後ろ姿よ、さようなら   作:こり

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第9話

頬に垂れる鮮血を指先で拭ったカルナは、床に倒れた狂戦士の骸を見つめていた。

 

バーサーカーとは思えない俊敏さと技巧は、本来の彼が神の領域に到達している戦士だからこそ。防御に一切気を払っていないと思いきや、すんでのところで避ける判断力には、思わず目を見張った。

 

尋常ではない。過去に生きた神話の英雄、その影法師の戦闘が、そも尋常であるはずがない。この世の理どおりであれば、目の前の骸はもう動くことはないだろう。しかし、肌がびりびりするほどの警戒心をカルナに与え続けていた。

 

――来る。

 

突如、空洞のような目が赤い光を放つ。かくかくと顎が動き、横向きの口元から大量の呼気が白く立ち昇った。魔力の濁流が倒れ伏した身体から巻き起こる。あまりの圧に、カルナは思わず一歩後ろに下がった。

 

先ほどまで骸だった身体に力が籠められ、ぎこちない動きで狂戦士は立ち上がる。身体全体が赤黒く光り、同時に胸の大穴がみるみる塞がっていく。時間を巻き戻すようなその様は、まさに悪夢だった。

 

「■■■■■■■!!」

 

蘇った大英雄は身体を反らせて吼えた。生じた衝撃波で建物全体が大きく揺れる。眉一つ動かさずに立ちはだかるカルナを、砕け散る床の破片が襲った。

 

ヘラクレスは床に手をつき、四つん這いのような低い姿勢をとる。同時に、カルナが構えた槍は、燃え盛る炎を宿して輝きを放った。

 

地鳴りと縦揺れが大広間を襲う。

 

そのとき、攻撃に転じようとしたカルナの目の前から、ヘラクレスが消え失せた。直後に襲い来る衝撃波に耐えながら、目を見開いた施しの英雄は鋭く叫ぶ。

 

「ケイローン!」

 

槍を一閃しながら回転し、振り向く。瓦礫の雨の中、バーサーカーの巨体は宙を舞っていた。

 

不死の肉体の着地地点には、弓を構えたケイローンの姿があった。

 

「『軍師の忠言』!」

 

聞く者を戦慄させる咆哮が響き渡り、防御強化を施す孔明の声を掻き消した。広間右側のガラスが衝撃波で全て砕け散り、広間の照明がブツンと落ちる。

 

カルナの目が捉えたのは、ヘラクレスに片足を掴まれ、逆さ吊りにされたケイローンだった。

 

「■■■■■■■!!」

 

ギャラリーの崩落と引き換えに、ヘラクレスの巨体は格子窓を突き破る。

 

建物の外に飛び出したヘラクレスの岩のような腕が、恩師を掴んだまま大きく振りかぶられる。一瞬ののち、ケイローンの身体は地面に向けて豪速で撃ち出された。

 

凄まじい音と共に、二階より高い土煙が立ち昇る。立香の叫び声を突っ切って、カルナは崩れた壁から外に躍り出た。

 

投擲の勢いでつんのめったヘラクレスは、そのまま斧剣を振り上げる。前のめりの姿勢のまま、容赦なく地面に突っ込んだ。

 

響いたのは、鼓膜を切り裂くような金属音。

 

「そうはさせん」

 

「……カルナ!」

 

抉れた地面に倒れるケイローンを跨いで立ち、施しの英雄は槍で斧剣を受け止めていた。時折散る火花が互いの得物に当たって砕ける。

 

孔明の防御スキルで持ちこたえたケイローンは、脚を引きずりながらも芝生を見下ろす回廊の二階バルコニーに撤退する。

 

なおも続くぎりぎりの攻防は、カルナの反応によって均衡が崩れた。突然カルナが横に飛びのき、バランスを崩したヘラクレスは一瞬よろける。その瞬間を逃さず、カルナはバーサーカーの背中を渾身の力で薙ぎ払った。

 

