転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 めちゃくちゃ流行に乗り遅れました。





三冠取ったら挨拶やれは全て詐欺です

 

 

 

 とんでもなく今更な話だけども……。

 トレセン学園は、非常に独自性の強い学校だと言っていいだろう。

 

 中等部から高等部へ、エスカレーター式の内部進学ができる中高一貫校であり……。

 暗記的な学力以上に走力を重視され、全国から強いウマ娘たちが集ってくる結果、生徒数が実に2000を越える、スーパーマンモス校でもある。

 

 年頃の少女たちを預かる以上学園という形を取っているし、当然ながら一般的な教育も施されるけど……この学園の本質はやはり、アスリートの養成機関。

 URAの主催するトゥインクルシリーズやドリームトロフィーリーグに出走するウマ娘のために、これ以上ない環境とトレーナー陣を揃えている、「トレーニングセンター」なのだ。

 

 

 

 で、そんな学園だからこそ。

 ここの「新学期」は、公式レースの期間と同調して始まる。

 

 新学期。それは本来4月、桜の舞い散る季節から始まるのが一般的だ。……いやまぁ、実際に桜が散る中での入学式になることはそこまで多くなかったりもするんだけどね。雨で簡単に散っちゃうし。

 

 けれどトレセン学園ではその新学期が、身を裂くような寒さに包まれる1月10日あたりのことになったりするんだ。

 

 この期間の変更には、ウマ娘たちの本格化が強く関係している。

 

 ウマ娘の体は中等部1年あたりから本格化を迎える。早ければその1月あたり、そして遅くてもこの年の終わりまでのどこかだ。

 つまるところ、最速で本格化を迎えるウマ娘は、4月入学じゃ本格化の始まりに間に合わないんだよね。

 

 本格化という身体能力が急激に成長する不可思議な現象には、3年間というタイムリミットがある。

 この期間にどれだけ優秀なトレーナーの下で、どれだけ良質なトレーニングを積めるか。これがウマ娘の強さの7割を決めると言っていいだろう。

 

 そんな大切な期間を、ただその子の育ちが早く本格化のタイミングが早いという理由だけで浪費させるなんてことが通るわけもなく……。

 そういった都合から、この学校の入学式は、正月の余韻も過ぎた1月10日辺りに行われることになっているのだった。

 

 

 

 で、だ。

 なんで私が、今更こんな話をしているのか、と言うと……。

 

「…………」

 

 前に目をやれば、やる気に満ちた目が。

 右に目をやれば、意外そうにこちらを見る目が。

 左に目をやれば、キラキラと憧れるような目が。

 上に目をやれば、値踏みするような目が。

 

 たくさんの視線が……実に600を越える数多くの視線が、私に突き刺さっていた。

 

 その全てに共通するのは、極めてポジティブな未来への希望。

 私こそがトゥインクルシリーズを荒らしてやるんだという決意。

 

 私の見下ろす、あるいは見上げる先……。

 トレセン学園の巨大な体育館には、現在、今年の新入生たちやその保護者の方々が詰めかけている。

 

 

 

 そう、今日はトレセン学園の入学式。

 そんな日に私はと言えば……体育館の壇上に立ち、そんな彼女たちのことを軽く見回していた。

 

 ……うん、そろそろか。

 

 私は口を開き、マイクに向けて言った。

 

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。在校生代表挨拶を任されました、ホシノウィルムと申します」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、何故こんなことになってしまったか。

 

 話は数日前に遡る。

 

 

 

 その日、私はトレーナー共々、生徒会室に呼び出されていた。

 

 ここに所属する者なら誰もが知る、トレセン学園生徒会。

 実はこの組織、一般的な高校と違って……あぁいや、創作での高校じゃままあることなんだけど、めちゃくちゃ大きな権限を持っている。

 まぁ会長があの子なんだから、そりゃあ権限もあるだろうなって話なんだけど……それはともかく。

 

 その権限は、校内で発生した問題の独自解決や軽い自治行為の実行、そして……。

 こうして冬休みの真っ最中、1人のウマ娘とトレーナーを呼び出すこともできる程に強いわけだ。

 

