帰還者、異世界を歩む   作:〇坊主

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ちょっと長めの一万字です 
 
 



ありふれ⑨ 邂逅、移動

 

「愛ちゃん先生、顔色悪いけど大丈夫?」

「あはは…車酔いしちゃいました…」

「着いたのは良いけど、どんな仕事なんだ?」

「遭難者の捜索だよ」

 

場所は変わって北の山脈地帯の入り口付近。

異世界『トータス』には似つかない無骨な駆動四輪が停まっていた。

ハマーのような外見をしたものであり、空調も完備されているようで中から出てきた少年少女たちは汗一つかいていない。

 

彼らは二つのグループでなっており、それぞれの目的で行動していた。

一つは遭難者の捜索、二つ目は失踪した少年の捜索であった。

 

白髪に眼帯、ロングコートに身を包んだ少年は南雲ハジメ。

彼に付き従い、時には人目も憚らずにイチャイチャする金髪と紅の瞳を有する美少女はユエ。

雑にあしらわれながらも健気についてくるウサギ耳…ハウリア族の美少女はシア。

彼らの3人グループが遭難者の捜索だ。

 

失踪者を捜索するために今回同行したもう一つのグループは学校の教師である通称愛ちゃんこと畑山(はたけやま) 愛子。

そして彼女を教会騎士達から守るために結成されたパーティー『愛ちゃん親衛隊』のメンバーである(なお紹介は省く)

 

今回『愛ちゃん親衛隊』の面々は同行はすれどもハジメ達の目的を知らなかったようで、仕事内容を聞くや否や無理だろといった感想を述べていた。

『北の山脈地帯』というだけあって、名に恥じない広大な山脈地帯を数人で探すなど気の遠くなる作業であり、絶望的だ。

だがハジメ達には探す手段をしっかり有していた。

 

「重力制御式無人偵察機“オルニス”こいつで上空から痕跡を探す」

 

鳥の姿をした偵察機を空に飛ばすことでさっさと怪しい場所にあたりをつけて捜索してしまおうという考えである。実に効果的。

この能力も七大迷宮をいくつか踏破しているハジメ達が持つ“生成魔法”“重力魔法”を用いて作成したゴーレムだ。ただ飛ばすだけではなく、魔眼石に遠透石を埋め込むことで映像を直で確認することができるようになっている。

 

その影響もあって今のハジメでは4機までが同時操作の限界であるのだが、これに関しては同時操作できるハジメの処理速度がおかしいだけなので安心してほしい。

常人は一機操れたらいいぐらいの性能である。

 

だがそれを活用した結果はすぐに出ることになる。

空から痕跡を探し始めたことで、ものの数分で大きな破壊痕を見つけたのだ。

 

「車の次はドローンかよ…」

「スゲェな錬成師って…」

 

万能さに親衛隊の生徒達は驚きを隠せないが勘違いしないでいただきたい。こんなことを錬成できるのは南雲ハジメだけである。

 

「チンタラしてたら日が暮れる。急ぐぞ」

 

日が暮れれば貴重な時間が無駄になってしまう。そのためハジメたちは急ぎめに歩を進める。

痕跡を見つけた場所は山の8合目と9合目のあたり。車で向かうことができないためハジメ達は歩を進めていくのであるが、ついた先には激しい戦闘痕。

木々は裂かれ、大地はレーザーで抉り飛ばしたかのような地形に代わってしまっている。

すでにある程度の日数が経過しているためか燃えているものはなかったが、焼け焦げてみるも無残な光景だった。

 

一体ここにどれほどの魔物がいたのか、想像するぐらいには全員が警戒しながら休憩及び周囲を捜索していた。

 

「ハジメさんここを見てください!この足跡…」

「ああ、魔物だな。見たところ…身長が2~3メートル程ってとこか」

 

足跡からハジメは大まかな大きさを割り出すが、地形の破壊を見て本当にこの大きさの魔物がここまでしたのかという疑問が浮かんだ。

地平の先にまで続くのではないかという抉り痕は途中で二つに分かれており、激しい戦闘があったことは明らかだ。

 

「この戦闘に巻き込まれたのだとしたら…」

「流石に遭難者は生きてはいねぇだろうな…」

 

「お、おい!ここに靴跡があるぞ」

「なに?」

 

遭難者の生存は絶望的だと判断しようとしたハジメ達であったが、休憩していた愛子先生達が見つけた足跡でその考えが切り替わる。

足跡に沿って進んでいけば明らかに一人ではなく、複数人の痕跡が点々と続いていた。

 