ヘラクレスの鋼のような巨体が吹き飛び、大広間の向かいに建つ見張り塔にめり込む。一拍遅れて塔の下部が轟音と共に崩壊した。それと同時に、カルナの左手が紅く光る。

 

「念には念だ。悪く思え」

 

立ち上がる寸前のヘラクレスの頭上に、雷鳴を轟かせて光槍が降り注ぐ。

 

本来ならばそれなりのダメージを負うであろう攻撃も、狂戦士を止めるには至らない。ヘラクレスは、瓦礫の山から引き抜いた斧剣を薙ぎ払い、雷撃を消し飛ばした。

 

轟然と吠えたバーサーカーは、己を阻む巨大な瓦礫をランサーに向けて蹴り上げる。

 

迎撃しようと構えたカルナだったが、瓦礫は彼まで届かなかった。鋭い風音と共に、瓦礫は空中で砕け散る。間髪入れずに、嵐のような矢の雨がヘラクレスに降り注いだ。

 

しかし、ヘラクレスは怯まない。最早バーサーカーと呼ぶには相応しくない超絶技巧で、ケイローンの早撃ちを一射も通さず撃ち落としていく。

 

「■■■■■■■!!」

 

狂戦士の大咆哮に、見張り塔の前の木々がめりめりと音を立てて折れた。

 

巨木の幹が視界を遮った瞬間、太陽と見紛う烈火がヘラクレスを照らした。跳躍したカルナの槍に炎が収束し、強烈な紅の光を放つ。投擲するのは、ランクA+の対国宝具。

 

「『梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)』!」

 

――目も眩むような爆炎が塔を呑み込んで、爆ぜる。荒れ狂う熱風と衝撃波で、倒木と周囲の芝生が一瞬で灰燼に帰し、瓦礫は砕けて燃え尽きた。

 

押し寄せる熱風をなんとかやりすごし、顔を上げたケイローンの目に飛び込んできたのは、見張り塔が炎に包まれた光景だった。残されたのは業火に包まれた骸だけ。

 

「これで二度仕留めたぞ。ギリシャの大英雄よ」

 

カルナが槍を一閃し、纏った炎が千切れて闇夜に溶けていく。ケイローンはひとまずほっと息をついて回廊二階のバルコニーから飛び降りた。

 

ふと、近くに仲間の気配を感じ、賢者は建物を見上げた。屋根の上から聞こえてきたのは間の抜けた拍手。縁ギリギリにしゃがみ込んだ影は、くすくすと楽しそうだ。

 

「いやぁ派手だねぇ。二人とも無事なようで何よりだ」

 

「マーリン、いつからいたのですか」

 

「ついさっきだよ」

 

まるで周囲の惨状に似つかわしくない口調で、花の魔術師はへらりと笑う。ケイローンの足元に視線をやり、顎を親指でなぞった。

 

「そのあたり、少しいじったほうがいいんじゃないか?これでどうかな」

 

軽く杖を振ると、生み出された花がふわりと夜風に舞う。ケイローンとカルナの身体を光の粒が覆い、みるみるうちに傷が癒やされていく。

 

「ありがとうございます。さて、そろそろ今夜の引き際について考えねばなりませんね」

 

ケイローンが口にしたちょうどそのとき、ガネーシャ神の叫び声が闇夜に響いた。

 

「よぉし、ここは私が引き受けよう。君たちはもうじき蘇生するそちらに注力してくれたまえ」

 

そう告げてウインクしたマーリンは、屋根の上を駆けていく。軽い身のこなしで広間の壁に開いた大穴に飛び込むのを見送ったカルナは、小さく息を吐いた。

 

「こちらもそろそろ始まるようだ」

 

芝生を舐める炎を、月明かりが照らす。

 

焼け爛れた骸の目に、赤い光が灯った。

 

 

 

 

 

 

 

崩れ落ちた壁の向こうで、光の塊が粉々に飛び散って爆ぜる。一歩遅れて届いた衝撃波が、ガネーシャ神が作り出した障壁に容赦なく襲い掛かった。

 