 

 

 辿り着いた生徒会室のドアの前で、私とトレーナーはひそひそと話し合う。

 

「……あの、トレーナー、何か悪いこととかしました?」

「いや、心当たりはないが……ウィル、もしかして君、授業中に我慢できずランニングのために脱走したりしてない?」

「流石に我慢しますよそれは。授業は真面目に受けてる……とは言いませんけども、ちゃんと座って終わるのを待ってますし」

「いや保護者としてそこは真面目に受けててほしいなって思うわけなんだけど」

 

 生徒会に呼び出されるような心当たりはない。

 いや、トレーナーは何度か呼ばれていたようだったし、私もちょっとだけお話くらいはしたことはあるんだけど、2人セットで呼び出されるってことは今までになかった。

 保護者に近い存在であるトレーナー同伴となると、一体何を話されるか知れたものじゃない。ちょっと重めの話とか、真面目な話なのかな……。

 

「……最悪、退学とか?」

「いや、それはないはずだが。君が退学となると世論は荒れまくるだろうし、その大義名分も今のところ確認できていない。……強いて言えば、栗東寮の雨どいや窓縁が傷んでいるくらいか」

「な、何の話ですかそれ……。え、じゃあなんで今日呼ばれたんですか?」

「うーん……三冠を取ったお祝いとか?」

「もうあれから3か月経つんですけど、今更ですか?」

「それは……いや、というかここで待っていても仕方ないし、そろそろ入ろうか」

 

 トレーナーの言葉に、それもそうかと頷く。

 

 怯えていても仕方ない。何の話をされるにしろ、私たちはそれを聞くしかないんだから。

 私たちは覚悟を決めて頷き合い、生徒会室のドアを叩いた。

 

 

 

 「どうぞ」という声に導かれて入った生徒会室にいたのは、1人のウマ娘だった。

 

 そのウマ娘は、私のよく知る……というか、競走ウマ娘ならばおおよそ誰もが知っている人。

 前世アニメではトウカイテイオーの憧れであり、この世界では無敗でクラシック三冠を取った史上初のウマ娘であり、今もドリームトロフィーリーグを走る競走ウマ娘でもあり、そして現トレセン学園生徒会長でもある女傑。

 

 長く綺麗な黒鹿毛に、三日月のようにクセの付いた流星、凛々しい顔貌を備えた彼女は……。

 

 シンボリルドルフ会長、その人だ。

 

「やぁ、よく来てくれた。どうぞそこにかけてくれ」

 

 彼女はにこやかに、けれど確かに威厳を感じる落ち着いた態度で、備え付けられたソファを指し示した。

 

 

 

 私の前に座り、優雅に紅茶を飲むシンボリルドルフ会長。

 彼女の容姿は、前世アニメで見たものよりも成長している。

 記憶の中の彼女は美しさに寄った少女と女性の中間って感じの風貌だったけど、この世界のルドルフ会長は明確に女性だ。溢れ出る風格もあって、20代前半くらいに見える。

 

 既にトゥインクルシリーズからドリームトロフィーリーグへと進んでいる彼女は、当然ながら既に本格化を終えて久しい。

 体型を固定される時期は過ぎ去り、彼女もまた時間の経過と共にその容貌を変化させる。

 その結果として、彼女の見た目は完全に成人女性のものとなっているわけだ。

 

 そしてそれだけ見た目が変化しているということは、つまりそれだけ彼女は歳を重ねているわけで。

 シンボリルドルフ会長は、既に成人も近い年頃だ。

 

 彼女がトゥインクルシリーズを走り、数々の伝説を残したのは、既に6年も前のことだ。

 トレセン学園を卒業してから数えても3年、そりゃあ容姿が大人びてもおかしくはないだろう。

 

 で、そんな卒業生であるルドルフ会長は、けれど同時にこの学園の現役生徒会長でもあるわけで……。

 ……正直よくわかんないよね、うん。

 

