主人公の力に関してはまた後日
「…で、ここまで連れてきてどうするつもりよ」
捕えていた魔人族の少女――セレナは北の山脈地帯で完全に拘束が解かれた。
自分一人では辰巳から逃げ出すのは不可能であると理解しているのもあるが、ここに来るまでに提示された己を鍛える条件とそれが本当に可能なのかを確認すべく素直に待機しているようだ。
「ここなら相当な物好きじゃないとやってこないかなと思ってな。人払いも簡単で、なによりも多少壊れたとしても詮索されにくい。うってつけの場所だろ?」
「そう言い切れるのはアンタぐらいじゃないの…?」
人間族が暮らす北の領土とは言えどもここまで移動してくるのにそこまで時間がかかっていない。
それなのに大した息切れも魔力切れも起こしていない彼の実力は微かに理解しかけているのであるが、証明するべく辰巳は周囲に結界を張り始める。
東西南北に軽めの文様を描きながら辰巳は両手で魔力球を生み出して空へ浮かべた。
それに反応して四方から魔力による障壁が生み出され、二人の周囲を覆い隠した。
「……なによこれ…」
「『
結界の大きさは地球の建造物で例えるならば東京ドームの半分ほどの大きさ。
なおこの世界の一般障壁はもっと小さいのはご愛敬である。
「でかい魔物を倒すとか、地形を変えるとか、どんな方法ならいいかってここに来るまで考えていてさ、思いついたんだよ。共に行動を行うならいつかは言わないといけないことでもあって、語弊もなくなりそうだしな。んでセレナには本来の姿を見せることにした」
「本来…?どういう…」
「人間族がステータスプレートを作ることは知ってるか?」
「え…えぇ。それを使って自分のレベルなんかを把握するっていうアーティファクトでしょう?それを見せるってこと?」
「まぁそれもある。ただこの世界の人間が最初に表記される各々の平均数値が10らしい」
ポイっと語りながらセレナに自分のステータスプレートを投げ渡す辰巳に、慌てながらも落とさずに受け取った。
話は聞いたことはあるが、手に取ったことがないためまじまじと見つめるセレナに対してステータスを見てみろと促す。
そこにはしっかりと彼の情報が記載してあった。
万部 辰巳
Lv:3
天職:魔導士
年齢:17歳
筋力:60
体力:70
耐性:82
敏捷:55
魔力:120
魔対:150
「……平均10の中でこれ…だいぶ高いじゃないの」
「それが細工した数値な」
「は?」
あっけらかんと言う辰巳に対してセレナはポカーンといった表情。
「それじゃあ大半の魔人族に勝てるなんて自信にはならないだろ」と伝えると、「まぁ確かに…」と理解しながらも納得はしてない様子。
神代のアーティファクトに細工ができるということ自体がおかしな話であるのかもしれない。
「んじゃ今から本来のステータス諸々見せるから準備はいいか?」
「準備って…なんのよ」
「いや心の準備的な。あとは…気をしっかり持っておけよ?」
セレナから少し距離を取った辰巳は両手を広げながら魔力を練り上げる。
セレナが感知するまでのわずかな時間でもステータス上ではありえない量の魔力を噴出させ、一気に自分の体に纏わせる。
魔力の渦が色をもって彼の身体を覆い隠し、無風の空間であった結界内を一気に暴風が覆いつくした。
「な…なんて魔力…!!」
セレナは吹き飛ばされてしまわないよう、近くの岩にしがみつきながら辰巳の様子を伺う。
魔力が濃すぎるために中がどうなっているのかはわからなかったものの、受け取ったステータスプレートに記載された数値がまるでスロットの如く動き始めたことに気づく。
(こ…これがアイツの…辰巳の本当の力…!?)
