転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

9 / 253
 最後の……マイニチ・トウコウ…
 ジー…ワン……で…す…
 これが…せい…いっぱい…です
 ドークシャー…さん 受け取って…ください…
 楽しんで……… ください……

  毎日投稿院典明  ─死亡─






はじめてのじいわん 真冬の大逃亡スペシャル

 

 

 

 最近、周りの環境の変化が激しい。

 

 

 

 例えば、やけにインタビューとか記者会見が増えたこと。

 

 『メイクデビュー、葉牡丹賞と、2連続で大差勝ちを飾ったことについて何か思うことはありますか』、とか。

 『現在注目しているウマ娘はいますか』、とか。

 『初のG1であるホープフルステークスへの意気込みは』、とか。

 『クラシック三冠を目指すとのことですが、手応えはどうでしょう』、とか。

 ……そんなこと訊かれたって私、まともに回答できないんだけど。

 

 なんせ前世は一介のオタクである。こんな公の場、たくさんのフラッシュとマイクを向けられた状態で喋る経験なんてなかった。

 で、前世の記憶が使えない場所では、私はただの中等部1年である。

 当然と言うか恥ずかしながらと言うか、緊張しまくってまともに考えられず、口が動くままに答えてしまった。

 

「ありません。トレーニングを積んできた結果であり、当然の帰結です」

「いません。誰も私より前にいませんので」

「特には。走り出し、走り続け、勝つ。それだけです」

「三冠ではなく、無敗の三冠です。出るからには勝ちます」

 

 ……いや、わかってる。わかってるよ。めちゃくちゃ感じの悪い答えになってしまったのは、よーく理解してる。

 日本人は謙虚を好む国民性を持っている。もうちょっと周りに慮った表現の方が絶対良かったよね。

 特にトレーナーは口を挟まなかったけど、記者たちは呆然としているようだったし、多分記事は酷いことになってると思う。

 

 あまりに怖くて、最近は雑誌から離れている。自分が叩かれているかもしれない記事は読みたくない……。

 有名人がナーバスになる気持ち、人生2周目で理解できたよ。

 

 

 

 それに、ネイチャちゃんとの関係。

 

 そう、ナイスネイチャちゃん! ナイスネイチャちゃんだ!

 アニメ2期でテイオーちゃんをライバル視し、自らの非力を認めながらも諦めず、必死に顔を歪めて走り続けた最高のスポ根ウマ娘!

 結果的にテイオーちゃんに勝つことはできなかったけど、それはテイオーちゃんが最強すぎるが故。

 ネイチャちゃんの流した血と汗と涙は、決して誰にも否定できない尊いものだ。

 

 私はその頑張り続ける姿に深く感服し、彼女のことを好きになってしまった。

 奇跡の最強主人公トウカイテイオーちゃん、実力は極端に高いわけでなくともテイオーちゃんを復帰へ導いたダブルジェット師匠、そして努力とスポ根の象徴ナイスネイチャちゃん。

 アニメ2期から推しを選ぶなら、この3人になるだろう。

 

 そしてそんな前世の推しが、今世では友達になったのである!

 

 あの日、トレーナーが模擬レースを組んだと聞いて、「またかぁ」と思わないでもなかった。

 レースの後はめちゃくちゃ疲労するし、自主トレもほとんどできなくなる。得るものもあんまり多くない。

 なので私は、模擬レースというものにあまり良い印象を持っていなかったのだ。

 でも、いざ模擬レース当日、そこに現れたのは超絶かわいい私の推しだった!

 思わず前世で得意だったオットセイの断末魔のモノマネが出てしまったくらいには驚いたし、思わず仮面が吹っ飛ぶところだった。

 それでも恥ずかしさより緊張と嬉しさが勝るんだから、推しへの感情というのはすごいものだ。

 

 その上、更に更に!

 ネイチャちゃんは、あろうことかその柔らかいおててを、私に差し出してきたのだ……!

