転生チートトレーナーvs転生チートウマ娘   作:アリマリア

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 最近各話のプロットを考える時間よりタイトルを考える時間が長くなりつつあります。これが本末転倒か……。





マックイーンの スキルの しょうたいが つかめない!

 

 

 

「今年も、この時期が来ましたね」

 

 京都レース場の綺麗に整えられた芝を見下ろしながら、俺の横にいるホシノウィルムは、あたかも万感の想いが籠っているかのような声でそう言った。

 

 最近の彼女は、威厳が出て来たと思う。

 ……いや、威厳と言うと、少し違うかな。

 何と言うべきか、こう……確かな実力と高い自信が噛み合った、強者特有の雰囲気を醸し出すようになってきた、という表現が近いかもしれない。

 

 仮面を被るのが上手い彼女は、昔からインタビューなどではそういう風を装うことは多かった。

 けれど最近は、それが素顔と溶け合ってきたというか……いや、素顔がそちらに近付いてきた、と言うのが正しいだろうか。

 

 毎日のトレーニング、彼女の大好きな自主トレ、やる気はなさそうだが真面目に聞いてくれる座学。

 そして皐月賞、日本ダービー、宝塚記念、菊花賞、ジャパンカップ、有記念……。

 それら、積み重ねて来た研鑽と体験してきた激戦が、彼女に戦士としての威風を付与しているんだろう。

 

 ……まぁ、その風格の全てが本物かと言えば、そうでもないんだが……それはともかく。

 

 今日の彼女はそういう強者としての雰囲気を醸し出しながらレース場を眺めており……。

 それに呼応するように、昌とブルボンは少し張り詰めた様子で言葉を繋いだ。

 

「URAファイナルズ……同期の中での最強を決める、誰もがチャンスを持つレースの日」

「その予選ですね」

 

 そう。

 

 時は1月下旬。

 もはや毎年の恒例行事となりつつある、URAファイナルズの開催時期である。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 新年1月から行われる、本格化も終わりつつあるウマ娘たちによる死闘、URAファイナルズ。

 

 実のところこのレース、歴史自体はそこまで長いわけでもない。むしろ極めて短いと言っていいだろう。

 創設されたのは実に2年前、中央トレセンの実質的なオーナーである秋川理事長自らにより発起されたものだ。

 

 その趣旨は、あらゆる距離、あらゆるバ場を網羅した、トゥインクルシリーズに登録された全てのウマ娘がチャンスを有するレース。

 あの理事長らしい、ウマ娘たちのことを思いやったアイデアだと思う。

 

 ……とはいえ、「全てのウマ娘にチャンスが与えられる」というのは、つまりは「全てのウマ娘が出走できる権利を持つ」ということでもある。

 これまでにない、100人単位の規模の大レース。一時期は俺の父ですら実現すら不可能なのではないかと漏らしていた程だったが……。

 秋川理事長の尽力と私財の投入により、これは現実のものとなった。

 

 予選の出走条件はシニア2年目であることのみで、重賞レースのようにファンやその子の格によって出走登録が制限されることもなく、望む子は全員が希望したレースに出走可能となっている。

 そこからは上位3人のウマ娘が、準決勝、そして決勝への出走権を獲得し、次の段階へと歩みを進める、というわけだ。

 

 前世アプリでは1着以外は次のレースに進めなかったし、この辺はちょっと変わってるな。まぁトライアルとかステップレースなどでの優先出走権を考えると、1着の子しか進めないってのはちょっと残酷すぎる気もする。

 更に言えば、決勝こそ18人立てになるけど、予選や準決勝は6から9人立てのレースになるし、人数が少ない部門だと予選がない場合もある。その辺も前世と違うところだね。

 

 割と差があるけど……まぁアプリでのURAファイナルズではいないはずの子が平然と出走してたりもするし、ゲーム的な部分を現実的に直すとなると、誤差が出てしまうんだろうな。

 

 ……というか、結局この世界ってアプリが基になってるんだろうか? あるいはこの世界がアプリの基になってる? あるいはただ似てるだけなのか?

