転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 もうタイトルのネタもないし軽率に流行りに乗っていく。





仰ぐな──!! 私は君たちが思うような特別なウマ娘ではない!

 

 

 

 時間が経つのは本当に早いものだと思う。

 

 俺がこのトレセンに来てから3年弱、そしてホシノウィルムの担当になって2年。

 時は瞬く間に過ぎて行き、俺はこうして、3度目のトレセン学園入学式に参加することができた。

 

 見回せば、並んでパイプ椅子に座り、新たな生活に心を躍らせる新入生たちが目に入る。

 巨大なトレセン学園の体育館、それを2階まで埋め尽くす、600人という数の新たな生徒たち。

 

「…………」

 

 正直に言うと、去年までは、そんな彼女たちを見るのが、少しだけ辛かった。

 

 トゥインクルシリーズで活躍できるウマ娘は、ほんの一握りだ。

 1人の勝者と17人の敗者を決める、公式レース。

 遠い昔に聞いた父の『勝者の一滴の汗と、敗者の海の如き涙。それを受けて輝くのがトゥインクルシリーズだ』という言葉通り、彼女たちの大半は……95%近くは、敗者の側に回ることになる。

 

 そして、その内の何割かは……心を折られ、競走ウマ娘として、死ぬ。

 それを考えるだけで、胸が軋むような痛みに襲われた。

 トゥインクルシリーズの厳しさを、この世界の残酷さを痛感するようで、辛かったんだ。

 

 

 

 けれど、何故か……今年はそれを、そこまで苦しく感じなかった。

 

 その理由を考えて……ふと、あの有記念を走ったダイサンゲンのことを思い出す。

 

 前髪を上げた姿が印象的な、負けん気の強いウマ娘。

 

 彼女は、ネームドウマ娘ではない。少なくとも、前世で俺がやっていた頃にアプリに実装されてはいなかったはずだ。

 更に言えば、1か月前の事前調査では、その能力も極めて高いとは読み取れなかった。

 調子は良さそうだったが、それでもこの有記念ではまず大敗を避けられないだろうと……それが、俺の予測だったんだ。

 

 ……が。

 彼女が有記念で勝ち取った順位は、5着。

 サイレンススズカにハッピーミーク、セイウンスカイやトウカイテイオーといった超一流の優駿たちを超えて、掲示板に載るところにまで駆け上がった。

 

 勝利できたわけではない。

 彼女の上にはなお4人のウマ娘がいた。勝者か敗者かで言えば、ダイサンゲンは敗者側に転んだ。

 だが……同時に、信じがたい程の好成績を収めたことに、変わりはない。

 

 つまるところ、それが何を意味しているかと言えば……。

 この世界では、ネームドだから活躍するわけでもなければ、高い素質があるから良い成績を収めるわけでもない。

 彼女たち自身の努力、必死の抵抗、懸命な尽力……そして良きライバルと、共に歩むトレーナーとの絆が、ウマ娘を勝利へと導くんだろう。

 

 だから……この体育館に詰めかけた600人という新入生たち。

 彼女たちも、誰もがチャンスの芽を持っているんだ。

 無事に萌芽するかどうかは……恐らく、彼女たちの巡り会いと努力によるのだろうが……。

 

 

 

 それでも、誰もが少なからずチャンスを持っているというのは……。

 俺にとっては、決して小さくない希望だった。

 

 

 

 この世界には、持つ者と持たない者がいる。

 俺が才能を持たず生まれたように、彼女たちの間に覆しがたい素質の差があるように……あるいは、環境に呪われ、まともに生きることさえも叶わない者さえいるように……。

 生まれの差は絶対的で、覆しようがないものだ。

 それが、前世の『俺』の人生を総括した結論だった。

 

 ……けれど、それでも。

 彼女たちは皆、チャンスを持っている。

 

 あるいは、俺が才能などなくとも、努力でなんとかトレーナーとしてやっていけているように……。

 彼女たちの中にも、きっと、その希望を芽吹かせる子が出て来るだろう。

 

 だから……なのかな。

 俺はそこまで悲観的になることもなく、むしろ前向きな気持ちで彼女たちを眺めていた。

 

 

 

 ……そして、今日の入学式が特別な理由は、それだけじゃない。

 