己の前に立ちはだかる障害の神の小さな身体を、立香はしっかりと支える。真っ直ぐ前に腕を伸ばして立香と孔明を守る彼女の目は、芝生を焼き尽くした太陽を捉えていた。

 

「……終わったッスかね?」

 

「多分、終わった。ありがとう、ガネーシャさん」

 

最後に握り拳程度の瓦礫を障壁で弾いたガネーシャ神は、大きく息を吐きながら腕を下ろした。ココア色の長い髪に向けてお礼を言えば、照れくさそうな瞳を眼鏡で隠して、ガネーシャ神はこくりと頷いた。

 

「マーリンは外に出て行ったようだな」

 

「シェイクスピアは?」

 

「あそこッスよ。あの人まじでなんなんスか。職業病?」

 

先ほどとは打って変わって呆れかえった口調のガネーシャ神は、広間の左奥を指差す。どうやら劇作家は、ケイローンが崩落させたギャラリーの下敷きになったらしい。瓦礫の下からせわしなく動く羽ペンが覗いていた。

 

「……よし、気を取り直すぞ、マスター。今夜の撤退タイミングについてだが」

 

「あら、もう帰ってしまうの?それはなんだか寂しいわ」

 

突然、場違いに幼い声が大広間に響いて、立香の心臓が大きく跳ねる。広間の奥、倒壊寸前の赤絨毯の上にちょこんと立つのは、小さな人影。

 

「こんばんは、お姉ちゃん。そこの二人のお友達は初めましてだわ!」

 

ナーサリーライムは、銀髪の人形をぎゅっと抱えて満面の笑みを浮かべた。くるりと一回転した拍子に、彼女のおさげが月の光を受けてぼんやりと光を放つ。

 

「バーサーカーばかり遊んでもらってずるいわ!この子(あたし)だってもっと遊びたいのに。……でもね、夜にお茶会を開くのは悪い子って決まってるの、お姉ちゃんたちは知ってるかしら?」

 

うきうきとしていた少女の声は、途中から坂を転げ落ちるようにどんどん低くなっていく。あっという間に笑顔は消え、代わりに緋色の目には静かな怒りと敵意が浮かんだ。

 

「マスター、下がって!」

 

ガネーシャ神が立香に叫ぶ。孔明が軍配を手にしたと同時に、ナーサリーライムの周囲に魔力による風が巻き起こった。荒々しい風に翻弄される漆黒のドレスから鮮烈なピンクのペチコートが覗いて、立香の目に焼き付く。

 

「哀れで可愛いトミーサム、いろいろここまでご苦労さま。でも、冒険はおしまいよ。さあ――嘘みたいに殺してあげる!」

 

視力を奪う白い光が溢れたと同時に、荒れ狂う魔力の風が不意に掻き消えた。ガシャン、と金属が擦れる音が鼓膜を揺らす。

 

先ほどまでとは全く違う光景に、ガネーシャ神はぽかんと口を開けた。ナーサリーライムの立つ階段の下に、十を優に超えるトランプ兵が陣を組んで三人を威嚇していた。

 

「仕方あるまい、一気呵成に滅ぼしてくれよう。やるぞ、マスター!」

 

孔明が叫ぶと同時に、綺麗に整列した兵隊が全員槍を構える。崩落した穴から差し込んだ月明かりで、兵士の槍に鈍い光が宿った。トランプ兵はじりじりと間合いを詰める。立香が一歩後退したそのとき、黒と赤の二騎がこちらに向かって駆け出した。

 

「無駄だ!」

 

孔明の軍配から眩い光が放たれ、赤の兵士を直撃する。三つ並んだ真ん中のハートが焼き尽くされ、トランプ兵は後ろに吹き飛んだ。ハートの三を隠れ蓑にして飛び出したスペードの五は、ガネーシャ神の斧が切り裂く。

 

