やがて英雄になる   作:クガクガ

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序章
1 始まった日


 赤。一面が赤だ。

 炎と血がどこを向いても視界に入ってくる。

 全てが壊れた。壊れてしまった。壊された。

 村を、友人を、父親を、母親を、姉を、妹を。

 何もかも無くなった。

 唯一残ったのは自分だけ。

 あの黒い異形が全てを終わらせた。

 

 「あぁ……」

 

 おかしい。

 なんで俺は生き残ったんだろう。

 おぼつかない足取りで前に進みながら考える。

 みんな死んでいったのに俺だけが生きている理由を。

 

 わからない。

 そうだ、わかるはずがない。

 あれは災害。予期は不可能であり、不可避。天使であれ、悪魔であれ、それはきっと同じ。できてしまえば正常ではない。何かが異なっている。

 そう、つまり無意味なんだ。

 考えたところで意味はない。考えたところで無駄だ。

 

 「…………」

 

 気がつけばその場に膝をついていた。

 悟ったからだ。もう歩く理由もないんだと。

 

 「…………は」

 

 疲れた。

 休もう。終わりにしよう。

 もともと終わっていたようなものなんだ。なにも変わりはしない。

 

 それがいい。

 それでいい。

 それなら──

 

 「──生きてる」

 「みたいね。運がいい。いや、どちらかというと運が悪いかしら」

 

 嗄れた声と綺麗な声がした。

 視線を上げるといつのまにか正面に男が立っている。

 身の丈ほど長い巨大な剣を背負い、黒衣をその身に纏った男だ。顔はフードに隠れてよく見えないが、なんの感情もない視線が向けられているのだけはわかった。

 そして、その背後には美しい女がいた。雪のように白く長い髪の女性。こちらは男と違ってどこか楽しそうに綺麗な銀色の瞳を俺に向けている。

 

 「1人だけか」

 「生きてる気配はないわ」

 

 男は膝を折って俺と目線を合わせた。

 そして、少し間をおいて「なるほど」と呟くと立ち上がった。

 何がなるほどなんだろうか。それを考えていると男は言葉を投げかけてきた。

 

 「選べ。生きるか、死ぬかを。死にたいなら楽に殺してやる」

 

 終わらせてくれる。男はそう言った。

 ありがたい話だった。

 できるなら苦しみたくはなかったから。

 

 「だが、生きたいなら俺について来い」

 

 男はそう続けた。

 ついて来いと言うが、生きることを選んだ場合、どこに連れて行かれるのだろうか。そもそも男は何者なんだろうか。疑問が色々と湧いてきた。

 聞いてみよう。そう思って乾いた口を開く。

 開いたけれど、掠れた声で尋ねていたのは今湧いてきた疑問のどれでもなかった。

 

 「…………生きて、何をすればいい?」

 

 生きたとして、何をすればいいんだろう。

 

 「意味が、ある?」

 

 もともと意味なんてないのに。

 偽りのものですら無くなったのに。

 生きたところで、どうしようもない。

 

 「なら、探せばいい」

 「え……?」

 「お前だけが生き残ったんだ。そこに必ず意味がある。今それが見つけられなくても見つかる時はやがて来る」

 「……本当に?」

 「ああ、意味はある。けれど見つけることを確約できない。そこはお前次第だ。が、少なくとも死んだら永久に意味は見出せないのは間違いない」

 

 生き残った意味。

 

 「──知りたい」

 

 意味があるのなら。生きてみたい。

 生かされた意味を、知りたい。

 それを、見つけてみたい。

 

 「なら立て。そして来い」

 

 もう歩く必要なんてないと思っていた足に力を入れて、立ち上がった。

 生き残った意味を知るために、俺は生きる。

 そう決めた。

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