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。在校生代表挨拶を任されました、ホシノウィルムと申します」

 

 壇上から聞こえてくるのは、俺の最初の担当ウマ娘の声。

 

 無敗の三冠ウマ娘、ホシノウィルム。

 彼女は今、偉大なる先達として、新入生たちへの挨拶を任されているのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 事の発端は数日前、ルドルフによって生徒会室に呼び出された時。

 いくつかのやり取りをした後、彼女はウィルに入学式での挨拶を依頼してきた。

 

 ウィルは多少悩む様子を見せたが……。

 次いでルドルフに示された「もし受けてくれるなら、今度模擬レースを受けよう」という言葉に、一瞬で釣られてしまった。

 

 

 

 ……まぁ、気持ちはわかるよ。

 シンボリルドルフと模擬レースができる機会は、貴重だ。

 殊に、トゥインクルシリーズに参加しているウマ娘が行える機会は、本当に稀だと言えるだろう。

 

 その理由は……残酷なことだが、単純な走力の差だ。

 

 シンボリルドルフは、強い。それこそ「最強」という言葉が似合うくらいに。

 ドリームトロフィーリーグまで含めても、中長距離でならおおよそ敵なし、常に彼女に勝てる者など存在しないだろう。……残念ながら、ホシノウィルムを含めてもなお、だ。

 

 だからこそ、トゥインクルシリーズのウマ娘相手では、シンボリルドルフにとっては練習にもならない。

 競り合いもなく、ただ当然のように走り、当然のように勝つ、ただの独走にしかならない。

 

 それこそ何かのイベントでもない限り、模擬レースをするメリットがないんだ。

 

 そんなことを頼めるのは彼女にコネや個人的な親交のある者だけであり……。

 残念ながら、新人である俺はそんなものを持ってはいなかった。

 ……まぁ、テイオーのトレーナーに頼めば、マッチを組んでくれるかもしれないが……あの老獪なトレーナーに大きな借りを作るのは、ちょっとばかり怖いんだよね。

 

 だからこそ、シンボリルドルフに対して、トゥインクルシリーズに属するウィルが模擬レースを挑める機会は……恐らく、他にはない。

 ルドルフもその価値を理解した上で、交渉材料として持って来たわけで……。

 

 この部屋に入った時点で、ウィルがこの依頼を受けることはほぼほぼ決定していた、と言っていいだろうな。

 

 幸いなことに、ウィルはこの仕事に抵抗感がなさそうだった。

 ああ見えて心優しい彼女のことだ、あんな交渉材料なんてなくとも、頭の1つでも下げれば頷いていただろうしね。

 

 もしも嫌そうだったら、多少のゴリ押しも辞さないつもりだったけど……ルドルフ相手に手札を切るハメにならなくてよかったよ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、そんなわけで、在校生代表挨拶を請け負ったホシノウィルム。

 壇上に立つ彼女は、新入生たちの熱のこもった視線を受け、再び口を開く。

 

「私たちは、皆さんを歓迎します。

 この日本最大のトレセン学園にて、皆さんはトゥインクルシリーズに参加し、走り、競い、そして勝利を目指すことになります。

 公式レース、重賞レース、G1レース、グランプリや天皇賞にシニア三冠、そして……クラシック三冠。目指すべき高みは、それぞれ違うでしょう。

 自らの望んだ戦場で、どうか存分にその脚を振るい、我こそはと名乗りを上げてください。私たちは、皆さんと走れることを楽しみに待っています」

 

 マイクを通して体育館に凛とした声が響く。

 それを発した主は、落ち着いた微笑と共に新入生たちを見渡していた。

 

 ……これは、すごいな。

 ここまで風格を出したりできるんだね、ウィル。

 

 壇上に立つ彼女からは、1人のウマ娘というよりは、遥か先を行く先達という印象を受ける。

 表情、所作、声の調子。それら全ての要素が彼女を、それこそシンボリルドルフに並ぶくらいのカリスマのあるウマ娘に仕立て上げているんだ。

 

 いやはや、恐ろしい。

 ルドルフのようにこれが素ってわけでもなく、コントロールして作っている仮面だと言うんだからな。

 

 

 

 ホシノウィルムは、仮面を被るのが上手い。

 最近は割と素の部分が見え隠れするから忘れそうになるけども、これは出会った時から変わらない彼女の特徴の1つだ。

 

