帰還者、異世界を歩む   作:〇坊主

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『愛子様万歳!!愛子様万歳!!』





ありふれ⑪ 襲撃、万歳

ウルの町へ駆けて行ったウィルと愛子達は足を(もつ)れさせながらも町長のいる場所へと向かった。彼らは上空からウルの町がどんな状況下に置かれているのかを理解しているが故の行動である。

 

メンドクサイ話は御免だとハジメ達はゆっくりと町へ入った。観光地としてなりたつ町には屋台やおみあげ屋などの店が多く立ち並んでいる。登山からそのままこの場所にやってきたこともあって食事をしていなかったハジメ達はそのまま各々料理に舌鼓を打ちながら役場へと向かった。

 

彼の判断は正しかった。

ゆっくりと役場に向かった時にはすでに場は騒然としており、町の権力者が集まって重苦しい空気になっていた。全員が信じられない、信じたくないという表情で今回の情報を持ち込んできたウィルや愛子たちに詰め寄って問い詰めているのだからその状況がどれだけのものなのかは推して知るべし。

 

普通に生活をしていたのに、明日魔物の大軍がやってくるのでこの町は滅びますなどと言われてしまえば誰しも理解が追いつかないだろう。それも証拠となるものは何一つないのだ。

町長の立場からすれば意味不明なことを抜かすなと怒鳴りつけて町から追い出すこともできたのだろうが、相手は中央都市(フューレン)でも顔が利く侯爵家の人間と“神の使途”として活動しながらもその能力から“豊穣の女神”とまで呼び称えられ、各地の農産業に莫大な利益をもたらしている愛子の口から出た言葉とあっては一蹴するわけにもいかない。

 

すぐにトップ達が呼び出されるもどのように避難を促すかなど即座に判断することは難しい。

何も知らずに生きているこのウルの町民達に魔物の大軍がやってくるので今日中に町から避難してくれと言った暁には混乱からの暴動に発展してしまう可能性があった。

 

「いくらなんでも今日中に町民全員を避難させることは困難だぞ」

「いや町民だけなら問題ないが、観光客たちにもどう説明すればいいのだ」

「素直に公表したとしてもそもそも信じられるかが問題だろう」

 

「私が町民の皆さんに事情を説明します」

 

 

 

 

彼女の表情は覚悟を決めた表情だった。

 

ハジメ達はあまり悪目立ちしないように後ろで待機していたが、数万単位の魔物の大軍が迫ってきているという事実は町民達をパニックに陥れることになった。

町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者もいたぐらいだ。そんなことをしてもなんの解決にもならないことは冷静に考えればわかることなのだが、明日には故郷が滅んで留まれば自分たちも死ぬ未来だと知って冷静でいられるものは極めて少数派だろう。

 

始めはパニックであったが、ハジメが軽く作った音声拡張機――メガホンを用いて声を張り上げた愛子の言葉が彼らに冷静さを与えることになった。

確かに魔物の大軍が迫っている。だが恐れるものはない。そう言わんばかりの凛とした姿。小柄ながらに明確な対処が可能であることを自ら宣言したことにより、彼女の声をとにかく聴こうと民衆たちの喧騒が鳴りを潜めたのだ。

 

「魔物は私達が撃退します!ですが皆様に被害を与えぬよう、急にはなりますが今から避難をお願いします!命があっての営みです!迅速に準備をお願いします!!」

 

そこからの民衆の準備は早かった。

居残って町のために迎撃を行ってくれる者達の援護を行うことを決めた者達と救援が駆け付けるまで逃げ延びる避難組。

多くの魔物を撃退するための準備として何かできることがないのかという気概に満ちた人々の目は恐怖はあれども諦めてはいなかった。

 

「ハジメさん!」

「あぁ。ユエ、一応準備だけしておいてくれ」

「…ん」

 