 結局、その辺は全然わかんないままなんだよなぁ……。

 まぁ、考えても仕方がないのかもしれないけども。

 

 

 

 さて、話を戻してURAファイナルズ。

 

 300人以上のウマ娘たちが、それぞれの得意距離、得意バ場に分かれ、予選、準決勝、そして決勝の3回に渡って激闘を繰り広げるこのレース。

 プレオープンやオープン級のウマ娘にとっては、重賞級を打ち倒す下剋上のチャンスであり……。

 重賞級のウマ娘たちにとっては、G1級ウマ娘に挑む貴重な機会であり。

 そして同時、G1級ウマ娘たちにとっては、世代の唯一無二の頂点を決める最強決定戦でもある。

 

 そう、このレースの出走条件は「シニア2年目」であること。

 このレースは久々の、同世代間での戦いなのだ。

 

 基本的に、トゥインクルシリーズでG1級のウマ娘が世代間で争うのは、クラシック級の秋まで……つまり、クラシックレースやティアラレースまでだ。

 そこから先は天皇賞やグランプリを筆頭とするシニア級混合のG1レースが一般的になるからね。

 

 しかし、果たしてこれらのレースを世代の最強決定戦としていいかは……ちょっと微妙なところだ。

 

 皐月賞が「もっとも成長が早いウマ娘が勝つレース」とも言われている通り、これらのクラシック級のレースは早熟なウマ娘程有利になりやすい。

 それは逆に言えば、晩成型のウマ娘は不利であることも意味している。

 去年で言えばツインターボなんかはその典型例で、本格化が遅れに遅れた結果、彼女はクラシックレースへの参加ができなかった。

 

 勿論、早熟さもまたウマ娘の素養であるのは間違いないが……せっかくなら晩成の子も含めた、本当の最強決定戦が見たいという意見があったのもまた事実。

 そんな時に始まったこのURAファイナルズ、晩成の子はまだ本格化を終えてはいないとはいえ、クラシックレースよりも差が埋まっているのは間違いない。

 

 そういった理由で、URAファイナルズの3つのレースは、クラシックレースやティアラに次ぐ第三の世代最強決定戦として認識され、あの有記念と並ぶくらいに絶大な人気を誇っているのだった。 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 勿論、トゥインクルシリーズの担当ウマ娘を抱える俺としても、これは全く以て他人事ではない。

 来年にはウィルが、そして再来年にはブルボンが、高確率でこれに出走することになるわけで、今年も何か参考にならないかと陣営全員で観戦しに来たわけだが……。

 

 ……とはいえ、だ。

 まるでこの時をずっと待ち望んでいたかのようなウィルの言い方には、苦笑の1つも漏らしたくなるというものだよね。

 

「ウィル、君、去年は全く興味なさそうだっただろうに」

「え、いや、それはっ……!」

 

 恥ずかしそうに取り繕おうとするウィルの横で、もう1人の担当ウマ娘とサブトレーナーは首を傾げる。

 

「想定外の反応に、ステータス『驚愕』を検知。先輩が、レースに興味がないと……?」

「私も少し意外。ホシノウィルムさん、レースの観戦も好きそうな印象だったけど」

 

 あぁそうか、そういう反応にもなるよな。この2人は、あの頃のウィルを知らないから……。

 

 

 

 かつてのホシノウィルムは、レースを楽しむことを……彼女の言い方で表すと、熱を感じることを知らなかった。

 ただ義務的に……もっと言えば「負けてはいけない」っていう強迫観念に駆られて走り続けていただけだったんだ。

 

 俺は当時の指針に基づいて、彼女に走りを楽しんでもらうべく色々と試行錯誤していたわけだが……。

 彼女がそれを楽しめるようになるきっかけ、その最も大きな転機になったのは、恐らくはあの時。

 去年2月の、ネイチャとテイオーとの模擬レースだろう。

 

 ……今考えると、アレはなかなかに因果な組み合わせだったなぁ。

 ウィルが属する星の世代、その三星と言われる、世代の頂点での模擬レース。

 当時もかなりの注目を集めたけど、もしも今行えば、とんでもない観客が付きそうだ。……いや、やるなら公式レースでやれって言われるのがオチだな。会場がパンクする。

 

 ウィルはあの模擬レース以降、明確にレースへのモチベーションを上げた。

 というか、当時はそりゃあもうネイチャネイチャ模擬レース模擬レースと言ってきたものだ。

 ……いや、あれはあれで、なんというか、子供っぽい年相応さが可愛らしかったし、それで彼女との距離もだいぶ縮んだから良かったんだけども。

 