 自分の感情を隠し、偽り、全く違う色を見せる。

 それが、辛い境遇を持つ彼女がここまで生きて来るための処世術だったんだろう。

 

 この半年くらい、明確に感情を見せてくれるようになったのは……単純に、俺やブルボン、昌を信頼してくれている証だろう。

 彼女は今、俺たちのことを「わざわざ演技をするまでもない、一緒にいても違和感のない存在」と認識してくれてているんだと思う。

 

 ……更に言えば、昌やブルボンの前では、素に近くはあれど、完全に素の部分を見せているってわけでもないらしい。

 

 思い上がりでなければ、彼女は俺にだけ、本当の素の部分を見せてくれている。

 ああ見えて甘えたがりで、けれど自分からは甘えに行けない、器用なのに不器用な……歳相応の、女の子らしいところを。

 

 2年という決して短くない時間、俺たちは共に歩んで来た。

 色んなことがあったし、俺は彼女にたくさん迷惑をかけ、助られて……そして助けて来た。

 彼女が素顔を見せてくれるのは、共にした時間と築かれた信頼の結晶なのかもしれない。

 

 そう考えると……うん、すごく嬉しい。

 これからも、その信頼感に応えたいな。

 

 ……と、ちょっと話が逸れたか。

 そんなわけで、彼女は俺たちの前では割と素を晒すことも多くなったが……だからと言って、仮面を被ることをやめたわけではない。

 後輩の前では相変わらず良い先輩をしているみたいだし、ネイチャやテイオーには多少カッコ付けてるらしいし、昌の前では少し澄まし気味に見えた。

 

 そうするのは、別に悪意があるとかじゃなく……。

 人によって自分の見せる色を変えるのが、彼女にとっては普通の生き方なんだろうな。

 

 そして今日の彼女は……あるいはあの日のルドルフを参考にしているのか、在校生代表らしく、威厳溢れる強者の仮面を被っていたわけだ。

 

 

 

 ……しかし、その威厳のある姿は長続きしなかった。

 いや、正確には「長続きさせなかった」と言うべきだろうけど。

 

「……と、真面目な挨拶はここまでにしましょうか。新入生の皆も、あまりお堅い話ばかりじゃ詰まらないでしょう」

 

 そう言って、彼女は形の良い、綺麗な笑顔を浮かべる。

 強者の気配は霧散し、そこにいるのは……普通の、小柄なウマ娘だ。

 

「私のことを知っている方は、私のことをすごく特別なウマ娘だと思っているかもしれませんね。

 憧れを壊すようで申し訳ないのですが、そんなことはありません。私も皆さんと同じ、色んなことに悩んだりする、ただ2年先に入学しただけのウマ娘です」

 

 ……いや、そこは若干口を挟みたくはあるが。

 

 ホシノウィルムは、その素質という側面においては、他に類を見ない程のものだった。

 「アプリ転生」による分析では、芝、逃げ、長距離の適性がSであり、ステータスも極めて高く……これは素質とは別方向かもしれないが、コンディションだっていくつも特殊なものを有していたんだから。

 

 ハッキリ言ってしまえば、彼女は勝つべくして勝ったと言っていいだろう。

 圧倒的な素質を以て、まさしくトゥインクルシリーズを荒らしに荒らしたんだ。

 

 トレーナーである俺にできたのは……その際に事故がないよう、そしてトレーニングに無駄が生じないように、彼女を管理することくらいだった。

 いやまぁ、それこそがトレーナーの仕事ではあるんだが……。

 

 ……あぁでも、そうだな、彼女の全てが特別ってわけでもないか。

 フィジカルはともかくとして、彼女のメンタルはあくまで一般的な……いや、一般的と言うよりは少しばかり大人びているような気もするが、それでもあくまで誤差の範疇に収まる程度の、普通のものだ。

 

 そういう意味で彼女は、フィジカルもメンタルも超越気味であるシンボリルドルフのような特別なウマ娘ではない、と言えるだろうか。

 

 …………いやでも、やっぱりあの子が「普通のウマ娘」とは思い難いな。

 普通のウマ娘であれば、ここまで惹き付けられるとは思えないし。

 