「複数人…護衛とやらも一緒に生きている可能性があるのか?」

「…あぁ。どうやらそうらしい」

「え?」

「もうちょっと進むことになるが、気配感知に複数の反応がある」

 

気配感知が複数反応したことで遭難者とその護衛達が生きていることを察知したハジメ。

ハジメの感知先には確かに生命反応が複数名あり、今にも死にそう…といったものではない。

魔物に襲われた形跡はあるので、避難に成功しているといったところなのだろうか。

 

ハジメが進んでいく先は明らかに山の上層。

それにより今以上に山岳部をさらに登っていくことになるのを理解した親衛隊面々が嘆くが、ハジメにとって関係ない。

シアたちを連れてガンガン進んでいくため、慌てて愛子達はハジメの後を追いかけた。

 

慌てて追いかけながら10分ほどか。

坂を上り終えてから突然立ち止まったハジメ達に追いついた。

 

「ハジメ!なにか見つけたのか?」

 

登りながら生徒の一人が声をかけるが、何を見ているのかハジメは反応を返さない。

 

「…ハジメ?」

「……あれを見ろ」

 

愛するユエの声で正気に戻ったハジメは視界に収めた光景に頭が痛くなった感覚があった。

ユエ達もハジメが指をさした方向を見ると、そこには和気藹々と話しあっている冒険者達(遭難者)の姿(ハジメ視点)。

テントや土小屋、他にも調理場も作られて、挙句の果てにはダンベルなどの筋トレグッズまで供えられていた。

そのあまりにも整えられ、設備もしっかりしている環境は明らかに山岳トレーニングを行いに来た集団であり、決して遭難者と呼んでいい存在ではない。

ハジメはその光景を呆然と眺めながら、ハジメに依頼をかけた中央都市(フューレン)の支部長の顔が頭に浮かぶ。

 

(あいつ…あとでしばいてやろうか…?)

 

その思考が届いたのかはわからないが、中央都市(フューレン)にて日々の業務を消化していた支部長は突如起きた寒気に嫌な予感が止まらなかったらしい。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

『 修行の一環でトレーニングをしてたぁ!? 』

 

「いやぁ申し訳ない。まさかそこまで時間が経ってたとは」

「い、いえ…貴方達が無事なことがわかって安心したんですが…」

 

こんなところで何をしているのかを改めて聞いた一行は辺り一帯に響き渡るぐらいの声を挙げ、それに対して辰巳は謝罪する。

冒険者面々が自分で決めたこととは言えども、ここまで時間を費やしていたのは完全に辰巳の影響もあったためだ。

 

「やべぇ…そういや伝達できてなかったな…」

「修行に意識裂きすぎてたな…あぁ~…叱られるのは覚悟しとかないとな」

 

往復である程度の日数はかかるのは前提にあったのだが、まさか遭難者の捜索という形でハジメ達がここに来るに至るほどに時間が経っていたとは全員考えていなかったのだ。

独自に山脈へ来ていた辰巳とセレナ。そして操られていたティオはギルドとは無関係であるが、冒険者一行は理由を報告すれば多少のお叱りと始末書ぐらいでなんとかなるだろう。

 

「でも万部(よろずべ)君!あなたもこんな危ない場所に来るなんて危ないですよ!独自に動いていることは分かっていましたが先生として認める訳にはいきません!遭難してしまったらどうするつもりだったんですか!」

「遭難してもどうにでもなったから来てたんだけど…」

「口だけではどうとでもいえます!」

 

我らが先生――『愛ちゃん』先生こと愛子は辰巳の行動に対して憤慨した。

彼女は十代前半くらいにしか見えない程幼い容姿をしているものの、25歳社会人という立派なレディである。

辰巳の実年齢と経験値を把握していない彼女から見れば、かわいい生徒がコンビニに財布だけ持って出かけたまま富士山の山頂付近まで登って山岳トレーニングに勤しんでいるようにしか見えていなかった。

さらにやってきた冒険者達を誘ってギルド長・貴族の方々を含めた大人数に迷惑をかけているとあっては怒るのも当然の行為と言える。

 

「主様。なんですかこの雌猫…処分しましょうか?」

「絶対にやめてね?この人は俺がいる学校の先生だよ。セレナよりも年上だ」

「ほうほう…つまり彼らも異世界からの来訪者、というわけじゃな」

 