 とにかく、ウィルがレースに対して前向きになったのは……もっと言えばレース自体に興味を持ち始めたのは、クラシック級の2月から。

 彼女がブルボンと知り合ったのは4月らしいし、昌に至っては10月末だ。

 あの凍てついた目で、まさしく命懸けで走るウィルを、知ってるわけがないか。

 

 

 

「この子も、元からレースジャンキーだったわけじゃないってことだよ。出会った頃のウィルは……」

 

 俺がそう言って、昔話に花を咲かせようとしたところで……。

 

「わーっ! ちょ、ちょちょちょっと、何言おうとしてるんですか歩さん! そういうの勝手に言っちゃ駄目ですって!」

 

 横から、少しだけ顔を赤くしたウィルが止めに来た。

 

「え、駄目なのか」

「そうですよ! 人の黒歴史を軽率に掘り起こさないでください!」

 

 え、黒歴史……黒歴史なのかアレ。

 いやまぁ、確かにあの頃のウィルはちょっと当たりが強かったというか、ちょっとアレなところはあったけど……黒歴史って程かなぁ。

 

 今のウィルは勿論、あの頃のウィルも、少し視野狭窄なところがあったとはいえ、悪い子ではなかった。俺個人としても好感が持てる子だったと思うんだが……。

 いや、これは相手がウィルということで、贔屓目に見てしまっているだけだろうか。最近はどうにもウィルを特別視してしまいがちだからなぁ……。

 

 まぁ、昔の自分が色々アレすぎて、思い出すと枕に顔をうずめたくなる気持ちはわかる。

 俺もかつての失敗を思い出しては枕を濡らした夜もあったし……いや、あったかそんな夜? なんかあんまり思い出せないけれども。

 

「では、その辺りはあまり触れないとして。

 とにかく、君だってきちんとURAファイナルズを見るのは初めてだろう。去年は『もう帰ってトレーニングしません?』なんて言ってたんだし」

「触れてますけど!? ちょっと言っちゃってるんですけど!? 

 ……確かに、ちゃんと見るのは初めてかもしれないですけど、いいじゃないですか、少しくらい浸らせてくれても」

 

 そう言って、ウィルはぷくっと、わざとらしく頬を膨らませてしまった。

 

「悪かったよ、そう拗ねるな」

「もーっ」

 

 可愛らしく脇腹を軽く殴って来るウィルに、思わず笑みを漏らす。

 担当ウマ娘に対して言うべきではないかもしれないが……本当に可愛らしい子だ。大人びているかと思えば、こういう子供らしい一面もある。

 いわゆるギャップ萌えってヤツか? ……萌えって言葉も今日日聞かないな。

 

 ……と、そんなやり取りをしていると、ふと昌が何とも言えない視線を向けてきていることに気付いた。

 

「ん? 何、昌」

「……別に。ただ爆発しろって思ってただけ」

「爆発……?」

 

 おぉ……昌に罵倒されることは慣れてるけど、「爆発しろ」か……。

 初めて聞いた、斬新な罵倒だ。ウィルやブルボンたちの走りと同じように、昌の語彙力もまた、日進月歩の進化を続けているらしい。

 俺も見習って、精進しないとな。いや罵倒の語彙力を上げるつもりはないけども。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、そうして暫く待つ内に、いよいよレースが始まる直前になった。

 

 URAファイナルズを制するために勝つ必要があるレースは3つ。同レースの予選、準決勝、決勝だ。

 これらは出走ウマ娘たちの負担を考慮して1か月ずつスパンが空き、1月下旬、2月下旬、そして3月下旬に行われる。

 

 1月下旬である今は、ちょうどいくつかの予選レースが開催される時期。

 その内でも今回見に来たのは、京都レース場で行われる、芝の3000メートル、長距離レースだ。

 

 スタミナと根性が強く響くこのレース、ここで上位3着を取った子たちは、URAファイナルズ制覇のための次のステップである、2月下旬の準決勝への出走権を手に入れるわけだ。

 勿論、ウマ娘の彼女たちが「まぁ3着以内を取れればいいや」なんて結論になるわけもなく、誰もが1着を目指して走ることになるだろう。

 

 ……とはいえ、今回見に来たのは、誰が勝つかはほとんど確定しているようなレースなんだが。

 

 

 

 眼下で、ターフに上がっていくウマ娘。

 その中でも一際威圧感を持った、芦毛のウマ娘がいる。

 

 彼女以外の全員がトレセン公式の体操服を着ているのに対して、ただ1人黒を基調としたシックな勝負服に身を包み、我が道を行くように堂々と歩みを進める彼女は……。

 

 

 

『さぁ本日の主役がターフの上に現れました!