「そんな普通の私が勝つことができたんですから、皆さんにも必ず、チャンスはあります。

 自分に合うトレーナーを選び、自分に合う走り方を見つければ、誰もがこの世界で輝く可能性を秘めている。これは素晴らしいことだと思います」

 

 それは、綺麗事のように聞こえるが……。

 ……ネイチャやダイサンゲンを見ていると、あながち嘘とも思えなくなる言葉だった。

 

 思えば、前世アプリでもそうだったな。

 ウマ娘は、その閉ざされた運命を軽快に超えていくものだ。限界だとか常識だとかいう言葉は、この不思議な生物の前には何の意味も成さない。

 

 だからこそ、今年の新入生たちの中からも、そういった子が出て来る可能性は十分にあるだろう。

 

「きっとこの先、皆さんには多くの苦難が降りかかるでしょう。走ること、勝つことを諦めたくなる程辛いこともあるかもしれません。

 それでも……多くの願いを背負い、全力で走り、そこでもたらされる結果を信じて、走ってほしい。

 そうしていつか、私と、これ以上なく楽しいレースをしましょう!」

 

 ……いや、そこか。そこがオチでいいのかホシノウィルム。

 着地点としては綺麗だけど、結局それ「楽しいレースしたいから皆頑張って私に追いついてねー!」っていう我欲100%の言葉じゃないか。

 

 まさか無敗の三冠ウマ娘がそんな我欲を表に出すことはないだろうっていう色眼鏡さえあれば、冗談交じりの新入生たちへの激励のように聞こえるだろうけど……。

 周りの感心するような視線を向けているトレーナー陣の中で、俺と昌だけが真相を察し、彼女の奔放っぷりに苦笑を浮かべる。

 

 ……やっぱり、彼女は生徒会長には向かないだろうな。

 堅苦しい役職に縛り付けて、彼女の願いを奪うのは本意じゃない。

 ルドルフには悪いが、彼女にはもうしばらく、生徒会室で頑張っていてもらおう。

 

「以上で、在校生代表挨拶を終わります。ご清聴ありがとうございました」

 

 

 

 * * *

 

 

 

「トレーナー! どうでした、私の挨拶?」

 

 体育館を出てすぐ、下駄箱の脇で。

 入学式が終わるや否や俺の下にすっ飛んできたホシノウィルムは、喜色満面の笑顔で訊いて来た。

 

 良かったか悪かったかを評価するとすれば……まぁ、「良かった」になるだろうな。

 演説っていうのは中身はどうあれ、聞こえさえ良ければ合格だ。そういう意味において、ホシノウィルムの挨拶は、多少幼稚なところはあれど十分に優れたものだったと言えるだろう。

 

「良かったぞ。……最後に自分の欲求を詰め込んだところはどうかとも思ったが」

「う、いやアレは、それくらいフランクな方が、先に挨拶してたルドルフ会長と対比になるかなーと……」

「その判断は正しい。だからこそ、先程も言ったが君の演説は良かった。……俺と昌は、苦笑を抑えるのに苦労したがな」

「あー……」

 

 ウィルは苦笑いを浮かべ、ほんの少しだけだが、落ち込んだ様子を見せた。

 しまった、ちょっと責めすぎたかな。一応言っておきたい程度のものだったんだが……うん、良かったところはきちんと褒めなきゃ駄目だな。

 

「……いや、悪い、少し意地悪を言った。君は十分によくやったと思うよ。お疲れ様、ホシノウィルム」

 

 そう言って俺が彼女の頭を軽く撫でると……。

 ウィルは、にへらと顔を歪め、ピースサインを作った。

 

「へへ……はい、頑張りました。ぶい」

 

 ……うん、そう。

 やっぱり、この笑顔だ。

 

 壇上でウィルが敢えて作ったような、綺麗な笑顔じゃなくて……彼女が自然に浮かべた時の、ちょっとばかり形が良いとは言い難い表情。

 こっちの方が彼女らしくて……一般的にはどうあれ、俺としては好ましく思う。

 惜しむらくは、おおよそ世間様には公開できないであろう表情だってこと……。

 

 …………?

 

 あれ、惜しむらく、だよね?

 世間に彼女の魅力を届けられないことは、残念なことのはずだよね?