 

 ……そこには、大きな葛藤があった。

 ホシノウィルム。お前は元とはいえオタクだろう。推しに……触れても良いのか? と。

 でも、考えてみてほしい。

 今や彼女はキャラクターではなく、私と同じ、この世界に生きる1つの命。

 握手を求められて無視することが、正しい行為なのか……!?

 

 この間、コンマ3秒。私は結論を出した。

 ──イエスネイチャ、ゴータッチ。

 

 これはウマ娘にとっては小さな1歩かもしれないが、ホシノウィルムにとっては偉大な1歩だった。

 

 その後、勢いそのまま無理やりに友達になってもらったり。

 模擬レースでネイチャちゃんに詰め寄られて、ビビって全力ダッシュかましたり。

 無茶しすぎて保健室送りになったり、と。

 色々あったんだけど……。

 

 大事なことは、1つ。

 前世で推しだったネイチャちゃんに会えて、その上今世で3人目の友達になったことだ……!

 しかもメイクデビューのご褒美権を使って、トレーナーを介して合同トレーニングまで取り付けてもらった!

 機を見るに敏とは私のことだな。ふふん。

 

 

 

 あと、……そうだな。これはとても大変なことだと思う。

 トレーナー……私の契約トレーナーである、堀野トレーナーのことだ。

 

 彼はここ最近、何かを悩んでいるようだった。

 いつもは……というか、メイクデビューまでの期間だったら、私をじっと観察していたようなタイミングで、手元のバインダーを見てぼんやりしている。

 トレーナーは何を考えているんだろう。正直な話、私にはよくわからない。

 いや……心当たりはあるけど。

 

「迷惑を……かけていますからね」

 

 我ながら、手のかかるウマ娘だと思う。

 転生者ということもあって色々特殊だし、自主トレしてないと落ち着かないし、レースをすれば全力出して疲労困憊。

 この世界に来てから学んだけど、トレーナーとウマ娘は二人三脚の関係。どちらの歩幅が広すぎても狭すぎても立ち行かない。

 そういう意味では、私は酷く育成しにくいウマ娘だろう。

 超級のトレーナーである堀野トレーナーに拾われたから何とかなっただけだし、それにしたって迷惑をかけ続けている。

 

 そんなトレーナーに私が何かを返せるとすれば、それこそ勝利だけだと思う。

 

「うん、今日も勝つ」

 

 小さな小さな独り言が、寒々しい控室に響いた。

 

 

 

「ホシノウィルム。そろそろ出走準備だ」

「はい、了解しました」

 

 外からトレーナーの声。

 立ち上がり、改めて向かいの鏡で自分の服装を見る。

 

 黒一色の中に白のラインが入った、体に張り付くタイプのショートパンツとインナー。

 その上から羽織った、深紅を基調に金の縁取りと薄灰の装飾が入ったショート丈のジャケット。

 そしてジャケットの襟の部分から……なんだろうねこれ、よくわかんないホログラムか粒子みたいなもので、キラキラ光る灰色のマントが出てる。

 胸元にブローチのように縫い付けられた星型ボタンでしまったりもできるけど、そもそも触ってもすり抜けるから、邪魔にならない便利構造だ。

 母が遺した、両耳の左右対称な耳飾りとよく合うデザイン。

 注文通りの……いや、注文より遥かにかっこいい出来上がりになった。ちょっと目立ちすぎるけどね。

 

 ……これが、私の勝負服。

 国内最高基準であるG1のレースに出るための、私専用の制服だ。

 

 

 

 そう、今日は私が初めて挑むG1、ホープフルステークスの開催日である。

 

 

 

 * * *

 

 

 

『さぁ、ウマ娘たちが12月の寒気を切り裂き、続々とターフに現れます。

 中山レース場、右回り、芝2000メートル。ジュニア級唯一の中距離レース、未来のステイヤーたちがここから生まれるのでしょうか』

『天気は生憎の曇りですが、バ場状態は良馬場の発表です。気持ちの良い走りに期待したいですね』

 