 先にも言った通り、トレセン学園は非常に独自性の強い学校だ。その実学校と言うよりは、アスリートの養成機関という形容の方が実情に沿っているくらいに。

 更に言えば、所属するウマ娘たちは人間を遥かに超える身体能力を持つ。もしも集団的に暴走でもしようものなら、そう簡単には止めることができないだろう。

 

 そんな組織のトップ……生徒会の長となると、相応の威厳と求心力が必要になる。

 そういう意味において、ルドルフ会長以上の人員はいないだろう。三冠ウマ娘という立場や圧倒的な実力、そしてカリスマ性を持つ彼女は、学園の統治者としてこれ以上ない素質を有していた。

 

 ……そう、これ以上ない素質だったんだ。

 ルドルフ会長の代わりが見つからないくらいには。

 

 彼女の在学中に、ルドルフ会長が抜けた穴を埋められる人材は見つからなかった。

 トレセン学園を上手く纏めていくためには、どうしても彼女の協力が必要になっていた。いや、勿論やろうとすればできるんだろうけど、どうしたってこれまで彼女に依存していた生徒会には混乱が発生してしまうだろう。

 

 その混乱を避けるため、そして彼女自身の望みもあって、卒業したはずのシンボリルドルフ会長は今もなお、いわゆる「名誉会長」的な立ち位置で中央トレセン学園の生徒会長を続けているのだった。

 

 ……というか歩さん曰く、殆ど大人であり、なおかつ道理を弁えている彼女が生徒会長をやっているからこそ、今の生徒会の権限は非常に強くなっている、っていう側面もあるらしい。

 要は、トレセン学園内部でシンボリルドルフを最上とした、トップダウンの警察・行政組織を持っているような状態なんだって。なんかカッコ良いよね。

 

 ……いや、生徒会って何? と首を傾げたくなる気持ちあるけども。

 

 

 

 で、そんなルドルフ会長は……直に向き合うと、やっぱりかなりの威圧感がある。

 歴戦の戦士の風格というか、よく言われる皇帝らしい威厳というか、そういう固く強い空気感を纏ってる感じだ。

 

 一瞬、「これが無敗三冠ウマ娘の存在圧……!」と思ったけど、よく考えたら私も無敗三冠獲ってたわ。

 私にはこんな強そうな空気出せないし、これはルドルフ会長自身のカリスマ性なのかもしれないね。

 

 さて、そんな会長が、一体何を話し出すのか。

 私は固唾を飲んで彼女の言葉を待ってたんだけど……。

 

 彼女は何故か、どこか自慢気な様子で、こう切り出してきた。

 

「改めて、生徒会長のシンボリルドルフだ。堀野トレーナー、ホシノウィルム、それぞれと話したことはあれど、共に会話を交わすのは初めてになるな。

 2人にはご足労いただいてありがたく思っている。いや、私と話すことこそ苦労(・・・・)かもしれないが」

 

 …………?

 え、なんでどことなくドヤ顔? 普通こういうこと言う時、申し訳なさそうな顔はすれど、ドヤ顔はしないと思うんだけど。

 それに、苦労って……卑下にしてもちょっと言い過ぎでは?

 

「いえ、別に苦労とは思いませんが。ルドルフ会長が良い方というのは知っていますし」

 

 上手く相手の意図が掴めず、私は困惑に眉をひそめる。

 

 ルドルフ会長、確かに威厳はあるけど、少し話してみればとんでもなく善性のウマ娘ってことがわかる。いわゆる聖人とまで呼べるだろうウマ娘だ。

 

 そんなウマ娘だから、話しても苦になる相手じゃないんだけど……。

 あぁいや、確かにこの威圧感、あんまり心が強くない子には厳しいかな? ライスちゃんだったら失神したり……しないか。あの子自尊心が低いだけで心臓はメチャクチャ強いタイプだし。

 

 ……なんて、そんなことをぼんやり考えている私の横で、歩さんは……これまた何故か、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 え、何その顔。歩さんまで、なんでそんな顔するの? え、もしかして私、空気読めてない?