 

 なんで俺、それを……ちょっと嬉しいと思ってるんだ?

 

 

 

 と、その時。

 

「ホシノウィルム先輩! ……と、先輩のトレーナーさん!?」

 

 体育館の方から、数人のウマ娘が出て来る。

 ……まだ真新しい制服と、浮ついた雰囲気からして、今年の新入生の子たちか。

 

 彼女たちはホシノウィルムというスターウマ娘を前にしてきゃいきゃいと初々しく騒ぎ、すぐさま彼女と……ついでに俺のことも取り囲んでしまった。

 

「わ、わ、本当にホシノウィルム先輩だ! 本物だよ!」

「あっ、あのっ! 私、皐月賞の時から応援しててっ!」

「え、ホントにちっちゃい……! 私より!」

 

 そんな後輩の黄色い声に、ウィルはすぐさま表情を切り替え、「あはは、ありがとう。皆もこれから頑張ってね、応援してるよ」と慣れた対応を見せている。

 

 ……で、そんな一方で。

 彼女たちは、俺にも声をかけてきた。

 

「ミホノブルボン先輩が三冠獲れば二連続で担当が三冠ですよね!? すごいです!」

「すみません、よければ私と契約してもらえませんかっ!? 私、結構走れるんですよ!」

「写真では見てたけど、やっぱりイケメンだ……!」

 

 ……おぉ。

 いや、こう、なんというか……ビックリするな。

 

 ホシノウィルムがスターとしてもてはやされるのは、当然の話だ。

 何せ彼女は今を時めく五冠ウマ娘。その走りだけでも、日本中のファンを惹きつけてやまない。

 

 更に、初期こそ冷たい雰囲気があったものの、今の彼女はファンサもエンタメも真面目もなんでもござれで、アイドルとしての魅力も十分以上に備えている。

 その上、この前読んだ雑誌に載ってたけど、親しい後輩などの身内には優しいっていう噂も立っているらしいからな。

 後輩になる新入生たちに囲まれるのは、至極道理というものだろう。

 

 ……が。

 まさかそこに、俺まで巻き込まれるとは。

 

 確かに、界隈の中で俺の評価が上がっているのは確認できていた。

 たとえその実情がホシノウィルムの素質によるものだとしても、俺が初の担当ウマ娘を三冠へ導いたトレーナーであるという事実は変わらない。

 わかりやすいシンボルをもてはやすように、俺は過分な評価を賜っていたわけだ。

 

 勿論、世間的に見ればレースの花形はウマ娘だ。

 けれど、新入生たちにとって大事なのは、走る先輩ウマ娘以上に、その契約トレーナー。

 故に、新入生の彼女たちは、そういった界隈の中で流れている評価や噂も集めているのかもな。

 

 ……思えば、俺が契約した2人って、あのホシノウィルムとあのミホノブルボンだったからな。ちょっとばかり一般的な新入生とは言い辛い2人だ。

 更に、ウィルは夜中に偶然に出会って契約したんだし、ブルボンはスカウトの時期がだいぶ過ぎてからの逆スカウトだった。

 案外、こういう風に逆スカウトをかけてくるのが、普通のウマ娘だったりするのかもしれないね。

 

 

 

 

 ……とはいえ、その逆スカウトを受け入れるわけにはいかないのが、ちょっと申し訳ないところだが。

 

「悪いが、今年は新しく担当を増やす予定はないんだ。なにせ、俺はまだまだ新人だからな」

 

 逆スカウトしてくれた子にそう言ってお断りし、俺はウィルに目配せする。

 

 入学式も終わったみたいだし、これ以上ここにいれば他の新入生たちが来てしまいかねない。

 トレセン学園には、過度に他のウマ娘を囲むのはマナー違反だっていう暗黙の了解があるんだけど、新入生たちがそういうことを知っているわけもないし……。

 ここは早々に離脱するのが得策だろう。

 

 ウィルの方も既に、適度に新入生の子たちを受け流して離脱の姿勢を作っている。

 ……よし、逃げるか。

 

「それでは、すまないが俺たちはこの辺りで」

「あっ、その! 契約……!」

 

 まだ粘ろうとしてた子には本当に悪いけど、ウィルとブルボンの2人以上に担当するのは、現状物理的に不可能だ。

 今はサブトレとして昌もいるし、あと1年くらいあれば増やすのも現実的になるかもしれないけど……今年ばかりは縁がなかったとして諦めてもらおう。

 