 多くのファンの期待を背負う一番人気、今日も余裕の表情を見せるターフの名優、菊花賞ウマ娘のメジロマックイーン!!』

 

 

 

 そう。

 今日の芝長距離の予選は、メジロマックイーンが出走する。

 

 勿論、偶然このレースに当たったわけではない。

 URAファイナルズを観戦に行こうと言った際、ウィルが「せっかくならマックイーンさんのレース見に行きましょうよ。天皇賞じゃ多分ぶつかることになるんですし」って言い出したんだ。

 

 俺としても、春にウィルとぶつかる……そして今年の秋にはブルボンとぶつかることになるかもしれないマックイーンの戦力調査は望むところ。

 仕事詰めに慣れてきつつあった昌も連れ出して、陣営全員で見に来ることになったのだった。

 

 

 

『15戦の内4度の重賞、2度のG1レースを超え、先月の有記念ではスペシャルウィーク、ホシノウィルム、ナイスネイチャに次ぐ4着を刻みました。

 その実力を疑う者はもうどこにもいない、中長距離における最強格の1人です!』

『長く使える脚を持つ、王道の好位抜け出し戦術を取るウマ娘ですね。果たして彼女のハイペースに付いて行ける子はいるのか?』

 

 

 

 ちらっと、昌がこちらを見て来るのがわかった。

 昔、まだ実家にいた頃に、レースの映像を見る際毎回向けて来た目線だ。少し懐かしい。

 何が聞きたいかは予想できるし、先んじて答えておくか。

 

「いや、彼女に勝てる子はいないよ。メジロマックイーンは飛び抜けてる。実際……」

 

 本格化を終えたマックイーンは、正しく優駿と呼んでいいステータスとスキルを備えている。

 

 ちらりと葦毛の彼女の方に目をやると……「アプリ転生」がその実力を数値化した。

 

 

 

 メジロマックイーン

 

 スピード A+ 906

 スタミナ S  1001

 パワー  A  819 

 根性   A  895

 賢さ   B  630

 

 

 

 ……うん、非常に隙がない、素晴らしいステータスだ。彼女のトレーナーもステータスを数値化できる能力でも持ってきてるんじゃないかって思う程に。

 いや、マックイーンのトレーナーはテイオーのトレーナー以上にベテランだし、長年蓄積した経験による実力なんだろうけども。

 

 そのスピードに限ってはスペシャルウィークよりもなお高く、高いスタミナと根性から長距離への適性もあり、先行としては十分なパワーも備えている。

 強いて言えば、賢さが多少低いが……そもそも彼女は自分の走りを押し付けていくタイプ、スカイやネイチャのように高い賢さが必要なわけではないからな。

 

 今の彼女を飾る最強格という言葉には、なんら嘘偽りはないだろう。

 もう少しレース展開が違えば……というか、スカイの誘導にかかって外目に出なければ、あの有記念にさえ勝てていたかもしれない。

 

 ステータスの面においては、まさしく最強格。

 そして同時に……そのスキルもまた一級品と言っていい。

 そのほとんどが長距離・先行に向いたもので、基本的にはバランスよく取得されているが……。

 

 ……困ったことに、その中には俺にも判別の付かないものがあるんだよなぁ。

 

 

 

 スキル

 メジロの心得

 

 

 

 ……アレ、何なんだろうな。

 

 いや、先に言っておくと、このスキルの存在自体はそこまでおかしなものでもないんだ。

 

 この世界には、こういう固有のスキル……固有のスキルって言うと前世アプリの固有スキルと被ってちょっとわかりにくいな。

 便宜上『特殊スキル』とでも呼ぶべきものがあること自体はわかってた。

 

 スペも「はらぺこ大将」とか「夢叶える末脚」とか持ってたし、スズカも「最大集中」とか「異次元の逃亡者」とか持ってた。 

 スカイもいくつか俺の知らないスキルを持っていて、てっきり俺がアプリから離れた後に追加された強いスキルなのかと思っていたが……。

 どうやらこの世界では、強力なウマ娘が独自のスキルを習得することもあるらしい。

 