 

 状況に困惑している私を前に、ルドルフ会長は咳払い1つ、改めて話を続ける。

 

「ん、ん。……さて、話の前にお茶請けでも用意しようか。

 とはいえ、当生徒会も余裕があるわけではない。『これ好みちゃうけ(・・・・)ん!』なんて言われると困ってしまうが」

「いや、先輩にため口なんて使いませんよ。それにわざわざ出していただいたものに文句なんて言えません。ありがとうございます」

 

 ……え? いや、なんでそんな悲しそうな顔するの会長。私、また空気読めないこと言った?

 

「いや、すまないシンボリルドルフ。俺は……うん、面白いと思うぞ」

「気遣いは不要だよ、堀野トレーナー。これも私の不徳、七転八起して精進する他ないのだから」

 

 そう言って、ルドルフ会長は軽く肩を落としてしまった。

 

 な、なんなんだ……???

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなよくわからないやり取りもあったものの……。

 言葉の通りお茶とお茶請けを出してくれたルドルフ会長は、改めて口を開いた。

 

「さて、改めて。突然の呼び出しにも関わらず来てくれてありがとう、堀野トレーナー、ホシノウィルム。

 今日は公式の会見というわけでもないし、どうか自然体で聞いてほしい。

 ……とはいえ、君たちも既に三冠を獲ってから数か月。そういった会見やインタビューには慣れ切っているかもしれないが」

 

 そう言って、彼女はクスリと笑った。

 

 確かに、三冠の後……特に直後1か月は、めちゃくちゃな量と種類の仕事が回って来たからな……。正直あまり走れないことに、そして歩さんが追い詰められていくことにストレスが溜まったまであった。

 ……でも、経験っていう意味で言えば、アレはかなり貴重なものだったと思う。ぶっちゃけ今後の人生であれほど忙しないことなんてないだろうしね。

 

 そして、ルドルフ会長もまた三冠ウマ娘だ。クラシック三冠を達成した当時は、やはり相当にメディアに追い回されていたんだろう。

 その気持ちがちょっとわかって、私も小さく微笑を返した。

 

 クラシック三冠を獲ったウマ娘同士の共感。これまた、かなりレアな体験だろうな。

 

「そうだな、話の前に、改めて祝わせてくれ。

 ホシノウィルム、堀野トレーナー、クラシック三冠の達成おめでとう。

 いくらウマ娘の素質があろうとも、あるいはトレーナーが優秀であろうとも、これは易々と達成できることではない。それらを掴み取った君たちは二人三脚、素晴らしい関係を築けているのだろう。

 良き巡り合わせがあったことを喜ばしく思い、そして何より、君たちの努力に敬意を表する」

 

 穏やかに、けれど威厳を持って私たちを祝う姿は、とてもまだ成人していないとは思えない。

 ……というか、前世の私と同じくらいの年頃なんだよね? あまりにも成熟し過ぎてない? ちょっと怖いまであるよ。

 

 しかし、同時に……。

 

「……いや、すまない。自然体でと言った私自身が畏まってしまったな。

 とにかく2人共、おめでとう。同じ競走ウマ娘として、そして先にその道を進んだ者として、とても嬉しく思うよ」

 

 彼女は、ただ厳めしいだけではない。

 

 ユーモアがある……とは言い難いかもしれないけど、相手に気遣いもできるし、雰囲気が固すぎると感じればすぐに柔らかい笑顔を浮かべてくれる。

 彼女はその理想で語る通り、ウマ娘の幸せを第一に考えている。だからこそ、相手が辛いと感じているようならすぐに話題を転換してくれたりもするんだ。

 

 そこら辺、前世のアニメで見た彼女とは……どことなく印象が違うように感じた。

 

 

 

 アニメで見たルドルフ会長は、とても厳しい……いわば厳格な父親のような存在のように見えた。

 スペ先輩を迎え、テイオーを見守る彼女は、まさしく強者としての威厳に満ちていた。強者として、先達として、彼女たちの旅路を高みから見守っていたんだ。

 