そんな光景を見て心境が最悪なのは辰巳に仕えるセレナである。

元々異世界人を把握するために活動を行っていたティオは彼女らに興味をもって眺めているものの、積極的に話しかけはしていない。

色々と落ち着くまでは自分からは行動を起こさないつもりらしい。

だがセレナは主を叱るという許しがたい行為を行った愛子を処分するか聞くのだが、それをされたらたまったものではないので辰巳は当然止める。

 

耳がいいのかセレナの敵意に反応したのか、処分という単語が出た途端にハジメのスイッチが切り替わる雰囲気を感じ取ったためである。

 

「よう南雲。色々あったんだろうが、元気そうで何よりだ」

「万部。…一つ聞きたい」

 

セレナがもし暴走したら止めるようにティオに頼み、辰巳はハジメとユエ。そしてシアの元へ近づき、フレンドリーに声をかけた。

セレナに意識を向けていたが、声をかけることで気を逸らせたらしい。

 

「俺に答えられるものであればかまわないぞ」

お前は俺らの敵か?

「は…ハジメさん?」

 

周囲にまき散らすわけではなく、特定の人物に対する明確な殺意。

彼を侮っている冒険者であればその場で腰を抜かして情けない悲鳴を挙げていただろう。

ウサミミ少女のシアがハジメに困惑の声を挙げるのだが、ハジメは無視して辰巳を見る。

だがすでに殺意を一身に受けることは過去の戦いで経験済み。急にぶつけられた殺意(モノ)に対して少しだけ反応をするに済ませた。

 

辰巳がハジメとあったのはハジメが『オルクス大迷宮』に向かったところで、記憶はそこで止まっている。

地球ではどこにでもいる普通の高校生の見た目と性格をしていたというのに、今ではどうだ。

 

身長も10cm以上伸びており、髪も色素が抜けて白髪に変わっている。

ただ鍛えただけでない、明確に戦いを経験している肉体に変わり、何より右目を失ったことがわかる眼帯に訓練された軍人でも扱いが難しいのではないかと思わせる無骨な拳銃を左手に構えており、いつ攻撃されても対処できるように周囲の警戒を怠っていなかった。

 

(俺がそこまでできるようになるまで百年はかかったんだがなぁ・・・)

 

そうしなければ生き抜けない程、地獄かと思わせる過酷な環境で過ごすことになったのだろう。邪魔する敵は排除する絶対的な基準を己の中に刻み込み、その一線を越えているのかを判断するべく辰巳を睨んでいるのだ。

そんな彼に辰巳は肩に手を置いて伝える。

 

「いいことを教えておこう南雲」

「……」

「もし俺がお前らの敵だったのなら――」

 

「――目があったその時に皆殺しにしてる

 

「ッ~~!?」

「ハジメッ!!」

「よせお前ら」

 

行動をされたのではない。

自分たちが勝手に思い込んだだけだ。

ズルリ…と足元から大蛇が首元まで登ってくるかのような錯覚。

生理的に無理なものを見たときのような嫌悪感。

なんらかのアクションを起こさなかったらそのまま首を食いちぎられていたのではないかと思うぐらいの未来(ビジョン)を、あの一瞬で三人は叩き込まれたのである。

 

ハジメが静止させねば彼女たちは辰巳に向かって攻撃を繰り出していただろう。

そうなれば完全に敵になり、致命的な被害を受けていたのかもしれない。

だがハジメはシアたちと同じことを感じ取りながらも敵ではないと判断した。それゆえに彼女たちを止めたのである。

 

「…疑って悪かったな」

「正常な判断で、一切南雲の行動は間違っていない。これまでの行動で俺を疑わないほうが異常だ」

 

ハジメの謝罪に寒気を覚えるシアであるが、彼に気づかれていない様子。

もしバレていたら無言でゴム弾を額に叩き込まれていたのは、ハジメの関係者であれば想像がついただろう。

 

辰巳はある程度ハジメの在り方を今のやり取りで察した。

彼には敵とそれ以外という一線を明確に分けている。

 

どんなにその世界で重要な人物だろうが、かつて行動を共にした仲間だろうが、己の敵だと明確に分けた瞬間に容赦なく殺しにいくだろう。それができるぐらいの実力をすでに有している。

もしハジメが暴走して道を外しそうになったら、すぐに止めてくれるユエとシア(恋人達)がいる。故に完全な外道に堕ちずに済んでいるし、無意識だろうが彼女達を身を挺して庇う行動力も身に着けていた。

 