二枚のカードが紙片に変わり、砕けた大理石の上にひらひらと舞い落ちる。すると、トランプ兵たちは突出するのをぴたりとやめた。陣形を二列に組み替えて、じわじわと包囲する作戦に変えたようだ。

 

「へぇ、案外考えてるじゃないッスか」

 

「失礼な人ね。あたしの兵隊さんだもの、それくらい当然よ!」

 

高みの見物を決め込んではしゃぐナーサリーライムに対し、ガネーシャ神の頬には冷や汗が浮かんだ。守り切ることはできるが、突破するすべがない。

 

ふと、この場にもう一騎味方がいることを思い出す。ガネーシャ神は慌てて広間の左奥を凝視して、直後に肺ごと零れ落ちそうな深いため息をついた。

 

「ダメッスね、あれは。役に立たないッス」

 

「双眼鏡でこっちを見る前に、せめて瓦礫から抜け出してほしいな……」

 

「マスター、ガネーシャ神、奴に期待するだけ無駄だ。我々だけで切り抜けるぞ」

 

味方に文句をつける緊張感のなさに、ナーサリーライムは紅潮した頬をぷうと膨らませる。白くて小さな拳を握りしめて、上下に大きく振った。

 

「つまらないわ、つまらないわ!……きちんと遊んでくれないのなら、もうさよならしても同じよね。トランプ兵さん!彼女の首を刎ねなさい!」

 

少女の物騒な一言で、じりじりと距離を詰めていたトランプ兵の一団が一斉に槍を構えた。前列が八人、後列が十人。一糸乱れぬ動きで、穂先を突き出す。

 

ガネーシャ神が咄嗟にスキル『砕折されし牙』を発動しようとした、その瞬間だった。

 

「いよぉーし、間に合ったー!」

 

声の直後に人影が二階から降ってくる。三人の前に立ちはだかるように着地して、同時に手元から仕込み剣を引き抜いた。

 

「こっちのが得意でね!」

 

目にも留まらぬ速度で前列のトランプ兵を薙ぎ払った男の白いローブが風になびく。金属音がいくつも重なって、弾き飛ばされた槍が回転しながら宙に放り出された。

 

「マーリン!」

 

「遅くなってすまないね、マイロード。さぁ、撤退するとしようか」

 

立香の数歩後ろの床に、マーリンが飛ばした槍が突き刺さる。得物の持ち主は既に紙屑になっていた。

 

「マスター、ガネーシャ神、走れ!マーリン、殿を頼む!」

 

「いいとも。さあ、行きなさい!」

 

駆け出した三人が建物の外に向かうのを横目で確認し、花の魔術師は杖で床をつついた。途端に美しい紋様の魔法陣が展開され、右手の剣に光が集まっていく。

 

「魔術師なのに剣を持ってるなんて、ゲームのルールが台無しよ。やっぱりあなたはおとぎ話を壊す人だったんだわ」

 

「ははは、悪いね。私はあとから来たからルールを知らないんだ」

 

悪びれもせずにウインクをしたマーリンは、向かってきた兵士に躊躇なく斬り掛かる。火花を上げながら剣を受け止めるトランプ兵に、左手の杖から眩い光が降り注いだ。途端に兵士は光の粒子になって消えてゆく。

 

「それじゃあ今夜はこれで。また明日会えるのを楽しみにしているよ」

 

あっという間に前列の兵士を半分に減らした花の魔術師は、ニッコリと少女に笑いかけて大広間から飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

魔力の逆流の嵐の中、カルナは瓦礫を弾きながら狂戦士が黄泉から戻るのを待っていた。

 

「カルナ、隙を作ってください。孔明ならそろそろ撤退の判断をするはず。マスターが離脱し次第、宝具を発動します」

 

「心得た」

 

端的な返しにケイローンは微笑む。身を翻して大広間の屋根に飛び移り、夜空を見上げた。北半球の冬空に己の姿は見えないが、それは些細な事だ。空に浮かぶ射手座。それが彼であるならば、彼は常に矢を番えている。