 けれど、彼女は……今のルドルフ会長は、なんというか、その内面に余裕や柔らかさを孕んでいる。

 柔よく剛を制すって言うけれど、まさしくその通りだ。今の彼女は、ただ厳格そうだった以前の彼女よりも余程手ごわそうに見える。

 

 

 

 そういったことからもわかるように……。

 今更になるけど、この世界は、前世アニメで見ていた世界と若干の違いがある。

 

 私たちの世代は、前世アニメで言えば2期、テイオーやネイチャたちの世代なんだと思うんだけど……。

 例えば、ルドルフ会長やスペ先輩、スカイちゃんは姿そのままではなく見た目が成長してるし、スカーレットちゃんやウオッカちゃん、ゴルシなんかが見当たらない。

 例えば、ルドルフ会長の顔つきや雰囲気がどことなく柔らかくなっている。

 そして、例えば……ホシノウィルムという、本来いるべきでないイレギュラーが存在する。

 

 そういう意味において、この世界は正確な意味での「ウマ娘世界」ではないんじゃないかな、なんて。最近はぼんやりそんなことを思ったりもした。

 

 強いて言えば、見ていたアニメに限りなく近い、現実の世界。

 

 ……そう、現実の世界。ここは私にとって第二の故郷ならぬ、第二の現世なんだ。

 

 

 

 と、まぁそんなことは置いておいて。

 今はルドルフ会長の賛辞に、返事をしなきゃだ。

 

「ありがとうございます。最初の無敗三冠ウマ娘に言われると、やっぱり嬉しいですね」

「ふ、世辞はいらないよ。君は記録云々より、その場その場のレースを楽しむタイプだろう?」

「あはは、お見通しですか。……あぁいえ、嬉しいのは本当ですけどね」

 

 相手はあのシンボリルドルフ、生きる伝説だ。

 彼女に手放しで褒められるなんてそうそうあることじゃないし。

 

 ……ただ、どちらかと言えば、目の前の壁の大きさの方が気になるってだけで。

 

 最初の無敗三冠ウマ娘。唯一無二、レースの世界に「絶対」をもたらす永遠の皇帝。

 彼女と本気で走れば……果たして、どこまで楽しめるんだろうってさ。

 

 

 

 そんな風にちょっとだけ気もそぞろな私を見て、彼女は小さく微笑みを浮かべた後、再び口を開いた。

 

「さて、改めて本題に入ろうか。今日君たちを呼び出した用件だが……」

 

 そう言って、一拍置いた後。

 切り出されたのは、私の想定外の言葉だった。

 

「ホシノウィルム、生徒会に入ってみないか?」

 

 …………え?

 

「生徒会……ですか?」

 

 思わずおうむ返しに言ってしまった。なんかアホっぽいな。恥ずかしい。

 

 ……しかし、生徒会?

 何故今、このタイミングで……というか、なんで私?

 

 そんな疑問が顔に出ていたのか、ルドルフさんは一度紅茶を口に含んだ後、私の疑問を見透かしたように語った。

 

「正直なところ、私は自らのポジションについて、違和感を抱いているんだ。

 トレセン学園生徒会……本来今を走る生徒たちが自らを治めるべき組織の長が、いくらクラシック三冠というシンボルが必要だからと言って、過去の者であって良いのか、と」

 

 それを聞いて、私はようやく、さっきの賞賛の意味を理解した。

 

「……なるほど、先ほど三冠の話をしたのはそういう」

「理解が早くて助かるよ。……そう、私がそんな風に悩む中、新たな三冠ウマ娘が現れた。

 トゥインクルシリーズ現役、つまりこの学園の現役の生徒であり、数多くの偉業を成し遂げたためにシンボルとしては十分。その上同期や後輩との付き合いも……絶対数こそ少ないが、1つ1つを見れば相当に良好なものであると聞いている。

 未来を任せるウマ娘の候補として考えても、おかしな話ではないだろう?」

 

 なるほど……事情は大方理解できた。

 

 そろそろ生徒会長を引退したいと思っても、自分に代われる存在がいない。そんな時に私っていう、新たな三冠ウマ娘が出て来た。だから生徒会に勧誘し、ゆくゆくは自分の代わりに生徒会長として、シンボルになってもらう……と。