ハジメも辰巳という未知数の存在を完全ではないが察した。

敵対する相手に対しては容赦をしない性格であることは同意し共感できる。

彼が自分たちに向けて言い放った、目が合った時点で皆殺しもためらいもなく実行するだろう。

『オルクス大迷宮』にて数多の魔物と命のやり取りをして生き延びたハジメだからわかる。

 

(俺達を“敵”として認定していた場合…肩に手を置いた時点で俺は死んでいたな…)

 

顔には出してないが冷や汗で背が濡れる不快な感覚がある。ハジメは両者の実力差をおおよそ把握していた。

怪しい者、敵意を抱いてくる者を含めてハジメは常に警戒しながらこのトータスを生き抜いている。先も述べたがそうしなければならなかった環境もある。

が、自分の口から敵かどうかを確認するほどには警戒しているというのにも関わらず、辰巳がハジメの肩に手を乗せるまで一切(・・)対応する気になれなかった。

それはハジメからしてもあり得ないこと。

 

本能的になのか、摩耗しきった精神の中に彼を信じる心が残っていたのかはわからないが、警戒はしても敵対する可能性は極めて低いことをハジメはこの時に理解したのだ。

なおその後の殺意を感じ、これ以上関係を悪化させないよう踏み込まない判断をしたのは英断である。

 

「…ハジメ?」

「ユエ、辰巳(アイツ)には絶対こっちからちょっかいをかけるんじゃねぇぞ。敵対するにはリスクがでかすぎる」

「…ん。わかった」

 

ユエにも注意を促すと彼女も理解しているのか頷いた。

シアに注意を促すことはしないが、それはハジメ自身もシア自らがちょっかいをかけるようなことはしないと判断しており、ある程度信頼していることが伺える。

 

「さてどの道いつかは下りる予定だったんだ。丁度いいタイミングでもある…か。セレナ、今から片付けるから手伝ってくれるか?」

「了解いたしました主様」

「他の方も身支度整えてくださいねー。全員ウルに向かうんでしょう?」

『 応ッ!! 』

 

綺麗に揃って答える冒険者一行に愛ちゃん護衛隊はたじろいだ。

厳しい登山を終えたばかりだというのにすぐに出発するのだと察して生徒達の顔が露骨に嫌な表情に変わる。

 

「そうじゃ辰巳殿。急がねば間に合わなくなってしまう」

「本当に向かうのですか主様?」

 

セレナは明らかに乗り気じゃありませんと言った反応だ。

彼女からしてみれば敵対種族を率先して助ける必要なんてないからだろう。当然の反応である。

しかしながら辰巳にとって“人間族”と“魔人族”はどちらも敵対種族では無い。

冒険者一行は山脈での出会いから何度も同じ釜の飯を食べた仲である以上、彼らが助けに行きたいという尊い意志を尊重することに決めていた。

 

「セレナには悪いが今回はある程度手助けするつもりだよ。どの道彼らをウルの町に送り届ける事になる。ただただ眺めてるのも後味が悪いから余計なお節介をさせて貰うつもりだ」

「…わかりました」

「そう不機嫌になるなよ…これは俺の在り方だ。一日を心地よく寝て終えるためのな」

 

「ちょっと待て」

 

辰巳は長い年月生きてきた彼は自分の生き方をある程度確立している。

それが自分にとって満足するのか否か。

安定を取ることで行動せずに気分が悪い結果になるより、危険を加味しても行動して結果はどうであれ自分自身が満足できればそれでよい。そんな考えを持っていた。

 

最も始めは行動する気はなかったのだが、冒険者一行はウルの町にいる人々を救いたいと意志を示した。それならば彼らを送り届けつつ、笑顔で喜ぶ姿を見届けた方が精神的にも喜ばしい。

そんな彼らを他所にハジメが自分たちの目的を切り出した。

 

「俺たちはそこにいるウィル・クデタをギルド長の所にまで連れてかなきゃ依頼完了にならねぇんだ。連れて行ってもらっちゃ困る」

「なっ!?ハジメ殿は町の人々を見殺しにするというのですか!?」

 

ハジメの意見に対して反発するウィル。

町を守らず見捨てるというハジメの意見は彼にとって受け入れがたいものであった。

しかし対するハジメの反応は冷たい。目的を達成するのが彼らがここまでやってきた理由であり、余計な事には首を突っ込むのは否定的だった。

 