「その通り」
「えっ!?」
魔力の渦が消え、荒れ狂っているのかと思ってしまうほどの風が止んだ先には誰もいなかった。
そして彼女の心の内を読んだ回答が背後から聞こえてきたことに驚いたセレナは振り返り、言葉を失った。
その姿は人ではなかった。
否、部分的に見れば人間族と言えるだろう。
肌色であった皮膚は所々黒く染まっており、心臓部分は水晶のような物質が生まれている。
左額には角が生え、右の瞳には三翼の
半身は神々しくも感じるがその半分は禍々しい気配をも感じるのだ。
半神半魔のキメラと言われたほうが納得できるものになっており、翼があれば右は天使の翼、左は悪魔の翼が生えていたことだろう。
「あっ…あぁ……」
その姿を見て、セレナは確信した。
彼女が知りうる魔人族の軍。その全員が彼に襲い掛かったとしても、決して彼に勝利することはできないだろう。
理屈ではないが確信だ。
自分たちとは生きている次元が違う。その言葉がふさわしいと思ってしまうほどの圧倒的な魔力。そしてそこから生まれる威圧感。
彼女は辰巳が話していた事が全て正しく、そして魔人族が信仰していたアルヴ神などという
それは明確な主従関係を示すものであり、屈服することを誓う行動。
今まで疑っていたことがどれだけ愚かな行為だったのかと言わんばかりの態度に、辰巳は苦笑しながら頬をかいた。
「先ほどまでの態度、大変申し訳ありませんでした…。私のような弱小の存在が貴方様に不躾な態度を…」
「あー…なんだ。そこまで態度を変えられるとこっちも困るんだが…さっきと同じ態度でいいぞ?」
「ですが…」
「なら命じようか。俺は特に気にしてないから、普通に戻ってくれ」
「………はい」
このままでは切腹しかねないと気にしてないことを伝えても頭をあげてくれないセレナに対して、命令という体で許した。
そうでもしなければ動かないと思ったからだ。
ものすごく申し訳なさそうにするセレナ。
辰巳は額と両手についた土を軽く払った後に座らせたのだが、冷静に話ができるまで30分ほど時間を要したのだった。
「で、落ち着いたか?」
「はい…申し訳ありません…」
「口調が戻ってないんだが…」
だが落ち着いたとはいえどもセレナの態度は相変わらずだ。だがまぁいつか元に戻るか、と辰巳はすぐに気持ちを切り替えた。
このまま時間が経つのはもったいないという判断である。
「一応他に証拠をして提示できる内容をいくつか考えていたんだが…必要かな?」
「いえ…私は
「主…まぁ言い方は自由だから構わないのならいいんだが…。とにかく契約成立だ。俺はセレナをこれから鍛える。セレナは俺の旅に同行する。これからよろしく頼む」
「畏まりました主様。どうか主様の気が変わられるまで…傍に置いてくださいませ」
「いやなんか重いわ!…まぁいいか」
旅を共にする仲間をイメージしていたのだが、気づけば主人とメイドのような主従関係になってしまったことに若干落胆と下心が入った喜びを抱きながら自分を納得させた。
これまで傍に女性の気が一切なく、今回が初めてのために浮つくのは仕方のないことだろう。
「経験がなく稚拙ではあるでしょうが、主様が望まれるのでしたら
「いや心読まないでくれ!」
セレナに心を読まれたことに若干動揺するが、女性側からしたらわかりやすい表情だったのだろう。
少し頬を染めながら寄り添う姿勢を見せてきた彼女は明らかに今までと行動が違うのである。
表情や動作、息遣いまでが彼の劣情を高めさせるが、それで襲うようでは彼はすでにこの世にはいない。
冷静に状況判断へシフトさせた。
「…もしかして俺の心読んでたりする?」
「はい。というよりは私がこれまで生き延びてきた要因である能力です」
「ちなみにどんなものか聞いても?」
「対象がどのような感情及び思考を抱いているのかを把握する力、『感考把握』と私は称しております」
「感情と思考を把握…えげつないなオイ…」
セレナは生きていく中で特定の存在に媚て、時には思考を把握して立ち回ることで生き残ってきた。
それが辰巳の感情及び思考を把握することにつながったのかもしれないが、辰巳にはある程度の精神攻撃及び精神干渉に対する耐性と防衛手段を持っており、常に使用している。
それらが反応しなかったということはこの能力は相手の内を魔力によって把握して読み取る能力ではなく、直感のように己の第六感を高めることで「答え」や「思考」を与える力に近いのかもしれない。
そんな能力に彼は本心を呟いてしまうぐらいであった。
ちなみにであるがセレナの容姿を伝えよう。