町民達が動いている間、ハジメは錬成を用いてウルの町を外壁で囲う。

高さはそれほど高くないものの、あくまでも念のためで作成したものだ。大型の魔物であればよじ登ることが可能な程度の高さであるが、分厚さは相応にあった。

備えてないよりはマシぐらいの気持ちであるが、そもそも近づけさせる気はハジメどころか冒険者一行たちにも存在していない。

 

ハジメ達は本来であれば率先して関わるつもりはなかった。

ウィル・クデタをギルド長の元に連れて行けば任務は達成。正直数は厄介だが戦闘力で言えばハジメとユエ。そして実力がメキメキと伸びているシアの力があればどうとでもなる自覚があったからだ。

だが愛子と変わってハジメ内の認識が少しだけ変化した。たまにはこういうのも構わないかと考えてもいるのである。

 

「ハジメは…どうするの?」

「やれることはやるさ。厄介そうなのを潰す用で色々下準備は行っておく」

 

まだ姿を見せてはいないものの、ハジメは上空から無人偵察機で観察しているため、今どのあたりにいるのかを把握している。“魔眼石”に偵察機の情報がそのまま映されているため、残された時間であとどれだけの用意ができるかは把握できた。

飛行能力を有している魔物を率先的に撃ち落とす予定である。地上の魔物たちはどうしようもない時はハジメも加わる予定であるが、万部と竜人族のティオが参戦することもあり、そこまで心配はしていなかった。

短時間ではあるが、彼なりに“大切なもの”以外を少しずつ信用し始めているのである。

 

「相手は俺が飛ばしている“オルニス”には気づいていない様子だからな。清水の野郎が数万の魔物全てを操っているのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい」

「そうなんですか?」

「あぁ。リーダー格を主に洗脳させてる形でここまで規模をでかくしたようだ。おかげで下位級(下の奴ら)は無人偵察機に気づいてはいる個体もいるが、トップが無視しているからこちらにも干渉してこない。…都合のいいことだ」

 

飛行型の魔物も多く飛んでいるが、ハジメはこいつらを率先して迎撃する予定だった。

飛行ができる利点は戦闘において圧倒的有利であり、こちらの動きを補足されやすくなってしまう要因になる。

愛子達が非戦闘員を逃がしはするものの、逃げた方向を把握されて別動隊を派遣されることなどがあれば面倒なことになるため、そのリスクは極力下げていおきたかった。

 

なおハジメの口から出てきた清水という男。

これは『トータス』に呼び出された生徒達の一人であり、ティオを操っていた男と思われる存在だ。これに関してはティオの口から“闇魔法”を扱うこと、黒髪黒目の人間族であること。そして事実生徒達の目の前から失踪していることからこのような予測が立てられていた。

名は清水(しみず) 幸利(ゆきとし)。天職は“闇術師”である。

『トータス』で確認されている人間族には黒髪黒目はいない。いるとすれば転移されてやってきたクラスメイト達だけである。

故に清水()を探しに来た生徒達は断定はしていないものの今回の一件で関わってきているのではないかと考察するまでに至り、ハジメ達からは完全に敵側に寝返って町を滅ぼそうとしている存在として認識されている。

 

「奴らが視認できるまでに作っておくか…ユエ。手伝ってくれるか?」

「ん。わかった」

「は…ハジメさん?何を…?」

 

ユエを連れて外壁の内側へ進んでいく二人をシアは困惑しながらついていく。

地球の技術を知らない彼女からすればこれからハジメが生み出す物は未知なる存在に違いない。

 

「飛ぶハエは、叩き落すに限る」

 

今の時点で言えることは一つだけ。

飛行タイプの魔物たちにはご愁傷様ということだ。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「そういえば万部(よろずべ)達はどこに行ったんだ?」

 