「俺の仕事はお前を中央都市(フューレン)にまで連れて帰ることだ。ウルの町とやらを護りぬくことじゃねぇ」

「なっ」

「話を聞くに町を襲おうってんなら数匹の魔物ってわけじゃねぇだろ。それを考えれば魔物の大軍はいなきゃおかしい。そして冒険者達が町に向かうのは兎も角、戦えもしない奴が戦場になる場所に向かうなんて論外だ。戦闘は任せて避難しておくべきと考えるのは当然だろ」

 

そしてハジメが告げる理由もごもっとも。

冒険者たちに守られるだけであったウィルは多少のトレーニングと食事で基礎能力は向上しているだろうが、それでも現職には敵わない。それどころか一人で狩りをしていた訳でもない彼が自ら血を被る決意と意志があるとは思えなかったからだ。

 

実際に大迷宮にて魔物に襲われ、文字通り死ぬ思いで生き延びてきたハジメにとってウィルが語る意見は町を犠牲なく守れるのだと思っているようにしか見えなかったのである。

 

「南雲君待ってください!」

「先生…?」

 

ハジメの言にショックを受けるウィルに手を差し伸べたのは愛子だった。

 

「確かに南雲君のいうことはその通りだと思います。私もウルへ向かったとしても戦闘になってしまえば役に立てることなんて限られて…いえ、ほとんどないでしょう。ですが君なら…君なら魔物の大軍であってもなにか対応ができますよね?」

「いやいや先生。無理に決まっているだろ?幾ら俺であっても大軍に対してはとてもとても…」

「確かに私達は南雲君の戦いを実際に見たわけでもありません。そのため君がどれだけ魔物相手に戦えるのかはわかりません…が、少なくとも私たちより遥かに強い事は分かっています。南雲君、私がお願いしたいのは町の人達を避難させるのを手伝っていただきたいのです」

「避難を…?」

 

戦闘ではなく避難のために力を借りたい。

愛子の言葉にハジメは眉を顰める。

 

確かにこの山脈地帯まで車を錬成して彼女達を連れてきたが、それはあくまでも少人数のためだ。

一つの町に暮らす住民たちを逃がすための大規模な精密機械を作り上げる手間を考えると、ハジメにとって労力と結果が明らかに釣り合っていない。

 

「冒険者の方々、そして万部君達・・・。彼らが魔物との戦いを行うのであれば南雲君は避難を誘導することに集中できると思います。中央都市(フューレン)に向かうとしてもその過程でウルの町を経由する以上は南雲君達の負担にはそうそうならないでしょう」

「…意外だな。あんたは生徒の事が最優先だと思っていた。色々活動しているのもそれが結局のところ早く帰還できることに繋がっているからじゃなかったのか?万部は確かに強いことは間違ってねぇ。だが生徒の事を第一に考えているあんたはそもそも万部が死地に向かうことを止めると思っていたんだがな?」

 

ハジメの言葉にセレナの機嫌が少し戻ったが、辰巳は自分の事を話題に出されたことに驚いた。

彼の雰囲気から話を聞かずに完全拒絶するのかもと考えていたためだ。

愛子もハジメの指摘に動じていない。決然とした教師としての表情。まさに“先生”たらんとする姿である。

 

「元の世界に帰る方法は南雲君も知っているでしょうが万部君がすでに見つけています。私が自らハジメ君達のように迷宮に挑んでいる訳ではないので、万部君に完全に乗っかってしまっていることも否定はしません。そして帰る方法がある以上、私としてはすぐにでも全生徒たちを連れて地球へ帰りたいのが本音です。ですがそれはできない。理由は君もわかっていますよね?」

「……」

 

ハジメも愛子の言葉に黙る。

『大迷宮』を踏破するにあたって得たモノ。彼らはこの世界の人間が知り得ない真実をすでに知っているためだ。

 

一つは迷宮クリアの報酬として手に入れたのは『生成魔法』。現在では失われたとされている神代の魔法の一つ。

そしてもう一つが『異世界トータス』で行われている戦争の理由。

 

人々を駒として見たて、“神の遊戯”として産み出されたものが今まで人間族と魔人族が起こしてきた戦争の本質だった。

“神の使途”として行われた勇者召喚も、呼び出した者達を含めて駒の一つとして動かされていただけに過ぎないというもの。

迷宮を生み出した創造主・・・解放者達は神を名乗る存在と敵対し、そして敗北してしまったこと。

ここに来る前に攻略した『ライセン大迷宮』の主であったミレディ・ライセンも神殺しに関する言葉をハジメに告げていた。

 

