感想やご指摘ありがとうございます。
ちと展開は早めに進めま。
「到着したのじゃ。皆の者無事かえ?」
ハジメ達と愛ちゃん親衛隊。そして辰巳達と冒険者一行はその日のうちにウルの町近くの森に到着した。
町に入らずわざわざ近くの森にした理由はティオの竜の姿を見られた場合、魔物が襲ってきたと勘違いされて混乱してしまうからだ。
ただ混乱を招くなら何とかなるが、攻撃されてはたまったものじゃない。リスクを減らすための行動である。
一応認識阻害をかけてはいるが、あくまでも補助。認識を阻害してても着地する時の突風や音、粉塵などをすべて隠すのはなかなかに骨が折れるため、念を込めて離れた場所に決めたのである。
「流石の竜人族・・・竜化した時の移動速度は馬なんて比にならねぇな」
「まさか異世界に来ただけじゃなく、竜に乗るなんて経験ができるとは思ってもみなかったぜ…」
「ティオ殿・・・ここまで運んでくださりありがとうございます」
すでにティオがすでに滅びたはずの竜人族であることを知っていながらも、彼女に嫌悪感などはなく、それどころか今回の一件では彼女の事は絶対に他の者達にはしゃべらないことを確約した冒険者一行はここに運んでくれたティオに感謝の言葉をかけた。
すでに各々がやる気に満ち溢れており、今回の魔物の侵攻を防ぐべくやれることをやりぬこうとする意志を抱いでいた。
クラスメイト達は竜に乗るという最高にロマンな体験をしたことではしゃいだり感動したりしている様子であるが、ハジメ達はすぐに気持ちを切り替えている。
「しかし…すごい数でしたね…」
「あぁ…明らかに万は超えている大軍だった。それに進行速度も速い。このまま待ってりゃ遅くても明日には来るだろうな」
「す・・・すみませんが待っていられません!すぐにでも町のみんなに伝えてきます!」
そう。ティオの背に乗って状況把握を行っていたが、明らかに百や千の数を超えていた。
平原であったであろう場所が軍隊アリの集団が蠢くかの如く、黒の絨毯を敷いていたのだからその数は察するに余りある物であった。
そんな光景をすでに目の当たりにしているウィルは我慢できずに一人で走り出してウルの町に向かってします。
慌てて追いかける冒険者一行とハジメ達クラスメイト。
最もハジメの雰囲気はすでにこの町を見捨てる感じてはなく、愛子先生の言葉を自分なりに消化して防衛にあたるだろうことは察せられた。
彼の…ハジメの錬成は明らかに他の者達とは画一した技術技能だ。
『トータス』の歴史史上最も優れた錬成師としてこの世界の歴史に名を刻み込む存在になるだろう。
すでに無人偵察機や車を作るだけでなく、重火器の作成も行えている以上、飛行機やロケットも作れるようになっていくはずだ。
実にロマンあふれる存在である。
「辰巳殿、セレナ殿は向かわなくても構わないのかえ?妾はここでいつでも動けるように待機する予定であるのじゃが…」
「先に言っておく、ありがとうティオさん。おかげで助かったし楽しかった。俺達はここで状況把握に努めることにする。町に入ってもやれることはハジメ達が率先してやってくれるだろうからな」
「私は主様の傍に居ます。なんの問題もありません」
「…かたじけない」
竜化したティオの頭を撫でながらお礼伝える辰巳となんの心配もいらないと告げるセレナにティオは心が温かくなるのを自覚した。
己よりも強い存在から労われる経験などはないティオにはまだ理解しがたいものではあったが、悪い気もしなかったためそのまま受け入れる。
だが自分が感じている不満点を今のうちに伝えることにした。
「ところで辰巳殿」
「?どうしたティオさん」
「さん付けはやめてくれぬかえ?」
どうしてだ?と考える辰巳の内心を知っている様にティオは続ける。