 恐らくは、汎用的な技術をウマ娘たちが己の独自技術として昇華したものなんじゃないか、という予想はあるんだが……残念ながらそれが正しいのかすらわからない。

 

 とにかく確かなのは、ごく一部の優駿は、特殊なスキルを習得することがあるってことだ。

 

 だから、そういうスキルがあることは特におかしくないんだ。マックイーン程の優駿ともなれば、それを身に付けていることも予想できて然るべきことだった。

 

 しかし、問題は……その名前から内容が測れないってことなんだよなぁ。

 

 はらぺこ大将は、わかる。回復スキルっぽいし、名前の響きからも食いしん坊の上位互換だと予想できる。いやどんな名前だよって思わなくもないけども。

 夢叶える末脚は、末脚の上位互換である全身全霊の更なる上位互換なんじゃないだろうか。末脚だし。どうでもいいけど名前がめちゃくちゃカッコ良くて好き。

 最大集中は、集中って言葉からも、やっぱりコンセントレーションの上位互換だろうな。有記念でウィルがスタートの時点で敗北していたのは、このスキルによるものだろう。

 異次元の逃亡者は、逃亡者の上位互換だな。これを固有スキル……領域の展開と同時に使うからこそ、スズカは圧倒的な実績を持っていたわけで。

 

 

 

 で……。

 

 メジロの心得。

 

 ……これ、何?

 

 メジロの……メジロの心得……? メジロなんて名前の入ったスキルはなかったよな? あったとしたら少なくともマックイーンがスキルとして持ってると思うし。

 うーん、マックイーンが持ってたスキルというと…………心得? あ、ひょっとして先陣の心得か?

 

 前世じゃ逃げウマ娘ばかり育成してた俺だけど、マックイーンは逃げでも使いやすかったから結構育ててた。最初の頃はスタミナを軽視して春天でボコボコにされていたのが懐かしい。

 

 で、そんなマックイーンを逃げとして運用し、頑張って因子周回したのには理由があり……。

 彼女は、スカイと同じスキルを持っていたんだ。

 その名を、先陣の心得。レースが長距離、かつ中盤に3バ身以上の差を付けて先頭だった時に発動する速度アップスキルだ。

 

 ……いやこれ、どう見ても逃げウマ娘用のスキルだよね? 改めて考えると、なんで先行を主眼とするマックイーンが持ってたんだろう。

 まぁ結果として、そのスキルを見て「マックイーンは逃げ運用できるのでは……?」と思って彼女を育て始めたからいいんだけども。

 

 ちなみにこのスキル自体は、少なくとも俺がやっていた頃は、ゲームの仕様上ほとんど発動できない、いわゆる死にスキルだった思い出がある。

 大逃げとかいなかったし、前に出過ぎると何故か減速するみたいな仕様あったからなぁ……。

 

 

 

 しかし……仮にこれが先陣の心得の進化先だったとして、果たしてマックイーンはこれを上手く発動させることができるだろうか?

 そもそもこの世界のマックイーン、逃げたことは殆どない。

 1番手は他のウマ娘に譲り、その子との距離を上手く調整しながら好位に付いて走るのが、この世界における彼女の基本戦術だ。

 

 そうなると、長距離という縛りはともかく、中盤に3バ身もの差を付けて先頭になるなんて展開は起こらないんじゃないだろうか?

 

 ……いや、あるいはアレか? 特殊スキルになったことで、発動条件が緩和されたとか、そういう方向の進化もあり得るのか?

 マックイーンの脚質から考えて、条件が緩和されたとすれば……シンプルに考えれば、中盤に前の方にいる時速度アップとか? 前の方にいる時速度アップだとすれば、確かに有用なスキルだと言えるだろうか。

 

 むぅ……。ジャパンカップの時にはなかったし、あれから身に付けたんだろうが……。

 なかなかどうして、計り切れない変数となると、やはり少しばかり不安を感じてしまうな。

 

 

 

「兄さん?」

「え、うん?」

 

 かけられた昌の言葉で思索の海から帰って来ると、彼女は……というか昌とウィル、それにブルボンも、ちょっと心配そうな目でこちらを見ていた。いや、ブルボンはほぼ無表情のまま、気持ち程度だけども。

