「ハジメ。なんでこんなことを…?」
最初に詠唱を行うことで町の襲撃を行う部隊を殲滅することを理解して、雷龍を生み出したユエ。しかしその後のハジメの行動理由がわからず、すぐに尋ねることにした。
外壁に取り付けた装置起動をしながらもハジメは語る。
「人々の支持を得れば先生の意見が教会の奴らにも通りやすくなるため、下手に手出しができなくなるってことが一つの理由だ。これは俺らが今から行使する魔法なんかも先生の加護のおかげってことにしておけば女神の力ってことにできる。今後俺達が旅をする上でもメリットになるはずだからな」
「なるほど…」
ハジメやユエが有する魔法はこの世界の人間族にとって強大な力だ。
それがどの勢力にも属していないものであれば、いつ自分たちにその力が降りかかってくるかがわからず、恐怖や敵意を生んでしまう。
しかしそれが“豊穣の女神”の名で有名な愛子先生の加護ということになれば、話を聞いた民衆たちはどう思うのか?
それは例え一個人が振るう力であっても自分たちが支持する女神様の力ということになり、恐怖は安心に、敵意は好意に変わっていくものなのだ。不思議な話である。
目の前で女神様と讃えられて敬われる事になれば教会側もそれだけ有用な人材だと証明する武器になり、下手なちょっかいから身を護る盾に変わる。
これもハジメが行った意図の一つであった。
「よし、ユエ。ここに魔力を注いでもらっていいか?」
「ん。わかった」
ハジメが指を指して示す先には何やらバッテリーのような装置があり、外壁へコードが続いている。それが何を意味するのかは長年封印されていたユエには判断が付かなかったが、恋人を信じてそのまま魔力を流した。
ユエの雷龍による攻撃からそう時間は経っていない。魔物達も一行に立ち止まる気配はないものの、先ほどの攻撃を見て動揺したものがいるのか飛行型魔物の動きがどこかぎこちなくなっていることは見逃さない。
戦闘開始までに準備を行っていたのは自動操作タイプの対空砲台。
外壁に目立ちづらく配置されたその砲台たちは、ユエがハジメに言われて流し込んだ魔力を元にして一斉に起動を開始した。
「対空迎撃砲“コロラド”お披露目の時間だ」
参考にしたのはかつて地球で行われた世界大戦にてアメリカの巡洋艦や戦艦に用いられていた対空砲Mk10 5インチ砲、をハジメなりに扱いやすいように改良を加えて火薬の変わりに魔力を用いることで弾丸を射出できるようにしたものである。
ゲームクリエイターの父より武器や武装の設定資料なども読み慣れていたハジメにとって現代兵器を異世界に持ち込むこともすでに可能となっていた。
弾丸にも重力魔法を仕込むことで重量に反して飛距離と弾速を向上させ、義眼に仕込んでいる“魔眼石”によって無人偵察機と同じ要領で対象をそれぞれ視認してスイッチ一つで砲撃を開始できるように仕上げたモノ。
「…これは!」
「す、すごいです…!」
シアは己が持つ“未来視”の固有魔法。その派生形態である“天啓視”により2秒先までの未来を見ることが可能になっている。
それによりこれから行われる光景を先んじて理解したのだ。
「邪魔なハエどもを撃ち落とせ!“コロラド”一斉斉射!!」
傍で聞いていれば鼓膜が破れるのではないかと思ってしまう程の射出音にユエとシアは慌てて両手で耳を塞ぎ、民衆たちも愛子を胴上げするのを思わず止めてしまうほどにそれらが齎した結果が凄まじいものになっていた。
地球でも戦闘機を数多の撃ち落してきた対空砲を模した戦略兵器の威力により、被弾した飛行型魔物達は一発で木っ端微塵になって地面へとその血肉をぶちまけていく。
それだけでなく、被弾した対象の周囲にいた魔物達も衝撃の余波により翼を粉砕されて地へと墜とされていった。
ハジメは“コロラド”とは別に準備を行っていた武装“シュラーゲン”。電磁加速式対物ライフルを構え、黒ローブが乗っている一際大きい個体を狙う。
明らかに相手は動揺しているのかその場にとどまるように現場を見合わせているのだろうが、この戦争においてそのような間抜けな行動は非常に甘いと言わざるを得ない。
赤いスパークを放っていたシュラーゲンから極大の閃光が殺意と共に放たれる。
電磁加速・・・つまるところ超電磁砲だ。その加速速度に並の魔物が反応できるはずもなく、一瞬で空を駆けて対象へ近づくと共にその大きな個体・・・の隣にいた個体を打ち抜いた。
その威力によって生み出された余波により、飛行個体からバランスを崩して落ちていく黒ローブの男。素直に落下するように、ハジメは黒ローブを無視して空中を飛び回る魔物達の殲滅を最優先に動くのだった。
「ははは…やべぇな。これが異世界からやってきた勇者たちか…」
「レベルが、違いますね…」
「だがハジメ殿はあくまでも補助として空中の敵を引き受けてくれているんだ。俺らも仕事をするぞ!地上の奴らを殲滅する!」