 ルドルフ会長は、それを望んでいるわけだ。

 

 うーん……ちょっと複雑。

 評価いただくのは当然ながら嬉しいとしても、そういう方面で注目されちゃうのは……ちょっと面倒だなぁって思ってしまうね。

 

 しかし、その要請に応える前に、気になることを尋ねておこうか。

 

「しかし、このタイミングで話すのには、何か事情があるんでしょうか。そのお話、もっと前でもよかったのでは?」

「タイミングか……。ふむ、君は菊花賞の後、ジャパンカップ、そして有記念も控えていただろう? 堀野トレーナーとしても、初の担当ウマ娘が三冠を獲り、しばらくは忙しかったのではないかな?」

「あぁ、なるほど。気を遣ってくださった、と」

 

 ルドルフ会長にしては、答えるまでに若干の詰まりがあったような気もするけど……ひとまず理屈は通ってるよね。

 実際、私たち色々あって滅茶苦茶に忙しかったし。特に12月中旬以降は、そんな話されたらキレかねないくらいに切羽詰まってたし。

 

 腕を組んで考えている私に対して、会長は改めて勧誘を持ちかけて来る。

 

「トレセン学園生徒会は……君も知っていると思うが、簡単に言えば学園に所属するウマ娘たちのサポート全般、そして学園の運営を生業とする。

 一見雑用のようで面倒に思うかもしれないが、実際に手を付けてみれば学べることは多い。もしも興味があれば、どうだろうか」

 

 ルドルフ会長は、真摯に言葉をかけてくれる。

 勿論、それに応えたいという気持ちはあるけども……。

 

 うーん……。生徒会に所属っていうのは……ちょっと許して欲しいかなぁ。

 

「ご提案はありがたく思いますし、評価いただけるのは嬉しいのですが……生徒会への所属は勘弁していただけると」

「ふむ。何故かな」

 

 ……いや、なんかちょっと申し訳ないな。

 そんな真面目な顔で聞かれる程、大した理由でもないんですけどね。

 

「仰る通り、私は結果よりも、その瞬間に走ることを楽しむタイプです。だからこそ、勝てればいいと満足するのではなく、自らができる限界にまでトレーニングを積んでレースに向かいたいんです」

「当然ながら、過度な要求をするつもりはないよ。各々は自分にできることをすればいい。それが私の考え方だからね」

「それでも、自由時間は削れてしまうでしょう? 私はそんな時間も全て、自分のために充てたいんです」

 

 そう言った後、思わず自分の発言に苦笑してしまう。

 とんでもなく自分本位な……ルドルフ会長の理想には、どこまでも反発する考え方だろうな、これ。

 

「すみません。私はそういうウマ娘なんです。

 誰かのために頑張るんじゃなくて、自分のために頑張る。レースを、走ることを楽しむために、今を全力で頑張りたい。……そういう、利己的なウマ娘。

 だからきっと、あなたの後継者には相応しくないと思うんです」

 

 

 

 シンボリルドルフの理想は、広く知られている。

 

 曰く、全てのウマ娘が幸せであれる世界。

 

 彼女はその荒唐無稽とも思える夢を実現するために、本気で努力している。トレセン学園の生徒会で在校生たちを支えるのもその一環だ。

 

 しかし……残念ながら、私にそんな素晴らしい想いはない。

 

 そりゃあ、周りの人やウマ娘が幸せであれば、それ以上のことはないと思う。

 多少であればそのために手を貸すこともある。大切な人のためになら自分のリソースだって使うだろう。

 

 けれど、あくまでそれだけだ。

 顔と名前も一致しない誰かを、自分のトレーニングの時間を削り、歩さんと会う機会を投げ出してまで助けたいとは……いや、時と場合によりけりだけど、基本的には思わない。思えない。

 

 私は聖人なんかじゃない、至極普通の転生ウマ娘でしかないんだから。

 

 だから……そんな利己的な私は、シンボリルドルフの後を継ぐ者として、相応しくないと思う。

 ……というか、前世じゃただのオタクだった私が継ぐには、ちょっと重すぎる役目なんだよなぁ。

 

 いっそブルボンちゃんが今年三冠を獲って、この役割を負ってくれたりしないかな。それはちょっと高望みか?