「お主ほどではないものの、妾は里でも一、二を争うぐらい強いのじゃ。特に耐久力などは群を抜いておっての…他者に負けたり組み伏せられたり、痛みを感じるようなことは今の今までなかったのじゃよ」
彼女…竜人族は人型のステータスはこの世界でも当然高くなっているのだが、“竜化”を用いた際のステータス上昇は圧倒的なものになる。
正直なぜそれほどの力を有していながら滅んだのだろうと思われるのだが、人の悪意やエヒト神あたりがなにか余計な事をしたのだろうと予測される。
「それがじゃ。操られていたとは言えども、妾は辰巳殿に初めて負けた。それもあそこまで圧倒的な差をつけられたのは初めての経験であったのよ」
「圧倒的・・・」
「気づかぬと思ったかえ?妾を攻撃する気は一切なかったじゃろうに…」
「まぁ確かに操られてる相手を喜々として攻撃はしないが」
「それに“風刃”で腕を斬ったときにも即座に元に戻っておった。そういう魔法なのかはわからぬが少なくとも妾はそのような芸当は出来ぬ。攻撃魔法も身体強化ぐらいしか使われず、攻撃魔法は用いておらぬ。そのうえで妾を傷つけぬように拘束からの洗脳解除…誰がどう見ても完敗じゃよ。素直に負けたと思ったし、なによりも圧倒的な力で四肢を封じられ拘束される…正直なところ…こう、くるものがあっての…っ!」
「……ん?」
なにやら流れが不穏なものになったが、辰巳は深く掘り進めないようにした。
セレナはかつての経験でティオがどんなタイプなのかを察したのか、無表情になっているが。
「まぁ、とにかくじゃ。妾は自分よりも強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃよ。じゃが里ではそんな相手はおらんし、竜人族自体が歴史から葬られておる関係上、相手が見つかることなんて考えもしなかったのじゃが、辰巳殿が妾の前に現れてくれたのはまさに僥倖と言わざるとえまいて」
「なんだろう。ただお礼と言っただけなのに重たい話になってきてない?」
シュルシュルと竜から元の人型へと戻る彼女の瞳は喜びを見事に表現していた。
まさに長年探し求めていたモノを眼前にまで手繰り寄せた時の喜びである。
豊満なバストをただ胸筋へ押し付けるのでなく、辰巳の腕を取って側面から触覚を楽しませるという徹底ぶり。
絶対的な交友数が少ない辰巳にとってはそれは魔性のささやきであった。
セレナの視線がゴミを見るようなものに変わり始めていることに気づいたため、耐え抜いているが。
「まぁ話が脱線してしもうたが、辰巳殿は妾を実力で…それも真正面から組み伏せれるほどの男。それほどの男から『さん』付けで名を呼ばれるなど、距離感を感じて妾は悲しくなってしまうのじゃよ」
「……」
「辰巳殿にはセレナ殿がすでにおる。なので
素直に応えてほしい。
そう話すティオの表情は先ほどの喜びは身を顰め、不安なものに変わっていた。
辰巳はちらりとセレナを見る。
セレナはティオの言葉に顔を赤くしてはいたものの、視線に気づいてすぐに立ち直り見つめなおし、そのまま軽く頭を下げた。
言葉にはしなかったが、セレナは辰巳の意に従う姿勢であることを把握した。
ここまで好意を向けられるのは慣れていない辰巳であるが、いうべきことは決まってる。
「一つ確認したいことがある」
「何かの?」
「傍に居たいということはこれからも俺達と共に行動するということ。俺は地球・・・異世界の人間だ。当然この『トータス』に骨を埋める気はない。俺が地球に帰る、その時はどうするつもりだ?」
辰巳が切り出したのはティオが本当にこの世界から離れた土地で身を埋める覚悟があるかということだ。
彼女が自分で告げたが里にとって一・二を争うほどの実力者。そんな彼女が抜けた場合の里側の損失は大きいものになる。