『 応!! 』
瞬時に魔力を練り上げて各々戦闘耐性へと移行する。
最初の雷龍と対空砲撃は意にも返さないと言わんばかりの進行速度には舌を巻くが、先に教えられた通りにリーダー格を倒せば下に付く魔物達は逃げていくだろう。
彼らにとってはそれらを見つけ出すのも一苦労だ。
「いくぞ!全軍、突撃!!」
「うぉおおおおおおお!!!」
ハジメの対空性能に負けてなるものかと奮起する冒険者達と騎士団員。
防衛柵から一斉に飛び出して魔物の数を減らさんと攻撃を仕掛けていく。
幾多の戦場を生き抜いてきた者達とあって、集団戦闘はお手の物。
自分たちよりも強い存在であっても複数人で叩いて倒しているし、援護に回る術師たちもタイミングを見計らって防御と援護を繰り返し行っている。
だがそこはやはりと言わらずを得ないが多数に無勢。万を超える軍団に500も超えない数で挑みにかかるのは流石に無謀と言わざるを得なかった。
「ぐっ!」
「ぐぁ!!」
「怪我した者達は優先的に下がれ!俺達が時間を稼ぐから治療優先!復帰できたら即座に防御魔法を展開しろ!!」
「「はっ!!」」
数に苦戦を強いられている中でも冒険者一行は前線している。
本来なら彼らはティオに殺されていたが、命を救われそのまま魔物肉を安全に体内へと取り込んできた彼らは普段以上の力の放出具合と魔力操作を可能にしていた。
「“風弾”!」
「“土壁”!!」
「“雷刃”!」
「“風槍”」
援護に回る仲間により適度に壁を生み出すことで攻めてくる方向を操作し、そこに置くように魔法を放つ。
そうやって怪我無く戦えている冒険者達。
しかし騎士団たちがすでに防衛魔法を展開して勢いを何とかして押しとどめようとしているのと同じで彼らも段々防御へ手を回さざるを得ない状況だった。
一行対100匹の魔物であれば余裕をもって勝利できたが、相手はその100倍だ。ステータスでごり押しできるほどに彼らは耐久と体力は高くなかった。
「リーダー!!」
「一旦下がるぞお前ら!騎士団達と共に防壁を強化する!」
「「「応!」」」
ある程度の魔力を使い続ければ消耗するのは生き物の性。
少しでもよいので休憩を挟まなければ物量で一人一人数を減らすことになち、さらに負担が増えてしまうことだけは今の状況は避けたかった。
「チッ。ユエとシアの火力でも殲滅が追いつかねぇか…?」
空中の敵をもうすぐ殲滅できるハジメは地上の状況を見てユエへと指示を出すことにした。
「ユエ!」
「…ん!“
冒険者一行らは各々の能力に反してかなり前線している。
しかしユエの魔法による広範囲殲滅力を持っていないため、どうやっても殲滅できていない。
故にハジメはシアに相手の足を奪うように指示を出す。先ほど冒険者たちがやっていたように、進行方向をあらかじめ決めてしまえば数の暴力は半減させれる。
魔物たちの距離が五百メートルを切ったところか。ユエはハジメの合図で目をスッと開いて右手を掲げた。
本来であれば放つことができなかった魔法。
神代魔法“重力魔法”。世界の法則の一つに干渉するその魔法は魔法に関して天性の才能を持つ吸血姫を以てしても、魔力の練り上げとその発動イメージの固定に長い時間を必要とする大規模な魔法。
その大きさは四方が同じ五百メートルほどある正四角形を形どった後、そのまま眼下の魔物達へと叩き落とす強力なもの。
事実、叩き落された地点にいた魔物達はおろか地面そのものがまるで削り取られてしまったかのように“消滅”して見えてしまったことからその威力は解るというものだ。
後ろの壁で待機していたウルの町民達は勿論のこと、必死に戦っていた騎士団員らも唖然と見ているしかなかったほどである。
「すごい…」
「あれが…南雲達の力…」
クラスメイト達もハジメ達の実力に舌を巻く。
戦うことをあきらめた彼らにとっても、この光景は凄まじい衝撃だ。
戦争による強力な魔物の血の匂いが町まで届き、吐き気を抑えられない者も出てくるが、現実とは思えない“圧倒的な力”と“蹂躙劇”に沸きあがり、歓声が町からあふれるほどだ。
だがそれでも現実は厳しい。千・・・いや一万程は削れているだろうが、まだまだ目に見えて数が多い現状のなか、騎士団員らから魔力切れで戦えなくなる者達がどんどん増えてきたのだ。
漸く空を飛び回る
瞬時に手榴弾やリボルバー式拳銃“ドンナー・シュラーク”。電磁加速式ガトリング砲“メツェライ”を装填して魔物達の眼前へ降り立たんとしたその直後。ハジメ達を覆い隠すように影が落ちた。
「―――やっときやがったか。シア、戻ってこい!」
「――!!はい!ハジメさん!」
自らの影を覆い隠したその存在を察してハジメは目に映った魔物達を軽く撃ち殺すとそのまま上空を見上げた。