 

 

 追いかけて来る新入生たちを避けるため、取り敢えずトレーナー室に逃げ込み、ウィルと2人して疲労のため息を吐く。

 

「……ふぅ、思いの外しつこかったな」

「まぁ、有名人と知り合いになりたいって想いもあるでしょうし……何より、良いトレーナーに付いてもらえば一安心でしょうからね。

 その点で言えば、歩さん以上のトレーナーはそうそういないでしょうし」

「そうかなぁ……他にもたくさんいると思うが」

「本気で言ってそうなのが歩さんらしいですよ。初めて担当したウマ娘に三冠を獲らせたなんて空前絶後でしょう?」

「それは君だからだし」

「それは、つ、つまり私たち……その、相性抜群? みたいな感じ? ってことですかね?」

「いや君の素質がとんでもないって話だよ。……いや、そうむくれるな。相性も良いと思ってるよ」

 

 一瞬本気で怒りの表情を見せたウィルだが、続く俺の言葉にころっと笑顔に変わった。

 

 

 

 実際、俺たちの相性は悪くないと思う。群を抜いて良いというわけではないかもしれないが、少なくとも平均よりはずっと。

 そうでなければ、ここまでの間に関係が拗れるようなこともあっただろう。

 ……いや、ダービーの後に拗れそうになったような気がしなくもないが……その後無事に関係を修復できたので良しとする。

 

 ウィルはあれから、何度も「自分のトレーナーはあなただけ」って嬉しいことを言ってくれるし……。

 ……ブルボンには悪いが、正直、俺の中にも「担当ウマ娘と言えばホシノウィルム」という意識がある。

 トレーナーとして適切なのかは今の俺にはわからないが、親密な関係を築けているのは間違いない。

 

 そういう意味で、俺たちの人格的な相性は良いんだろう。

 隣にいても不快に思うことはないし……むしろ、心地良いとさえ思うんだから。

 

 

 

「……君が初の担当ウマ娘で良かったな」

「え、あ、え? と、突然何ですか」

「いや……この2年間、君にずっと支えられてきたと思ってな。

 あるいは、俺の初の担当ウマ娘が君でなかったら、ここまで来られなかったかもしれないと思う程に」

 

 ……そう。

 俺は、ホシノウィルムを特別視している。

 

 あの宝塚記念で……いや、あるいはもっと前から。

 俺はいつしか、彼女の走りを、そして彼女のことを、好きになっていた。

 

 この子のためだから、頑張れる。

 多少の無茶も、無理も呑み込んで、頑張るべきだと……いや、頑張りたいと思える。

 

 そういう意味でも、俺は彼女に支えられっぱなしだ。

 この恩、少しでも返していければいいが。

 

「改めて、これまで一緒にいてくれてありがとう、ホシノウィルム」

「ちょっと、それはっ……ん、ん」

 

 顔を赤くして何かを言おうとしたウィルは、一度咳ばらいをした後、ソファに腰かけながら呟いた。

 

「それは、こっちの台詞です。私の方がずっとトレーナーに支えられてきたんですから。

 さっきだって、新入生の子に歩さんが取られちゃうんじゃないかって、ちょっとだけハラハラしたくらいなんですから。

 ……こちらこそ、今までありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします」

 

 気恥ずかしそうにしながら、それでも俺の目をしっかりと見つめてくる彼女に……。

 

 俺は、ポツリと呟いた。

 

「ハラハラしてたのか」

「そこですか!? 今結構真面目なシーンでしたよ!? いやハラハラしてたのは……事実ですけども……そうじゃなくて! そうじゃなくてぇっ!!」

 

 

 







 改めてよろしくなんてなんぼあってもいいですからね。

 次回ですが、本編は既に終わったし、別に読まなくてもいい(本編に一切合切関係がない)掲示板回やってみようかなと思ってます。苦手な人は読み飛ばしていただいて大丈夫です。
 ただ作者が掲示板形式とか書いたことないので、若干時間がかかるかもしれません。その時は申し訳ない。



 次回は3、4日後。おまけの別視点、掲示板形式。



(追記)
 誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!
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