現代世界で生きるポケモン達へ   作:ファ○通の攻略本

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気分が向いたので


羽振りよく

「ポケットモンスター、現代へ来訪」

「これが本当の異世界転移」

 

 ……やかましいわ、などと思いながら、小さなテレビが必死で報道しているそれから目を逸らし、それから本を閉じる。

 医科研病院。

 かつて、ヒトを救うために研究を行っていた場所から、ヒトを救けるための行為を行う場所へと変質したその場所。

 内科医として日々奮闘をせざるを得ないこの身には関係のないことだ。ただ、強いて言えば、「奇妙な事に、ポケモンの世界由来の伝染病はシャットアウトされていた」「ポケモンの世界での医療の進歩」という分野に興味がある、程度だろうか。

 今は貴重な朝の暇な時間帯、だ。

 何故このような時間が生まれているのかというと、なんでも、報告すべき内容があるらしい。

 どのような内容なのかはわからないが、難病の患者でも来られたのだろうか。それとも、何が不手際が? はたまた、どうでもいい事なのか。

 自分にはわかりはしないが、どうせろくでもないことというのはわかった。

 コーヒーをさっと飲み干してから、奥の部屋へと向かい、適当に空いている席に座る。そろそろ、という頃合いを見てきた自分に、ため息を吐かれるがいつものことだろうに。

 

「はい、それでは……」

 

 ようやく始まるみたいだ。

 みんな頑張って朝やるべきことを急いで終わらせて、少し疲れている。頼むから早めにサクッと終わらせて————

 

「当院にポケモン世界で活用されていた医療技術の試験許可が降りました」

 

 なんて? 

 

「当院で行う試験内容は、「個体名、祝贈の擬似卵と癌細胞との関係性」ということです」

 

 祝贈(ハフリオクリ)

 たしか、記憶にある。テレビに出ていたトレーナーのポケモンのニックネームで、たしか……

 

「ん゛しゃりり゛ん」

 

 鈴を転がすような鳴き声と共に、木製のボールからそのポケモンは飛び出してきた。

 

「えー、また……「生命活性波動(いやしのはどう)」の活用等も込みで、試験を行なっていくとのことです。

 あー……当院で、このようなことを託されたのは、政府からの深い信頼と……」

 

 桃色の体毛に覆われた、卵の形の生き物。所々に羽のように見られる触覚が生え、ポケットの中には卵のようなものが詰め込まれている。

 ハピナス————、だったか。そのポケモンは、深い知性を秘めた眼差しで、こちらを見ると、深々とお辞儀をする。

 

 ……それにしても。

 大の大人よりも随分と……縦にも横にも大きい。子供の頃見たアニメでは、こんなに大きくなかった気がするが。

 

 驚きのあまり、横で何か言ってる院長の台詞は耳に入ってこなかった。

 

 そうして、ポケモンとの奇妙な勤務が始まったのである。

 

 最初の頃は皆、彼女が産み出す擬似卵————「しあわせたまご」の扱いに恐る恐るだったが、一週間もしないうちに、適当なケースに詰め込まれて持ち運ばれるようになった。

 殻がとにかく分厚く硬いので、割れにくいのだ。階段から転げ落ちた時ですら、ヒビ一つろくについていない。しかもその上、卵は一日に10個も産んでくれるというのだ。

 卵は、大人一人が抱え込んでやっとという巨大なサイズ。

 当然だが、余る。そして、傷みかねない。

 人体に悪影響はなく、それどころか、その未知の成分は癌細胞をわずかにだが、正常な細胞へと変質させる効力があるというのだ。最も、この効力に関しては、ポケモンの世界でも研究段階の内容でしかないらしいのだが。