慌てて戻ってきたシアも“天啓視”によりこれ以上の踏み込みは危険と判断。すぐにハジメの声に反応して戻ってきた。
「一体何をして時間を潰してやがったんだ…なぁ万部!!」
ハジメの言葉に応えるように、黒竜の顎から、溜めに溜め込み山を吹き飛ばさんというほどのエネルギーが解き放たれたことで魔物の軍勢は再び大きく数を減らしたのである。
「あぁぁぁぁぁあ!!もうこんな時間ではないかぁぁあ!?まずい…まずいのじゃあ!!」
ハジメ達が戦闘を始めた時、最初に着陸した森にまだ三人は待機していた。…厳密にいえば休憩であったがその場所まで民衆の歓声が聞こえてきたことでようやくティオが正気に戻った。
ティオの行動を(しぶしぶ+ワクワクしながら)見守りながらも周囲を警戒していたセレナはゴミを見るような眼で見つめる。
「だから何度も止めたじゃないですか…何をしているのですか貴女は」
「い…いや、本当に申し訳ないのじゃ。しかしの?妾とてここまで
言い訳がましく弁解を述べるティオであったが無言の圧に負けて土下座した。
今回に限ってはティオが悪いのでどうしようもない。
彼女の好意を一身に受けきった辰巳は流石に疲労困憊になっていたものの、どうにかして魔力を回復させていた。本気になったティオに筋力も体力も負けていたのが今回の敗因であるだろう。
「ほら…さっさと出撃してください。魔力は十分溜まっているでしょうが」
「え゛!?し、しかしの?流石にここまで衣服が汚れてしもうては…」
「着れるじゃないですか。
「りょ、了解したのじゃぁ!!」
「…主様」
「ぐぐ…ごめんなセレナ。助かった」
「今回限りにしてください。次は怒ります」
「はい。すいませんでした」
汚れた着物を着なおしながら駆けていくティオを汚物を見る目で見送った後、セレナは辰巳へ声をかけた。
こんな主を見たくはなかったものの、何がとは言わないが勉強になったため完全に怒りきることもできなかったのだ。
それにここで説教をしたことでウルの町に被害が出てしまえばそれこそ
「主様…今回の殲滅戦において、私はなにも役には立てません」
「…セレナ」
「悔しい気持ちは当然ありますが、私はまだまだ成長できます。どれだけ掛かるかはわかりませんが、必ず主様の傍に相応しい存在になります。ですので主様…ご武運を」
頭を下げるセレナであるが、見えないその表情はきっと悔しさを滲み出しているのだろう。
一見丁寧な所作であるが、右手で隠した左手を思い切り握りしめていることに、辰巳は気づいていた。
「ありがとうセレナ。行ってくる」
彼女も自分がやるべき事を理解している。
故に辰巳を見送るのだ。彼が帰ってきたときに、安心した居場所を提供できるように。
彼女は黒竜へと変化したティオの背に乗る主の姿を見送るのだ。
「……強く、なりたいなぁ」
誰もいなくなった森の中、セレナは無意識に呟いた。
遥かに成長して強くなっているのは間違いないのだが、比較対象が悪すぎた。
圧倒的なステータスを有する辰巳と竜人族でも最強のティオ。
二人に追いつくためにも己の研鑽を怠ってはいない。だが向かうべき壁があまりにも高すぎて、きつく感じるところがあるのは事実であった。
「ほう…。強くなりたい…とな?」
「ッ!?誰ですか!」
気が緩んでいたのかもしれない。
セレナが声の方向へ振り替えるとそこには全身を隠した男が一人、セレナを見定めるようにそこに立っていた。
「まぁそう慌てるな」
「!??」
ズグン
そんな音がセレナの内部から響く。
想像を絶するその激痛にセレナはその場で膝をついた。
「うっ!?ぐ…ぐぁ…」
今まで気配を感じ取れなった事。
そしてセレナが今感じている激痛。
バキバキと音を鳴らして蠢く身体。
叫ぶのを抑えることしか今のセレナにはできなくなっていた。
どう見ても味方ではない。
しかし眼前の男はセレナの反応を見て面白そうに、そして興味深く眺めるだけであった。
「ふむふむ。君はすでに何度か魔物をその身に取り込めているのかな?いやぁ実に興味深い。詳しく解剖したい…が、残念ながら今の私にそのような時間は残されていないのでね。ではまた会おう。力を求めし少女よ」
「あ゛…あ゛ぁ…、ギ…あ゛ア゛ァぁぁぁあア!!!」
森の中で叫びが木霊する。
しかしその声が心の拠り所に届くことはなく、幾度となく響き渡る砲撃音にかき消されるのであった。
・対空迎撃砲“コロラド”
ゲーム作成の参考資料として戦艦の砲台などを見ていた時に頭に入っていた対空砲台。
1920年代から1930年代にかけて、アメリカ海軍の巡洋艦、戦艦、航空母艦に搭載された標準的な対空砲(Wikipediaコピペ)
4.4㎏の火薬と24㎏の弾頭を用いる2トンもある砲台とのこと。明らかに観光地に設置する砲台ではない。
・ティオのはだけた着物
この時間までナニをしていたんだろうなぁ・・・