 

『各々ウマ娘たちが準備を終え、ゲートに入っていきます』

 

 

 

 ガチャン。

 

 

 

 ……あぁ、寒い。

 

 

 

『1番人気を紹介しましょう。世代最強とも噂される異次元の後継者、3枠6番ホシノウィルム!』

『いつも通りのポーカーフェイス、耳と尻尾も落ち着いています。素晴らしい逃げ足とスタミナを持つウマ娘、G1というこれまでに経験のない大舞台で普段通りの大逃げペースが維持できるのか、注目したいですね』

 

『2番人気はこの子、7枠15番パンパグランデ!』

『大器と目されるこの子は、直近2つの公式レースで連続1着を取っています。惜しくも1番人気を逃してしまいましたが、パドックで見る限り仕上がりも調子も非常に良好。今回もその末脚が冴え渡るのか?』

 

 

 

 実況解説の人たちには悪いけど、うるさいなぁ、と思ってしまう。

 私たちウマ娘は、ただ自分たちの全力を尽くして走り、勝利を目指すだけだ。

 そこでいちいち評価とか偏見を持たれるのは面倒だし、それをまるで公式見解かのように語られると困る。

 そして何より、集中力を乱されるし。

 

「勝つ……」

 

 焦点を、目の前のレーンに集中させる。ただ勝利のことしか考えられなくなるように。

 

 

 

『ゲートイン完了。出走の準備が整いました』

 

 

 

 待っている内に、音が止む。

 レースが始まる気配が、冷え切った心を完全に止める気がして。

 

 

 

『……スタート!』

 

 

 

 ゲートが開く。

 

「ッ!」

 

 スタートダッシュは完璧。

 右方の逃げウマ娘は私の前に立とうとしてたようだけど、あちらが出遅れた時点であり得ない未来になった。

 差は、冷酷に開く。あの子の速さじゃ、もう追い付けない。

 

 

 

『各ウマ娘スタートを切ります。おおっと4枠7番ソワソワ出遅れてしまった! 他のウマ娘を気にしすぎたか!?』

『初のG1の舞台、ウマ娘たちも緊張しているでしょうからね。果たしてどこまで平常心を維持できるでしょうか』

『レースのハナを切るのはやはりホシノウィルム! 再び葉牡丹賞のような独走を見せるのか?』

『他のウマ娘たちも今日のために仕上げてきています。上り坂の多いこのコース、何が起こるのかわかりませんよ?』

 

 

 

 走る。走る。走りながら、後ろの気配を探る。

 私に付いて来ているのは1人きり。足音からして、慣れない作戦で無理に追いすがろうとしてる……いや、掛かっているのか。

 その差は……3バ身よりは遠いだろう。更に開き続けているから気にする必要はなし。

 

 

 

『第一コーナーを越えてレースは中盤に差し掛かります。普段通りの大逃げを見せるホシノウィルムに引きずられたか、例年よりも早い展開。各ウマ娘たちのスタミナはもつのか』

『前と後ろで綺麗に分かれていますね。先行までの子たちはホシノウィルムを追っていますが、差しと追込の子たちは自分たちのペースを保っていますよ。彼女たちの末脚はこの大差を差し切ることができるでしょうか』

 

 

 

 トレーナー曰く、このコースは、大きく分けて5つのパートに分かれるらしい。

 400メートル程度の直線、450メートル程度のコーナー、350メートル程度の直線、500メートル程度のコーナー、そして300メートル程度の最終直線。

 累計すれば、直線とコーナーの距離はほとんど同じくらい。1つ1つの区間だとコーナーの方が長い。

 そしてレース中、3か所の上り坂と1か所の下り坂が挟まる。

 

 ……あぁ、だからトレーナーは、コーナリングと坂路を繰り返させたんだな。

 今の私なら、このコースも問題なく走ることができる。

 

 

 