 検査の結果、麻薬のような効果も卵にはなく、食用にしても問題はない、という結論まで出ている。

 そういうわけで、昼食時に、彼女の卵は専用のハンマーで殻を破り、中身を取り出して複数回に分けて調理した上で、卵焼きとして職員に提供されている。

 最初はポケモン好きの者が物珍しさから食べてみる、程度に留まっていたが、数日で全ての職員がその味の虜になった。

 なにせとにかく美味しい。一口噛むたびにやわらかくありながらもしっかりとその弾力をわずかに残した卵焼きが口の中で濃厚な黄身の旨みを感じさせてくれる。淡白な白身も、一口一口から優しい味を引き出してくる。

 出汁を入れず、砂糖しか入れてないらしいが、素材のみの味に近いというのにその素材そのものの味が口内で引き出されていく。

「ハピナスの卵を食べたものは幸せな気持ちになる」とは記載があったが、成分的な意味ではなく、味が最大の理由とは。

 

 ただ、先ほどの言ったとおり、卵は異様に大きいのだ。

 職員のみで消費し切れるのは、だいたい卵2〜3個分までだろうか……。

 研究に使うのも、卵1つで十分な量なので、それでも余ってしまう。味に取り憑かれた職員が持ち帰れるように、持ち帰り用の卵焼きも卵1つを使って作られてはいるが、さすがに卵を毎日食べる猛者は数十人しかいない。

 政府の許可が降り次第、卵を入院患者の療養食として使用するつもりらしいが……、これもなかなか難しいだろう。

 

 背もたれに寄りかかり、そっとため息をつく。

 彼女がきてからというもの、普段の診療自体は楽になった。

 

 火傷や骨折、切り傷といった怪我は、彼女の癒しの波動や癒しの鈴をすれば、よほど大きくなければ1発で治る。我々がすることといえば、消毒や補助だ。

 看護婦らのような補助も容易く行ってくれるし、愛想良く患者にも挨拶するものだから、患者からの人気も高い。病院に来る子どもたちもよく、彼女に抱きついている。

 外科的な手術においても、縫合後に癒しの波動をする事ですぐに抜糸が可能だし、麻酔が効きにくい患者にも、歌を歌う事で意識を落とさせることができる。サイコキネシスを行う事で、臓器等を優しく持ち上げたりなど、彼女はこの医科研病院では引っ張りだこだ。

 ただし、その分、医科研病院に来る患者が随分と増えた。

 彼女目当てで来る患者ばかりで、とうとうファンクラブまで出来る始末だ。

 繁盛するのはいいことかも知れない。

 確かに、救える患者が多いに越したことはない。とはいえど多すぎる。

 他県ではミルタンクの牛子やサーナイトのおねえさん、ヤレユータンの僧侶が同じように研究目的で病院に常駐しているらしいが、そこもおそらく、うちと同じように忙しい事になっているのだろう。特にサーナイトが派遣されている病院は、彼をアイドルとして信仰する患者がいる始末だと聞いている。

 

「しゃ゛り、しゃり゛ー」

 

ふと、横から気配を感じて振り返る。

 何故か見た目は可愛らしいはずなのに、鳴き声が妙に野太い彼女が近くにいた。

 手元には、特大サイズの卵が一つ。表面が艶々としているあたり、もしかしなくとも、ゆで卵である。

 

「…………これ食って、元気出せってか?」

「し゛ゃ!」

 

 ぐっと、漏れそうな言葉を堪えて、笑顔を浮かべる。

 

「ありがとうな、ハフリオクリ」

 

 俺、ついさっきお前の卵食ったばかりなんだ。

 その言葉を言わないようにした上で、ずっしりとでかいゆで卵を、机の上の皿に慎重に乗せた。




ハピナス(ハフリオクリ)
♀(オヤブン)

ひかえめな性格。
大昔のヒスイ地方から
時間と空間をこえて
はるばるやってきたようだ。
暴れることがすき。

追記:誤字報告誠にありがとうございます。
ですが申し訳ございません。
オスのサーナイトの名前が「おねえさん」だとしても、何もおかしくはないはずです。
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