準備を終えてあとはやってくる魔物を駆除するだけ。

そのための準備を出来る限り終わらせたハジメは周囲を見渡して気になったことを周りの者達に問いかけた。

ティオは竜人族ということもあってこの町にそう簡単に出入りできないことは何となくだがわかる。しかし今回の一件ではティオの存在を知っているウィルや冒険者達もいるのだ。彼女が町に入ってきたとしても敵の敵は味方理論で見逃されるだろうし、彼女を知っている者達からの擁護の声も上がってくる。さらには愛子達との仲も悪くはないため、愛子の言葉があれば他の上役達も納得するだろう。

 

「…そういえば、私も見てない」

「先生~?万部君の居場所知ってる?」

 

「い…いえ、先生は何も聞いていません。なんとか女性と子供達を避難させることに手を尽くしていたものですから…」

「愛子、少し休んだらどうだ。丸一日以上動き通しじゃないか」

「今、この町にそんな暇はありません!やれることはやっておかないと、後で後悔してしまいますから」

 

誰も万部達の居場所を知らないと告げる。

愛子先生は先も告げた通り非戦闘員を落ち着かせて逃がすことに身を粉にするほど取り組んでおり、日が昇ってくるまで働きづめであった。

それを心配した彼女の護衛として動いている騎士団員は如何にか休ませようとして声をかけるも、愛子に一蹴されていた。

 

「アイツ・・・手伝うとか言っておきながら迎撃まではしないのか…それとも独自に動いているのか…まぁいい。来るぞ」

 

ハジメは北の山脈地帯の方角へ視線を向けた。

まだ愛子達には見えていないが、肉眼で捉えられない距離であっても“魔眼石”から映される無人偵察機“オルニス”の情報から、今もこの町へ進行してくる魔物の軍勢が鮮明に映像として見えていた。

 

「昨日よりも明らかに増えているな…蠢く範囲だけで言えば…昨日の倍はあるぞ」

「少なくとも5万以上はいる…というわけですか…」

「…ハジメ」

「あぁ」

 

数多くの魔物たちの中でも上空の飛行型。そこに翼竜を模した魔物の中でも一際大きな個体がいる。その個体の上にはうっすらとであるが、人影のようなものが偵察機の目からは見えていた。

黒いローブを身に着けているが、ティオ達が話した闇魔法を操る男。十中八九、清水幸利だろう。

 

「来るぞ。予定よりもかなり早くの来店だが、すぐに目に見える距離になる。具体的な数は省くが5万以上。下手すりゃ6万ぐらいってところだ。魔物の種類も多彩で混成部隊ってところか。リーダー格が主な魔法による操作対象で、そいつらを潰せれば多少なり混乱を呼び出せるってところか」

 

具体的な数を聞いて表情を強張らせる愛子達。

戦うことを了承した騎士団員の表情も迫りくる軍勢に多少なりの恐怖を覚えている様子。何とかして一矢報いようと集まった町民達も各々武器になる物を手に取って壁の中から奮起しているものの、現実の数字を聞くとやはり気が重くなるものだ。

 

「“豊穣の女神”様は安心してください。ここは俺達が何としてでも食い止めますんで」

「リーダーの言うとおりでさぁ。万部さんたちに鍛えられた分、ここらで活躍して置かねぇと怒られちまう」

 

雰囲気を和らげるように愛子に声をかけるのは、北の山脈で山岳トレーニングを嗜んだ冒険者一行。

各々が視認できるようになってきた魔物達からは視線を外さずに、いかなる事にもすぐに対処できるように得物を構えて魔法の詠唱を始めている。

 

「待て待て。お前らが最初に攻撃すると困る。まだやらなきゃいけねぇことがあるんでな」

「む。なにかあるのかハジメ殿?悠長にしていればすぐにでも魔物達(あいつら)はこの町に押し寄せてくるぞ」

「まぁ黙って聞いてろ」

 

外壁から一旦下りて冒険者一行の詠唱を中断させるとすぐに行動へと移った。

ハジメは全員の前に立つように進み。そのまま錬成を用いて集まった者達を一望できるように演説代を作成した。

これから行う目的は簡単である。

いまから行う事に対して早とちりを起こした者達が巻き込まれて死ぬようなことがないようにするためだ。パニックになって魔物と民衆の判断が付かなくなる最悪の場合を想定しての対策である。