『ホシノウィルム、綺麗に下り坂を駆け下りていきました! ペースコントロールは完璧と言ったところか!』

『続くキーボードリズムは一度足を溜めるためか、慎重に降りていきます。この判断が吉と出るか凶と出るか』

『後方待機していたウマ娘たちは冷静にレースを観察しています。おっとここでパンパグランデ綺麗に躱してバ群を脱出! 仕掛け準備に入ったか!』

 

 

 

 これが国内最高峰のレースか。

 日本にいるスタミナ自慢のジュニア級ウマ娘たち18人。

 その1人1人全てが、オープンやG3なら簡単に勝てる主人公だ。

 全員が速く、鋭く、重い。

 

 

 

『直線を越えて最終コーナー、ここからの展開で勝負が決まります! 中山の直線は短いぞ、後ろの娘たちは間に合うか?!』

『キーボードリズムたまらず垂れていく、代わりにパンパグランデが位置を上げていますよ!』

『パンパグランデ、ここからロングスパートをかけるつもりだ! 距離はまだ700以上あるぞ、スタミナはもつのか!?』

 

 

 

 後ろから、わずかな威圧感が届く。

 ……今になって、トレーナーの言葉の意味を理解した。

 今日のパンパグランデは絶好調を超え、鬼が宿っている。想定以上の力を使ってくるだろうと、そう言っていた意味が。

 警戒するならその一点。彼女に詰め寄られ、私が暴走してしまうという一点のみだ。

 

 ホシノウィルムは、掛からないわけではない。

 勝ちたいという想いが強すぎるが故に、後ろから距離を詰められることに弱い。ネイチャちゃんとの模擬レースで発覚した事実だった。

 大逃げで走る私の後方、2バ身。そこまで他のウマ娘が迫った時点で、私は動揺し、ペースを上げすぎてしまう。

 模擬レースではそもそもスピードを抑えていたからマシだったけど、ある程度ペースを上げる必要のあるG1レースで、この掛かりは命取りになる可能性がある。

 

 

 

『パンパグランデ伸びる伸びる! ここまで抑えていた足を十全に使った疾走に、先頭までの距離が縮まっていくぞ!』

『他の差しウマ娘たちも抜け出そうとしていますが、垂れてしまった先行の子たちが壁になってしまいましたね。これを見越して先に抜け出したパンパグランデの作戦勝ちと言っていいでしょう』

 

 

 

 迫ってくるのがわかる。

 今の差が何バ身か正確にはわからないけど……多分、音からして7くらいか。

 今もなお、差はどんどん縮まる。その殺意までも感じられるほど、彼女は近くにいる。

 

 これがG1レース。

 決して油断のできない、日本における最強を決めるレースか。

 確かに、これは少し怖いな。偶然が重なれば、負けていたかもしれない。

 

 

 

 ……私のトレーナーが、堀野トレーナーでなければ。

 

 

 

 歩幅を縮め、回転数を上げる。足は、少し重いだけで問題ない。

 

 

 

「行くぞ」

 

 

 

 スパート、開始。

 

 

 

『これは詰め切れるかパンパグランデ、先頭ホシノウィルムとの距離は今や5バ身、4バ身と……いや、ここでホシノウィルムがスパートをかけた!!』

 

 

 

 体に吹き付ける風の抵抗が強まる。

 人の体であることが恨めしい、もっと走ることに特化した姿なら、こんな邪魔なものを受けずに済むものを。

 

 

 

『残り200、ですがこの坂を上りながら加速は……いいえ、これは加速できている! しっかりと加速出来てますよ!』

『ホシノウィルム、キツい勾配を物ともせず加速! スタミナだけでなくパワーも見せつけたホシノウィルム、その差を再び広げていきます!』

 

 

 

 私は、別に頭が良いわけではない。

 レース全体のペースメイクなんて、できはしない。

 トレーナーに教えてもらったこのペースでずっと走り抜けて、残り200メートルで余ったスタミナを全部使ってスパートをかける。

 それがホシノウィルムの走り方だ。

 たとえ残り200メートルの時点で上り坂があろうが、後方からウマ娘が迫って来ていようが、そんなものは関係ない。

 私はただ、確実に勝つために、堀野トレーナーに教えられた走りをするだけ。

 

 

 

『もはやその差が縮まることはない、ホシノウィルム、ホシノウィルムだ! 今世代4人目のG1ウマ娘はこの子で決まりだ、ホシノウィルム今ゴールインッ!

