。
……そして同時、この記録は私を支えてくれた多くの人やウマ娘なしでは勝ち取れなかったもの。自分を誇るよりも、まずはその状況を顧みて、私を取り巻くすべてに感謝したいと思います」
至極真っ当というか、模範に近い回答だ。
別に相談して言うべき内容を決めてきたわけでもないんだけど……改めて、こういう時にもちゃんと答えられるようになったんだなぁ。
レースでは作戦で負けそうになっても実力でカバーできるし、インタビューにも十分答えられるし。
俺が彼女を助けられることも、少しずつ減ってきたかな。
そう思うと、なんだか……。
うん。ちょっと、辛いかもね。
「現状のG1最多勝であるシンボリルドルフさんの7勝に、次回有馬記念で手が届くわけですが、そこに関してはどうでしょう」
次のインタビュアーの言葉に、ウィルは少し考え込む。
海外まで含めると話が難しくなるが、少なくともトゥインクルシリーズにおけるG1最多勝は、シンボリルドルフの7勝だ。
クラシック級で皐月賞、日本ダービー、菊花賞、有馬記念を制し。
シニア級で天皇賞(春)、ジャパンカップ、そして再び有馬記念に勝った。
出走したG1レースは計9つ、その内7つを制した彼女は、正しく生きる伝説だ。
ドリームトロフィーリーグに上がった後も、出走する度毎回1番人気を掻っ攫っている。
その偉業に手が届くと言われ、流石に思うところがあるのか、と思ったが……。
どうやら、それは違ったらしい。
「いえ、特には考えていませんでした。
……というか、他のことを気にしながら勝てるほど、今年の有馬記念は簡単なレースにはならないと思います」
……無表情だから本当のところはわからないけど、もしかしてこの子、「あ、そう言えば私、もうそういうところにまで来たのか」とか考えてたんだろうか。
ウィル、本人も言う通り、レースの記録にはあんまり興味を持ってないからなぁ……。
彼女にとって大事なのは、どれだけ楽しく、熱くなれるレースができるか。そこで残した記録が何を成すかは二の次なんだ。
いやまぁ、最近は割と無敗の三冠ウマ娘マウントとか取って来ることも増えたけども。
あれは遊びというか冗談というか、ふざけて言ってるヤツだからな。多分本人はそのワードの強さをあんまり意識せず言ってる。
……どうしよう、今回のジャパンカップ勝利で無敗の五冠マウント取り始めたら。そこまで行くと、現状この世界で彼女に勝てるウマ娘はいなくなるんだが。
「やはり、次回の有馬記念に出走するウマ娘たちのことを意識されているんでしょうか」
「意識しない子がいたとすれば、その子は多分入着すらできないんじゃないでしょうか。……本当にいたとすれば、ですが」
それは……まぁ、その通りだろうな。
今年の有馬記念は、ちょっとばかりとんでもないウマ娘との戦いになる。
日本一のウマ娘ことスペシャルウィーク、異次元の逃亡者サイレンススズカを筆頭に、トリックスターのセイウンスカイやオールラウンダーのハッピーミーク。
今回驚異の脚を見せたターフの名優メジロマックイーン、宝塚記念ではそのマックイーンを超えたメジロライアン、掛かりながらも逃げ続けるダイタクヘリオス。
菊花賞でも競り合ったナイスネイチャや復活する天才トウカイテイオー、最初から全力全開のツインターボもいる。
1人でも参加すれば盛り上がるだろうウマ娘たちの大盤振る舞い。ここまで豪華なレースはそうそうないだろうし、ここまでの難易度のレースもまたそうそうないだろう。
あるいはだからこそなのか、ホシノウィルムにしては非常に珍しいことに、彼女は有馬記念の出走ウマ娘たち……特に、スペシャルウィークやサイレンススズカを強く意識しているらしい。
トレーナーとしての観点で言えば、ライバルを意識してくれるに越したことはないので、非常にありがたいことなんだが……。
同時にそれは、やはり今年の有馬記念はそれだけ難しいものになるという証左でもあった。
あのホシノウィルムが意識してしまう程に、その難易度は高いのだ。
「では、次走……年末の有馬記念について伺いたいと思うのですが」
ウィルがちらりとこちらを窺ってきたので、頷いておく。
……それがどのようなものであったとしても、彼女の言葉で、彼女の意志を伝えるべきだろう。
さて、どのような強気の発言が飛び出すかと、俺は内心身構えていたんだが……。
彼女の口から出てきたのは、予想外のものだった。
「正直なところ、今回の有馬記念については、今までのように必ず期待に応えると断言はできません。
あのお2方もそうですが、ここまですごいメンバーのレースは、誰もが体験したことがないでしょう。
ですが、死力を尽くして……レースを楽しむことを誓います」
ホシノウィルムにしては破格な程謙虚な言葉に、思わずと言った感じでインタビュアーが黙り込む。
一方、彼女のトレーナーである俺も、少なからぬ驚きを覚えた。
そう言えば、彼女はしばらく前にネームドの名前を挙げて確認していった中で、スペシャルウィークやサイレンススズカには他よりも強めに反応していた気がする。
何かしら、運命的なものがあるのか……やはりウィルは今、2人を強く意識しているらしい。
……彼女でさえも勝利を確信できないレース、有馬記念。
実際、軽く展開を予想するだけでも、ホシノウィルムが苦境に立たされることは間違いないだろう。
それでも。
少しでも彼女が楽しく走れるように、そして勝つことのできるように、支えて行かないとな。
* * *
さて、勝利者インタビューが終われば、今度はウイニングライブ。
ここに関して俺はほぼノータッチなので、大人しく関係者席から昌やブルボンと一緒に、宝塚記念に続いて2度目となるホシノウィルムの「Special Record!」を眺めて。
諸々の事後処理を終わらせて、レース場を後にする頃にはウィルがうつらうつらし始めたので、一旦日を改め。
後日、俺とウィル、ブルボンに昌の4人は、恐らくこれからも定例になるだろう祝勝会を開催することにした。
いやまぁ祝勝会って言っても、走った子が食べたい物を皆で食べに行く、ってだけなんだけどね。
「ホシノウィルム、どこか食べたい店やものはあるか? 最大でも半日で済む範囲で」
そう尋ねると、彼女は顎に手を当ててやや悩み。
「今は辛い物の気分なんですけど、担々麺って大丈夫ですか?」
結論から言うと、俺と昌は顔を真っ赤になりながら食べることになった。
美味しいけど、確かに美味しいんだけど、とんでもなく辛いお店だった……。
ウィルやブルボンはなんであんなに食べられるんだ。もしかして、ウマ娘の胃が毒物だって見なして無効化したりしてない?
ポケットモンスター 真っ赤になって汗をかきひーひー言いながら辛いものを食べるウマ娘/なんでもなさそうな顔で美味しそうにもりもり辛いものを食べるウマ娘
皆はどっち買った? 自分は後者。
多分普通の辛さなら感じるけど、一定以上になると体が「これ毒だ!!」と判定して、感じる辛さが控えめになるんじゃないかなって。
次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、作戦会議の話。
(本編に関係ない呟き)
ポケモンSVで色違い(1/632)+Aダメかも(1/32)+みたことのない証(1/200くらい?)引いちゃった……。
近い内隕石に当たるかもしれない。更新が途絶えたら隕石直撃したと思ってください。
(追記)
誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!