肌は褐色に近く、腰まである純白の髪は左に纏めて肩から下ろしている。
普段の食事の関係なのか一般女性よりも細身。胸元も華奢である。
特徴的なエルフ耳で、背は157cmといったところ。
目元は少し鋭い。
自分で散髪などもやりくりしているのか、綺麗に切り分けられているわけではないが、これに関しては自分が整えれば問題ないだろう。
この世界の若い女性は大体綺麗な気もするが、彼女のその例に漏れずに顔立ちは整っている。
伝えていなかったが彼女は肌の露出を避けている衣装であり、マスクで目元以外を隠していた。
純白の髪が逆に目立つ衣装であるが、彼女曰くこの髪は母親から受け継がれた自分にとって大切な宝物だという。
両親はすでに他界していることも聞いて流石に涙を禁じえなかった。
抱きしめてよく頑張ったねと声をかけると彼女もそれに応えて涙を流す。
辰巳は彼女を満足いくまで美味しいものを食べさせながら、一人前になるまでしっかり鍛えあげることをここに誓う。
「主様が見たがられておられる『めいどふく』?なるものが似合う存在になれるよう、全力を尽くさせていただきます」
「!??」
もし二人で口論になった場合、すでに辰巳はセレナに勝てなくなっているのかもしれない。
地球にはそう親しい人もいない彼は、純粋な好意を受け取ることに全く慣れていないのである。
このままでは特訓の前置きに『夜の』が付け加えられてしまう。
それを危惧した辰巳は慌てて彼女を優しく引き剥がして本来の目的を達成させることを選んだのだ。
そういえばと辰巳の姿に衝撃を受けていた影響で存在を忘れていたセレナは慌てて手元のステータスプレートを確認する。
彼女の手元にはしっかりと彼のステータスが表記されていた。
万部 辰巳
Lv:???
天職:神喰らい
年齢:3028歳
筋力:5000
体力:5000
耐性:34500
敏捷:7000
魔力:34000
魔耐:34500
技能:etc…
「…なんですかこの…なんですか?」
本来のステータスが開示されたことで、セレナはリアクションを取ることに疲れてしまった。
明らかなオーバースペック。
筋力と体力は(全体的に見て)低いものの、それを補って余りない魔力と耐性ステータス。
それに追い打ちをかけるように技能は長くなりすぎてしまっていてステータスプレートでは読み込めないレベルだ。
天職も謎すぎる。神を喰らうなんてどういうことなのか。
「あー…話すと長くなるが、生き延びる過程で“女神族”と“魔神族”を食べた影響だろうなこれは」
「…ゑ?」
「ちなみに魔人じゃないぞ。人じゃなく神のほうの魔神だ」
「まぁ主様なら有り得なくないですね」
結果、セレナは理解を放棄した。
まぁ主と決めた彼ならおかしくないんじゃないかな?という考えに至り、宇宙猫の状態から自力で帰還を決めたのである。
「んじゃある程度納得してもらえただろうし、戻すか」
パチンと指を鳴らして再度魔力が生まれるが、それは先ほどの暴風ではなく光のカーテンが彼を覆い隠すようだった。
時間にしては1分もかからない時間でセレナが最初に見た姿になったところでステータスプレートを見ると、こちらも最初の状態に戻っていた。
なにかの夢だったのではないかと疑ってしまうほどの衝撃であったが、間違いなく現実であることは彼女自身が理解している。
(主様は…数多くの候補がいる中で私を選んでくださった…)
だからこそ、彼女は改めて現実を咀嚼して理解した。
彼の力があれば内なる感情はどうであれ、ついてくる者達は数多くいるだろう。
だが彼はそれを是とせずにセレナを選んでくれた。
それも己を鍛えてくださるという最高の待遇。
底辺で足掻いて生き続けてきたセレナにとってはその事実が何よりも幸せであった。
己の宝でもあった母親譲りの白髪。
その宝を主たる辰巳が見て内心で喜んでいることを知った彼女はさらに好感度が跳ね上がる。
(そのめいど?に近づけていけるよう、私も辰巳様の期待を裏切らぬよう努めさせていただきます)
それが彼女の原点であり、絶対的な感情に切り替わるのはそう遠くない未来だ。
圧倒的なメイド力を携えて彼と共に歩み続ける姿を見た
・『
リオネス王国に所属する聖騎士で、王国の第二王女の護衛を務める男 グリアモールが有する魔力である。
地上に振り注ぐ星屑でも破壊が不可能な強力な魔法障壁で攻撃を防いだり相手を隔離拘束することもできる便利な魔力。
ただ相手が悪すぎた影響もあり、破壊されたりもしている。
なぜ主人公が扱えるのかは後日。