 

 

 

「だから……お誘いは嬉しく思いますが、お断りさせていただきます」

 

 ペコリと、私は頭を下げる。

 

 シンボリルドルフ会長は、尊敬に値するウマ娘だ。

 その人柄もそうだし、勿論走りもそう。10年近く現役として第一線で走り続けているのだから、そりゃあ尊敬する他ないってもので。

 

 そんな生きる伝説と呼んでいいウマ娘に過分な評価を受けたのだから、そりゃあ嬉しくは思う。

 

 思う……けど、だからこそ。

 彼女の想いを、理想を軽視してはいけないと思うんだ。

 

 そんなわけで、私は「ちょっと申し訳ないなぁ」と思いながら、生徒会への勧誘をお断りさせていたいたんだけど……。

 

 

 

 それを聞いて、ルドルフ会長は……。

 どこか微笑ましいものを見るような目を、私に向けていた。

 

「そうか、君は……」

「何でしょう」

「……いや、すまない。何でもないよ」

 

 そう言って、ルドルフ会長は軽く首を振った。

 

 ……何かおかしなこと言ったかな、私。

 お誘いにもしっかりと向き合って、誠意のある対応をしたつもりだったんだけども。

 

 小首を傾げる私の横で、歩さんがどこか呆れたような声を出す。

 

「横から失礼する、シンボリルドルフ。露悪的に言ってはいるが、彼女は心優しいウマ娘だ。交渉術など使わずとも、頼めば応じてくれると思うぞ」

 

 え? 何? 交渉術?

 というか歩さん、私頼まれても生徒会長にはなりませんよ? 私なんかの手には余りますし。 

 

「……はは、参ったな。こうも簡単に手の内がバレてしまうなんて」

「これでも堀野の出、権謀術数には多少の慣れがある。ドア・イン・ザ・フェイス……基本中の基本くらいは見抜けて当然だ」

「流石、と言うべきかな」

「お褒めに預かり光栄に思うよ」

「あの……え、何?」

 

 ルドルフ会長たちは歩さんと、なんとなくわかりにくくて遠回しな会話を交わした後……。

 眉をひそめる私に、改めて向き合う。

 

「……さて、ホシノウィルム。生徒会の件は残念だ。もし気が変わったら、いつでも声をかけてほしい。

 で、その代わりと言ってはなんだが……1つ、頼まれてくれないか」

 

 頼み? もしかしてそっちが、歩さんの言ってた「頼めば応じてくれること」?

 だとすると……え、もしかしてさっきのって、本題じゃなくて駄目元の雑談だったってこと? うわ、真面目に返したのちょっと恥ずかしいな……。

 いやでも、最初に「本題に入ろうか」って言ってたような。それ自体がブラフだったってこと?

 

 ……うーん、頭が痛くなってきたな。

 一旦考えるのやめて、素直に話を聞こうか。

 

「えっと……何をでしょう?」

 

 対面の会長は1つ頷いて、紅茶のカップをソーサーに置き……。

 恐らくは今日の本当の本題、私をここに呼び出した要件を、告げた。

 

「来たる入学式、そこで新入生たちにエールを贈ってあげてくれないか。

 去年の無敗三冠ウマ娘であり、いくつものジンクスを破ってきた君の声を、きっと新入生たちは喜んでくれると思うんだ」

 

 

 







 ウマ娘の成長とか学年とか世代の設定、あまりにも情報が薄すぎて二次創作してて困る設定ランキングダントツナンバーワン。
 本作ではウマ娘たちが成長してたり卒業してたりします。よしなに。

 あと本当はこの話1話で終わるはずだったんですけど長くなったので続きます。
 お話進めるの下手くそ芸人。



 次回は3、4日後。トレーナー視点で、入学式の話。



(追記)
 誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!
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