「無論妾は辰巳殿についていく所存じゃ。里の者達は多少なり悲しむじゃろうが、妾があのまま里に居ても跡継ぎを生むことがないのは理解しておる。
ティオはその中でもついてくると断言した。
薄情なのではない。彼らの種としての強さと今まで生き抜いてきた彼らを信頼しているが故の発言。彼女の眼は辰巳をまっすぐ見つめており、本心から語っていることが辰巳からも即座に理解できた。
「―――ふぅ…」
決意は固いことを理解した辰巳は無言でティオを正面に立たせた。
二度と里の者達と会えなくなる可能性も孕んでいるというのにも拘らず、辰巳についていくことを断言した彼女を、拒絶する要素など辰巳には持ち合わせていなかった。
「改めて名乗ろう。俺の名前は
「妾は…妾の名はティオ・クラルス。誇り高き竜人族――クラルス族の一人じゃ」
彼女の両肩に手を添えて辰巳は名乗り、ティオもそれに習って己の名を告げる。
どちらかが合図を送ったわけではなく、自然に互いの顔が近づいていく。
鼻先が触れ合う距離になっても意に
わずかに通り過ぎていく風が木々を微かに揺らして周囲の音をわずかながら隠していく。
木漏れ日が二人を包み込む。まるで木々が命を宿して祝福しているように、傍にいながらも、二人を見守っていたセレナの瞳に映った。
時間にしてはそう長くはない。
だがまるで編集を加えられて長い時間そうしていたのかと思ってしまうぐらいに、二人は各々の気持ちを確かめ合っていた。
唇が離れていく。
その事実にティオは寂しさを抱くが、彼が発した言葉にその想いは消し飛んだ。
「約束・・・いや確約しよう。万部 辰巳はこれから長い月日を過ごす中で、
「妾も同じ気持ちじゃ…。あぁ…二度とこのような日は来ないと思っておったが、長く生きてみるものじゃの…。嬉しさとは違う暖かい気持ちが抑えられぬ…これが“幸せ”というやつかの…」
抱きしめる力が自然と強くなる。
「…………」
「…………」
辰巳は抱き合う中で、ティオが少しづつではあるが力を入れていることに気づいた。
だが始めはそういうこともあるだろうと思っていたが、一向に止めるようには見えない。
「……?あ、あの…ティオ?」
「どうしたのじゃ辰巳殿…いや、旦那様と呼んだ方がいいかの?」
「いや、どうしてそのまま
ギギギッ…
段々辰巳の背を地面につけようと全体重をかけ始めてきている。
辰巳は嫌な予感を抱きながらティオに聞くが、今までで一番良い笑顔こちらを見るのみ。
無理矢理抜けだそうとするが部分的に“竜化”を使用しているようで筋力だけでは敵わないことになっていた。
「いや、本当にすまないとは思っておるのじゃよ?…じゃがあそこまで妾に刺さることをされてしまわれたら、もう我慢できなくなってしもうての?妾から告白した手前大変申し訳ないのじゃが、もう少し、ほんのさきっちょで構わぬから続きをしてほしいのじゃ」
「それ絶対に少しでは終わらねぇから…!」
トサッとゆっくり地面と背が合わさると共に、彼女が身に着ける雅な着物がはだけていく。
魔物の襲撃まで1日を切っているこの状況で流石に
「主様…私にはそんなこと仰ってくださらないのに…やはり胸なのですか…?」
眼からハイライトを失った状態で此方を見ながらブツブツと呟いている。
どうやら彼女に救援を呼ぶのは断念せざるを得ないようだ。
「心配せずともよいぞ旦那様…落ちてくる木の葉を数えておけば終わるがゆえにの」
「眼が
人型でありながら、彼女が宿す瞳は完全に竜の瞳そのものだ。
どうあがいても一回やって満足するような雰囲気ではない。
かといって全力でこの状況を打開するなんてのも正直な話勿体ない。
辰巳も長生きしているとは言えども立派な男なのである。
言葉では否定しつつも、結局のところ物好きに変わりないのであった。
察して。