召喚と称して地球に干渉をしてきたのは今回が初めてではないだろう。

それであればエヒト神なるものがいる限り、ハジメは地球で安心して暮らすことすらできない。というのをすでに察していた。

 

「それが出来ないのなら、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向けあった人々を出来る範囲では見捨てなくない。そう思うことは人として当然のことだと思います。勿論先生は生徒達の安全が第一優先であることは変わりはありません」

 

愛子は一つ一つ、丁寧に言葉を紡いでいく。

 

「あんなに穏やかだった君がそんな風になるには、きっと私では想像もつかないような経験を乗り越えてきたのだと思います。君が一番苦しい時に傍に居て力になれなかった先生の言葉は南雲君にとって軽いかもしれません。でもどうか聞いてください」

「……」

「南雲君。君には君の価値観があり、未来の選択は常に君自身に委ねられています。それに先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが君がどのような未来を選ぶにしろ、大切なも人以外の一切を切り捨てられるその生き方はとても寂しい事だと思うのです。

それはきっと…君にも、君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、南雲君が元々持っていた“大切なもの”、……“他者を思いやる気持ち”を捨てないでくださいね」

 

一つ一つに思いを込めて紡がれた言葉は向かい合うハジメに余すことなく伝わっていく。

話を聞いていた生徒達は勿論のこと、冒険者や辰巳・・・そしてセレナの心にも染み渡るように入り込んでいった。

自分とその大切なものだけを見ていても幸せになれない。

それは愛子自身経験してきたものであるのかはセレナにはわからなかったが、大切なことなのだと理解できたのである。

 

ハジメは愛子のことをあたらめて己の“先生”なのだと理解できた。

苦笑を浮かべはしたものの、それは決して嘲りからくるものではなく、寧ろ感心からくるものだ。

 

「…一つ聞かせてくれ」

 

ハジメは愛子に向き合って聞いた。

 

「先生は、この先、“何があっても”俺の先生か?」

「当然です!」

 

即答する先生の姿は、ハジメにとって心底から安心する回答だった。

 

「言ったな。“何があっても”だぞ」

 

ハジメは愛子から目線を外してユエとシアを見つめる。

愛子と話す前よりもわずかにではあるが、雰囲気が柔らかくなったことを感じ取ったユエとハジメを不安そうに見つめるシア。

彼女達の存在は今のハジメを構築する中でも最も大切な者達だ。

“他者を思いやる”ことは今のハジメには厳しいかもしれないが、行動に起こすのは難しくはない。

行動の結果としてユエとシアが幸せになる可能性が上がるというのであれば、一肌脱いで動くのも悪くないのだ。

 

「良い話だなぁ…」

「あ…主様!」

「辰巳殿は結構涙脆いんじゃな」

 

彼らのやり取りにジーンと来てしまい、軽く涙目になる辰巳の姿にセレナとティオは涙を拭きとろうと彼の目元に指を奔らせながらも冒険者達を集める。

幾らハジメ達(彼ら)には長距離移動を行えるだけの足があるが、冒険者側にはない。このまま行っても間に合わなくなるのは考えなくてもわかること。

 

「辰巳殿」

 

故に彼女(ティオ)は名乗りを上げる。

彼女の瞳には己の不手際を清算するべく、決意を抱いている瞳だった。

 

「“竜化”を使う。(わらわ)から巻き込んでしまう手前、皆を運ぶぐらいの仕事はせねばならぬゆえ」

「良いのですかティオさん?そちらは魔力消費が激しいのでしょう?」

 

セレナの心配は最もだ。

前回説明された通り“竜化”は魔力消費が激しく、使用後は一日の休息が必要となる。町にまで運んだ後にダウンしてしまえば彼女のプライド的に大丈夫なのだろうかというもの。

だがティオはそれに対して心配いらぬと返した。

 

「構わぬ。それに“竜化”の反動は眠ったら来るものじゃ。あちらの状況は解らぬが、ただの移動であればそこまで消耗はせぬ。妾の不始末はちゃんと清算させてもらうのじゃ」

「それじゃハジメ達も一緒に動くか、丁度いいし。おーいハジメ達いくぞー!」

「は?お前なに言って…」

 

「男のロマン、満喫しようぜ!」

 

今回の移動でハジメを間近で見ていたユエはこう語る。

 

あの時のハジメの表情こそ、本来の彼が持っていた少年らしさ満点の喜んだ表情(モノ)であった…と。

 




 
 
 
 
 
 
 
  
 
ドラゴンに乗るってロマンだよね
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