 

ケイローンの瞳が鮮やかな緑に変化した。宝具のタイミングを予測するための未来視を発動する。

 

「これこそは、星の蠍を穿つ一撃なり。我が矢は既に――放たれた」

 

ケイローンの宝具は、事前に真名解放を済ませておけば予備動作なく発動できる。一夜に一度しか撃つことができない、星を穿つ必殺のAランク射撃宝具。それが『天蠍一射(アンタレス・スナイプ)』だ。

 

「貴方をこれで射る日がくるとは、なんとも皮肉なものですね」

 

闇夜に輝く星のような瞳を瞼で隠し、弟子を想う師は寂しげに笑って矢を番えた。

 

 

 

 

 

 

 

広間の建物から外に出た立香たちの目に飛び込んできたのは、芝生で燻る炎と、半壊した見張り塔、そして広場の中央で巻き起こる爆炎だった。

 

「マスター、孔明さん、ボクの傍から離れないで!」

 

「分かった、止まらずそのまま走り抜けるよ!」

 

熱風と瓦礫を凌ぎながら、必死で走る。崩壊した塔を通り過ぎたところで、ガネーシャ神はスピードを落とした。

 

「先に行って!ここで防ぐッスよ!」

 

立香と孔明、そしてあとから追いついたマーリンを先に行かせて、ガネーシャ神は障壁を厚くしながら振り返る。

 

黒煙の中でヘラクレスとカルナが打ち合うたび、火花が夜空に舞い散る。漆黒に金箔をぶちまけたように火の粉が煌めく光景に、緊急時なことも忘れて思わず見惚れた。

 

「綺麗……」

 

ヘラクレスの顔面に向けて放たれるケイローンの矢の一本一本が、スローモーションのように見える。同時に、矢を薙ぎ払うヘラクレスの足元に、カルナがスライディングで滑り込んだ。透けるような白髪に槍が纏う炎が反射して、ほのかに赤く染まる。

 

しかし、釘付けになっているガネーシャ神の視界から、カルナが忽然と消えた。

 

轟音と衝撃波が押し寄せる。ヘラクレスの巨石のような足が伸びていて、ようやくカルナが蹴り飛ばされたことに気づく。

 

「カルナさん!?」

 

ガネーシャ神の悲鳴が辺りに響いた。正面の森に飛ばされたカルナを追って、ヘラクレスの巨体が宙に舞う。

 

――そのとき、空を切り裂いて、星が落ちてきた。

 

「■■■■■■■!!」

 

狂戦士の大咆哮を、黄金の光が呑み込んだ。これこそがケイローンの宝具、星を穿つ一撃。

 

嵐のような爆風をなんとか障壁で防ぎ切ると、爆心地には青い炎に包まれて崩れ落ちた亡骸が見えた。

 

「ガネーシャ神、撤退だ」

 

「ひょえっ!? カルナさん!?」

 

突然耳元で聞こえた声に、ガネーシャ神は心臓が口から飛び出した気がした。左を見上げれば、施しの英雄が涼しい顔で立っている。吹き飛ばされたはずのカルナにはかすり傷一つない。

 

「カルナさん、もしかして、さっきのわざとッスか」

 

「わざとではない。予測はしていたが」

 

二人の元にケイローンが走ってくる。立香たちが向かった方向に慌てて駆け出しながら、ガネーシャ神は背後を振り返った。

 

芝生に燻る赤い炎と、骸から真っ直ぐ立ち昇る青い炎が、月明かりに照らされていた。

 

まるでおとぎ話の一幕のような光景に、ガネーシャ神の小さな心臓がドクンと音を立てる。

 

「ガネーシャ神、急げ」

 

「い、今行くッス!」

 

慌てて走る速度を上げる。胸を駆け巡る違和感の正体に首を傾げながら、ガネーシャ神は無意識に右手を左手で握った。

 

 

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