 G1レースにおいてもスパートは健在、いつも通りの大差で実力を証明しました!』

『3戦3勝、G1含め全て大差勝ち。恐るべき蛇がクラシックの王座へ狙いを付けましたね!』

 

 

 

 ゴール板を越えた。

 足を緩める。勝った以上、これ以上走る必要はない。……ゆっくりと、言われた通りに徐々にペースダウン。

 少しずつ、体と心に熱が戻る感覚。

 ……ふぅ、ようやく、終わった。

 

 そして私は、そこでようやく、大歓声が私を包んでいることに気付いた。

 

 

 

「ホシノウィルムー!!」「かっこよかったぞー!」「負けるなー!」

「ライブ楽しみにしてるぞー!」「勝てよー!」「皐月賞頑張れー!」

 

 

 ……なんか、すっごい褒められてるみたいだ。

 いや、前からレースに勝って褒められることはあったんだけど、なんというか……こう、濃度が違う。

 ものすごい量の熱に当てられて、少しびっくりしてしまった。

 

 あ、トレーナー、いた。

 少し探して、関係者用の最前列にいるトレーナーを発見。あちらも私を見ていたらしく、目が合うと「うむ」と言った感じで頷かれる。

 

 ……良かった。少しは、トレーナーのためになれたかな。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その後、トレーナーに「おかえり」をもらったり、ウイニングライブをやり遂げたり、パンパグランデ? というウマ娘から挑戦状を叩きつけられたり、色々あって……。

 全部終わったら、トレセン学園に直帰することになった。

 中山レース場、そこまでトレセンと離れてないのがいいよね。阪神レース場は移動だけで1日潰れてしまい、全然トレーニングできなくてとても困ったし。

 

 で、トレセンに戻った後はトレーナー室に行って反省会といういつもの流れ。

 ……まぁ反省会とは名ばかりで、今回ここが至らなかった、次回はここを鍛えねばならない、なのでこれからはこういうトレーニングをする、という情報共有がメインなんだけど。

 

 正直な話、少し疲れてはいるんだけど、走った日の内に所感は伝えておきたい。

 感覚は時間が経つと風化して、頼りにならなくなるしね。

 

 

 

 トレーナー室の前まで来て、先導してくれてたトレーナーが立ち止まる。

 

「ん、すまん、ホシノウィルム。電話だ。先に入っていてくれ」

「? はい」

 

 電話が来たからトレーナー室に入れない、ってのは微妙によくわかんないけど、とりあえず私はドアを開けて。

 

 

 

 

 

 

 パンパン!

 

「ホシノウィルム、G1勝利おめでとう!」

「おっめでとー!」

 

 

 

 ……ネイチャちゃんと、そのトレーナーさんに、盛大にクラッカーを鳴らされた。

 

「…………???」

「あ、固まっちゃった……トレーナーさん、どーしよ」

「僕に聞かれても困るな。堀野君?」

「ただの処理落ちだ、問題ない。十秒程待てば動き出すだろう」

 

 ……えっと。

 ここは堀野トレーナーのトレーナー室……だよね?