 あー、3人に心配かけちゃったか……。ちょっと思考に集中しすぎてたかもしれない。

 

「どうしたの、ぼーっとして」

「あー、うん、ごめん。ちょっと考え事」

「そう。……疲れてるでしょ。今日帰ったらちゃんと寝てよね」

「あぁ、そうだな。今日はもう仕事もないし……いや、帰省とかもあるし、可能ならもう少し前倒ししておきたいけど」

「駄目。睡眠もまともに取れてない状態でやったって効率が悪くなるだけって、痛感してるでしょ?」

「……そうだね。ちゃんと寝ることにする」

 

 何かと小言の多い彼女だけど、ただ当たりが強いだけで、いつも俺の体を心配してくれてるんだよな。

 それに、ウィルやブルボンも、俺のことを心配してくれてるみたいだし……。

 ……うん、ありがたい。俺は家族と担当ウマ娘に恵まれてるね。

 

 彼女たちを安心させるように小さく笑い、俺は改めてレース場の方に向き直る。

 

「……うん、やっぱりメジロマックイーンは強い。このレースの勝者は、間違いなく彼女になるだろう」

「あのマックイーンさんですもんね。この距離、3000メートルなら私以外には勝つに決まってます」

 

 うんうんと頷くウィル。

 

 宝塚記念、ジャパンカップ、有記念と共に走って……特にジャパンカップでの激闘が大きかったからか、彼女のマックイーンへの評価は極めて高い。

 大逃げという破天荒な戦術と、好位抜け出しというこの上ない王道戦術という違いはあれど、どちらも長距離に向いた莫大なスタミナを持つステイヤーだ。

 共感できるところ、尊敬できるところも多いのかもしれないな。

 

 ……いやまぁ、そこで「私以外には」なんて枕言葉を付けてるあたり、相変わらず無自覚な強者故の傲慢が出てしまっているが。

 

 

 

 そんな風に、自慢の先輩を誇るようにドヤ顔を見せていたウィルと対照的に……。

 もう1人の担当ウマ娘であるブルボンは、どこか浮かない顔をしていた。

 いや、浮かないっていうか、相変わらず無表情に近いんだけど……その眉が、いつもよりはほんの少しだけ寄せられている気がした。

 

「……3000メートル、なら……」

 

 ……あぁ、そうか。

 

 京都レース場の3000メートルは、彼女の最終目標であり、同時に最も厳しいと予想される菊花賞と同じ条件。

 ウィルはそれを、適性を思わせるような言葉と共に言ってしまったんだ。

 少しばかり、考え込んでしまうところもあるか。

 

 とはいえ、担当に心配をかけるわけにはいかない。

 その部分を払拭するのも、また俺の仕事だ。

 

「安心しろ。俺がトレーナーとして責任を持って、君が最高の状態で菊花賞に臨めるように調整する。

 それが、君のトレーナーとしての仕事だからな」

「……はい。どうかお導きを、マスター」

 

 ミホノブルボンはその瞳から揺れる光を消し、決意を秘めた視線をこちらに向けて来た。

 

 

 

 ……彼女の夢、クラシック三冠。

 前世史実では惜しくも叶わなかった……適性と掛かり癖、そしてライスシャワーによって阻まれてしまった、奇跡の偉業。

 

 だが、この世界では……ウマ娘である彼女たちには、無限大の可能性がある。

 本来あり得なかったはずのことも起こり得る未来。誰が勝つか、その結果は常に未知数だ。

 

 彼女が唯一抱くことのできた夢……それを達成できるよう、俺なりに全力でサポートしなければな。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 URAファイナルズ、芝・長距離部門予選。

 勝ったのはメジロマックイーン。当然のように大差を付けた圧勝だった。

 

「楽しみになってきましたね、天皇賞。……その前に、テイオーとの大阪杯ですが」

 

 ウィルはそう言って、いつものニヨニヨとしたすごい笑みを浮かべたのだった。

 

 

 







 ウマ娘世界の1月、イベント多すぎでは? 全然時間進まないんですけど?



 次回は3、4日後。ホシノウィルム視点で、2度目の帰省のお話。



(追記)
 誤字報告をいただき、わざとでない部分は訂正させていただきました。ありがとうございました!
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