 

「聞け!ウルの町の勇敢なる者達よ!この戦いはすでに我々の勝利が確定している!!」

 

全員の視線が自分に集まった事を確認すると息を吸い込んで天まで届かんばかりの声量をもって演説を始めるハジメ。

いきなり何を言い出すのかと顔を見合わせる民衆達と困惑した生徒達。

そんな困惑の空気を無視して言葉をつづけた。

 

「なぜなら我らには女神の加護の元にあるのだ!!そう!“豊穣の女神”愛子様の加護である!!」

 

「!!!??」

 

「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北などありえない!」

 

「え?え?」

 

「愛子様こそ人類の味方!!」

 

困惑し、ハジメの発言を理解することを一時的に拒んだ愛子はその場で疑問の声を挙げることしかできない。

だがハジメの演説と、現状を打破できるのだという謎の雰囲気が集まった者達へと伝播していき、愛子へ向ける視線が尊敬、畏敬を示すものへと変わっていく。

 

外壁ですでに待機していたユエの肩へ手を乗せるとハジメの意図を理解したユエは即座に詠唱を始めた。

 

「私は彼女の剣にして盾!皆を護りたいという思いに応えやってきた!!」

 

ズビシッ

そんな勢いを乗せて掲げるは、ハジメが天へ向けて抜き放った人差し指。

 

「これが!!愛子様より教え導かれた――――」

 

それが合図となって彼らの頭上に10メートルは超えるかと思われるほどの巨大な雷を纏った龍が生み出される。

意図を察せなかったシアは隣でその巨大さに驚いているが、その操作者はユエ。この状況で狙いを外すはずもない。

 

 

「女神の剣の力である!!!」

 

 

6万になろうかと思われる魔物の軍勢。民衆に突き付けられたものは多少の抵抗も空しく滅びへと向かうウルの町だっただろう。

だがそれは覆される。

魔物へと雷龍が狙いをさだめ、己の身に秘めた膨大なエネルギーを一気にぶつけて解き放った。

 

 

雷鳴が鳴る―――ー。

 

 

時間にして数秒。

しかしそれ(・・)が齎した結果は、最もウルの町に近づいてきた魔物の軍団を消し炭にし、地面には巨大な落雷痕が残された。

 

「愛子様!万っ歳!!!」

 

振り返るは唖然として口を開きっぱなしにしている人々の姿。

ハジメが最後の締めとして言い放ったその言葉は、今見た光景が全て現実なのだと脳へ理解するように促し、誰が合わせたわけでもなく、一斉に民衆が声を張り上げた。

 

 

「「「「「愛子様万歳!!愛子様万歳!!」」」」」

「「「「「女神様万歳!!女神様万歳!!」」」」」

 

 

うぉぉおおおおおおお!!!

今まで抱いていた不安や恐怖が瞬時に吹き飛ばされ、町の人々は皆一斉に希望に目を輝かせる。

エヒト神を信仰していたとしてもこれほどの熱狂と希望を瞳に焼き付けることは不可能であっただろう。彼らからすればウルの町を文字通り救ってくれる程の力を有した存在として、愛子を女神として讃えることになったのだから。

 

そのように誘導を成功させたハジメの目に映る光景は、いまだに戦闘中ということも忘れた勢いで愛子へ駆け寄って胴上げをされる愛子の姿。

愛子は高く胴上げされて顔を真っ赤に染めて震えながらハジメへ瞳を向けながら、

 

「どういうことですか!!」

 

と動いているもの、歓声の声でかき消えていたため彼らに聞こえることはなかった。

さもありなん。

愛子をしれっと無視して魔物達側へ向き合ったハジメは、外壁に事前に取り付けていた装置へと足を進めるのであった。

 

 

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