 なんかクリスマスツリーが置いてたり、壁にリースがかかってたり、全体的に装飾されてたり……。

 それと、でっかい横断幕に「祝! ホシノウィルムG1勝利!」と書かれていたり……。

 色々と変化はあるけど、私とトレーナーのトレーナー室……のはずだ。

 

「……お2人はどうしてここに?」

「あ、戻った」

「堀野君、首謀者として君が説明するべきなんじゃない?」

「む……ふむ。確かにそれも道理か」

 

 トレーナーが私の隣を横切り、先に室内に入る。

 そして、私に向かって手を差し出し、言った。

 

「サプライズパーティ、というヤツだ。

 少し早めのメリークリスマス。……そして、改めてG1勝利おめでとう、ホシノウィルム」

「えっと……私のために?」

「勿論だ。……それと、2人に声をかけたら、喜んで協力してくれた。感謝だな」

「……はい、感謝です、ね」

 

 ちょっとまだ、びっくりが抜けないけど。

 私はトレーナーの手を取り、トレーナー室に入った。

 

「気にしないで。僕としても、縁のあるウマ娘の勝利を祝いたい気持ちはあるからね」

「おめでと、ウィルちゃん! 後でG1どんな感じだったか聞かせてね! 中継は見てたけど、やっぱ1着の子に聞ける機会はめったにないし!」

「取り敢えず、料理は……デリバリー中心で申し訳ないが、揃えてある。お腹が減っただろう、好きなものを好きなだけ食べなさい」

 

 笑って、いる。

 笑いかけられている。

 ……はは、慣れないな。

 

 

 

 温かい。部屋も、料理も、みんなも。

 

 

 

「……ありがとう、みんな」

 

 誰にも聞こえないくらいの小さな声で。

 「私」は、呟いた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 パーティは夜遅くまで続いた。

 

 ネイチャちゃんにG1の様子を聞かれたので「いつも通りのレースだった」って言ったら、何とも言えない微妙な顔をされた後「天才ってみんなこうなのかねー……」と落ち込まれたり。

 お酒を呑んだらしいネイチャちゃんのトレーナーさんが、泣きながらネイチャちゃんの良さを叫んで、当人が真っ赤になって止めたり。

 トレーナーがそれに同調して、「だからお前は折り紙でトロフィーを折れ」と謎の主張を始めたり。

 

 

 

 まぁ本当に色々あって。

 解散する時には、なんだかやり切ったような、でも惜しいような、不思議な心地だった。

 

 

 

 

「んじゃ、ネイチャさんはトレーナーさん送っていくから」

「ごめんなネイチャ……好きだ……」

「あーもう黙ってな、この酔っ払い! ……じゃあね、ウィルちゃん、堀野トレーナーさん」

 

 そう言って、ネイチャちゃんは自分のトレーナーさんに肩を貸して帰っていく。

 

「……さて、こちらも君を送っていこう。寮は敷地内とはいえ、もう暗いからな」

「重ね重ね、ありがとうございます」

「感謝の必要はない、トレーナーとして当然の行為だ」

 

 一見冷たい言い方だけど、堀野トレーナーのこれは、そういう仮面だ。

 トレーナーとして、正しくあろうという仮面。

 彼はそれを被ることで、自分を封印している。

 本当に損なことだと思う。彼の素の顔は、人好きのするものだろうに。

 

 

 

 ……あれ、そういえば。

 歩いている後ろ姿を見て、ふと思い出した。

 

「トレーナー、今回は無事に完走したご褒美はないのでしょうか」

「いいや、ある。今日はパーティもあるので、明日伝えようと思っていたが。

 ……もう決めたのか?」

「…………ある、と言えば、あります」

「ほう? 君にしては珍しく言い淀むな。

 言ってみなさい、俺にできる範囲のことなら叶えよう」

 

 ……なんだか未だに、非日常のお祭り感覚に浮かされている。

 だからこんな恥ずかしいことを、口からぽろりと漏らしてしまうんだろう。

 

 

 

「頭を……撫でてもらえませんか」

 

 

 

「頭? ……ふむ、女性は頭を触られることに忌避感を持つと話に聞いたが。

 まぁ構わない。むしろそれくらいでいいのか?」

 

「はい。ご褒美は、それで」

 

 トレーナーは振り返り、こちらに歩んでくる。

 その姿が、何かに重なるような気がして……。

 

 ぽすんと、頭に置かれた熱源。

 

「良く頑張った。偉いぞ、ホシノウィルム」

 

 ……あぁ。

 自然と瞼が降りた。

 温かな感覚に、心の中で何かが跳ねる。

 

「トレーナー」

「なんだ?」

「これからも、私が勝ったら、こうして……撫でてもらえるでしょうか」

「何を言っている」

 

 瞼を開く。

 そこにいたのは、当然、私の契約トレーナーだ。

 

「君が勝とうが負けようが、望むのなら撫でてやる。

 俺が褒めているのは勝利という結果ではなく、君がここまで頑張ってトレーニングを続け、無事故で帰ってきたことなんだから」

 

 ……そう。それが、トレーナーの答えなんだ。

 

 

 

 やっぱり、お父さんとは違う。

 この人はお父さんじゃない、この世界でただ1人の、私の契約トレーナーだ。

 

 

 

「…………ホシノウィルム。その代わりというわけではないが、1つ、俺からも求めていいか」

 

「はい、何でしょう?」

 

 彼の顔が、悲痛に歪む。

 自分が間違いを犯していると自覚しながら、それでもやるしかないと思っているような……そんな表情。

 今は自分を隠す余裕もないのか、無表情の仮面は外れてしまっていた。

 

「君にはまだ、わからないかもしれない。でも、きっとわかる日が来る。俺がその瞬間を作ってみせる。

 だから、お願いだ。

 いつか、走ることを楽しんでくれ。……俺は、君が楽しそうにレースを走る姿が…………、見たい」

 

 思えば、堀野トレーナーが私に何かを求めたのは、これが初めてだった気がする。

 私の能力を伸ばすために契約を提案したり、トレーニングを課してくることはあった。

 けれど、彼が「自分が見たいから」なんて理由で、何かを求めてきたことはなかった。

 

 ……おかしいかな。

 こんなことに、嬉しさを覚えるなんて。

 

 

 

「……お約束はできません。私には走る楽しさが、理解できませんから。

 でもいつか、あなたの言うその時が来たら……」

 

 言いかけて、ふと思いつく。

 

「……その時は、トレーナーの勝ちですね」

「勝ち?」

 

 こんなの、子供のお遊びかもしれないけど……。

 この時の私は、なんとなく、トレーナーとの間に「契約トレーナーと担当ウマ娘」以外の関係性が欲しいと思っていた。

 

「勝負、ということにしましょう。それなら、敗者は言うことを聞くしかありませんから。

 トレーナーの勝利条件は、私に走りを楽しませること。その時は私、楽しんできます。

 私の勝利条件は……そうですね。それより先に、無敗で三冠を取ること。どうでしょう」

「つまり、君が勝ち続けるなら、菊花賞まで……タイムリミットはあと10か月か」

「はい。その時は……何をしてもらうかは、その時に考えます。乗りますか?」

 

 あぁ、本当に浮かれている。浮かされている。

 お祝いと、欲望と、頭の上の温かさに。

 

「……ふ、くくっ。いいだろう。

 勝負だ、ホシノウィルム」

 

 トレーナーは、ニヤリと笑う。

 底意地の悪い……「堀野トレーナー」らしくない笑顔。

 

 私は案外、その顔が好きかもしれない。

 

 

 







 ようやくタイトル回収できました。長かった……!

 前回のあとがき追記にも書きましたが、そろそろ限界なので、今回が最後の毎日投稿になります。
 以後は本当に3、4日間隔の投稿になります。
 ……まぁ、良いものができたら衝動のままにぽんぽん上げることもあるかもしれませんが。その時はよろしくお願いします!



 次回は3、4日後。トレーナー視点で、新年あけましておめでとうな話。



(お詫び)
 前回の次回予告、めちゃくちゃ嘘予告になっちゃいました。ごめんなさい!
 訂正しておきます……。


(追記)
 誤字報告を頂き、わざとでない部分は修正しました。ありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。